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審議会情報

第5章  初等中等教育と高等教育との接続を重視した入学者選抜の改善


第1節  これまでの取組と実績

  現在,初等中等教育,高等教育の改革が進行し,高等学校,大学それぞれの多様化,個性化が進みつつある。それに伴って,その接続を考えるに当たっても個人の能力・適性,意欲・関心に応じた個性的,主体的な進路選択が強く求められている。

  しかし,実際には,高等学校卒業時点で大学に進学する際には,依然として少しでも「よい大学」を目指そうという意識が残っており,その意識が同一路線上での競争を生み出していることが大きな問題である。

  中央教育審議会では,第14期以来,過度の受験競争の緩和を目指し,選抜方法の多様化,評価尺度の多元化,受験機会の拡大,初等中等教育の改善の方向を尊重した入学者選抜の改善,推薦入学の改善,大学入試センター試験の活用,入学者選抜の改善を進めるための条件整備等を図るべきことを提言してきたところである。

  特に,「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」第2次答申では,子供たちにゆとりの中で生きる力をはぐくむという基本的な視点に立って,学力試験を偏重する入学者選抜を改め,能力・適性や意欲・関心などを多角的に評価するため,選抜方法の多様化,評価尺度の多元化に一層努めることが必要であることや,「ゆとり」の中で「生きる力」を育成するという初等中等教育の改善の方向を尊重した入学者選抜の改善に努めることが必要であることなどを提言した。

  これに応じて各大学においても専門高校・総合学科卒業生選抜の導入,帰国子女や社会人などの特別選抜の導入,面接・小論文の実施など選抜方法の多様化,評価尺度の多元化が進められてきた。

  また,受験機会の拡大に関しては,受験機会の複数化の一環として実施されている「分離・分割方式」が推進され,国立大学は平成9年度入学者選抜から,公立大学は平成11年度入学者選抜から,原則として分離・分割方式に統一された。秋季入学を導入する大学も徐々に増加しつつある。国公立大学の後期日程については,募集人員の割合は大幅には拡大していないものの,面接,小論文等,受験生の能力・適性等を多面的に判定するための丁寧な選抜方法が多くの大学で採り入れられている。

  このように,大学側でも入学者選抜の改善に向けた取組が進められてきており,従来に比べれば大学進学に関してはるかに多様な道が整備されてきているが,入学希望者と大学側の最適な相互選択の実現を目指した一層の改善が必要であり,第14期以来の本審議会の提言も踏まえつつ,引き続き大学入学者選抜の改善を進めていくことが必要であると考える。


第2節  入学者選抜の現状と改善の方向


 (1)入学者選抜をめぐる状況

  少子化の進行,依然として増加する大学入学定員,多様化する選抜方法,推薦入学の増加等により,客観的に見れば,相当数の者にとっては,大学受験は既に必ずしも「過度の競争」ではなくなっている。18歳人口は,近年のピークである平成4年には205万人であったが,11年には155万人となっている。一方,四年制大学・短期大学・高等専門学校の入学定員(高等専門学校については,3年前の入学定員)は,4年度の68万7千人に対し,11年度は71万2千人となっている。このように18歳人口が減少している一方で,依然として大学等の入学定員が増加していることから,合格率も平成4年度の65%から11年度には80%に上昇している。

  また,4年制大学で約3割,短大で約6割の者が推薦入学で入学しており,これに実質的に開放入学制をとっている専門学校入学者等を加えれば,高等教育機関への進学者約110万人のうち,相当数は実質的に競争なしに入学していると言える。

  しかし,多くの者が大学に進学したいのかどうか,何を学びたいのか,必ずしも明確ではない18歳,19歳という時点で,とりあえず大学へ進学しよう,その際少しでも「よい大学」に進学した方がその後の就職や人生で有利だとする意識は大きくは変化していない。このような意識が,高校生に大きな心理的圧迫を与え,過度の受験競争が解消されていないとの社会一般の受け止めの根拠にもなっている。いわゆる有名大学も含み大学等も社会人特別選抜等の導入・拡大により社会人の受入れに積極的になりつつあり,また,多様な選抜基準の導入等により,早期から知識詰め込み型の受験準備に偏った学習を行ってきた者が進学に際し必ずしも有利でない状況に変わりつつあるが,入学者選抜の改善のみでこのような状況を変えることは困難である。


