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中央教育審議会

1997/10
幼児期からの心の教育に関する小委員会 (第3回)議事録 

       幼児期からの心の教育に関する小委員会(第3回)

     議    事    録

    平成9年10月14日(火)  13:00〜15:30
    東海大学校友会館  33階  望星の間


    1.開    会
    2.議    題
        幼児期からの心の教育の在り方について(ヒアリング及び討議)
    3.閉    会


    出  席  者

委員 専門委員 事務局
木村座長 明石専門委員 遠藤審議官(初中局担当)
沖原委員 油井専門委員 御手洗教育助成局長
河野委員 猪股専門委員 北村審議官(体育局担当)
土田委員 衣笠専門委員 土居幼稚園課長
佐々木(光)専門委員 富岡総務審議官
里中専門委員 杉浦政策課長
佐野専門委員 その他関係官
佐保田専門委員
末吉専門委員
平山専門委員
牟田専門委員
山折専門委員
渡邊専門委員


    説明者
      小林厚生省保育課長

    意見発表者
      1  有  賀  和  子  氏(台東区立根岸幼稚園長)
      2  高  橋      紘   氏(至誠第二保育園園長)


○  それでは、幼児期からの心の教育に関する小委員会、第3回を開催させていただきます。
  本日は、お忙しい中、小委員会に御列席賜りましてありがとうございます。本日も2名の方からヒアリングを予定いたしております。また、事務局並びに厚生省のほうから資料について御説明をいただく予定でありますので、通常の会議時間2時間を30分延長させていただきまして、3時30分までといたしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
  本日は、まず、幼稚園及び保育所の問題についてヒアリングを行い、その後、自由な意見交換をしたいと存じます。
  初めに、事務局から、幼稚園教育の現状に関して御説明をお願いいたします。
(土居幼稚園課長から資料に基づき説明)

○  引き続きまして、厚生省の小林保育課長から保育所の概要に関してご説明をお願いいたします。
(小林厚生省保育課長から資料に基づき説明)

○  ありがとうございました。事務局及び厚生省の小林保育課長から御説明をいただきました。
  10分ほど時間をとってございますので、御質問等ございましたらぜひお願いしたいと存じます。

○  まず幼稚園でございますけれども、11ページの「心の教育に関する現行幼稚園教育要領」等を見ますと、これをしっかり受けとめると、それこそ幼児期からの心の教育の在り方というテーマに実に触れるものであると思うわけです。「健全な心身の基礎を培う」とか、「人への愛情や信頼感を育て、自立と協同の態度及び道徳性の芽生え」。したがって、私は、幼稚園教育というのは、ますますこれから注目されるべき学校教育の根幹であるような気がいたします。
  さて、それで見ますと、9ページに幼稚園就園奨励費等の補助金とか、施策の予算が載っております。そして、ただいまの保育所の説明の中で、5ページに保育所における運営費というのがございます。制度が違いますから、一概に単純な比較はできませんけれども、どうも公費が片一方は1兆2,000億、片一方は1億単位と。これは幾ら制度が違っても、子どもの数は幼稚園のほうが多いようですから、これから施策の中で考えていただくべき問題ではないかと思ったわけであります。
  それから、具体的質問でございますが、保育所保育指針という教育要領が非常にいいというのはわかりますが、保育所の場合、保育指針を保母、職員に理解させるための方法、研修等はどうなっているか。例えば、幼稚園の場合は、新任は年間10日間の研修とか、都道府県によっては月に1回から2回毎月行うとか、いろいろやっておられますが、保母のほうはどういうふうなことなのかお聞きしたいと思います。

◎小林厚生省保育課長    保母の現任研修につきましては、原則的には、地方公共団体が実施することになっており、保母、主任保母、所長研修など、系統的に研修を実施していると聞いております。今、手元にその資料を持ちあわせておりませんので、詳細についてはお答えできませんが、月に何回とか、何日間実施しているとかにつきましては、地方公共団体によって異なっております。国としましても、所長研修、主任保母研修、乳児保育研修、障害児保育研修、地域子育て支援センター担当者研修などを実施しているところでございます。

◎土居幼稚園課長    幼稚園の予算のことについて御意見をちょうだいいたしました。私どもも幼稚園関係の施策、予算の充実に努力をいたしております。最初に御説明申し上げましたとおり、幼稚園制度が設置者負担主義ということでございますので、国の費用というのは比較的少なくて、地方交付税で積算されているというような制度、仕組みになっているところが、保育所と違う特色かと存じます。
  ちなみに、公立幼稚園につきましては、国費と市町村費で約3,000億、それから私立幼稚園につきましては、国費と都道府県費あるいは市町村費を足しまして、私立幼稚園の公費負担に関しましては私学助成が主でございますけれども、1,581億というような額に統計上なっております。

○  今お話を伺いました保育所における相談等の事業のことで、現在、これは大きな関心事なので、一つお聞きしたいのは、この公的な施設の利用率というのはどのぐらいになっているかということと、もう一つ、これは過去と現在と比べた場合に増えているのか、それとも減少しているかという、その現状を教えていただければありがたいんですが。

◎小林厚生省保育課長    相談事業でございますが、利用率という形でのデータは残念ながらとれておりません。地域子育て支援センター事業を実施しております保育所が、9年度の予算でみますと、2万2,400の保育所のうちで600ヶ所ということですので、決して多くない数字でございますが、地域子育て支援センターの指定を受けているのが予算上は600ヶ所ということでございます。そこでいろんな相談を受け、実際に地域における、あるいは家庭における子育て機能といいますか、子育て力が若干低下していることを受けまして、相談の件数などについてのデータが十分につかめておりませんが、総体的には相談の中身、数とも増加しているということを、保育所の支援センターに関係していらっしゃる方からのお話では伺っております。例えば600ヵ所の子育て支援センターの指定を受けている保育所で、年間どういうような相談件数を受けたかというデータはありますが、今、手元にそれを持ってきておりませんので御報告はできません。

○  もしよろしかったら、後ほど届けていただきますと、参考になると思いますが、いかがでしょうか。

◎小林厚生保育課長    データを整理いたしまして、提出したいと思います。

○  先ほど、これが大体国の運営内容だと。そのほか、市町村によって超過負担、法外負担というものがあるやに聞いたんですが、市町村が出している超過負担、法外負担の合計は、おおよそどの程度になっていると言われているんでしょうか。

◎小林厚生省保育課長    それについては把握をしておりません。実際問題、特に都市部で、国の最低基準をさっき申し上げましたけれども、基準を上回るような保母の配置をするような場合には、県あるいは市町村レベルで、そのための保母さんを1人分増やすための人件費の助成をするという方法でありますとか、あと国の徴収基準より保育料を軽減するということをした場合には、その軽減した分は市町村が持ちだします。多くはその二つのジャンルで市町村において超過負担が生じていると思われますけれども、地方公共団体の判断と責任で行われている関係上、その総額につきましては、国としては把握しておりません。

○  ちょっと教えていただきたいのですが、保育所の場合には、1日8時間の保育時間を原則とし、3歳児では保母1人当たりに対して20人の幼児ということになっておりますね。
  幼稚園での同じ3歳児の場合には、一日の教育時間は4時間を標準とし、1学級の幼児数は35人ということでよろしいのでしょうか。

○土居幼稚園課長    基準上は原則として35人以下というふうに現在ではされておりまして、実際、国公立の幼稚園を通じて35人でやっているというところは非常に稀でございまして、20人とか、20数人という場合が  ―もちろんそれ以下の場合もございますけれども、実際の運営はそういうふうにしているのが多うございます。
  それから、先ほど申し上げました幼稚園教育の協力者会議で、引き続き教育内容にかかる事柄として研修とかのほかに、幼稚園の指導方法あるいは学級の定数の問題とかを御審議をいただいておりまして、その審議では下げる方向でというような御意見が非常に強く出ております。

○  厚生省の資料に、「放課後児童クラブ」があります。平成6年度の4,500から、平成11年度は9,000ヵ所の構想をお持ちでございますけれども、よく学校に併設した学童クラブと、地域で独自につくる学童クラブがございますよね。例えば、5:5とか、7:3だとかというような、大ざっぱな比率はおわかりでしょうか。

◎小林厚生省保育課長    申しわけございません。保育課で所管しておる事業ではない関係もありまして、私の手元にはそのデータはございません。

○  私は詳しくわかりませんけれども、今後、厚生省は、こういう学童クラブと申しましょうか、それを学校の敷地内に置いて子育て支援をしたほうがよろしいのか、独自に地域社会の地域子育て支援センターを考えた方がよろしいのか、学校に置いたほうが学童クラブとしては健全育成ができるのか、いや、学校というのはかたいので、地域に置いたほうがいいと。そういうような厚生省内部の構想はないんでしょうかね。

