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独立行政法人放射線医学総合研究所中期目標

平成23年3月1日
文部科学省

【前文】

 研究所は、放射線利用促進と安全規制とを科学的な観点から融合し、放射線医学を総合的に推進する世界でも希有な研究機関である。こうした研究所の設置は、被爆国である我が国が、放射線及び原子力の平和利用に際して国民の安全確保及び安心の醸成を重要施策と認識している顕れである。
 研究所は、放射線の人体への影響、放射線による人体の障害の予防、診断及び治療並びに放射線の医学的利用に関する研究開発等の業務を総合的に行うことにより、放射線に係る医学に関する科学技術の水準の向上を図ることを主たる目的としており、これらの業務に積極的に取り組むことにより、我が国の経済社会の発展と国民の健康の向上に大きく寄与することが求められている。
 また「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(平成20年法律第63号)第3条の基本理念に定められているとおり、研究開発能力の強化及び研究開発等を効率的に推進することにより、我が国の国際競争力の強化に対して寄与していくことも求められている。
 こうした要請に応え、これらを着実に実現するため、研究所は以下の基本的な方針の下、業務運営に取り組む必要がある。

  1. 放射線医科学分野並びに放射線安全研究及び緊急被ばく医療分野における我が国唯一の公的かつ中核的な研究機関として、研究成果の速やかな社会への還元を目指す。このため、研究領域ごとに国民の健康や安全への還元を意識した適切な目標設定を行い、基礎研究から実用化研究までを計画的かつ重点的に推進する。
  2. 放射線利用や規制あるいは管理に携わる国際機関に積極的に働きかけ、放射線の平和利用分野や原子力安全分野における国際的な枠組みの中での研究所のみならず我が国の存在価値を向上する。
  3. 「災害対策基本法」(昭和36年法律第223号)に基づく「防災基本計画」(平成20年2月中央防災会議作成)において定められている指定公共機関として緊急被ばく医療の中心的機関の責務を果たす。さらに、「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(平成15年法律第79号)及び「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(平成16年法律第112号)において定められている指定公共機関としての責務を果たす。

1.中期目標の期間

 研究所の実施する科学技術分野の研究開発は、その成果を得るまでに長期間を要するものが多く、長期的観点から目標を定める必要があるため、中期目標の期間は、平成23年4月1日から平成28年3月31日までの5年間とする。

2.国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する事項

1.放射線の人体への影響、放射線による人体の障害の予防、診断及び治療並びに放射線の医学的利用に関する研究開発等の業務

1.1.放射線の医学的利用のための研究

 我が国における放射線の医学的利用研究は、国際競争力の高い医療技術分野であると同時に、近い将来、国民の2人に1人が罹患すると推定されるがんや、近年患者数が増加している精神・神経疾患についての診断及び治療法の研究開発と直結しており、国民の健康増進への貢献度が高い。このため研究所では、長期的展望を見据え、基礎研究から実用化までの研究を一体的に実施し、臨床応用への取組を一層強化する。とりわけ重粒子線治療対象がんの適応拡大についての研究や、臨床現場への展開を目指した分子イメージング技術を用いた放射線診断技術開発等の分野に重点的に取り組むとともに、これらの分野の融合を目指し、以下の研究に取り組む。

1.1.1重粒子線を用いたがん治療研究

 重粒子線がん治療は、臓器の別、がんの悪性度を問わず良好な治療成績をあげ、副作用が極めて少なく低侵襲性で患者への負担も少ない治療法であり、先進医療の承認も受けている。
 今期においては前期における成果を踏まえ、より多くの患者に最適な治療を提供するため、治療の標準化や適応の拡大を目指す。このため線量集中性が高く、呼吸同期を可能とする3次元高速スキャニング技術の着実な臨床応用に取り組むとともに、照射が困難な部位の治療を可能とする照射法(小型回転ガントリー方式)の実用化に取り組む。また、画像診断技術を重粒子線がん治療に融合し、腫瘍の位置や経時変化に即時に対応できる治療技術の開発とその実用化に取り組む。これらにより、新たに5以上のプロトコール(臨床試験計画書)について臨床試験から先進医療に移行するとともに、上記の新規照射技術による治療の分割照射回数については、現行技術比20%以上の短縮化を目指す。
 また、ゲノム生物学や細胞生物学的手法を用いた粒子線生物学研究を実施し、重粒子線によるがん治療作用のメカニズムの解明を通じて、重粒子線がん治療に資する情報を提供する。
 さらに、重粒子線がん治療を国内外に普及するための明確なビジョンと戦略の下、関係機関との連携、協力の全体像を明らかにした上で研究所としての具体的かつ戦略的なロードマップを策定し、その実践に不可欠な、国際競争力強化や国内外機関の研究者及び医療関係者を対象とした専門家の育成にも取り組む。 

