答申の骨子
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中央教育審議会

  


「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」
<中央教育審議会第一次答申の骨子>


−子供に[生きる力]と[ゆとり]を−


はじめに

  中央教育審議会は、平成7年4月、文部大臣から標題の諮問を受け、検討を行ってきた。
  本年6月の「審議のまとめ」の公表を経て、ここに第一次答申をとりまとめた。
  第一次答申の構成は、次のとおり。
    第1部  今後における教育の在り方
    第2部  学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方
    第3部  国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方
  今後、中央教育審議会は、「一人一人の能力・適性に応じた教育と学校間の接続の改善」を中心に審議を行う予定。

第1部  今後における教育の在り方

[子供たちの生活の現状等]

○  積極面もある一方、ゆとりのない生活、社会性の不足や倫理観の問題、自立の遅れ、健康・体力の問題などの問題が存在。
○  家庭や地域社会の教育力は低下の傾向。
○  これからの社会は、国際化、情報化、科学技術の発展などが一層進展変化の激しい時代、先行き不透明な時代

[今後の教育の基本的方向]

○  豊かな人間性など時代を超えて変わらない価値のあるものを大切にするとともに、社会の変化に的確かつ迅速に対応する教育が必要。
○  これから求められる資質や能力は、変化の激しい社会を[生きる力]
    ・  自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力
    ・  自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性とたくましく生きるための健康や体力
○  今後の教育では学校・家庭・地域社会全体を通して、[生きる力]をはぐくむことを重視。[生きる力]をはぐくむためにも、個性尊重の考え方は一層推進される
    べき。
    <[生きる力]をはぐくむ視点>
    ・  学校・家庭・地域社会の連携とこれらのバランスのとれた教育の推進、家庭や地域社会における教育の充実
    ・  子供たちの生活体験・自然体験等の機会の増加
    ・  [生きる力]の育成を重視した学校教育の展開
    ・  子供と社会全体の[ゆとり]の確保(子供に[生きる力]をはぐくむためには、子供たちをはじめ、社会全体に[ゆとり]をもたせることが必要)

[特に重要な課題]

○  過度の受験競争の緩和(今後、本審議会において引き続き検討)
○  いじめ・登校拒否の問題
    ・  いじめ・登校拒否の問題は、深く現代社会の在り方にかかわる、社会全体に投げかけられた課題。その背景についての一つの見方として我々の社会が「同質にとらわれる社会」であるということ。
    ・  同質志向を排除して、個を大切にし、個性を尊重する態度や、その基礎となる価値観の育成。
    <取  組>
    ・  家庭・学校・地域社会が緊密に連携した取組
    ・  家庭での基本的倫理観の涵養、地域ぐるみの子供の育成
    ・  存在感や自己実現の喜びを実感できるような一人一人を大切にした学校づくり
    ・  学校の一丸となった対応、いじめは絶対に許さないという毅然とした姿勢の確立
    ・  専門家の協力を得た学校の教育相談体制の充実と学校外の教育相談体制の整備
    ・  家庭等と連携した開かれた学校運営(子供の「転学」の一層の弾力化、適応指導教室の積極的活用、登校拒否の子供のためのバイパスとして「中学校卒業程度認定試験」の有効活用について検討など)
    ・  登校拒否の子供の指導に当たっては、もとの仲間や生活に戻ることのみにこだわることなく、子供が登校拒否を克服する過程でどのように個性を伸ばし、成長していくかという視点を重視し、ゆっくり時間をかけて取り組むことも重要

第2部  学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方


第1章  これからの学校教育の在り方

○  [生きる力]の育成を基本とし、知識を教え込むことになりがちであった教育から、自ら学び、自ら考える教育への転換を目指す。学校はその実現のため、[ゆとり]のある教育環境で、一人一人の子供を大切にした[ゆとり]のある教育活動を展開。

[次の教育課程の改訂に当たって]