◎小林厚生省保育課長    基本的に放課後児童クラブ、学童クラブと言っておりますものを、どこに置くかについては割と柔軟に厚生省としては考えております。実際は学校に入るまでは保育所で夕方までおられたのが、小学校1年になると昼でも帰されるという、子どもの行き場所がないというので、まさにこの受け皿として議論されているわけで、そういう意味では、小学校の中にこういうものが併設されるというのは、それはそれで望ましいんではないかと思っておりますし、場合によっては保育所がこういう放課後児童クラブ的な部分まで対応することもありえます。数は決して多くございませんが。あとは社会教育施設、公民館とか、そういうような教育施設も貸していただいて、そこでやれれば、それはそれでまた結構なことじゃないか。あまりそれを限定的に考えようとは私どもはしておりません。今度の法改正の中でも、この放課後児童クラブについては法律上の根拠を与えまして、できるだけ伸ばしていきたいということを考えておりますので、どこに置くかについてはできるだけ幅広く、地域の中で一番良いところをそれぞれ選択してもらえればありがたいと思っております。

○  補足させていただきます。学校に置かれております学童保育は、学校の活動としてではなくて、厚生省所管の市町村の活動としてやっておりますので、学校はあくまでも放課後の教室等をお貸ししている。あるいは、余った教室をそっくりそのまま、そちらの部局のほうにお譲りしているという形でございますので、あくまでも外形的そこにあるというだけでございまして、仕事の内容はすべて学童保育という形で、独立した形で、学校とは全く別途に運営されておりますので、そこは御理解いただきたいと思います。

○  幼稚園教育の資料の内容を見ますと、先ほどもおっしゃっていたように、心の教育の基本がほとんど網羅されているような感じがします。
  ついては、せっかくこういう目標で子どもを育てて一生懸命やってこられたわけですから、小学校教育とのつながりのところはどうなっているのかと思いまして、御質問させてもらいます。

◎土居幼稚園課長    幼稚園と小学校のつながり方ということでございますが、さきの中央教育審議会で御答申をいただいて、現在、教育課程審議会で新しい教育内容について検討を進めておりますが、特に幼稚園と小学校では、現行の教育要領で、小学校1年生、2年生で理科・社会を統合したような形で生活科の教科が導入されて、具体的な体験の中で学んでいくというような趣旨・目的でございますけれども、そういったような教科を中心にして、幼・小のつながり方が非常によくなったと。これは幼稚園の先生からの御評価が主でございますけれども、そういうふうなことが言われております。
  で、運動会とか、いろいろな学校行事、あるいは生活科とかいったような面で、幼・小の子どもが一緒に教育活動をするとかいう場面が増えております。また、先生同士の研修も盛んになりつつございます。
  それから、より基本的には幼稚園でしっかりいろいろな豊かな体験をし、これは道徳性の芽生え、心の教育も含めてでございますが、遊びを中心にして、しっかり活動をしているということが、すなわち小学校以降の学習の基盤になるということを基本的な考え方にいたしております。
  具体的には、5歳児、就学前の時期になってくると、先生の話を静かに聞く活動といったような内容が増えてくるというか、そういった面のプログラムが用意されてくるということで、小学校に無理なくつながっていくように配慮をした活動が行われております。

○  一言だけ。保育課長さんに質問をさせていただきたいんですけれども、1ページ目の目的に「保育に欠ける」という言葉が、施策の内容ではありませんが、書いてあります。この言葉は、措置行政という中で必要な言葉として今まで使われてきたんだろうと思うんですが、私もそうなんですが、働く親が保育園に預ける最初にいただく文書にこの言葉がありますと、育児不安の解消にこれから努力されるということですけれども、この言葉自体が不安を喚起するというようなことを、私がつき合っております働くお母さんたちは言うわけです。これからもやはりこの言葉お使いになられるんでしょうか。

◎小林厚生省保育課長    今回、法改正をするに当たりましても、そこの「保育に欠ける」という用語をどうするかということも議論になったようでございます。ただ、まずはかわるべき言葉として、どのような法令上の適切な概念、あるいは言葉があるのかということです。対象としてとらえるのは、今の対象児である保育に欠けるお子さんを保育所でお預かりするという基本的な考え方は維持しようということでの法改正でございましたので、あと保育に欠けるという、今、委員の御指摘のような形での言葉としての適切さという観点からの議論が残ったわけです。これは今回に限らず、これまでも何度か出ては消えてという議論でもあるわけですが、最終的にそれに置き換わるべき言葉というのが、法令上の言葉としてなかなか適切なものがないということもその背景にあったんだと思いますが、最終的に今回の法改正におきましても、この言葉だけは法律の24条でそのまま継続をすることになっています。
  今後、それではこれをかえる予定はあるかということにつきましては、今、法改正が終わったばかりでございますので、次の機会はいつになるのか、またかわるべき言葉として、その時点でふさわしいものが見つかっているかどうか、そのような状況の中で検討されるべきものではないかと思っております。

○  幼稚園のほうで、5歳児の就園率がずうっと漸減していますね。4歳では少し減っているがその後、どんどん増えているのに対して、5歳児が減ってきているのは、どういうことでしょう。2%というのは有意差のような気がするんですが。非常におもしろい現象だなと思って拝見していました。保育園とトータルすると、大体95%で横ばいになっているのでしょうか。保育園のほうへシフトしているとも考えられますね。

○土居幼稚園課長    ここを有意差があるということにつきまして、具体的に調査をいたしてはおりません。ある面では、女性の社会進出とかいうような状況がございますので、保育所のほうへということがあるかもしれませんですけれども、行政的あるいは学問的に調査しているというのはございません。

○  まだ御質問等おありかと思いますが、時間の関係もありますので、ここまでとさせていただきます。それでは、次へまいりたいと存じます。幼稚園及び保育所関係の方からのヒアリングでございます。
  まず最初に、有賀和子さんを御紹介させていただきます。有賀さんは、東京都台東区立根岸幼稚園の園長をお務めでございます。本日は、幼稚園の現場でのお取り組みを通じて、幼稚園教育の現状と課題、それから心の面を中心にお話しいただければと存じます。15分程度御意見を伺いまして、10分程度質疑応答をしたいと存じます。
  それでは、有賀さん、よろしくお願いいたします。