1.1.2分子イメージング技術を用いた疾患診断研究

 生命現象及びその異常を分子レベルで非侵襲的に画像化する分分子イメージング技術は、放射線の医学的利用分野において近年めざましい発展を遂げ、疾病の早期診断や効率的な創薬を実現可能にしてきた。前期では分子イメージング研究プログラム(第I期平成17~21年度)における、PET(ポジトロン断層撮像法)疾患診断研究拠点として、研究所が培ってきた放射線科学の研究基盤を活用し、世界最大の分子プローブライブラリー、高感度プローブの製造及び高感度検出器の開発に関する世界有数の技術を有するに至った。引き続き、研究所は、我が国における分子イメージング技術を用いた疾患診断研究の拠点として、将来の医療産業を担う研究開発の中核として機能することが期待されている。
 今期においては、これまでに得られた画像診断技術やそれらを用いた研究成果を臨床研究に発展させることに重点化する。具体的には、がん及び精神・神経疾患のPETプローブについてそれぞれ複数種を臨床研究に提供することに加え、いまだ病態や原因が明確ではないがん及び精神・神経疾患に係る病因分子やその病態機序の解明に取り組み、早期診断の実現に向けたイメージング評価指標を開発し、実証する。また、がん病態診断法等の有用性を実証し、重粒子線がん治療の最適化への応用を図る。さらに、診断及び画像誘導治療技術に必須となる革新的高精細、広視野PET装置(OpenPET装置等)の臨床応用を視野に入れた実証機を開発する。 

1.2.放射線安全・緊急被ばく医療研究

 放射線の医学的利用や原子力エネルギーの利用が拡大するにつれ、これらに対する安全管理や規制及び緊急時対応についても、国内のみならず国際的な関心が高まっている。こうした状況を踏まえつつ、安全研究成果の集約及び分析や研究成果の規制への橋渡しに係る技術支援機関(「原子力の重点安全研究計画(第2期)」(平成21年8月3日原子力安全委員会決定))としての役割や、放射線や原子力に係る国際機関の決議や勧告に基づく国の方針等において実施することが期待されている放射線安全及び放射線防護に係る安全規制ニーズに応える重点安全研究、被ばく医療に係る重点安全研究及び関連業務を着実に遂行する。さらに、これらの安全研究成果を踏まえた科学的根拠に基づき、より合理的な放射線規制のあり方や管理方法を規制当局に提言するのみならず、対話セミナーなどを通じた国民への情報提供を行い、放射線及び原子力利用に対する社会的理解の増進に貢献する。 

1.2.1放射線安全研究

 研究所は、放射線の生物影響、環境影響及び医学的利用に関する研究基盤を最大限に活用し、安全規制の科学的合理性を高めるために利用可能な知見を蓄積する。特に放射線防護のための安全基準の策定に係わる国際的な検討に際しても、原子力安全委員会及び安全規制担当部局の技術支援機関として、主体的及び組織的な対応を行う国内拠点としての活動を行う。放射線の感受性については国内外で関心の高い小児に対する放射線防護の実証研究により、放射線感受性を定量的に評価し、放射線及び原子力安全規制関連の国際機関に提供する。
 また、被ばく影響研究に関しては、放射線影響のメカニズムを明らかにする研究を通じて、放射線及び原子力安全規制関連の国際機関における診断、治療及び放射線作業時のリスク低減化方策を策定する際の基盤となる科学的根拠を示す。さらに、規制科学研究に関しては、ヒトや環境への長期的影響を考慮した防護の基準やガイドラインの設定に必要な知見を国内外の規制当局に提供するとともに、国民の視線に立った放射線防護体系の構築に資するため、放射線影響評価研究に社会科学的要素を取り入れた解析を行い、放射線安全に対する社会的理解の増進に有効なリスクコミュニケーション手法を開発し、実証する。 

1.2.2緊急被ばく医療研究

 研究所は、放射線被ばく事故や原子力災害の万が一の発生に適切に備え、国の三次被ばく医療機関としての役割を果たすために求められる緊急被ばく医療についての専門的な診断と治療に関する研究を行う。また、外傷又は熱傷との複合障害等への対応を充実するため、複合障害に対する線量評価や基礎研究を総合的に実施し、医療技術を向上する。研究所の緊急被ばく医療支援体制の維持整備を通じて、全国的な緊急被ばく医療体制の整備に貢献し、放射線及び原子力安全行政の活動の一端を担う。さらに、国際的な緊急被ばく医療支援の中核機関の一つとして国際的な専門家や機関との連携を強化し、アジアを中心とした被ばく医療体制整備に向けた国際的な支援を行う。

