第1章これからの学校教育の在り方
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中央教育審議会

  

第2部  学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方

第1章  これからの学校教育の在り方

(1) これからの学校教育の目指す方向

[1] これからの学校

  いまだ成長の過程にある子供たちに、組織的・計画的に教育を行うという学校の基本構造はこれからも変わらないが、これまで、第1部で述べてきたことを踏まえるとき、これからの学校は、[生きる力]を育成するという基本的な観点を重視した学校に変わっていく必要がある。
  我々は、これからの学校像を次のように描いた。

  まず、学校の目指す教育としては、
  (a) [生きる力]の育成を基本とし、知識を一方的に教え込むことになりがちであった教育から、子供たちが、自ら学び、自ら考える教育への転換を目指す。そして、知・徳・体のバランスのとれた教育を展開し、豊かな人間性とたくましい体をはぐくんでいく。
  (b) 生涯学習社会を見据えつつ、学校ですべての教育を完結するという考え方を採らずに、自ら学び、自ら考える力などの[生きる力]という生涯学習の基礎的な資質の育成を重視する。

  そうした教育を実現するため、学校は、
  (c) [ゆとり]のある教育環境で[ゆとり]のある教育活動を展開する。そして、子供たち一人一人が大切にされ、教員や仲間と楽しく学び合い活動する中で、存在感や自己実現の喜びを実感しつつ、[生きる力]を身に付けていく。
  (d) 教育内容を基礎・基本に絞り、分かりやすく、生き生きとした学習意欲を高める指導を行って、その確実な習得に努めるとともに、個性を生かした教育を重視する。
  (e) 子供たちを、一つの物差しではなく、多元的な、多様な物差しで見、子供たち一人一人のよさや可能性を見いだし、それを伸ばすという視点を重視する。
  (f) 豊かな人間性と専門的な知識・技術や幅広い教養を基盤とする実践的な指導力を備えた教員によって、子供たちに[生きる力]をはぐくんでいく。
  (g) 子供たちにとって共に学習する場であると同時に共に生活する場として、[ゆとり]があり、高い機能を備えた教育環境を持つ。
  (h) 地域や学校、子供たちの実態に応じて、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する。
  (i) 家庭や地域社会との連携を進め、家庭や地域社会とともに子供たちを育成する開かれた学校となる。

  このような「真の学び舎」としての学校を実現していくためには、学校の教育活動全体について絶えず見直し、改善の努力をしていく必要があるが、教育内容については、特に、次のような改善を図っていく必要がある。

[2] 教育内容の厳選と基礎・基本の徹底

  [1] で述べたように、これまでの知識の習得に偏りがちであった教育から、自ら学び、自ら考える力などの[生きる力]を育成する教育へとその基調を転換していくためには[ゆとり]のある教育課程を編成することが不可欠であり、教育内容の厳選を図る必要がある。
  教育内容の厳選は、[生きる力]を育成するという基本的な考え方に立って行い、厳選した教育内容、すなわち、基礎・基本については、一人一人が確実に身に付けるようにしなければならない。豊かで多様な個性は、このような基礎・基本の学習を通じて一層豊かに開花するものである。この意味で、「あまりに多くのことを教えることなかれ。しかし、教えるべきことは徹底的に教えるべし」というホワイトヘッド(1861-1947  イギリスの哲学者)の言葉を改めてかみしめる必要がある。
  教育内容の厳選は、学校で身に付けるべき基礎・基本は何か、各学校段階や子供たちの心身の発達段階に即して適当なものは何かを問いつつ、徹底して行うべきであり、教育内容の厳選を、これからの学校の教育内容の改善に当たっての原則とすべきである。
  また、学校教育に対しては、社会の変化等に伴い、絶えずその教育内容を肥大化・専門化させる要請があると考えられるが、学校教育で扱うことのできるものは、時間的にも、内容の程度においても、一定の限度があることは言うまでもない。したがって、新たな社会的要請に対応する内容を学校教育で扱うこととすることについては、教育内容を厳選するという原則に照らし、学校外における学習活動との関連も考慮しつつ、その必要性を十分吟味する必要がある。そして、新たな内容を学校教育に取り入れる場合は、その代わりに、社会的な必要性が相対的に低下した内容を厳選する必要がある。

(育成すべき資質・能力)

