産業界が大学に求める教育とは、「特殊な実践知識」による「即戦力」育成ではない。むしろ、分科会の議論では、大学では専門知識の土台となるような「それぞれの分野における基礎的な知識」を徹底して学ぶ重要性が共通して指摘されている。このような基礎ができていれば、現場で必要となる知識については、個々の企業が自社の技術やノウハウとともに教え込んでいくという考え方に立っている。逆に、この基礎がない専門知識は付け焼き刃であり、それが陳腐化した場合に更新することが難しいことを懸念している。
一方、基礎分野の徹底は、教授や学生のモチベーションという視点で見ると、新たな研究のシーズも少ないなど、難しさを抱えている場合もある。このため、大学では、専門分野の土台となるような基礎知識・専門知識について、なぜこれらが重要なのか、将来どのような役に立つのかといった意義を踏まえ、何について大学、大学院のどの段階で学ぶことが必要なのかといった観点から教育をデザインすることが不可欠であるとともに、その十分な定着を図る教育が必要である。このためには、問題意識ある産業人の協力を仰ぎ、基礎の重要性を直接語ってもらうなどの工夫も有効であろう。
このような点も含め、大学は、常時、産業界との意思疎通によるニーズの正確な把握に努め、その視点を教育に反映していく努力が必要である。
情報処理 |
◇情報カリキュラム標準J07に関して、その活用促進と、非情報処理系学部等への展開の検討、JABEE制度との連携の検討及びスキル標準との繋がりによる学生の能力可視化の推進 |
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原子力 |
◇産業界で実務を行う中では、企業の内外の関係者と円滑なコミュニケーションを取ることが重要であるため、ディベート、プレゼンテーション等についてこれまで以上に知識や経験を積むことが有効である。 |
経営・管理 |
・MBA等の学位を有する人材の採用や活用についても、経営大学院が提供する教育課程やプログラムと産業界のニーズにミスマッチもあり、現状では活用しきれていない。 |
資源 |
・資源系大学においては、資源開発上流部門の学科・専攻等の減少や教員の減少が深刻。健康管理(Health)、安全(Safety)、環境(Environment)、コミュニティリレーション(Community Relation)という、いわゆるHSECについても、以前は随分学科・専攻等があったが、今は講座も教える教員も少ない。 |
材料 |
◇学生に何故この基礎が重要なのか、有用性と醍醐味が十分に伝える事が有効。種々の重要な産業の最先端で貢献する基礎の位置付けが理解できる「教育プログラムの共同開発」が望まれる。 |
機械 |
・機械工学の基礎科目(4力学等)についての十分な理解、学生への学習動機付け等が必要である。 |
化学 |
・基礎学力、課題設定力・解決力、応用力の育成の一層の充実が必要。 |
教育の質の向上のためには、教育内容・カリキュラムの向上と教員の教育力の向上が車の両輪である。現在、大学教育には、専門知識のみならず、その活用による問題解決能力など汎用的な能力の強化や、自ら学ぶ意欲の向上等の新しい育成目標が与えられつつある。
このような中で、教員は、自らの専門分野で常時知識を更新することはもとより、教える技術、更には学生の意欲を高める技術など高度なスキルが求められるようになっている。
このため、教員の能力を向上させることや、学生のキャリアパスに対して教員の意識を高めていくことが今まで以上に重要である。産業界との人材交流も含め、ファカルティ・ディベロップメントの機会の増大、内容の充実のための取組を一層推進することが重要である。特に産業界においては、教員のインターンシップ受入れを始めとした、ファカルティ・ディベロップメントに対する積極的な支援が求められる。
情報処理 |
◇ソフトウェア・エンジニアリングに係る教育や実践的な教育を行える教員の充実を目指し、教員インターンシップ等のFD活動を推進するとともに、企業と大学間の教員の流動化を促進するための取組の拡大、教員の企業への派遣を推進。 |
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経営・管理 |
・経営・管理人材の育成にあたる教員は、「実務経験」や「学位」と「教育能力」をバランスよく有する人材でなければならないが、こうした教員は必ずしも多くないとの指摘があった。 |
資源 |
・各分野の強みを活かした重点化を推進し、自身の強みとしていく大学においては、海外の大学や研究機関等へ若手教員・研究者を派遣するなどし、若手教員・研究者を育成する取組も効果的である。 |
材料 |
・インターンシップの高度化の視点では、現状2週間程度で行っているものに加え、より深みのあるテーマに取り組むべく、企業からテーマ提示を行って3~6ケ月程度の非専任型インターンシップを実施するというものである。これら新たなインターンシップは、必ずしも企業への長期派遣や長期滞在ではなく、大学等の研究室と企業の製造現場で、相互の利点を活かし、双方の現場を活用した課題解決型のトレーニングを実施するものである。このため企業と大学等との往来の関係からも地元密着型になるが、そのことからも地元企業-大学等の具体的連携が強化され、ひいては、それが若年層教育に発展する素地も生み出す。 |
化学 |
◇大学は、教育力の高い人材の活用に努める(例えば、教員採用時における教育力の評価や、教育力の高い教員に対する正当な処遇等)。 |
現在、多くの大学においては、教員の能力や業績が研究論文を中心に評価される傾向が強いため、教員が先端的な技術分野の研究を重視しがちであり、基盤技術分野の研究や社会で必要とされる人材育成に必要な教育が適切に評価されていないのではないかという意見がある。
