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中央教育審議会

 1959/3 答申等 
育英奨学および援護に関する事業の振興方策について(答申) (第17回答申(昭和34年3月2日)) 


17  育英奨学および援護に関する事業の振興方策について(答申)

(諮  問)
昭和33年7月28日
中央教育審議会
文部大臣  灘  尾  弘  吉

  次の事項について,別紙理由を添えて諮問します。

育英奨学および援護に関する事業の振興方策について
(理  由)

  すべて国民は,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有し,国および地方公共団体は,能力があるにもかかわらず,経済的理由によって修学困難な者に対して,奨学の方法を講じなければならないことは,憲法および教育基本法の定めるところであり,さらにまた科学・技術・産業・文化等の進展に即応する人材育成の国家的社会的要請は,近時ますます増大してきている。
  政府は,これらの趣旨を実現し,要請にこたえるため各種の施策を講じ,特に,戦後の経済的混乱にあたっては,日本育英会の事業の拡大,学生生徒の厚生援護事業の助成などの措置をとってきた。一方,地方公共団体あるいは民間団体等においても奨学資金の給貸与,授業料の減免等この種事業の発展への努力がしだいに行われてきている。
  しかしながら学生生徒の修学の実態と育英奨学および援護に関する事業の運営の実情とを見るに,これらの諸施策はまだ所期の目的を果しているとはいい難く,その改善に対する要請はきわめて強い。
  よってこの際,従来の育英奨学および援護に関する事業を再検討して,その改善をはかり,もって青年の志気を高めいっそう勉学に精進させるよう積極的な振興方策を樹立する必要があると考えられる。

検討すべき問題点

1.育英奨学および援護に関する事業の目標について
  わが国の現状においては,修学上の経済的困難を排除し,教育の機会均等を実現するためには,相当広範囲の学生に経済的援助を行うことが必要である。
  しかしながら,国の財政負担に限度があるかぎり,現実の問題としては,むしろ比較的少数の者を選んでこれに徹底した援助を与えることを目標とすべきであるともいわれ,また一方では社会的要請にもとづき,特定の分野に必要な人材を育成することに重点をおくべきであるともいわれている。
  このような各種の要請に即応し,育英奨学および援護に関する事業の達成すべき目標をどのように定めるかについて,根本的に検討する必要がある。

2.育英奨学および援護に関する事業の内容および方法について
  わが国の育英奨学事業は,学資貸与制度を中心としているが,修学環境の整備による経済的負担の軽減,内職のあっせんなどの厚生援護事業も,奨学の目的を達成する上に重要な役割を果している。
  しかしながら,現在これらの事業の間には,相互にじゅうぶんな関連がないばかりでなく,学資貸与,内職あっせんなどの個々の事業にも,それぞれ限界があり,検討すべき問題が数多くあると考えられる。
  したがって,育英奨学および援護の目標を達成する方法を多面的に考察し,統一的な観点からそれぞれの事業に必要な改善を加えて,それらを総合的に実施する方針を明らかにする必要がある。
  なお,その際,社会保障制度との関連についても,考究する必要があると思われる。

3.育英奨学および援護に関する事業の実施体制について
  現在の日本育英会法は,育英奨学事業の一部面を規定したものにすぎないため,これらの事業を総合的に実施しようとする場合には,制度的に幾多の困難が生じると思われる。
  したがって,育英奨学および援護に関する国・地方公共団体・日本育英会・学徒援護会・学校等の役割および相互関係を明らかにするとともに,それらの事業を効果的・能率的に実施するための体制を,どのように想定し,制度的に確立すべきかについて検討する必要がある。
  なお,その際,民間の育英奨学および援護に関する団体の助成の方法についても考究する必要がある。


(答  申)  
昭和34年3月2日
文部大臣  橋  本  龍  伍  殿
中央教育審議会会長
天野会長

育英奨学および援護に関する事業の振興方策について(答申)

  本審議会は,育英奨学および援護に関する事業の振興方策について,特別委員会を設けて審議を行って得た結果に基き,総会においてさらに慎重に審議し,次の結論に到達しましたので答申いたします。


