資料2 ポスドク・若手人材問題050531文科省人材委員会討論資料 北澤

科学技術・学術審議会
人材委員会(第33回)
平成17年5月30日

1)ポスドク1万人計画は成功したか(私見)

○ 日本の研究人材を厚くした 特に国研、バイオ、高エネ

論文数増大(国研では2倍(物材機構など)~数倍も(理研))
国研の協力研究者不足を補った 大学の助手定員減を補った
研究者コミュニティにハングリーさ付与
総じて日本の研究ポテンシャル上昇

× 流動化の不足 たこ壺的な研究の場(同じ研究室に何年も)

民間研究セクターとの流動化不活発
研究コミュニティ内での流動も不充分
インブリーディングの排除不十分
海外での武者修行の減少
→評価が公正になされないとするポスドクの不満←公開流動市場の欠如
→ポスドク最終年の職探し不安→研究最終年が不毛
ポスドク層に待遇の社会的しわよせ(同期に比べて2-6割安給与)
  (欧米にも似た事情)<注3、参考資料1-5>

教育的観点でのポスドクと研究パワーとしてのポスドクの間の制度齟齬

雇用側のポスドク戦力認識の欠如(教育との位置づけ、計画的教育欠如)
大学以来9年教育を受け、さらにその上教育期間とする位置づけ
  欧米と日本の事情に差

2)「科学技術創造立国」に向けた人材確保の観点

なぜポスドクでなければならなかったのか?

若手研究戦力増強の必要
常勤ポスト数の制約←公務員定員削減 研究者のみ増やせない
任期つきならポスト数にカウントされぬ(米国は外国人と女性、欧州も外国人)
助手ポストを減らして教授ポストを増加させてきた

米国のポスドク層厚み 5万人強、日本13500人

←ハングリーな若手研究者の存在は成功
彼らの「不遇問題」解消できれば純増望ましい

「科学技術創造立国」「知識集約型人材構造への転換」「中国などの台頭」

3)制度としての若手研究者現状

◇ 大学国研約16万人中8~10万人の研究者ポスト、民間研究者(60万人程度)
  これに対してポスドク13500人(平成14年)
  急速に増加中 博士号取得者数 14500人(平成14年)
  フェローシップと競争的研究資金による雇用解禁が寄与
◇ しかし、学振フェローシップ、21世紀COEポスドク、プロジェクト雇用の研究員、大学の非常勤研究員としての雇用、最近では特任教員など、種々ばらばらで現場での齟齬
◇ キャリアプランが設計されていない

4)「一人前の研究者」か「教育・訓練生」か

◇ 実態はプロダクティビティの高い若手研究労働力 計画的教育はなされていない
“教育訓練期間”としての奨学金としての考え方
“研究成果の担い手”としての位置づけ(雇用型)まで

5)雇用マーケットでのポスドク

若いポスドクは不足
←バイオに多額の競争的研究資金、多数のポスドク雇用可能に
しかし、バイオ産業まだ 35歳を越えたポスドクは制度的に求職難
バイオ系典型的 高エネなど
40歳以上ポスドクに女性の比率上昇

6)解決を必要とする問題点

(ア)ポスドク位置づけ 訓練期間としての位置づけ:
  ポスドクは若いので経験の豊富さでは責任者にはかなわないが、研究遂行のパワーとしては年長者に勝る
  同年代の他職業に比して安い給料(例:高卒初級公務員より明らかに安い)
  生活給的考え方はなし
  30を越えたポスドクはどうする(第2第3ラウンド問題、結婚子育て期)
  40を越えたポスドクはどうする(生涯一研究者としてのポスドク、ジェンダー問題)
(イ)日本の人材確保とポスドクのマクロ設計
(ウ)人材流動 各人の滞留年数 「評価に関わらない解雇」の不安

7)解決の為の提案

◇ マクロなポスドク制度の最適化

「1回移動の原則」尊重を呼びかけ。ポスドクを経て常勤ポストへ。<注1>
ポスドク総数は競争的研究資金の総額による ポスドク雇用費/総予算は増大の傾向 この原則を守るとバイオ以外の分野はほぼマクロな解決

◇ バイオなど近年膨張した分野

競争的研究資金で常勤職相当の雇用を可能にする必要 機関による設計必要
競争的資金によるポスドク機関雇用を可能にする 常勤 vs 任期付 ~10

◇ 成果に応じた「一人前の研究者」としての給与の確保

プロジェクト研究に優秀な任期付き若手研究員確保は日本の研究ポテンシャル向上に必須、同年齢の研究者あるいはそれ以外の被雇用者との待遇格差の是正
提案:プロジェクト雇用研究員制度 常勤パスに載っている研究員と同等の給与の保障

◇ フェローシップ・ポスドクとの格差の解消

本格的研究者としての勤務を要求する場合には奨学金としてのフェローシップに対して、差額補填を認める(運営費交付金あるいは競争的研究資金より)役割に見合った給与
フェローシップのバライエティを拡大

◇ 流動性の向上

「流動化促進ポスドク制度」の新設:
本人と新規受け入れ研究責任者、および受け入れ機関の三者の共同申請
  当初一年間の試験雇用に対して、雇用を代行
  異なる勤務機関
規模例 500人・年 予算40億円
民間枠を5割設ける(ポスドク版インターンシップ)食わずぎらいの解消
精神:プロジェクトで活躍した研究員が最終年度の不安を感じないで最後まで研究をしてもらい、さらに流動化を最適化