  このような考え方に立って、初等中等教育においては、学校段階や子供たちの心身の発達段階によって、その程度、内容、重点の置き方等が異なるものの、特に、次のような資質・能力の育成を重視し、教育内容を基礎・基本に絞り、その厳選を図る必要がある。
  (a) 国語を尊重する態度を育て、国語により適切に表現する能力と的確に理解する能力を養うこと。
  (b) 我が国の文化と伝統に対する理解と愛情を育てるとともに、諸外国の文化に対する理解とこれを尊重する態度、外国語によるコミュニケーション能力を育てること。
  (c) 論理的思考力や科学的思考力を育てること。また、事象を数理的に考察し処理する能力や情報活用能力を育てること。
  (d) 家庭生活や社会生活の意義を理解し、その形成者として主体的・創造的に実践する能力と態度を育てること。
  (e) 芸術を愛好し、芸術に対する豊かな感性を育てること。また、運動に親しむ習慣、健康で安全な生活を生涯にわたって送る態度の基礎を育てること。
  (f) 他人を思いやる心、生命や人権を尊重する心、自然や美しいものに感動する心、正義感、公徳心、ボランティア精神、郷土や国を愛する心、世界の平和、国際親善に努める心など豊かな人間性を育てるとともに、自分の生き方を主体的に考える態度を育てること。

(教育内容の厳選の視点)

  現行の学習指導要領の改訂等に当たっては、これからの学校教育で育成すべき資質・能力を踏まえ、少なくとも次のような視点に立って教育内容の厳選を行うことが必要であると考える。その際には、学校生活に[ゆとり]を持たせるためにも、全体として授業時数の縮減を行うことが必要である。それを、小・中学校での例で示せば、次のとおりである。
  (a) 中学校社会科の地理における諸地域の産業や生産物等の詳細かつ網羅的な学習、
    歴史における各時代の詳細な文化史、中学校理科の生物における動物の詳細な器官名や消化酵素名など、実際の指導において単なる知識の伝達や暗記に陥りがちな内容の精選を図る。
  (b) 中学校の古典の指導においては、古典に親しむことに重点を置き、文語文法に深入りしないようにすることや、小・中学校の国語におけるあらゆる文学形式の丹念な読解、中学校の外国語における関係代名詞や不定詞を用いた文型で実生活では使うことが少ない表現方法、精密な文法構造の解釈など、実際の指導において、内容の取扱いが行き過ぎになりがちな内容の精選を図る。
  (c) 小学校理科における天体に関する内容、中学校理科における電流や遺伝に関する内容のうち子供たちにとって高度になりがちな内容、算数の理解度に差が生じ始める小学校中・高学年からの算数・数学の内容(分数や関数の一部など)など、各学校段階の子供たちにとって理解が困難な内容については、精選又は上学年や上級学校への移行を行う。
  (d) 我が国の歴史に関する学習などは繰り返し学習することの効果もあるが、小学校と中学校とでいわゆる通史を二度行わないようにすることや、体育における各種の運動を子供たちが発達段階や適性等に応じて適切に履修できるようにすることなど、学校段階における重点の置き方に一層の工夫を加えるなどして、各学校段階間又は各学年間で重複する内容については、できるだけ精選を図る。
  (e) 音楽における各種の奏法、美術における各種の表現方法、技術・家庭における電気機器の仕組みや各種の被服製作など、学校外活動や将来の社会生活で身に付けることが適当な内容の精選を図る。
  (f) 環境や人の成長・健康に関する内容をはじめとして各教科間で重複する内容は、総合的な学習等を行うまとまった時間を設定することや各教科間の関連的な指導を一層進めることなどを考慮し、精選を図る。
  (g) 特別活動については、教科の学習や学校外活動等との関連を考慮しつつ、その実施や準備の在り方などを見直し、精選を図る。

[3] 一人一人の個性を生かすための教育の改善

  [生きる力]をはぐくむ上では、一人一人の個性を生かした教育を行うことは極めて重要であり、そうした観点から、教育課程の弾力化、指導方法の改善、特色ある学校づくり等を一層進める必要がある。

(小・中学校における改善)

