資料1-2 「博士号取得者等が社会の多様な場で活躍できるようなキャリアパスの構築」に向けた方策(案)

科学技術・学術審議会
人材委員会(第26回)
平成16年4月12日

1.現状認識

- 近年の急速な技術革新、産業構造の変化に伴い、研究人材に求められる能力も高度化・多様化してきており、科学技術創造立国を目指す我が国社会において、高度な専門能力と豊かな学識を有する博士号取得者等の活躍が一層期待される。

- その活躍の場も、社会と科学技術の関わりがますます深化・多様化する中、大学や研究機関の研究者はもとより、民間企業の研究者や技術者、科学技術と社会の接点に立つ人材など、多様な場面が想定される。

- 米国においては、博士号取得者等が大学等に加え、営利企業や政府関係機関など多様な場で活躍しており、処遇面でも優遇されている。

- 我が国では、博士課程修了者等数は増加し、民間企業等へ就職する者も増えてきているが、卒業直後に未就職な者も多く、博士課程修了者に対する民間企業の処遇や博士課程在学中における経済的な支援が不十分との指摘もある。

- また、民間企業における博士課程修了者等に対する意識をみると、最近採用した博士課程新卒の研究者等の資質が期待を下回っている場合の理由として、「社会での経験に乏しく、企業のニーズに無関心であるなど、企業の研究者としての自覚に欠ける」を挙げる企業が多くなっている。採用実績の高い企業では、「成果の出やすい研究テーマを与えるなど、修学期間内での学位の取得を優先し、真の実力が身に付いていない。」を挙げる企業が多くなっている。

 上記のような現状を踏まえ、科学技術創造立国を目指す我が国において、その中心的な役割を担うことが期待される博士号取得者等が、その能力や適性に応じて社会の多様な場で活躍できるよう、以下のような取組を推進する必要があるのではないか。
 なお、大学院博士課程に係る取組については、中央教育審議会大学分科会における審議状況にも留意しつつ、検討を進めることが適当である。

2.今後の対応

1.優秀な人材の博士課程進学に対するインセンティブ付与

【考え方】

 我が国においては、博士課程進学に伴う経済的負担や博士課程修了後の将来的不安等に伴い、優れた資質や能力を有する人材が博士課程への進学を断念しているとの指摘がある。優秀な人材が博士課程に進学し、その能力を高め、社会の多様な場で活躍できるよう、また、我が国における博士号取得者等に対する社会的評価を高めるためにも、優秀な人材が博士課程に進学する動機付けにつながるような取組を推進する必要があるのではないか。
 また、急速な技術革新の進展等に伴い、既に社会で活躍する人材が更に高度な専門能力等を身に付けるため、博士課程に進学するケースも増えてきていること等にかんがみ、各大学院においては、その人材養成に係る取組を積極的に社会に発信することも必要ではないか。

【今後の対応】

(1)博士課程学生に対する経済的支援の充実
  •  特に優れた能力を有する人材が経済的負担の心配なく大学院博士課程に進学できる機会を確保するため、優秀な人材の選考方法の改善を図りつつ、特別研究員事業による博士課程学生への支援拡充が必要ではないか。
  •  奨学金制度についても、博士課程学生の人数推移や学生のニーズ等を踏まえ、引き続き充実を図ることが必要ではないか。
  •  博士課程を置く各大学においても、個々の特色を活かしつつ、TAやRAなどを活用して、博士課程学生がその能力を高めつつ経済的な支援を受けられるような取組を一層推進していくべきではないか。その際、各学生が費やした労力や時間、その能力や役割に応じて、適正な処遇が確保されるよう留意する必要があるのではないか。
  •  特に、TAについては、教育者としての資質向上を図り、教育機関における博士号取得者等の活躍を促進するためにも重要な取組ではないか。
(2)各大学院博士課程における人材養成の目的や取組等に係る情報発信
  •  大学院博士課程においては、大学等の研究者養成のみならず、社会の多方面で研究開発等に従事する人材を養成する機能を担っていることから、博士課程を置く各大学においては、それぞれの課程における人材養成の目的や取組を明確化するとともに、社会の多様な場で活躍している修了者の状況などを含めて、広く社会一般に発信していくことが重要ではないか。

