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中央教育審議会

1999/3 議事録   
少子化と教育に関する小委員会(第3回)議事録

  議  事  録 

平成11年  2月  5日(金)13:00〜15:00
霞が関東京會舘  35階  ゴールドスタールーム

 1.開    会
 2.議    題
      少子化と教育について
 3.閉    会

出  席  者

委員
    小林座長代理、森(隆)委員

専門委員
    安藤専門委員、鈴木(り)専門委員、楢府専門委員、広岡専門委員、牧野専門委員、森(正)専門委員、山口専門委員、山谷専門委員、山脇専門委員

事務局
    富岡生涯学習局長、御手洗初等中等教育局長、小松幼稚園課長、本間総務審議官、寺脇政策課長、その他関係官

意見発表者
  河  野  真理子  氏((株)キャリアネットワーク常務取締役)
  山  口     満      氏(筑波大学教授)


○河合座長  それでは、時間がまいりましたので、ただいまから中央教育審議会の「少子化と教育に関する小委員会」、第3回会議を開催いたします。
  皆様方におかれましては、御多忙の中御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
  本日は、「少子化に対応した教育関連施策について」御審議をいただくこととしまして、これに関連して、株式会社キャリアネットワークの河野真理子常務取締役、それから筑波大学の山口満教授から御発表をいただきたいと考えております。
  その前に、今回の配付資料の確認を事務局からお願いいたします。
<事務局から説明>

○河合座長  それでは、ヒアリングに入らせていただきます。ヒアリングに際しては、発表者からあらかじめ御提出いただいた資料(※1)をお配りしてあります。皆さんお持ちだと思います。
  初めに、河野真理子さんを御紹介いたします。河野さんは、現在、キャリアネットワークの常務取締役であり、ライフプランについてコンサルティングをなさっていらっしゃいます。また、少子化への対応を考える有識者会議の委員もお務めになられています。本日は、「出産・子育てを含めた女性のライフプランについて」、短くて申しわけありませんが、20分ほど御発表いただきまして、その後、10分程度質疑応答を行いたいと思います。