1.2.3医療被ばく評価研究

 医療分野における放射線利用の急速な増加に伴い、一人あたりの医療被ばくも増加傾向にあることから、世界的にその防護方策が検討されている。放射線防護体系の3原則(行為の正当化、防護の最適化、線量限度の適用)のうち、医療被ばくの防護では線量限度が適用されないため、行為の正当化(放射線診療により患者が得るベネフィットがリスクを上回ること)や防護の最適化が大変重要である。研究所は、これまで、放射線影響や放射線防護に関する国際機関に対して我が国の医療被ばくの実態に関する調査結果を提供してきたこと、及び放射線審議会における国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告の国内制度等への取り込みについての審議を踏まえ、患者個人の被ばく線量や健康影響を把握し、行為の正当化の適正な判断や防護の最適化に基づく合理的な医療被ばく管理に向けて長期的に取り組む。
 今期においては、研究所が蓄積した医療情報等を活用し、放射線治療患者の二次がんリスクを定量化する。また、関連学会と連携して放射線診断で用いている線量等に関する実態調査研究を実施し、医療被ばくの線量の合理的低減化に関する基準、並びに我が国における放射線治療及び診断時の安全管理方策の策定のために必要な情報を安全規制担当部局に提示する。

1.3.放射線科学領域における基盤技術開発

 放射線発生装置の稼働、放射線照射場の開発と検出装置や測定装置、放射線影響研究に適した実験動物や遺伝情報科学などの研究基盤を法規制や基準に沿う形で維持するばかりでなく、研究開発業務の進捗に合わせた新規技術の導入や独自の技術を開発することは、研究所のみならず国の放射線科学領域の研究開発の発展には不可欠である。
 研究所は、研究開発業務の円滑な推進のため、基盤技術分野による支援体制を維持することに加え、研究開発業務の支援に応用可能な技術やシステム開発の研究に積極的に取り組む。さらに、基盤技術を継承していくための専門家も育成する。

1.4.萌芽・創成的研究

 理事長のリーダーシップの下、研究所の将来を担う可能性を有する長期的視点に立った基礎研究をはじめ、新たな研究分野の創出及び次世代研究シーズの発掘等を目的とした研究を積極的かつ戦略的に行う。

2.研究開発成果の普及及び成果活用の促進

 知的財産の取扱いと発信する研究開発成果の質の向上に留意しつつ、研究所の研究開発成果の国内外における普及を促進する。このため、研究成果については、国民との双方向コミュニケーションが可能となる広報及び啓発活動に取り組む。
 特許については、国内出願時の市場性、実用可能性等の審査などを含めた出願から、特許権の取得及び保有までのガイドラインを策定し、特許権の国内外での効果的な実施許諾等の促進に取り組む。また、重粒子線がん治療技術等の国際展開を見据え、効果的な国際特許の取得及びその活用のための戦略を策定し、これを実施する。

3.国際協力や産学官の連携による研究開発の推進

 関係行政機関の要請を受けて、放射線や原子力に関わる安全管理や規制あるいは研究に携わる国際機関に積極的に協力する。特に、「成長に向けての原子力戦略」(平成22年5月25日原子力委員会決定)を踏まえ、国際原子力機関(IAEA)や国際社会とのネットワークの強化に向けた取り組みを行う。
 さらに、放射線科学分野の研究開発を効果的かつ効率的に実施し、その成果を社会に還元するため、産業界、大学を含む研究機関及び関係行政機関との連携関係を構築する。また社会ニーズを的確に把握し、研究開発に反映して、共同研究等を効果的に進める。

4.公的研究機関として担うべき機能

4.1.施設及び設備等の活用促進

 研究所が保有する先端的な施設や設備を、放射線科学の中核として幅広い分野の多数の外部利用者に提供する。その際、外部利用者の利便性の向上に努め、我が国の研究基盤の強化に貢献する。
 また、先端的な施設や設備、研究所が有する専門的な技術を活用し、これらの共用あるいは提供を行う。

4.2.放射線に係る知的基盤の整備と充実

 研究成果や技術を体系的に管理し、継承あるいは移転するため、関連分野ごとの情報を、産学官のニーズに適合した形で、収集、分析し、提供する。 

4.3.人材育成業務

 国内外の放射線科学分野の次世代を担う人材育成に向け、大学等の教育研究機関との連携を強化する。特に、「原子力の重点安全研究計画(第2期)」及び「成長に向けての原子力戦略」を踏まえ、放射線医学や放射線防護、原子力防災に携わる研究者、高度な基盤技術を担う国内外技術者を育成するシステムの向上に取り組む。