○  教育内容の厳選と基礎・基本の徹底
    ・  教育内容を基礎・基本に厳選し、授業時数を縮減する(単なる知識や暗記に陥りがちな内容、学校段階・学年間・教科間で重複する内容などを精選)。
    ・  新たな社会的要請に対応する内容を学校教育で扱うこととすることについては、その必要性を十分吟味し、新たな内容を取り入れる場合には、必要性が相対的に低下した内容を厳選。
○  一人一人の個性を生かすための教育の推進(教育課程の弾力化、指導方法の改善、特色ある学校づくりの一層の推進)
    ・  中学校−各教科等の授業時数の選択幅の拡大など。
    ・  高等学校−必修教科・科目の内容及びその単位数の削減、生徒の選択の一層の拡大。ボランティア、大学の単位などについて、各校の措置により、単位認定の道を開くことを積極的に検討。総合学科を当面通学範囲に必ず用意されるよう整備を推進するなど。
○  豊かな人間性とたくましい体をはぐくむための教育の改善
    ・  道徳教育、特別活動や各教科などあるゆる教育活動を通じて豊かな人間性をはぐくむための教育を一層充実。その際、特にボランティア活動、自然体験、職場体験などの体験活動を充実。
    ・  心身の健康増進活動や日常的スポーツ活動の実践を促し、生涯にわたり健康な生活を送るための基礎を培う。
○  横断的・総合的な指導を一層推進するため、各教科の教育内容を厳選することにより時間を生み出し、一定のまとまった時間(「総合的な学習の時間」)を設ける
    この時間における学習活動としては、国際理解、情報、環境、ボランティア、自然体験などについての総合的な学習や課題学習、体験的な学習等が考えられるが、子供たちの発達段階や学校段階、学校や地域の実態等に応じて、各学校の判断によりその創意工夫を生かして展開。その際、試験の成績によって数値的に評価は行わない。

[将来における教育課程の改訂のために]

○  教科の再編・統合を含めた将来の教科等の構成の在り方について、早急に検討に着手することが必要。このため、教育課程審議会にそれらの在り方を継続的に調査審議する常設の委員会を設け、その審議の成果を施策に反映する。

[新しい学校教育の実現のための条件整備]

    新しい学校教育の実現のため、種々の条件整備を図る。
○  教員配置の改善(教員一人当たりの児童生徒数を欧米並の水準に近づける)
○  教員の資質・能力の向上(教員養成・研修の改善充実、教員採用の改善。
    特に、教員養成については、教育相談を含めた教職科目の履修の在り方、教育実習の在り方、修士課程を活用した養成の在り方等、その改善充実について検討することが必要。また、教員養成大学の教育・研究の改善を図る。)
○  学校外の社会人の活用(特別非常勤講師制度の活用、ALT、SEの増員等)
○  学校施設など教育環境の整備(ゆとりと潤いのある環境、情報ネットワーク環境の整備等)
○  関係機関や専門家(スクールカウンセラー等)との連携、スクールカウンセラーの配置の一層の充実・促進
○  幼児教育の充実(幼稚園の地域における幼児教育センターとしての機能の充実など幼児期の教育について幅広い観点から検討することが必要)
○  障害等に配慮した教育の充実(障害のある子供に[生きる力]を培い、可能な限りの社会的自立や参加を実現させる観点に立った、教育内容・方法の改善充実、教育条件の整備、交流教育の推進、幼稚部・高等部の整備、職業教育の充実、教員の養成・研修の充実等)

第2章  これからの家庭教育の在り方

○  子供の教育や人格形成に対し、最終的な責任を負うのは家庭。家庭教育は、家族との触れ合いを通じ、[生きる力]の基礎的な資質・能力を育成する、すべての教育の出発点
○  家族が一緒に過ごす時間を確保することが重要。このため、社会全体における[ゆとり]を確保するための条件整備を推進。
○  父親の家庭教育に対する責任と企業へ協力を呼びかけ。

[家庭教育の充実方策]

○  家庭教育に関する学習機会の充実(新しいメディアを活用した学習機会の提供など)
○  日常的な生活圏の中での子育て支援ネットワークづくりの推進
○  親子の共同体験(ボランティア活動など)の機会の充実
○  父親の家庭教育参加の支援・促進(職場における家庭教育の学習機会の提供など)

第3章  これからの地域社会における教育の在り方

○  子供たちに[生きる力]を育成するため、地域における様々な生活体験、社会体験、自然体験を活発化

[地域社会における教育の充実方策]

○  社会全体に[ゆとり]を確保し、地域社会の主体的・自主的活動を活発にするという視点に立って条件整備を推進。
○  活動の場の充実(遊び場の確保、学校施設の活用、社会教育・文化施設の整備充実と新たな事業展開、新たなスポーツ環境の創造)
○  活動の機会の充実
    ・  地域ぐるみの活動の推進、祭りや伝統芸能の継承・復活など
    ・  ボランティア活動の促進
    ・  都市部と過疎地域等との交流活動の推進
    ・  長期間の自然体験活動の充実
○  青少年団体等の活動の振興
○  指導者の養成・確保
○  情報提供の充実
○  「第4の領域」の育成(地縁的な結びつきによるものだけでなく、同じ目的や興味・関心に応じて結びつき、子供たちを育てる教育の場の積極的な育成)

