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第3部 今後の公的研究資金制度の在り方

 第1部において、研究費の不正使用の背景に構造的な問題があることを指摘し、第2部で研究機関の組織上の問題の解決を目指し、管理・監査体制のガイドラインを提言した。第3部においては、競争的資金等の公的資金に関する制度的な問題への対応策として、今後の公的資金制度の在り方について提言する。ここに提言する事項は、文部科学省のみならず他府省にも関わる事項であり、その実現は必ずしも容易ではないが、文部科学省をはじめ関係各機関はこの提言を十分に検討し、早急に成案を得て制度等の改善に取り組んでいくことが強く求められる。

第1節 単年度会計主義に起因する問題の改善

 制度的な問題で最も大きな問題は、我が国が採っている単年度会計主義についての問題である。1年単位で予算の執行が行われる単年度会計主義が、その進展に応じて臨機応変の対応が求められる研究活動の本性に必ずしも適合しておらず、円滑な研究活動を妨げている面がある。このことは研究費の不正使用の背景の一つとなっており、多くの研究機関・研究者からその改善の必要性が指摘されている。この点に鑑み、競争的資金等の公的研究資金に係る現行制度の一層の弾力化とともに、単年度会計主義に起因する研究遂行上の問題の解決に向けた対応が求められる。
 なお、米国の公的研究資金は、資金配分機関であるNSF(国立科学財団)、NIH(保健社会福祉省)の研究者・研究機関への資金配分は当該会計年度中に行わなければならないが、研究者の側については、当該資金による研究期間内であれば会計年度を越えて研究費を使用できるようになっており、我が国でも将来的にはこのような制度に移行することについて真剣な検討が求められる。

(1)繰越明許費制度の活用促進と一層の弾力化

 科学研究費補助金等、文部科学省が事業主体である競争的資金等は、次年度以降への繰越が可能となっており、研究の進展に応じて一定の要件のもとに繰越を申請し、認められれば、未使用の資金を次年度に使用することができる。また、科学技術振興機構の競争的資金も、運営費交付金による弾力的な運用が行われているところである。科学研究費補助金については、平成15年度に繰越明許費となったが、その趣旨が十分に研究現場や事務部門に伝わらず、繰越の実績は少なかった。これを受け、平成18年度、従来災害等、限定的な事由がある場合に限って認められるものと思われていた繰越について、研究の進捗状況も認められることなど、繰越の対象となる事例を大幅に追加し、研究機関に通知した。これにより、研究の実態に応じて研究資金の繰越ができることが明確になり、その周知が図られているところである。今後、研究者がこの繰越制度を積極的に活用するよう、事務職員も含め研究機関内において、研究の進展に応じて繰越ができることなどについて、その周知徹底が図られることが必要である。同時に資金配分機関においても、研究者・研究機関にそのことをわかりやすく伝える努力が求められる。
 今後、この科学研究費補助金の繰越明許費制度の活用促進の取り組みの効果を見定める必要があるが、競争的資金等の研究費については、研究者・研究機関が実質的に年度を越えて使用可能となるように、他の競争的資金等も少なくとも科学研究費補助金並みの取り組みを行うなど、現在の繰越明許費制度の拡大と、さらなる運用の弾力化が求められる。
 例えば、交付された資金について、研究期間内の年度を越えた使用の一層の柔軟化を図るため、繰越明許費手続きの一層の簡素化や、研究者に重大な落度がない限り、正常な研究活動を年度をまたいで続行するための費用の確保に必要なものであれば原則として認めるなど、繰越事由の一層の弾力化が求められる。

(2)研究期間の弾力化

 現在、繰越は、繰越要求額を確定させ、その算定根拠や理由、変更した計画行程等を記載した申請書を提出した上で、当該額を資金配分機関に一旦返還し、繰越が協議の結果認められると資金配分機関から再交付されるという過程を経て行われることになっており、その手間と時間が必要になっている。
 このようなことを省いて、より円滑な研究活動を可能にするためには、米国の資金配分機関で可能としているような、特段の手続きなしに一定割合以内であれば年度をまたいだ研究費の使用を認めるなどの制度の導入が求められる。また、研究期間の最終年度に残余資金があれば、当該資金を使用して一定の研究期間の延長が認められる制度も有効である。さらに、研究期間の起点を年度当初ではなく、資金の交付時点とし、年度を越えて、研究期間を確保することも考えられるが、これらはいずれも会計年度独立の原則、いわゆる単年度会計主義との関係を整理することが必要であり、中長期的課題として検討することが望まれる。