 (2)入学者選抜の改善方策を検討するに当たって

  18歳人口の減少や大学の入学定員の増加により,全体として見れば,大学等の進学を希望する者がいずれかの大学には入学できるようになる日も遠くないと考えられる。

  このように総体として競争は緩和されつつあるものの,少しでも「よい大学」への入学を目指して,依然として1点を争う受験競争が行われている状況もある。それにより,高等学校の教育が受験対応型になるなど学校教育が偏ったものになるとともに,受験準備教育の低年齢化を引き起こしている。

  こうしたことの背景には,ペーパーテストだけで測られる「学力」という単一の基準と,この「学力」が高い学生が多い大学が「よい大学」という価値観によって大学を序列化し,一直線上に並べようとする学校歴意識の問題がある。

  しかし,希望者が多い特定の大学,少しでも社会的に威信が高いと考えられる大学をめぐる競争までを完全になくすことは不可能であろう。大学入試に関しては,これまでも様々な改革案が提言されているが,おそらくどのような方策を採ったとしても多くの人が入りたい特定の大学に希望するすべての人が入学できるようになることは困難であろう。

  入学者選抜の抜本的な改善策として,例えば,入学定員という概念をなくし,希望者は原則として入学させた上で,入学してからの選抜により,入学後に一定数の学生を退学させるような方法がよいという考え方がある。しかし,このような方法を採った場合,収容定員を大幅に超過する大学が生じることが予想され,このような事態を回避するために,長期にわたる入学待機が必要となったり,結局は,選抜による入学制限につながるものと考えられる。

  このような大学の例としてしばしば引き合いに出されるアメリカの大学では,中途退学者については他の大学やコミュニティ・カレッジに再入学して,新たな学位や職業資格を取る道もある。

  また,資格試験を実施し,それに合格すればどこの大学でも入学できるようにするという考え方については,フランスやドイツでは,以前からバカロレアあるいはアビトゥアと呼ばれる大学入学資格の取得試験を実施し,合格者を原則としてすべて大学に入学させているが,例えば,フランスでは,大学の第1期課程(2年)修了前に毎年約4割の中途退学者を生み出すこととなっている。

  日本の場合には,四年制大学だけで622校,短期大学を含めれば1,207校ある大学を一律に扱い,一定の試験に合格すれば希望する大学に入学できるという制度が実際に成り立つとは考えにくい。

  いずれにしても,入学者選抜の改善に関しては,すべての人が満足するような万能の解決策は成り立ち難いと考えられるが,我が国の実情や時代の変化に対応してより良い方策を絶えず求めていくことはきわめて重要であると考えられる。

  その際,中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」第2次答申において指摘されているように,大学入学者選抜を改善していく具体的な主体は大学自身であるが,入学者選抜の在り方が,学校教育は言うまでもなく次代を担う子供たちの教育環境全体に及ぼす影響の大きさを踏まえ,単に大学側の事情のみを考えてその在り方を見直すのではなく,広く国民の理解が得られるものであるとともに,より良い教育の実現に貢献するものであることが必要であることを認識し,大学入学者選抜の改善に努めていくことが必要である。


 (3)入学者選抜の改善で目指すべき方向

  上に述べたように,入学者選抜の方法等を変更しても,「誰もが希望する大学に進学できる」ことにはならない。一部特定大学の収容定員を拡大しても問題解決につながらないと考えられる。

  入学者選抜の改善で目指すべきは,誰もが志望する大学に入れるようにすることではなく,大学と学生とのより良い相互選択を図り,学生の大学教育への円滑な移行を実現することにある。これは,大学側から見た場合,選抜方法の改善により,当該大学(学部・学科)の教育理念,目標に適した資質を持つ学生を見いだすかということである。また,受験生から見た場合は,他者との相対的な優劣を競い,少しでも「よい大学」へ進学することが目的ではなく,明確な目的意識の下に,大学入学後の教育につながるような学習を行い,自己の能力,適性,意欲,関心に最も適した教育を受けられる条件を備えた大学(学部・学科)を選択することである。

