2-1.主に産学双方に係る課題と今後の取組

(1)大学界における人材育成と産業界における人材育成・活躍との効果的な接続

 産業界を中心に、大学から輩出される人材が必ずしも社会で活躍する前提となる十分な能力を備えていないとの意見がある一方、大学側からは、企業がそれぞれの人材の能力を適切に評価し、適切なキャリアパスを提供するなど、能力を有効に活用しきれていないのではないかという見方がある。
 人材の能力を最大限に伸ばし、それが社会において適切に評価・活用されるという一貫した人材育成が可能な社会システム構築のためには、第一に、大学が社会の変化やニーズを踏まえながら不断に教育内容等を見直し、学生にとって学ぶ動機付けを十分に組み込んだ実践的な教育を行い、社会で効果的に能力を発揮できる人材を育成するとともに、企業がその教育を評価し、大学での努力が企業での評価にもつながるような関係づくりが必要である。それにより、学生も将来の活躍に向けて意欲的に大学での学習に取り組むこととなる。
 また、第二に、「はじめに」で述べたとおり、個人は大きな社会変化の中で、今後、ますます生涯学び続けることが重要となる。産業界での実践を通じた学習のみでは修得が困難な体系的だった知識・スキルや最新の技術動向などを、社会人が大学で学び直すことができる仕組みの構築も重要である。

≪分科会における主な議論(・課題 ◇提言 ◆具体的取組)≫

情報処理

・教育界では、情報教育に関する体系的なカリキュラムの整備が不十分であるとともに、企業におけるプロジェクトを経験した教員が少ないため、実践的な教育の実施が不十分。
・産業界では、若い世代に対する情報サービス産業の魅力、キャリア・パスなどの提示が不十分
◇構築されつつあるJ07(情報専門学科向けの知識体系を整理したカリキュラム標準で、情報処理学会により検討が進められている。)について、重複部分の共通化や知識項目の優先順位等の整理を行い、情報処理系学部等における活用を促進するとともに、非情報処理系学部等における活用も視野に入れて展開。
◇ITが実現できる価値や可能性、社会的意義、やりがいのある仕事であること等の学生、子供達への提示
カリキュラム標準J07や共通キャリア・スキルフレームワーク、情報処理技術者試験等を活用した学生の能力の可視化の推進。
学生へのキャリア開発計画(CDP)の提示や、専門家として企業の壁を越えたコミュニティー活動を推進し、それを評価する文化の形成とこうした活動を先導する人材の育成

化学

・企業から見ると、博士課程修了人材の付加価値(専門能力と幅広い知識、本質を見極めてのゼロからの課題設定力・解決力)が明確でない。
・博士課程修了後に多様なキャリアパスが十分確保(開拓)されていない。
◇大学による、博士課程修了者の産業界から見た付加価値がより高まる教育プログラムを開発・活用する。
◇大学は、博士課程の学位授与の審査基準(幅広い知識を含む)を明確化し、客観的な審査を行うため、産業界、他研究科や他大学の教員等の第三者を学位審査の審査員またはオブザーバーに入れる。
◇産業界は、博士課程修了者の能力を的確に評価し、適材適所や優遇(例えば、入社後一定期間は博士課程修了人材に相応しい処遇(給与等)や、博士課程修了者で優秀であれば研究リーダーに早く昇進できる等)を行う。

(2)産学共同による人材育成プログラム等の開発

 学生が大学を卒業した後には、そのまま大学に籍を置く者もいるが、多くの者は産業界へと進んでいくこととなる。こうした前提を踏まえれば、大学で産業界の知見を活用した人材育成・教育プログラムを開発し、多くの学生が利用できるようになることには、次のようなメリットがある。

  1. 大学での学習内容が社会でどのように活用できるのかを知る機会となる。
  2. 学生・教員が最新の産業動向を知ることができる。
  3. 企業にとっては、学生に身につけて欲しいと思う知識を伝えることができる。
  4. 当該産業・企業の動向に対する学生の理解を深めることができる。

