産学人材育成パートナーシップ中間取りまとめ はじめに

 我が国の産業社会は、今、急激な変化の最中にある。その要因を凝縮すれば、経済連携の進展や技術進歩等により国家間の市場の壁が低減し経済のグローバル化が急速に進展していること、2004年をピークとして人口が減少へと転じるとともに急速に人口構成が高齢化しつつあることが挙げられる。
 産業や社会を支える「人材」という視点で見た場合、この変化は、次のような人材の需給両面にわたる問題をもたらしている。すなわち、一方で、人材の需要側から見れば、経済のグローバル化に伴う欧米やアジア等との厳しい産業競争、急速な技術進歩などにより、我が国の産業を支える人材には、より深い専門知識、その迅速な応用能力、国籍や文化など多様な人々の中で力を発揮するための国際感覚等、日々求められる能力は高度化している。他方、人材の供給側からみれば、若年人口の減少により、基幹的な労働力供給の量的減少が避けられないのはもとより、社会で求められる能力と若者が身につける能力との間での質的なミスマッチが指摘されているのである。
 このように、人材が稀少化する中、全ての人が社会で求められる能力を獲得し、国際化する経済社会で活躍するとともに、それを通じて自らの手で幸福な人生を作り上げていく道筋をつけていくことが、今後の日本社会としての大きな課題となっている。
 人材の育成・活用を進める上で、教育界と産業界の協力が鍵であることは、論を待たない。我が国の教育と産業との関係は、時代により変化してきた。高度成長時代、日本の教育は、優れた識字率、計算能力などの基礎的能力を幅広く身につけた若者を大量に育成した。また、大学は、優秀な人材を選抜し、教育し、社会に送り出した。産業界は、長期雇用を前提に、時間をかけてこれらの人材を育成し、活躍の機会を与えてきた。しかしながら、この順調な発展の過程で、教育界と産業界の相互の関心が薄れ、コミュニケーションの希薄化が進展したことも否定できない。大学と産業との関係を図式的に見れば、産業界は、「自分で人を育てる。」という自負のもと、大学教育等に対して実践的な高度知識の育成を要請せず、どちらかといえば、大学の選抜機能に期待した。大学側は、それぞれの分野の「研究」を深めることが大学自身の成長であるという意識の元、社会的なニーズに基づく学生教育という視点が弱くなりがちとなった。
 こうした状況の中で、前述の大きな社会変化を迎えている。目まぐるしく変化する市場の中で、今、人材の質が企業の国際競争力を決める最大の要素となった。企業を支える人材が、最新の知識を理解し応用することができるかどうかは、事業の成否に直結する。その知識には、企業内の育成で十分に身につけることが困難な体系的学習を必要とするものも多く含まれる。一方で、個々人の職業人生は、企業に依存する度合いを弱め、自ら学び、成長し、道を開いていくことが求められる時代となった。今こそ、教育界と産業界が協力して、一人一人の能力を最大限に伸ばし、発揮していく仕組みを作りあげることが求められている。
 このような産学連携においては、大学の役割は極めて大きい。大学は、産業や技術の専門化が進む中、高度な知識の習得を通じて社会に有為な人材を送り出す拠点である。また、若者の大学進学率は着実に上昇し、今や、量的にも人材の最大の供給源となっている。
 これまでも、人材育成について企業と大学による産学連携や国による支援等は行われてきた。地域産業界と大学とが協力し、産業直結の実践教育を行う大学院を作った例もあり、その成果は小さくはない。しかし、現在更に求められているのは、このような点と点の協働から更に進めて、大学界と産業界が面と面の広がりを持つ持続的な協力関係を構築していくことである。
 より具体的に言えば、産業界と教育界が、将来に向けて育成することが必要な人材像を共有し、それぞれの立場で人材育成や能力発揮に向けた取組を強化するとともに、より直接的に連携した取組を実施していく関係づくりである。こうして、社会全体として一貫性のある人材育成・能力発揮の仕組みを構築していくことが、すなわち、我が国が持続的で力強い成長を実現し、一人一人が豊かで充実した生活を享受することのできる社会を実現することにつながっていく。
 こうした認識の下、産業界と教育界が人材育成における横断的課題や業種・分野的課題等について幅広く対話を行い、具体的行動につなげる場として、平成19年10月に「産学人材育成パートナーシップ」を創設した(注)。ここでは、全体会議の下に8つの分科会(情報処理、原子力、経営・管理、資源、機械、材料、化学、電気・電子の8分野)を位置付けた上で(後に「バイオ分科会」を加え9つとなる。)、

  • それぞれの業種・分野を取り巻く環境変化を踏まえ、社会ではどのような活躍の場が想定され、そのためにどのような人材が必要とされるか、
  • 必要とされる人材の育成に向けて取り組むべき課題は何か、
  • 産学が協力し、又は、役割分担を行いつつ具体的に取り組むべき行動は何か、

といった点を中心に議論を行った。
 この「中間取りまとめ」は、平成20年3月に行われた第2回全体会議における各分科会からの議論の報告を基に、全体会議としてこれまでの議論の成果をまとめたものである。

(注)産学人材育成パートナーシップの重要性は、政府の提言等においても位置づけられている。
○「社会総がかりで教育再生を -第三次報告-」(平成19年12月15日教育再生会議)
 大学・大学院の抜本的な改革 -世界トップレベルの大学・大学院を作る-
 (1)大学・大学院教育の充実と、成績評価の厳格化により、卒業者の質を担保する。

  • 人材育成に関する大学と産業界の連携・協力等のための会議(「産学人材育成パートナーシップ」)の活用や学術関係団体との連携等により、大学は、社会の要請にあった質の高い卒業生を送り出す。

○基本方針2007(平成19年6月19日閣議決定)第2章 3(4)4 産学官連携の推進
次世代環境航空機等の戦略的分野の研究開発プロジェクト、産学双方向の対話(「産学人材育成パートナーシップ」)等を推進する。 等

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