資料1 若手博士研究員の多様なキャリア開発支援に関する審議経過案(審議用のたたき台)

1.基本的な考え方

 これまでの審議、人材委員会報告及び第4期科学技術基本計画を踏まえ、基本的な考え方として、以下のような内容を盛り込むことが考えられるのではないか。

  •  若手の博士研究員は、大学・公的研究機関の研究主宰者(PI)や産業界における研究職等を目指して、多様な研究に自ら従事して研究能力を高めるいわば修行の段階にある者といえる。研究の現場は、博士研究員より支えられているのが実態であり、我が国の科学技術・学術の発展を支える原動力になっている。
  •  また、我が国は、少子高齢化と人口減少、国際競争力の低下など様々な問題を抱えている。世界と競い合う時代にあって、将来にわたって成長を続けるためには、高度な専門性に裏付けられた優れた資質や能力を有する博士研究員が、産学官を問わず社会のあらゆる場で活躍できるシステムを構築することが急務である。
  •  博士研究員の側からみると、(1)企業へのキャリアパスが十分に開かれていないこと、(2)大学や独法研究機関の若手ポスト数は限られるだけではなく、近年は人件費削減等の影響により減少傾向にあるため、将来のキャリアパスの展望が描きにくくなっているとの指摘がある。
     分野別にみると、博士研究員はライフサイエンス系が4割を占めており、理学系や農学系の分野において、不安定な任期付研究員ポストを繰り返す傾向にある。
  •  この状況は様々な要因が考えられるため、博士研究員個人の責任にのみ帰することは適切ではない。また、人口減少の中、博士研究員の優秀な能力を、我が国の社会経済の発展に広く活かすことが重要である。
     科学技術政策研究所の意識調査によれば、望ましい能力を持つ人材が博士課程を目指しているとの回答が減少傾向にある。優秀な人材が希望を抱いて研究の道に飛び込むことができるようにするためには、博士研究員終了後の多様なキャリアパスの展望が描くことができるようにする取組を強化する必要がある。
     このため、政府、大学・公的研究機関又は研究主宰者(PI)は、社会的な責務として、若手の博士研究員が多様なキャリアパスを確立できるよう、早急に手を打たねばならない
  •  人材委員会は、博士研究員のキャリアパスの多様化を機関として支援するよう提言を行ってきた。これを受け、文部科学省では、平成18年度から支援事業(*)を展開し、実施機関では様々な取組が進められ、実績をあげている。
    (*平成18~19年度:科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業、平成20~22年度:イノベーション創出若手研究人材養成、平成23年度~:ポストドクター・インターンシップ推進事業)
     また、人材委員会は第4次報告(平成21年「知識基盤社会を牽引する人材の育成と活躍の促進に向けて」)において、競争的資金により雇用される博士研究員が約半数を占めている現状を踏まえ、競争的資金の評価項目に人材育成の実績を盛り込むこと、職務専念義務の考え方を見直すこと、ガイドラインを策定することを提言した。
  •  そもそも、政府の研究開発投資は、研究成果のみならず、我が国の未来を担う若手の博士研究員を育成するという重要な意義や、人材育成を通じて研究成果を社会へ還元するという意義を有している。
     したがって、政府の研究開発投資は、優秀な若者が希望を持って積極的に科学技術の道を選択する好循環をもたらすように運用することが求められる。
  •  第4期科学技術基本計画(平成23年閣議決定)においても、「国、大学、公的研究機関及び産業界は、互いに協力して、ポストドクターの適性や希望、専門分野に応じて、企業等における長期インターンシップの機会の充実を図るなど、キャリア開発の支援を一層推進する」ことや、研究開発課題の評価において、「研究開発活動に加えて、人材養成を評価基準や評価項目として設定することを進める」ことが明記されている。(参考資料2)
  •  本報告は、これまでの審議を踏まえ、大学・公的研究機関の研究者以外の多様なキャリアパスを確立することを目的として、機関が組織的な支援を行うことを促すとともに、教授や研究リーダー等の研究主宰者(PI)、博士研究員自身の行動を促す仕組みが導入されることを期待するものである。
     特に、文部科学省が所管する研究開発投資の各事業において、後述する事項を審査や評価の観点として、事業の目的や特性に応じて順次反映させていくことを求めたい。