◎有賀意見発表者    有賀でございます。よろしくお願いいたします。
  先ほど事務局のほうから、幼稚園は環境を通して行う教育であるということと、それから主体的活動としての遊びの中に総合的に指導が行われるというお話がございました。総合的指導によって、総合的に心情、意欲、態度を身につけていくのが幼稚園の生活ですが、本日は心の教育専門部会ということですので、先ほどの資料にもございましたように、幼稚園教育の中核になっております心の教育の面を、今までのお話は大変かたいお話でしたが、現場サイドから子どもの姿を通してお話ができたらなと思っております。
  まず初めに、私自身のとっておきの体験からスタートさせていただきたいと思います。これはだいぶ前の話になるんですけれども、私が現場でまだ子どもたちを保育していたころの話です。
  あるとき、家で大変放任状態で育った男の子が、ハル君というんですが、入ってきまして、その子がいろいろ問題を起こすんですけれども、あるとき、砂場でイライラを生じるような問題を起こして部屋に入ってきました。そのとき、部屋の中では女の子たちが大変楽しく絵を描いていたんですね。すばらしい絵を描いた女の子が、ちょうど私のほうに向かって「先生っ」て言って、その絵を差し出したところだったんです。そこへイライラが高じたハル君がよたった格好で入ってきまして、あっという間にその絵を取り上げて、ビリッと引き裂いてしまったんです。ほんとにあっという間の出来事でした。
  私も許せないという感情がこみ上げまして、ハル君をロッカーの上にポンと座らせて、これは後で思うとなぜ座らせたか自分でもわからないんですけれども、ある意味では目と目が合うという意味ではよかったかなと思うんです。座らせて、あなたの行為が許せないということを話したんです。話してるうちに、私も感情が込み上げてきて涙ながらに話してたんですけれども、その子がポロッと涙を見せて、その日を境に少しずつ変化を、もちろんコロッと変わるわけではありません、少しずつ変化を見せてきたんです。ただ、私の中には、思わず自分が出てというか、思わず駆け寄ってポンとやってしまったという、そのことがしこりになってずうっと残っていたんです。
  それで10年ほどたちました。10年ほどたって、ある日、私のところにイラスト満杯のはがきが届いたんです。はがきにその子の名前が入っておりまして、一番上に、「僕みたいなのも高校に入りました」というふうにでかでかと書いてあるんですね。そして、下のほうは、今の子特有のカラフルなイラストがたっぷり入った絵でした。そして、一番下のところに小さくなんですが、しっかりした字で、「僕は先生をお母さんだと思っている」って書いてあったんですね。私はそれを見て非常に感激しまして、私にとってはそのはがきは宝物になったんですが、そのときに、心を伝えるということは一瞬のうちに伝わることもあるし、それから長い年月をかかって、こういう形で私のほうへ伝わってくるということもあるんだなということを、その子とのかかわりの中で私は学ばさせてもらいました。
  心という問題は、見えないだけに、心を伝えるとか、心を育てるとか、そういったことは非常に難しい問題だなと思っています。でも、子どもたちはいつも私たちにそういうことを問題として突きつけてきますので、ある意味では心を育てるということは、教師サイドの生き方とか、保育観であるとか、子ども観であるとか、もっと言うならば力量ですね、そういったものがいつも問われているんだなということをすごく感じております。
  そのためにも、幼稚園では、先ほど課長さんのお話にもありましたように、研修に力を入れておりまして、子どもを見る目、保育を見る目を確かなものにしていかなければ心の教育はできないということで、幼稚園では確かな目を育てるために研修を積んでおります。各園での園内研究はもとより、そのほか、新採のための研修であるとか、現職のための研修であるとか、いろいろな研修が組まれて、その中で研さんを積みながら確かな目を育てていっております。
  次に、子どもの心の育ちというのは、どういったところに見えてくるのかについて少しお話ししたいと思います。
  こちらは昔の話ではなく、今、私が所属している園での話ですが、アキラ君とシュウちゃんという子の話です。二人は大変仲良しで、いつも一緒にいろいろ行動しているんですけれども、秋になって畑のほうに虫がいっぱいいるということで、自分たちでつくった虫かごを肩からぶら下げまして、やはり自分たちでつくった虫捕り網を持って、毎日のように虫を探しに出かけるんです。そうやって毎日毎日繰り返していっていますので、見つけるのは大変上手になりました。でも、自分でつかめないんですね。ですから、見つけると、先生たちを呼んでは「つかまえて」ということで、つかまえてもらっているというのがずうっと1ヵ月ほど続いていました。
  ある日、思わずアキラ君が手が出たわけです。自分で初めてつかまえたのが、何とオンブバッタだったんですね。オンブバッタですので、一遍に2匹つかまえてしまったんです。それで天にも上る心地という感じで、うれしくてうれしくて、みんなに伝えて回ってたんですね。部屋に戻ってきて、みんなに伝えたり、先生に伝えたりして、それから畑のほうに戻ったら、シュウちゃんがしゅんとしているのが目に入ったんです。そうしましたら、アキラ君は、自分のオンブバッタの上のほうの1匹をそうっと取り出して、草むらのわきに置いて、「シュウちゃん、ここならとれるかなあ」と言って、「シュウちゃん!  シュウちゃん!」て呼ぶんです。そうしましたら、持っているのを見つけた年長の子どもたちが寄ってきまして、「おっ、放すのか。じゃ、おれたちとろうぜ」って言って周りを取り囲んだんです。そうしたら、懸命になって、「これはシュウちゃんのなんだよ。これはシュウちゃんのバッタなんだからね」って言って、懸命に訴えたんです。そうしましたら、年長の子どもたちが、「そうか。じゃ、やめよう」と言って引き下がってくれたんです。
  そのバッタを持ってシュウちゃんのそばまで行って、「シュウちゃん、ここならとれる?」って言って、草むらに放したんです。で、シュウちゃんのほうが一生懸命追いかけてとろうとしました。でも、とれないんですね。何回か一生懸命追いかけていました。ところが、どうもアキラ君がギュッと握っていたので、少し弱くなっていたのか、シュウちゃんでも、そうやって逃げるのを追っかけてるうちにとれたんです。とれたことがうれしくてうれしくて、飛び上がって喜んだんですが、そのときにアキラ君が「シュウちゃん、よかったねえ」っていうふうに、自分のことのようにすごくうれしそうな顔をしたんですね。私はそばで見ていて、アキラ君の気持ちを思うと、〈何とかシュウちゃんがとれてほしいな〉という思いで見ていたんですけれども、そうやって二人が喜びを共有することができたんです。
  そのことから考えて、子どもの心の育ちというのは、子どものそういった行動の中にあらわれてきますけれども、子どもたちに寄り添って見ていないと見えないものだなというのを感じるんです。
  ただ、子どもたちの心が育っていくというのは、ほうっておいて育つものだろうか。ただ遊んでればいいんだよって言って、ほうっておけば、子どもたちの中にそういうものが育ってくるものだろうか。そうではないんですね。やはり日常の中で、先生が子どもたちをよく見て、日常の小さな事柄の中で、一つ一つの指導を積み重ねてる中に、こういった子どもの姿が出てくるんだろうなと思います。
  そう思って、この学級の担任の先生の保育をもう一度見直してみますと、そういう場面が幾つも見れるんですね。例えば、ここに挙げましたけれども、ユウト君の「ぞうさん」という一つのエピソードがあるんです。ユウト君というのは虫が怖いんです。ですから、虫を捕ることはもちろんできませんし、それから子どもたちが虫捕りして遊んだ後に、楽しかったことを再現しようということで、空き箱だとか、空き容器を使って虫をつくって遊んでいます。こんなに大きな虫になるんですけれども、そういった虫をつくって、運動会がちょうど近かったものですから、先生が、それをとって走るというような競技を組み入れたんです。段ボールでつくった草むらの中に虫たちがいっぱいいて、走っていってそれをとって、ゴールするというような競技がされていました。
  最初は好きな子どもたちがやっているんですけれども、だんだん集まってきて、そのうちに競争ですから、何とか早くつかまえて早くゴールしたいというふうになってきますので、どの虫をつかまえてゴールしてもいいというルールに変わっていくんです。
  そのときに、ユウト君というのは、みんなが虫をつくっていたときに、「僕は虫が怖いから」って言って、こんなに小さな象さんをつくったんです。象なんです。それを大事に、こうやって持っているんですけれども、みんながやっている競技には参加しないんです。いつもその象を抱いて見てるんです。先生は、ある日、またその競技をしようというときに、みんなに向かって、「みんな、ユウト君がかわいい象さんを持っているの、知ってるでしょう。この象さんはユウト君の宝物なの」という話をしたんです。「ユウト君もみんなと一緒に虫捕り競争に参加したいんだけれども、この宝物をどうしても持って走りたいんだよね」ということで、子どもたちに「先生、きょうはお願いがあるの」というふうにして、「ユウト君の象さんだけは、とらないで、みんな走ってほしいんだな」っていう話を、気持ちを込めてみんなにしたんです。そうしましたら、4歳の子どもたちでしたが、先生の話をしっかりと聞いていて、その後の競技のときに、ユウト君の象さんに手を触れる子はいなかったんです。
  そういうふうに繰り返しながら、運動会の当日を迎えたときに、ユウト君はその象さんを持って勢いよくゴールしてきました。そうしたら、一緒に走った子どもたちが、「ユウト君、よかったねえ、つかまえられて」って言ったんですね。そんな姿がありまして、それ以後、ユウト君にとってこの象さんは勇気のもとになりました。この象さんがあれば何でもできるという、そういう勇気のもとになったことと、それから周りの子どもたちがユウト君の勇気を後押ししてくれるようになりました。そんなことを通して、もう1年たちましたけれども、彼も徐々に変わってきて、ことしは畑の中で虫を追っかけてる姿が見られます。
  そんな形で、子どもたちは、3歳とか、4歳とか、5歳なりに、友達を思う気持ちも、育ち合っていく姿もあらゆるところにあるんですが、幼稚園では、それがただほったらかしておいてそうなるわけではなく、先生は教育課程に基づいて、今の子どもたちの実態に合わせて、何をどのように指導していくことで、子どもの心を育てていくことができるかということを常に考えながら指導をしております。
  そこに資料といたしまして、指導計画の一部もつけておきましたけれども、指導計画等に基づいて週日案を立てて、きょうはどのように子どもと生活をしていこうかという形で、毎日、子どもが帰りますと、先生たちは一人一人の子どもを思い浮かべて、〈きょう、この子がこんな遊びをして、あしたどんなふうになっていくんだろうか〉、それを考えながら、翌日の環境設定をしていくわけです。そして、次の日、子どもが来ますと、そこに取り組みながらまた新しい活動を起こしていくわけです。その中で、先生は、子どもがどんなふうに考え、何が子どもの中に育っていこうとしているのかということを見極めて、一人一人に対応していきます。ただ、一人一人に対応するということが、一人に対応するだけになったのでは幼稚園の意味がなくなってしまいます。
  それで、先ほどお話しいたしましたユウト君の事例でもわかりますように、先生が一人を大事にしてくれるということを、周りの子どもたちが見ているということが大事だと思うんです。周りの子どもたちが、〈あ、僕が困ったときも、先生はああいうふうに大事にしてくれるんだな〉と、その思いが膨らんでいくことが、幼稚園教育の中ではとても大事ですし、集団という一つの子どもたちのつながりの中で、一人一人の子どもが自己発揮していく、自己実現していく、それが幼稚園のよさだろうなと思っております。
  こういったことの中で、もう一つ大事なことがあるなと思うのは、子育てというのは、幼稚園という環境の中だけで行われるものではなくて、子どもは連続した生活がございますので、家庭、地域の中で同じように育っていっています。それがつながっているものでなくては、子育てはぶつ切れになってしまうんじゃないかと思います。大事なところは、家庭、地域がどう一緒に子育てを進めていくかというところかなと思います。
  先ほどのアキラ君のお話の続きがあるんですけれども、この日に、降園時間というんですが、帰るときに母親が迎えに来て、たむろして、みんなでペチャペチャとおしゃべりして、「井戸端会議」的な雰囲気があるんですけれども、そういう場所にはできるだけ出ていって、「きょう、こんなことがあったんですよ」ということをさりげなくお話ししたりするんです。
  その日も、アキラ君のことで私は大変感動しましたので、そこへ出ていって、名前は出しませんが、アキラ君とシュウちゃんとで、「きょう、こういうようなことがあったのよ。子どもって、4歳なのにこんな育ちをしているのよ」ということを伝えたんです。そうしましたら、その中のお母さんの一人が「先生、それはアキラ君のことですね。お母さんが、下のお子さんが生まれて、今、すごく悩んでます。上であるアキラ君が非常に荒れてきたと言って、お母さん、とても悩んでるんですよ。ぜひその話をしてあげてください」って言われたんです。
  こういった情報の提供はとても大事なことで、こちらが情報をキャッチしましたら、すぐにそれを返していくということを心がけていますが、アキラ君のお母さんにも早速そのことをお伝えしました。そうしましたら、二、三日したら、「先生、アキラのいいところをお知らせいただいて、何かあの話を聞いたら、ちょっと心がほのぼのして、自分がイライラしてたのがばかみたいに思えてきた」という電話が入ったんです。「アキラのいい面が見えてきたら、家での行動の荒らさというものも変わってきたんですよ」というお電話をいただいて、ほっとしたことがございました。
  こういった事例でお話しするまでもなく、既にいろいろなところでお話が出ていますけれども、今の若いお母さんたちの子育て不安というものは、今、非常に増大してきています。これからの幼稚園の一つの役割としては、在園している子どものお母さんだけではなく、未就園児のお母さん、あるいは地域の母親たちの子育て不安にこたえていける、そういった場を幼稚園の中につくって、親と地域と幼稚園と、もっと言うならば小学校や中学校、あるいは児童館であるとか、図書館であるとか、保健所であるとか、そういったところとネットワークをつなぎながら、地域でともに子育てをしていくということが、今、幼稚園には課せられているのではないかと強く思っております。
  きょう、厚い資料として2冊お配りさせていただきました。これは東京都の資料ですが、「地域に開かれた幼稚園を目指して」ということとか、「少子化に伴う幼稚園教育の在り方」ということで、こういった研究が行われております。特に「地域に開かれた幼稚園」ということでは、今お話ししましたように、幼稚園のこれからの使命が盛りだくさんに盛られておりますけれども、中でもそういった子育て不安に対する教育相談の部分とか、未就園のお子さんたちとの実際の交流であるとか、それから私の園でも行っているんですけれども、地域のボランティアの方とか、高齢者の方たちとのつながりとか、それから園庭とか、園舎の開放はもとより、言うなればもっともっと幼稚園から発信していくために、地域へ出ていって、地域の公園で保育を行うとか、そういったことも含めて、今、どんどん幼稚園を開き、また地域からも取り入れながら、ネットワークを広げていくということを進めております。これは東京都の実践ですが、全国の幼稚園においてそういった実践が、今、あちこちで行われております。その実践をより豊かにしていくためにも、この場をおかりしてなんなんですが、ぜひ行財政面での国のバックアップをお願いできたらなと強く思います。
  お願いで話を終わらせていただきますが、ありがとうございました。

