戻る
初等中等教育と高等教育との接続の改善のための連携の在り方
第4章  初等中等教育と高等教育との接続の改善のための連携の在り方


第1節  これまでの取組と実績


  中央教育審議会では,第14期以来,教育における形式的な平等の重視から個性の尊重への転換や一人一人の能力・適性に応じた教育の実現を目指し,その実現のためには学校間の接続の改善を図ることが必要であるという認識に立って,大学・高等学校の入学者選抜の改善や教育上の例外措置等について提言してきた。

  これを受けて,各大学・高等学校においては,選抜方法の多様化やいわゆる「飛び入学」の導入等を行ってきたところである。また,科目等履修生や公開講座等を通じて,大学レベルの教育を受ける機会も提供されているところである。

  現在,高等学校,大学それぞれの多様化,個性化が進むとともに,進学率の上昇等により,大学に入学してくる学生の能力や履修歴等の多様化も進んでいる。このような状況の中,高等学校と大学の連携を拡大し,個人の持つ多様で特色ある能力や個性を効果的に伸ばしていくことが強く求められている。


第2節  基本的な考え方

  初等中等教育と高等教育の接続を考えるに当たっては,とかく入学者選抜に焦点が当たりがちである。しかし,入学者選抜の問題だけではなく,カリキュラムや教育方法などを含め,全体の接続を考えていくべきであり,初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて,一貫した考え方で改革を進めていくという視点が重要である。

  その際,重要なことは,高等学校以下の教育の問題あるいは大学入試の問題といういずれか一面のみから論ずるのでなく,初等中等教育と高等教育がそれぞれ独自の目的や役割を有していることを踏まえつつ,高等学校と大学の両者がいかにしてそれぞれの責任を果たしていくかという観点から検討を行うべきである。その上で,学生が高校教育から大学教育へ円滑に移行できるよう,両者の教育上の連携を拡大するとともに入学者選抜の在り方を改善することが重要である。これらの観点を踏まえ,次のような具体的な教育上の連携方策が考えられる。


第3節  具体的な教育上の連携方策

  (1)高等教育を受けるのに十分な能力と意欲を有する高等学校の生徒が大学レベルの教育を履修する機会の拡大方策


中高一貫教育の導入や新学習指導要領の実施などにより高等学校の多様化と選択幅の拡大は更に進むものと考えられる。この結果,特定の分野について高い能力と強い意欲を持ち,高等学校レベルの内容にとどまらず様々な教育を受けることを希望する生徒が増加することが予想される。このため,このような生徒が大学レベルの教育を履修する機会を拡大することが必要である。

    既に,高等学校側において生徒の学校外における学修の単位認定の対象を拡大する制度改正を平成10年度に行い,この一環として,大学等での科目等履修生,研修生又は聴講生としての学修について高等学校の単位として認定する道を開いているところである。

    各高等学校においては,この趣旨を踏まえ,大学側と協力し,積極的に履修の機会を与え,単位認定を行うことが望まれる。

    一方,大学においては,特定分野で卓越した能力を持つ高校生に機会を提供するという視点にとどまらず,専門的な事項について強い意欲や関心を持つ生徒に高等教育機関が提供する多彩かつ多様な教育に触れる機会を広く提供するという視点が重要である。

    具体的には,各大学では,科目等履修生制度を活用して,積極的に高校生が大学レベルの教育を履修する機会を拡大することを検討すべきである。その際には,特に高校生向けに夏季等の休業期間中の集中講義の形態をとったり,大学に入学後にこれを単位認定するなど,各大学において高校生が履修しやすいような工夫を行うことが求められる。これらの取組により,高校生の大学レベルの学習機会を拡大するため,高等学校と大学がより一層連絡を密にしていくことが必要である。

  また,各大学が公開講座や  SCS  等の通信衛星による教育などを活用して,高校生に大学の持つ幅広い教育機能を提供すること等も積極的に取り組んでいくべきである。さらに,近隣の高等学校と大学が連携して,大学の教官が高等学校を訪れ,専門分野の学問の紹介や講義を行うなどの試みも考えられる。

いわゆる「飛び入学」については,中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」第2次答申での提言を受け,平成9年の学校教育法施行規則の改正により,数学と物理の分野について,17歳で大学に入学する途が開かれており,千葉大学で10年度,11年度に各3名の入学者があったところである。今後は,この制度の活用の成果を検証しつつ,数学,物理以外の分野への拡大の可能性について,実証的な研究を進めていく必要がある。


  (2)大学がその求める学生像や教育内容等の情報を的確に周知するための方策

    大学は,第5章第3節(2)で述べる入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)をはじめ,教育の理念と目標,内容と方法,教育課程の特色,教員の研究実績,教育指導体制,教育設備,成績評価の方法,就職・進学状況などについて適時的確に情報を公開し,積極的に提供を行っていく必要がある。

    各大学は,これまでも印刷媒体などを通じて,それぞれの施設や設備,教育方針,入学者選抜,教育内容等に関する情報を高校生や親,高等学校関係者に周知する努力を行ってきた。さらに,最近はキャンパスの見学会・模擬講義やインターネットのホームページ,CD−ROMなどのマルチ・メディアを通じた情報提供なども進められつつある。今後とも,インターネット等を含め,更に多様な方法により,幅広く関係者に情報提供することが望まれる。この際,大学が受験生等に知らせたい情報だけでなく,高等学校や受験生などが主体的な進路選択をする上で真に必要な情報を積極的に提供することが望まれる。また,大学の授業がどのようなものなのかを実際に体験するような模擬授業や体験入学も有効と考えられるので,今後その拡大が望まれる。

