資料3-1 「産学官連携を支える人材の育成」に関する検討の視点

科学技術・学術審議会
人材委員会(第27回)
平成16年4月21日

1.現状

1.産学官連携の概況

(1)本年4月からの国立大学の法人化

○特許等の研究成果の機関帰属化が促進
○研究成果の活用の促進が国立大学法人の業務として位置づけられる
○国立大学法人から研究成果活用促進事業(承認TLO)への出資が可能に
○兼職・兼業、雇用形態、給与・勤務時間体系等について柔軟な人事制度実現が可能に

⇒ 産学官連携の枠組を整備していく段階から、本格的に実行していく段階に

(2)産学官連携の実績

○企業と国立大学による共同研究件数は、10年間で約5.5倍に
 1241件(平成4年度) →6767件(平成14年度)
○国立大学等が企業から受け入れた受託研究金額は、10年間で約4倍に
 6.1億円(平成4年度) →23.9億円(平成14年度)
○国立大学等が企業等から受け入れた奨学寄附金の学は、近年再増大傾向
 467億円(平成11年度) →579億円(平成14年度)
○承認TLOによる特許出願件数は、3年で約5倍に
 317件(平成11年度) →1619件(平成14年度)
○大学発ベンチャー数は、平成12年以降毎年100社以上創設
 設立累計は、平成15年8月現在で614社

⇒ 我が国の産学官連携は着実に進展

(3)産学官連携の課題

○我が国の企業の研究開発投資の海外流出
 国内の大学等に対する研究開発投資額は、海外投資額と比べて約1/2
○大学研究費に占める産業界負担研究費の割合の低調
 我が国の割合は2パーセント強(米、英、独は6パーセント以上)
○日米比較におけるロイヤイティ収入等の格差
 ロイヤリティ収入:4.1億円(日本)、8.7億ドル(米国)
○我が国の国際競争力の低迷
 我が国の国際競争力は、10位前後(1999年~2003年)
○国外特許申請取得件数の伸び悩み
 我が国の国外特許取得件数は、欧米と比べて少ない

⇒ 産学官連携を発展させ、これらの課題を解決するためには何が必要か

2.産学官連携における人材の重要性

○産学官連携の実現に際しての人材の重要性
 産学官連携として結実するためには「個人的な面識」、「仲介者(コーディネーター)の存在」などの産学官に通じた人材の果たす役割が大きい
○大学等の研究人材に対する期待と産学官連携
 企業は、大学等に対し「事業化まで考慮した研究」、「イノベーション創出が期待できる研究」、「民間企業に対する技術指導」等も強く期待しており、大学等にこうした期待を十分認識した人材が増えることは重要
○共同研究における人材面での意義
 知識、人脈等の相互影響、相互活用を図ることが可能に
○共同研究実施に際しての人的課題
 産学共同研究実施に際して、「大学側の企業ニーズの把握の弱さ」、「産学連携に不慣れ」、「産学連携の意識の低さ」などの人的な課題が大きい
○「科学技術と社会を媒介する人材」の不足
 「知的財産関連人材」、「目利き人材」などの、産学官を媒介する人材の質的、量的な不足が研究者間で認識されている
○大学等発ベンチャー設立における人材面の重要性
 「起業スタッフの確保」、「財務・会計マネジメント」、「企業設立などの法務」、「特許係争」などの起業人材の充実に対する要望が強い。

⇒ 今後の産学官連携の進展のためには、人材面に着目することが重要

3.産学官連携に関する人材育成の状況

○産学官に通じた人材、独創的な研究成果を出す人材の育成
 共同研究の実施、長期インターンシップ、連携大学院、産学人材移動など
○産学官を媒介する人材の育成
 知的財産関連人材、目利き人材、産学官連携コーディネーターの育成など
○起業関係人材の育成
 起業家教育、特許弁護士・弁理士の育成など
○技術経営人材の育成
 MOTプログラムの実施など

⇒ 産学官連携を支える人材を質・量ともに充実させていくことが必要

2.検討の視点

 経済状況の厳しさをも反映し、社会全体から産学官連携の重要性が認識され、経済活性化への期待感が極めて強く示されている状況下、我が国の産学官連携を一過性のものではなく、持続的に社会経済に影響を与えていくものとしていくことが長期的な観点に立った我が国の発展をさせるために重要である。我が国においては、極めて短期間に産学官連携を進めるための多くの制度改善がなされ、仕組み上欧米各国とほぼ遜色がないほどに至ってきている。また、国立大学法人化によって、産学官連携を進める上での障害は実質上ほぼなくなったと考えられる。今後は、大学等の研究者がベンチャー起業等にリスクを感じながらも積極的に取り組むとともに、産業界のリーダー等が先端技術を中心とした経営の重要性を認識し、実践する段階である。

 このような段階において、産学官連携を効果的に機能させる上で鍵を握るのは、個別事業において産学官連携を実践する人材及び支援する人材である。我が国の産学官連携を真に生きたものとしていくためには、高リスクの事業に果敢に挑戦する人材、プロ意識に富んだ技術移転専門人材等が必要であり、競争的環境下における研究活動を進めることなどを通し、起業に挑戦する人材の創出を進めるとともに、産学官連携を支える人材のスキルアップを図るなどにより、今後様々な段階において活躍できる人材を長期的観点に立って育成する必要がある。
 また、技術移転や共同研究等の科学技術面での役割に重点が置かれた産学官連携のみならず、教育や人材育成の面での産学官連携も、我が国全体が多様なニーズにダイナミックに対応していく上で極めて重要である。理論的・学問的な観点からの「知の伝達」と、実践の場における「知の活用」の双方をバランス良く経験し、科学技術の発展のみならず、社会経済の高度化のために自ら発想できる人材が社会で大きく活躍することが期待される。
 このような認識のもと、

