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中央教育審議会

 1956/7 答申等 
教育・学術・文化に関する国際交流の促進についての答申 (第11回答申(昭和31年7月9日)) 


11  教育・学術・文化に関する国際交流の促進についての答申

(諮  問)
昭和31年3月26日
中央教育審議会
文部大臣  清  瀬  一  郎

  次の事項について,別紙理由を添えて諮問します。

教育・学術・文化に関する国際交流の促進について

(理  由)  
  教育・学術・文化に関し,諸外国との交流を促進することは,わが国における教育・学術・文化の興隆をはかり,世界文化の発展に寄与するとともに,国際理解と国際協力に資するためにきわめて重要なことであるが,他面諸外国,なかんずく東南アジア諸国においては留学生の派遣等わが国との文化交流を希望する声がきわめて強い。
  この点に関し,わが国としては諸外国との文化協定の締結,ユネスコ等への加盟,研究者・留学生等の受入れ・派遣,国際会議の開催・参加,日本文化の海外紹介,アタッシエの設置等に力を致してきているのであるが,これら一連の諸施策は今後も益々強力に推進しなければならないところである。
  こうした観点から,この際,国際文化交流の基本的諸事項について検討を加え,早急にその促進方策を樹立する必要がある。

教育・学術・文化に関する国際交流の促進について
検討すべき問題点

1.留学生の受入れ・派遣について  
  わが国の大学等で教育を受ける外国人留学生の受入れについては,募集・選考,受入れ能力,宿舎,日本語等の予備教育,修学,指導等について検討すべき問題がある。特にわが国が国費を給与して招致する留学生については,その人員・学費・学寮その他受入れ方策の整備充実について検討を要する。
  わが国からの留学生の派遣については,財政的援助および外貨の割当等につき考慮すべき問題がある。

2.研究者の派遣・受入れについて
  大学教授等研究者の派遣については,派遣人員・派遣期間・財政的援助等在外研究員制度の整備について検討すべき問題がある。
  研究者の受入れについては,長期研究,奨学金その他の便宜供与,受入れ研究機関に対する財政的措置等受入れ態勢の確立について検討を要する。
  なお,大学の外国人教師についても受入れに関し考慮すべき問題がある。

3.学術文献・資料等の交流について
  学術文献・資料の交流については,学術文献の送出し・受入れ,学術情報資料の交換,学術研究成果の翻訳・紹介ならびにこれらの総合的実施機関の設置等積極的にこれが交流を促進する方途について検討すべき問題がある。なお,学術の国際的共同研究についてもこれが推進措置等について考慮を必要とする。
  芸術作品・資料の交流については,古文化財・絵画・彫刻・工芸・映画・音楽・文学などの作品等の海外紹介・普及について検討すべき点がある。

4.東南アジア地域における教育・学術・文化に対する協力援助について
  東南アジア諸地域は,わが国と地理的のみならず,政治的・経済的関係も古くから密接であり,その開発についてわが国に対し協力の要請も強い。したがって文化交流に関しても,特にこの地域に対しては,他の一般諸国に対するそれとは異なって,留学生その他の技術修習者の受入れ,コロンボ・プランへの参加等従来からの協力を一層拡充推進するとともに,研究者の受入れ・派遣,アタッシエの設置,日本文化の紹介・普及およびこれら地域に関する研究の促進等有効適切な協力援助方策について検討を要する。

5.その他
  以上の外,国際会議の開催・参加,ユネスコ活動の促進,必要な諸地域へのアタッシエの設置等についても検討を要する。
  なお,国際文化交流促進のため国が関与する事業の範囲と内容,関係諸機関の連絡協力ならびに事業の調整等についても考慮すべき点がある。


(答  申)  
昭和31年7月9日
文部大臣  清  瀬  一  郎  殿
中央教育審議会会長
天野会長

教育・学術・文化に関する国際交流の促進についての答申

  本審議会は,教育・学術・文化に関する国際交流の促進について,特別委員会を設けて審議を行って得た結果に基き,総会においてさらに慎重に審議し,次の結論に到達しましたので答申いたします。


