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中央教育審議会

  


第2章  これからの家庭教育の在り方

(1) これからの家庭教育の在り方

  家庭教育は、乳幼児期の親子のきずなの形成に始まる家族との触れ合いを通じ、[生きる力]の基礎的な資質や能力を育成するものであり、すべての教育の出発点である。
  しかしながら、近年、家庭においては、過度の受験競争等に伴い、遊びなどよりも受験のための勉強重視の傾向や、日常の生活におけるしつけや感性、情操の涵養など、本来、家庭教育の役割であると考えられるものまで学校にゆだねようとする傾向のあることが指摘されている。
  加えて、近年の都市化、核家族化等により地縁的つながりの中で子育ての知恵を得る機会が乏しくなったことや個人重視の風潮、テレビ等マスメディアの影響等による、人々の価値観の大きな変化に伴い、親の家庭教育に関する考え方にも変化が生じている。このようなことも背景に、無責任な放任や過保護・過干渉が見られたり、モラルの低下が生じているなど、家庭の教育力の低下が指摘されている。
  我々は、こうした状況を直視し、改めて、子供の教育や人格形成に対し最終的な責任を負うのは家庭であり、子供の教育に対する責任を自覚し、家庭が本来、果たすべき役割を見つめ直していく必要があることを訴えたい。親は、子供の教育を学校だけに任せるのではなく、これからの社会を生きる子供にとって何が重要でどのような資質や能力を身に付けていけばよいのかについて深く考えていただきたい。
  とりわけ、基本的な生活習慣・生活能力、豊かな情操、他人に対する思いやり、善悪の判断などの基本的倫理観、社会的なマナー、自制心や自立心など[生きる力]の基礎的な資質や能力は、家庭教育においてこそ培われるものとの認識に立ち、親がその責任を十分発揮することを望みたい。
  そして、社会全体に[ゆとり]を確保する中で、家庭では、親さらには祖父母が、家族の団らんや共同体験の中で、愛情を持って子供と触れ合うとともに、時には子供に厳しく接し、[生きる力]をはぐくんでいってほしいと考える。同時に、それぞれが自らの役割を見いだし、主体的に役割を担っていくような家庭であってほしいと思う。

(2) 家庭教育の条件整備と充実方策

[1] 家庭教育の在り方と条件整備

  家庭における教育は、本来すべて家庭の責任にゆだねられており、それぞれの価値観やスタイルに基づいて行われるべきものである。したがって、行政の役割は、あくまで条件整備を通じて、家庭の教育力の充実を支援していくということである。
  このような考え方に立って、我々は、[2] において家庭教育に関する学習機会の充実、子育て支援ネットワークづくりの推進、親子の共同体験の機会の充実、父親の家庭教育参加の支援・促進を提言することとしたが、条件整備の第一としては、まず、家族がそろって一緒に過ごす時間を多く持ち、一緒に生活や活動をすることができるような環境を整えるということが重要である。そして、そのためには、週休2日制や年次休暇の取得推進など年間の勤務時間の縮減、育児休業制度の一層の普及・定着、受験競争の緩和などの条件整備を進め、社会全体に[ゆとり]を確保するとともに、家庭を大切にする社会づくりが重要だと考える。
  また、家庭教育については、ともすれば、母親に責任がゆだねられ、父親の存在感が希薄であるとの指摘がしばしばなされるところであり、父親の家庭教育に対する責任の自覚を求めたい。このために、その時間の確保を父親に訴えるとともに企業には協力方を強く呼びかけたい。また、親がPTA活動、ボランティア活動、地域の様々な行事等に参加し、それらを通じて得た経験や、人々とのつながりを家庭教育に生かしていくことも重要だと考えられるほか、育児の経験者として子育ての様々な知恵を持っている祖父母が孫の教育に参加していくことは、一層重要になってくると考える。

[2] 家庭教育の具体的な充実方策

  以上のような考えの下に、家庭教育の充実を図るため次のような施策の推進を提言したい。我々はこれらの施策展開を通し、子供を持つ親が家庭教育の重要性について再認識し、それぞれの家庭においてこれからの時代にふさわしい子供の教育の在り方を確立し、子供たちが[ゆとり]と潤いのある家庭生活の中で[生きる力]をはぐくんでいくことを期待する。

