資料1-2 第7期人材委員会提言 最終まとめに盛り込むべき事項案

(案)

科学技術イノベーション人材の育成・確保のために早急に措置すべき施策
~キャリアパスのボーダレス化に向けて~

平成26年11月14日
科学技術・学術審議会
第7期人材委員会

 科学技術・学術審議会 第7期人材委員会(以下「委員会」という。)では、平成25年3月より、我が国を取り巻く環境の変化(グローバル化の進展、オープンイノベーションの深化、超高齢社会・少子化社会への突入等)を踏まえ、今後10年を見据えた科学技術イノベーション人材の育成・確保の方策について議論を重ねてきた。平成26年9月には、それまでの委員会における議論の結果について「第7期人材委員会提言(中間まとめ)」としてとりまとめた。
 今般、委員会では、ノーベル賞受賞が期待されるアカデミック科学者から、最先端技術を活用して世界的な企業を興す起業家に至るまで、グローバルに活躍できる資質を身につけた科学技術イノベーション人材の育成・確保に向けて、早急に講ずべき施策をとりまとめた。
 第5期科学技術基本計画(以下「基本計画」という。)においては、イノベーション・ナショナルシステムの構築が最優先課題であり、これを実現するためには、大学・研究開発法人改革に併せて、我が国全体の人材システムの再構築を行い、科学技術イノベーション人材の「キャリアパスのボーダレス化」を目指す必要がある。特に、大学から民間企業や公的研究機関への研究者の移動については、人材育成の観点のみならず、大学で生み出される「知」を常に社会に還元する仕組み(「社会的な価値創出のための知的循環」)の実現に資するものとしても重要である。このため、委員会は、1.若手研究者の活躍支援と流動性の高い人材システムの構築2.国境を越えて優秀な人材を獲得する仕組みの構造化3.多様な研究者が活躍するダイバーシティ研究環境の整備の実現に資する、以下の施策を基本計画に最優先で盛り込み、早急かつ確実な実施を求める。

1.若手研究者の活躍支援と流動性の高い人材システムの構築 

(1)テニュアトラック制(※)の活用促進 

 第3期科学技術基本計画以降の10年間の状況を概観すれば、我が国の博士号取得者は年間16000人、毎年のポストドクター在籍者数は15000人程度で推移している。一方、大学における本務教員に占める若手教員(39歳以下)の比率は、年々減少している。さらに、若手教員・研究者については、競争的資金等のプロジェクトにより雇用される任期付きポスト(特任助教など)が増えている。この結果、将来のキャリアパスに対する不安などから、我が国の科学技術を担う若手研究者の規模は近年漸減傾向にあり、加えて、教員・研究者コミュニティからは、望ましい能力を持つ人材が博士課程を目指していないという認識が示されている。
 このような状況を改善し、優秀な人材が博士号を取得し、自らの能力を最大限発揮できる環境を整備するためには、キャリアパスの更なる明確化が必要である。このため、各大学においては、年俸制やクロスアポイントメント制度の活用等人事給与システムの弾力化を進めつつ、シニア教員・研究者の流動性を高め、積極的に若手教員・研究者の採用を進めるべきである。その際、各大学においては、若手教員・研究者の自立した研究環境の整備のためのテニュアトラック制を最大限活用するべきである。また、国境を越えて頭脳獲得競争が激化する中で優秀な人材を獲得するためには、「スーパーグローバル大学創成支援」などを通じ、引き続き、各大学において透明性・公正性を確保したテニュアトラック制の更なる活用に努めるべきである。

(2)優秀な研究者が機関や分野の枠を超えて活躍できる新たな制度の創設

 急速な産業構造の変化に対応し、イノベーション・ナショナルシステムを構築するためには、産学官における全世代の研究者の流動性を高めるとともに、優秀な研究者が、将来のキャリアパスを描きつつ、機関や分野の枠を超えて活躍できる新たな制度の創設が必要である。このため、産学官の各研究機関における人事システムの硬直性と内向性を打破し、中長期的な視野に立った我が国全体の構造改革を断行する必要がある。
 具体的には、次世代研究者の流動性と安定的雇用の両立を目指す「科学技術人材育成のためのコンソーシアムの構築」等の施策によってモデル的に構築された機関横断的な人事システムについて、我が国全体に展開し、持続可能な制度とする必要がある。その際、機関や分野の枠を超えて活躍することが期待される優秀な研究者が、単に任期付きのポストを繰り返すのではなく、将来のキャリアのステップアップの見通しを持って、独創的な研究に専念できるよう、国が責任を持ってこれらの研究者集団を支えることができる仕組みとするべきである。
 また、これらの制度構築においては、大学改革や研究開発法人改革とも連動し、厳しい財政事情における予算の徹底的な効率化の観点からも、科学技術政策及び高等教育政策の整合性の確保を徹底する必要がある。特に、大学においては、基盤的経費と競争的資金の両面で教育研究を支える「デュアル・サポートシステム」の再構築が図られているところ、人事システムの観点においても、競争的資金等の外部資金によって任期付き研究員を雇用し、運営費交付金等の基盤的経費や間接経費によって独立して研究活動を実施する研究者(テニュアトラック教員や本制度によって流動する研究者を含む)を雇用することを原則とした上で、若手研究者の育成のため、両者の適切な組合せについて認識共有を徹底しなくてはならない。

