2-3.主に大学界に係る課題と今後の取組

(1)基礎知識・専門知識の十分な定着と産業界のニーズを踏まえた教育の充実

 産業界が大学に求める教育とは、「特殊な実践知識」による「即戦力」育成ではない。むしろ、分科会の議論では、大学では専門知識の土台となるような「それぞれの分野における基礎的な知識」を徹底して学ぶ重要性が共通して指摘されている。このような基礎ができていれば、現場で必要となる知識については、個々の企業が自社の技術やノウハウとともに教え込んでいくという考え方に立っている。逆に、この基礎がない専門知識は付け焼き刃であり、それが陳腐化した場合に更新することが難しいことを懸念している。
 一方、基礎分野の徹底は、教授や学生のモチベーションという視点で見ると、新たな研究のシーズも少ないなど、難しさを抱えている場合もある。このため、大学では、専門分野の土台となるような基礎知識・専門知識について、なぜこれらが重要なのか、将来どのような役に立つのかといった意義を踏まえ、何について大学、大学院のどの段階で学ぶことが必要なのかといった観点から教育をデザインすることが不可欠であるとともに、その十分な定着を図る教育が必要である。このためには、問題意識ある産業人の協力を仰ぎ、基礎の重要性を直接語ってもらうなどの工夫も有効であろう。
 このような点も含め、大学は、常時、産業界との意思疎通によるニーズの正確な把握に努め、その視点を教育に反映していく努力が必要である。

≪分科会における主な議論(・課題 ◇提言 ◆具体的取組)≫

情報処理

◇情報カリキュラム標準J07に関して、その活用促進と、非情報処理系学部等への展開の検討、JABEE制度との連携の検討及びスキル標準との繋がりによる学生の能力可視化の推進
◇教育目標、教員関与、評価体制を明確にしたより高度なインターンシップの拡大、教育現場におけるPBLの積極的な導入など、産学の積極的な連携による実践的な教育の推進
教育目標、評価体制を明確にした、より高度なインターンシップの拡大及びPBLの積極的導入など、実践的な教育のさらなる推進。
高度IT人材育成を一層効果的・効率的に推進するため、人材関係機関との協力関係を構築。

原子力

◇産業界で実務を行う中では、企業の内外の関係者と円滑なコミュニケーションを取ることが重要であるため、ディベート、プレゼンテーション等についてこれまで以上に知識や経験を積むことが有効である。
◇大学において、資格取得に要求されるような実践的内容の授業を受講することができれば、学生の学習意欲及びコンピテンシーの向上が期待でき、卒業後早期に実務に参加できる。

経営・管理

・MBA等の学位を有する人材の採用や活用についても、経営大学院が提供する教育課程やプログラムと産業界のニーズにミスマッチもあり、現状では活用しきれていない。
◇現在の産業界と大学・経営大学院のミスマッチについては、産業界が自らのOFF-JTニーズを明確にし、経営大学院に対してより積極的に情報発信を行うことが重要である。

資源

・資源系大学においては、資源開発上流部門の学科・専攻等の減少や教員の減少が深刻。健康管理(Health)、安全(Safety)、環境(Environment)、コミュニティリレーション(Community Relation)という、いわゆるHSECについても、以前は随分学科・専攻等があったが、今は講座も教える教員も少ない。
資源開発に関する広範な知識・ノウハウを、フルセットで提供できるようにするため、必要なプログラム開発やケース教材の開発を行う。

材料

◇学生に何故この基礎が重要なのか、有用性と醍醐味が十分に伝える事が有効。種々の重要な産業の最先端で貢献する基礎の位置付けが理解できる「教育プログラムの共同開発」が望まれる。
教育プログラムの共同開発を提案し、20年度においてはその教材の作成に産学連携で着手する。

機械

・機械工学の基礎科目(4力学等)についての十分な理解、学生への学習動機付け等が必要である。
◇基礎的知識の効果的な学習。学習・履修指導の強化、経験型・体験型学習と従来の座学講義の連動。

化学

・基礎学力、課題設定力・解決力、応用力の育成の一層の充実が必要。
◇大学は、大学院における化学の基礎として必要な講義内容(特に必修)や、体系的な教育プログラム(スタンダードカリキュラム)を編成・実践することを検討する。この際、産業界の意見等も参考にしつつ、基礎的なカリキュラムの強化を図ることや、暗記型でない、開智型・引き出し型の教育、自ら考えさせる習慣を付けさせる教育の強化を図ることも重要である。