  戦後の学制改革は,ひろく国民のために,その能力に応ずる教育を受ける機会を確保することによって,国民一般の文化水準の向上をはかり,民主的な社会の発展の根底をつちかうことを重要な目標としたものであった。ところが今日なお多数の国民が,子弟の教育のために経済上の困難に直面している状態にあることを考えれば,これに応じた奨学の方法を確立することは,育英奨学および援護に関する事業の基本的な課題でなければならない。
  一方,国家の発展と社会の進歩は,このようにしてつちかわれた広い基盤に立ち,卓抜した創意によって新分野を開拓できる英才の力にまつところがきわめて多い。近年諸外国における学問・技術・産業・文化の飛躍的な発展の状況とその徹底した奨励策とを見るとき,わが国においても,英才の育成と人材の確保のため,この際,特別な援助と奨励の道をひらくことは,現下の急務であるといわなければならない。
  わが国の国家的な育英奨学事業は,昭和18年,日本育英会の創設以来,急速に発展をとげ,これによって学資の貸与を受けた者の数は,すでに80万人に達し,貸与総額は330   億円に及んでいる。しかしながら,現在の奨学金制度は,その制度の趣旨から見て,広範囲の学生・生徒に対する奨学の方法として徹底できないうらみがあるとともに,貸与を原則としているため,優秀な資質を有する者が,学業に専念できない状態にあっても,将来の返還能力をこえて徹底した援助を与えられず,したがって,英才の育成と人材の確保の方法としても,じゅうぶんな効果を期待できない状態である。
  また,育英奨学事業の基盤として,学生・生徒の生活の安定をはかるための施策においても,これまでの成果は,きわめてふじゅうぶんであるといわざるをえない。
  このような現状を打開するためには,まず基本的な施策として,修学環境の整備と厚生援護事業の充実とによって,学生・生徒の生活費の負担軽減をはかるとともに,能力あるものに対しては,その経済的困難の程度に応じて援助を与えることのできる奨学の方法が整備されなければならない。
  しかしながら,現在の社会通念における一般的な奨学の方法としては,修学に直接必要な学費を限度として,必要な資金を貸与することを,当面の目標とするのが適当である。したがって,この方法の限度をこえた援助と奨励を必要とする英才育成と人材確保の施策としては,別個の観点から,必要な資金を給与できる制度を創設する必要がある。
  なお,一般的な奨学と英才育成・人材確保の目標は,学校段階の特質に応じてそれぞれ比重を異にしているので,具体的な事業内容を定めるにあたっては,このことを深く考慮しなければならない。
  さらに,これらの事業を効果的に実施するための体制については,種々改善すべき点があるが,とくに,学資貸与事業に関しては,その貸与金の返還回収を円滑にし,事業の財政的自立を促進することが緊要であって,この際,制度的に抜本的な改革を行う必要がある。
  以上の観点から本審議会は,国の育英奨学および援護に関する事業を中心として,次のような振興方策を定めた。
  もとよりこの種の事業は,社会保障の充実,勤労青少年のための修学施設の整備など,関連した施策の促進されることを前提とし,また,地方公共団体および民間団体の積極的な活動を必要としているが,政府はまず国の責任において,すみやかにこの方策を実施する具体的計画をたて,所要の法的,予算的措置を講じ,強力にその実現をはかられるよう要望する。

1.事業の目標および方法
  育英奨学および援護に関する事業には,教育の機会均等の実現,英才の育成,人材の確保という三つの目標が含まれているので,それぞれの目標に応じて,それを達成するための方法を,次のように定める。

(1)  教育の機会均等の実現
  教育の機会均等の実現をはかるため,能力があるにもかかわらず,経済的理由によって修学困難な者に対して,次のような方法を講ずる。
(ア)  学資貸与金を貸与する。
a  対象は,学校教育を受ける能力があると認定された者であって,その家庭が学費の全部または一部を負担できない者とする。
b  貸与金の額は,学費の不足分を限度とし,経済的困難の程度に応じて段階を設け,年額で定める。この場合,学費とは,学校納付金その他修学に直接必要な経費をいい,自宅外居住者の場合は,自宅居住の場合の生活費との差額を含むものとする。
(イ)  学寮等の修学環境を整備するとともに,厚生援護事業を充実する。
(2)  英才の育成
  国家および社会の発展に重要な英才を育成するため,きわめてすぐれた資質を有する者に対して,次のような援助を与える。
(ア)  育英給与金を給与する。
a  対象は,きわめてすぐれた資質を有する者であって,学費貸与金だけでは学業に専念するのにじゅうぶんでない者とする。
b  給与金の額は,学業に専念するのに学資貸与金では不足する分を限度とし,経済的困難の程度に応じて段階を設け,年額で定める。
c  対象の選考は,原則として進学前の統一的な試験による。ただし,その方法については,入学試験制度その他との関連を考慮して,慎重に検討するものとする。
(3)  人材の確保
  国家および社会の要請にもとづき,特定の分野に人材を確保するため,次のような奨励策を講ずる。
(ア)  学術研究者の確保をはかるため,研究奨励金を給与する。
a  対象は,大学院に在学する者とし,その数は,国の養成計画にもとづいて,研究科別に定めるものとする。
  なお,大学院博士課程に一定年数以上在学した者で,就職せずに引き続き研究に従事する者についても,部門別に選定された一定数の者を対象とする。
b  奨励金の額は,修学または研究に従事するために必要な全経費に相当する額とする。
(イ)  教員の確保をはかるため,学資貸与金の返還を免除する。
a  義務教育の教員の確保については,教員養成制度の改善に即応して,特別な奨励策を講ずるべきであるが,さしあたり,現行の学資貸与金の返還免除の条件を,奨励の趣旨にそって改善する。
b  産業教育・理科教育等の分野における高等学校の教員を確保するため,これらの職を返還免除の適用範囲に含める。