○河野意見発表者  御紹介いただきました河野でございます。専門の皆様の前で御意見を申し上げる機会をいただき光栄に思っております。きょうはどうぞよろしくお願いいたします。
  実は私の仕事は、今御紹介いただいたとおり、基本的には企業に向けての雇用マネジメント、人事、人材政策に関するものですが、昨今、その中で人事の課題を見ていきますに当たりまして、どうしても個を重視するという傾向は否めない状況です。きょうは少子化というテーマなので、切り口を女性のライフ&キャリアプランということで、そこの接点の中からお話をしていきたいと思いますが、女性たちを見ていきますと、15年前に持っておりました大きな課題というのは上司との感情的なもつれでやめる、10年ぐらい前になりますと、自分の評価に対して、自分の与えられる業務に対して不満があってやめるということだったんですが、この7年ほど前、バブル前後の男女雇用機会均等法ができた後あたりからですが、女性が自分との戦いでやめざるを得ない状況になっているということが、多々耳に入るようになりました。
  どういうことかというと、仕事はおもしろいし、逆にこんなもんだとわかったんだけれども、夫の転勤、自分の結婚または出産、そういう自分との戦いでやめざるを得ない状況になってきているということがわかりまして、実は私どもは研修が中心の会社でございまして、売上のほとんどが研修、人事政策、コンサルタントなもんですから、10年ほど前から、きょうお配りしたのもそのうちの一つですが、ライフ&キャリアデザインの中の一環として、女性向けのものを開発しました。というのも、中堅女子や管理職の女性の育成というマネジメントをやりましても、能力は高くてできるんですが、やはりやめる理由は別にある。要するに、ライフプランとキャリアプランの兼ね合いでやむなくという形の方が多いわけです。
  そんなことで、きょうは、私の仕事の中でかいま見る女性たちの動きと、そんな女性たちがどのような御支援をいただけると続けられるのか、子どもも持てるのかということについて、プライベートも含めましてお時間をいただければと思います。
  実は私も、年齢はばれているのかもしれないですけれども、仕事では言わないんですが、6歳と1歳半の息子が二人おります。少子化社会の中で生きていく一番つらい立場かもしれないんですが、私はパイオニア・グループの社員でございまして、入ってからグループの中を動いておりますが、この会社は10年前に私がつくった会社でして、そこに出向という形で、私は役員ですので育児休職のようなものを2度取って、普通に続けているという状況で、自分の体験も含めてお話しできればと思っております。
  今、女性の悩みをずうっと申し上げてきたんですが、総じて言うと25〜35歳の女性たちにターゲットを絞ると、やはりライフプランとキャリアプランの兼ね合いが一番の課題として挙がってきて、それは本人たち自身の問題なんですね。上司たちの意見を聞きましても、能力が高いのはわかった、男よりできる人も多いということも伺うんですが、いかんせん先が読めずにマネジメントできない。育成プランが立てられない。どうもその辺が今大きな課題のような気がします。
  うちもセミナーは個人向けにもやっていますので、アンケートを取ったりするとおもしろくて、「仕事に没頭して、ふと気がつくとシングル」、30代でシングルです。それから、「結婚したはいいけれど、子どもを持つ余裕がなく、DINKS(ダブル・インカム・ノー・キッズ)」「妊娠・出産を機にやむなく退職」という専業主婦もおりまして、これは希望専業主婦ではありません。それから、育児休職を取ると言った途端に、これは言っていいかどうかわかりませんが、リストラにあおられるとか、また逆にリストラにあおられながらも頑張っているDEWKS(ダブル・エンプロイド・ウイズ・キッズ)ですね。こういういろんなライフコースの人たちが、今、25〜35歳の中で悶々と社会に接点を持っている状況です。
  その裏には結婚観が大きく変わったというのもあると思いますが、今、非常に豊かになっている生活を捨ててまで結婚したくないというのは、皆様も耳にたこができるぐらい聞いていらっしゃると思います。
  もう一つは、やりがいのある仕事を捨ててまで子どもを産みたくないという現実がありまして、そんなことを言っているうちに30代になると、女性は評価の目で男性を見ます。そうすると、晩婚化がシングル増加型に変わってきまして、シングルのまま40までいくと、「子どもを産まないんだったら結婚しなくてもいいかな」という形になってきて、非常にシングルが多いんです。
  私は「決断シングル」という言葉をつくっているんですが、インタビューしてみますと、最初から「決断シングル」ではないんです。最初は、昔のように大きな夢はないんですけれども、「まあ、私だって結婚は、そこそこの人がいたら」というのは、皆さん心からそう思っていて、あまり焦らず豊かな生活の中できてしまうと、ふと気がつくと30代になっているという感じですね。下手すると40代になっているという形で、シングルのing型で、結果的に今、「シングルである状況」の人が世の中に多くて、シングル増加型になっているのではないかと思います。
