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中央教育審議会

  


第4章  学校・家庭・地域社会の連携

  第1部(3)(a)で述べたとおり、子供たちの教育は、単に学校だけでなく、学校・家庭・地域社会が、それぞれ適切な役割分担を果たしつつ、相互に連携して行われることが重要である。
  このような観点から、学校・家庭・地域社会の連携に関し、特に配慮しなければならない点について、幾つかの提言を行うこととしたい。

(開かれた学校)

  学校が社会に対して閉鎖的であるという指摘はしばしば耳にするところである。学校や地域によって事情は異なり、この指摘の当否を一律に断定すべきではないが、子供の育成は学校・家庭・地域社会との連携・協力なしにはなしえないとすれば、これからの学校が、社会に対して「開かれた学校」となり、家庭や地域社会に対して積極的に働きかけを行い、家庭や地域社会とともに子供たちを育てていくという視点に立った学校運営を心がけることは極めて重要なことと言わなければならない。
  そこで、まず、学校は、自らをできるだけ開かれたものとし、かつ地域コミュニティーにおけるその役割を適切に果たすため、保護者や地域の人々に、自らの考えや教育活動の現状について率直に語るとともに、保護者や地域の人々、関係機関の意見を十分に聞くなどの努力を払う必要があると考える。特に、いじめ・登校拒否の問題などでの学校の対応ぶりを見ていると、学校内での出来事や学校としての取組などをできるだけ外部に漏らすまいとする傾向が強いように感じられることがある。学校は、家庭や地域社会との連携・協力に積極的であってほしい。
  また、学校がその教育活動を展開するに当たっては、もっと地域の教育力を生かしたり、家庭や地域社会の支援を受けることに積極的であってほしいと考える。例えば、地域の人々を非常勤講師として採用したり、あるいは、地域の人々や保護者に学校ボランティアとして協力してもらうなどの努力を一層すべきである。
  さらに、学校は、地域社会の子供や大人に対する学校施設の開放や学習機会の提供などを積極的に行い、地域社会の拠点としての様々な活動に取り組む必要がある。
  そのために、これからの学校施設については、学校教育施設としての機能を十分確保することはもちろん、家庭や地域社会とともに子供たちを育てる場、地域の人々の学習・交流の場、地域コミュニティーの拠点として、それにふさわしい整備を推進していく必要がある。例えば、校庭や屋内運動場だけでなく、特別教室等についても地域の人々や保護者への開放を前提とした整備を進めるべきであり、地域の人々や保護者の利用しやすいスペースにも配慮していくべきである。
  また、第3章(2)[2] (a)で述べた点に留意しつつ、学校開放にさらに取り組むほか、余裕教室について、学校と家庭・地域との連携や、地域の学習・交流のためのスペース等として活用を図ることも積極的に考えていくべきである。さらに、学校と社会教育施設等との複合化や隣接設置等についても、教育的配慮をしつつ、学校や地域の実態に応じて検討していくべきである。
  このような取組を通じて、学校が家庭や地域社会にとって垣根の低い、開かれたものとなることは、学校の教育活動をより多彩で活発なものにするとともに、家庭や地域の人々の学校に対する理解をより深めることに大いに資するものと考える。

(学校のスリム化)

  学校・家庭・地域社会の連携と適切な役割分担を進めていく中で、学校がその本来の役割をより有効に果たすとともに、学校・家庭・地域社会における教育のバランスをよりよくしていくということは極めて大切なことであり、こうした観点から、学校が今行っている教育活動についても常に見直しを行い、改めるべき点は改めていく必要がある。こうした見直しを行うに当たっては、我が国の子供たちの生活において、時間的にも心理的にも学校の占める比重が家庭や地域社会に比して高く、そのことが子供たちに学校外での生活体験や自然体験の機会を少なくしているとも考えられる現状を踏まえることが必要である。
  このような考えの下に、二点指摘しておきたい。その一つは、現在、家庭や地域によりその実態は異なるものの、日常の生活におけるしつけ、学校外での巡回補導指導など、本来家庭や地域社会で担うべきであり、むしろ家庭や地域社会で担った方がよりよい効果が得られるものを学校が担っている現状があるということである。これらについては、家庭や地域社会での条件整備の状況も勘案しつつ、家庭や地域社会が積極的に役割を担っていくことを促していくことが必要であると考える。
  二つ目として、部活動の問題がある。部活動は、教育活動の一環として、学級や学年を離れて子供たちが自発的・自主的に活動を組織し展開されるものであり、子供の体と心の発達や仲間づくり、教科を離れた教員との触れ合いの場として意義を有しているものである。しかしながら、学校が全ての子供に対して部活動への参加を義務づけ画一的に活動を強制したり、それぞれの部において、勝利至上主義的な考え方から休日もほとんどなく長時間にわたる活動を子供たちに強制するような一部の在り方は改善を図っていく必要がある。また、地域社会における条件整備を進めつつ、指導に際して地域の人々の協力を得るなど地域の教育力の活用を図ったり、地域において活発な文化・スポーツ活動が行われており学校に指導者がいない場合など、地域社会にゆだねることが適切かつ可能なものはゆだねていくことも必要であると考える。
  このほか、教育内容の厳選の問題については、すでに第1章(1) において述べたところであるが、学校は、それぞれの学校の教育課程について絶えず見直しを行い、改めるべき点は改め、指導内容の精選を不断に進めていく必要がある。現在、学校が行っている様々な行事や会議についても、学校がその本来の役割をより有効に果たすために、その教育的意義を問い直し、絶えずその実施方法の工夫を含め、精選を図っていくべきであると考える。また、行政機関や地域の関係団体は、学校に様々な依頼をするときは、その必要性を十分吟味し、学校にとって過重な負担にならないよう配慮する必要がある。