 また、こうした共同作業は、大学と産業との継続的なコミュニケーションの突破口としても有効に機能すると考えられる。人材育成・教育プログラムの開発に当たっては、そのリソースの多くが産業界にあること、さらに、人材育成が産業界の競争力そのものに結びつく重要な要素であることを踏まえ、例えば、大学関係者によって組織する教育プログラム開発等の委員会に企業関係者が積極的に参画するなど、産業界自身も主体的な役割を果たすことが必要である。このような問題意識から、各分科会においても多様な産学共同のプログラム開発が提案されているところであるが、その具体化を早急に進めていくことが重要である。

≪分科会における主な議論(・課題 ◇提言 ◆具体的取組)≫

原子力

原子炉物理学等の特定の分野に教育研究を重点化させる取組や、地域との連携による教育研究の活性化など、地域や大学等の特色を発揮し、原子力分野に係る体系的な知識を有し、中核的に活躍しうる人材を養成する取組みを支援。
大学、大学院、高専において、産業界等の外部の人材育成ニーズやポテンシャルも取り込みつつ、専攻や講座等の新設、既存専攻のカリキュラムの充実、学生同士の協力を促進する授業の充実を図る取組を支援。

資源

・資源系大学においては、資源開発上流部門の講座の減少や教員の減少が深刻。健康管理(Health)、安全(Safety)、環境(Environment)、コミュニティリレーション(Community Relation)という、いわゆるHSECについても、以前は随分講座があったが、今は、講座も、教える教員も少ない。
資源開発に関する広範な知識・ノウハウを、フルセットで提供できるようにするため、必要なプログラム開発やケース教材の開発を行う。

機械

・機械工学の基礎科目(4力学等)についての十分な理解、学生への学習動機付け等が必要である。
・プロジェクト(エンジニアリング)マネジメント及びヒューマンスキルの不足に対応するため教育手法の確立、教育ノウハウの普及等が必要である。
◇学習・履修指導の強化、経験型・体験型学習と従来の座学講義の連動。
◇プロジェクト型学習(PBL)等の教育手法の開発。
国内外の先進事例を調査し、産業界に求められる人材を育成するための新たなプログラム開発を進める。

(3)グローバルな視点による人材育成

 経済社会の国境の垣根がますます低くなる中、産業界でも、社会的にもグローバルな視点を身につけた人材が求められていることは産学共通の認識であることが確認された。今後、大学、産業界が協力して国際感覚ある人材を育成していくことが我が国全体の重要な課題である。このため、大学が国際的に見ても魅力的な研究や教育を行っていくことが重要となる。また、留学生の増大や外国人教師の拡充などの大学の国際化、企業における外国人の登用など人材マネジメントの国際化がそれぞれに求められている。
 これに加えて、分科会での検討においても、産学協力によるグローバル人材育成という視点から、海外インターンシップ等の提案が出されている。これは、産業の現場の国際化を目の当たりにすることにより、学生自身の気づきに極めて大きなインパクトが期待されるものである。
 こうした工夫を積み重ね、学生の意識の喚起、教育現場の国際化、国際感覚ある人材に対するキャリアパスの整備等を平行して進めることが、これからの我が国を支える国際感覚ある人材の育成に不可欠である。

≪分科会における主な議論(・課題 ◇提言 ◆具体的取組)≫

原子力

◇原子力産業が急速にグローバル化していることから、大学の授業の一環として、海外で長期間の経験を積むことができるプログラムの充実を図ることが望ましい。
大学、大学院、高専の学生が実習を通じて自薦的な技術を習得するとともに、原子力産業や研究現場の実態と魅力を知る機会の充実を図るため、大学などの教育研究炉を活用した実践的な実習教育や、研究機関、学会、海外機関のプログラム等を活用したインターンシップ等への旅費を含めた参加費への支援。