  上から見る立場でいうと、あまりにも短期ビジョンでしかライフプランを見ていない。キャリアプランも短期ビジョンである。目先の損得とか、今の心地よさ、快適さからなかなか抜けられないというのが、25〜35ぐらいの女性たちに多いのではないかと思います。
  実は結婚観の裏には、やはり職業観と人生観が大きくありまして、どれがどうのと言えないような絡みがあるんですけれども、女性たちも情報がいろいろありますから、83歳まで生きるうちで、平均的にいうとお子さんが小学校に入るのが三十三、四、しかも一人しか産まないわけですから、「残りの50年、私の生きがい何なのよ」ということになると、やはり働きがいを生きがいのうちの一つに求め始めまして、単に生活のためではなくて、生涯の生きがいとしての働きがいというのも求めるようになります。
  女性たちは、「結婚か仕事か」ということでいいますと、「結婚も仕事も」ということであり、今、DINKSでやめるという人は少なくはなったんです。ですけれども、次の課題が「仕事も育児も」なんです。これはまだ課題でありまして、御存じのとおり、今は結局は「仕事か育児か」になっているので、やめざるを得ない、あるいはそのまま独身、またはDEWKSのまま仕事に突っ走っている女性たちということです。どうしても二者択一にならざるを得ないのではないかと思います。
  そのように両立の意識は高まっている。私は、少子化少子化で、子どもがかわいくないとか、いろんなことをいろんなところで聞くんですが、私が接している分野でお話をすると、決してそういう意識や心は少ないように思うんですが、いかんせん現実は無理です。私もここに「リストラ時代」というあまりきれいではない言葉を書きましたが、基本的に会社として引き受けているのはリストラクチャリングの人事政策とか、具体的にアウトプレースメントという仕事をやっている現場です。その中でいくと、うちの会社としてふさわしくない表現かもしれないんですが、「育児休職者はリストラの対象」というのが、企業の暗黙の了解になっています。そう言うと、「ひどいな」と思いますよね。思うんですけれども、その隣には子どもを3人抱えて、専業主婦を抱えて、年収600万、700万で頑張っているお父さん族がいる。これから休んで、復帰してからも早く帰っちゃうお母さんとどっちを採るのという雇用環境の中で、「うーん」というのが企業なんですね。
  そういう中で見ていくと、やはり女性たちは大変で、育休を取得するとリストラの対象に遭うのではないかというのは切実な思いなんですが、「じゃあやめて再就職すればいいじゃないの」ということになるんです。再就職の現場は、御存じだと思いますが、具体的に今、ワープロと表計算ソフトができて、ちょっと英語ができて、電話がとれれば、時給800円で仕事が取れるという状況です。そうすると、今まで年収500万でいた女性たちが、1回やめて再就職して、しかもOAもそんなにできなくて、800円でこき使われる。「だったらどうしよう」と悩んでいるのが現状です。じゃどうしたらいいかというのは、まだまだ景気低迷で  ―景気低迷でなくても、日本の雇用環境のあまり流動型ではない、雇用形態多様型ではなかった今までの労働市場では難しかったのではないかなと思います。
  ただ、仕事面ばかりではなくて、両立できない理由はほかにもあると思います。例えば仕事があったとしても、家庭内で育児や家事や炊事を全部自分で抱えるのかなというような不安と、育児一つとりましても、核家族化の中で、育児について聞ける人がいないという漠然たる不安ですね。何が不安というのがない不安なんです。
  それから、一番大きいのは預け先でして、保育園が基本的には働くお母様たちの預け先に今まではなっていたんです。私も去年12月でしたけれども、経企庁の委員をさせていただいているので、そちらの発表の中で、保育園を何倍かにすると労働力がどうのという文章を発表した一委員でもあるんですが、現実問題で考えて、保育園の土地とか、先生の育成とか、それから今産みたい30歳の人たちが40歳になったら遅いわけでね。さあということを考えると、ほかの保育サービスも考えるべきではないかと私は思っておりまして、きょうはそのあたりも後でお話ししたいと思います。
  それから、一番大きいのは全体の意識だと思います。お母さんが働くということに対しての意識、夫、両親、そして一番大きいのは会社での職場の上司や同僚だと思いますが、そのあたりの意識が国が思っていることと逆行しているというのが大きいと思います。