  1. 産学官連携を実践する人材の育成
  2. 産学官連携を支援する人材の育成
  3. 産学官連携による人材の育成

をどのように具体的に進めていくべきなのか。

1.産学官連携を実践する人材の育成

 大学の研究成果を基にしたベンチャーの起業化や産業界との共同研究の実施等は、大学の研究室における研究活動に比して、極めてチャレンジングであり、成功した際の利益が多い反面、失敗した場合には多くを失うことも想定される。我が国において真の産学官連携が進みにくい大きな要因は、かかる事業に主体的に挑戦する人材の少なさではないだろうか。社会全体が失敗を許容しない文化であるとはいえるものの、長い間の非競争的環境下での研究活動が研究者から高リスクの新規事業に着手するインセンティブを失わせてきたとも言えるのではないか。
 このため、起業家が多く生み出されるための環境作りを進めるとともに、起業化に挑戦する人材がリスクを負いながらも十分にその能力を発揮できるための支援が必要ではないか。

2.産学官連携を支える専門人材の育成・確保

 大学等の研究成果は、創出された段階では事業化までの道筋が必ずしも明らかになっていない場合もあり、その段階で健全な産学官連携による事業化を実現するためには、研究成果の潜在的財産価値をどのように判断するか、将来の事業化に向けて如何に効果的なビジネスモデルを立案し、実施していくのかについて迅速かつ適切に判断することが必要である。これらの活動については、技術を十分に理解するのみならず、経済や経営、財産運用、地域社会との連携等に関する深い知見を備えた人材でなければ十分な対応は出来ず、これらの能力を有する産学官連携を支える専門人材の育成・確保が必要である。

<産学官連携を支える専門人材のイメージ>

 産学官連携を推進するために必要な専門人材のイメージは、対象とする技術分野や産業構造、大学等の取り組み、産業界からの要請等によって大きく異なるものの、共通する要件は、

  • 研究成果を戦略的に知的財産化することができる人材
  • 大学の研究成果を基にビジネスモデルを構築できる人材
  • 国内外の知的財産関連法令等に関し、十分な知見を有している人材
  • 起業や立ち上がり時におけるリスク評価を適切に判断できる人材

などが考えられる。

<産学官連携を支える専門人材の養成・確保の方策>

 産学官連携を支える専門人材については、我が国の状況は米国のみならず、アジア諸国に比しても遅れており、早急な対応が必要である。具体的には、産学官連携の調整役について、その充実・スキルアップを図るとともに、ネットワーク化等を進めるとともに、これらの人材が有するべき基本的な資質を明確にし、その活動に対する信頼感を醸成することが必要である。
 量的な問題に関しては、科学技術者のキャリア・パスとして、研究活動への従事のみならず、研究活動を支える専門人材としての道を選択できる環境を整えることも重要である。また、現在多様な取り組みが進められているMOT教育については、創出される人材のイメージをまず明確にし、必要な教育コースを設定することが社会からの要請に的確に応える上で重要である。

3.産学官連携による人材の育成

 知識社会においては、最先端の研究成果を創出し、新たな知識体系を構築していく知識創造型の人材のみならず、社会からの要請に対する解決策を提示し、あるいは新産業創出によって経済を活性化するニーズ対応型の人材の重要性も益々高まりつつある。これらの人材が連続的に育成され、大きな成長を遂げていくためには、産・学・官がそれぞれの特徴を十分発揮し、協力して人材の育成・活用に取り組むことが重要である。また、産業界における多様な人材を大学における教育・研究に活用することも重要である。このため、

  • 工学系を始めとする実践での活躍が期待される技術系大学院学生(約4万人)について、その約4分の1を対象として長期(3ヶ月から6ヶ月程度)のインターンシップ制度を実現する。
  • 産業界において活躍する人材が最先端技術を学ぶ機会、あるいは、新たな視点で活動することを可能とするための、リカレント教育やケースメソッドを活用した教育の一層強化を図る。
  • 産業界において製造分野や計測分野等で優れたスキルを有する人材について、大学等の研究機関における再活用を図る。

産学官連携の状況や国内外の研究状況等を踏まえると、以上の施策を総合的に推進していくことが重要であるが、我が国が現在直面する諸課題に対応していくためには、特に、以下の事項の早期の実現が必要である。

◎重点的産学官連携人材育成計画(チャレンジ人材育成プラン)の策定・実施

(基本的考え方)

 競争的環境において産学官連携のチャレンジングな人材の育成・確保

(内容)

○ 技術系大学院学生を対象とした長期インターンシップ制度の実現
  長期インターンシップ制度の創設・実施(例えば、技術系大学院学生1万人インターンシップ制度の創設と実施企業の明確化・実施支援)
○ 大学等の研究者の起業家育成強化

  • 起業家育成コース(学部レベル、専門職大学院等)の創設支援
    (例えば、起業家1万人育成計画の実現)
  • 起業化プランの実施支援

○ 実践の場で能力を発揮できる技術経営人材の育成
  ビジネス経験を有する技術者を対象とした技術経営人材の育成と採用支援

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

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