  小・中学校においては、教育内容の厳選によって生じる[ゆとり]を生かし、[ゆとり]を持った授業の中で、子供たちの発達段階に即し、ティーム・ティーチング、グループ学習、個別学習など指導方法の一層の改善を図りつつ、個に応じた指導の充実を図る。また、自ら学び、自ら考える教育を行っていく上でも、問題解決的な学習や体験的な学習の一層の充実を図る。
  とりわけ、中学校においては、小学校で培われた資質や能力をよりよく向上させるとともに、義務教育段階ではあるものの、小学校と比べ、生徒の能力・適性、興味・関心等の多様化が一層進む時期であることを踏まえ、生徒の特性等に応じることができるよう、履修の選択幅の一層の拡大を図る必要がある。
  このため、共通に履修させる部分を厳選し、選択教科に充てる授業時数を拡大するとともに、各教科等の授業時数の選択幅の拡大など教育課程の一層の弾力化を図る。
  また、特色ある学校づくりを推進するため、その学校や地域の実態に応じて、創意工夫が十分発揮できるよう、小・中学校を通じて教育課程の一層の弾力化を図る必要がある。各学校が、それぞれに努力するとともに、教育委員会は、こうした学校の努力を積極的に支援していく必要がある。

(高等学校における改善)

  高等学校においては、生徒の能力・適性、興味・関心等の多様化の実態を踏まえるとともに、生徒の長所や特技を伸ばし、それぞれの個性に応じ、基礎・基本を深めさせることが必要である。
  このため、指導方法について、小・中学校と同様の改善を図るとともに、教育内容については、すべての生徒が共通に履修するものを最小限度にとどめることとして、必修教科・科目の内容とその単位数を相当程度削減するとともに、生徒が自らの在り方や生き方に応じて選択する教科・科目の拡大など教育課程の一層の弾力化を図る必要がある。
  また、生徒の多様な学習ニーズにこたえるため、他の高等学校や専修学校における学習成果を単位認定する制度の一層の活用を図っていく必要がある。
  さらに、生徒の学校外における体験的な活動や、自らの在り方・生き方を考えて努力した結果をこれまで以上に積極的に評価していくこととし、ボランティア、企業実習、農業体験実習、各種資格取得、大学の単位取得、文化・スポーツ行事における成果、放送大学の放送授業等を利用した学習、各種学校・公開講座等における学習、テレビやインターネット、通信衛星などマルチメディアを利用した自己学習などについて、各高等学校の措置により、高等学校の単位として認定できる道を開くことを積極的に検討していく必要がある。
  このほか、自己の能力・適性、興味・関心等に基づき進路変更したり、職業経験・社会経験を通して得た問題意識を持って再度高等学校で学習できるようにするため、各高等学校において、高校生の他校・他学科への移動の可能性を積極的に広げるとともに、高等学校を一度離れた者が様々な経験を経た上で希望すれば学校に戻ることができるような道を格段に広げていく必要がある。
  また、特色ある学校づくりを推進するため、小・中学校同様、その学校や地域の実態に応じて、創意工夫が十分発揮できるよう、教育課程の一層の弾力化を図る。特に高等学校教育の個性化・多様化は大きな課題であり、各学校が、それぞれに一層努力するとともに、教育委員会は、こうした各学校の努力を積極的に支援していく必要がある。
  総合学科については、当面、生徒の教育の機会を確保するため、通学範囲には必ず用意されているよう整備を進めることが必要である。

[4] 豊かな人間性とたくましい体をはぐくむための教育の改善

  先に述べたとおり、豊かな人間性やたくましく生きるための健康や体力は、[生きる力]を形作る大きな柱である。
  これまでにもしばしば指摘されてきたことであるが、よい行いに感銘し、間違った行いを憎むといった正義感や公正さを重んじる心や実践的な態度、他人を思いやる心、生命や人権を尊重する心、美しいものに感動する心、ボランティア精神などの育成とともに、学校教育においては、特に、集団生活が営まれているという特質を生かしつつ、望ましい人間関係の形成や社会生活上のルールの習得などの社会性、社会の基本的なモラルなどの倫理観の育成に一層努める必要がある。
  また、子供たちの発達段階を踏まえながら、人間としての生き方や在り方を考えさせることも大切であり、特に勤労観や職業観の育成を図ることの重要性も指摘しておきたい。
  このような豊かな人間性をはぐくむための教育は、道徳教育はもちろんのこと、特別活動や各教科などのあらゆる教育活動を通じて一層の充実を図るべきであるが、その際には、特に、ボランティア活動、自然体験、職場体験などの体験活動の充実を図る必要があると考える。
  また、たくましく生きるための健康や体力をはぐくむために、健康教育や体育が重要であることは改めて言うまでもない。これらについては、教科における指導はもとより、あらゆる教育活動を通じて、適切に配慮していく必要がある。特に、これからの健康の増進や体力の向上に関する指導に際しては、子供たちが健康の増進や体力の向上の必要性を十分理解した上で、自ら健康を増進する能力や、興味・関心や適性等に応じ、適切に運動することのできる能力を育てることが大切である。そして、心身の健康増進活動や日常的なスポーツ活動の実践を促すことによって、長寿社会の到来を展望し、生涯にわたり健康な生活を送るための基礎が培われるようにすることが重要と考える。

