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中央教育審議会

 1999/5 議事録 
初等中等教育と高等教育との接続の改善に関する小委員会 (第9回)議事録 

 中央教育審議会

  初等中等教育と高等教育との接続の改善に関する小委員会(第9回)

  議  事  録


  平成11年5月11日(火)  14:00〜16:00
  霞が関東京會舘  35階    ゴールドスタールーム



  1.開  会
  2.議  題
    「その他関連する施策について(学校教育と職業生活との接続について等)」ヒアリング及び討議
  3.閉  会


  出  席  者

委員 専門委員 事務局
木村座長 荒井専門委員 佐藤事務次官
川口委員 安齋専門委員 梶野生涯学習官
坂元委員 岡本専門委員 辻村初等中等教育局長
田村委員 小川専門委員 御手洗教育助成局長
永井(多)委員 工藤専門委員 佐々木高等教育局長
松井委員 黒羽専門委員 高   総務審議官
横山委員 小谷津専門委員 寺脇政策課長
   杉田専門委員 その他関係官
   高鳥専門委員   
   永井(順)専門委員   
   橋口専門委員   
   久野専門委員   
   山極専門委員   


  意見発表者 
  成  瀬  健  生  氏(日本経営者団体連盟常務理事)
  牛  見  隆  志  氏(日本経営者団体連盟教育研修部長)
  田  中  宣  秀  氏(日本経営者団体連盟教育研修部 部長 教育担当)
  吉  本  圭  一  氏(九州大学助教授)
  茂  里  一  紘  氏(広島大学大学教育研究センター長)



○木村座長    それでは、時間になりましたので、ただいまから中央教育審議会「初等中等教育と高等教育との接続の改善に関する小委員会」、第9回会議を始めさせていただきます。第17期としては第2回の会議でございます。
  本日は、お忙しい中、委員、専門委員の皆様方におかれましては、本会に御出席賜りましてありがとうございまいした。
  きょうは、前回御案内申し上げましたとおり、その他関連する施策について、特に学校教育と職業教育との接続について審議を行うこととし、これに関連いたしまして、お三方から御意見の御発表をいただくことになっております。日本経営者団体連盟の成瀬健生常務理事、吉本圭一九州大学助教授、茂里一紘広島大学大学教育研究センター長でございます。
  それでは、ヒアリングに入ります前に、配付資料の確認をお願いいたします。

<事務局から説明>

○木村座長    早速でございますが、ヒアリングに入らせていただきます。資料をそれぞれの発表者の皆様からいただいておりますので、適宜御参照いただきたいと思います。
  最初の御意見を成瀬健生様からいただきます。成瀬様は日本経営者団体連盟の常務理事をお務めでございまして、日本経営者団体連盟で出されております教育や雇用等に関する数多くの提言の取りまとめに当たっておられます。本日は、「学校教育と職業教育との接続について」、30分ほど御発表をいただき、その後、10分ほど質疑応答を行いたいと存じます。
  それでは、よろしくお願いいたします。

○成瀬意見発表者    日本経営者団体連盟の成瀬でございます。本日はよろしくお願いいたします。
  最初にお断り申し上げなければならないんでございますが、実は隣におります教育研修部の田中部長と共同で作業をいたしまして、きょうは私の名前だけお出しいただいたんですが、実は私のほうが総論を10分ほど、その後、田中部長のほうから各論を20分ほど、合計30分ということで報告させていただければ大変ありがたいと思います。よろしくお願い申し上げます。(※1)
  大学教育ないし高校教育と職業のプロセスについての接続の問題で、いくつかポイントを挙げてお問いかけをいただいているわけでございます。日本経営者団体連盟の基本的な考え方につきまして、それを中心にまず総論的なお答えを申し上げてと考えておる次第でございます。
  最初に申し上げなければならないと思いますのは、学校と職業生活の接続というのは、日本の場合、国際的に見れば割合よいのではないか。例えばヨーロッパのような若年層の大変高い失業率は、日本では過去起こっていないわけでございまして、今、状況が非常に悪いと言われながらも、国際的に見れば、学生の卒業後の就職状況はかなりよいのではないかと思うわけであります。
  なぜそういうことが日本で可能になっているかということは、それぞれの歴史があるように思います。一つには、日本の企業が、今でもそうでございますが、若いよい人材を採って、企業内で訓練をして、自分の企業の中でもって一人前に育てていくという基本的な考え方を強く持っていることによると思います。したがって、企業はできるだけ長期に安定雇用し、そして人材を自分で育てるという伝統的な考え方があり、それによって若い方は比較的就職のチャンスに恵まれるという状況であったのだろうと思います。
  もう一つ、極めて具体的なことを申し上げますと、年功序列賃金というのがございまして、基本的には新卒者は給料が低いわけでございます。もちろん企業に入って育成されていくに従って、能力が高まるに従って給料が上がっていくわけでございますが、基本的に当初の給料は安い。こういう点も企業としては非常に採用しやすいという面があるわけでございます。そうしたことから、国際的に見れば日本は比較的状況がよかったわけでございますが、客観情勢がかなり変わってまいりました。
  今までのような年功制そのものがどんどん崩れておりまして、企業としても新しく能力中心の雇用構造の組み立てということを迫られておるわけでございます。したがって、状況を判断し、少しずつ変えていかなければならないということがあるわけで、今までのようなよい状況を今後も持続していこうとすれば、それなりの対応をする努力が必要になろうと考えておるわけであります。
  企業のほうは能力主義にかなり変わってきております。もちろん、新卒者採用につきましては、よい人材、将来性のある人材という意味で、訓練はうちでやるという気持ちがまだないわけでもございません。私どもの調査によりますと、多くの会員企業の中では、大体10年ぐらい先を見越しても、長期雇用、いわゆる伝統的な終身雇用でありますが、このタイプの従業員を7割ぐらいは確保したいという気持ちを持っているわけでございます。流動的な雇用は3割程度というのが、10年先を見ての企業の態度でございます。そんなところから見ましても、基本的には残る伝統的な考え方がありますが、それでも学校を卒業してきた際に、高校卒業は高校卒業なりに、また大学卒業は大学卒業なりに、それなりの専門分野をかなり高いレベルでもって修めておいてほしいという気持ちは多分に強くなってきているというわけでございます。
  この辺のいかなる人材を志向しているかという企業の情報が、十分に伝わり切っていないという面があるのではないかと思うわけであります。よく私どもは、企業が変われば大学も変わるし、高校も変わるんだから、まず企業が変わったということを大いにPRしてくれと言われるわけでありまして、日本経営者団体連盟もその点、雇用構造の変化については、3年ほど前から新日本的経営を中心にいろいろな形でもってPRいたしておるわけでございますが、大学のほうの従来の素材志向の中での考え方と、企業の徐々に変わっていく能力志向というもののミスマッチが多少存在するのかなという感じがいたしておるところでございます。この点は今後克服していかなければならない課題ではないかと思うわけであります。
  二つ目の点でございますが、企業に就職するということは、大学を卒業しての一つのプロセスでございまして、企業に就職することだけが卒業後の進路ではないわけでございます。しかし、数からいえば、これが大部分でございますので、どうしても就職という問題がクローズアップされるということであるわけでございます。高校で勉強し、大学で勉強するというのは、国家・社会に役に立つ人間になる、そのための準備プロセスと考えさせていただきますと、勉強の先に何があるかということをやはりきっちり見定めて勉強をする。単に勉強そのものが目的ではない。勉強をしたことによって、国家・社会に貢献できる人材になる。それはどういう形の貢献でも、いろいろ多様性はあるわけでございますが、勉強の先にあるものをきっちり見据えて勉強するということが、高校でも大学でも必要ではないかと思うわけであります。
  それによりまして、卒業して、一体私は何をするんだ、どういうキャリア形成をしていくべきかという主体的な意識が、与えられるものではなくて、自らの中に生まれるわけでございます。そういうものをベースにいたしまして、就職する者も、さらにまた進学してから就職する者も、また就職してから進学する者も、今、リカレント教育、その他多様な動きがございますが、そういうプロセスを積み重ねることによって、より社会が必要とする人材に近づく努力が基本ではないかと思うわけであります。
  そういう意味で申しますと、大多数の方が選ばれる就職を考えますと、大学の就職指導というのは大変重要だろうと思います。ベストの就職をいかにしてもらうかということを、大学のほうとして学生のために考えるということでございましょう。
  また、企業のほうのリクルート活動は、ベストの採用をする。最も適切な人間に我が社に来てもらって、我が社に貢献していただくということで活動をする。そのマッチングのところに就職があると考えるわけでございます。そういう意味では、中を取り持つインターンシップのような多様なプロセスも、今後、ますます充実させていかなければならないのではないかという考え方を強く持っているところでございます。
  以上の辺が一般的なルートでございますが、最近、フリーター現象というものがございます。「フリーター」というのはよく分からない言葉でございますが、きっちり就職をしないでブラブラしながら働いたり、レジャーを楽しんだりということではないかと思うわけでございます。この辺の問題につきましては、安易なフリーターと自分の行き先を考えたフリーターとがそれぞれいるのかなという感じもいたします。先ほど申し上げましたように、勉強の後に何があるかということが自らの頭の中でしっかり把握されていれば、安易なフリーターにはならないのではないか。それが把握されていないと、いわゆるモラトリアムでございますとか、安易なフリーターということが起こってくるのかなと考えるわけでございます。この点は企業も努力をしなければなりませんが、大学にもいろんな面で努力をお願いし、また協力してやるべきことも多いのではないかと思います。
  安易でないフリーターと言うと、いろいろ問題があるかもしれませんが、入って3年で3割転職するというのが大学卒業者に関する統計だそうでございます。そういう意味で、この転職の中にはまともな転職もあると思います。たまたま最初のマッチングでもってピッタリ合うということは確率として3分の2で、あとの3分の1はうまく合わなかったから調整をするということもあり得るわけでございます。いくらしっかりやっても、本人の考え方も3年たてば変わるということもございますし、何年かの間に会社をかわるということも、それがよりよい国家・社会への貢献を目指すものであるならば、それは認められるべきだろうし、よりよいことではないかと考えておるわけでございます。かく申す私も、6年後に転職をした者でございまして、転職した経験は決して悪くはなかったと考えております。
  三つ目に、エンプロイヤビリティの問題のお問いかけがございました。エンプロイヤビリティというのは、最近、とみに使われるようになってきた言葉でございます。雇用されるだけの力といいますか、雇用されるだけの能力、どこへ行っても雇用してもらえるだけの能力、このような単純な意味で理解される場合が多いわけでございますが、これには背景がございまして、そうした能力をキャリア形成というプロセスの中で、企業も考え、本人も考え、本人の努力と企業のそれに対する援助とがうまくマッチして、エンプロイヤビリティのキャパシティーを大きくしていく。こんなふうなプロセスが中身に入っている概念ではないかと考えているわけであります。
   そうしたエンプロイヤビリティの意味では、能力ということと、それから企業というのも一つの社会でございますので、チームに参加できる人間という人間性の面と両方があるかと思います。今、主に取り上げられておりますのは能力の意味でございますが、能力、それから人間性、両方を持った人間がいれば企業としては最もありがたい。能力が強い人間、また人柄がいい人間、それぞれ特徴があるかと思うわけでございますが、そうした両方をある程度見るのが企業としては現実かなと考えておるわけでございます。人間性といいますか、チームに参加できる、社会に適切に参加できる能力も重要ではないかと考えております。
  さらに、教育の中でも、単にエンプロイヤビリティだけではなくて、アントレプレナーシップといいますか、自ら企業を起こすという考え方を持つ人がありましょうし、また、育てられるべきではないかと考えます。そのほか学者でございますとか、研究者でございますとか、社会奉仕に努める人生、いろいろな生き方があるのではないかと思うわけでございます。
  そのようなことを考えてみますと、今後、企業と大学ないしは社会と大学を結ぶ多様なチャンネルが必要ではないかと思うわけでございまして、そのためのそれなりの機関、システム、機関と言うと何かハコモノのような気がしますが、そうではなくて、それなりの機能を果たす組織とかシステムも必要になっていくのではないかと考えているところでございます。
  以上、概念的なことだけ申し上げましたが、具体的な点につきましては、田中部長のほうから申し上げます。