(2)教員の教育力の強化

 教育の質の向上のためには、教育内容・カリキュラムの向上と教員の教育力の向上が車の両輪である。現在、大学教育には、専門知識のみならず、その活用による問題解決能力など汎用的な能力の強化や、自ら学ぶ意欲の向上等の新しい育成目標が与えられつつある。
 このような中で、教員は、自らの専門分野で常時知識を更新することはもとより、教える技術、更には学生の意欲を高める技術など高度なスキルが求められるようになっている。
 このため、教員の能力を向上させることや、学生のキャリアパスに対して教員の意識を高めていくことが今まで以上に重要である。産業界との人材交流も含め、ファカルティ・ディベロップメントの機会の増大、内容の充実のための取組を一層推進することが重要である。特に産業界においては、教員のインターンシップ受入れを始めとした、ファカルティ・ディベロップメントに対する積極的な支援が求められる。

≪分科会における主な議論(・課題 ◇提言 ◆具体的取組)≫

情報処理

◇ソフトウェア・エンジニアリングに係る教育や実践的な教育を行える教員の充実を目指し、教員インターンシップ等のFD活動を推進するとともに、企業と大学間の教員の流動化を促進するための取組の拡大、教員の企業への派遣を推進。
ソフトウェア・エンジニアリングや実践的な教育を行える教員の充実を目指し、教員インターンシップ等のFD活動の推進。

経営・管理

・経営・管理人材の育成にあたる教員は、「実務経験」や「学位」と「教育能力」をバランスよく有する人材でなければならないが、こうした教員は必ずしも多くないとの指摘があった。
◇(産学によるモデルプログラムの開発にあたっては)若い教員等を積極的に参加させることによって、ファカルティ・ディベロップメントの機能としても活用し、教員の質の向上を図ることが重要である。

資源

・各分野の強みを活かした重点化を推進し、自身の強みとしていく大学においては、海外の大学や研究機関等へ若手教員・研究者を派遣するなどし、若手教員・研究者を育成する取組も効果的である。

材料

・インターンシップの高度化の視点では、現状2週間程度で行っているものに加え、より深みのあるテーマに取り組むべく、企業からテーマ提示を行って3~6ケ月程度の非専任型インターンシップを実施するというものである。これら新たなインターンシップは、必ずしも企業への長期派遣や長期滞在ではなく、大学等の研究室と企業の製造現場で、相互の利点を活かし、双方の現場を活用した課題解決型のトレーニングを実施するものである。このため企業と大学等との往来の関係からも地元密着型になるが、そのことからも地元企業-大学等の具体的連携が強化され、ひいては、それが若年層教育に発展する素地も生み出す。
◇地元企業-大学等との連携強化は、地域の若者、子供への科学や材料に関する情報発信につながっていく可能性を秘めている。企業技術者と大学教員・学生が中心となって、自然の不思議やものづくりの面白さを発信することで、理科離れの風潮を阻み、未来の研究者やエンジニアを育むことに発展させていくことが期待される。
教員主導型戦略的インターンシップを目指した教員育成試行のためのプログラム作りも行う。

化学

◇大学は、教育力の高い人材の活用に努める(例えば、教員採用時における教育力の評価や、教育力の高い教員に対する正当な処遇等)。

(3)教員がより公平に評価され、教育へのインセンティブが適切に付与される仕組み作り

 現在、多くの大学においては、教員の能力や業績が研究論文を中心に評価される傾向が強いため、教員が先端的な技術分野の研究を重視しがちであり、基盤技術分野の研究や社会で必要とされる人材育成に必要な教育が適切に評価されていないのではないかという意見がある。
 こうした中で、大学のリソースを望ましい人材育成に有効に振り向けて行くためには、このパートナーシップの議論も活用しつつ、産学で育成目標を共有し、その方向性に向けた教育の実績を適正に評価したり、地味であっても基盤的な研究・教育に対して公平な評価を実施するなど、人材育成の視点からのインセンティブを与える仕組みが求められる。

≪分科会における主な議論(・課題 ◇提言 ◆具体的取組)≫

情報処理

◇研究と教育のバランスをとりつつも、教育に取り組む動機付けの不足を解決するため、大学教員が教育活動に専念できるような環境への配慮をする。

原子力

・構造強度、材料強度、腐食・物性などの基盤技術分野については、原子力産業界にとって重要であるにもかかわらず、競争的資金を獲得しにくいことから、基盤技術分野の研究者の厚みの低下や大学における知見蓄積の希薄化が進み、産業競争力が失われる懸念が生じている。
◇大学や研究開発機関の研究者の評価に当たっては、産業界との連携、開発した技術の産業界における活用も含めて総合的に行い、産業界のニーズを踏まえた研究を評価する視点を取り入れる必要がある。

機械

◇産学連携による教育評価・フォローアップ手法を開発および実施する。これにより産学一体となった人材育成Plan-Do-Check-Actionサイクルを確立する。

材料

◇研究業績評価に当たっては、論文の数、引用数といった客観的、定量的な指標だけでなく、分野ごとの特殊性も考慮し、その質、レベルを総合的な観点から適切に評価するという視点も重要である。総合的な評価を実効あるものにしていくためには、大学評価システムの中に産業界の視点を取り入れていくことも有効である。