2.若手博士研究員の多様なキャリア開発支援に関する基本的な取組方針(たたき台)

 これまでの審議やヒアリングを踏まえ、基本的な取組方針として、以下のような内容を盛り込むことが考えられるのではないか。

1.定義

  •  本方針において「博士研究員」とは、大学や企業等において安定的な職に就くまでの任期付の研究職にある博士号取得者(博士課程に標準修業年限以上在学し、所定の単位を修得の上退学した者(いわゆる満期退学者)を含む。)又は特任助教であって、研究主宰者(PI)ではない者をいう。
     若手の博士研究員は、大学・公的研究機関の研究主宰者(PI)や産業界における研究職等を目指して、多様な研究に自ら従事し、研究能力を高めるいわば修行の段階にある者といえる。
    <注>本方針では、以下の考え方に基づき、「ポストドクター」という用語は使用しない。
    ・「ポストドクター」は和製英語であり、国際的な共通定義は存在しないこと。
    ・「ポストドクター」という言葉は誤ったイメージ(例:博士課程修了後直ちに就職できなかった者等)でとらえられているとの指摘があること。
  •  本方針において「公的研究機関」とは、研究活動を行っている大学、大学共同利用機関、独立行政法人、国及び地方公共団体の直轄研究機関等をいう。
  •  本方針において「研究主宰者(PI)」とは、公的研究機関において、主体的に研究課題を設定して研究室や研究チームを主宰する者をいう。例えば、大学においては教授、准教授、講師、国の独法研究機関においては研究リーダー等をいう。

2.公的研究機関や研究主宰者(PI)に期待される取組

(1)公的研究機関に期待される取組

 公的研究機関は、博士研究員について、企業等への多様なキャリアパスの確保を組織として支援するため、各機関の状況に応じて、以下の取組を進めることが期待される。

 1)博士研究員の現状や就職状況を把握し、公表する。

 2)機関の長が、博士研究員の多様なキャリア開発支援に取り組む方針を明らかにする。

 3)博士研究員の多様なキャリア開発を支援するため、例えば、以下のような取組を推進し、博士研究員へ周知する。

 <取組の例>
 (ア) キャリア開発支援に関する専門的知識や企業勤務経験、産業界や地域との人的ネットワークを有する専門的な職員・教員を配置して、企業等への多様な就職口の開拓を行う。専門部署を設置することも考えられる。
 (イ) 企業と協働して、博士研究員向けの講義・セミナー、長期インターンシップ等の機会を提供する。
 (ウ) 企業と博士研究員との交流会等によるマッチング、カウンセリングの実施や、例えばOBや共同研究先など、企業の情報・人脈を提供する仕組みを構築する。
 (エ) 研究主宰者(PI)に対し、研究倫理教育と同様に、多様なキャリア開発支援の必要性の理解を深めるための講習を実施する。

 4)研究主宰者(PI)に対して、博士研究員の多様なキャリア開発の支援を行うよう促すとともに、研究主宰者(PI)の評価や採用選考において評価されるよう配慮する。

(2)研究主宰者(PI)に期待される取組

 研究主宰者(PI)は、博士研究員が企業等への多様なキャリアパスを確保できるよう、以下の取組を進めることが期待される。

 1)博士研究員の就職状況を、機関と協力して把握する。

 2)博士研究員の任期終了後の多様なキャリアパスを確保するために、例えば、機関が行う上記(1)3)に掲げるキャリア支援プログラムへの参加を推奨するなど、博士研究員自らが行う活動を支援する。

 <これまでの審議における委員からのご意見例>

  • 博士研究員本人が、問題意識をもって、自らのキャリアを開拓していく意識を持つよう配慮する。
  • 企業等へ就職し活躍することを評価するような研究室の雰囲気づくりに配慮する。
  • 研究者に向かないと考えられる者に対しては、進路変更を促す配慮が考えられる。