○  どうもありがとうございました。大変豊富な現場体験に基づいた貴重なお話だったと思いますが、いかがでしょうか。

○  とても心にしみるお話をいただきました。今、我々のこの委員会の中で、心の問題ということで、そこで子ども自身ではなく、親の問題というのが一番難関でありまして、その辺がこれからまたきっと論議されるんだと思いますが、親の学習というんでしょうか、これを幼稚園で、あるいは保育園でやっていただけないかなという思いがあります。
  その一つとして、今、私は浮かんだんですけれども、親の保母さん体験というんでしょうか。これは言ってみればボランティアを受け入れることと同じですけれども、例えば親御さんが交代で保母さんを体験してもらう。親御さんというのは、保育の方法論を知りたいという思いが非常に強いと思うわけですけれども、その思いを満たしながら、保育の心みたいなことを親御さんに伝えていくことができると思うし、そこで接触することによって、保育の総合的なというか、本質的な心を学ぶことができるんじゃないかと思うんですけれども、そんなことができるかどうかということ。
  それから、私は障害を持ったお子さんとの交流をずっとやってました。子どもというのは、実にそういうことの中で発見があったり、成長があったりするわけなんで。幼稚園でそういうお子さんだいぶ受け入れているという実情がおありになるようですけれども、その辺の今後の見通しとか、その辺のところをちょっとお伺いしたいと思います。

◎有賀意見発表者    最初の点ですが、「保育参加」と私たちは言っていますけれども、これまで子どもの保育の状態を見にきていただく「保育参観」という形はずうっととられてきたんです。最近、「保育参加」という形で、お母さんもいらしてくださって、一緒に保育の中に入っていただくといったことが各地で見られてきました。うちの幼稚園の場合で申し上げますと、「ママさん先生」という形で、いろんなふうに入ってきてもらうんですね。そのときの感想をお聞きしますと、自分の子どもだけということで見ていた目が、ほかのお子さんを見ることによって、非常に開かれたということがあるんですね。狭く見ていたものが広がることによって、自分の子どもに対応する仕方も変わってきたということで、今、お話にありましたように非常にプラス面がございます。今、先ほどからお話ししていますように、子育て支援の一環としてそういったことも各地で実践が行われているところです。
  もう一つ、障害児の問題ですが、障害児についても、各園で受け入れが進んでおります。国公立幼稚園の中でも、障害児保育を統合して保育をしているところもたくさんございます。障害児といえば、今お話がありましたので思い出したんですけれども、私が若いころに障害児を受け入れて持っていたときに、自閉の子で、すべてをオウム返しに答える子どもでした。女の子だったんですけれども。この子を私自身が  ―先ほどの話とも関連すると思うんですけれども  ―邪魔だなって思う気持ちがあると、クラスの子どもたちみんながそうなるんですね。それで、あるときはおぶってでも保育しましたけれども、この子がいるからこのクラスがあるんだという思いになれたときに、初めて周りの子どもたちもその子の受け入れが変わってくるんですね。
  1年間、一緒にいろんなことを、私自身も自分の心の揺れを味わいながら生活してきて、修了式の日に、忘れられない修了式なんですけれども、その子は「や」の字がつくんで最後のほうなんです。証書をもらうときに名前を読み上げたら、その日に限って「はい」という返事が聞こえたんです。それで思わずハッと息のんでしまって、クラスの子どもたちが一番驚いたんですね。前の日まで、名前を呼ばれたら名前が返ってきていたんです。それが当日、「はい」って返事があったんです。後から思うと、前の子が「はい」と言ったのが残ってて言ったのかもしれないんですが、一瞬水を打ったように静かになって、クラスの子どもたちが「返事をしたァ」と言ってワーッと拍手をしたんです。私はそれこそその先が読み上げられなくなって、ほかの先生にかわってもらったんですけれども、すばらしい体験をさせてもらった。それは、子どもたちって先生の心のありようによってそれだけ変わるものだということと、それから子どもたちの育ち合う力ってこんなにも強いものだというのを、そのときにもすごく感じたんです。それに類することは、あちこちで皆さんの実践の中から、特に障害児を受け入れているところでは聞きます。ですから、これからきっと、あちこちの受け入れているところでまたいい実践が行われていくんじゃないかと思います。

○  ほんとにいいお話をいろいろありがとうございました。いいお話なんですけど、少し気になったのが、保護者の中で、母親はかなりお話に出てくるんですけれども、父親との交流というのは、御体験の中で何かおありでしょうか、あるいは呼びかけても来ないとか、そういうことがあるんでしょうか、ちょっとお聞かせください。