(a) 家庭教育に関する学習機会の充実

  子供たちの[生きる力]をはぐくむためには、子供の成長のそれぞれの段階に応じた親としての教育的な配慮が必要である。このため、親たちに対する子供の発達段階に応じた家庭教育に関する学習機会を一層充実すべきである。その学習内容としては、特に、子供の発達段階と人間関係の在り方、他人を思いやる心や感性などの豊かな人間性や自制心、自立心などをはぐくむ家庭教育の在り方や子供とのコミュニケーションの図り方等についての学習を重視する必要があると考える。なお、その際には、市町村教育委員会が、幼稚園や保育所、保健所、病院、大学、民間教育機関等により実施されている子育てについての関連事業との連携を図り、子供の発達段階に応じた体系的・総合的な学習機会を提供するよう配慮する必要がある。
  また、こうした施策を進めるに当たっては、これまで家庭教育に関する学習機会に参加したくてもできなかった人々に対する配慮がなされなければならない。特に、共働き家庭が増加していること等を踏まえ、自宅や職場等身近な場所に居ながらにして学習できるような環境を整備する必要がある。このため、家庭教育に関する学習内容その他の情報をテレビ番組等を通じて提供するとともに、近年、家庭においてコンピュータの普及が著しいことを踏まえ、パソコン通信やインターネット等の新しいメディアを通じて豊富に提供していく必要がある。メディアの利用は、特に、過疎地域の家庭教育の充実を図る上でも非常に重要であると考える。
  なお、少子化、核家族化、共働き家庭の増加、子供の生活の変化等が進む中で、子供の発達段階に応じて身に付けるべき基本的生活習慣や家庭や地域社会で経験することが望ましい生活体験、社会体験、自然体験などについての情報は、大変貴重なものと考えられる。これらに関する資料が作成され、家庭教育学級等各種の学習機会で積極的に活用されることも意義のあることと考えられる。
  これから親になる青年を対象に、意識啓発や保育ボランティア等の育児体験など人生の早い時期から子育てに関する学習機会を提供することも必要なことである。
  また、子育て経験を有する祖父母等が、孫の教育に積極的にかかわることは大いに意義のあることと考えられる。そのための支援策として、祖父母等が、子供の生活や考え方、近年の家庭・家族の変化や教育をめぐる動き等について学習する機会を設けることも考えられてよい。

(b) 子育て支援ネットワークづくりの推進

  核家族化や女性の社会進出が進む中で、子育てに対する不安感や負担感を感じる親が増大している。このような状況を踏まえて、(a) で提言した施策の推進とともに、親に対する相談や情報提供の充実など子育てに対する支援体制の整備を図る必要がある。そして、そのための方策としては、専門家や専門の機関等による電話や面接での相談体制の整備を図ることが必要であるが、その場合には、特に各市町村単位でのきめ細かな相談体制を整備することが望ましいと考える。また、そこで相談に当たるスタッフとして、親の悩み等に対するカウンセリングの能力を備えた家庭教育関係指導者を養成することが重要であるが、そのためには、大学等高等教育機関や生涯学習センター等においてカウンセリングに関する講座を開設することなども有効な方策である。
  さらに、子供を持つ親と地域の子育て経験者との交流の促進や子育て支援グループの育成による相互扶助の仕組みづくりなどを通し、日常的な生活圏の中での子育てのネットワークづくりを提案したい。そして、そのネットワークは、特に障害のある子供がいる家庭、ひとり親家庭、単身赴任家庭等に十分配慮したものであってほしい。
  また、幼稚園が、地域社会における子育て支援の一つの核として、親等を対象に、幼児教育相談や子育て公開講座を実施したり、子育ての交流の場を提供したりするなど、地域の幼児教育のセンターとしての機能を充実し、家庭教育の支援を図っていくことも期待したい。

(c) 親子の共同体験の機会の充実

  親子で様々な共同体験、交流活動を行う機会(例えば、ボランティア活動、植物栽培体験、動物飼育体験、スポーツ活動や芸術鑑賞、創作活動、地域の歴史探訪、読書会の開催など)を行政は積極的に提供すべきだと考える。親と子が同じ体験を持つことは親のものの見方、子供の考え方をお互いが知り合う上で、また、場合によっては同じ価値観を共有する上で非常に有効であり、これを機に親子のきずなが一層深まることが期待される。
  こうした親子共同体験や交流活動を促進する上で、施設整備の大切さを忘れてはならない。例えば、公民館に親子が一緒に遊べる多目的ホールや談話室、託児室、育児相談室等の施設を整備したり、図書館に子供図書室、児童室・児童コーナー、談話室等を設けるなど、親子が活動しやすいような配慮をすることは極めて重要なことである。

(d) 父親の家庭教育参加の支援・促進

  先に、これまで必ずしも十分に果たされてこなかった家庭教育における父親の役割の重要性を再認識することの大切さを指摘したが、父親の家庭教育への参加を促進するため、父親等を対象とした家庭教育に関する学習機会を企業等職場に開設すること、夜間・休日に開設すること、通信による講座を開設すること等学習機会を充実する必要があると考える。また、企業等において子供たちが父親の職場を見学する機会や父親の仕事を疑似体験する機会を提供するなど、子供たちに親の働く姿を見せる機会を提供することももっと考えられてよいであろう。

  以上、家庭教育の充実方策について述べてきたが、これらの施策を含め、親が安心して子供を生み育てることのできる社会環境の整備に向けて、国、都道府県、市町村が一体となった取組を進める必要がある。
  また、社会の変化や家庭の多様化等を背景として、より幅広い観点から家庭教育の在り方等を研究する必要が生じており、家庭教育について学際的な研究が一層推進されることを期待したい。



(大臣官房  政策課)




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