○田中意見発表者    田中でございます。大きく分けて3点ほど申し上げたいと思います。まず最初に、接続はうまくいっているのかどうかということ。それから、2点目は企業の求める能力、人材像というのは相当変わってきたという話がございましたけれども、その点。3点目は、学校教育と職業生活との接続の改善方策、この3点について申し上げたいと思います。
  1点目は、ただいま話にありましたように、フリーターとか、若年層の価値観が多様化する中で、接続の課題について断定的な答えを出すのは大変に難しいわけです。しかも、グローバル社会の中では、自分の価値を追求する若者が増えていくということは十分認識しておかなければならない。しかし、マジョリティーを占めます、学校を卒業して企業に就職する学生を対象にして概括すれば、やはり克服すべき問題が多い。決して接続がうまくいっているとは言えません。それと、今後、接続に関するギャップは一層大きくなっていくだろうと思います。
  と申しますのも、企業は、現在、グローバル競争社会の中で、事業の再構築をしておりまして、採用につきましても画一的な人材を大量に採用する方式から専門能力を重視し、質を問う職種別の通年型の採用に転換しつつあるわけでございます。大学のほうもこれまでは入試の時の成績が良い学生を確保しておけば、あまり出口管理をしなくても、企業のほうは採ってくれたわけでございますが、これからはギャップがさらに拡大するということだと思います。
  この点に関し、若年者の職業観、勤労観のなさということについて焦点を当て、まず申し上げたいと思います。ただいま成瀬常務の方から説明しましたように、若年層は大学卒業者で32%、高校卒業者で47%の人が3年以内にやめていくわけでございます。この離転職者が増加することについては、仄聞の域を出ませんが、一つは若年者の意識や価値観の変化が考えられると思います。若者の中には、卒業後、企業に入らず、自己実現のためにボランティア活動をする、それから前向きに適職探しをする間に、フリーターとして働く、ないしは自己の価値追求のためにNPO活動に従事するという者がいるものと想像されます。さらに、積極的にキャリアアップを図るために転職するという人もおります。
  こういう人はよいわけですけれども、問題なのは、基礎学力がないために職に就かず、アルバイト的なフリーター、それから無業者でいる人。もう一つは、職業意識が醸成されないままに就職してしまい、考えていた仕事とは異なって離転職を繰り返す人であります。このようなフリーターの分析等も最近では行われておりませんので、ぜひ調査してもらいたいと考えております。
  私のほうで今、仄聞という言い方をしましたが、古いデータはありますので、簡単に御紹介したいと思います。平成3年以前のデータでございますが、雇用職業総合研究所が出しました「青年の職業適応に関する国際比較」によりますと、25歳から29歳の若者で満足している人は日本が8%です。それに対してアメリカは50%、イギリスも65%と大変に大きいわけでございます。さらに、総務庁が昭和62年に出しました「就業構造基本調査」によりますと、15歳から24歳の若年者の転職事由としては、「労働条件が悪かった」というのが21.5%ございますが、「自分に向かない仕事だったから」という事由も18.5%と多いわけで、これは完全なるミスマッチでございます。
  古いデータばかりで恐縮でございますが、労働省の調査でございます。平成9年の「若年者就業実態調査」についても申し上げますと、職場に対する満足度というのは「やや満足」も含めまして半数いるわけです。一方で「どちらかといえば不満」とか、「不満」という人が16.3%いるということに注目しなければいけないと思います。
  また、転職希望者について、「ある」と答えた人は32.3%と3分の1でございます。その理由としては、「独立して事業を始めたい」が17%、「自分の技能・能力が生かせる会社にかわりたい」が15.2%、「賃金条件がよい会社にかわりたい」が13.8%、「仕事が自分に合った会社にかわりたい」が13.7%と、職業上のミスマッチがうかがわれるわけでございます。
  一方、フリーアルバイターの調査もないわけではございませんで、日本職業協会が平成3年に発表したものがございます。これによれば、アルバイトを「一生または5年以上続けたい」というのが11.9%ございますが、一方で「二、三年続ける」という人が33%、「早くやめたい」という人が38.5%もいるわけでございます。フリーターとなっている動機については、「自分に合う仕事を見つけるまで」というのが20.7%、「仕事以外にしたいことがある」というのが15.4%です。問題は、「会社に拘束されることが多くなる」が13.7%、「働く時間が自由に決められない」というのが7.2%と、大体、フリーターの20%が問題なのではないかと思います。
  ご参考までに、最近の新入社員に見られる基礎学力等について、若干ヒアリングをしましたので、学生の特徴的なものを御紹介したいと思います。対象は文系は学部卒業者、理系は修士課程修了者ということで、10社ぐらい代表的な企業を対象に行いました。
  業務上必要な英語、国語、数学といった基礎学力はどうなのかということですけれども、学部卒業者は一般的には基礎的な学力はある。入っている方はそうですが、実は就職試験を受けにくる受験生の場合は、20%は基礎学力はあるけれども、80%はないということが言われております。それから、近年の理系修士課程修了者ですが、専攻が機械であっても流体力学などを学んでいないということもありまして、企業で再教育をしなければいけないということも指摘されております。
  次に、与えられた課題について問題点を指摘したり整理する能力はあるかという質問に対しましては、こうした能力は基本的には持っているけれども、十分訓練されていないとのことです。特に今の学生、若い人たちで問題なのは、相手に説明して理解させるコミュニケーション能力があるのかといいますと、これはどうも不得意なようであります。それから、論理的な思考能力、提案能力という点ですが、これも文系学部卒業者、理系修士課程修了者ともない。ただし、一定の枠内での思考力はあって、要領よく仕事はこなすけれども、枠を超えた発想力とか、提案能力は不足しているようです。また、自ら課題を発見して、積極的に仕事をする意欲が不足していないかどうかという質問に対しては、人によってバラツキがあるけれども、目的意識がはっきりしており、前向きな意欲はあるけれども、逆に仕事に興味をなくすと転職とか、社内転職につながっていくというようなことでございます。
  今申し上げましたようなことだけで、現在の若者を断定的に判断することは極めて危険でございますが、イメージ的には把握できると思います。特にこれはトップ企業に入った方たちでございます。
  2点目は、企業が求める能力、人材像について、御報告申し上げます。
  他の経済団体でも、協調性、バランス感覚に加えて、創造性とかを打ち出しておりますし、高度の専門性、専門分野における基礎学力とか、プロフェッショナル志向に富む人材、こういうことを打ち出しておりますが、日本経営者団体連盟では過去2年間に報告書を2冊出しております。まず『グローバル社会に貢献する人材を』という報告書では、四つ掲げました。一つは自律性、自ら物事を主体的に考えて問題を発見して解決する。それから、多様性の理解と尊重。他人に対する思いやりの意味です。三つ目は、コミュニケーション能力、語学力、4つ目は専門性です。
  それから、平成11年4月に発表いたしました『エンプロイヤビリティの確立をめざして』という報告書の中では、各ライフステージを4段階に分けました。特にヤング層について求められる能力は学校教育においてもスムーズな接続を図るために涵養が必要ではないかと思いますので、御紹介しますと、おのれの強み、適性を発見する能力、キャリア開発プラン能力、社会人としての基礎的な素養・知識、それから基礎的な専門知識、状況判断力、仕事にチャレンジする意欲、柔軟性、こういった能力でございます。
  時間が限られておりますので、一つだけ補足しますと、就職協定廃止後に、企業は求める人材をかなり明確に出していることに注目願いたいと思います。最も学生に人気のある電機会社S社についても、七つのタイプに分けておりまして、学校サイドから見て求める人材像がはっきりするのではないかと思いますので、紹介いたします。。
  例えば、リーガル・インテレクチュアル・プロパティ、法務部門に求められる人は、司法試験の短答試験に合格または受験知識がある。商法、国際法などが得意で、企業法務に興味がある。著作権法、特許法が得意で、知的財産権に興味がある。論理的思考能力がある。タフな交渉力。模擬裁判の経験があり、高評価を受けた経験。このようにはっきりと求める人材像を出してきております。
  3点目は、学校教育に期待すること、それから学校教育と職場生活との接続の改善について、御報告申し上げたいと思います。
  一つは、職業観、勤労観の醸成のためにどう対応していくかでございますが、やはりインターンシップの一層の推進が大切だと思います。
  また、進路指導、職業教育が重要で、これをまずやる必要があると思います。
  去る4月30日、日本経営者団体連盟の根本会長が文部省の有馬大臣を往訪しまして、学校支援10万人計画の推進をお願いしました。特に高校、大学でございますけれども、「人生の達人の活用」ということで、大学では従来の就職部の指導から脱却して、学生のキャリア指導に向けて質的な充実を図れるよう、人生の達人をキャリアセクションに配置する。一方、社会人講師等による産業論ですとか、企業論に関する講義を充実させて、学生の職業観を養う、職業教育を徹底することも必要だと思います。
  2つ目でございますが、先ほど最近の若年者層の問題点を指摘しましたけれども、自ら学ぶ意欲をどう涵養していくかという課題です。初等中等教育では物事を考える上での基礎となる知識、考え方、倫理観、社会性を、家庭や地域との連携の中で、またこの点については高等教育では初等中等教育で学んだ基礎を応用・展開して、経済・社会に寄与する能力を高めることが大切です。それから、自ら考える力というのが不足していると言いました。つまり、論理的思考力や提案力の不足でございますけれども、少人数のゼミナール形式の授業が役立つでしょうし、リベラルアーツ教育においても、カリキュラム上の工夫も必要と思います。
  最後に、高等教育レベルの向上を図っていただく必要がありますけれども、この点につきましては企業との連携が必要でございます。一つは、厳格な成績評価の実施など出口管理の強化、社会人の大学院への積極的な受け入れ。もう一つは入口のほうの管理で、やはり特徴ある大学、特色ある教育をしていただくためには、入試科目について6科目、7科目というようなことを課す、リーダーを養成する大学があってもよろしいのではないかと思います。
  これで終わらせていただきます。

○木村座長    ありがとうございました。
  それでは、御質疑等ございましたら、よろしくお願いいたします。

○  今、接続の話をするときに、ずうっと下から上がっていって大学生になった人が社会に出るときという観点でのお話をいただいたんですが、途中で失業あるいは何かの事情で仕事をやめて、学校に戻って、それからまた就職をするという人たちが、これからもっと増えると思うんです。その人たちの職業訓練というのは、今は主として労働省関係のところでやっていて、そちらのジャンルに入っていってしまうんですが、今の大学等で再勉強をしたときに、その人たちと社会の接続をどうしたらよくできるだろうか。例えば就職というと、年齢制限ありとかいう話の世界で職を探すということにもなったりするわけですが、その辺の接続について何かお思いのことをお聞かせいただけたらと思います。

○成瀬意見発表者    いわば社会人が再教育にチャレンジをして、新たに就職するというケースでございますと、基本的には目標がかなりはっきりしている方が多いと思います。したがって、新規学卒のような、よくわからないけれども就職しようというところとは、かなり意識が違うかなと思うわけでございます。逆に今おっしゃられたような年齢制限でございますとか、そうした意味での中高年独特の問題は、逆に深刻かなという面もあると思います。
  もう一つ、これは企業に責任があるのかもしれませんが、企業がそういうリカレント教育にチャレンジすることについて、場合によってはでございますが、あまり快しとせずに、企業に黙って大学院に夜間に行ってというケースがあったりするようなこともお伺いするわけでございます。こういうことは今後もっともっと一般化いたしまして、企業もそういうものに対してきちんと評価するような体制になっていかなければならないと思うわけでございますが、まだ状況が十分成熟していると思われない面もございますので、御指摘のような問題点がなきにしもあらずだと思います。

○  先ほど言葉が十分ではなかったんですが、途中で学校に入り直して、就職をまたするという人たちを受け入れる立場の企業から御覧になって、教育にどういうことを望まれるかということもあるのではないかと思いますが、何かその辺でおありになりましたら……。

○成瀬意見発表者    それは基本的には専門性だと思います。企業の求める専門性を身につけてきてくれるのであればということで、企業はかなりカネをかけている。コストをかけてもやろうというのが従来からの企業の姿勢でございます。

○  ちょっとお伺い申し上げたいんですが、資料の3枚目のところで、改善方策について4点お挙げいただいておるんでございますが、入社試験のときに、「自ら学ぶ意欲」とか、「自ら考える力」とか、「職業意識」とか、多教科の学習をしているとか、今、「専門性」とおっしゃったのはたぶんここに入るのかと思いますが、そういうものをどのようにして評価なさっていらっしゃるのか。あるいは、団体として共通な申し合わせとか、勧告みたいなものを企業になさっていらっしゃるのか、その辺をお聞かせいただければと思います。