2.大学院博士課程における教育機能の活性化

【考え方】

 修士課程修了直後の者のみならず、社会人を含め、博士課程に進学した優秀な人材が、博士課程在学中にその専門能力を高め、課程修了後、社会の多様な場で活躍できるよう、各大学院博士課程においては、社会の多方面における人材ニーズの把握に努めつつ、それぞれの課程の特色を活かした教育機能の活性化に向けた取組を推進する必要があるのではないか。

【今後の対応】

(1)社会ニーズの変化に応じた教育内容の工夫・改善
  •  社会人学生が増加する中、大学院に対する学生のニーズも変化・多様化してきていることから、各大学院においては、それぞれの課程の特色を活かしつつ、教育内容や方法の工夫・改善に向けた取組を一層推進する必要があるのではないか。
  •  大学院博士課程を置く各大学においては、大学院に対する社会的ニーズの多様化に対応して、各課程の人材養成目的に沿ったカリキュラムの体系化を図ることが必要ではないか。また、博士課程学生に対するインターンシップ、連携大学院制度の有効活用、博士課程学生の産学共同研究への参画促進など、実践的な能力向上に向けた取組を一層推進することも必要ではないか。
  •  さらに、博士号取得者等が産業界で中核となって活躍できるよう、各大学において、起業家精神に富んだ人材育成を目的としたベンチャー・ビジネス・ラボラトリーを整備するなどの取組が重要ではないか。
(2)大学院組織における人材の多様性確保と資質向上
  •  各大学院における研究機関としての研究能力の向上もさることながら、各大学院における教育効果を高めるためにも、各大学院においては、分野特性等を踏まえつつ、多様な経歴を有する人材を結集させ、教員が相互に刺激しあい影響されるような環境整備を図っていくことが重要ではないか。また、こうした取組は、博士号取得者等の社会の多様な場での活躍促進に向けた学生に対する意識改革にもつながるのではないか。
  •  各大学院においては、個々の大学院教員が教育者としての資質向上を図れるよう、組織的な取組を推進することが重要ではないか。

3.博士号取得者等が社会の多様な場へ進出し、活躍できる環境の整備

【考え方】

 博士課程を修了した者が、その能力や適性に応じて、大学や研究機関はもとより、産業界等、社会の多様な場に進出できるよう、人材養成に係る産学連携の促進、大学院等における進路指導に係る体制整備などの取組が必要ではないか。

【今後の対応】

(1)人材養成に係る産業界と大学院との連携促進

  •  博士号取得者等の活躍の場である各大学や企業等においては、その求める具体的な人材像を明確化し、人材養成の場である各大学院へ積極的に情報発信するなどの取組が必要ではないか。
  •  また、研究活動における産学連携に加えて、分野特性等にも留意しつつ、人材養成面においても受入側(産業界等)と養成側(大学院)が相互に情報交換できるような取組を推進する必要があるのではないか。

(2)各大学・大学院における進路指導に係る体制整備

  •  博士号取得者等が、社会の多様な場を視野に入れつつ、本人の希望や適性により将来の進路を選択することができるよう、各大学・大学院においては、各人の能力や適性を踏まえたキャリア・ガイダンス(職業指導)やカウンセリング等が受けられるような体制を整備することが重要ではないか。

(3)社会の多様な場における博士号取得者等の活躍促進に向けた取組

  •  社会の多方面において、高度の専門能力を活かし、中核となって活動する博士号取得者等の活躍事例を収集し、博士課程学生はもとより、養成側(大学院)や受入側(産業界等)を含め、広く社会一般に発信するような取組が必要ではないか。
  •  広く公平な就業機会を提供し、個々人がその能力や資質、希望や適切に応じた職を得ることができるよう、受入側(産業界等)においては、人事が閉鎖的になることがないような取組が期待されるのではないか。
  •  我が国における中長期的視点に立った博士号取得者等の活躍促進に向けては、博士号取得者等の活動実態について、可能な限り具体的に把握できるような取組を検討する必要があるのではないか。

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科学技術・学術政策局基盤政策課

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