化学

・大学ポストや研究費等について、研究成果に評価のウェイトが置かれる傾向がある。
◇教育を充実させるためには、研究との役割分担実施と教育を正当に評価することが必要。
◇大学は、教員の教育実績の適切な評価の在り方を検討・活用し、教員に対する多様な教育インセンティブが付与されることが期待される(例えば、学生アンケート、表彰、資金配分等)。教員の教育への熱心さや実績をどのように評価を行うか、その評価を何に反映させるか等については、引き続き検討すべき課題。
◇産業界は、化学系講座の教員と教育方針や教育実態等について評価を行い、教育分野の充実に必要な人的・資金的支援を行う。

(4)大学間の連携の充実

 現在、大学は、次のようなリソースの制約に直面している。

  1. 急速な技術の高度化に伴う施設の大型化、高度化
  2. 専門分野の分化の進展による必要な施設・設備の分化
  3. 大学入学者の増大による個々人の学習ニーズの多様化

 このような制約の中で、多くの学生に対し、高いレベルの教育を提供するためには、各大学が特徴のある資源投入を行うとともに、大学間の連携により、強みのあるリソースを相互に活用する仕組みを整えるなど、効率的かつ効果的な教育研究環境を整えていくことが重要である。

≪分科会における主な議論(・課題 ◇提言 ◆具体的取組)≫

原子力

◇近年の急速な技術の進歩に伴い、大学が有する施設に対する要求事項も高度化しているものの、大学の施設の更新が難しくなっている現状がある。学生が可能な限り高度な設備を活用し、高いレベルの学習をするためには、大学のリソースが限られる中で、各大学が特徴のある施設整備を行うとともに、大学間で施設を共同利用することによる効率的な人材育成を目指すことが重要である。また、講義の内容についても、より多くの学生が優れた内容の授業を受けることができるよう、大学間の連携の促進が重要である。

資源

◇資源開発に関する広範な知識・ノウハウを、スピード感をもって提供できるようにするため、カナダや豪州の大学を含め、大学間での連携を図っていくことが有効である。

機械

・教材、設備等の共有、特殊講義の共同開講など大学間連携におけるリソース集約による効率的な教育体制が必要である。

材料

材料教育を実施している各機関における特徴を可視化するデータベースを整備しながら、特色となる特定分野や特徴的な拠点運営方法の調査・解析を行いネットワーク化することにより、個別教育機関では不十分な施設・教員等のリソースをネットワーク間で有機的に活用することを可能とし、「教育プログラム」を効果的に実施するためことを可能とする環境整備が望まれる。

経営・管理

産学の関係者により、例えばハーバードビジネススクールにおけるAMP(Advanced Management Program)のようなミドルレベルの人材を対象とした短期教育プログラムや、最新ケース等の開発を実施する取組を推進すべきである。この産学コンソーシアムは、地域レベル若しくは全国レベルのいずれもあり得るものとし、産学双方の議論によってプログラムを開発すること、明確なコンセプトを掲げていること、企業と大学関係者の連携体制を構築していること、複数の大学関係者間連携の体制を構築していること等を必須要件とする。

(5)初等中等教育等に対する波及方策の検討

 本パートナーシップは、基本的に、産業界と大学界との連携に焦点を当てている。それが、最も直接的な連携が容易であり、量的にも社会的なインパクトが大きい組み合わせであるからである。
 他方、目指す人材を育成するシステムは、社会全体として構築すべきもののであり、二者で完結するものではない。例えば、これまでの議論においても、課題発見力や社会人基礎力等の汎用的な能力は、大学よりも、更に初等中等教育段階での教育が重要であるとの意見などが見られた。このような考え方は、十分に妥当性を持つものである。
 では、初等中等教育との関わりにおいて、本パートナーシップが無力かといえば、そうではない。大学界が、社会の人材ニーズを十分に咀嚼し、育成目標を定め、取組を進めれば、それ以前の教育過程も大きな影響を受ける。本パートナーシップが、これからの社会で求められる人材像やそのための育成の方策を明示することは、強いメッセージとなって伝わるはずである。
 また、より具体的な取組として、大学は、選抜プロセスを活用することが可能である。どのような人材を育て、送り出したいのかは、自然に、どのような素質を持つ人材を受け入れたいのかと直結する。高大連携を進め、より低学年から育成目標を共有したり、入試において、基礎学力の把握に加え、留学経験、インターンシップ経験やその成果などを当人の資質として考慮に含めたりするなど、各大学が明確なメッセージを発信することにより、大学に至る教育への波及方策を検討すべきである。さらには、18歳人口が減少している中、真に大学への入学に値する能力を有する者のみ入学が許されるなどといった、学生の質を確保する方針を持つことも検討されるべきである。

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科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

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