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中央教育審議会

  

第5章  環境問題と教育

[1]  環境問題と教育

  社会経済活動の拡大や人口の増大は、環境の持つ復元能力を超え、地球温暖化、オゾン層の破壊、砂漠化、熱帯雨林の減少、野生生物の種の減少、酸性雨問題など人類の生存基盤である地球環境そのものに取り返しのつかない影響を及ぼすおそれを生じさせている。こうした近年における地球環境問題の深刻化は、我々に改めて地球の有限性について気づかせると同時に、大量生産・大量消費・大量廃棄型の現代文明と生活様式の在り方に問いを投げかけている。また、大気汚染、騒音問題、水質汚濁やごみ問題など都市・生活型公害の問題も依然として大きな課題となっている。
  このような環境問題に対応するには、地球規模で協調して取組を進める必要があり、この面においても、我が国は、国際社会に貢献していく必要がある。また、我が国自身の問題として、我が国の社会経済システムの在り方そのものや生活様式を、省資源、省エネルギー、リサイクルを図ることなどによって、環境への負荷が少ないものへと変革することが重要である。そして、今、一人一人が「宇宙船地球号」の乗組員の一員であるという全地球的な視野を持つと同時に、人間と環境とのかかわりについて理解を深め、自然と共生し、いかに身近なところから、具体的な行動を進めるかが極めて重要な課題となっている。
  このように環境問題は、極めて幅の広い問題であり、したがって、環境教育も、その対象は身近な身の回りの問題から地球規模の問題までの広がりを持ち、その学習領域も自然科学・社会科学の分野から一人一人の感性や心の問題にまで及んでいる。また、ある意味で、一人一人の子供たちの生き方にもかかわる課題でもある。このような環境教育の特質を考えると、それは単に、学校教育における取組のみをもっては、到底そのねらいを達成できるものでなく、幼少年期からの、学校、家庭、地域社会のそれぞれの場における様々な取組によって、初めてその実効が期せられるものである。
  我々は、このような認識の下に、子供たちが、豊かな自然や身近な地域社会の中での様々な体験活動を通して、自然に対する豊かな感受性や環境に対する関心等を培う「環境から学ぶ」ということ、環境や自然と人間とのかかわり、さらには、環境問題と社会経済システムの在り方や生活様式とのかかわりについて理解を深めるなど「環境について学ぶ」ということ、そして環境保全や環境の創造を具体的に実践する態度を身に付けるなど「環境のために学ぶ」という視点が重要であると考えた。そして、特に次のような点に留意して、教育を進めていく必要があると考えた。
  (a) 初等中等教育においては、子供たちの発達段階を十分考慮しつつ、各教科などの連携を図り、環境への理解を深め、環境を大切にする心を育成するとともに、一人一人が身の回りのできることから、環境の保全やよりよい環境の創造のために主体的に行動する実践的な態度や資質、能力を育成していく必要があること。
  (b) 子供たちに、環境を大切にする心や、環境を保全し、よりよい環境を創造していこうとする実践的な態度を育成するため、地域社会において、様々な環境にかかる学習機会の提供に努める必要があること。

[2]  環境教育の改善・充実

  地球環境問題をはじめとした環境問題に対して関心が高まる中、近年、各学校において、環境教育に対する取組が進められてきている。しかし、率直に言って、その取組の歴史は浅く、まだ各学校が十分な実践の経験を持っているとは言えない。これから、環境教育はますますその重要性を増していくとの認識の下に、各学校においては、他の学校における取組や様々な機関、団体、地域などでの実践事例を踏まえ、それぞれの学校や地域の特色などを生かした具体的な取組が積極的に進められていくよう期待するものである。
  我々は、上述のように、環境教育の視点を大きく三つに分けて考察したが、それぞれを通じて、特に留意すべき点は次のようなことである。
  まず第一は、繰り返し指摘しているように、環境問題が学際的な広がりを持った問題であり、したがって、各学校において環境教育を進めていくに当たっても、各教科、道徳、特別活動などの連携・協力を図り、学校全体の教育活動を通して取り組んでいくことが重要だということである。
  その際、各学校では、教員間の共通理解を図り、各教科、道徳、特別活動などのそれぞれにおける指導内容と、それらの相互の関連付けを明確にするとともに、子供たちの発達段階や学校の周りの環境の特色等を十分に踏まえて、環境教育に取り組むことが大切である。
  第二は、環境や自然と人間とのかかわりについて理解を深めるとともに、環境や自然に対する思いやりやこれらを大切にする心をはぐくみ、さらに、自ら率先して環境を保全し、よりよい環境を創造していこうとする実践的な態度を育成することが大切だということである。
  環境教育を通して、子供たちは、環境問題が、その原因においても、またその解決のためにも、科学技術と深くかかわっており、その意味で、科学的なものの見方や考え方を持たなければならないことを学ぶ。また、子供たちは、環境問題が、人類が生存し、生産活動を行っていること自体に由来するものであり、資源やエネルギーの大量消費、それに伴う多量の廃棄など、現代文明や現代の生活様式に深くかかわっていることなど、人間と環境とのかかわりについて理解を深める。さらに、豊かな自然や快適な環境の価値についての認識を高め、省資源、省エネルギー、リサイクルを図ることなどによって、社会全体の生活様式や経済活動を環境に配慮したものに変革し、循環を基調とする環境保全型社会を形成していくことの大切さを学ぶ。
  このようなことをしっかりと知ることももちろん重要なことである。しかし、さらに大切なことは、これらを単に知識として知っているということではなく、こうした理解を踏まえて、自らの日常活動が環境問題と密接に関連していることの認識を持つとともに、環境の保全やよりよい環境の創造のために、身近なところから、何らかの行動をしようとする心や実践的態度を育成することである。
  第三は、環境教育においては体験的な学習が重視されなければならないということである。このことは、学校の教室での授業においても留意されるべきことであるが、時には、教室を出て、豊かな自然の中で、あるいは地域の中で、環境の大切さを実感しながら、環境について実際にどのようなことが問題となっており、その問題の解決に向け、どのような取組がなされているか、そして、自分たちは何をしなければならないのか等を学べるような学習活動が大いに行われるべきなのである。
  また、こうした活動においては、地域の実態に応じて、社会教育施設等の関係機関や関係団体との連携を図ることも積極的に行われるべきであろう。さらに、現在、幾つかの中学校において、子供たちが主体となり、環境観測と世界的な環境データの共有を行うことを目的に、気温、降水量、水温等について観測・調査し、そのデータをインターネットを通して交換し、国際協力をするという「環境のための地球規模の学習及び観測プログラム (GLOBE計画)」への取組がなされている。環境問題が地球全体の問題であることを考えると、こうしたインターネットなどの情報通信ネットワークを活用して、世界の様々な地域の学校や施設などとの交流を進めながら、環境教育を行っていくことも有意義なことと考えられる。
  また、環境教育が、このように総合的・横断的な特色を持ったものであることを考えると、学校や地域の実態等に応じ、「総合的な学習の時間」などを活用した特色ある取組も望まれよう。