[地域社会における教育を充実させるための体制の整備]

○  日常生活圏における子供たちの教育の充実のため、市町村教育委員会の活性化。
○  地域社会における教育の充実を地域ぐるみで行う方策として、「地域教育連絡協議会」(市町村教育委員会等が核となり、地域の様々な機関が参加して連絡・協議を行う)や「地域教育活性化センター」(公益法人等として、連絡・協議のほか、
    事業を実施)の設置を提唱。
○  国・都道府県・市町村の連携・協力の下、体系的な施策を推進。民間教育事業者による文化・スポーツ等の活動との連携の推進。

第4章  学校・家庭・地域社会の連携

○  学校・家庭・地域社会相互の連携の一層の促進。
○  社会に対して「開かれた学校づくり」の推進(開かれた学校運営、地域の人々や父母の非常勤講師・学校ボランティアとしての参加の促進、学校施設の開放と管理運営体制の整備、余裕教室の活用、学校と社会教育施設等との複合化についての検討等)。
○  学校のスリム化
    ・  本来家庭や地域社会で担うべきものを学校が担っている現状の改善
      (日常生活におけるしつけや、学校外での巡回補導指導などは、家庭や地域社会が担っていく)。
    ・  部活動については、教育活動の一環としての意義を持つことは評価しつつ、勝利至上主義の一部の行き過ぎは改善を図る必要。また、学校や地域の実態を踏まえて、地域社会にゆだねることが適切かつ可能なものはゆだねていくことも必要
    ・  行事や会議等の精選。
○  学校外活動を学校においても評価する方法などを検討。
○  PTA活動の活性化(夜間・休日での開催、OB・OGの参加・協力等)
○  教育委員会の活性化(教育長への適材の確保、小規模市町村教委の体制充実等について検討)
○  マスメディアや企業に対し子供の育成に積極的に協力していくことを要請。

第5章  完全学校週5日制の実施について

○  学校週5日制は、子供たちに[ゆとり]を確保し、[生きる力]をはぐくむという今後の教育の在り方と軌を一にするものであり、教育改革の一環として21世紀初頭を目途に完全実施を目指す
○  教育内容を厳選するなど学習指導要領を改訂する際には、学校週5日制の円滑な実施に資するよう、全体として授業時数の縮減を図る
○  学力の評価は、単なる知識の量の多少でなく、[生きる力]を身に付けているかどうかによってとらえる

[完全実施に当たって特に留意すべき事項]

○  学校外活動の充実と家庭や地域社会の教育力の充実
    ・  完全学校週5日制の実施に向け、文部省が関係省庁と連携し、学校外活動を提供する体制整備についての指針を作成し、それを参考に市町村教育委員会が実施プランを作成。その際に、幼稚園や小学校低学年で土曜日に保護者が家庭にいない子供、障害等のある子供に対する配慮が必要。
○  過度の受験競争の緩和と[ゆとり]の確保
    ・  過度の受験競争の緩和のための方策については、本審議会において引き続き検討。
    ・  土曜日の塾通いについて、親の理解や塾関係者の節度ある行動を要望。
    ・  土曜日などの部活動について、行き過ぎのないよう、適切な指導を要望。
○  国公私立の各学校種について、全国的に統一して実施することが望ましい
      (国公立学校と歩調を合わせた導入を私立学校に対して強く要望)。

第3部  国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方


第1章  社会の変化に対応する教育の在り方

○  <基本的な視点>
    ・  [生きる力]の育成の重視。
    ・  教育内容の厳選、ゆとりのある教育活動の展開。
    ・  子供たちの感動を覚え、疑問を感じ、推論するなどの過程を大切にした指導の重視。
    ・  各教科、道徳、特別活動などの相互の連携の強化、カリキュラム全体を工夫した教育活動の展開。
    ・  教科の枠を超えた横断的・総合的な教育活動の展開。

第2章  国際化と教育

○  国際理解教育の充実
    ・  広い視野とともに、異文化に対する理解や、異なった文化を持つ人々と共に協調して生きていく態度の育成。
    ・  我が国の歴史や伝統文化などへの理解を深め、日本人としての自己の確立を重視。
    ・  各教科、道徳、特別活動などの関連を図った国際理解教育の推進と体験的な学習や課題学習の重視。
    ・  外国の学校との姉妹校提携や留学など多様な国際交流活動の実施やインターネットなどを活用した国際交流の推進。
    ・  教員の海外派遣の拡充など養成・研修の充実による教員の指導力の向上。
○  外国語教育の改善
    ・  リスニングやスピーキングなどのコミュニケーション能力の育成を重視した外国語教育の改善(カリキュラム・指導方法の改善、教員の指導力の向上、入学者選抜の改善など)。
    ・  小学校における外国語教育については、教科として一律に実施する方法は採らないが、国際理解教育の一環として、「総合的な学習の時間」や特別活動などで地域や学校の実態等に応じて、英会話等に触れる機会や外国の生活・文化に慣れ
      親しむ機会を持たせることができるようにする。その際は、ネイティブ・スピーカーなどの活用を図ることが望まれる。
○  海外に在留している子供たちや帰国した子供たち、日本に在留している外国人の子供たちに対する教育の改善・充実