[5] 横断的・総合的な学習の推進

  子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくためには、言うまでもなく、各教科、道徳、特別活動などのそれぞれの指導に当たって様々な工夫をこらした活動を展開したり、各教科等の間の連携を図った指導を行うなど様々な試みを進めることが重要であるが、[生きる力]が全人的な力であるということを踏まえると、横断的・総合的な指導を一層推進し得るような新たな手だてを講じて、豊かに学習活動を展開していくことが極めて有効であると考えられる。
  今日、国際理解教育、情報教育、環境教育などを行う社会的要請が強まってきているが、これらはいずれの教科等にもかかわる内容を持った教育であり、そうした観点からも、横断的・総合的な指導を推進していく必要性は高まっていると言える。
  このため、上記の[2] の視点から各教科の教育内容を厳選することにより時間を生み出し、一定のまとまった時間(以下、「総合的な学習の時間」と称する。)を設けて横断的・総合的な指導を行うことを提言したい。
  この時間における学習活動としては、国際理解、情報、環境のほか、ボランティア、自然体験などについての総合的な学習や課題学習、体験的な学習等が考えられるが、その具体的な扱いについては、子供たちの発達段階や学校段階、学校や地域の実態等に応じて、各学校の判断により、その創意工夫を生かして展開される必要がある。
  また、このような時間を設定する趣旨からいって、「総合的な学習の時間」における学習については、子供たちが積極的に学習活動に取り組むといった長所の面を取り上げて評価することは大切であるとしても、この時間の学習そのものを試験の成績によって数値的に評価するような考え方を採らないことが適当と考えられる。さらに、これらの学習活動においては、学校や地域の実態によっては、年間にわたって継続的に行うことが適当な場合もあるし、ある時期に集中的に行った方が効果的な場合も考えられるので、学習指導要領の改訂に当たっては、そのような「総合的な学習の時間」の設定の仕方について弾力的な取扱いができるようにする必要がある。

[6] 教科の再編・統合を含めた将来の教科等の構成の在り方

  学校の教科等の構成の在り方については、学校教育に対する新たな社会的要請、学校教育を取り巻く環境の変化、教育課程に関する最新の学問成果等を勘案し、不断に見直していく必要があるが、この問題は、理論的な検討とともに学校現場での研究実践の積み重ねを行うほか、教員養成等、教科等の見直しに伴う種々の条件整備も考慮した総合的な検討を要する問題である。
  このような考えの下に、教科の再編・統合を含めた将来の教科等の構成の在り方について、早急に検討に着手する必要がある。そして、この問題の特質にかんがみ、検討の場として、教育課程審議会に、教科の再編・統合を含めた教科等の構成の在り方について継続的に調査審議する常設の委員会を設けるとともに、その審議の成果を施策に反映することが適当である。この調査研究に当たっては、国立教育研究所、大学、各都道府県の教育センターや民間教育研究団体等の研究者の研究成果、国立大学の附属学校や研究開発学校の実践研究などの様々な研究成果を適切に反映するようにする必要があり、また、その際は、大学等の研究者等によるカリキュラムに関する研究を一層推進するための積極的な支援措置を講じることが必要である。
  なお、今後の教育課程審議会の発足に当たっては、学校関係者や教科の専門家の意見を尊重することはもとよりであるが、幅広い各界の人々や保護者など広く国民の声を反映するような配慮を望んでおきたい。

(2) 新しい学校教育の実現のための条件整備等

  (1) で述べたような学校教育を実現していくためには、様々な面の改善・充実を図っていく必要があるが、特に以下のような条件整備等を図ることは極めて重要なことと言わなければならない。