  そんなことで、続けるのが難しい現状の中で、女性たちは20代、30代のライフプランというのを  ―ライフプラン中にはキャリアプランが入るんですが、一応、私は「ライフプランとキャリアプランの相互の両立」という言葉を使うんですが、そのコースをどうしたらいいのかということで非常に考え込んでいるわけです。
  実は、ライフプランコースは男性向けにももちろんありますし、男女で出てくるDEWKSプランコースなどというのもあるんですが、たくさんあってもわかりづらいので、その中で、きょうは3枚、女性向けのものをお持ちしました。これはニーズから発生したもので、組合様への売上がうちは6割ぐらい占めておりまして、あとは人事、あるいは公開コースの個人という形が多いんですけれども、非常に優秀で、ファミリーも持ちたい、子どもも欲しい、そして仕事も継続してやりたいという前向きな女性たちがたくさん出てきています。
  資料の2枚目なんですが、これが総論の部分で、「これからどうするの?」というコース設計で、具体的にじゃ産もうと決めますと、「23.『21世紀に向けたワーキングウーマンのライフ&キャリアデザイン−3−』」番になっているんですが、「目指せワーキングマザー!!」というコースを出ていただくんです。本当はこんなものがなくて、自然に先輩がいるのが一番いいと思いますけれども、実は情報が全くございませんで、とても心配で、私どものコースを出られた方は、各一部上場企業の1号、2号、3号と言われる育児休職取得者です。
  じゃ何が不安なのかというと、「今後の仕事をどうするの?」だけではなくて、「子どもをいつ産んだらいいの?」「何人産めるのかしら?」「ファミリープランは?」という部分。もっと先を言うと、「だったら住むところはどうするの?」「夫の仕事は?」「夫のキャリアプランは?」「転勤はどうなるの?」「海外駐在のとき、子どもの教育をどうするの?」ということと、これからは介護の問題もありますから、それは全部トータルして考えるべき問題だし、逆に言えば考えさせる場がもっともっと教育の場であってもいいのではないかと思います。
  実は私たちは社会人になってからこの課題を与えているわけですが、ここで急に考えても遅いという方が多くて、大学の講義にお呼びいただいてお話しするときも、「早くから学校選びのときに知りたかった」という方が多いので、何かそのあたりも教育全体の中で入れていただけるとありがたいなと私見としては思っております。
  私は、「3世代共有型ファミリープラン」という言葉を使っているんですが、幾ら核家族でも、幾ら独身で一人でも、こういう人口構造の中で、逆に言うと核家族化されているからこそ、いきなり親が倒れると、例えば九州に行かなければとか、転職しなければということにもなるので、これからは3世代共有で一緒に住むということではないんですが、みんながかかわっていく人たちを考えていく時代の中での本人のキャリアプランではないかと思います。
  その中で、仕事も育児も実現させたいという女性たちがとても多いというのは確かです。話は変わりますが、「育児ノイローゼ」という言葉を働く母親に対して書かれたりするライターの方がいらっしゃるんですけれども、私の接している企業のお客様というか、ワーキングマザーの方の中には、「子どもがかわいいと思えない」とか、「子育てが嫌だ」という方は皆無です。全くいません。本人たちが「私、育児ノイローゼなんです」と言う中身は何かというと、時間との戦いです。ですので、これは雇用慣行の問題と、そして企業、労働省さんにいつも言っていることですが、働き方ですよね。裁量労働制とはどうするのかという各論の部分での評価の仕方とか、そういうこともうまくやれば両立する手はあるのではないか。気持ちは皆さん、子どもも持ちたいと思っている人が働く人の中には多いのではないかと思います。ただ、残念ながら、「子どもを見たことがない」とか、「妊娠した方を見たことがない」という方も大変多くて、もっともっとそういうようなことを考える機会、触れる機会も必要ではないかと思います。
  両立のための課題を考える場として、今、企業のこと、本人のことをお話ししてきたんですが、それ以外に家庭という場、あと地域ですね。具体的にこれから企業に何を求めるかというのは、一つは親として子に接せられるうまい時間のつくり出し方だと思いますけれども、それ以上、企業は子育てについて直接できないわけです。そうすると、サポートとして何ができるかというのは、地域または行政のサポートになってくると思うんです。または広範囲でいう預け先、保育園あるいは幼稚園ですね。それから、今の預け先というのは小学校までのことを仮定したんですが、その後、学校に行ってからの学校の運営の仕方ということで、一番大きいのは本人の今後の生き方だとは思うんですけれども、そういうことをトータルして、はしょって申しわけないんですが、残りの時間で、各分野でどんなことがあるとありがたいのか。これは私のお客様である女性たちの声、それから男性たちの声も少し聞いておりますので、お話ししたいと思います。