第3章  情報化と教育

○  情報教育の体系的な実施
    ・  情報や情報機器を主体的に選択・活用し、情報を積極的に発信していくための基礎的な資質や能力「高度情報通信社会における情報リテラシー」の育成
    ・  小・中・高等学校を通じ系統的・体系的な情報教育の推進
    ・  コンピュータやソフトウェアの整備・充実
○  情報通信ネットワークの活用による学校教育の質的改善
    ・  情報通信ネットワークを本格的に活用して、学校をはじめ様々な機関とネットワークを形成し、教育活動の改善・充実、へき地や病気療養児への学習への積極的な活用などを図る。
    ・  近い将来、すべての学校がインターネットに接続することを目指し、インターネット利用の実践研究などを進める。
○  高度情報通信社会に対応する「新しい学校」の構築
    ・  学校の情報通信関連施設・設備全体の高機能化・高度化、様々な機関等とのネットワークの形成等を通じ、自らの情報を積極的に発信していく開かれた学校を構築
    ・  教員の養成・研修の充実と情報処理技術者等の専門家の活用の推進
    ・  教育における中長期的なマルチメディアに関する総合推進プログラムの策定
    ・  教育等に関する情報を収集し、データベース化し、全国に提供する教育情報のナショナルセンター機能の整備
○  人間関係の希薄化や自然体験の不足など情報化の「影」の部分を克服しつつ、心身ともに調和のとれた人間の育成、情報モラルの育成に努める。

第4章  科学技術の発展と教育

○  科学的素養の育成に関する教育の改善
    ・  子供たちの自由な発想を大切にし、子供たちの「発見する喜び」や「創る喜び」などの体験を通して、科学に関する興味・関心を高め、子供たちに科学的なものの見方や考え方などの豊かな科学的素養を育成。
    ・  理科だけでなく、他の教科との関連を図りながら、科学と人間や自然とのかかわりなどについての指導を推進。
    ・  教員の養成・研修の充実など教員の指導力の向上や研究者・技術者など社会人の活用。
    ・  観察・実験用設備の整備や「科学学習センター」の整備など学習環境を整備。
    ・  科学的なものの見方や考え方を適切に評価できるような入学者選抜の改善。
○  地域社会における様々な学習機会の提供
    ・  子供たちが直接物に触れ、動かすなどの五感を使った体験ができるよう、科学博物館などを整備。
    ・  子供たちが科学の面白さや魅力に触れることができるよう、大学・企業等の施設の見学機会の提供やセミナーの開催の促進。
    ・  様々な学習機会についての情報提供体制の整備。

第5章  環境問題と教育

○  環境教育の改善・充実
    ・  「環境から学ぶ」「環境について学ぶ」「環境のために学ぶ」という視点に立った環境教育の推進。
    ・  各教科、道徳、特別活動などの関連を図った環境教育の推進と体験的な学習の重視。
    ・  環境や自然を大切にする心をはぐくみ、環境保全やよりよい環境を創造するために主体的に行動する実践的な態度や資質・能力を育成。
    ・  教員の養成・研修の充実など教員の指導力の向上や自然保護関係者など社会人の活用。
○  地域社会における様々な学習機会の提供
    ・  自然観察や野外活動など自然に親しむ機会の充実。
    ・  少年自然の家等での環境学習教室の開催など多様な体験的な学習機会の充実。
    ・  大学・企業等による環境問題の学習機会の提供。
    ・  様々な学習機会についての情報提供体制の整備。
    ・  一人一人が身の回りのできることから環境問題に取り組むためにもボランティア活動を奨励。

今後の検討課題

○  第一次答申後、高等学校教育の改革・大学教育の改革、大学・高等学校における入学者選抜の改善、いわゆる中高一貫教育の導入や教育上の例外措置などをはじめ「一人一人の能力・適性に応じた教育と学校間の接続の改善」についての審議を開始するとともに、国際社会で活躍する人材の育成や創造性の涵養などを含め「国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方」について、引き続き審議。





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