2.事業の内容
  前項の方法により,学校段階の特質に応じて実施する事業の内容は,次のとおりとする。

(1)  高等学校
  学資貸与金の貸与に重点をおき,一部に育英給与金の給与を行う。
(ア)  学資貸与金
  対象を大巾に拡大し,貸与金の最高額を所要の学費をまかなうにじゅうぶんな程度にまで引きあげる。
(イ)  育英給与金
  主として大学における英才育成の基盤を養うに必要な範囲内において,きわめてすぐれた資質を有し,学資貸与金だけでは進学困難な者を対象とする。このために現行の特別貸与制度における返還免除額に相当する部分を育英給与金に転換する。
(2)  大    学
  学生生活費の負担軽減をはかり,学資貸与金の貸与を行うとともに,育英給与金の給与を行う。
(ア)  修学環境の整備
  全大学に一定の基準まで学寮および学生の厚生施設を整備する。
(イ)  厚生援護事業
a  学生生活費の負担軽減をはかるため,食堂・売店等の学内厚生事業を充実する。
b  入学時・授業料納付期等における一時的な経済的困窮を救済するため,保護者に対する一時貸与金制度を設ける。
c  学生宿舎または学生の医療・保健のための施設を整備する。
d  学資貸与事業だけでは,なお経済的な困難が除去されない者であって,学校および保護者の認めた者に対し,適当な内職をあっせんする。
(ウ)  学資貸与金
  対象を拡大し,貸与金の最高額を所要の学費をまかなうにじゅうぶんな程度まで引きあげる。
(エ)  育英給与金
  対象は各学年1万人程度とし,給与金の額は,学資貸与金の最高額とあわせて学業に専念できる程度の額とする。
(3)  大 学 院
  研究奨励金の給与を行うとともに,一部に学資貸与金の貸与を行う。
(ア)  研究奨励金
  博士課程では,その修了者によって,少なくとも学術研究者の現在の数を維持することを目標として,研究科別に定めた数の者を対象とし,給与年額は最低18万円とする。
  修士課程では,研究科別に,博士課程への接続に必要な数の者を対象とし,給与年額は最低12万円とする。
(イ)  学資貸与金
  修士課程において研究奨励金を受けない者の約半数を対象とし,貸与金の最高額を所要の学費をまかなうにじゅうぶんな程度まで引きあげる。

3.事業の実施体制

(1)  育英奨学事業
(ア)  国は,特殊法人に対して出資金・補助金等を交付して,学資貸与金・育英給与金・研究奨励金に関する育英奨学事業を実施させる。
(イ)  学資貸与事業に対する国の出資金を能率的に運用し,この事業の堅実な維持経営をはかるため,貸与金の返還について,次のような措置を講ずる必要がある。
a  返還の促進と返還事務の簡素化をはかるため,貸与総額の多少にかかわらず,返還金の年賦額を一定とし,繰上げ返還した者に対して割引きを行うとともに,延滞者からは延滞料を徴収する。
b  返還の義務を履行しやすくするため,たとえば,返還積立貯金とか集金組織などを制度化する。
c  返還の義務を怠った者に対しては,強制徴収を実施する。
(2)  厚生援護事業
  国は,特殊法人を設立し,これに出資金・補助金等を交付して,学内厚生事業の受託経営,一時貸付基金の運用,学生宿舎または学生医療保健施設の設置経営,内職あっせん等の厚生援護事業を実施させる。
(3)  修学環境の整備
  国は,みずから国立大学の学寮等の施設を計画的に整備するとともに,公私立大学に対しても,その建設資金の確保について援助する。
(4)  地方公共団体および学校の役割
(ア)  上記の特殊法人が実施する育英奨学事業または厚生援護事業の円滑適正な運営をはかるため,地方公共団体または学校のこの法人に対する積極的な協力関係を,法的に明らかにする必要がある。
(イ)  育英奨学および援護に関する事業については,地方公共団体または学校においても,すでに相当な実績を有しているので,今後いっそう大きな役割を分担できるよう,指導と援助を与える必要がある。
(ウ)  本来,学校は,学生・生徒各個人の生活の実態をはあくし,それぞれの者に対して,育英奨学および援護に関する事業を適切に利用させるため必要な指導を与える責任を有していると思われるので,今後いっそうこの趣旨の徹底をはかる必要がある。

4.その他

(1)  国立および公立の学校においては,育英奨学事業の一環として,それぞれの設置者が,授業料の減免制度をできるだけ拡張することが望ましい。
(2)  民間における育英奨学および援護に関する事業の振興をはかるため,その事業資金の造成を容易にするなど,育成指導の方策を講ずる必要がある。
(3)  育英奨学事業の対象となる者が,生活保護の家庭に属する場合においては,それらの者の進学が阻害されることのないよう,行政上の取扱いを改善する必要がある。
(4)  国の育英奨学および援護に関する事業の対象には,沖縄に居住する学生・生徒を含めるよう考慮すべきである。


(大臣官房政策課)

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