第2節 資金制度運用の弾力化

 公的研究資金の制度的な問題の2つ目は、競争的資金等の制度の使い勝手を悪くしているルール等の問題である。使い勝手を良くすることが不正な使用を防止することにもつながり、その解決を図るとともに、研究者が研究費の原資が国民の税金であることや、それぞれの研究費の性格や目的、役割等により自ずから一定の制約が生じることを理解することが必要である。また、使いにくいという指摘については、制度上使用が可能であるにもかかわらず、研究機関の方で不可能と解釈したり、制度上必要ではない手続きを定めることなどにより使いにくくしている面もあり、研究機関の工夫や改善努力が必要である。同時に資金配分機関においても、研究者からよく指摘されることについては、FAQ等で制度上可能かどうか、可能な場合の手続き等について分かりやすく明確な回答を示し、周知徹底することが必要である。なお、個々の資金制度に特有の問題についての指摘もあるが、ここでは全般的な問題について取り上げることとする。

(1)資金交付の一層の早期化

 競争的資金等の研究資金は、従来に比べ研究開始を可とする時期や交付時期の早期化が図られているものの、資金配分機関の審査や交付に係る体制等の制約もあり、概して交付決定が遅く、交付自体も年度が始まる4月から数ヶ月経って行われることが珍しくない。中には年を越してから交付されるものすらあるとの指摘もある。そういう場合でも単年度会計主義のため、3月末を待たずに、2月頃に研究機関の会計を締めて新たな物品購入や契約をしないなどの実態があり、実質的に研究費を執行して研究ができる期間が、1年を大きく下回ることとなっている。このため、研究期間が十分取れないという指摘がある。また、年度始めから交付されるまでの間、研究協力者等の人件費が出せない、生き物を扱う研究では餌代等の維持費に困るなど、第1部で述べた意味での「端境期」が長いことが、継続的な研究活動の阻害要因になっているとの指摘も多い。
 このような問題を解決するために、募集から交付までの流れを見直すとともに、資金配分機関の審査や交付に係る事務体制の整備・強化を図り、年度当初から研究資金を使用して研究ができるよう、繰り越した研究費の交付の分も含め、競争的資金等の研究機関への交付の一層の早期化が必要である。

(2)研究計画・資金計画の事後チェック主義化の推進と費目間流用の一層の弾力化

 現在の競争的資金等の研究資金による研究は、事前に申請した研究計画・資金計画通りに進めることが前提になっており、変更に制約があることが多い。研究はその進展によっては、当初予想できなかった方向に変更する必要が生じることもあり、研究の進展に応じた研究計画・資金計画の変更を柔軟に認め、研究終了後に行う研究成果の評価や研究費の使途のチェックに比重を置く考え方を推し進めることが求められる。
 競争的資金等の研究資金(直接経費)は、物品費、旅費、謝金等の費目に分けて申請され、認められれば、認められた費目別に経費を管理し、使用することになっており、研究の状況により、特定の費目を削って、別の費目で使用したいという場合に何らかの制限があるのが一般的である。各競争的資金等の制度により、このような費目間流用の制限の態様は異なるが、例えば科学研究費補助金は、各費目の額について、直接経費の総額の30パーセント(300万円に満たない場合は300万円)を超えない範囲での変更は特段の手続きを必要としないが、この額を超える場合は、変更申請が必要となっている。
 研究活動の円滑化のため、採択された研究課題や資金の目的が変質しない限度において、費目間流用の制限は緩やかであることが望ましい。このため、特段の手続きなしに流用できる金額の割合の引き上げや、手続きのさらなる簡素化等の一層の弾力化が求められる。さらに、事後チェック主義化を推進し、定められた割合を越える費目間流用についても届出のみとしたり、あるいは研究目的の範囲内であれば特段の手続きなしに費目間流用を可能とすることも考えられる。