◎有賀意見発表者    今お話のありましたお父さんというのは、これから、すごく大事なところだなと思います。幼稚園としても、日曜参観というのを組みますと、ドッといらっしゃるんですね。カメラ片手に、ビデオ片手に、ドッと見えます。でも来ていただいたときはチャンスなので、お父さんの子育ての大切さ、お父さんの役割というところを、皆さんにはお話をするんです。
  各地でやはり、「お父さんの日」というようなのを設けて、何とかクラブとか名前をつけて、特に土曜日なんかに「お父さんの日」というのを設けてやっている園もたくさんございます。ただ、確かに来てくださる方が減っていってしまったりとか、限られてきたりとか、そういった問題を抱えていることは事実なんです。私のところでも、「お父さんの日」というか、「父親の日」というのを「一緒に遊ぼう会」というふうに名づけて、第3土曜日にやっております。本当に来てくださる方は、最初のうちは三、四人、このごろでは80人の子どもの中で10人ぐらいのお父さんは来てくださるのと、全体で考えると20人ぐらいのお父さんが入れかわって来てくださってるかなという気はするんです。
  その中で、いらしてるお父さんとお話をしまして、「みんなに来いというふうに言っても無理だろう。来れる人からスタートして、『こんなことをやってるよ』ということを具体的に知らせる中で、『あ、そういうことだったら行ってみようかな』という気持ちをそそられるようなことを、ちょっとずつやっていきましょうよ」と言ってくださるんです。そういうふうに、今、子育てに目の向いてきているお父さんもいらっしゃることは確かなんです。ですから、そこら辺を足がかりに広げていきたいなということは感じております。○  きょうはいいお話を伺いまして、大変ありがとうございました。基本的には、保育は教師の力量かなという感じをしました。
  ついては、意見を含めた質問みたいなものですけれども、子どもたちを取り巻く環境の構成ということも、幼児教育の基本になると思うんです。そういう点で、例えば自然の季節感を味わわせたり、さっきの畑のバッタの話は、非常に楽しくお聞きしました。そこで、物理的な環境といいますか、もっと園全体の面積を広げたり、中に田畑をつくったりするなど、意図的な環境整備も、子どもと環境との関係でいえば、心の育つ重要な要素ではないかと思います。先生のほうでは、その辺をどのようにして追求されているのか、お聞きしたいと思います。

◎有賀意見発表者    子どもの育ちの中で、自然とのかかわりは、特に心の育ちという面では大切な部分だと思うんです。特に都会の子どもたちにとってはそれが少なくなってきていますので、幼稚園の中で、意図的にでも入れ込んでいかないことには、おうちだけに任せておいたんではできない部分がたくさんございます。都会の中では、小さなプランター一つでも、子どもが自然に触れるいい機会になりますので、意図して土の部分は残しておこうということで、土の部分には草一本でも、花一本でも植えようじゃないかということで、たぶん皆さん力を入れていらっしゃると思うんです。
  地方に参りますと、すごく自然が豊かで、たっぷりの自然のある園庭を持っていらっしゃるところもたくさんございます。ただ、ここが大事かなと思うのは、では自然がそれだけあったら、子どもは必ず自然に触れているかというと、そういうところに行ってみますと、意外に子どもたちは保育室の中で遊んでいることが多いとかね。あんなにあるんだから、東京だったら毎日外に出ても、触れさせてやりたいのにと思うことが、あるということが逆に〈いつでも〉と思うのかもしれませんけれども、家の中で過ごしている。とすると、教師の動きというのは大きなポイントになると思うんです。先生がやっぱり植物が好きで、動物が好きで、そしてそういう世話に対応していれば、子どもも自然に先生のところに来て、同じように好きになっていくという過程をたどりますけれども、それだけ自然があっても先生がそっぽを向いていたら、子どもたちの中には育っていかないと思います。

○  大変感銘して承りました。それで伺いたいんですけれども、これまでの御体験から、幼児教育あるいは幼稚園児教育について、三つぐらいの合い言葉といいますか、スローガンといいますかね、そういうものをまとめるとしたら、どういうことになるでしょうか。三つぐらいにまとめていただくと、どうなるでしょうか。

◎有賀意見発表者    難しい問題ですが、私は、今のお母さんにもスパッとわかる言葉としては、「キラキラ」「ドキドキ」「ルンルン」というふうに言うんです。「キラキラ」は、その言葉どおり、輝いているということですね。それから、「ドキドキ」というのは、自分でドキドキしながら物事に向かっていく、心が躍るということです。それから「ルンルン」というのは、友達と一緒に「楽しいね」という気持ちを味わえるということで、お母さんたちにはもうちょっと難しい部分も話すんですけれども、子どもたちにも「キラキラ」「ドキドキ」「ルンルン」と言うと、伝わっていくんじゃないかと思うんですけれども。

○  子育ての情報について。子どもの学校での変容を保護者の方に伝えるということは、かなりやっています。今年になって始めたのは、保護者同士の子育てネットワークを意図的につくりかけています。その点、幼稚園として御配慮されている点はございますか。

◎有賀意見発表者    先ほどもチラッとお話しさせていただいたんですが、幼稚園の場合に、送り迎えしている場合には、その送り迎えの場所というのは親同士が触れ合ういい場所になります。そのほかには、幼稚園から出す印刷物等がお母さんたちの間を回るとか、それからお母さんたち自身でつくっている印刷物というか、お便りみたいなものを回し合いながら、そこに書き込んだりして、だんだん増えていくという形で、悩みもそこの中には入ってきます。本当に小さなことからですけれども、親が〈あ、自分だけ悩んでたんじゃないな〉と思えるようなものが、その中にはたくさんあるかなと思っております。

○  それでは、引き続きまして、東京都日野市の至誠第二保育園園長、高橋紘様です。保育所の現場での取り組みを通じて、保育所の現状と課題について、心の面を中心にお話しいただければと存じます。15分程度お話を伺い、同様10分強質疑応答を行いたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