  高等教育の改革が進み,入学後の丁寧な履修指導や厳格な成績評価の実施,企業による大学教育の付加価値の適正な評価など,卒業生の質を確保する観点からの教育機能の充実とこれに対応する企業,社会の評価が行われるようになれば,受験生の大学選択もこれに基づいて望ましい形で行われるようになると考えられる。

  各大学の入学者選抜においては,これまで重視されてきた選抜機能のみならず,入学者選抜により幅広い能力や適性を評価するあるいは入学者選抜の結果を大学での入学後の教育に生かすという視点が重要であり,受験生に求める能力,適性をどのように評価するのか,それが大学における学習とどのような関連にあるのかを明らかにするとともに,各大学の選抜が求める学生を適切に見いだすものになり得ているのかどうかという検証も重要である。その意味では,入学判定に用いた資料を参考にして入学後指導教官(チューター)が履修指導を行うことも考えられてよい。

  また,高等学校の多様化や高等学校卒業後の進路の多様化に対応し,大学に関しても一層多様な道を開くことが必要であり,大学入学者選抜の改善に当たって,このことに留意する必要がある。大学の多様化・個性化を推進し,例えば,専門高校・総合学科卒業生,高等学校卒業後いったん就職した者,ボランティア活動をしていた者,海外に留学していた者,外国の大学等を卒業した者,障害のある者,社会人などの多様な者の学習需要に多様な大学が総体として応じていくことが必要である。このような多様な履修歴,経歴,年齢の者に高等教育を受ける機会を幅広く提供することが,公的機関としての大学に求められるばかりでなく,高等教育の活性化に資するものとの観点が重要である。

  なお,いわゆる「学(校)歴」意識にとらわれた競争の低年齢化については,そのことによる子供の全人格的発達や個性の伸長,幅広い体験といったような観点から見た損失も大きいことを子供たちや親,そして広く社会や企業において改めて理解してもらう必要がある。


第3節  これからの選抜の在り方


 (1)大学と学生とのより良い相互選択を目指して

  高等学校及び大学の教育改革が進み,高等学校と大学の役割が多様化する中で,入学者選抜の基本理念は大きく転換しつつある。すなわち,学生の大学教育への円滑な移行の実現を目指すためには,これからの入学者選抜の在り方は,大学と学生とのより良い相互選択を図ることが重要になる。つまり,大学側から見ると,「学生を絞り込む」のではなく,「求める学生を見いだす」ことが求められ,学生の側から見ると,「大学から選ばれる」のではなく,「大学を主体的に選択する」ことが求められるのである。

  このため,各大学(学部・学科)は,その教育理念,教育目的,教育課程の特色等に応じた多様で確固とした,特色ある入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)の確立を目指すべきであり,入学者選抜方法もこの受入方針に沿って設計すべきである。受験生は,このような大学(学部・学科)の教育の理念や特色に沿った入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に応じて,主体的,個性的選択を行うことが必要である。

  同時に,今後は,大学入学者選抜が学習の動機付けとして機能することに一定の限界があることも認識すべきであり,高等学校側でもそれに応じた学習指導上の工夫が必要である。

  受験生側も大学名でなく,自分の能力,適性や個性を伸ばす教育が行われているという基準で大学を選択すべきである。「入れる大学」ではなく,「入りたい大学」,「よい大学」よりも「自分に合った大学」「やりたいことのできる大学」を選択する方向に意識と行動を転換すべきであり,それができる環境が整いつつある。

  平成11年9月の大学設置基準等の改正により,それまでは努力義務とされていた大学の自己点検・評価が義務化されるとともに,この点検・評価の結果を公表することとされた。また,大学の教育研究活動等の状況について,国立大学ではその公表が義務付けられ,公私立大学でも積極的に提供するものとされている。さらに,第三者評価機関の設立に向けての準備も進められている。今後,自己点検・評価の一層の充実と情報公開,第三者評価機関による大学の評価が定着すれば,学部や学科の教育の具体的な在り方が,受験生,親,進路指導担当者をはじめとする高等学校教員,企業や社会にも広く知られるようになり,現在のように偏差値という単一の基準により「入れる大学」を選択するという意識も必ず変化するものと考えられる。