(3)資金を使用できない事項の減少

 競争的資金等の制度の目的や資金の性格等により、資金を使える範囲がそれぞれ決まっているが、研究活動に必要な事項であっても使用できないものがあり、それが研究活動の実態にそぐわないことにより、使い勝手の悪さにつながり、不正使用の原因ともなっている。例えば、制度により扱いが異なるが、事務用品や大学院生の出張旅費等、研究資金の使途として認められないものがある。このような研究資金を使用できない事項を減らし、原則的に採択された研究課題に沿った研究活動のために必要な事項には幅広く支出できるようにすることが求められる。

第3節 各種競争的資金等の制度の統一的取扱い

 制度・運用上の課題として研究者や研究機関からの要望が強いものの第3点として、各種の競争的資金等の制度の統一的取扱いの問題がある。具体的には、競争的資金等の制度間で資金を使用できる対象等、ルールを共通化したり、現在は認められない、異なる競争的資金等の合算使用を可能とし、より有効かつ効率的な資金の使用を可能とすることが求められる。

(1)各競争的資金等のルールの統一・共通化

 各競争的資金等においては、資金の使途として認められないものや使用の際の条件、また上述したように費目間の流用の可能な割合と手続き等の取扱いが、各制度ごとに異なっており、そのため、複数の競争的資金等を得ている研究者や研究機関等、研究現場において、その取扱いについての混乱や不便さが指摘されている。このため、各競争的資金等の使用に関するルールについて、まず文部科学省所管の競争的資金等のルールを早急に統一し、共通化することが必要である。その上で、他府省所管の競争的資金等の制度とも、段階的にルールの統一・共通化を図ることが求められる。

(2)異なる競争的資金等の合算使用

 第1部において指摘したように、現在の競争的資金制度においては、申請し認められた研究課題について、当該資金のみを用いて研究活動を行うことになっており、複数の資金を得ている場合に、それぞれの資金の研究目的に共通に用いることができる一つの物を、それらの資金や運営費交付金等から費用を供出し購入することはできない。しかし、より優れた研究活動を行うために性能のよい機器を買うなど、複数の資金を合算して使用したいという、研究者としては当然の要望が強い。
 このため、特定の研究者が、他府省所管のものも含め複数の異なる競争的資金等を得ている場合等について、資金の目的に合致し、合算することでより効率的な資金活用になること、資金配分機関の同意を得ること等、一定の要件を満たす場合には、複数の異なる研究資金を合算して特定の用途に使用することを可能とすることが考えられる。もちろんこれについては、使用条件を明確にし、合算使用の透明性の確保に留意する必要がある。
 なお、現在の競争的資金等の制度においては、例えば機器を購入した場合、国からの委託費であればその所有権は国に帰属するが、個人補助の科学研究費補助金の場合、所有権はいったん研究者に帰属し、所属する研究機関に寄付することとなっており、その取り扱いが異なっている。このように資金の種類が異なることによって資産管理等、会計処理上の違いが発生する。合算使用については、会計上の整合性がとれるように、会計管理制度の原則を踏まえ、導入の可能性について検討することが必要である。

第4節 その他

(1)間接経費の大幅拡充

 競争的資金の研究費は直接経費と間接経費に分かれており、直接経費は直接研究活動を行うための資金であり、例えば、個人補助の科学研究費補助金においては、研究者個人が使用することとなっている。一方、間接経費は、直接経費による研究活動を支える施設・設備や光熱水料等の研究条件や事務支援体制等の環境整備及び当該研究者が所属する研究機関全体の機能の向上に活用するとの趣旨の下、直接経費に対する一定割合が当該研究者の所属機関に配分されるものである。
 競争的資金の増加に伴い、光熱水料等、研究活動を支える経費の増加、資金管理のコスト増、国からの経常的運営費の減少等に伴い、研究機関にとって間接経費は一層重要になっている。しかし、間接経費の有無、直接経費に対する割合は競争的資金制度によってまちまちである。例えば科学研究費補助金については、補助額が大きい一部の種目についてのみ30パーセントの間接経費が措置されているが、それ以外の補助額が比較的小さい種目についても間接経費の措置が求められてきた。
 研究活動の一層の充実に加え、今後、第2部のガイドラインに沿い、研究機関が競争的資金等の管理・監査体制を強化するに当たって必要となるコストの増加に対応し、管理・監査体制の構築を促進するためには、研究機関が全体として事務管理体制の見直しを図る必要がある一方、資金配分機関側が間接経費を大幅に拡充し、すべての競争的資金等のすべての種目への30パーセントの間接経費の措置を早期に実現することが求められる。