こうした中で、大学のリソースを望ましい人材育成に有効に振り向けて行くためには、このパートナーシップの議論も活用しつつ、産学で育成目標を共有し、その方向性に向けた教育の実績を適正に評価したり、地味であっても基盤的な研究・教育に対して公平な評価を実施するなど、人材育成の視点からのインセンティブを与える仕組みが求められる。
情報処理 |
◇研究と教育のバランスをとりつつも、教育に取り組む動機付けの不足を解決するため、大学教員が教育活動に専念できるような環境への配慮をする。 |
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原子力 |
・構造強度、材料強度、腐食・物性などの基盤技術分野については、原子力産業界にとって重要であるにもかかわらず、競争的資金を獲得しにくいことから、基盤技術分野の研究者の厚みの低下や大学における知見蓄積の希薄化が進み、産業競争力が失われる懸念が生じている。 |
機械 |
◇産学連携による教育評価・フォローアップ手法を開発および実施する。これにより産学一体となった人材育成Plan-Do-Check-Actionサイクルを確立する。 |
材料 |
◇研究業績評価に当たっては、論文の数、引用数といった客観的、定量的な指標だけでなく、分野ごとの特殊性も考慮し、その質、レベルを総合的な観点から適切に評価するという視点も重要である。総合的な評価を実効あるものにしていくためには、大学評価システムの中に産業界の視点を取り入れていくことも有効である。 |
化学 |
・大学ポストや研究費等について、研究成果に評価のウェイトが置かれる傾向がある。 |
現在、大学は、次のようなリソースの制約に直面している。
このような制約の中で、多くの学生に対し、高いレベルの教育を提供するためには、各大学が特徴のある資源投入を行うとともに、大学間の連携により、強みのあるリソースを相互に活用する仕組みを整えるなど、効率的かつ効果的な教育研究環境を整えていくことが重要である。
原子力 |
◇近年の急速な技術の進歩に伴い、大学が有する施設に対する要求事項も高度化しているものの、大学の施設の更新が難しくなっている現状がある。学生が可能な限り高度な設備を活用し、高いレベルの学習をするためには、大学のリソースが限られる中で、各大学が特徴のある施設整備を行うとともに、大学間で施設を共同利用することによる効率的な人材育成を目指すことが重要である。また、講義の内容についても、より多くの学生が優れた内容の授業を受けることができるよう、大学間の連携の促進が重要である。 |
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資源 |
◇資源開発に関する広範な知識・ノウハウを、スピード感をもって提供できるようにするため、カナダや豪州の大学を含め、大学間での連携を図っていくことが有効である。 |
機械 |
・教材、設備等の共有、特殊講義の共同開講など大学間連携におけるリソース集約による効率的な教育体制が必要である。 |
材料 |
◆材料教育を実施している各機関における特徴を可視化するデータベースを整備しながら、特色となる特定分野や特徴的な拠点運営方法の調査・解析を行いネットワーク化することにより、個別教育機関では不十分な施設・教員等のリソースをネットワーク間で有機的に活用することを可能とし、「教育プログラム」を効果的に実施するためことを可能とする環境整備が望まれる。 |
経営・管理 |
◆産学の関係者により、例えばハーバードビジネススクールにおけるAMP(Advanced Management Program)のようなミドルレベルの人材を対象とした短期教育プログラムや、最新ケース等の開発を実施する取組を推進すべきである。この産学コンソーシアムは、地域レベル若しくは全国レベルのいずれもあり得るものとし、産学双方の議論によってプログラムを開発すること、明確なコンセプトを掲げていること、企業と大学関係者の連携体制を構築していること、複数の大学関係者間連携の体制を構築していること等を必須要件とする。 |
本パートナーシップは、基本的に、産業界と大学界との連携に焦点を当てている。それが、最も直接的な連携が容易であり、量的にも社会的なインパクトが大きい組み合わせであるからである。
他方、目指す人材を育成するシステムは、社会全体として構築すべきもののであり、二者で完結するものではない。例えば、これまでの議論においても、課題発見力や社会人基礎力等の汎用的な能力は、大学よりも、更に初等中等教育段階での教育が重要であるとの意見などが見られた。このような考え方は、十分に妥当性を持つものである。
では、初等中等教育との関わりにおいて、本パートナーシップが無力かといえば、そうではない。大学界が、社会の人材ニーズを十分に咀嚼し、育成目標を定め、取組を進めれば、それ以前の教育過程も大きな影響を受ける。本パートナーシップが、これからの社会で求められる人材像やそのための育成の方策を明示することは、強いメッセージとなって伝わるはずである。
また、より具体的な取組として、大学は、選抜プロセスを活用することが可能である。どのような人材を育て、送り出したいのかは、自然に、どのような素質を持つ人材を受け入れたいのかと直結する。高大連携を進め、より低学年から育成目標を共有したり、入試において、基礎学力の把握に加え、留学経験、インターンシップ経験やその成果などを当人の資質として考慮に含めたりするなど、各大学が明確なメッセージを発信することにより、大学に至る教育への波及方策を検討すべきである。さらには、18歳人口が減少している中、真に大学への入学に値する能力を有する者のみ入学が許されるなどといった、学生の質を確保する方針を持つことも検討されるべきである。
科学技術・学術政策局基盤政策課
-- 登録:平成21年以前 --