  教育・学術・文化の振興をはかり,文化国家としての基礎を強化し,その国際的地歩を高めるとともに,世界文化の発展と人類の福祉に寄与するには,広く学術・文化の国際交流に関する施策を促進することが必要である。
  ことに,今次の大戦によって久しく文化的に孤立し,世界の進歩からたち遅れを余儀なくされたわが国の学術を向上させ,さらに国際間の理解と親善とを増進するには,留学生・研究者の人物交流,学術に関する文献・資料の交換ならびにわが国文化の海外紹介等の施設を強力に推進することが緊急である。  
  なお,東南アジアの諸国については,わが国との地域的関係の密接なるにかんがみ,これら諸国との友好関係の促進をはかるとともに,その教育・学術・文化の振興に対して積極的に協力することがきわめて重要な意義をもつものと考えられる。
  ところで,文化の交流に関するわが国の施策の現状は,いずれの面においてもふじゅうぶんのうらみを免れない。もとより文化の交流に関する事業は,民間の協力にまつところが少くないが,その国家的重要性にかんがみ,政府は,これが企画および実施についてさらに格段の努力を払うべきであって,特に次の諸事項については,すみやかに対策を樹立し,その実施の措置を講ずる必要があると考える。

I  留学生の受入れおよび派遣

1.外国人留学生の受入れに関しては,国際的理解と親善の増進に意を用いるとともに,その教育を有効適切ならしめるために,留学生の学歴・国語・国情・生活様式等の特殊性を考慮して特別の措置を講ずることが必要である。
イ.留学生を受け入れる大学については,その教育が有効かつ適切に行われうるように施設・教育課程・補導組織等を整備するとともに,日本語等の予備教育を行う留学生別科のような制度を確立すること。
ロ.特に日本政府が外国から招致する留学生については,その数を大幅に増加するとともに,給与の適正を期し,さらに募集・選考の時期,方法等についても改善をはかること。
ハ.なお,海外における留学生の募集については,これを自由に放任した場合は国際的信用および親善の阻害その他の弊害を伴うおそれがあるので,国において必要な調整を行う等の配慮をすること。

2.留学生の派遣については,派遣留学生制度を確立し,特に必要な分野については国費による派遣を考慮すること。

II  研究者の受入れおよび派遣
  わが国の学術水準を飛躍的に向上せしめるためには,研究者の視野を広めその研究の促進をはからなければならない。これがため特に在外研究員制度をすみやかに拡充強化し,大幅に人員を増加するとともに,広い分野にわたって研究者を海外に派遣し,かつ在外研究期間の延長等の措置を講ずること。
なお,外国人研究者の受入れについては,その研究を助長するとともに,国際理解の増進,学術振興のために適当な制度を確立すること。

III  学術文献・資料等の交流
  学術文献・資料等の交流を円滑・効率的に行うため適当な中枢的機関を設け,これに関する事業を集約的に行わしめること。

IV  東南アジア地域における教育・学術・文化に対する協力
  東南アジア地域との交流については,前掲の一般的諸施策の整備強化のほか,国費留学生の大幅増加をはかるとともに,技術関係研究者の多数派遣,その他東南アジア地域の総合的調査研究のための施設を設置するなど,該地域の教育・学術・文化の振興に対する協力を強く推進するように必要な措置を講ずること。

V  人物交流等のための中央機関の設置
  人物交流等に関する業務を一元的かつ円滑に実施する中央機関を設置し,たとえば留学生・研究者等について,その受入れおよび派遣のあっせん,宿舎の経営,あっせん等の業務を行わしめること。
なお,この機関は文部省所管の特殊法人とし,政府はこれに財政補助その他必要な援助を行うこと。