○田中意見発表者    専門性についてでございますけれども、我々日本経営者団体連盟として専門性はこうあるべきだ、こういう仕事をするにはこういう専門能力が必要だという指導・勧告はしておりませんが、ようやく今、企業が専門能力を求めて、先ほど紹介しました電機会社さんの場合ですと、例えば財務・経理ですと、簿記2級以上、公認会計士補、CPAを取得または目指した人、税理士試験で1科目以上合格している人、為替金利などの金融知識が豊富である、計算力に自信がある、計数感覚に優れている、しかも国際的視野を持ち、探究心旺盛。従来は特に文系の学卒の方に対しては、専門性というよりは潜在能力、ポテンシャル採用ということに重点が置かれていたわけでございますが、徐々に変わってきているということでございます。

○  つまり、採用なさるときに、ここで大学等に要求されている資質が欲しいから要求されるのだと思うので、それをいかにして見分けて、いかにして企業が採用なさるのか。その採用の在り方とか、方向について、団体として何か御指導とか勧告なんかをなさっているのか、全く企業に自由にお任せになっていらっしゃるのか、そういうところでございます。

○田中意見発表者    私どもの団体としましては、ちょうど就職協定を廃止したこともございまして、21世紀の就職採用研究会というのを日本経営者団体連盟内部でも持っておりまして、また大学と企業側も中長期就職採用問題研究会を持っておりまして、今、求められる人材像ですとか、そういう能力をどう見分けるのかを含めて検討しておるところでございます。

○  2点ばかり教えていただければと思います。
  資料の2枚目の「(3)〈学力等について〉」というところで御説明がございました、「相手に説明して理解させる能力や自ら課題を発見して解決し提案する能力には欠ける」。コミュニケーション能力や提案能力については不十分ではないかという御指摘があったのですが、この件は、10年、20年前の新入社員と比べてこういう傾向が見られるのか、それとも時代や社会の要請に対してこういう部分が不十分だという新たな課題が認識されるようになったのか。それはどちらでございましょうか、そこのところの御説明をいただければと思います。
  もう1点でございますが、資料の3枚目の「1自ら学ぶ意欲の涵養」の「初等中等教育においては物事を考える上での基礎となる知識、考え方」という御指摘がございますが、初等中等教育の場合はおおむね内容の基準が決まった教科について学習しているわけでございます。ここで「物事を考える上での基礎となる知識」というのは、学校の教育内容、各教科の学習とは違う生活的知識と申しますか、社会的知識と申しますか、そういう幅広い知識を指しておられるのか、それとも各教科の国語や数学や理科などの知識をおおむね指しておられるのか。その2点をお教えいただければと思います。よろしくお願いいたします。

○成瀬意見発表者    最初の御質問は、私のほうで答えさせていただきます。
  御指摘の点、やはり二重になっているような感じがいたします。例えば読み書きそろばんでも、今様読み書きそろばんは、昔の読み書きそろばんとはかなり変わってまいります。それに対して追いついていない学生もかなりいる。世の中が変化してくるのに対して、どこまで追いついて変わっているかという問題も一つあると思います。
  それから、そうしたこととは別に、集団に親しむ能力とか、コミュニケーションをしてチームをつくる能力とか、こういう人と人との親和力みたいなものについて、最近の若者はいわゆるオタクといいますか、孤立といいますか、そういう方が増える傾向にあるのかなということを、企業の方からはよくお伺いするわけでございます。そういう方をいかに企業の中のチームづくりに同化させていくか、協力してもらえるようにしていくかということは、企業の教育訓練の中でも大変大きな課題にもなるという状況でございます。

○田中意見発表者    2番目の御指摘の「物事を考える上での基礎となる知識、考え方」ということですけれども、今、御指摘になった、基本的な物事、例えば自然に触れて、これをどのように考えていくのか、自然体験をすること等を通じて、基礎・基本を身に付けるという意味でおります。

○  「語学力」という言い方で、主として英語の力のことだと思いますが、何ヵ所か出てまいります。最近、中学校、高校ともに、できるだけ受験英語から脱却して、使える英語をというかけ声でやっているんです。その効果はいかがでしょうか。だいぶ出ていますかしら。それとも全然使いものにならないとか、その辺のところをお聞かせいただければと思います。

○田中意見発表者    効果のほうですけれども、そこら辺はまだ十分検証ができておりませんが、トップ企業の人事担当部長に聞きますと、現在の学生さんは留学体験等がかなりございまして、英語力については相当なレベルにある人もいる。一方で、国語力のほうが逆に落ちている、こういう指摘もございました。

○木村座長    それでは、よろしゅうございますか。
  ありがとうございました。大変貴重な御意見をいただきまして。たぶんまだ御質問等もあろうと思いますが、時間の関係で、以上で切らせていただきます。ありがとうございました。

○木村座長    それでは、引き続きまして、九州大学大学院人間環境学研究科及び教育学部助教授の吉本圭一先生を御紹介申し上げます。吉本先生は、「学校から職業への移行・接続」などを主な研究テーマとされておられます。本日は、「高校教育と職業生活との接続について」お話しいただき、10分ほど質疑を行いたいと思います。
  それでは、吉本先生、よろしくお願いいたします。