  そして、充実した環境教育を行っていくためには、やはり優れた指導者が不可欠であることを指摘しておかなければならない。
  そのためには、教員養成課程について、教科に関する科目において環境教育に配慮するとともに、様々な体験的な学習に関する実践的な指導方法を習得させるなど、カリキュラムを充実する必要がある。また、教員研修において、環境教育に取り組む視点や方法、環境保全活動などの体験活動を取り入れるなど、環境教育に取り組んでいくに当たって必要となる実践的な内容を充実する必要がある。
  また、特別非常勤講師制度などを活用して、環境問題に実際に携わっている自然保護の関係者や研究者等の社会人を幅広く学校に受け入れることなども積極的に推進されるべきであろう。

[3]  地域社会における様々な学習機会の提供

  環境教育については、学校だけでなく、地域社会においても、様々な学習機会を提供するなどの取組を進めるべきである。
  地域社会における環境に関する学習機会の提供の取組を進めるためには、学習活動の場の充実、学習機会の拡充や情報の提供などについて充実する必要がある。
  とりわけ、学習機会の拡充については、自然に親しむことが環境教育の第一歩であり、環境から学ぶとともに、環境について学ぶといった視点に立って、星空観察、バードウォッチングなどの自然観察やキャンプなどの野外活動をはじめとして、様々な自然に親しむ機会を設けることが重要である。また、博物館や少年自然の家等の社会教育施設などにおいて、環境学習教室など多様な学習機会を拡充することが望まれるが、その際には、特に、体験型の学習機会の充実に留意する必要がある。さらに、子供たちがグループ活動や団体活動を通じて、地域において楽しく、自主的、継続的に環境について学んだり、環境保全活動を行っていくことも有意義であり、こうした活動をさらに活性化していくべきである。大学や研究所などにおいても、子供たちを対象にセミナーなどを開催し、地球環境問題の現状などを分かりやすく説明していくことを望みたい。企業などにおいても、子供たちに環境に関する学習機会の提供を期待したい。さらに、現在、国と地方公共団体が共同して、毎年「環境教育フェア」が開催されている。「環境教育フェア」では、環境教育の成果発表や環境問題についての講演・パネルディスカッションなどが行われているが、教育関係者のみならず、一般の人々からの参加者も多く、この「環境教育フェア」が社会全体の環境に関する意識啓発に寄与するところは極めて大きいと考えられる。こうした行事が今後一層充実して実施されることが望まれる。
  以上、環境に関する地域での学習機会の例を幾つか挙げてみたが、我々は、様々な地域で、特色を持った環境に関する学習の機会が子供たちに用意されることを望むものである。そして、第4章[3] においても指摘したように、環境に関する学習活動についても、どのような活動がいつ、どこで行われているか等についての様々な情報を子供たちに提供する仕組みを整備することが必要である。このため、科学に関する学習機会についての情報と同様に、市町村教育委員会が中心となって、地域社会における各種の情報をデータベース化するとともに、関係機関や民間団体などとの情報通信ネットワークを形成し、子供たちに情報を十分に提供する体制を整備することの必要性を指摘しておきたい。
  なお、環境問題への取組としては、一人一人が身の回りのできることから実践していくということが重要である。その意味でも子供たちが学校や地域社会でのそれぞれの役割に即した活動を通して、ボランティア活動を経験し、将来、環境保全を含めたボランティア活動を自然に行っていく契機となることを望みたい。
  また、家庭においても、子供たちに環境を大切にする心をはぐくむとともに、学校や地域社会で学んだことを日常生活で実践するよう促していくことを期待したい。


(大臣官房  政策課)





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