[1] 教員配置の改善

  まず、各学校において一人一人の子供を大切にした教育指導ができるような環境づくりが大切である。とりわけ、個に応じた教育をこれまで以上に推進していくためには、各学校において、学習集団の規模を小さくしたり、指導方法の柔軟な工夫改善を促したり、さらには、中学校、高等学校での選択履修の拡大を図っていくことができるよう、人的な条件整備を一層進めることが必要である。
  教員配置については、これまでも計画的な改善が進められてきたところであるが、教員一人当たりの児童生徒数を、例えば欧米諸国と比較してみた場合、今なお、総じて大きなものとなっている。様々な前提条件が異なるため、これらを我が国と単純に比較するのは困難であるが、今後、教員配置の改善を進めるに当たっては、当面、教員一人当たりの児童生徒数を欧米並みの水準に近づけることを目指して改善を行うことを提言したい。
  なお、教員配置の改善に関連して、社会人の活用や小規模な中学校における免許外教科担任の解消などを図る観点から、小・中学校において非常勤講師の活用が一層進められるような措置が講じられるよう提言したい。

[2] 教員の資質・能力の向上

  あらゆる教育の問題は教師の問題に帰着すると言われるように、子供たちに直接接し、指導に当たる教員に、優れた人材を確保することの重要性は、これまでも繰り返し唱えられてきたところであるが、子供たちに[生きる力]をはぐくむことを基本とするこれからの学校教育の実現を展望するとき、教員の資質・能力の向上を図っていくことが、その実現に欠かせないことを改めて訴えたい。また、学校教育の基調の転換に向けた教員の意識改革も極めて重要であることを併せて指摘しておきたい。
  教員に強く要請される、[生きる力]をはぐくむ学校教育を展開するための豊かな人間性と専門的な知識・技術や幅広い教養を基盤とする実践的な指導力を培うためには、教員の養成、採用、研修の各段階を通じ、施策の一層の充実を図っていく必要がある。
  教員に求められる資質・能力については、学校段階によって異なるが、教員養成や研修を通じて、教科指導や生徒指導、学級経営などの実践的指導力の育成を一層重視することが必要であると考えられる。特に、今日のいじめや登校拒否などの深刻な状況を踏まえるとき、教員一人一人が子供の心を理解し、その悩みを受け止めようとする態度を身に付けることは極めて重要であると言わなければならない。
  教員養成については、[生きる力]の育成を重視した学校教育を担う教員を育てるとの観点に立って、改めて、その改善・充実について検討することを提言したい。その際には、教育相談を含めた教職科目全体の履修の在り方、教育実習の期間・内容の在り方、さらには、幅広く将来を見通して、修士課程をより積極的に活用した養成の在り方などに特に留意する必要がある。もちろん、こうした検討を待つまでもなく、教員養成を行う大学においては、ファカルティ・ディベロップメント(教員が授業内容・方法を改善し、向上させるための組織的な取組の総称)を進めつつ、教育現場の実際のニーズを踏まえた教育やこれに資する研究を充実させていくことを求めたい。
  教員研修については、多様な研修機会を体系的に整備していく必要がある。その際に、大学院等における現職教育や、教員の社会的視野を広げるため、民間企業、社会教育施設、社会福祉施設等での長期にわたる体験的な研修を積極的に進めることが必要である。また、これからはいじめ問題への対応など、子供たちの心のケアが一層求められることにかんがみ、すべての教員について基礎的なカウンセリング能力の育成を充実する必要があるが、特に養護教諭については、採用時の研修をはじめとする現職研修の格段の充実を図る必要がある。
  教員の採用に当たっては、人物評価重視の方向で選考方法の多様化や評価の在り方を改善し、教員にふさわしい優秀な人材を確保していく必要がある。具体的には、面接や実技試験の充実、筆記試験とその他の試験との比重の見直し、ボランティア活動等の生活体験・社会経験の適切な評価、あるいは、同一の採用枠においても異なる尺度で多様な選考方法を採ることなどにより、人間的魅力や使命感、教育的実践力を備えた多様な人材を教育界に迎えることができるようにすることが望まれる。また、採用者数が年度によって極端に増減することは、教員の年齢構成に不均衡を生じさせるほか、優秀な人材確保の支障となることも懸念されることから、都道府県教育委員会等は、できるだけ採用者数の平準化が図られるよう、より長期的な視野に立った、計画的な教員採用・人事に努める必要があろう。その際、採用に当たっての年齢制限の緩和、学校種別ごとの採用区分の弾力化、人事交流の実施などの工夫も有効と思われる。また、生き生きとした学校づくりの要 である教員の適材適所の配置について、一層配慮していくことが重要である。
  なお、教員の養成、採用、研修の各段階を通じ、より円滑かつ効果的に教員の資質・能力の向上を図るためには、大学の教員養成関係者と教育委員会等の採用・研修関係者との間の一層の連携・協力が不可欠である。