○吉本意見発表者    ただいま紹介いただきました吉本です。お手元の資料(※2)の1枚目〜10枚目を説明させていただこうと思います。資料の11枚目以降は、私が執筆した論文です。私の本日の発表の中身をかなり詳しく書いておりますので、よろしければ後ほどお読みいただければと思います。
  さて、「高等学校ないしは高等学校教育と職業生活の接続について」ということで申し上げたいことは、資料の1枚目にある視点の三つ、これが視点であり結論であると思っております。
  その1、「『学校間の接続性』よりも『個人の一貫したキャリア形成』の視点」、これをぜひ強調していただきたい。日本の場合に、今、いろんな形で編入学の制度なども拡充してきましたし、接続の多様な形が出ておりますが、学校と学校を接続するのではなくて、最終的には個人のキャリアがうまく接続して伸びるような形のものをつくっていただきたい。そういう意味では、例外的なキャリアへの配慮がまだまだ少ないのではないかと思います。そのことは統計でも同じようなことがあります。後ほど申し上げます。
  第2点、「教育における『系統性・統合性』の視点」ということです。これは当たり前のような形ですけれども、逆に考えていただいて、今さら学校教育法を用いるのもおかしい話かもしれませんが、基本的な目標を定めているのは学校教育法ですので、それで申しますと、高等学校における目的とは、「中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門教育を施す」ということで、「及び」ということを言っております。この「及び」ということを皆さんどのように考えられますでしょうか。
  逆に今度は大学はと申しますと、これは有名な文言で、「学術の中心として広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させる」というものでありまして、高等学校までとは異なり、つまり、高等学校までは中学校教育の基礎の上に、「その心身の発達に応じて」という前触れがついておりますけれども、大学の場合は前触れがついておりません。つまり、高等学校教育の基礎の上にやることではないということ。逆に言えば、本来、断絶しているべきものというか、断絶しているものだ。高校と大学というのは一応別のものだ。すなわち、高校には高校固有の目的があって、それが「高等普通教育及び専門教育」なんだと。そこを十分にやった上で、その中の適切な人たちを大学に引き受ける。こういう理念をきちんとしていただけたらと思います。特に高等学校教育については、「スペシャリストへの道」という形で職業教育を位置づける、つまり基礎・基本として高校職業教育を、高等教育段階で応用・発展を、というセットにした考え方ができておりますので、本来は断絶しながら、しかし接続する。この関係をうまく表現していただければということが視点です。
  3点目としては、「接続性充実向上のために『パートナーシップとその組織化』の視点」、これは言われていることですけれども、いろんな意味での「『パートナーシップとその組織化』の視点」が大切になると思います。
  今、現状ですと、文部系統のセクションと労働系統のセクション、あるいは高校と企業、高校と大学、こういうところの接続を考えるための基盤というか、一緒に考えているような組織、協議会みたいなものがまだまだ少ないような気がいたします。それはさっきの意見報告にもありましたけれども、インターンシップはなるほど大切だとは思うんですが、今、インターンシップの組織・プログラムの開発は、大学レベルですと通産局が積極的に音頭をとっておりますけれども、どちらかというと個別学校、個別機関対応でやっている。これはむしろ公的な支援、あるいはもっと標準的な形でやるべきではないか。
  逆にもう一つ言いますと、インターンシップの機能というのが、どちらかというとピュアな教育的な、何か神聖なものにだんだん祭り上げられていて、実はインターンシップの中に教育機能もあれば、報酬、つまり生活を支える機能もあれば、最終的に採用したいという、いろんな関係者の意向をなるべく包含するような形の、要するに多機能を総合するようなものが要るのではないか。お互いの意向を認めながら連携する、協議する組織をつくっていくということの視点を申し上げたいと思います。
  第2に移ります。「職業教育の現状と課題」です。これは文部省の委託調査で職業教育の比較などを行いまして、詳細については11枚目以降の資料にありますので、後ほど御興味のある方は読んでいただければと思いますが、時間も限られておりますので、なるべく簡単に紹介させていただきます。
  諸外国との比較で見た我が国の高校段階の職業教育の特色、評価を申しますと、まず1点は、日本の学校から職業への移行のシステム全体がどういう評価をされているかというと、普通教育主体の学校教育と企業内での職業訓練のセットになったのがよい。これが職業生活の準備として非常にうまくいっていると申しております。つまり、ここでは職業教育の評価ということではない。
  しかし、職業教育の評価ということでよく見ますと、学習指導要領に基づいて標準的なカリキュラムをつくっている。アメリカなどですと必ずしも標準的なカリキュラムを持っていませんので、これがよいと。
  それから、一番大切なことだと思うのは、専門学科での高等普通教育 ―国語、数学、理科、社会、こういう科目が、80単位中の50単位強ぐらいあります。それから、80単位中の30単位ぐらいが職業に関する専門科目。このバランスが結構いいのではないか。ドイツのシステムですと、ほとんど職業教育、職業訓練だけが圧倒的にありますし、アメリカですとごく薄い職業教育科目だけを勉強している。そういう意味では、このバランスのよさというのは評価してもよいのだと思います。
  それが最終的に効率的な職業への移行につながっているというのは、またいろんな制度面もあります。資料の5枚目をあけていただきまして、参考資料の「図表1 若年者と一般人の失業率」「図表2 職業への移行と教育訓練システムの趨勢」と資料の6枚目「図表3 学校を離れて1年後の失業率」、ここら辺を簡単に御紹介させていただきます。
  日本の若年者の失業率は比較的低く抑えられている。まだまだよろしい。ドイツ、デンマーク、日本では、15〜19歳の失業率が10%以下という形になります。これが「図表1」です。
  「図表2」には、若年者の失業率が低い国々の順に並べてありますが、若年者の失業率の低い国々というのは、大体の場合は職業教育訓練に在学する人たちが多い国々になっております。つまり、職業訓練をやっていることが、円滑な職業生活への移行を支えていく。これがヨーロッパ型のモデルです。ところが、フランス、イタリア、スペインなどになりますと、必ずしもドイツ語圏の国々と比べますと職業教育訓練の比重は多くなくて、つまり普通教育がベースになっておりまして、これらの国々は高い失業率で悩まされてきたという関係にあります。
  「図表3」のところで見ましても同じことですので、資料の2枚目に戻りたいと思います。
  「高校職業教育をとりまく状況の変化」についてお話しします。高等学校進学がまず普遍化した。95%を超えている。それから、専門学科のシェアが4分の1になっております。それから、高卒就職者が全体の高卒者の中で占めるシェアはほとんど4分の1になってきた。それから、先程の日本経営者団体連盟の御意見では、高校卒業者は高校卒業者なりに専門を深めてほしいという言い方をされておられますが、我々が一般に新聞、雑誌、いろんな調査報告等で見る限り、経済界の側から特に高校の職業教育について、こういうふうにしてほしいという意見が少し少なくなってきているのではないかという気がします。
  さて、我が国の問題にアプローチする必要があるんですが、その前に諸外国のどんなところにヒントがありそうかというところだけ、ポイントをまとめておきました。四つの国、ドイツ、フランス、英国、米国のポイントだけを紹介させていただきたいと思います。
  ドイツの職業教育というのは、高校のレベルで申しますと、同じ年齢層の中の8割ぐらいまでが職業教育訓練のセクターにいる。日本と全く逆の割合なんです。その人たちは4分の3の時間は企業に行って実習を受けている。4分の1の時間は学校で勉強する。その4分の1の学校の勉強も7割ぐらいは職業教育関連の科目です。ですから、我々から見ると普通教育がちょっと少なすぎるように見えます。そのことはドイツ自身も問題だという言い方をしています。同時に、高校レベルで8割と申しますのは、ドイツの場合、大学入学資格、アビトゥアというものがありまして、アビトゥアの資格を得てから入るという人たちがいる。そうすると、職業訓練を3年半受けてまた大学に行くんです。要するに、1回仕事を経験して大学へ行く。こういうアプローチの仕方があると思います。
  ドイツについては、もう1点大切なのは、明確な責任体制で標準的なカリキュラムが組まれている。つまり、教育は州と学校が、訓練は連邦と企業が責任を持つ。要するに日本に学習指導要領があるように、標準的なプログラムが組まれている。
  フランス、英国については、簡単に言いますと、フランスの場合は全国的な職業資格制度、要するに個人の教育年数に応じてと言ってもいいと思いますが、年数に応じて資格制度がありますので、例えば「高校専攻科(STS)と大学工業短期大学部(IUT)の人気」とありますが、高校を卒業して2年間の課程、専攻科というものがありまして、この専攻科を修了した人と大学に入って2年間の工業短期大学部へ入った人、これはどちらも同じ資格レベルに位置づけられる。つまり、高校を卒業して、高校の専攻科でありながら、大学の第1期の課程として学位を認められる、こういう仕組みを持っているということです。
  3番目は英国のところですが、英国では職業教育から大学へ進学するという道を徐々に拡大しているというところです。
  4番目は米国の場合ですが、アメリカの場合は、職業教育をどのぐらいが受けているかというのは、統計数字がないというか、国際比較のときにはあらわれてこないんです。どうしてかというと、トラック制度で個人の選択でやりますから、卒業してみないとわからないというところがありまして、向こうの公式の統計でいいますと、97%ぐらいが職業教育科目を何らかの形で受けている。ただし、この97%というのは何かというと、場合によっては消費者教育みたいなものまで含んでいますから、これが本当に職業教育かどうか怪しい部分がありまして、本当の意味での深い職業教育を必ずしもやっていない。職業教育トラックと言われる人たちは8%ぐらいで、その人たちはせいぜい2割ぐらいの職業教育科目しか取っていない。こういう形ですから、広く薄い職業教育。ただし、おもしろいのは、個別の学校と企業のパートナーシップに基づくインターンシップなどを実現している。
  つまり、ドイツ型は標準的な非常に深い、がっちり組まれた責任体制の下での職業教育訓練。アメリカ型というのは非常に薄い、しかし自由度のきくと申しましょうか、市場原理に基づいたインターンシップ、こういう両極の軸があります。日本はどちらを参考にしているのか、ここが大切なところだろうと思います。
  さて、日本の職業教育、資料の3枚目に移りたいと思います。高校と職業生活との接続について、現状、課題、改善方策を述べたいと思います。
  現状について、資料の6枚目の「図表4 1990年中卒コーホートの進路推計」だけはぜひ皆さんに確認していただきたいと思います。実はこれは学校基本調査の表を10表以上組み合わせて、いろいろ推計した結果です。1990年に中学校を卒業した人たちが198万人います。この人たちが最終的にどの段階から社会に出ていくだろうか。社会に出ていくときにきちんと把握されているかどうか。こういうことをずうっと広報等を追いかけて、つまり、1990年の中学卒業者が1993年に高校を卒業したかどうか。その4年後に大学を卒業したかどうか。こういう表を組み合わせてみました。
  結論から申しますと、学卒で就職していない人、それから学校を途中で中退した人を合わせたときにのべで54万人おります。こういう人たちをこのままにしておいていいんだろうか。中退者問題とか、学卒無業問題とか、個別にいろいろあります。しかし、合わせてのべ54万人いる、このことは大切なことだと思います。
  のべで54万人の中の、特に高校の普通科と職業科を比較してみますと、資料の7枚目の「図表5 各コーホート別の進路推計(中卒年基準)」になりますが、これは数字だけで見にくいので、結論だけ申しますと、高校の普通科からの無業者・不明、そういう問題が大きいんだということで、そのポイントだけ指摘させていただきます。
  一つ飛びまして、資料の8枚目の「図表7学科別・性別の高卒6年目までの初期キャリア形成」を御覧いただきたいと思います。これは、私どもが日本労働研究機構というところで共同研究でやった調査結果です。普通科の場合に、学校を卒業して、4月に就職しないで、5月、6月、7月、8月、こういう就職の仕方をしている人たちが相当程度にいる。最終的な就職者を100としたときに、2割以上はどうも後ろのほうで、場合によっては1年後に就職してたりということです。つまり、本人は進学浪人と言っていたかもしれないけれども、最終的に1年後ぐらいにそのまま就職している。こういう人たちを合わせると相当な数に上っている。この辺、工業科、商業科ではこの数が少ないですので、学科による教育効果というか、職業への移行の効果の違いは、どうしても見るべきではないかと思っております。
  時間のほうが詰まってまいりましたので、図表のほうを省略しまして、また資料の3枚目に戻っていただきます。
  以上のことで、普通科卒業者における無業者・不明の多さ、普通科における職業教育をどうするか。これ自体をぜひ考えていただければと思います。特に就職者の多い学校は普通科の中にもありますので、職業技術教育をどうするのか。また、先の日本経営者団体連盟の御発表にもありました職業観の問題を考えた場合に、いわゆる進学校の中でも、将来、最終的には仕事に就くわけですから、高校の段階で仕事に就くということを意識させる方策がないか。
  もう一つは、中退者への対応。中退者を食いとめることも大切ですけれども、場合によっては高校1年、2年の学生たちは中退するかもしれない。するかもしれないときに、職業安定所はここにあるよ、どういうふうに職業を選びなさいよと、少なくともそういう進路指導がぜひなければ困るだろう。それから、社会に出た後の学校及び職業安定機関の指導が大切です。
  改善方策として6点挙げさせていただきます。特に最初の3点あたりが特に重要だと思いますが、第1点は中学校からの進路指導。これは兵庫県で「トライ・やる・ウイーク」という1週間のボランティア及び就業体験、いろいろな目的を含めたことをやっておりますが、こういう学外経験をぜひ充実させてほしい。
  第2点、進路指導における外部社会人、労働行政等の活用。これもぜひお願いしたい。これは先ほどの10万人計画ということもありましたし、外部企業の人たちが、仮の名前ですが、キャリアアドバイザーとかいう形で学校に出向く。ここのところで文言のことで言いますと、今、「カウンセラー」という言葉がはやっておりまして、私自身はカウンセラーというように過度に専門化しないほうがいい。素人だけれども、社会の大人だ、社会のプロだ、こういう人たちをぜひ呼んでほしい。学問の専門家でない人たちのほうがよいという気がします。
  それから、第3点、インターンシップ等をぜひ充実させていただきたい。このための協力体制というのはもう少し工夫して、全国的に標準的なプログラムを開発するという側面も必要ではないかと思います。
  あと4点、5点、6点に簡単に触れますと、普通科における職業教育支援。これは学校間連携という形でもできるのではないか。
  それから、教員の民間企業での研修、総合学科の設置促進、こういったものがあろうかと思います。
  4番目、資料の4枚目にいきたいと思います。「専門高校と高等教育機関との接続」、ここが本来の一番重要なポイントかとも思いますが、資料の10枚目の「図表10 普通科・専門学科卒業後の進路の推移」だけちょっと見ていただければと思います。
  「図表10 普通科・専門学科卒業後の進路の推移」というのは、普通科と専門学科で卒業後の就職者の比率、進学者の比率がどう変わったか。簡単に申しますと、1960年代末ぐらいの普通科と1990年代の専門学科というのは同じ進路分布になっている。つまり、1960年代から70年代に進路の多様化というような議論がありましたが、専門高校は多様な進路に奉仕している学科である。個々の一つ一つをとっても多様な進路を持っていると思いますので、こういう認識の仕方をしていただきたい。多様な進路を育て上げる方策を考えたい。これが現状から見られるところです。資料の4枚目にまた戻っていただきます。
  大学入試での特別選抜・推薦入学の現状というのは、平成10年度入学者選抜で28の国公私立大学で専門高校・総合学科卒業生選抜を実施しておりまして、128の国公私立大学が専門高校・総合学科卒業生を対象とする推薦入学を実施している。およそ6,000名ぐらい入学している。10年前から比べると10倍になっておりますので、これがどんどん充実して、拡大していくほうが望ましいと思っております。
  ただ、それだけではなくて、次の問題、専門高校の卒業生にとっての一般教育の補習と専門教育における重複をどうするのか。これだけ拡大してきますと、この辺がいよいよ課題になってくるのではないかと思います。「大学における補習教育の必要性」という調査の中で明らかになったことですが、ある技術系大学で工業高校出身者、工業科出身者をたくさん受け入れております。工業高校と普通科の出身者となりますと、工業高校出身者には英語が足りない、国語が足りないなど、こういうことが当然起きてきます。補習があります。
  工業高校出身者は、アンケートに書いてあるんですけれども、一般教育の補習を受けるのは自分はぜひ受けたい。だけど、専門科目になったときに、アンケートの言葉で言いますと、自分は「かったるい」。耐えられないぐらい同じことの繰り返しだと。こういうことをやっておりまして、私立大学などの場合は重複を工夫して除く、それから専門学校なども工業高校出身者のための配慮をいろいろやっているようです。例えば、高校の商業における簿記と大学における簿記・会計の入門コース。これは全く同じことをやっている。場合によってはレベルが……ということになっております。それから、機械実習、製図、CADを使うということも高校の工業科でやっておりますから、かなりの部分重複があるかもしれない。この辺、もう少し調べていく必要があると思っております。
  課題として申し上げますと、3点。専門高校に入った学生というのは、中学校3年の段階でこんな仕事をしたいなと思いながら、もちろん学力による選抜というものもあるんですが、早期に何らかの職業的な関心を漠然とでも持ってきた。この生徒たちの職業的な関心の萌芽をなるべく無視しないようにしたい。そのための進学先の拡大をしなければいけない。
  それは専門にかかわる関心が180度変わるということもあると思うんです。例えば、よく相談されるんですけれども、職業科の進路指導が今大変になっているのは、職業科から大学の商学部に行ければこれもいいんですが、それだけではなくて、突然、看護学部に行きたい、語学を勉強したい、何とかに行きたい、これは全然別な系統です。これはこれで180度変わってもよいではないか。例えば、衛生看護科から専攻科に行く。これは全く連続です。衛生看護科から、医学部に行ってみる。こういう形の進路も用意していく、そういう形を考えていただければと思います。
  それから、2点目も同じような意味ですが、専門高校の関心を深め、発展させるためのモデル的な高等教育分野。どの分野に進学させればいいんだろうか、こういうことを研究する必要があると思います。
  それから、最終的には高等教育の側の個々の課題だと思いますが、本来、高校教育は先ほど申しましたように、大学に接続するために教えているわけではない。「高等普通教育および専門教育」をやっている。そうすると、いろんな高等普通教育及び専門教育をやった中で、適切な資質の人間を集めてくる。そういう意味では、多様な入学者が来ますから、その入学者に合わせたカリキュラム開発、多様な履修モデルをつくる必要がある。
  以上のような観点で申しますと、改善方策は5点にまとめられるかと思います。
  第1点は、大学入学者選抜の改善による接続の円滑化。特別選抜・推薦入学の拡充とともに、試験科目での多様化。例えば専門科目が数学のかわりだとか、英語のかわりだと。英語のかわりになるものがあるかどうか少し難しいですが、そういう何とかのかわりだということではなくて、専門科目は専門科目として評価していく、そういうことができないのか。
  例えばこういうことです。工学部の場合には、ある種の工業系統の専門科目を課す。普通科の学生はやってないではないか。やっていない人たちは後で補習すればよい。これは工学部のほうの考え方次第ですが、こういう考え方の転換も少し検討していただければと思います。
  第2点、高等専門学校、短期大学、大学と高校の間で共同カリキュラム開発をやっていただければと思います。
  第3点、高校の専攻科の拡充。今、専攻科というのは制度上、フランスのような資格制度を持っていません。つまり、専攻科を終わったとしても、学歴は高校卒業です。特に衛生看護科の専攻科の場合は、看護婦の資格は取れるんですが、学歴は高校卒業だと。つまり、高校卒業であるときに、専門学校から看護婦の資格を取った人たちは大学へ編入学できるわけですが、衛生看護科を卒業した看護婦は編入学ができない。個人のキャリアということを考えたらば、本来どっちもほとんど同じ教育を受けてきたはずなのに、制度と制度の間の接続だけを考えているものだから、これができないのではないかと思うわけです。
  最終的に、そのようなことを考えますと、これは私の勝手な造語ですが、「第一期高等教育資格」。つまり、高校卒業プラス2年程度の高等教育相当の学習をした者を等しく並べるような資格制度というのはあり得ないだろうか。つまり、大学、短期大学2年相当の資格ということです。もしその資格を取れば、大学と大学の間でも3年次編入が場合によってはできるかもしれない。もちろん、短期大学から大学、いろんな組み合わせがあり得るだろう。個人のキャリアに応じて組み合わせができるような「第一期高等教育資格」。これは資料の11枚目以降にだいぶ詳しく書いておりますので、また御覧いただければと思いますが、このことをずっと考えております。
  そういう意味で、専攻科よりも充実した技術系短期大学などを構想する。高専制度をどのように位置づけるかということもありますが、「3+2」。アメリカで代表的なのは、高校の最後の2年間と大学、コミュニティカレッジの2年間を結びつける制度を持っていますので、そういう接続の工夫があり得ないかどうか。
  以上、多少時間が長くなりましたけれども、接続に関する三つの視点にかかわる説明をさせていただきました。