4.4.国の政策や方針、社会的ニーズへの対応

 放射線の人体への影響研究に関する専門機関として、放射線及び原子力の安全に関して掲げる国の様々な政策や方針に対応するために構築した協力及び支援のための体制・機能を維持する。

3.業務運営の効率化に関する事項

 研究所は、自らの社会的責任と役割を認識し、理事長のリーダーシップの下、以下の組織編成及び業務運営の基本方針に基づき、業務に取り組むものとする。また、以下の事項に加えて、独立行政法人を対象とした横断的な見直し等については、随時適切に対応する。
 なお、取組を進めるに当たっては、業務や組織の合理化及び効率化が、研究開発能力を損なわないように十分に配慮する。

1.効率的、効果的な組織運営に関する事項

 理事長の強力なリーダーシップの下、効率的かつ効果的な組織運営を行うために必要な措置を講じる。内部統制については、引き続き充実及び強化を図る。

2.自己点検及び評価に関する事項

 研究所の諸活動について適切な方法で自己点検及び評価を行い、その結果を、組織運営の改善に適切に反映させる。

3.リスク管理及び法令遵守に関する事項

 研究所としての社会的責任、法令遵守及び情報セキュリティなどに関するリスク管理について職員の意識の向上を図る。
 なお、政府の情報セキュリティ対策における方針を踏まえ、適切な情報セキュリティ対策を推進する。

4.業務及び人員の合理化並びに効率化に関する事項

 研究所で行う業務については、国において実施されている行政コストの効率化を踏まえ、以下の取組を進める。

  • 「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)等を踏まえ、管理部門の簡素化、事業の見直し、効率化、官民競争入札等の積極的な導入等に取り組むことにより、法人運営を行う上で各種法令等の定めにより発生する義務的経費等の特殊要因経費を除き、一般管理費については、5年間で15%以上、業務経費については、5年間で5%以上の効率化を図る。ただし、人件費の効率化については、次項に基づいて取り組む。なお、社会の要請に基づき、新たな業務の追加又は業務の拡充を行う場合には、当該業務についても同様の効率化を図るものとする。
  • 給与水準については、国家公務員の給与水準を十分配慮し、手当を含め役職員給与の在り方について厳しく検証した上で、研究所の業務の特殊性を踏まえた適正な水準を維持するとともに、検証結果や取組状況を公表するものとする。
  • 総人件費については、平成23年度はこれまでの人件費改革の取組を引き続き着実に実施する。ただし、平成22年度まで削減対象外としていた者に係る人件費及び今後の人事院勧告を踏まえた給与改定分については、削減対象から除く。なお、平成24年度以降は「公務員の給与改定に関する取扱いについて」(平成22年11月1日閣議決定)に基づき、今後進められる独立行政法人制度の抜本的な見直しを踏まえ、厳しく見直す。
  • 契約については、「独立行政法人の契約状況の点検・見直しについて」(平成21年11月17日閣議決定)に基づく取組みを着実に実施することとし、契約の適正化、透明性の確保等を推進し、業務運営の効率化を図ることとする。

5.保有資産の見直しなどに関する事項

 保有資産については、引き続き、資産の利用度のほか、本来業務に支障のない範囲での有効利用可能性の多寡、効果的な処分、経済合理性といった観点に沿って、その保有の必要性について不断に見直しを行う。
 また、資産の実態把握に基づき、研究所が保有し続ける必要があるかを厳しく検証し、支障のない限り、国への返納等を行うこととする。

6.情報公開に関する事項

 独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第145号)に基づき、情報公開を行う。また、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第59号)に基づき、個人情報を適切に取り扱う。

 4.財務内容の改善に関する事項

 固定経費の節減等による予算の効率的な執行、競争的資金や受託収入、民間からの寄付や協賛等、自己収入の確保等に努め、より健全な財務内容の実現を図る。

5.その他業務運営に関する重要事項

1.施設及び設備に関する事項

 業務の遂行に必要な施設や設備については、重点的かつ効率的に、更新及び整備を実施する。また、研究所が策定した研究施設等整備利用長期計画(平成19年5月)の全体について経費縮減等を図る観点から見直す。

2.人事に関する事項

 研究所に必要とされる優秀な人材を確保し、育成するために、キャリアパスの設定や流動性の確保、組織への貢献度に応じた処遇などの仕組みを整備する。
 研究部門の事務職員について、各センターの業務の特性、業務量、常勤職員と非常勤職員の業務分担等を踏まえ、更なる合理化を図る。