資源

・海外現場の増加や探鉱開発地域の条件悪化が進む中、資源メジャーとの戦略的提携や先進技術による操業など、資源開発人材に求められるスキルの多様化、専門化が進行している。
◇各大学においては実践的なインターンシップが行われるよう、引き続き民間企業や独立行政法人等から、海外渡航に係る資金面の援助や、各企業が権益を保有する海外鉱山・国内現場等へのインターンシップの受入交渉などの協力を得ていくことが重要である。
◇各分野の強みを活かした重点化を推進し、自身の強みとしていく大学においては、海外の大学や研究機関等へ若手教員・研究者を派遣するなどし、若手教員・研究者を育成する取組も効果的である。
産学の連携により、海外資源開発現場等でのインターンシッププログラムの開発・実証を行う。

(4)産学双方向の人材交流

 もとより、人材育成においても、産業と大学の機能や目的は異なるものである。それを前提としつつ、社会全体として一貫性のある人材育成の仕組みを形成するためには、双方向の理解が不可欠である。人材交流は、その重要な手段である。
 専門教育に携わる大学の教員が、その知識活用の実務を知ることは、教育の説得力を増し、学生の動機付けをする上で非常に有効な経験である。また、大学間競争が激化し、マネジメントの在り方を問われる時代にあって、教員が企業で経験を積むことは、大学では必ずしも十分に学ぶことが出来ないマネジメントのノウハウを学ぶことができる貴重な機会であると考えられる。ひるがえって、受入先の企業においても、自らの業務を再整理し見つめ直す恰好の機会となると考えられる。
 しかしながら、現時点では、大学教授等が企業で実務経験をする例は少ない。大学のサバティカル制度の活用法としては、圧倒的に海外の研究機関に行く方が多い。これは、企業での経験が必ずしも業績とならず、キャリアアップにつながりづらいことが一因と言われている。このため、大学教員が企業に行くことによるキャリアアッププランを明確にするなど適切なインセンティブの付与の在り方や、若手の教員が企業と交流しやすいシステムが検討されることが望まれる。
 一方、近年、企業経験者が大学で教鞭をとる例が増加している。これは、望ましい傾向であるが、一部では、アカデミックな研究者としての訓練が必ずしも十分ではないため、実務の経験が次第に陳腐化して、効果的な講義を継続できない例も多いという意見もある。このような人材交流の効果を引き上げていくためには、再訓練の仕組みや、教師としての経験と産業界の実務を繰り返すなどの工夫が併せて求められる。

≪分科会における主な議論(・課題 ◇提言 ◆具体的取組)≫

情報処理

・教育界においては、実践的な教育の時間の確保やそれを教える教員の不足、(中略)などの様々な課題が指摘。
◇ソフトウェア・エンジニアリングに係る教育や実践的な教育を行える教員の充実を目指し、教員インターンシップ等のFD活動を推進するとともに、企業と大学間の教員の流動化を促進するための取組の拡大、教員の企業への派遣を推進。

機械

・専門科目(加工、鋳造等)についての知識向上を図るため、担当教員数・科目数の減少への対応や、ものづくりの現場に触れる機会の拡大が必要である。
◇産学の人材交流に関する環境整備。大学教員の学外(企業)経験の促進、企業人の学内受け皿づくり。
◇若手教員や博士課程学生等を企業に受け入れ、企業現場ノウハウを大学に移転。
数百人規模の学生を招いた学生セミナー等の実施により、学生と企業技術者とのフランクな交流の場を拡大すると同時に、企業技術者の教育現場への派遣など産学協働による教育推進体制のモデルとなる仕組みを試行する。

(5)各分野における魅力の向上と魅力の発信

 分科会では、少子高齢化の流れの中で、各分野にそもそも若者が集まらないということも大きな問題意識の一つである。一般的に若者の理工系離れが進む中、特にもの作り系の分野は産学ともに深刻な懸念を持っている。理工系人材は、環境を始めとした様々な社会的問題を技術で解決していく挑戦のフロンティアに立つ人材との観点から、この問題の重大性を考える必要がある。
 各分科会では、従来、産学が一致して当該分野の魅力を発信するような取組がなかったため、学生等にその分野の魅力が伝わっていないことを指摘している。
 この問題の本質的な解決のためには、大学においては、当該分野の可能性・将来性を実感しながら教育・研究できるような環境の整備、企業においては、当該分野の専門家に対する魅力的な仕事の機会の提供やキャリアパスの整備といった、やりがいを感じる環境の整備を進めることが必要である。その上で、産学が協力して若者にアピールしていけば、当該分野として相当な求心力を持つであろう。産学人材育成パートナーシップは、このような面でも適切な取組の場となり得るものである。