○木村座長    ありがとうございました。
 それでは、御質問を。

○  非常に勉強させていただきました。ポイントを突くいろいろな御説明であったかと思います。
  今、就職しようという若者たちは、今までは企業がとにかく職業訓練でも何でもやってくれるということで安心しきって、有名な大学にさえ入ればいいと思っていた学生もかなり多かったと思います。このところの国際化の流れの中で、企業がまるで180度の転換をして、しかも就職協定もなく、非常に混乱しているという状況の中で、こういう改善策がもっと早く進んでいれば、こういうこともなかったのかなという気さえするほどでございます。
  いろいろ御説明がございまして、機関になるかどうかわかりませんが、進路指導機関の御指摘とか、あるいは外部の資格認定機関というような御指摘もあったかと思います。職業訓練などに関しましては、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカの例をお挙げになりましたが、必ずしもこれのどれがいいかということもなかなか言えないので、日本独自のやり方をやらざるを得ないと考えるわけです。ドイツはたしか商工会議所がリーダーシップをとって、その責任において職業訓練のプログラムをやっていて、これは確かに実際的でいいなと思った経験がドイツに行きましたときにございました。
  ちょっとお伺いしたいのは、おっしゃるように制度と制度の接続ではなくて、個人のキャリアだという御指摘は全くそのとおりだと思います。その場合の資格認定の機関は非常に重要になってくると思います。それなりに大学入学資格検定試験とかいろいろございますが、これはどういう機関のイメージがよろしいのか。
  それから、進路指導といいましても、調査統計によりますと、進路指導をやる ― 今、校内でやっておるわけですが ― 先生方は非常にお忙しくて、進路指導だけ専門にやっておられる先生が少ないわけです。したがって、外部にそういう公的な機関として進路指導があったほうがいいのか。でも、御指摘の中にいわゆるプロでないほうがいいという御指摘もございまして、それは互いに企業側のボランティアといいますか、企業側から一時的に派遣された人たちがそこに出ていったりするのか。たぶんある程度のイメージをお持ちになっておっしゃっていらっしゃると思うので、それをお聞かせいただけたらと思います。

○吉本意見発表者    最初の御質問ですが、個人のキャリアのほうから資格制度をつくっていく。その場合に、資格を認定する機関が要るだろう。これは少なくとも全国的な標準的な資格制度をつくらなければそれは成り立ちませんから。そういう意味では、学士までは学位授与機構が責任を持って、制度的に、つまり大学校であっても、短大から単位を累積していった人たちであっても、個人であっても、いろんな形態で学位を認める。これが準学士とか、あるいは私が仮称で言っています「第一期高等教育学位」とか、その辺の部分も学位授与機構みたいなところがあり得ないかなという感じでございます。
  それから、後半のほうは、進路指導について、私は2案というか、二つの組み合わせをつくっております。外部の企業のプロをキャリアアドバイザーと申しますと、もう一つは職業安定所職員の訪問相談 ―こちらのほうはプロになるわけですが、例えばフランス、ドイツはそれぞれ進路指導機関が充実しておりましてというか、これは逆に申しますと、学校の進路指導が充実していないということです。そのかわりにフランスですとCIO(  Centre d'information et d'orientation )といいまして、オリエンテーションセンターというのが文部省系統にあります。そこの職員が例えば近隣の学校を五つ六つ担当しておりまして、専門家がきょうはこの学校の一部屋にずっと滞在しております、あしたは次の学校というぐあいに、州を順繰りに回っているんです。アメリカでも、これは労働のほうの安定機関の職員が、キャリアプレースメント、キャリアガイダンスのオフィスが高校の中にありまして、常時いるわけではないけれども、時々そこに来て相談を受けている。そういうことで、いろいろな形はあると思っております。

○  もう一つお伺いしたいのは、大学レベルではなくて、高等学校とか、中学校ぐらいでもいいんですが、今は指導要領というのがありますが、一体、学力をどの程度つけたのかという成果については、それを測る統一的なものがないわけです。それも含めて資格機関みたいなものがあればという考え方も成り立つと思いますが、そのことについて何かイメージをお持ちでいらっしゃいますか。個人のキャリア育成というふうにお考えになるとですね。

○吉本意見発表者    考えてはおります。例えば事例で申しますと、フランスなどのような全国的な資格、要するに卒業試験が同時に進学資格になるような、ですね。ということは、学歴資格としても認定されるわけです。

○  現在はですね。

○吉本意見発表者    ええ。それはあると思いますが、今までのシステムとしては日本のシステムと整合しないかなと。唐突に導入しても、整合しにくいかなという感じです。2000年から2010年ぐらいまでを念頭に置いている範囲では難しいかなという気がしています。

○  大変刺激的ないいお話をいただいて、目が覚めた思いがしているわけですが、ちょっと視点を変えて先生の御意見をお伺いしたいんですが、基本的に日本の場合、高等学校教育と小学校・中学校の教育との違いの一番大きなところは、物づくりみたいなことから離れてしまうというところにあるのではないかと思うんです。普通科だと一切やらないみたいなところが出てくる。結局、物づくりという体験を全く学校生活の中で持てないと、学校生活の延長線上の職業生活の実感がわかない。大学に行けばそこのところはちょっと変わってくるんだろうと思うんですが、高等学校で見ていると、どうもその部分が不足しているというか、もう少し意識的にやったほうがいいのではないかと思っておったところです。
  その切り口から考えた場合、普通科を出て、無業者がこれだけ出る、それから進路先もわからないというそのことと、今の物づくり教育というんでしょうか、何かをやる。「総合的な学習の時間」で今度できるかもしれないんですけれども、そういう見方は成り立つものでございましょうか。

○吉本意見発表者    まさに委員がおっしゃられたとおりで、私、説明の時間が少なかったのではしょったんですが、「教育における『系統性・統合性』の視点」と申しますのは、例えば理論と実践という区分で申しますと、高校と大学の組み合わせの仕方は四つあるわけです。つまり、高校で理論的にずっと突っ込んでいって、大学でも理論的に突っ込む。これが今までの形で、むしろこの1種類しかなかったような気がします。あるいは、高校で理論的にやって、大学の専門学部の分野によっては実践的な、当然、医学部でしたら医療の技術を教えますから、徹底して技術をたたき込むような分野がある。これもありました。
  ところが、高校の専門的な、実践的な学習から理論的な学習へという、実践的な学習からアイデアを得て理論的な学習に進むという道、つまり物づくりから物をつくることの理論を学びたいというふうになることがあるのではないかと思います。
  実は、国立大学の工学部における創造教育の実践事例集の中には、高等専門学校なんかでの取組みたいなものもあります。つまり、高校と大学は別のものだと考えれば、実践をやっていた人たちが理論を学ぶ、これはいいのではないかと思うわけです。ここの部分のモデルを開発していただきたい。
  それから、実践的学習から理論的学習というのは、これは「スペシャリストへの道」で言っている基礎・基本から応用・発展ですから、この場合にこそカリキュラム上の接続をうまく、つまり工業高校と工業技術短期大学とか、あるいは工業短期大学とか、あるいは専攻科とか、なるべくずっとそこの道で発展させるようなプログラムをつくる。これがポイントではないかと思っています。

○  大変興味深い御報告をありがとうございました。二つほどお教えいただきたいと思います。
  第1点は、資料の1枚目の「報告の視点」の「1)『学校間の接続性』よりも『個人の一貫したキャリア形成』の視点」というところですが、私も長期的にはこういう方向で教育システムは変わっていかざるを得ないのだろうと思います。アメリカの場合で考えますと、1970年代の終わりから1980年代にかけて、学校間の接続よりも、個人の中において初等中等教育と高等教育をどうつなげるか、個々の教育内容の接続を個人の中でどうするのかということが随分議論されたかと思います。どうもその時の議論と、1990年代に入ってからの特に中等教育の改革の動向とを重ねてみますと、もう一度学校間の接続性というところに議論が戻ってきているように思います。
  非常にラジカルな観点から個人の中で接続を考えるというところへ一旦議論が進みましたが、どうもモジュールタイプのシステムがうまくいかない。そこでもう1度、学校間の接続に戻ってきたのではないかという印象があります。そういう見方について、吉本先生はどのように御覧になっているのかということです。
  第2点は、資料の5枚目の「図表2 職業への移行と教育訓練システムの趨勢」のところですが、これはもしかすると先ほど御説明の中にあったかもしれないのですが、「図表2」の「後期中等教育段階における職業教育訓練在籍学生数のシェアの推移」のところで、日本の場合、1992年のデータで27.5%となっています。教育訓練在籍学生のシェアは低いわけですが、若年失業率もまた低いわけです。ほかの国の場合には、そういうところに在籍する学生が多い場合に、若年失業率が低くなっている。この対比についてどのような御説明だったか、ちょっと補足していただければと思います。

○吉本意見発表者    まず第1点目のほうですが、まさにおっしゃられるとおりで、個人の一貫したキャリア形成をと言っても、個人バラバラではなくて、ある程度接続のいい学校間のモデルがあって、それがアメリカでは「2+2」、高校とコミュニティカレッジを結ぶプログラムをつくりましょうということになってきましたので、視点について、個人の一貫したキャリア形成のために学校の接続をと。そういう意味では、まさにおっしゃられるとおりだと思います。御指摘のとおりです。
  ただ、個人の一貫したキャリア形成がどうなっているか、少なくとも把握するような体制をとらないといけないと思います。諸外国の統計では、大学に社会人として入ったというか、25歳以上で入った人はちゃんと統計が出てくるんです。なぜ日本では出てこないんでしょう。それは逆に、25歳になったら社会にいるものだ。18歳で入っているものだから、年齢は聞かない。個人のキャリアは把握しない。つまり、学校間で全部代表されているという理解が逆にまずいのだと思います。そういう意味では、学校基本調査のほうを縮小して、別のタイプのフォローアップをする。これは欧米はたくさんやっておりますので、そういうのはあると思います。
  それから、図表の説明ですが、これは説明しだすと長くなりますが、簡単に言いますと、なぜ普通教育主体で、しかも失業率が低かったか。日本は例外的な組み合わせだということです。しかし、それは先ほどの話にありましたように、新規学卒就職の中で訓練可能性だけを見ていたから、普通教育でも十分よかった。訓練可能性があって、標準的な学習プログラムがあれば、これでよいという形だった。これまでの日本のシステムはこれでよかった。これからたぶん変わるだろうということです。