◇ 多重ポスドク問題への対処と高齢研究者の活用

「技能エキスパート研究員制度」の新設
35歳以上の研究者を主たる対象に各機関あるいはファンディング・エージェンシーで安定雇用についての枠を作る
各機関では競争的研究資金と運営費交付金で枠を作ること可
ある年齢以上では給与の頭打ち

<注1>

  研究コミュニティ全体の常勤ポスト数をZとする。ポスドクの全数をYとする。一人の研究者の生涯研究期間をT年とする。するとひとりの博士卒業生が任期付きポスドクポジションで過ごすべき平均年数t年は
t<{Y/(Z+Y)}Tである。不等号は研究コミュニティの外側にポストを得る場合もあることを考慮。いま、Zを16万人と置く。Yを13,000人とする。Tを35年とする。するとt<2.6年。

<注2>

学振フェローは早くから公募され、時間をかけて中央で選ぶ。多数の修了前の学生が応募し、その中より優秀な博士課程卒業生が選ばれる。プロジェクト雇用の研究員はプロジェクト責任者によってほぼ即断即決で選ばれる。このために、同じ研究場所において学振フェローに受かってしまった人をプロジェクト雇用研究員に選ぶことは責任者にとって難しい。なぜなら、人件費支援が減ってしまうからだ。これにより、先に合格した優秀なポスドクの給与が低い、という事態が生じる。職場に不公平感

<注3>

女性のポスドク 定員研究者に比べ女性ポスドク比率大 年齢とともに顕著に
海外からの多数の応募者(国による偏り、質の問題はある)
  海亀政策など(ポスドク経験国で就職の必要やや比率低い方に)
  しかし、基本的には経験国での残留希望が標準的(ないし米加欧へ)

米国のポスドク 外国人が主体 自由化市場(経済原理に基づいている)
  米市民権を有するポスドクと外国人ポスドクとの間の給与格差もあり(3割位)
ただし、9.11ショックによるビザ問題でスローダウンまだ継続中

<参考1>米国のポスドク:

1950年代にスタートし、1980年代から90年代に急増、現在5万人強。99年のサイエンス誌のファーストオーサーの43パーセントはポスドク。米国の研究に活を入れ、ハングリーな研究の雰囲気を与えた源泉。政府施策ではなく経済原理にのっとって成長。競争的研究資金の成長と優秀な外国人ポスドク、米国人女性ポスドクの存在が米国のポスドク制度を支えている。職の不安定さ、安い給与の両面において問題は多いが、海外からの移住の第1歩として位置づけられている。英国でもポスドクポストの不安定さが問題となっており、プロジェクトが途切れることで職を失っている期間が長いことが問題にされている。米国では平均テニュア取得年齢が徐々に高齢化し42歳に達した(NatureJob 05年3-4月号)

<参考2>2003Sigma Xi調査

5万人中22000の米国のポスドクにメイル調査 うち34パーセント7600人が解答 54パーセントが外国人 US citizenのポスドク中51パーセントが女性 外国籍ポスドク中65パーセントは男性 平均年齢33歳 50パーセントは子どもがいる 学卒初任給45000ドル 修士修了初任給55950ドル 博士終了初任給71000ドル ポスドク

給与平均は38000ドル

外国人ポスドク給与は2000ドル平均安い 1999年のサイエンス誌のファーストオーサーの43パーセントはポスドク。週平均労働時間51時間

<参考3>ヨーロッパ分子生物学機構レポート2003

欧州のポスドクの主力は安い賃金で働く外国人研究者であることが記されている
http://cns.physics.gatech.edu/research/extras/EMBO-nov2002.pdf
They are the perfect workforce?young, mobile and fully prepared to work the sort of hours that would immediately send labourers in any industrialized country out on strike. They are willing to move around the world from one assignment to the next and, last but not least, they come cheap. These are not poor, migrant, manual workers, desperate to earn money to send home to their families in less-developed countries. This perfect workforce is an army of highly skilled, well-educated young professionals, often with more than 10 years of rigorous training at top universities worldwide: they are postdoctoral fellows. These underpaid, hard-working labourers represent the most creative members of the academic research community and possibly the most valuable intellectual capital of today’s knowledge based societies.

<参考4>欧州のポスドク給与比較

http://cns.physics.gatech.edu/research/extras/EMBO-nov2002.pdf

欧州のポスドク給与比較の図

欧州のポスドク給与比較の図2

<参考5>米国でもパートタイムポスドク問題:訴訟も(実際はフルタイムで働いていた)

Compensation is a particular concern to the 3 percent of survey respondents who, technically, are only employed part time. Strangely, they report putting in an average of 45 hours per week, more than most full-time workers. In recognition that the designation of part-time status for postdocs carries with it the potential for abuse (if used as an excuse not to offer benefits or to avoid paying the minimum stipend allowed by university rules), some institutions have placed restrictions on this practice. The University of Alabama at Birmingham, for example, prohibits part-time postdoctoral appointments except in special circumstances, such as the birth of a child.18

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