(3)産学官のマッチング機会の更なる充実

 イノベーションの担い手である若手研究者が、早い段階から産業界を含む異分野・異業種とのインタラクションの機会を得ることは、イノベーション創出の観点からも望ましい。一方で、ポストドクター等の所属している研究室と民間企業との間で、共同・受託研究を実施しているのは、全体の35%であり、共同研究を通じてポストドクター等の進路先が民間企業へ広がる機会が十分に与えられていない。分野別に見ると、工学系が60%近く、理学系の共同研究等は30%程度である。また、大学等における博士課程学生やポストドクターの分野別在籍者の内訳と、民間企業の研究者の分野別構成比にも大きな開きがある。前者には、理学・農学・保健・人文・社会科学の分野が多いのに比べて、後者の約7割以上は工学分野が占めている。研究開発を行っている企業における平成24年度の採用状況(研究開発者採用数/うち博士号取得者)を見ると、自動車・同附属品製造業で38.6人/0.2人、総合化学工業で19.8人/1.5人、医薬品製造業で12.6人/2.1人となっており、化学・医薬品の分野では、博士号取得者の採用割合が比較的高いことが分かる。一方で、同年度に博士号取得者を一人以上採用した企業は、全体の1割程度にすぎないなど、必ずしも、需給バランスが成立している状況にはない。
 このような状況を踏まえ、若手研究者が、分野の枠を超えて産業界へシームレスに移行するためには、産学官のマッチング機会の更なる充実が必要である。このため、産学官の参画による学位プログラムの構築を目指す「博士課程教育リーディングプログラム」を着実に進めるとともに、2~3か月以上の中長期研究インターンシップやワークプレイスメント(有償型就業体験制度)、大学キャンパス内での産学共同研究を通じたマッチングの場としての「産学共同研究講座」の更なる充実を図るべきである。また、中小企業における科学技術イノベーション人材の活用を図るため、SBIR制度と連携した人材データベースの充実に努めるべきである。
 また、研究開発法人が進めるイノベーション・ハブ構想においても人材育成の観点を取り入れることが重要である。その際、大学による責任ある指導体制の確保にも留意しつつ、クロスアポイントメント制度などを活用した、いわゆる連携大学院による教育研究指導の更なる充実を図るとともに、研究開発法人が博士課程学生をリサーチアシスタントとして積極的に雇用し、将来のキャリアパスを見据えた指導を行う仕組みを構築することが望まれる。

2.国境を越えて優秀な人材を獲得する仕組みの構造化 

(1)頭脳循環を加速する取組の推進

 海外での研究活動を経験した研究者や外国人研究者が我が国で研究活動を行うことにより、我が国の研究力の強化につながるとともに、多様な発想や視点等に基づき、イノベーションにつながる知の創出に新たな可能性がある。一方で、我が国の大学本務教員に占める外国人割合は漸増傾向にあるものの、3~4%にとどまっており、また、我が国から海外に中長期(1か月以上)派遣される研究者数についても、2000年以降は減少傾向にある。今後、世界の第一線の研究者を招へいするための大胆な研究環境整備を行っていくともに、我が国と諸外国との大学間交流や高等教育ネットワークを活用し、諸外国のニーズを取り込みながら、国際共同研究や人材育成の取組を加速するべきである。

(2)優秀な留学生の定着・活躍促進

 我が国においては、2018年以降には再び18歳人口の減少局面に突入することが予想されており、将来の我が国の教育研究活動を担う優れた人材を確保するためには、外国人研究者の受入れのみならず、優秀な外国人留学生を積極的に受け入れ、戦略的に獲得していく必要がある。また、我が国の大学で博士号を取得した優秀な留学生については、その後も我が国の大学・公的研究機関・民間企業等において研究活動に従事できるよう、国際的な大学間連携を進めるとともに上述の新たな制度において留学生を積極的に登用するなど、優秀な留学生の定着・活躍を促すための仕組みの構造化を図るべきである。