[3] 学校外の社会人の活用

  各学校に配置される教員について、その配置の改善や資質・能力の向上を図ることは、もちろん重要であるが、学校外の社会人の指導力を、学校教育の場に積極的に活用することを提言したい。
  幅広い経験を持ち、優れた知識・技術を持つ社会人を活用することは、学校の教育内容を多様なものとするとともに、特に、子供たちに社会性や勤労観・職業観を育成したり、実技指導の充実を図る上で有効と考えられる。また、ともすれば閉鎖的となりがちな学校に、外部の新しい発想や教育力を取り入れることにより、教員の意識改革や学校運営の改善を促すことも期待される。さらに、小学校の専科教育の充実や中学校・高等学校の選択履修拡大等の観点からも社会人の活用が有効と考えられる。このような考えに立って、小・中・高等学校において、特別免許状や特別非常勤講師制度の活用をはじめ、外国語指導助手(ALT)や情報処理技術者(SE)の増員を図るなど、社会人の活用を一層促進するための施策を進める必要がある。
  また、豊富な知識・経験を有する退職教員等を積極的に活用することも併せて提言したい。

[4] 学校施設など教育環境の整備

  子供たちの学習の場であり、生活の場である学校施設などの教育環境を豊かに整えることは、子供たちの健やかな成長・発達を促し、豊かな人間性をはぐくむ上で、また、子供たちの学習をより充実したものとする上で、極めて大切なことである。
  教室はもとより、例えば、屋外の環境整備やランチルームの整備を図ることは、学校全体を[ゆとり]と潤いのある環境にしていく上で、極めて重要なことである。また、多目的スペースの整備など個に応じた指導を展開できる柔軟な教育環境の整備を進めるとともに、高度情報通信社会の進展を踏まえ、学校教育の質的改善や情報教育に資するため、情報のネットワーク環境の整備や学校図書館の充実などに積極的に取り組んでいく必要がある。

[5] 関係機関との連携

  これまで、学校関係者の間では、学校教育を学校内だけで行おうとする傾向が強かったことは否めない。
  これからの学校教育においては、単に学校だけを教育の場と考えるのでなく、子供たちの体験的な学習の場を広げ、豊かな社会性をはぐくんでいくために、社会教育施設、青少年教育施設、文化施設、スポーツ施設などの公共施設や企業等の機関との連携を積極的に図り、教育の場を広く考えて、教育活動を展開していくことが必要である。
  また、いじめや登校拒否の問題など様々な教育課題が生じているが、それらへの取組に当たっても、学校だけで取り組むべきもの、との狭い固定的な考え方にとらわれることなく、児童福祉、人権擁護、警察など広く関係機関との連携を一層図る必要がある。

[6] 様々な専門家と教員等との連携

  今、学校は、いじめや登校拒否の問題をはじめ、心と体の健康の問題など、様々な角度から、対処しなければならない教育課題に直面している。
  こうした様々な教育課題に対処するためには、学校として校長のリーダーシップの下、教諭、養護教諭、学校栄養職員、事務職員などすべての教職員が相互に協力しつつ、一体となって取り組むことはもとより、学校医、学校歯科医、学校薬剤師、スクールカウンセラー、市町村の教育相談員などそれぞれの分野で専門知識を持つ専門家とも積極的に連携し、ティームを組んで、これらの教育課題に対処することが重要である。
  特に、昨今のいじめ問題等の状況にかんがみ、子供に対する相談のみならず、教員に対する助言を行うなど学校において重要な役割を果たしているスクールカウンセラーについては、その配置の一層の充実・促進を図るべきである。