○  大変考えさせられる問題提起に富んだ御報告をいただいたんですが、私の理解が不十分なのか、二つほど教えてほしいんです。
  一つは、資料の1枚目「2)教育における『系統性・統合性』の視点」というところの一つ目「高等学校における『高等普通教育および専門教育』の重要性について」と二つ目「断絶性の認識:大学は『高校教育の基礎の比』ではなく『学術の中心として…』」ですが、確かに指摘されれば、今の学校教育がこういうふうになっていることはそのとおりなんです。学校教育法ができたのが昭和23年で、当時は高校進学率がたしか40%台ではなかったか。高等教育、大学については恐らく10%台だった。今や短期大学も含めれば同世代の人の5割以上が、近々、高等教育に進学するという状況の中で、確かに指摘にありましたように、高等学校までと大学とは学校教育法の文言上は断絶しているんです。中学校は小学校教育の基礎の上に、高校は中学校の基礎の上にというのが、大学のところでプツッと切れる。
  これまで何人かのヒアリングをした中では、大学側から、学力の低下も含めて、高等学校と大学との円滑な接続ということで、このように断絶してしまったままで果たしていいのかどうかと。確かに高等学校では、半分がそれでも社会に出て職業人になるわけですから、それはそれで一応自己完結的な要素はあるにしても、一方で5割の人が高等教育へ進学するという状況の中では、接続が円滑にいくことが社会的には要請されているのだと思います。
  そういう意味で、学校教育法の高等学校の目的のところと、大学のところと ―大学のところだけ目標が書かれていないというのは確かにそうですが、私はどちらかというと、円滑な接続をするためには、場合によってはこの見直しも含めて検討したらどうかというふうに考えるわけですが、その辺のところについて、私の理解が不十分で聞き漏らしたのかもしれませんが、先生のお考えをお聞かせいただきたいと思います。
  それから、資料の3枚目のところで、もう出ましたけれども、いわゆる無業者が50万人という数字をストレートに出されて、私、大変戸惑ってもいるわけです。これは先ほど日本経営者団体連盟の方からあったように、フリーターも含めて、ある意味で前向きに受けとめていい人も含まれてはいると思います。ただ、中学卒業で、高校進学しない約3%と、高校中退が2.6%、中退率も高まっていると思いますが、そういうものを含めて、今後、恐らくこれは現状のままにしておけば、ますます増えていくのではないかということで、それは必ずしも前向きにだけ受けとめられない非常に深刻な問題だと考えるんです。
  このことの要因の中に、最近、時々聞くんですが、最近の長引く不況や企業のリストラによる中高年失業者の増大がある。したがって、自分の子どもをかなり高い学費のところに入れていったのを、学費の低いところに転学させなければならないというようなケースが出ているという話を現場から時々聞かされるんです。そういう経済的理由によって中退したり、転学したりということが、どの程度影響しているのか。何か最近のデータがあればお教えいただきたいと思います。その二つです。

○吉本意見発表者    後者のほうについては、私、今回は直接の資料を持ってきておりませんので、別の形で、あるいは事務局のほうにあるのかなという気もします。いずれにしても、50万人というのを全部積極的に見るわけにいきませんので。大切なのは、しかしこの数は減らそうといくら頑張っても、そう変わるものではないかもしれません。そうすると、この人たちに適切な指導があればよい。もしかすると高校に入った人たちの中にも、将来無業者・不明のほうに移る可能性がある人たち、だれと特定するわけではないですが、その人たちにもちゃんとしたセコンドチャンスというか、いろんな情報を与えて、進路のチャンスを与えていく。こういう事後のケアと事前の進路指導が大切なのかなと思います。
  前者のほうの部分は哲学的なところに入りまして、少なくとも私は高等学校における「高等普通教育および専門教育」を堅持していくべきだと思います。新制学校制度ができたときは、それを机の上だけで考えて書いてしまったような気がするんです。実際には旧制中学校、高等女学校、実業学校があって、それの組み合わせで、結局、高校三原則(小学区制・総合制・男女共学)はうまく機能しなかった。結局は普通教育だけやる学校と、「普通教育および専門教育」をやる学校とに分かれちゃった。
  だけど、今もう1回考えてみると、まさにおっしゃられるように、普遍化した状況だからこそ、完成教育的な機能が必要だ、みんなここで1回は終わりだ。大学に接続してもいいけれども、1回はおしまいだ。そうすると、おしまいとして「高等普通教育および専門教育」であって、統合性と分化という部分ができているんだから、私は高校のほうはこの文言でむしろいいのではないかと思っています。大学のほうはちょっとわかりません。大学のほうも、私としては、これはこれでいいのかなという気もしているんです。時間もありますのでこのぐらいでよろしいでしょうか。

○  簡単に。資料の4枚目のところで、いろいろとありがとうございました。「4)専門高校と高等教育機関との接続」はまさに今審議しているところですけれども、その「3)改善方策」はいずれも大事なことで、私も関心を持って聞いておりました。特に試験科目等の多様化については、もっともっとやらなければいけないかなと思いました。
  それから、専門高校というのは、特に継続教育が重視されている観点から、今、専門高校の場合、進学先とすると専攻科とか、専門学校とか、大学とか、短期大学というところがあるわけですが、ここに出ているように、専攻科修了者の大学への編入学の道、あるいは短期大学、特に技術短期大学なんかの設置も重要ですし、この専攻科の充実はまさに大事なことかと思います。
  ただ、専攻科を卒業して、大学の編入学等々をより充実させるためには、専攻科そのものの法的な位置づけはまだ十分ではないのではないか。やはり設置基準といったようなものをきちんとして、法的な位置づけをきちっとした上で、こういった方向に進むことが、今、急がれるのではないかと思いますが、先生の御意見をお聞きしたいと思います。

○吉本意見発表者    まさしくおっしゃられるとおりだろうと思います。全く賛同です。

○  いろいろあったんですけれども、いろんな方に質問されまして、一つだけ簡潔に。
  普通科出身者の無業者・不明の多さに注目すべきだということを指摘されて、私も日常的に感じていることで、まさにそうだなと再認識いたしました。普通科の多くの子どもたちの一番大きな問題は、将来の職業イメージが貧弱であるということと、高校の普通科からストレートに大学に来る学生がいろいろな問題を抱えているということを感じておりましたので、この指摘は私もそうだと思います。
  ただ、この問題は高校の普通科で一般的ではないはずで、何らかの類型に属する普通科だと思うので、それはどういう類型に属する普通科に多いのか、問題なのかということが、もしもあるのであれば教えてほしいと思います。
  また,こうした構造がつくられるのは、一体どのような理由なのか。つまり、普通科だから、将来、大学進学を予定しているという意味で、職業教育とか、職業意識を涵養するようなカリキュラムが入っていないという問題もあるかもしれませんが、例えば中学校から高校への進路指導の問題とか、いろいろな問題が複合して、指摘されるような普通科の問題が出てきていると思うので、そのあたりはどう考えたらいいのか。

○吉本意見発表者    普通科の職業教育のところで書きましたように、普通科の問題というのは二つありまして、実際に就職者がある程度あるのにもかかわらず、例えば学校で見ますと、進学指導担当と就職指導担当と部屋が二つあるのに、就職指導担当のほうは何かひっそりしてなきゃいけないという部分が、実際インタビューなんかしてみますと出てきますので、就職者が多いんならそれなりに職業教育をやりましょうと、これは当たり前の話で、何にも不思議ではない。
  もう一つ、むしろ私が言いたいのは、大学への進学者が多い普通科では、これは本来仕事の選択ということを、4年先、あるいは場合によっては6年先か9年先かの仕事の選択を意識させるようなことがどこにもない学生がおります。つまり、私の経験では、学生にオリエンテーションのときに聞いてみますと、「自分探しに来ました」と。要するに大学で自分探しもいいんだけれども、自分探しの場所としてここがピッタリだったから来ましたとまでわかってなくて、何となく来てしまって、そこで自分探しをしようと、こうなっている。もうちょっと早く自分探しを始めてほしいという気がしております。
  もう一つ、普通科一般の問題ですが、基本的に進学校の問題と就職校の問題、それぞれ固有にあるということで識別して議論すべきだということと、それからその問題がなぜ出てくるかということで、一つ大胆に言えば、どうも専門家支配社会というのが、我々も専門家で、つまり大学の先生が高校を接続させるための試験をつくる。高校の先生が中学校の接続のための試験をつくる。上の学校の先生が下の学校をコントロールする。つまり、プロがコントロールできる。プロ社会だ。学校と地域の連携のほうもですけれども、学校が全部引き受けて、つまり専門家モデルというのが、今、問われているのではないか。むしろ専門家モデルでなくて、パートナーシップモデルというか、連携モデルでないといけないのではないか。素人も含めて接続の仕方を議論できるはずだ。下からも議論できるはずだ。この組み合わせの仕方にしないと、ずっと変わらないのではないかという感じを持っております。

○  先生のお話で、専門高校と高等教育機関の接続について、このように今後進めてくれたら大変うまくいくなということが、まず第1の印象でございます。
  現実に専門高校は進路が多様化しておりまして、進学希望者も年々増えているという現実があります。そういう中で、専門高校の生徒が専門教科や科目を深く学習しているということを生かした接続を今後進めていただければ大変ありがたいと、私は日ごろ考えているわけです。
  そういう中で、多様な履修のモデルの開発ということをおっしゃていましたが、例えば専門高校の生徒が進学する場合に、専門科目と普通科の科目を代替するようなことも、大学側が積極的に進めて接続の改善が図られれば大変いいなという感想をまず持ちました。
  現在、高等学校の再編を各都道府県で行おうとしておりますが、まだ普通高校の数と普通高校以外の高校の数の若干のアンバランスがあって、いわゆる「不本意入学」があるわけです。そういう中で、このような専門高校と高等教育機関の接続の改善が図られていけば、不本意入学したからといって中途退学をする生徒は減るのではないかと思っております。
  先生が個人のキャリアに応じた教育を提言されたことに私も賛成です。そういうことを進める上において、キャリアアドバイザーの活用といいますか、そういうことがあって、外国の例等の説明もあったわけですが、私はこのキャリアアドバイザーを高校で具体的に活用するという場合に、巡回してある一定時間いて生徒の相談に乗るというだけで、職業観が育成できるとか、あるいは離職につながらない指導ができるというようなことにはすぐつながらないような気がするんです。具体的に外国の例を話されましたけれども、日本で具体的にそういうことで成果を上げているという例があったら、さらにそういうものを私も推進したいと思っております。ただ相談だけでなくて、具体的に企業のキャリアのある人と学校のカリキュラムとを結びつけて職業教育をしたら、さらに進展するのかなと思いますので、その辺で先生のお考えがありましたらお伺いしたいのです。
  もう一つ、高校卒業者の離職者が多いとか、無業者が増えているとか、いろいろ説明があったわけですが、以前は普通高校の卒業生をむしろ積極的に企業が採用し、企業内で教育して、そして定着を図るということがあったと思います。例えば、積極的には企業内高校がありました。今、ほとんどそれがなくなってきております。企業に入った場合に、そういう生徒を会社の目的があって再教育したことが、実は離職につながらなかったという側面もあったのではないかと思っております。現在の高校生の例えば職業観指導とか、基礎的な能力について指導が足りないことが原因で、そういう生徒が増えているのか。それとも引き受けてくれた企業のその後の生徒の育成が若干影響したのかなと。その辺について、先生はどのように分析されておいでなのか、ちょっとお聞きしたいと思います。

○吉本意見発表者    第1点のほうで、キャリアアドバイザーというか、私自身も片仮名を使うのは気恥ずかしいというか、あまり片仮名ばかりが出てくるのも問題ですが、スクールカウンセラーという流れで治療的に出てくるのではなくて、もっとプラスの先を見たような形で、外部の人たちを使うことができないか。そういう意味では、高校生が一番引きつけられるのは、卒業して5年先輩とか、そのぐらいですから、本当は若い人のほうがいいんです。そういう意味で、あんまりプロではなくてもいい。5年から10年ぐらいの社会人、要するに先輩というぐらいの人たちに相談できて、「じゃあ、おれの会社をちょっと見せてやろう」とか、このようなプログラムができればという。これはどういう事例があり得るのかというだけで、あるのかということはちょっと申し上げられませんので、ちょっと検討をしていただきたいと思います。
  それから、離職の問題で、企業のほうの高校卒業者の育成の仕方が、だんだん私にもわからなくなってきているんです。ただ、中小企業などはそれなりに専門高校を出た人たちをきちんと使っているんです。修士課程を修了した学生の修士論文で、福岡近辺の中小企業の製造業の調査をしますと、要するに中小企業ぐらいですと、工業高校の生徒を育成していくプログラムがあります。そこに普通科の生徒が入ってくると、普通科は育成に1年余分にかかるんです。そこでは職業高校のプラス面のほうが出ている。大企業が高校卒業者をたくさん採っていた時代ならば、同じ標準的な教育訓練プログラムをつくるでしょうから、普通科にプラスがあったんでしょうが、大企業のほうがだんだん減ってくると、普通科の就職者にとっては非常につらい部分になってきているんだろう。普通科の就職者を適切に位置づけて育成してくれる企業が少なくなっている。こういう問題もあるかと思います。