(学校外活動の評価)

  子供たちの学校外活動を活性化する観点から、子供たちが、社会教育団体や青少年団体における活動、ボランティア活動、文化・スポーツ活動などに積極的に取り組んだ場合、これらを学校においても奨励する意味で評価する方法などが検討されてよいと考える。しかし、学校外の活動は、言うまでもなく、子供たちの自主性・自発性に基づいて行われるものであり、子供たちのそうした積極的な意欲や態度を励ますという視点を忘れてはならない。

(PTA活動の活性化への期待)

  PTAは、学校と家庭が相互の教育について理解を深めあい、その充実に努めるとともに、地域における教育環境の改善・充実等を図るために保護者と教員の協力の下に組織され、子供たちの健やかな成長を願いつつ、これまで地域の実態に応じ、様々な活動を展開してきた。
  家庭・地域社会それぞれについて、子供たちを取り巻く環境が著しく変化し、家庭や地域社会の教育力の低下が指摘されている今日、学校と家庭、さらには、地域社会を結ぶ懸け橋としてのPTA活動への期待は、ますます高いものとなってきている。しかし、率直に言って、現在のPTAの活動は、従来から父親の参加を得ることが難しかったことに加えて、女性の社会進出の進展等を背景として、PTAによっては、活動の展開や充実が困難になっているのが現状と言わなければならない。
  PTA活動の重要性と今日の現状を踏まえ、PTAに対しては、その会合を夜間や休日に開催するなど、保護者等が一層参加しやすい環境づくりに努めるとともに、学校のOB、OGや地域の有志等の参加や協力も得ながら、家庭と学校とが連携協力して行う活動、家庭教育に関する学習活動、地域の教育環境の改善のための取組などを含め、その活動の充実を図っていくことを期待したい。
  また、教員においては、従来に増してPTA活動についての理解を深め、積極的にその活動に参加することが望まれる。
  あわせて、行政に対しては、PTAの今後の活動の充実のため、積極的な支援を進めていくことを求めたい。

(教育委員会の活性化)

  これまで述べてきたとおり、これからの教育では、学校・家庭・地域社会全体を通して行われるとの視点が重要である。従来、学校教育中心の行政になりがちであった教育委員会についても、学校のみならず、家庭や地域社会における教育に関する条件の整備・充実や、これら相互の連携を推進することが大きな役割となっていくものと考えられる。
  また、生涯学習社会への移行が求められている現在、学校以外の学習機会の提供や場の整備など、広く社会教育、文化、スポーツ等の振興のために教育委員会の果たす役割は今後ますます増大していくであろう。そして、このような分野の充実は、家庭や地域社会における教育力を充実させ、学校も含め、地域全体で子供の教育を担うという観点からも重要であると考える。また、このような分野については、教育委員会のみならず、首長部局においても関連する施策を行う場合が増えており、両者の協力が不可欠となってきている。
  このような状況を踏まえ、教育委員会の一層の充実を図る必要があると考えられるが、そのためには、例えば、教育委員会において中核的役割を果たす教育長に、教育に関する造詣が深く、また、行政的な識見も有する、より適切な人材を継続的に確保するための方策や、必ずしも十分な体制整備ができていない小規模市町村教育委員会の事務処理体制の充実方策、教育委員会と首長部局との一層の連携を推進するための方策等について検討することが必要と考える。

(マスメディアや企業への期待)

  子供たちが健やかに成長していく上で、学校・家庭・地域社会の役割はもとより重要であるが、子供たちは社会全体で育てていくものであり、社会を構成するマスメディアや企業が子供の育成に積極的に協力していくことを期待したい。
  マスメディアについては、子供たちの生活に占める比重の大きさから言って、その人間形成に与えている影響は計り知れない。マスメディアにおいては、そのような現状を認識し、子供たちに豊かな人間性を育成するという方向に沿っての取組を大いに期待するところであり、いやしくも不適切な影響を与えないような配慮を要望しておきたい。
  企業に対しては、特に、労働時間の短縮、フレックスタイム制の確立、育児休暇や年次休暇の取得促進、授業参観休暇制度の創設など、社員が家庭教育や地域活動に一層参画しやすい環境づくりに努めることを要望しておきたい。また、子供たちを対象とした職場参観や技術体験会などの体験学習教室を開催したり、学校に協力して特別非常勤講師等として人材を派遣するなど、経営資源を生かした貢献も期待したい。



(大臣官房  政策課)




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