◎高橋意見発表者    高橋でございます。よろしくお願いいたします。
  保育園の今置かれている状況につきましては、先ほど保育課長さんからるるお話がありましたし、保育の内容についても、保育指針を中心に進めているというお話がありました。現場ではどういうふうにそれを実現しているかということでございますけれども、レジュメで、「保育所保育指針」のことをちょっと触れておりますが、保育所というのは補助金で賄われているために、毎年、行政指導検査というのがあります。その中で、財政的なものとか、運営的なもの、それに含めて保育の状況もチェックされることになっています。で、ガイドラインに従って、保育内容が充実しているかどうかということも大きな視点になっておりますので、研修制度の全国的なものについては、回数等もそんなに多くはなかなかできないわけですけれども、個々の保育園ではそれぞれの保育園でそれに対応できるように、OJTといいますか、日常の保育の中でそれぞれレベルを保つように努力しているというふうに御理解いただきたいと思います。
  きょうお話ししたいのは、幼児期からの心の教育ということでございますけれども、保育園は今、4歳、5歳で入ってくるお子さんというのはほとんどいないわけです。保育園を利用する方は、ほとんど3歳までに入っておられるということが、いろいろな統計の数字でも出ております。ここにも「注2」ということでちょっと書きましたけれども、その中身は、平成6年に東京都社会福祉協議会が調査した、保育園を利用している方々の調査でございますが、0歳のときに入園した方が45.8%、1歳が21.5%、2歳が16.3%で、3歳未満で既に84%ぐらいのお子さんが入っているわけです。3歳で入った方が12.3%いらっしゃいますから、累計でいきますと、ここで大体96%ぐらいが保育園に入っているということでございます。ですから、保育園としては0歳からお子さんに対応することをあたりまえに考えていないと、仕事ができないという状況にあると思います。
  0歳児といいますと、個別に対応することが当然でございます。それぞれおなかがすく時間も、御下が汚れる時間も、眠りたい時間も、それぞれまちまちでございますから、それぞれに対応する。そういうことを経験している保育園は、一人一人に対応するということがごくあたりまえのように行うことができるわけです。ですから、それが3歳、4歳になっても、みんなそのように対応できる。
  ただ、その場の設定をどういうふうにするかということです。過去の保育指針では、クラス編成については、同年齢で編成するのを原則とするというふうに書かれていたわけですけれども、実際に私どもの保育園では、0歳が9人、1歳が15人、2歳が18人というように、3歳未満児が増えています。その増えた分だけ四、五歳児の人数が減っているわけでございます。   4歳児が18人とか、5歳児が16人というぐあいで、国基準でいきますと、1人の保母で30人という基準がございますから、これを一緒にしなければ見れないという状況も出ているわけです。
  この辺のことと、子ども一人一人を見るという保育の中身をレベルアップするということと、両方の条件を満たすようなことはないかということを考えていたわけですけれども、いわゆる縦割り保育、異年齢児でクラス編成するという形で、それを解決しております。基本的にはこのような縦割りクラスで、異年齢児の保育をするということは、モンテッソーリ保育ということで一般的には知られておりますけれども、その保育の原理が、今、保育指針で書かれていることととてもよく整合性があるわけでございます。そういうことで、私どもの保育園では、昭和51年から導入して現在に至っております。
  今、保育園の大きな課題としては三つあると思うんです。それは個々の子どもに対応した保育の内容を高めるということと、それから保護者との連携をどういうふうに考えるかということと、それからそういうふうな状況をうまくやっていくための保育者の資質の向上、その三つの柱があると私は考えております。
  保育の内容につきましては、そのような工夫が異年齢児のクラス編成とか、0歳からの対応とか、そういうことがありますけれども、その環境構成の仕方につきましても、個別保育ができるような保育室の環境に留意してやっております。それから、それに対応できるような職員の研修システム。
  保育者の研修につきましては、私の園で実践した例がありますけれども、きょうは特に保護者との関係について、先ほどから話題が出ているようですので、保護者との連携についてお話ししたいと思います。これは「コミュニケーション」というように書きましたけれども、コミュニケーションというのは、お互いを知り合うところから始まると思うんです。お互いに知り合って理解し、納得して、お互いに協力し合うという、そういうような一つのプロセスが必要だと思います。ですから、保育園でできることは、保育園でやっていることをできるだけ親に知らせること、それで、親が安心することがまず大事だと思います。そのためには、いろんな仕掛けが必要なす。例えば0歳ですと、今、1対3、保育者1人に対して子どもが3人ですので、寝ている時間にメモしたりするだけの余裕がありますので、「お便り帳」という連絡帳をつくっています。それは0歳、1歳、2歳ぐらいまでは、そういうことが可能でございます。
  きょう、そのコピーを持ってきていますが、毎日、そういう状況を書いたものを  ―こういったものですけれども、保育園から返っていったもの、それから家庭で書いて、また保育園に戻ってくるというふうな連絡をしています。それぞれのクラスで、0歳、1歳、2歳、それぞれ子どもの取り組みが違っていますので、それぞれの子どもについて、一人一人みんなこういうものをつくって配付しています。縦割りクラスの3歳、4歳、5歳のほうではクラスの人数が多いので、そういう対応が一人一人にはなかなか難しいですので、特に何かあれば「お便り帳」にメモや何か書きますけれども、クラスの前にこういうような物を張り出します。「きょう、どんなことをやりました」というようなことです。親は迎えにきたときに、これを見て〈あ、こんなことをやったのか〉と。子どもとの共通の話題がここで生まれるわけです。
  あと、今月どういうようなことをやるとか、どういうようなことがあるとかというような、先月はどういうようなことがあったとかいうことについては、毎月、「お便り」を出します。これは、園長がどういうようなことを考えているとか、クラスではそれぞれどういうような取り組みをしているとか、今月の行事はどういうようなことがあるか。それから、今月のお誕生日の子はだれだれでと。これには親にも一言書いていただいています。だれちゃんはどんなような状況で、お母さんはとてもうれしいとか、お父さんはうれしいとか。それから、給食のほうからワンポイントで、「おうちでできる簡単な献立」とか、そういうようなことを書いたりします。それから、Q&Aで、親のほうから質問がきたことに対して、共通するような問題ですと、私が書いて出します。例えば今月は、「母乳を放さない。かみつく癖がとまりません。どうしたらいいでしょうか」という質問に対して、私が答えております。それから、先ほどお話ししましたモンテッソーリ教育についても、親の理解を得るために、「モンテッソーリ教育ってなあに?」というようなことで、毎月これは連載で掲載しております。
  日常的なことについてはそういうようなことです。保護者との懇談会についても、なるべく資料をたくさん配付するようにしています。そのときに一緒にアンケートを取ったりとか、そういうようなことをするわけですけれども、それは年齢ごとにやったりとか、毎年いろんなことを考えてやっております。大体クラスごとにやっておりますけれども、そういうような配付資料も用意したりしております。
  それから、子どもについて、お母さんたちが一番イライラするというのは、子どもがよく見えなくなったときだと言われています。それだけではなくて、お母さんたちが仕事がうまくいかなくて、離職して、次の仕事を探しているときとか、そういうときに大変イライラしたりするということが調査の結果で出ております。保育園というのは幼稚園と違って、お母さんの仕事に合わせて預けにくるわけですから、三々五々来ては三々五々帰るわけです。割と親との対応はしやすいわけです。それで、通園バスも使っていませんから、じかにお父さん、お母さん、時にはおじいちゃん、おばあちゃんが迎えに来られて、何かそのときにいろいろ話題があれば、お知らせしなくちゃいけないことがあればお話しするとか、また聞いてあげるとか、そういうようなことで交流をしています。
  先ほどお父さんの話が出ましたけれども、うちは「父母の会」というのができていまして、「父母の会」の活動というのはいろいろ教養を高めたり、親睦をしたりということですけれども、「父の会」というのも重なって活動しております。ことしはアウトドアがテーマでして、ファミリーキャンプをするということです。私も個人的にボーイスカウトのリーダーを20年ほどやっていましたので、そういうことで、いろいろお手伝い、話題に乗ることはできますし、また男性保育者が2人おりますので、対応しております。ことしは6月に一度行きまして、そのときには15家族ぐらい参加しました。今月末にまた第2回、行くということでございます。
  ここにもちょっと書きましたけれども、あまり親を変えようとか、親に何か教育しようというスタンスはとらないほうがいいんじゃないかというのが、私の経験から感じ取ったものです。ですから、親同士でやっているうちにお互いに学び合うとか、そういうような仕掛けをつくっていく。保育園としては、育児講座を年に12回ほどやっていますので、いろいろな情報や何かを提供する機会はあるわけですし、お便りとか、いろいろなものもあるわけですけれども、やはり親同士の学び合い、特にお父さん同士が何かをやりながら、子どもを育てることについて共通の話題を持っていくということだと思います。
  そこら辺のことは、資料にも載せましたけれども、これは東京都社会福祉協議会の保育部会で調査したもので、これは御参考になるんじゃないかと思いまして、きょうの資料につけさせていただいたわけです。保育園との信頼関係という点では、かなり成果が上がっているのではないかと思います。
  資料では、保育内容について、それから職員について、給食について、こういうことを特に挙げて、〈保育園ていいな〉と感じてくださっている方が大変多く、保育内容については、個性を伸ばすとか、いろいろな行事とか、自然を大切にする保育とか、縦割り保育とか、そういうようなことが挙げられています。
  育児相談については、大変気になることもあるわけですけれども、25ページですが、「保育園に気軽に子育てのことを相談していますか」という設問に対して、大体の方はしているわけです。ところが、その中で、次のページですけれども、最後の表です。「よくしている」という方と、「そうではない」という方とどうしても出てくるわけですけれども、よくしている方は、保育園との関係というか、保育園の保育をよく理解している。保育観というか、育児観が大体一致している方がよく相談している。一致していない人が割と相談しにくいということがありますので、そこいら辺のことがこれからの課題かなと思います。
  あとボランティアのことが先ほどお話に出ていたようですけれども、うちのほうでは、今、中学生、高校生のボランティアの受け入れをやっておりまして、大体20人前後でございまして、ことしは延べで80人ぐらいです。1人が大体3日ないし4日ぐらいずつ来まして、夏休みを利用して子どもと触れ合っていただく。その感想文等も書いていただきましたけれども、自分だけが親から面倒見てもらえないとか、何々してもらえないとか、そういうようなことを感じていたのが、小さい子の面倒を見れる立場になって、保母さんの大変さとか、親がよく面倒を見ててくれたことに気がついたりとか、そういうようなことを感想で書かれている方が何人もいたりします。これもこれからぜひ続けていきたいと思っています。
  先ほどお話ししました懇談会の資料というのは、こんなようなもので、実際にはB4判の、これより一回り大きなものですけれども、クラスごとにそれぞれ工夫しまして、例えば保育指針の内容のコピーを載せるとか、そういうこともしております。卒業のときには、それぞれお母さんたちにも卒園文集などを書いていただいたりして、私たちの仕事の評価をしていただくということです。
  それから、先ほどの保育指針のことでつけ加えなければいけないのは、チェックリストというのがございまして、これは昨年と一昨年ですか、厚生科学研究のほうで、保育所の保育をいかによくしていくかということで、自己点検をしましょうと。要するに、行政が来て監査をするというのではなくて、自主点検をしたらどうだろうかというアイデアでございます。これは「園長編」と「保母編」と二つありまして、それぞれ保育内容につきましても、保育指針の内容を含んだもの、例えば「あなたの園では乳児一人一人の成長、発達を丁寧にとらえながら、新鮮な気持ちで保育をしていますか」とか、こういう設問がるるありまして、私たちもこれを見ながらいつもチェックして、いい保育をしていこうというふうに努めているわけでございます。