[7] 幼児教育の充実

  生涯にわたる人間としての健全な発達や社会の変化に主体的に対応し得る能力の育成などを図る上で、幼児期における教育は、その基礎を培うものとして極めて重要なものである。
  特に、今日、都市化、核家族化、少子化が進行する中で、幼稚園が、家庭や地域社会とあいまって、同年齢や異年齢の幼児同士による集団での遊び、自然との触れ合い等の直接的・具体的な体験など、幼児期に体験すべき大切な学習の機会や場を用意することの重要性は、ますます高まってきている。
  また、幼稚園において、健康な心身、社会生活における望ましい習慣や態度、自発性、意欲、豊かな感情、物事に対する興味・関心、表現力等といった小学校以降における学習の基盤となるものをしっかりと育てることは、将来の体系だった学習を実りあるものとし、[生きる力]をはぐくむ教育に大いに資することとなるものである。
  これらは、保育所に通っている3〜5歳児についても同様であり、その意味で、教育内容について幼稚園と保育所との共通化などは、一層配慮することが望まれることである。一方、女性の社会進出等が進む状況に対応し、幼稚園においても、保育所との目的・機能の差異に留意しつつ、預かり保育等運営の弾力化を図っていくことが必要となっている。
  このような幼児期における教育の重要性を踏まえて、希望するすべての3〜5歳児が幼稚園教育の機会を与えられ、様々な教育を受けられるようにすることが望ましく、そのための幼稚園の整備を推進する必要があると考える。また、育児に関する相談を行ったり、子育ての交流の場を提供するなど地域における幼児教育のセンターとしての機能を充実するなど、幼稚園教育の一層の充実方策や、幼稚園と保育所、幼稚園と小学校の連携協力の在り方を含め、今後、幼児期における教育について幅広い観点から検討していく必要がある。

[8] 障害等に配慮した教育の充実

  障害のある子供たちに、可能な限り社会的な自立や参加をし得る[生きる力]を培うことは極めて重要なことである。現在、障害があることにより、通常の学級の指導を受けることが困難であったり、それだけでは能力を十分に伸ばすことが困難な子供たちについては、一人一人の障害の特性等に応じ、特別の教育内容・方法、小人数学級などにより、きめ細かな教育が行われている。盲・聾・養護学校においては、通学が不可能な子供たちには、その家庭等に教員を派遣して指導する小・中学部の訪問教育も実施されている。障害が軽度な子供たちには、通常の学級に在籍しつつ、一定時数、別に特別の指導を受ける通級指導が拡充されつつある。また、小・中学校の通常の学級において指導を受けることが適当で歩行が不自由な子供のためには、エレベーター、スロープ、専用トイレ等の設置を進めている。このように、障害のある子供たちの教育については、これまで、その充実のための努力が種々払われてきているが、これらの子供たちに[生きる力]をはぐくみ、可能な限り社会的な自立や参加を実現させる観点に立って、一層指導内容・方法・体制の改善・充実や多様化に努め、教育条件の整備を進めることが必要であると考える。また、学習障害(LD)児に対する指導内容・方法等についての研究を一層促進する必要がある。
  盲・聾・養護学校や特殊学級に通う子供たちにとって、学校の内外において、様々な人々と触れ合うことは、極めて大切なことである。こうした観点から、小・中学校の通常の学級の子供や地域の人々と共に過ごす時間や場を設けるために、運動会等の学校行事やクラブ活動、給食、また、一部の教科などにおいて交流教育が行われてきている。このような交流教育は、障害のある子供たちにとって極めて有意義であるばかりでなく、参加する教員やすべての子供たち、また、地域の人々にとっても非常に有意義な活動であり、今後、このような交流の機会を、更に増やすための努力と工夫が必要である。そして、小・中学校等の教員や子供たちはもちろん社会全体が彼らへの理解を一層深めていくことを強く望むものである。
  また、障害のある子供の保護者は、一般に、かなり早い時期に子供の障害等に気づき、子供の発達の遅れや将来について深刻な不安や悩みを持つことが多いと考えられる。このような保護者の不安や悩みにこたえるために、子供の将来の発達の可能性について正確な情報を提供したり、家庭での教育について相談を行ったりする早期教育相談体制の充実や盲・聾・養護学校の幼稚部の整備が必要である。
  さらに、障害のある子供たちの社会的自立を最大限に実現するという見地から、盲・聾・養護学校、特に養護学校の高等部のより一層の拡充整備が必要と考える。そして、高等部の生徒の卒業後の職業的な自立に資するための職業教育の改善・充実や多様化を図るとともに、進路指導体制を強化し、企業等との連携や卒業者への支援の取組などを一層進めることが必要である。また、養護学校高等部における訪問教育の実施についても検討することが必要である。
  教員については、障害のある子供たちの教育の充実のために、養成、採用、研修を通じて、その専門性・指導力を一層向上させるとともに、小・中学校等の教員に障害のある子供たちへの理解を深めさせるため、異校種間の人事交流の促進や研修の充実を図っていく必要がある。


(大臣官房  政策課)




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