  高等学校関係者の中には,「大学入試が変わらなければ高校教育は変われない」という意見もあるが,大学全体としても,個々の大学においても鋭意改革が進められている状況を十分理解して対応することが望まれる。

  大学においても,より積極的に幅広く情報を発信することにより,高校生が「入りたい大学」,「自分に合った大学」についての考えを明確に持てるようにすることが必要である。

  高等学校での教育,大学入学者選抜,大学入学後の教育の在り方を一貫したものとしてとらえる中で,入学者選抜の在り方も各大学の役割,教育理念,目標の多様化に応じて多様なものとなるべきである。

  そして,各大学の入学者選抜において,それぞれの教育理念等にふさわしい資質を持った学生を適切に見いだすことができるよう,各大学の多様で自由な入学者選抜の設計を可能にすることが必要である。

  要は,各大学(学部,学科)がどのような理念に基づき,どのような学生であればその大学の目指す教育を実施できるかを明確に示して,選抜方法を責任を持って決めていくということであり,選抜基準自体は,主体的に決めればよい。ただし,その際,選抜基準に透明性を持たせることは不可欠であり,それが受験者に明確に示されていなければならない。

  また,実際に行っている選抜方法がそれぞれの大学等の教育理念等にふさわしい資質を持った学生を見いだす上で適切であるかどうかを入学後の教育内容と照らし合わせて検証し,その上で,入学者選抜の一層の改善に努めることや,学生の入学を認めた後の教育に責任を持つことが必要である。

  このようなことを勘案すれば,今後の入学者選抜の改善に当たっては,以下  のようなことに留意すべきである。


 (2)入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)の明示

  多様な後期中等教育機関と多様な大学とを接続していくに当たって大学入学者選抜は,それぞれの大学教育に必要なものとしてどのような能力を受験生に求めるのか,大学教育に必要な能力をどのように評価するのかをこれまで以上に明確に対外的に示していくことが望まれる。

  このため,大学は,受験生に求める能力,適性等についての考え方をまとめた入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確に持ち,これを対外的に明示するとともに,実際の選抜方法や出題内容等に反映させることが重要である。例えば,当該大学(学部・学科)の教育理念や教育内容をよく理解した上で,より高いレベルでの自己実現を図ろうとする情熱と明確な志望を持った学生や,十分な基礎学力を有し,かつ問題探求心・学習意欲・人間性に優れ,将来研究者となることに熱意と適性を有する学生などといったように,先ずは各大学が求める学生像を明確にすることが必要である。また,例えば,国際的に活躍できる人材を養成するという観点から高度な外国語能力を求める,豊かな教養を持ち社会に貢献する人材を養成するという観点から文化活動やボランティア活動の経験を求めるといったように,受験生に求める能力,適性等を明確に示した上で,リスニングテストを実施したり,多様な活動に関する自己推薦書を選抜資料として活用するなど,入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を実際の入学者選抜の方法等に反映させることが必要である。

  また,各大学の教育内容や教育理念は学部・学科ごとに異なり,受験生に求める能力,適性等も学部・学科ごとに設定されるべきものであることから,学部・学科等の募集単位ごとに入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を示した上で,多様な入試を行うことが必要である。この際,一つの学部・学科の中で異なる選抜方法や評価尺度を取り入れ,多様な観点から求める学生を見いだすことも考えられる。

  学生の側も,自らの将来の職業選択等を見据えつつ,各大学が提示する入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を参考とし,自らの能力・適性等に適合した大学,学部,学科等を選択していくことが求めらる。

  これまでの偏差値に基づく進路選択や選抜機能に偏った入学者選抜ではなく,学生の求めるものと大学が求めるものとの適切なマッチングが必要である。

  そして,入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)の明示を前提として,各大学(学部・学科)において,多様な入試を更に推進すべきである。

