人材が競争力を左右する時代になり、我が国産業界も精力的に人材ポートフォリオの視点から役割ごとの人材像を明確化し、育成していこうという努力を進めている。しかしながら、変化する経営環境の中で、将来も含めた人材ニーズについて明確化できていない場合も多い。
また、産学連携の視点から見ると、産業界が教育界、特に大学に対して何を期待するのかという点についても、考え方の幅は広い。この状況を放置すれば、社会で求められる人材を育成する一貫性あるシステムの構築は困難になる。
産業界は、知見を結集して、自らの人材育成ニーズを明確にし、大学界に発信することが求められる。その上で、大学界とも議論しつつ、大学卒業時までに身につけて欲しい能力や、学び直しの際に身につけて欲しい能力など、段階ごとに議論を整理していく作業が必要となる。
経営・管理 |
・MBA等の学位を有する人材の採用や活用についても、経営大学院が提供する教育課程やプログラムと産業界のニーズにミスマッチもあり、現状では活用しきれていない。 |
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材料 |
◇基礎教育の強化の視点からは、特に基礎強化の要望が強い学部生を主体とした工学と材料科学の基礎教育部門の強化が重要である。学部生の修了認定の厳格化を要望する声があるが、それに加え、課題認識として、学生に何故この基礎が重要なのか、有用性と醍醐味が十分伝わっていないという事を改善するという両面作戦が有効と思量される。そのためには、種々の重要な産業の最先端で貢献する基礎の位置付けが理解できる教育プログラム開発が重要であり、産学協同による教育プログラム作りや教材づくりが望まれる。 |
化学 |
◇産業界は、企業ニーズも高く、基幹的学問分野であるが、研究内容の変化等により縮小傾向にある分野、または講座維持が困難となっている分野に対して、要望・情報を大学に発信するとともに、必要な人的・資金的な支援を検討する。 |
国内外を問わず優秀な人材の獲得競争が激化する流れの中で、企業は優秀な人材を惹き付ける取組が不可欠になっている。より具体的に言えば、人材の能力を適正に評価し、その能力を最大限に伸ばし、発揮させる企業の制度と文化であろう。産学連携においては、それが大学側、学生側の学ぶ意欲の最大のインセンティブにつながるという点で極めて重要である。
分科会では、人材に対するキャリアパスの明確化や、学生が大学や大学院で学んだことに対する公正な評価を行い、処遇やキャリアパスに反映させること等が指摘されている。これらは、従来、我が国の雇用慣行の元では、明示的に行われてこなかったがものであるが、高度外国人材や留学生を含めた多様な人材確保のためには、必須であり、積極的な取組が必要である。
情報処理 |
・近視眼的な評価を避け、長期的視野に立ってトップレベルの人材を正当に評価し、優秀な人材がその能力を存分に発揮できるようにするための人事処遇制度や余裕のある企業文化の形成。 |
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資源 |
◇各企業における学生の採用活動にあたっては、海外における処遇の状況なども踏まえた、給与水準の向上や、海外インターンシップを経験した学生に対する配慮などの取組が重要である。 |
化学 |
◇産業界は、学会等と協力して、博士課程学生向けのセミナーや、産と学の交流会を開催し、化学産業の魅力や入社後のキャリアパス等を説明する。 |
電気・電子 |
◇個人の成果を明確にし、そのような人材に対する企業内の評価を高めることが重要であると考えられる。とりわけ、平均的な処遇の改善だけでなく、特に際だった成果を挙げた者への高い報酬のように、夢を持てる仕組みも検討課題である。 |
企業の採用におけるいわゆる青田買いや就職活動の長期化が、学生の研究学習環境を悪化させ、学習意欲の継続を阻害していることは、特に大学関係者から強く懸念の表明がなされている。こうした問題を踏まえ、産業界ではこれまでも日本経団連が「新規学卒者等の採用選考に関する企業の倫理憲章」を制定し、学部学生にとどまらず修士課程修了者への適用範囲を拡大する等の対応を行ってきた。しかしながら、最近の景気動向もあり、企業の採用活動が激化する中で、就職活動の早期化が懸念される状況にある。
こうした行動が、大学側の産業界に対する不信感を増幅している。産業界として、倫理憲章の定期的なフォローアップなど、当面必要な対応を強力に進めることが重要である。
また、より本質的には、大学と協力した適切なキャリア・ガイダンスの実施等により、真に学生が自らの適性を知り、焦点を絞った就職活動ができるような就職プロセスの改善を進めていくことが必要である。さらに、通年採用の一般化等を通じ、選考形態・手法の多様化を定着させていくことも重要である。
情報処理 |