○木村座長    ありがとうございました。だいぶ時間も超過いたしました。吉本先生、どうもありがとうございました。
  それでは、茂里先生、大変お待たせいたしました。
  それでは、次の御発表を茂里一紘先生にお願いいたします。先生は、先ほど申し上げましたように、広島大学の大学教育研究センター長でいらっしゃいまして、3月までは広島大学の学部教育・学生担当の副学長をお務めでございました。本日は、「大学教育と職業生活との接続について」、既にいくつか議論が出ておりますが、お話しいただきまして、また10分程度質疑応答をお願いしたいと思います。どうぞ先生、20分ぐらい結構でございますから、よろしくお願いいたします。

○茂里意見発表者    ただいま御紹介いただきました広島大学の茂里と申します。
  本日、私に与えられましたテーマは「大学教育と職業生活との接続について」ということで、今お話になりました年代的には後のほう、四、五年後の時期での接続についてでございます。
  私は背景が工学部でございまして、就職という問題につきましても、幸か不幸か特段難しいことをしなくても、大体学科の先生方が推薦して行っていくという世界にいたものですから、大学教育と職業生活の接続ということにつきましても、正直申しましてあまり意識はなかったんですが、副学長を仰せつかりまして、全学の学生諸君の就職の問題を扱うようになって、いろんなことを考えさせられまして、大学の接続としての就職は大学教育において非常に重要な問題であるという認識を持つに至りました。ただ、本日は学問的な見解でなく、そういう重要な認識ということで、私自身、副学長として在籍中に広島大学で試みに行いましたこと、それから昨年、アメリカ、カナダの大学、教育省を訪問する機会がございましたので、そこでの見聞をもとにして、大学教育と学生の職業生活との接続ということで、個人的な意見を述べさせていただきたいと思います。
  お手元に、資料(※3)がお配りされているかと思いますので、それに従ってお話し申し上げたいと思います。
  本日、私が申し上げたいことは、要約すればたった一つでございます。大学教育と学生諸君の就職生活という意味での接続というのは、何か面と面の、卒業して社会に行くというつき合わせ、あるいは積み重ね的な接続ではなくて、もう少し歯車というのか、のこぎり歯というのか、食い込んだような、そこでは「乗り換え型接続」ではなく、「相互乗り入れ型接続」 ―これは私が勝手につけた言葉ですが、そういう接続が重要なのではないか。「相互乗り入れ」というのは、きょうも羽田から来たときに、京浜急行が都営浅草線に乗り入れてずうっと行くようになっていましたが、ああいう形でございます。線路としては大学教育、それから社会というのがあるんですが、その境界線を相互の列車が行き来するということをイメージしてここで申し上げております。そういうものの実現には、学生諸君を在学中にいろいろな状況に曝して、環境を経験させる工夫・施策が必要なのではないかと考えております。それがきょう私が申し上げたいことでございます。
  ところで、大学教育と学生の職業生活の接続と申し上げますと、学生の就職という問題になります。あるいは、就職活動ということになります。最近の学生の就職活動の実態につきましては、資料の2枚目に掲げておきました。もし皆様御関心があったらお読みいただければと思います。
  学生諸君は、職業は自己実現というようなことをよく言うときがあるようでございますが、彼らにとって就職活動は、自分の将来を初めて真剣に考えるときであるように思います。また、初めて独立した社会人としての対応が求められるときであるようです。と同時に、社会の厳しさを味わうときでございます。それほど重要なことであるにもかかわらず、それに対して学生諸君はというか、学んでいる大学の在学中での準備という意味では、全く準備不足である。大学もまた、就職が学生諸君にとってこれほど重い、あるいは重くのしかかっているにもかかわらず、必ずしもそのための体系的な訓練プログラム、あるいは教育を提供していないのではないかと私自身は思っております。
  その結果、就職協定の廃止ということになりますと、いろいろ混乱が起きたり、我々自身も右往左往するという状況になっているのではないかと思います。いつか朝日新聞に「学生の悲鳴が聞こえる」とか、つい最近、毎日新聞で「求められる新しい理念」という特集がなされていましたが、これが学生諸君の就職を取り巻く現実ではなかろうかと思います。
  そういう就職のフロントラインのところでどういう問題があるかということでございます。この審議会の究極の目的は教育の充実ということだろうと思いますが、そういう視点から一、二問題点を御紹介させていただきたいと思います。
  既に言われていることですが、大学・学生のほうにとりましては、就職活動というのはいわゆる早期化・長期化という現象が起きております。資料の3枚目のところに「図1就職活動の早期化・長期化」をつけてございます。縦に累積比率、内定をした学生のパーセンテージが書いてございます。1997年度の4年生を対象とした調査で、1,400名ぐらいの回答をもとにしてまとめたものです。これは同じ調査が、就職協定の廃止前の1993年にも行っておりまして、レポートではそれを比較しているのですが、ここでは簡単に1997年の部分だけ添付してまいりました。
  御覧になっていただいておわかりのように、左側のほうになりますが、3月というのは大学3年生時代になります。3年生の3月ごろから内定をもらっている者もおり、それが理系、文系によってちょっと違いますが、遅い場合で11月ぐらいまで線が伸びております。もちろん内定ですから、実際の活動はそれより数ヵ月先行することは申すまでもございません。そういうことで、就職活動はかなり早期化し長期化しているというのは、こういうデータからもうなずけることでございます。
  その下の「表1就職活動の学事への影響」は、問題はこの早期化・長期化が学業へ影響しているという点でございます。簡単のために、表の文系というところで、「就職活動あり」「なし」というところだけ目を追っていただければと思います。一番左側に「登録授業」と書いてあります。これは大学4年生の前期にどれくらいの授業を受けるというぐあいに申請したかという授業の数でございます。「就職活動なし」の学生に比べて、これから就職活動をやろうと張り切っているというか、覚悟している学生は、もともと登録数がその時点で2科目ほど少ないということがおわかりいただけるかと思います。少ないのになぜ卒業できるか。これは就職活動をしようとしている学生は、3年次までにその分を取るという状況になっているわけであります。
  その後、「登録減少」というのが右のほうにございますが、これは同じ時期の、4年生の前期になって3年生の前期に比べてどうか。3年生のときに10を取っていたとしたら、四つとか三つ減っていますから、五つとか六つになっているという意味であります。本来いろいろ勉強して、4年次で大いに仕上げていただかなければいけない時期に減っているということであります。
  問題は、その間に「出席授業」というのがございます。就職活動をする学生は、4年次前期によく出席した科目が2.47という数字になっています。2科目ちょいということです。8科目ほど登録するんですが、その中で「まあ出たな」と思うのが2科目ちょっとである。理系も2.8とか少ないんですが、これは4年次では卒業研究が中心となるために、いわゆる授業のコマとしては少ないということであります。
  そういうことで、実質就職活動をやるという場合には、大学が3年ぐらいになっているということがおわかりいただけるかと思います。
  このレポートを書いておられる著者の先生方は、「このような状況は国家的損失である」と、そういうぐあいに結論づけております。私もそのように思います。後で申し上げますが、工学分野では現在、国際的環境での学業レベルを定める動きがあります。いわゆるグローバルスタンダードというものでございますが、人材マーケットが国際的になったときに、日本だけだったらこれでいいんですが、日本の大学教育がどのように評価されるか気になるところでございます。
  企業側にとってはこれはどういうことか。私の研究室を去年出た学生が私に、5月に内定は決まっていたので、8月ごろでしたが「僕、これでいいんだろうか」と言いました。先ほどの吉本先生の資料にありましたが、あまり早い時期に内定を取りますと、こういうことを言うのが出てまいります。実際、学生は4年間のうちの4年生の1年間で随分成長するわけですから、その成長なしでいろんなことを考えるということで、そういう問題があります。企業が優秀な人材を採るといううたい文句の下でやっていることが、そのとおりになっているのかどうかということについて問題があろうかと思います。
  それから、先ほどの吉本先生の資料で、30%ほど離職するという話がございましたが、あまりにも早い時期に就職というものを考えたときに、職業理解が十分できないで決めてしまうということで、若年離職の増加という問題があります。そういう意味も含めまして、まさに国家的損失になるのではないか、そのように思っております。
  こういう中で、大学側は何をしているかということでございます。我々は企業のほうに「学事日程の尊重を」というお願いをしておりますけれども、何か犬の遠ぼえのようで、大学に働く者としては情けないような思いをしておるのが率直な気持ちでございます。私はそういうことで、いっそのこと大学はこのような現実を受け入れて、現在の社会的状況、それから学生諸君の職業に対する考え方が未熟だ、訓練されていないということを先ほど申し上げましたが、そういう状況、それから、就職活動がかなり長期にわたるという状況を、変えようというよりは、むしろそれを受け入れて、それに応じた教育を大学では展開すべきではないかと私自身は考えております。
  資料の2枚目にまいりますが、具体的には就職活動を大学教育の中に組み入れるというようなこと。要するに、先ほど申し上げました社会と大学の「相互乗り入れ型接続」が、具体的な対応になるのではないかと思っております。そういう考えで、私が広島大学でいくつか対応したことを御紹介させていただきたいと思います。
  私自身、「就職は『社会』を知るための格好のモチベーションを与える」と考えております。工学部では卒業研究というのを行います。これを通して、最後の1年間で学生が大きく成長します。目の前に置かれた課題に取り組むというプロセスで、物の考え方とか、いろいろ生きた技術 ―技術までいかないかもしれませんが、経験、あるいはセンスが養われます。いわば技術のひな形に学生を曝すことによって、教育効果が上がっているのではないかと思います。そうしますと、就職という切り口も、工学系における卒業研究のような役割を果たし得るのではないかということでございます。
  具体的には、就職というものを接点として、大学が社会との相互の乗り入れをもっと行って、学生諸君が在学中に社会のひな形というか、そういうものにもっと接する機会を設ける、そういう教育があり得るのではないかということでございます。
  昨年の5月、広島大学では「学生就職センター」というのを開設いたしました。国立大学でこういうのは初めてだということで、いろいろ話題になったんですが、私としては、就職については基本的には各学部・学科単位で対応するが、どうしても困っている学生や推薦方式で就職の先生とこじれるような場合があるんですが、そういう場合に最後に相談相手となるような、いわば駆け込み寺みたいなものがやはり大学の中に必要であるという趣旨もありました。
   しかし、それ以上に学生の職業意識というか、職業教育の全学的な実施機関とするという目的もあったかと思います。そういうことで、学生就職センターの専任教官を、学内の措置でやりくりして措置したわけでございます。その先生には3年次の学生に対して、これは広島大学の教養的教育の一つになりますが、「グローバル時代の日本経済―職業選択の視点から」という授業を開設しまして、学生諸君に提供いたしました。これは就職を切り口にすることによって、教育効果を期待したということでございます。まだ十分教育効果が把握されておりませんが、今後、フォローしていきたいと思っております。
  それから、学生就職センターでは、民間から非常勤講師として就職相談員の登用や学内講師によるいくつかの講義を開設いたしております。これらも就職を切り口とした、いわば社会の電車が大学線へ乗り込むという乗り入れの具体的な形ではないかと考えております。
  それから、広島大学では評議員による企業訪問を実施いたしました。これはいわば大学電車が社会のほうに入っていくというようなことかと思います。実は広島大学では、副学長が会社を回って就職のカードを探してこいと、こういう仕事を伝統的にやっているようですが、私は「それはぜひ評議員の先生方に手分けしてやっていただきたい」と、そういうお願いをいたしました。その結果、評議員の先生方が自ら出向いて社会を知る機会ということになりました。評議員は大学の中枢メンバーですので、企業のほうもそれなりの対応をしていただきまして、社会が大学教育に求めているものはどういうものかということを直接知る機会になりました。これは大学改革の必要条件かと思いますが、最初はいろいろ言われたんですが、2年度目、昨年は「いろいろおもしろかった」という感想をおっしゃっていただける先生もございました。
  それから、大学カリキュラムの問題でございます。大学は学問をするところで、職探しが目的でないという考えは、最近はさすがに少なくなってきておりますが、依然ございます。しかし、社会との接点を意識した大学教育をやろうということで、昨年度の初めに各学部での検討を依頼いたしました。それは教育の到達目標の具体的な設定をしていただいて、そのためのプロセスを提示していただきたい。こういう宿題を与えまして、各学部から提案というか回答をいただいておるところでございます。就職は学生の最大の関心事でございます。高等学校の生徒さんたちに対する受験相談会に行きましても、こういう学科を出るとどういうところへ就職できますかと、たくさんそういう質問を受けます。それはある意味で当然のことでございます。それを学習の切り口とするという大学教育の在り方を模索する。就職、職業という現実的課題に取り組んだ教育プログラムによって、教育効果が上がることが期待されるのではないかと考えております。
  インターンシップのことにつきましては、先ほど吉本先生のほうからもお話がございましたが、我々の中国地域でも通産局のお世話でインターンシップ推進会議というのをつくりまして、実施いたしております。これは私が代表みたいなことをさせられまして、企業の方々に、大学教員によるキャンパス内での教育には限界がある、だから社会の皆様の力を貸してほしいという言い方をいたしました。しかし、企業側の協力は、そういう言い方ではいま一つということで、参加の企業は我々が期待していたような数にはなりませんでした。
  資料の4枚目にありますが、これは昨年訪問しましたカナダのブリティッュコロンビア大学での例です。縦に並んでいるのは学科でございますが、一番上のブロックを御覧になっていただければいいんですが、横が「Year 1」「Year 2」というように、5年間かかって大学のカリキュラムを終えるようになっております。丸印で囲んであるのは「work term 」ということで、4ヵ月働く。こういうのが5回あります。すなわち、20ヵ月になるんですが、休暇を埋め合わせして、1年分をサンドイッチのように挟むという感じでやっております。
  会社側は、ある意味では高級な労力としての評価をしております。就職のための品定めの機会として評価しております。と同時に、大学のほうは教育機能として理解している。両方にとってのメリットがあるということで、うまく運用されているのではないかと思います。日本の場合はまだそこまでいっていないので、なかなか難しいという問題がございます。
  ブリティッシュコロンビア大学はインターンシップと言わずに、「Co-operative Education」Co-op Education  と言っているんです。「コープ」と言うと、日本では生協のような印象を受けてしまうんですが、「共同教育」というプログラムになっていたのが印象深く残っております。
  それから、アメリカ、カナダの大学の調査で、私もいろいろ見聞きしたことがあるんですが、全体的に受けた印象は、多くの大学では学生諸君にそれぞれに応じて一定の責任を課して、それによって成長を促すような教育がされているという印象を持ちました。いろんな場面で経験したんですが、一つだけ御紹介させていただきます。
  これは日本の大学でもあるかもしれませんが、ボランティア活動で、お客さんが来たときに大学のキャンパスを案内する。私がカルガリー大学を訪問したときに、学部の学生が私のところへ来るんです。先生が「このお客さんを案内してやってください」ということで、私は彼とずうっと歩いたんですが、1時間ほどかけてキャンパスを全部案内してくれました。「君、これはおカネをもらっているのか」「いや、もらっていない」「本当か」「本当にもらっていません」と。「じゃ、なぜそんなに時間をつぶしてやるの」と聞きましたら、「いいことがいっぱいあるではないですか」と言うわけです。私も一応副学長という肩書を背負って訪問しましたが、「あなたのような方と私はこういう機会がなければ接する機会がありません。そういうチャンスになります。それから、限られた時間に要領よく説明するトレーニングの場になります。それから、大学でそういうことをやっていたということが、就職するときに一つのキャリアとして評価されます。そういうことで、おカネをもらわなくても十分ありがたいことです」と話していました。
  こういう具合に学生諸君を発展途上だという言い方をせずに、発展途上は発展途上に応じて一定の責任を課して訓練する。社会のひな形というんでしょうか、そういうところに曝してやる。あるいは社会のひな形を取り入れるという意味では、相互乗り入れ型の接続であるのではないかと思っておりますが、そういう教育がいろんな場面で行われておりました。そういう学生を見てきたら、日本の学生が非常に幼く見えて、寂しい思いをしたんですが、日本でもそういう格好でやっていかなければいけないのではないかと思いました。
  それから、先ほどもちょっと触れましたが、もう一つ私自身が考えていることは、国際的環境での高等教育をどうするかということが、これから考えていかなければいけない問題ではないかと思っております。工学分野ではいわゆるグローバルスタンダードというのが今にも動き出しそうな状態に、準備が整っております。それから、専門的な分野では、既に人材マーケットも国際的なマーケットになっております。そういう中で、日本の枠内で相対的に企業と大学が就職のことをめぐってやっている。それはいいんですけれども、その外の枠では全然違う価値観で動いている。そういう中で、我々はこのままでいいのかという思いをいたしているところでございます。
  私の個人的経験からのつたない話になりましたけれども、就職協定は、そういうことでどうこうと言っても始まらないことで、むしろ居直って、学生諸君にとって重要な切り口である就職ないしは就職活動を、できるところから手始めに大学教育の中に組み入れていくことが、今日、重要なことなのではないか。在学中に、ある意味では学生の未完成の段階から、完成させて社会に出すというのではなくて、在学中の未完成の段階からそれなりの責任を持つ環境や社会的環境に曝すというか、触れさせる教育を、大学のキャンパス内でやっていく必要があるのではなかろうかと思っております。