  その場合,大学によっては,入試科目の増加など受験生の負担の増加となるところや大幅に主観的な要素を取り入れた入試を行うところも出てくると考えられるが,こうしたことも各大学(学部・学科)の責任において行う多様な入試の一形態と考えられる。

  ただし,どのような入学者選抜を行うにせよ,大学側は,それに対する説明責任を十分に果たしていかなければならない。


 (3)「公平」の概念の多元化

  中央教育審議会では,これまでの学力試験による1点差刻みの選抜が,受験生にとって最も公平であるという概念を見直すよう呼び掛けてきたが,このような考え方は依然として根強く残っているように見受けられる。今後は,各大学がそれぞれの教育理念等にふさわしい資質を持った学生を見いだすための選抜を行うことが重要であり,そのためには,何が公平かについて,多元的な尺度を取り入れることが必要である。いわゆる1点差刻みの客観的公平のみに固執することは問題であると考えられる。例えば,学力検査のみの選抜を行うところがあってもよいし,それ以外の多様な方法による選抜を行うところがあってもよい。その際,教科・科目の基礎的な知識量だけでなく,論理的思考能力や表現力等の学習を支える基本的な能力・技能や大学で学ぶ意欲がどのぐらいあるかといった視点で判定することや,入学時点での学力だけでなく,意欲や関心の強さも含めて入学後に伸びる可能性も考慮に入れて判定することも必要である。

  大学側でも,自らの大学(学部・学科)の教育理念等に合致した入学者選抜の在り方を模索し始めたところであるが,一層の入学者選抜の改善を進めるためには,社会においても,選抜方法の多様化・評価尺度の多元化の意義を認め,大学側の多様な試みを支援することが望まれる。


 (4)受験教科・科目数の考え方

  また,「学校生活における [ゆとり] を確保するためには,学力試験における受験教科・科目数をできるだけ少なくしていくべきである」(中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」第2次答申)との方針については,当然必要な学習負担の軽減までを求めるものではなく,受験教科・科目数の削減を一律に求めているものではないことを再確認する必要がある。

  さらに,この方針は,高等学校段階における基礎的な学力を身に付けていることを前提とするものであり,履修科目の指定や高等学校の評価(調査書等)の充実・活用等,その削減に代わる措置が必要なことを含め,改めてその趣旨を徹底する必要がある。

  入試でどのような科目を課すか,何科目を課すかは,基本的には,各大学がそれぞれの教育理念等に照らして自主的に設定すべきものであり,各大学の教育に必要なものを課すことは当然であって,受験生確保の観点から設定することは適当ではない。また,大学入学後の教育に支障が生ずることがあれば,その教育に必要なものは受験教科・科目として課したり,大学入学後の教育をしっかり行うための体制を整えたりすることが必要である。

  従来,センター試験利用大学の個別試験の受験教科・科目数の削減を要請してきたが,上記のような観点や個別試験の受験教科・科目数は既に相当程度減少している実態も踏まえて,削減すべきとの方針はとらないこととし,(2)で述べた入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に基づき受験教科・科目を増やす大学があってもよいし,減らす大学があってもよいと考えるべきである。


第4節  接続を重視した具体的な改善方策


 (1)入学者選抜そのものの具体的な改善方策

1  各大学が多様な進学希望者の能力・適性等を適切に評価するための選抜方法の開発

  各大学が求める学生を適切に見いだすためには,多様な履修歴や経歴に応じた選抜方法の工夫が必要であり,また,受験生の能力・適性のみならず,学ぼうとする意欲や専攻分野への関心等も適切に評価することが必要である。このような観点から,近年各大学における導入が進み,受験生を多面的かつ丁寧に見るためのきめ細かな選抜方法とされているアドミッション・オフィス入試について,その在り方(目的,特色等)や社会において発展・定着させるための条件等について検討する必要がある。