○  ありがとうございました。
  それでは、御質疑をお願いしたいと存じます。

○  情報発信を父母へ一生懸命したり、お便りを出したり、事後点検表をつくって懸命に取り組んでおられる様子がよくわかって、大変ありがとうございました。
  そこで、二つだけ簡単にお聞きしたいんですが、資料の、「保育園が『子育ての最善のシステム』実現の場とする施策が待たれる」ということですが、この「子育ての最善のシステム」というものを保育園はどういうものをイメージしているか、何を考えているか、こういうことが1点。
  もう一つ、モンテッソーリ教育原理の導入ですが、モンテッソーリ教育原理も、私は、いい点が大変多いとも聞きますし、また欠陥もかなりあると聞いております。したがって、私立の幼稚園では、モンテッソーリ教育原理をそのままに導入しているところはまず少ないわけです。ごく一部は取り入れているところはございますけれども、その点、かなり導入されているような感じも多少あるんで、その辺もう少しお聞かせください。
  どうしてかというと、障害児なんかにいろんなものを訓練するときに、ある程度定型的な各種の遊具を与えて、パズルじゃないんですけれども、パズル的な部分もあるわけですね。それを健常児にあんまりやってもいいのかなという感じもないわけではない。まあ、いいところもありますし、その辺、どの程度の取り組み方か、ちょっとお聞きしたい。以上でございます。

◎高橋意見発表者    「子育ての最善のシステム」は、昨年の12月に中央児童福祉審議会から、これからの子育てについて、法律改正を前提とした提言として出されたものですけれども、これで言われていることで私たち保育現場でできることは、物理的な環境の場をいかにレベルアップしていくかということです。今、国の基準では子ども1人当たり、2歳、3歳、4歳、5歳の子どもについては1.98平米、ですから畳1枚ちょっとぐらい。そこで昼寝をして、遊んで、食事をするというような基準になっているわけです。実際には建物のつくり方の基準のとおりでやっている保育園はまずないと思いますけれども、建物を建てるときの補助基準はもう少し広いですから、何とか融通してもう少し広くつくるということをやっているわけですけれども、いかに生活を豊かにするかということで、それぞれの保育園が努力している。その基準をもっと制度として上げてほしいということが第一点。
  それと、良質の保育を実現するためには、やはり人材です。先ほどからいろいろお話が出ていますけれども、職員の研修をきちんと制度化しなければやっていけないということも書かれておるわけでございますし、私たちも制度に決まっている以上のことをやっていると自負しております。先ほどレジュメのほうにも、うちの保育園でやっていることを書かせていただきましたけれども、そういうことが大変大事なことではないかと思います。次にモンテッソーリ教育については、たいへん奥の深いものととらえ、まだ勉強中ですが今日的な意義があると考えています。欠点というか実現を困難にしているのはモンテッソーリ教員養成所が少なく適格な教師の養成に時間と費用がかかる点せす。
  私たちは、先人の苦労して発見した原理や原則など、残した遺産をいただいて、それを理解した上で今に合うような形で利用し、応用していきたいと考えております。目標とする   人格性を考え、目の前の子どもが必要とする教材・教具はどういうものなのか、どのようなことを求めているのか、それを見ながら、必要な教具を使ったり、適切な場の提供をしたりということを考えていきます。
  「保育所保育指針」に書かれていることも、先ほどもお話ししたことと重複しますけれども、一人一人をよく観て必要な環境を整えていくということを書かれているんだと思うんです。ですから、私たちの共通言語としては、モンテッソーリと言うとわからない人が多いのですけれども、「保育所保育指針」に書かれていることを実現しましょうと言えば、皆さんよく理解されると思います。これをよりよく実現するためには、環境の構成のできる職員の研修以外にないわけです。大人の資質を高めていくしかないわけです。よりよく教育された指導者たち、保育者たちが、どういうような場をつくり、子ども一人一人に合った状況をどういうようにつくっていくか、そういうことだと私は理解しております。

○  幼稚園に引き続いて、保育園の現場から大変いいお話を伺いましてありがとうございました。
  私の立場で気になっていることを一つ。これは先生の園というよりも、一般的にどうなっているだろうかということですけれども、保育園、あるいは幼稚園もそうですが、育児相談機能をこれからもっと充実していこうという方向にあるし、地域の中の育児の支援施設だと思いますが、育児相談というとかなり医学的な内容のものが出てくる。そうすると、園長さんや保母さんでは答えのしにくい部分があったりすると、園医さん、嘱託医さんの応援がないと、なかなか難しいと思いますし、小さい子どもさんを預かっていれば、当然健康管理も慎重にということになると思います。どうも小・中学校の学校医さんに比べると、幼稚園や保育所の嘱託医さん、園医さんというのは、縛りが少し軽いような気がしてしょうがないんです。つまり、年に1遍か2遍来て健診してくだされば結構ですというのでなくて、日常的にかかわっていただく必要があると思うんですが、この辺が、例えば日本医師会あたりでも実態が把握できていないという報告を見ております。そんな意味で、地域の中の人材としてのお医者さんとの連携の在り方とか、実態とか、そのあたり、もし先生の御存じのことがございましたら教えてください。

◎高橋意見発表者    まさに相談の内容というのは、医学的なことが多いわけです。手元に7月、8月、9月の相談をまとめたものを持っているんですけれども、90件相談がありました。そのうちで、医学的なものが32件、3分の1です。それと健康に関することが41件あります。ですから、80%ぐらいのものがそういう相談の内容になっております。
  その対応といいますと、これは大体看護婦、それから嘱託医が対応されています。日常的なことにつきましては看護婦が対応しておりますけれども、嘱託医は日常的な電話連絡のほか、月に2回回診していただいております。それから、歯科医のほうは年に3回来ていただいております。親にその日程をお教えしまして、医学的なことについては、病院に相談に行くと相談料が必要かもしれないですが、同じお医者さんが保育園での相談は無料ですよということで、園のほうから謝礼を出しているものですから、そういうようなことで対応しております。嘱託医のお医者さんにも育児講座の講師になっていただいて、お話ししていただきました。たまたま先月そのお話でしたけれども、食中毒、O―157問題とか、子どものおなかの問題とか、そういうことをいろいろお話ししていただきまして、父兄たちも大変喜んでいた次第でございます。

○  今まで基本的な生活習慣やしつけの問題などは、学校や幼稚園・保育園で教えるのではなく、家庭が行うべきだという立場で考えていますが、今、お母さん方、お父さん方が、家庭でそのことを身につけさせることができるのか。その辺のことはどんなふうに感じていらっしゃるんでしょうか。最も身近なところで接していらっしゃる立場から御意見を承りたいと思います。

◎高橋意見発表者    結局、しつけというのは、心の成長や何かについてもそうなんですけれども、だんだん下におりてきて、行き着くところがなくなると、またもとへ戻っていくわけですね。ですから、サイクルで動いていくわけです。中学校では「小学校じゃないか」、小学校では「幼稚園じゃないか。保育園じゃないか」と。で、「親じゃないか」というように返っていくわけですけれども、結局、どこの場面で悪いサイクルを断ち切っていくか、いいサイクルに変えていくかという仕掛けは、生涯教育的な視点で考えれば、どこでもいいんじゃないか。ともかくできるところで、その役割をそれぞれが果たしていくことによって、それを変えることができると私は思います。ですから、保育園でできることは保育園でやるし、それでまた親とのかかわりをかなり持てますので、親を巻き込みながらそこを変えていく。
  そこにもちょっと書きましたけれども、子どもが変われば親が変わるんです。一般的には、親を変えなければ子どもは変わらないというふうに言いますよね。でも、逆説もまた真なりというふうに私は思います。ですから、「子どもがこんなふうなことができるようになったんだよ」「こういうふうないい習慣ができるようになったんだよ」、それが身についたことを親に知らせることによって、親がまた自信を持つことができるんです。親がそういうように変わっていくサイクルについて、いかに仕掛けをつくっていくかということが、私たちの役割じゃないかと思います。
  教育というのは、こうしなさい、ああしなさいと言ったときというのは、おおかた反発します。ですから、親とうまくやりながら、「そこいら辺をやったらいいよね」というようなことを、私たちが少しでも伝えていければと思います。卒業した子どもたちがどういうようにしているかということで、小学校の運動会は、必ず職員たちと日曜日でも行って、その子どもに会い、親に会い、今どういうようにしているかということを聞いて、フィードバックするようにしています。今回も、継続的に相談に来ていた2人の親に会いましたが、本当にいい顔をして子どもの演技を見てました。本当に安心しました。