3.多様な人材が活躍するダイバーシティ研究環境の整備 

(1)女性研究者の活躍促進

 科学技術イノベーションの創出には、多種多様な人材の参画が不可欠であり、女性の参画を一層推進していくことが求められる。我が国の研究者総数に占める女性研究者の割合は年々増加傾向にあるが、諸外国に比較すると、その割合は依然として低く、特に、上位職の女性研究者の割合が低い状況にある。「指導的地位に占める女性の割合を平成32年(2020年)までに30%程度とする」という政府目標の達成及びそれによるイノベーションの加速を実現するには、従来の施策に加えて、経営層の女性研究者を増やす施策を新たに実施することが必要である。また、これらの新たな施策と従来の裾野の拡大や環境の整備を目指す施策を個別に実施するのではなく、全体として持続可能なシステムを構築することが重要である。

(2)研究推進に係る多様な人材(研究推進人材)の位置づけの明確化

 リサーチ・アドミニストレーター、プログラムマネージャ、技術支援者(テクニシャン)等については、新たなイノベーションシステムに不可欠となる人材であり、各研究機関においては、研究者と協働できる研究者以外の研究推進に係る人材(研究推進人材)を高度専門職と位置づけ、育成・確保を行っていくことが求められる。国としては、類型ごとに求められる知識やスキルを明確にして、研究推進に係る職種を研究者と並ぶ専門的な職種として確立し、社会的認知度を高めていくとともに、各機関におけるスキル標準の作成やそれを用いた研修・教育プログラムの活用支援を行っていくべきである。

4.持続可能なシステム構築のための好循環の形成 

 研究者の育成については、個別施策を実施してから効果が出るまでに時間を要するため、育成された研究者の活躍に関するデータを継続的に収集し、それらを分析して実態を把握し、中長期的な視点から効果を検証していくことが求められる。また、これらの個別施策は、各研究機関あるいは各研究者の内発的モチベーションに基づく取組でなければ、我が国全体として持続可能なシステムとなり得ない。国は、これらの観点に立って、各研究機関及び各研究者に対する公正な評価とそれに基づく適切なインセンティブ付与の仕組みを構築することによって、我が国全体としてのイノベーション・ナショナルシステム構築のための好循環を生み出す必要がある。

5.今後の検討課題 

(1)博士号取得者の質を担保するための大学院教育の在り方

 優秀な博士号取得者を育成していくためには、大学院教育の更なる質の向上が必要となる。高度な専門性に加え、俯瞰(ふかん)力と独創性及び社会的視野を備え、国内外、産学官にわたり活躍することができる人材を育成するために取り組まれている「博士課程教育リーディングプログラム」での成果を生かし、多様なセクターの新たな視点を入れたカリキュラム作成やメンターによる指導体制の構築など、より質の高い体系的な大学院教育を確立していくことが求められる。今後も、当委員会と中央教育審議会 大学分科会 大学院部会との連携を深めていくことが重要である。 

(2)大学院博士課程学生への経済的支援の在り方

 意欲と能力のある学生が安心して博士課程を目指すことができる環境を実現するためには、1.で指摘した博士課程修了後のキャリアパスの整備を推進するとともに、学生に対する経済的支援を充実していくことも重要である。第4期科学技術基本計画に掲げる博士課程後期学生の2割に対する生活費相当額の支援を早期に達成するため、今後、安定的な財源による博士課程学生への支援の在り方について、大学・研究開発法人によるリサーチアシスタントとしての雇用機会の更なる充実のための方策を含め、早急に検討を深める必要がある。

(3)若手研究者育成の観点からの競争的資金制度の在り方

 大学等の運営費交付金等の基盤的経費と競争的資金の果たすべき役割については、人材育成の観点も踏まえて検討する必要がある。例えば、任期付き研究員については、競争的資金における任期付き雇用と、任期終了後の基盤的経費や間接経費による雇用を柔軟に組み合わせることにより、一定の育成効果の得られる期間、安定的に雇用する仕組みなどを検討すべきである。今後も、当委員会と科学技術・学術審議会 学術分科会 研究費部会等との連携を深めていくことが重要である。

(4)セクター別・分野別の状況の詳細把握

 博士号取得者やポストドクターの在籍・就職状況については、理・工・農・医などの各分野によって、取組の進展状況や課題が異なることも明らかになっており、また、産業界における女性研究者割合については、民間企業研究所で研究に従事する研究者に限定すれば、約2倍になるとの調査結果もある。今後も、委員会においては、科学技術・学術政策研究所の調査結果等も参考にしながら、セクター別・分野別の状況に応じたきめ細かい人材育成施策を検討していく必要がある。 

(以上)


※キャリアパスの明確化に資するため、以下の要件を満たした形態で教員・研究者を採用する人事制度のこと。(1)一定の任期を付して雇用すること、(2)公募を実施するなど公正で透明性の高い選考方法であること、(3)任期終了前に公正で透明性の高いテニュア審査が設けられていること。

お問合せ先

科学技術・学術政策局人材政策課

人材政策推進室
電話番号:03-6734-4021(直通)

(科学技術・学術政策局人材政策課)

-- 登録:平成27年01月 --