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中央教育審議会

  


(4) 過度の受験競争の緩和

  子供たちに[ゆとり]を確保し、[生きる力]をはぐくんでいくためには、子供たちがそのような生き方をし得る環境を整えることが必要である。そのためには、本人の努力、家庭教育の在り方、地域社会の環境整備など課題はいろいろあるが、我々は、特に重要な問題として過度の受験競争の緩和があると考えた。
  この問題は、いわゆる学(校)歴偏重社会の問題とも関連し、解決策を見出すことの難しい問題である。しかし、幾ら[ゆとり]の確保や[生きる力]の重要性を訴えても、そのような生き方を採ることが難しい事情があるならば、正にそれは画に描いた餅と言わざるを得ない。
  過度の受験競争は少子化が進む中で、緩和しつつあるという見方もあるものの、塾通いの増加や受験競争の低年齢化に象徴されるように、大学・高等学校をめぐる受験競争は、多くの子供や親たちを巻き込みつつ、一部の小学生へも波及し、かえって厳しくなっているのが現状と考える。過度の受験競争は、子供たちの生活を多忙なものとし、心の[ゆとり]を奪う、大きな要因となっている。子供たちは、過度の受験勉強に神経をすり減らされ、青少年期にこそ経験することが望まれる様々な生活体験、社会体験、自然体験の機会を十分に持つことができず、精神的に豊かな生活を行うことが困難となっている現状がある。小学生の子供たちなどが、夜遅くまで塾に通うといった事態は、子供の人間形成にとって決して望ましいことではない。
  また、高等学校や大学を目指した過度の受験競争は、高等学校以下の学校段階における教育や学習の在り方を、受験のための知識を詰め込むことに偏らせる傾向を招いている。こうした教育の在り方は、子供たちに[生きる力]をはぐくんでいく上で、大きな問題だと言わなければならない。
  もちろん、これまでもこの問題について、国、都道府県、学校は手をこまねいていたわけではない。それぞれの立場において、種々の努力がなされてきた。
  例えば、選抜方法の多様化、評価尺度の多元化という基本的観点に立って、大学における入学者選抜については、面接、小論文、実技検査などの実施、推薦入学の改善、受験機会の複数化、職業教育を主に学習した生徒を対象とする選抜方法の導入、大学入試センター試験の活用、編入学の推進、大学情報の提供などの改善が進められ、また、高等学校における入学者選抜については、調査書の活用と充実、推薦入学の活用、受験機会の複数化、面接の活用、偏差値や業者テストに依存しない進路指導などの改善が進められてきた。
  さらに、高等学校や大学がそれぞれの教育理念や目標に沿って特色ある教育を展開していくことを基本に据えて、高等学校教育の多様化などの高校改革や個性化・多様化を理念とするカリキュラム改革など大学改革の取組も推進されてきた。
  また、企業・官公庁における採用や昇進の在り方が学(校)歴偏重社会の一つの大きな要因となり、過度の受験競争を助長してきた面があるが、現在、経済構造が大きく変化する中で、企業において、採用方法や雇用慣行を変革しようという動きが現れており、官公庁においても努力を始めている。こうした企業等の変革の動きは、今後さらに加速されるのではないかと考えられる。
  我々としても、こうした大学・高等学校における入学者選抜の改善、大学改革・高校改革の取組を評価しつつ、今後一層改善が進められることを強く望みたい。また、企業・官公庁において、学校名にこだわらない採用など人物・能力本位の採用や、形式的な学(校)歴にこだわらない能力主義に基づく昇進などについてさらに積極的な取組を望みたい。
  このような現実の社会の動きを踏まえ、親の側においても、子供の将来にとって何が最も重要であり、そのためにどのような教育が必要なのかについて、一人一人が真剣に考えることを求めたい。
  また、この問題は、第14期中央教育審議会や大学審議会においても取り上げられてきたところであるが、過度の受験競争の現状は、我々が提言する[生きる力]を目指す教育の実現に深くかかわるものであることから、さらにこの問題を今期中央教育審議会の検討事項の一つである学校間の接続の改善の審議とも関連させて、引き続き検討したいと考えている。その際、企業、官公庁における採用や昇進の問題、形式的な学(校)歴を重視するいわゆる学(校)歴偏重社会の問題等も併せて検討を行い、中央教育審議会としての提言を行いたい。



(大臣官房  政策課)




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