◇企業奨学金の提供や就職時の選考過程の短縮等の環境整備と、採用決定後卒業前の学生の学習意欲の維持・向上のための方策の検討。 |
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化学 |
◇企業は、修士学生の学習環境を阻害しないように、また、大学院の成績評価が就職に反映されるよう、修士学生の成績評価が出る前の採用活動を控える(大学院生の採用選考に関する企業倫理憲章の遵守)。 |
企業が加速する市場変化のスピードに対応するためには、従前の企業内研修やOJT中心の人材育成では限界がある。人材に対して戦略的・効果的にOff-JTを行い、外部から積極的に新たな知を取り入れることが重要になる。特に、産学連携という視点からは、学び直しのため人材を大学・大学院に派遣したり、教員を招聘して企業内研修を充実させたりする等、「知」の拠点としての大学を幅広く活用することが有効である。
しかしながら、日本企業は戦略的な人材育成・活用方策が必ずしも確立されておらず、OJTとOff-JTが一貫していない。このため、大学院等で学び直した人材を効果的に活用できていない等のミスマッチが生じている。
こうした課題を解決するため、産業界は、Off-JTで育成すべき内容を明確にし、戦略的な人材育成・活用方策を確立することが求められる。
原子力 |
・産業界において技術者の能力の向上を図るためには、実務経験を通じた人材育成(OJT)や、現場実習や社内技術教育(Off-JT)を通じて実践的能力を磨くことが必要。 |
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経営・管理 |
・MBA等の学位を有する人材の採用や活用についても、経営大学院が提供する教育課程やプログラムと産業界のニーズにミスマッチもあり、現状では活用しきれていない。 |
資源 |
・キャリアパスに基づくOJTのみでは、体系的にスキルを身につけることが難しいため、大学・大学院における体系的な教育、実践的な教育に対する期待が高まっている。 |
材料 |
・大学等での教育者数確保へ向けた方策として、社会人ドクター制度がある。本制度は、企業側では本人のモラルアップ、実力アップを期待しており、大学等側では、社会人ドクター受入による講座・研究室所属の活性化が期待されることなどから、学生・大学院生の教育に有益であるとしている。 |
産業界は、大学教育の質的向上のため、学生のインターンシップの受入れ等によって積極的に協力を行うことが求められる。その際、インターンシップの在り方については改めて見直す必要がある。そもそも、学生にとってインターンシップは単なる社会見学にとどまらず、それを通じて自らが学ぶ意義を見出せるような経験であることが望ましい。そのためには、学生を受け入れる側の企業が、学生に様々な課題を課して厳密に達成度合いを図りフィードバックをする等、質を高める工夫が必要である。しかしながら、インターンシップの在るべき姿について産学の共通認識が醸成されておらず、単に実施することが目的化している場合もある。このため、既存の先進事例を分析すること等により、今後インターンシップを更に促進するための取組が求められる。
また、産業界は学生にものづくりの面白さや実務で必要な力を認識してもらうために、自ら企業出張講座等を積極的に実施することが重要である。
機械 |
◇インターンシップなどの経験型・体験型学習と従来の座学講義を効果的に連動させ、基礎知識の効果的な学習システムを整備する。 |
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材料 |
・インターンシップの高度化の視点では、現状2週間程度で行っているものに加え、より深みのあるテーマに取り組むべく、企業からテーマ提示を行って3~6ケ月程度の非専任型インターンシップを実施するというものである。これら新たなインターンシップは、必ずしも企業への長期派遣や長期滞在ではなく、大学等の研究室と企業の製造現場で、相互の利点を活かし、双方の現場を活用した課題解決型のトレーニングを実施するものである。このため企業と大学等との往来の関係からも地元密着型になるが、そのことからも地元企業-大学等の具体的連携が強化され、ひいては、それが若年層教育に発展する素地も生み出す。 |
化学 |
◇産業界は、企業出張講座、学生向けセミナー、インターンシップ、生産現場見学ツアー等を効果的に実施するため、どのように総合的・体系的に実施していくべきかグランドデザインを検討する。 |
電気・電子 |
◆従来の就業体験として位置づけられた短期間のインターンシップだけでなく、その発展形としての長期実践型インターンシップの普及を図る。企業と大学双方においてインターンシップ中の学生の環境設定を考慮し、長期インターンシップを大学のカリキュラムに組み込む等の方策を検討。 |
科学技術・学術政策局基盤政策課
-- 登録:平成21年以前 --