  また,入学者選抜に当たって,学力だけでなく,学んだことを社会の進歩に生かそうとする公共心,高い倫理観に基づく人間性,職業体験や職業歴,環境・福祉・青少年活動・スポーツ・国際協力など多様な分野でのボランティア体験など幅広い要素を大学(学部・学科)の教育目標,教育内容等に応じて適切に評価することも必要である。例えば,医療・看護人材を養成する学部・学科であれば患者の立場に配慮できるなどの幅広い人間性が求められる。こうした資質をボランティア体験の有無や面接,小論文,グループ討議などの方法を通じて評価し,合否の判定の要素に加えることも考えられる。

  さらに,各大学が求める学生を見いだすために多様な選抜を行うためには,教科・科目の知識のみならず,高等学校での教科・科目の学習を通じて習得される論理的思考力や表現力,応用力等の大学での学習を支える能力・技能を評価する方法を確立することが必要である。このため,例えば,大学,高等学校側の協力を得て,大学入試センターにおいて教科・科目横断型の総合的な問題等についての研究を行うなど,評価尺度の多元化に対応した評価方法の研究を進める必要がある。


2  丁寧な入学者選抜を行うための体制の整備等

  アドミッション・オフィス入試に限らず,多様な入試やそれぞれの大学(学部・学科)が求める学生を見いだす努力を行おうとすれば,入学者選抜等についての高い専門性を有するスタッフを備えたアドミッション・オフィスの設置等,十分な体制を整えることが必要である。アドミッション・オフィス等の入学者選抜の中核的な組織においては,入学者選抜のみならず,高等学校や受験生に対する広報・相談活動や大学説明会,選抜方法の調査研究等,大学入学前の進路選択の段階から大学入学後の追跡評価まで,一貫した活動を行うことが求められる。


3  適切な出題

  大学入学者選抜においては,学習指導要領のねらいに沿った適切な出題が必要であり,そのねらいを達成するためにも,高等学校関係者の参画や高等学校関係者による評価が必要である。

  なお,大学が高度な教育を行う前提として高度な思考力,表現力,応用力等を求める場合には,求める能力,適性についての明確な基準を示した上で,学習指導要領に準拠しながら,そのような能力を見ることもあり得る。

  また,過去に出題された問題や類似した問題を出題することは,それを目にしたことがある受験生が有利になるという公平性の観点からこれまでは否定的に考えられてきた。しかし,このような制約が入試問題作成の幅を狭め,かえって枝葉末節にこだわった問題や難問・奇問の出題につながっている面も否定できない。良質な問題を出題するという観点から,過去に出題された問題等を出題することは,必ずしも否定されるべきではない。各大学の試験問題においては,適切な問題であれば,再利用できるようにすることも必要であり,入試の試験問題は初出問題でなければ不公平になるという社会の根強い意識を変えていくことが必要である。


4  高等学校での学習成果を多面的に評価する入学者選抜

  多様な能力・適性,目的意識や意欲・関心を有する受験生の中から大学が求める学生を適切に見いだす観点及び初等中等教育の改善の方向を尊重し一層助長するような入学者選抜の在り方を目指す観点から,高等学校における平素の幅広い基礎的な学習状況,様々な学習の成果や活動の状況などを総合的・多面的に評価するためには,高等学校における評価の充実を前提として,調査書等,高等学校の評価を一層活用していくことや,詳細な推薦書,様々な学習活動,文化・スポーツ活動,就業経験,活動経験の記録や成果物などの多様な評価資料を高等学校等から提出してもらい,これら資料の評価を他の選抜方法と適切に組み合わせて行うことも望まれる。


5  大学入試センター試験の改善

  大学入試センター試験は,入学志願者の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を判定することを目的として,各大学がそれぞれの判断と創意工夫に基づき適切に利用することにより,大学教育を受けるのにふさわしい能力・適性等を多面的に判定することに資するために実施しているものである。大学入試センター試験と各大学の個別試験との組合せにより,入試の多様化が進展するとともに,良質な問題を出題することにより各大学の個別試験の出題等にも好影響を与え,全体として難問・奇問が減少するなど大きな成果を挙げてきた。また,障害のある受験生への配慮についても,点字や拡大文字による出題等を率先して実施し,先導的な役割を果たしてきた。