VI  その他

1.教育・学術と並んで芸術等文化関係の国際交流については政府はユネスコ等の国際政府機関その他各分野の担当機関への協力援助等これが促進に必要な方途を講ずること。なお,スポーツについてもこれに準じて扱うことが望ましい。

2.海外における日本文化・日本語の普及方法等について検討し,また,日本語教育方法を科学的に研究して,その改善をはかるとともに,わが国における外国語の教授方法の改善についても検討すること。

3.学術文化に関する国際親善を増進する上にきわめて重要であるので,政府は研究者の海外における会議への参加を助成するとともに,国内における開催についても積極的に協力援助の方途を講ずること。

4.教育・学術・文化の交流を促進するため世界の主要な地域(たとえば東南アジア・アメリカ)に,これに関するアタッシエの設置を考慮すること。

備    考
  以上の答申事項に関し,具体的措置を要するものその他詳細については,別添付属書に譲る。


教育・学術・文化に関する国際交流の促進に関する細目(答申付属書)

I  留学生の受入れおよび派遣

1.留学生を受け入れる大学は,留学生の教育を適切に行うに必要な施設・設備・教員組織・教育課程・補導組織等を整備しなければならないものとすること。

2.予備教育を行う留学生別科は,修業年限1年ないし1年半程度とし,留学生の教育,特に専門教育の学習を効果的にするため,日本語および基礎教育等の予備教育を行い,あわせて日本の国民性・風俗・習慣等を理解させるようにすること。

3.留学生の宿舎については,国または大学等において必要な学寮を整備し,専任の指導者を置いて,その運営管理の円滑を期し,かつ,民間団体等との提携を緊密にし,留学生の生活補導を適切に行いうるようにすること。

4.大学において履修すべき学科目については,原則として日本人学生と区別を設けないが,日本語能力その他一般に留学生の特殊事情にかんがみ,一般教育科目の一部について特例を設けるなど,適当な方法を考慮すること。

5.海外において留学生を募集する大学は,1.の条件を充足することが必要であるとともに,この場合においては,国際親善の阻害その他の弊害を防止するために,募集の方法,募集の条件および学生数等について,国において事前に必要な調整措置(たとえば承認制度)を行うことができるようにすること。
大学以外の団体等による留学生の募集は,その受入れ大学が確定しており,かつ,当該大学が1.の条件を充足すると認められる場合に限り行いうるものとし,その募集については前項に準じて取り扱うこと。

6.日本政府が招致する国費留学生については,以上のほか,次のように措置すること
イ.募集および選考については,文部省・関係在外公館ならびに当該国政府との密接な連係のもとに,それぞれの国情に応じ優秀な学生を採用することができるように,募集および選考の時期・方法について改善をはかること。
ロ.受入れ大学の決定は,留学生の希望を考慮するとともに,特に留学生の教育的効果を助長する見地から行い,留学生を受け入れる大学にはこれに必要な財政的措置を行うこと。
ハ.給与については,当該政府派遣の官費留学生および他の制度による留学生の給与との均衡を考慮して適当な増額をはかること。
ニ.留学生数については,その増加をはかるとともに,必要に応じ旅費についても政府負担を考慮すること。
ホ.研究留学生については,現在の1年のもののほか,2年のものを設けること。

7.外国政府等が招致する留学生については,必要に応じ旅費に関する日本政府負担を考慮すること。

II  研究者の受入れおよび派遣

1.大学教授等研究者の派遣については,人員の大幅増加,期間の延長等在外研究員制度の整備充実をはかるとともに,なお,公私立大学の教授等については,外貨割当の増額その他派遣を容易ならしめる方途をあわせて考慮すること。

2.外国人の研究者が,わが国の大学・研究所において研究を行いならびに日本の研究者と共同研究を行いうるようにするため,これらの外国人研究者の旅費・滞在費等に関する対策を樹立すること