3.文部科学省の研究開発事業の公募要項等に反映することが考えられる事項例

  •  各事業の目的や特性に応じて、公的研究費(競争的資金その他の研究資金)により博士研究員を採用する研究機関又は研究者に対して、博士研究員のキャリアパス確保に向けた支援に積極的に取り組むよう公募要領等に記載する。
     各事業の申請書には、公的研究費により雇用する博士研究員に対して行うキャリア支援方針(例:上記2(1)3)のキャリア開発支援プログラムの参加、キャリアカウンセリング、研究活動への主体的な参加の推奨など)を記載することとし、審査の際に確認する。(米国NSFの取組例は参考資料2を参照)
  •  博士研究員の能力開発に要する経費は研究活動を支える基盤的な経費であるとの考え方に基づき、上記の申請書に記載したキャリア支援方針に基づく博士研究員の活動を、研究エフォートの中に含めてよいこととする。
  •  評価において、上記のキャリア支援方針に基づく取組状況と博士研究員の就職状況を、プラスの評価の対象とする。
     また、研究活動の妨げにならないよう、上記2(1)3)の機関の取組に博士研究員が参加する場合には、その取組を研究主宰者(PI)に代わる取組として評価することができるよう配慮する。
  •  第4期科学技術基本計画において、「国は、優秀な学生が安心して大学院を目指すことができるよう」「RA(リサーチアシスタント)などの給付型の経済支援の充実を図る。これらの取組によって『博士課程(後期)在籍者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す』という第3期基本計画における目標の早期達成に努める。」とされていることを踏まえ、博士課程(後期)学生をリサーチ・アシスタント(RA)として雇用する場合は、経済的負担を生じさせることのないよう、給与水準を生活費相当額とすることを推奨する。

参考資料1 第4期科学技術基本計画等の関係資料

第4期科学技術基本計画(平成23年8月閣議決定)

4 3.科学技術を担う人材の育成
 (1)2.博士課程における進学支援及びキャリアパスの多様化

 優秀な学生が大学院博士課程に進学するよう促すためには、大学院における経済支援に加え、大学院修了後、大学のみならず産業界、地域社会において、専門能力を活かせる多様なキャリアパスを確保する必要がある。
 このため、国として、博士課程の学生に対する経済的支援、学生や修了者に対するキャリア開発支援等を大幅に強化する。

<推進方策>

  • 国は、優秀な学生が安心して大学院を目指すことができるよう、フェローシップ、TA(ティーチングアシスタント)、RA(リサーチアシスタント)などの給付型の経済支援の充実を図る。これらの取組によって「博士課程(後期)在籍者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す」という第3期基本計画における目標の早期達成に努める。
  • 国、地方自治体、大学、公的研究機関及び産業界は、互いに協力して、博士課程の学生や修了者、ポストドクターの適性や希望、専門分野に応じて、企業等における長期インターンシップの機会の充実を図るなど、キャリア開発の支援を一層推進する

5 3.実効性のある科学技術イノベーション政策の推進
 (4)2.研究開発評価システムの改善及び充実

<推進方策>

  • 研究開発課題の評価においては、研究開発活動に加えて、人材養成や科学技術コミュニケーション活動等を評価基準や評価項目として設定することを進める。

参考資料2 米国や文部科学省の取組例

米国NSFの例

アメリカ競争力強化法(2007年成立 The America COMPETES Act)
《(が記述されているかを確認する必要がある。

文部科学省の事例

科学研究費補助金「新学術領域研究」の審査要綱
《研究領域の審査に当たっての着目点》
・研究領域の発展に向け、若手研究者の育成等に配慮しているか。

「テニュアトラック普及・定着事業」の審査要領
・テニュアトラック教員がポストドクターを雇用する場合、当該ポストドクターの任期終了後のキャリアパスについて配慮する方針が立てられているか。

「博士課程教育リーディングプログラム」審査要項
《審査に当たっての着目点》
・修了者が各界のリーダーとして活躍するキャリアが見通せるプログラムが構築されているか。
・共同研究やインターンシップをはじめ実践性を備えた研究訓練等が設定されているか。

戦略的創造研究推進事業(CREST)の募集要項
 《リサーチアシスタント(RA)について》
 CRESTでは博士課程(後期)在学者をCREST研究のRAとして雇用する場合、経済的負担を懸念させることのないよう、給与水準を生活費相当額程度とすることを推奨しています。
<留意点>
 給与単価を年額では200万円程度、月額では17万円程度とすることを推奨しますので、それを踏まえて研究費に計上してください。ただし、学業そのものやCREST以外の研究に関わる活動などに対する人件費充当は目的外使用とみなされる場合がありますので十分ご留意ください。

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

-- 登録:平成24年01月 --