  このような成果を受け,これまでも,利用大学数は増加しているところであり,今後とも各大学の入学者選抜における積極的な活用が望まれる。

  今後,第3節の「これからの選抜の在り方」で示したように,入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に基づき,各大学がそれぞれの教育理念等にふさわしい資質を持った学生を見いだし,大学と学生とのより良いマッチングを図るためには,各大学の多様で自由な入試設計を可能にすることが必要であり,このため,大学入試センター試験の果たす役割としては,大学に進学を希望する者の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を標準的な試験で判定することにより,各大学に受験生に関する信頼性の高い情報を提供することが重要になる。

  そして,各大学においては,入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に基づき,入学者選抜全体の中で,どのような能力を受験生に求めるのか,どのような選抜方法を行うのかを十分に吟味した上で,大学入試センター試験と個別試験との組合せを考えていくことが必要である。

  その際,各大学が受験生の多様な能力・適性等を評価し,それぞれの教育理念等にふさわしい資質を持った学生を見いだすためには,大学入試センター試験の利用方法は,素点による選抜だけでなく,大学入試センター試験の成績が一定の水準に達していれば,その後は,学力試験以外の選抜資料で合格者を決定する方法や,大学入試センター試験の成績を概括的にまとめ,それぞれに成績としては同質のグループとして扱った上で,そのグループに応じ異なった個別試験を実施する方法など,いわば資格試験的な取扱いを含め,各大学の多様な利用方法が,それぞれの創意工夫により推進されることが望ましい。

  なお,大学入試センター試験の成績表示を素点ではなく段階別表示とすることについては,各大学が受験生に最低限要求する当該試験の成績は各大学によって異なり,したがって,同質のグループの定義や扱い方も各大学によって異なってくるものであるため,大学入試センター試験の成績は素点表示とした上で,各大学においてこれを自由に利用しうるようにすることが適当である。

  また,高等学校の外国語教育において実践的なコミュニケーション能力の育成等が重視されていること,大学教育においても国際舞台で活躍できる能力の育成が求められていることから,リスニングテストの実施に向けて検討を進めることが必要である。この際,公平性を確保するため,高等学校の教室を活用するなど,高等学校との協力体制も含め,試験内容や実施方法等を検討することが必要である。

  さらに,高等学校での教科・科目の学習を通じて習得される論理的思考力や言語表現力等の大学での学習に必要な基礎的能力を判定するための教科・科目横断型の総合的な問題や総合的な試験等の在り方についても研究を進めることが必要である。

  大学入試センター試験の試験問題については,高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度の判定という目的に照らせば,点検のみならず作題への高等学校関係者の参加の促進を図ることが重要であり,そのための作題の負担の軽減も必要である。また,大学入試センター試験についても,良質な問題を出題するという観点に立てば,過去に出題された問題や類似した問題を再利用できるようにすることが必要である。その場合,良質な問題の再利用を可能にするために,大学入試センターにおいて,全国の大学と高等学校の協力を得て,良質な問題の収集と分析評価を行うことが必要である。

  上記のような方向も踏まえながら,大学審議会において,大学入学者選抜の改善,大学入試センター試験の改善について具体的な改善方策を検討することが望まれる。


 (2)入学者選抜の改善を促すための具体的方策

  以上のような大学入学者選抜の改善を促す取組として以下のようなことを推進すべきである。


1  入学者選抜についての評価の実施

  各大学の選抜方法等の評価については,各大学の教育の目標・理念等に照らしてふさわしい資質を持つ学生を見いだすものとなり得ているかという観点から評価を行うことが重要である。各大学の選抜方法等についての自己点検・評価を実施し,その結果の公表を推進することにより,入学者選抜方法の一層の改善を図っていくことが必要である。また,その際には,高等学校関係者等を含めた学外者による検証を推進することも望まれる。

  なお,試験問題については,全国の大学・学部等の多量の試験問題を単一の機関が評価を行うことは極めて困難であり,また,その評価は各大学の個々の教育内容に照らして行うことが必要であることから,各大学による自己点検・評価等の自主的な取組を基本とすべきである。


