資料2-3 日本学術会議における最近の意思の表出等

(提言)

表題 決定日 表出の主体
第4期科学技術基本計画への日本学術会議の提言 平成21年11月26日 日本の展望委員会 (金澤一郎委員長)

(会長談話)

表題 公表日
我が国の学術研究推進の重要性についての会長談話 平成21年11月20日
我が国の大学が目指すべき将来像についての会長談話 平成21年12月7日

※ 平成21年9月4日より同年12月18日までに公表された、日本学術会議の意思の表出及び会長談話を記載。

我が国の学術研究推進の重要性についての会長談話

 国費の無駄な投資を減らし、より適切な国家予算を作るための一つの方策として、現在、行政刷新会議における事業仕分けが進んでいます。この事業仕分けは国民に対してオープンな状態で行われていて革新的であり、国民から広く受け入れられているものと理解します。一方で、特に基礎科学や科学技術関連の項目についての厳しい判定を懸念する声も聞こえてきておりますので、この機会に中・長期的視野に立った学術研究推進の重要性について改めて述べたいと思います。
 日本学術会議はすでに、「我が国の未来を創る基礎研究の支援充実を目指して」(平成20年8月)と題する提言を発出しておりますが、その中で、将来を見据えた基礎研究への投資こそが我が国が真の文化国家として世界的な学術の発展及び人類の福祉の向上に貢献するものであることを述べました。基礎研究を含む学術研究を大切にする心に支えられて、科学・技術を推進し、その成果を基に社会制度や意識改革を含むイノベーションを創出し、同時に次代を担う人達を育成することこそが、資源・エネルギーに乏しい我が国が先進国の中でプレゼンスを高め国際貢献を果たすことができるための唯一の道であると考えます。
 科学・技術の成果は一朝一夕に成るものでなく、多くの研究者による実験、データ収集、解析・評価、証明など長期にわたる継続的努力の積み重ねによっています。また、多くの研究計画は多数の研究者の議論の積み重ねによって作られています。したがって、基礎研究への投資がたとえ短期間であっても大きく減少することは、研究を実際に担う人材の離散を生じるだけでなく、国際競争力の低下をも招きます。この状態からの回復は困難であり、仮に回復できるとしても、それまでに膨大な時間と資金が必要となり、国際間の大競争時代にあって国家的損失を招くことは明らかです。
 新政権が社会に吹き込む新風に対して、国民は大きな期待を寄せています。鳩山内閣は、総理を筆頭に理系出身の多くの閣僚を含み、科学・技術に深い造詣と理解を有するものと信じております。また、菅国家戦略担当・科学技術政策担当大臣は、来年度予算の柱として、雇用、環境、景気、子どもに科学・技術を加えた5つのKによって、景気回復からできれば成長の方向へつなげていきたいとの方向を打ち出しており、私達科学者も大いに期待しています。我が国として、是非人文・社会科学を含む基礎研究から開発研究に至るまでの広い意味での学術研究を重視し、国家百年の計を過つことの無いように心から願っています。

平成21年11月20日
日本学術会議会長
金澤一郎

我が国の大学が目指すべき将来像についての会長談話

 日本学術会議では、国の内外に対して、広く日本の学術研究の方向・展望を提示することを目的として、昨年から、総力を挙げて「日本の展望‐学術からの提言2010」(注)の作成を進めてきています。この中で、人材育成と国民の生涯学習の両面から、中長期的視点で我が国の大学のあるべき姿を描き、そのような姿を実現するための方策についても検討してきたところです。大学の扱いについては、今回の行政刷新会議での事業仕分けにおいても多少の議論がありましたが、ここで「日本の展望」の取りまとめの議論を踏まえて、我が国の大学が目指すべき将来像について、日本学術会議としての考えを改めて述べたいと思います。

 知を尊重する心を駆動力として、人類社会に貢献する豊かな知識基盤社会を構築するためには、大学の門戸を拡げ、人材育成の質を一層向上させることが不可欠です。このことを日本の国家的な命題として位置付け、我が国の大学が、以下のような将来像を実現することを目指すべきであると考えます。

(1)様々な能力に秀でた多様な人材を生み出す、輝く個性と優れた機能を有する、知の連山としての国公私立の大学
(2)国際レベルの質の高い高等教育の機会を提供し、高度の専門的知識と市民的教養の教育の達成度を保証する大学
(3)国民の一人一人が、より成熟した世界観、価値観を獲得できるよう、人生を主体的に設計する過程で、必要な高等教育を求める時期に享受する機会が得られるような、柔軟な制度を有する開かれた大学
(4)性別、年齢、社会経験などに関わりなく、内外から多様で多彩な人材を受け入れるとともに、広く人材を世界に送り出し、国境を越えて優れた人材の交流の架け橋となる大学
(5)きめ細かい公的支援に支えられて、多様な教育研究理念を持ちながら切磋琢磨し、継続的な改革を自律的に進める大学

 このような大学の将来像を実現していくことにより人材育成を成し遂げ、その結果として国家を再構築することこそ、我が国が、21世紀の知識基盤社会、多文化社会、生涯学習社会へと向かうほとんど唯一の道であると考えます。
 そのためには、国民に対する高等教育の修学奨励と、国公私立大学の教育研究基盤と経営基盤の強化が取り分け必要です。これに関しては、当面OECD諸国の平均水準を指標として、公的支出レベルに抜本的な充実が図られることを期待するところです。

 新政権の下で、いずれ中・長期的な視点から、我が国の大学が目指すべき将来像の明確な国家ビジョンが掲げられるものと思いますが、その実現を可能にするのは、高等教育に対する的確な「まなざし」と、具体的な「支援」であると考えます。心から期待しています。

注)「日本の展望‐学術からの提言2010」の素案は、学術会議のHPで公開されています。
 (http://www.scj.go.jp/ja/info/iinkai/tenbou/pdf/soan.pdf

平成21年12月7日
日本学術会議会長
金澤一郎

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)

-- 登録:平成22年03月 --