  また,各大学における情報提供やインターネットのホームページの整備を一層進めるとともに,現在,キャプテン通信網を通じて全国すべての国公私立大学の大学案内や入試の情報を提供している,大学入試センターの   ハートシステム  をインターネット化し,各大学のホームページにリンクさせるなどの情報提供の工夫・充実や進学希望者の意見を反映して情報提供システムの改善を図ることなどにより,高等学校における進路指導や学習指導,高校生の進路選択や学習を支援することが必要である。


  (3)高等学校における生徒の能力・適性・意欲・関心等に応じた進路指導や学習指導の充実

    高等学校と大学の接続の時点での現状の問題点は,就職か進学か,進学の場合は大学か専門学校か,どの大学のどの学部・学科かなどについて,18歳の時点での選択が,その後の職業生活や社会生活に重大な影響を及ぼすとの過剰な意識があり,そのことが子供たちや親に大きな心理的圧迫を与えていることである。しかし,社会は生涯学習社会に向かって大きく変化しつつある。意欲と一定の能力さえあれば高等教育を受ける機会が急速に拡大しており,生涯にわたっていつでも学習ができる教育システムに変わりつつある。

    高等学校においては,こうした状況を認識するとともに,初等中等教育の「仕上げ」の期間であることを踏まえ,生徒が進学するか,就職するかを問わず,将来の進路や職業選択を見通した進路相談・進路指導を行う必要があり,また,生徒の進路希望を踏まえた学習指導を行うことが必要である。

    この際,大学の教員や企業の協力を得て,高等教育の具体的な内容や,将来の職業選択との関係,企業の在り方や職業生活について,実際的・体験的な情報を提供してもらったり,体験入学や就業体験の機会の拡充を図ることが有効である。さらに,高校生,親,進路指導担当教員等が,進路や職業,職業選択のために必要とされる能力や資格などに関する情報を,全国レベルで適時的確に入手していくことができるようにすることが求められる。

    学習指導の面では,大学が入学者受入方針を明確に示すことに呼応し,高等学校においては,大学入学者に求められる能力,資質,態度等を身に付けられるよう教育課程を編成し,それぞれの生徒が将来進もうとする分野や大学の教育内容に応じた科目を履修するよう適切な履修ガイダンスを行うことが必要である。高等学校における選択幅の拡大は,単に受験科目だけを意識した履修に陥ることを許容するものではなく,将来の進路を見据え,生徒が自らの進もうとする分野の基礎となる能力を十分伸ばすためのものであることに留意しなければならない。その際,論理的思考力,応用力など現行の学習指導要領で課題とされている能力の育成に関し,その指導と評価の方法について研究開発を行うことも必要である。

    また,「総合的な学習の時間」を生かすことなどにより,大学の求める「課題探求能力」の基礎となる,学び方やものの考え方,問題解決能力などを身に付けさせることが必要である。


  (4)入学者の履修歴等の多様化に対応して大学教育への円滑な導入を図る工夫
    大学においては,これまでの高校教育におけるカリキュラムの多様化や,新学習指導要領において,高等学校段階でのカリキュラムに大幅に選択制を取り入れられることを踏まえ,入学してくる学生の履修歴等の多様化が一層進むことに対応することが必要である。例えば,入学後の教育に必要な科目については,入学試験に課す,あるいは,高校での履修を求める,更には,入学後は必要に応じ学生の履修歴等に対応して大学教育の基礎を教えるなど,学生に対するきめ細かな配慮や様々な工夫が必要である。

    さらに,入学直後の,学習方法,ディベート法,論文作成法など自己選択,自発的学習を前提とした大学教育に円滑に移行するための方法論からなるガイダンスも充実を図っていく必要がある。

また,各大学が学生の入学を認めた場合には,その教育に責任を持つことは当然であり,学生の履修歴等に応じ,大学教育の基礎として足りない部分はこれを補うことも必要に応じて検討すべきである。その際には,高等学校側の協力も得て補習授業を実施することも考えられる。

    大学を卒業した後は大部分が職業人となることを考慮すれば,大学においては,学生受け入れ後に卒業時の進路選択や職業選択までを見通した丁寧な履修相談,履修指導を実施すべきである。また,履修相談,履修指導を有効に行うため,入学時からの指導教官制(チューター)を導入することやオフィス・アワーを設けること,インターネットなどを活用して学生が常時履修相談ができる体制を整備することなどについて検討すべきである。

    同時に,多様な経歴を持つ人の経験を積極的に教育に生かしていくために,例えば専門高校出身者にものづくりなどの実験・実習の中心になってもらったり,社会人に実社会での経験や知識・技術を話してもらうなど,様々な教育上の工夫を各大学がそれぞれの教育理念等に応じて行うことが望まれる。


  (5)高等学校関係者と大学関係者の相互理解の促進

    初等中等教育,高等教育でそれぞれ改革が進んでいるにもかかわらず,必ずしもそれについての共通理解はなされておらず,お互いに相手側の改革が十分でないと考えている面が見られる。こうした状況を改善し,双方の相互理解を促進するため,例えば,都道府県単位で高等学校関係者と高等教育関係者が一堂に会し,高校教育の実情や最近の改革の状況,高等教育改革の状況などについて情報交換し,理解を深める「連携協議会」等の開催を推進すべきである。このことにより,双方の教育の整合性の向上や高等学校以下の教育の改革を踏まえた入学者選抜の改善が期待される。

    さらに,(1)で述べたように,大学の教員が高等学校において,学問の紹介や講義を行うことによって,高等学校で大学の学問に触れた生徒が学問の面白さに目を開かれてその後の学習の動機付けとなるようにすることや,逆に,大学での補習授業に高等学校教員が協力することなどの試みを一層推進する必要がある。これにより,教育を担う教員一人一人が,相互の教育の実情を肌で感じ,体験することが可能になるという大きな効果も期待できる。