(2)特定の研究者への研究費の集中の防止

 競争的資金等の不正使用の背景に、特定の研究者に使い切れないほどの多額の資金が集中している場合があるのではないか、そのため管理の目が行き届かないのではないかという指摘がある。特定の研究者への研究費の過度の集中は、不正使用のみならず、効果的・効率的な国費の使用という観点からも避ける必要がある。
 このため、特定の研究者に研究費が過度に集中することがないよう、研究費に見合う研究が可能であるか、研究開始前にプログラムオフィサー等が確認するなど、申請された研究計画に対する審査体制を強化し、実施上無理のない研究計画を採択していくようにすることが必要である。また、研究開始後においても、プログラムオフィサー等がフォローすることも重要である。
 さらに、文部科学省所管のみならず他府省所管の競争的資金等も含めた、現在開発中の府省共通研究開発管理システムの整備を進め、平成19年度中に運用を開始する必要がある。

(3)個々の競争的資金における適正な執行のチェックの強化

 第2部において、研究機関の管理・監査体制の構築を提言したが、競争的資金等の研究資金が適正に執行されるためには、資金を配分する側の機能も強化することが求められる。このため、研究機関がガイドラインに沿って自主的・自律的に行う体制整備と併せ、資金配分機関による執行状況のチェック、確認が必要である。
 具体的には、競争的資金等を配分する文部科学省及び独立行政法人が、自らが交付した資金が適正に使用されているかどうか、経費管理状況や使用状況について、年度末に口座の残高を確認したり、研究機関に赴き実地調査をサンプルを抽出して行うなど、適切な経費管理の具体的状況について、よりきめ細かなチェック、確認を適宜行うべきである。これは第2部第7節で述べた体制整備状況のサンプリング実態調査とは別に行われることが必要である。なお、実地調査については、重複を避け効率的に実施することに留意する必要がある。

(4)研究機関によるつなぎ資金の交付促進

 現在特に新規で採択された課題について、年度当初から資金が交付されて研究が開始できるようにはなっておらず、年度当初の研究費の手当てが研究現場で大きな課題となっている。上記第1節及び第2節で提言した制度・運用の改善により、年度当初の研究費の切れ目が解消されることが求められるが、研究機関側においても、研究費が年度当初に交付されない事態に対応することが必要である。このような場合、研究機関において、財源を用意し立替払いをしていることが多いが、年度当初の安定した研究費の手当てのため、例えば研究機関が基金をつくり、それを財源とするなど、研究者に年度当初のつなぎ資金を交付することを促進することが重要である。

(5)申請等の制限の運用

 現在、不正を行った研究者に対しては、資金配分機関は、不正使用額の返還を求めるとともに、競争的資金への申請等を一定期間制限する措置を講じている。今後、研究機関の体制整備に伴う過渡的な問題として、告発の増加による調査負担の増大と研究活動の一時的停滞が懸念されることから、過去の不正を研究者自らが一定期間内に申し出た場合には、この措置の適用を減免する方針を打ち出すことによって、過去の清算を促すべきではないか、という意見がある。本検討会は、その採否について、慎重に検討を行ったところ、以下のような見解が大勢を占めた。
 研究者が自ら行った過去のルール違反を開示することへの心理的な抵抗が想定されることに加え、不正額の返還を免除しないことを前提とすれば、当該措置は有効性、実行可能性の点で疑問があり、従来の申請等資格制限の適用実績との公平性等も勘案すると、その導入には慎重にならざるをえない。

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科学技術・学術政策局調査調整課

(科学技術・学術政策局調査調整課)

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