○  保育者のレベルアップについて、御熱心に努力されている姿を伺いまして、大変うれしく思いました。今後も続けていただきたいと思います。
  先生も繰り返しおっしゃるように、保護者などとのかかわりというか、連携というか、そういう力量を持った、いわば保育支援の人たちとかかわるマネジャー的な力量が今後求められると思うんです。単にいい保育をしておればいいという、もちろんそれもしっかりやっていただきたいと思いますけれども、そういう点で、先生のレポートの三つ目の柱に、職員の研修制度ということを掲げたのは、非常にいい御指摘だと私は思うわけです。
  ついては、一つの保育所の職員スタッフが個々にレベルアップに努力するのではなくて、もっと地区なり、あるいは都道府県、市区町村単位で共同して、職員の研修体制について交換し合うという仕組みが必要ではないかと思うんですけれども、その辺の追求をどのようになされているか、お聞きします。

◎高橋意見発表者    私が実践したことでは、東京都日野市というのはいわゆる23区以外の西のほうに位置するわけですけれども、そこで東京都三多摩地区保育連合会というのがあります。これは民間の保育団体ですけれども、職員の資質向上と親睦を目的にした団体ですが、そこの会長を6年ほど、それ以前に副会長、事務局長と20年ほどやっておりまして、一つの園だけでできないことを共同でやろうよということを提案して、やっておりました。東京都内にはほかにいくつかの保育関係団体があり、それぞれ研修をしています。団体間で協力し合うことは合意されていますが、まだ具体化していません。
  最近問題になってきたのは、園長の資格の問題です。園長の資格は、幼稚園の場合には1級資格を持たなければいけない。だけれども、同様の仕事をしていながら、保育園の施設長の免許や公的資格というのはないじゃないかと。今、いろいろな子育て相談でも、医学的なこと、それから看護婦さん、栄養士さん、専門職を雇いながら、園長だけ専門職でないという実態は少しおかしいんじゃないか。ですから、資格はないけれども、レベルアップのための研修をやろうよということで、かなりの回数をやっておりました。
  それから、今、全国保育協議会の研修委員も私は兼ねておりますけれども、そちらのほうでも園長の研修を系統的にやろうということで、今、プログラムを作成中です。園長自身の研修としては、まだ年に2回しかできていません。しかし、社会福祉施設を対象とした施設長の研修というのは、1年間のスクーリングをもって資格を与えるという、福祉施設士という資格がございます。レジュメの一番最後のところにも書いておきましたけれども、それも全国社会福祉協議会だけでやっているわけですので、もう20年やっているわけですけれども、まだ修了した方が全国で2,600人しかいないわけです。その半分が保育園の園長としても、1,200〜1,300人ぐらいしかいないんじゃないか。全国2万2,500の保育所の所長の資格を取るための研修をする機会を都道府県レベルまでおろしていくぐらいのことを考えないと、資格の問題というのは解決しないんじゃないかと思います。

○  幼稚園も、保育所も全国的には、地域差、個々の幼稚園差、保育所差が顕著です。その違いを大事にしていくことも心したいと感じています。
  研修のことについても、地方自治体でかなり違います。県費を使っての保育センター研修センターで、保育者に対して年間の計画を立て、かなり濃厚研修を実施しているところが多くなっています。一方、各団体の全国的規模の研修、企業主催の研修など研修ラッシュの感もあり、選択する力が求められると感ずることが多くなってきました。

○  男性保育者について、保父さんの役割といいますか、機能といいますか、幼稚園の方もおられますから、幼稚園も含めて、男性保育者についてどういうふうにお考えか、お聞きしたいと思います。

◎高橋意見発表者    やはり男性だから、女性だからということじゃなくて、子どもも一人一人違いますように、職員もまた一人一人、得手、不得手を持っているわけです。たまたま男性だから持っている得手というのは、かなり共通している部分があります。そういうところを生かして、お父さんたちとの対応は男性保育者のほうがずっとやりやすい。お父さんたちを巻き込んでファミリーキャンプなどへ行こうというのも、女性の保育者ですと、「泊まりがけで、ちょっとねえ」とみんなに言われます。ですから、男性の保育者がそういうときに出ていってくれたりとかですね。
  あと子どもの遊びや何かでも、年齢が高くなりますと、運動量がかなり大きくなってきます。そういうときに、男性の保育者がたまたま児童館とか、学童保育や何かを経験した者でしたので、そういうところでの遊びを紹介したり、要するに男の子、女の子にかかわらず、運動量の多い活動については、彼にやらせたりということを考えたりしています。それから、物を見る目も、彼はほかの保育者より広い目で見れるような視点を持っていますので、私のよきアシスタントになってもらっております。

○  高橋先生の一番初めの7ページのところに、中・高校生のボランティアの受け入れを取り入れているということが書かれておりまして、私自身も、やがて親となる中学生あるいは高校生が、保育体験あるいは幼稚園での体験を行うことは非常に大事なことではないかと思っております。
  私どもの学校でも技術家庭科で、3年生におきまして保育を行っております。近くの保育所と提携をしまして、2時間ですが、3年生の男女とも全員が保育体験を受けさせていただくという実践を試みております。全体では10時間の扱いの中の2時間だけ、近くの保育所へ行って子どもたちと一緒に遊ぶ、そういう体験を子どもたちにさせているわけです。
  先生の保育所に、中学生や高校生がボランティアで訪れたというようにあるわけですが、子どもたちの様子、あるいはどんな感想を漏らしていたか、もし聞かせていただければありがたいと思います。

◎高橋意見発表者    ここにちょうど感想文を持っていますので、二、三ピックアップして読んでみたいと思います。子どもでも、自分で決めたにもかかわらず、そこに行くと足がすくむということもあるみたいで、その日の朝になって急におなかが痛くなったということもあるみたいです。ただ、約束して来られなかった子は1人、それも本当に風邪だったらしくて、次の日にはちゃんと来ました。
  「朝眠くて、嫌だなと思った一日もありましたけれども、あっという間に過ぎました。普通の私でいようと思っていたら、お昼ごろ家の中の……」、中学生の言葉でそのまま書いてあるので、ちょっと変な言葉が書いてありますけれども、「眠くて、疲れて、そのおかげでだらけた私になってしまいました」みたいな、そういうふうな率直な気持ちも書いてあります。
  「私にとって小さい子と仲良くしたつもりだけど、違う人から見たら、ただ一緒に遊んだりしているだけもしれない。私が一番反省したことは、小さい子たちに覚えてもらえなかったことです。小さい子に覚えてもらえないということは、小さい子たちと楽しく遊んでいないということだからです。また、こういう機会があったら、またこの保育園に来たいと思います」。
  別の方は、名前を覚えてもらってうれしかったというふうな感想文も書いております。
  ここにこういうふうなことがあります。別の方ですけれども、「1日目は初めてのことが多かったせいか、すごく疲れました。2日目は雨が降ってしまい、ほとんど中で遊んだり歌ったりして過ごしました。先生が朝、「このお姉さんの名前、覚えてる?」と言ったとき、数人の子が「○○○、お姉さんだよ」と言ってくれたときは、〈あ、私のことを覚えててくれたんだなあと、びっくりアンドうれしい気持ちでした。最後の日は、みんな寝つかせたり、紙芝居を読んだりもしました。どれも想像していたよりはるかに大変な仕事ばかりでした。でも、先生はみんな親切で、やさしくて、たった3日間だけだったけど、すごーくいい体験ができて、この夏の体験学習に参加して本当によかったと思いました。先生方、短い間だったけれども、お世話になりました。来年もあったら絶対参加します。そのときはよろしくお願いします」。
  ちなみに、このボランティアの皆さんは、地域の社会福祉協議会の中にボランティアセンターがありまして、そこで一般市民を対象に募集をかけまして、それで学校の先生から「行きなさい」と言われたのではなくて、自分で社協センターの募集を見て、そちらのほうに登録して、それで私たちの保育園に来られたという経緯でございます。

○  本日の当初の予定では、もう少し全般的な議論をお願いすることになっておりましたが、今日お出でいただいた方に再びということも非常に難しいので、十分な時間を取らせていただきました。自由討論の時間が少なくなったことをおわび申し上げます。
  きょうは、自由討論ということでございましたが、前回御案内いたしましたとおり、今後、少しずつ議論の焦点を絞ってまいりたいと思っております。
  それから、今後の審議でありますが、11月6日に予定しております「子ども・保護者と語り合う会」については、10人ほどの委員・専門委員の方に御出席いただけるという御回答をいただいております。ありがとうございました。
  次回ですが、10月24日、金曜日、13時から、同じ33階でヒアリング及び討議を予定しております。よろしくお願いいたします。あと一、二回程度自由討論とし、その後、少しずつ焦点を絞りたいと思っております。
  本日は、どうもありがとうございました。


(大臣官房政策課)
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