2  入学者選抜についての情報の公開・提供

  大学は公共的な機関であり,その社会的責務を果たす上で,入学者選抜の在り方についての基本的な考え方,理念等を自主的に公表していく必要がある。

  なお,試験成績などの個人への開示も検討する必要があり,大学入試センター試験の成績の個人への開示については,関係者の間で協議しつつ具体的な進め方について検討していくことが望まれる。


3  初等中等教育における進路指導の充実

  我が国では,自己の進路決定をできるだけ先に延ばそうとする傾向が見られ,このことが高等教育進学に際して目的意識を欠いたり,学習意欲の欠如につながったりする場合も少なくないと考えられるが,今後は,16歳,17歳までには進路について現実的な認識を持たせることが必要になる。初等中等教育においても,その各段階を通じて,自己の在り方生き方,進路についての学習や社会体験・職業体験・ボランティア体験の機会を持つこと等により,自分の能力,適性等を見極めさせ,初等中等教育の「仕上げ」の時期である高等学校卒業までには,自分の将来の進路に対して,明確な目的意識を持つことができるようにすることが必要である。これに関連して,生徒の個性を生かした主体的な学習を通して,学ぶことの楽しさや成就感を体験させる学習を可能とするとともに,将来の職業選択を視野に入れた自己の進路への自覚を深めさせる学習を重視する総合学科の一層の設置促進が求められる。

  また,大学の関係者,企業関係者の協力を得て,将来の進路,職業選択を見通した進路相談・進路指導の実施が求められる。


4  高等教育システムの柔構造化

  入学者選抜をめぐる問題を解決するためには,入学者選抜の在り方を変えていくだけでなく,高等教育全体を柔軟化していくことが必要である。大学入学について社会人特別選抜や編入学制度など多様な道が開かれ,いつでも学習ができるシステムに転換すれば,受験者の入試に対する過剰な意識が弱まり,適切な進路選択が実現するものと考えられる。

  また,他の大学等との単位互換を進めることは,高等教育システムの柔構造化に資するものでもあり,単位互換が進めば,どこの大学に籍を置いたかではなく,どこで何を学んだかがより重要視されることにもなる。同時に大学にとっても他の大学の学生を受け入れることが教育の活性化をもたらす。これらの意義にかんがみ,今後単位互換の一層の推進が期待される。


5  意識の変革

  現実には,大学入学者選抜は,多くの者にとって従前に比して,容易になりつつあり,受験を強く意識した勉強だけではなく,自分の将来を見据えた,個性的・主体的な選択に基づいた学習が可能となっている。その意味で今が入学者選抜についての意識転換の好機である。

  初等中等教育と高等教育双方の改革が進む中で,接続を重視した進路選択をすることが,結局は,本人の能力を最も伸ばすことにつながることを重視すべきである。

  企業も厳しい国際競争の中で,同一年齢一斉採用や年功序列といった従来の行動様式を見直し,学(校)歴や年齢,性別にとらわれない実力主義の採用,昇進制度をとらざるを得なくなっている。このような状況の中で,経済界から教育に関して様々な提言がなされており,教育が社会の関心にこたえて変わろうと努力がなされている。しかし,企業側では依然として大学名に偏った採用形態が残っているとの指摘がある。今後,企業は大学生に求める能力を明確に示し,大学の教育の実際や付加価値を理解し,評価した上で採用を決めてほしい。

  企業にこのような採用態度を求めるためには,大学においても責任ある授業運営や,成績評価基準の明示と厳格な成績評価を行うことが前提である。厳格な成績評価については,例えば,当該学生を直接担当した教員以外の者も評価に加わるといった,イギリスにおける  学外試験委員制度 を考慮した取組や,アメリカにおいて一般に行われている  GPA と呼ばれる制度を活用した取組なども参考にしつつ,各大学の状況に応じた厳格な成績評価の仕組みを整備していくことが必要である。

  大学入学者選抜の改善に当たっては,このような状況について国民に正確な理解を求めていくことが重要である。これによって,我が国特有の「学(校)歴意識」に基づき,一部特定大学の入学者選抜が全体にも影響を及ぼしている状況が改善されるものと考えられる。