3.外国の大学・研究所等との教授の交換制度を確立し,招へい教授の待遇向上について考慮すること。

III  学術文献・資料等の交流
  学術文献・資料等の交流事業を行うため設置する中枢的機関は文部省所管とし,学術に関する内外の文献・資料・情報等の収集・提供・利用を円滑かつ効率的に行うため,近代的な施設設備を備えたものとし,大学・研究所・学会等と有機的連絡を維持しつつ,たとえば,学術文献総合目録・学術論文抄録等の作成配布その他学術文献・資料等の交流に関する事業を集約的に行わしめること。

IV  芸術等の国際交流
  芸術(古代文化財を含む。)の国際交流については,展覧会等の開催,作品および資料等の作成配布,交換ならびに関係著名人等の交換等を有効適切に行いうるようにするため,政府はこれらの事業を担当する機関への財政的援助をはじめ,芸術交流の促進に必要な具体的方途を講ずること。
スポーツの国際交歓等についても,政府は右に準じて援助を行うことが望ましい。

V  東南アジア地域における教育・学術・文化に対する協力
  東南アジア諸地域との文化交流については,上記の一般的施策のほか,特にこれらの国の教育・学術・文化の振興に対する協力方策として,次の諸事項について措置すること。

1.国費の学部留学生の増加をはかるほか,さらに技術研修を容易ならしめるため,短期大学の留学生および短期の技術修習生の受入れを促進し,将来は高等学校(特に職業教育の高等学校)へも留学できるよう検討すること。

2.教授等研究者の派遣については,特に技術関係の人員を増加し,派遣に伴う財政援助の強化その他必要な便宜供与を考慮すること。

3.世界の主要地域にも必要であるが,特に東南アジア地域のうち適当な地に日本文化センター(仮称)を設置し,これに必要な人員を配置し,教育・学術・文化に関する情報資料の提供交換,あっせんその他の文化交流に関する事業を行わしめるとともに,東南アジアの諸国における日本の教育・学術・文化等の研究に資せしめること。

4.東南アジア地域の地域的重要性にかんがみ,政府はわが国の大学または研究所等において,該地域の総合的調査研究を行うために必要な措置を講ずること。

VI  人物交流等のための中央機関の設置
  人物交流等のため設置する文部省所管の中央機関は,おおむね次に掲げるような業務を行うこと。

1.留学生・研究者等の受入れおよび派遣のあっせん。
2.外国人留学生・研究者等のための宿舎の経営およびあっせん。

3.外国人留学生・研究者等のため必要な指導・助言等の協力・援助

4.受入れまたは派遣の留学生・研究者等のための奨学金・渡航費等に関する財政的援

5.外国人留学生等のためのわが国の教育事情等に関する資料の整備と紹介ならびに外国留学に関する情報・資料の収集・提供

6.芸術作品・資料の交換,あっせん等文化関係の国際交流に関する協力・援助

VII  その他
  ん等文化関係の国際交流に関する協力・援助

1.国際文化交流に関与する政府諸機関の連絡委員会を設け,相互の活動について連絡をはかり必要な調整を行いうるようにするとともに,特に留学生・研究者の国際交流事務を円滑に行うため,これに関する国内行政事務を統一的一元的に行いうるようにすること。
ん等文化関係の国際交流に関する協力・援助

2.教育・学術・文化の国際交流におけるユネスコの役割にかんがみ,政府はユネスコの行う事業に対してさらに協力を進めること。
ん等文化関係の国際交流に関する協力・援助

3.わが国の教育の振興をはかるため,学校教育関係者の海外派遣等について考慮すること。
ん等文化関係の国際交流に関する協力・援助

4.国際文化交流にあたっては,これに関与する者の語学力特に表現力がきわめてふじゅうぶんな点にかんがみ,すみやかに外国語の教授方法等の根本的改善をはかるとともに,その趣旨に沿う語学の研究施設の設置についても考慮すること。


(大臣官房政策課)

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