○木村座長    どうもありがとうございました。
 だいぶ時間も押しておりますが、御質問等ございましたらよろしくお願いいたします。
○  おもしろい試みをやっていらっしゃると思います。質問が一つありますが、相互乗り入れ方式も重要でしょうし、それから先生がお書きの大学カリキュラムの見直しも、両方大事なのではないかと思います。大学カリキュラムの見直しに関して、以前どこかの新聞に大学生のダブルスクール化の話が出ておりまして、そのときの解説は、大学教育が必ずしも社会の需要にこたえていないので、先ほどの言葉をかりれば、学生個人が個人としての接続を自分で図っていて、対応をとっている姿なのではないかと書いてありました。
  お伺いしたいのは、大学としてそれをどう評価すべきなのか。大学は大学本来の果たすべき仕事があって、それをやっているから、学生が各種学校に通ってダブルスクールをやるというのは、それは自由にやったらいいとお考えなのか、あるいは大学がそういうことに対応するように、例えば各種学校の単位を大学の単位に勘定するとか、あるいは大学が自らの中にそういう講座を設けるというふうに考えるのか。先ほど日本経営者団体連盟の方から、いろんな資格を企業が要求しているというか、学生がそういうことを考えているというお話もありましたので、御意見をお伺いいたしたいと思います。

○茂里意見発表者    社会の需要に大学がこたえていないので、その結果、学生諸君が専門学校等へ行って、結果的にはダブルスクールになっていると、こういうぐあいに一般には理解されるかと思います。しかし、私自身としては、本学の大学カリキュラムの見直しというところで、教育到達目標の具体的な設定ということを申し上げたんですが、例えば私の大学では司法試験を通ることを目的にします、私のところではそういうのはやめて、何か固有のものを到達レベルにしますという宣言を社会的にはっきりしておいて、それに基づいて、学生諸君が「うちにはそれがないからダブルスクールに行く」ということになっても、これはある意味ではやむを得ないのではないか、むしろあってもいいのではないかと思っています。
  問題は、大学がそういう設定目標をしないで、何とはなしに過去の延長上、大学というのはそれこそ学問をするところだというので漠然と ―「うちは学問をするところだ。専門学校的なものはしません」と宣言するならいいんですが、しないままズルズルといっているところに問題があるので、私は、「A」という大学は限りなく専門的なものも取り入れますという大学があっていいと思いますし、「B」という大学はそういうものは一切しません、学問をやりますというところがあってもいいのではないか、そのように思っています。

○木村座長    ほかにございませんでしょうか。よろしゅうございますか。
 先生、UBCのサンドイッチプログラムは、始めてからどのぐらいになるんですか。

○茂里意見発表者    発足してからですか。

○木村座長    ええ。発足してから。

○茂里意見発表者    私もそこはいつか聞いていませんが、非常に活発で、カナダが非常に熱心で、ウォータールー大学とUBCがそのトップランナーであると言っていました。ウォータールー大学が一番最初だと言っていました。私がお話を伺った限りで推察するに、ここ四、五年の話ではないでしょうか。

○木村座長    英国のロンドンにシティユニバーシティーというのがありまして、これがサンドイッチプログラムで有名だったんです。ところが、サンドイッチプログラムが機能しなくなってしまった。つまり、1年間企業に行って帰ってくると、学校の勉学環境になかなかなじまないということで、結局、シティユニバーシティーはサンドウイッチプログラムをやめてしまったんです。二、三年前にアメリカ、カナダの企業の役員・会長クラスと議論をしたことがありますが、やはりその辺は非常に問題があるということでした。1年間は長過ぎる、3ヵ月ぐらいなら何とかなるのではないかということでやっているようです。しかし、それに対する反省もまた出てきていると聞きました。
 確かに一つの試みとしてはよろしいと思うのですが、過去の経緯をよく調べておかないといけないと思います。サンドイッチプログラムはある意味では危険な部分が含まれているという指摘が、アメリカやカナダからもありました。

○茂里意見発表者    UBCで世話しておられるオフィスへ行ったり、担当の我々の仕事仲間の工学部の先生方にいろいろ聞き取りみたいなことをしたんですが、彼らが言う限りにおいては、帰ってくると、現実の問題に対しての認識も深まって一所懸命やる。ただ、先生が大変だという話をしていました。同じような科目を2回、3回繰り返さなければいけないので、先生方の負担は大変だと。だけども、聞き取りした先生のお話が本当だとすれば、むしろ工学系でどういうコオペレーティブ・エデュケーションを提供しているかによって、工学系の人気というか、学生を引きつけるのが違ってくるんだというお話まで、私が聞いたときはしておられました。

○  興味深いお話をありがとうございました。先生の資料の1枚目に、「就職前線での問題点」として、早期化・長期化の問題を指摘しておられます。私、前にアメリカの大学関係者に、「アメリカの学部教育というのは大多数の学生にとって結局何でしょうか」と聞きましたら、即座に「ジョブ・サーチの期間だ」と答えられて納得したおぼえがあります。
 日本の場合、就職協定が復活することは、恐らくないのだろうと思いますが、としますと、早期化・長期化の問題は、4年次から3年次に踏み込み、そして4年間全部に広がる危険もあります。そのあたりの早期化・長期化の問題に対して、大学はどういう対応をしていくべきなのか。例えば広島大学の場合にこの問題に関してはどのようにお考えになるのか、そのあたりをお伺いしたいと思います。

○茂里意見発表者    私はそれに対して対応しなければいかんと申し上げましたが、広島大学としてはまだ特段具体的なアクションを起こすような段階にはなっておりません。私がこういう認識に至ったのは、とにかくそういう考え方しかないのではないか。要するに居直るという意味です。早期化・長期化しているのを前提とした教育プログラムを組まないことにはいけないのではないかということです。
  私の頭の中にあるのは、先ほどのカナダのUBCは違いますが、例えば丸になっているところですね。「4ヵ月×5」というようなところを、就職活動の期間として設定して、そのアクティビティーを通して、それを踏まえて次の8ヵ月か4ヵ月かで教育をし直すというか、それを踏まえた教育にしていくというようなことです。今、学校から抜けてマイナスだけだというイメージで大学側はとっていますが、そうではなくて、この現実をしっかり受けとめて、それならば逆にプログラムの中に入れて、その経験をもとにいろいろレポートを書いたり、あるいは就職活動を通して社会をどう見るかというので論文を書かせるとか、あるいはそれを踏まえて経済の授業をやるとかですね。これだけ大学の中に組み込まれているものを、全然正規のものと関係ないまま見過ごしていることに問題があるのではないかということで、これから具体的なものにするにはまだ時間がかかると思いますし、広島大学でもまだ具体的なアクションはとられてはおりません。

○木村座長    ありがとうございました。よろしゅうございますか。
  まだ御質問なさりたい委員、専門委員の方もいらっしゃると思いますが、これで終わらせていただきます。どうも茂里先生、ありがとうございました。

○木村座長    次回は5月31日13時からロイヤルスタールーム34階でございます。
  本日はどうもありがとうございました。


※1、※2、※3  この資料については、文部省大臣官房総務課広報室にて閲覧できます。

(大臣官房政策課)

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