≪分科会における主な議論(・課題 ◇提言 ◆具体的取組)≫

情報処理

・ITを通じて実現できることが、厳しい就労環境に勝る社会的意義や充実感があること、安心してやりがいのある仕事に取り組めることを学生に熱意を持って提示。
◇『どう育てるか』ではなく『人材が自ら育つような環境をどう作るのか』という発想の転換が重要。

原子力

大学、大学院、高専の学生が実習を通じて実践的な技術を習得するとともに、原子力産業や研究現場の実態と魅力を知る機会の充実を図るため、大学などの教育研究炉を活用した実践的な実習教育や、研究機関、学会、海外機関のプログラム等を活用したインターンシップ等への旅費を含めた参加費への支援。

資源

・資源開発について、現場が危険で厳しい、給料が安い、資源枯渇論もあり長続きしない、といった悪いイメージを払拭させ、資源開発の面白さや重要性等を学生に対して伝えることが重要である。
◇現状の国際資源開発の魅力を幅広い対象に分かりやすく伝えるため、産学が連携した1.年に1~2回程度の国際資源開発及び資源開発教育に関するイベントの開催、2.分かりやすいパンフレットの作成、配付、3.資源開発の第一線で活躍する技術者を招聘した「特別講義」の各大学での開催、4.国際資源開発現場に携わる人材の業務内容、イメージ等をダイレクトに伝えるためのウェブ上のプラットフォームの整備等が必要である。

機械

◇学生にとって魅力的な業界となるよう業務環境を整備するとともに、企業内キャリアパスや技術者等の業務内容について大学向けに情報発信を行う。併せて学生と企業技術者等の接点を大幅に拡大する。これにより業界の面白さや将来性に関するイメージを大学生に浸透させる。
産学の関係者により、人材育成を行う上での環境整備、業界の魅力・実態に関する情報発信等を推進していく。

材料

◇若者への材料分野に係るものづくりの面白さ伝達を目的としてPRビデオ等の作成を行い、材料分野の魅力を伝達する資料を作成し、普及啓蒙を実施していくことが重要である。

電気・電子

・IT・エレクトロニクスに関する技術が日常生活に浸透し、一般化する中、IT・エレクトロニクス分野の“先進性”や“夢”“凄さ”などが見えにくくなっていることが危惧される。優秀な人材を惹きつけるためには、この分野の“先進性”や“夢”、地球環境及び社会への貢献の大きさ等を、産学が協力して、世間(特に学生)に分かりやすく伝える取り組みが必要である。
◇大学・大学院においては、産学協同による先端的な研究の実施や、第一線で活躍する企業技術者との交流の機会の設置、長期インターンシップの奨励などによって、学生が、IT・エレクトロニクス分野の魅力に触れる機会を増やすことが重要である。
トップエンジニアの社会的注目度の向上のため、企業におけるスター的な存在として、優秀な研究者・技術者・高度技能者に光を当て、社会的な注目度を高めることにより、学生、父兄がIT・エレクトロニクス業界への職業選択に「憧れ」を持てるイメージを訴求する。加えて、産業界においては、そのような人材に対する企業内の評価や、技術者の処遇の向上を考慮する。
理工系大学生の気概を醸成する授業等を実施するため、「JEITA講座」のような企業から第一線の研究者・技術者を派遣して授業を行う取組を積極展開するとともに、企業と連携した授業を定常的な教育プログラムとして希望する大学に情報提供することを検討する。また、他のプログラムとのコラボレーションも検討する。
実際の製品(カットモデル、分解モデル等)を用いて、「ものづくり」の魅力を体感させる産学協同シンポジウム、講演等の実施を検討。

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科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

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