  まず、どの分野でも言えることが二つありまして、一つはとにかく意識改革だと思います。これは親も、本人も、教育者も、企業の経営者も全部そうなんですけれども、人口構造の変革と子育てということが  ―私は「21世紀の人材育成」と言うんですが  ―人材育成として大変重要だという意識を持ってもらう意識改革が一番だと思います。具体的には、教育、研修、体験を通しての意識改革や啓発活動であろうと思います。また、直接お子様を育てる方に関しては、人材育成ということが非常に大きいと思います。
  もう一つは、それぞれのステージで言えることは、サービス体制の見直し、サポート体制の見直し、両立支援のためのシステムの見直しという、これは手段の部分だと思います。この二つを各分野の中で広げていったらいいのではないかと思います。
  まず意識の改革のほうで、大きく二つのテーマを書きました。先ほど女性が抱えている課題ということで、ライフプラン、キャリアプランを出しましたので、逆に言うと長期ビジョンで、これからの人生設計を考えさせるような場を少しでも多く与えてほしい。例えば研修でなくてもいいと思いますが、前に見せていただいた中央教育審議会の答申の中にもありましたけれども、小学校、中学校あたりで、遠足もいいんですけれども、親の職場に行く時間を与える。私は個人的に自分の息子を会社を休んで夫の会社に連れていったり、自分の職場に連れてきたりしているんです。会社の中に吸い込まれていってしまって、毎日遅いという父親を見るのと、「ああ、こうやって頑張っているから遅いんだな」というのでは、父親に対する見方も違いますし、もちろん母親も違うと思いますし、そういうような経験としての考える場ですよね。
  と同時に、何かのきっかけで中学校、高等学校と進む中で、どういう言葉を使っていいかわかりませんけれども、生涯学習の一環としての生涯設計のようなコースとか、あとは就職のとき、それから結婚のとき、または出産を考える年齢のとき、いろいろなところで人生設計をもう一度考えるような機会をいただけるとありがたいと思います。
  今、NHKで著名人が母校を訪ねる番組がありますけれども、人生設計の中で出産というのは女性にとって大切ですが、それとリンケージさせるものとして職業が出てくるので、男性にとっての職業はもちろんかもしれませんが、女性にとっても職業をどうするのか。考えた結果、私は専業主婦を選ぶというのはそれでいいと思うし、すばらしいと思うんですが、よくわからないままに何となくいってしまう方が多いので、いろんな経験や研修等を含めて、それぞれの機会に与えていただくと、学校選び等も変わり、相手選びも変わり、いろいろ考える機会が出てくるのではないかと思います。
  それから、意識ということではもう一つ、企業の経営者です。私どもも企業で研修をいろいろやっていまして、私の仕事は実は経営層に対する講演が一番多いんです。その中で、企業の経営という中での人材の問題に必ず触れるんですけれども、会社にとっての人材だけではなくて、もうちょっと長期ビジョンで、その雇用者たちのお子さんが次世代を担うというか、経済としても子どもを見るというか、親を見るというか、そういう見方もどこかでお教えできればと思います。今、企業は経営が非常に厳しいので、なるべく人件費削減ということで利益を出そうと動きがちですが、もう少し長期ビジョンで見た経営者の考え方というのが、日経連の方々もかなり動いてくださっているんですけれども、すごく重要ではないか。ただ、経営者になってからやってもだめなので、やはり小さいときから、考え方の価値観を少しずつ自分でつくっていくような場を設定していただきたいと思います。
  最後のところに、国全体で考えるなんて大きいことを言ってしまっているんですが、少しずつ分けて考えていきたいと思います。預け先ということで区切りまして、まず保育園の問題ですが、働いている母親にとって一番つらいのが、復帰のときの仕事の心配と子どもの預け先だと思います。保育園は、いろいろ問題があるんですが、基本的には必要なところに今ないということでございまして、すぐに解決できるものではないと思います。
  もう一つのポイントとして、正社員すら保育園に入れない状況であるわけでして、ここでパートで再就職したいなどという人は絶対に無理なんです。ですので、再就職してくださいという国の意向とは別に、どこでも預かってくれないという現状もあります。その中で、実はうちの息子は幼稚園育ちで、先生方に大変お世話になっているんですけれども、下の子も2歳からなのでたぶん幼稚園になると思います。今あるものの有効利用もぜひ期待したいところだと思います。
  例えば、幼稚園ですと、今、うちの息子が行っているところは、2歳児から保育をしてくれて、基本的には3年保育で3歳からですが、2歳から見てくれるんです。もちろん保育園とは違いますけれども、こういう幼稚園が増えるととてもありがたいのではないか。特にパートで最初に出て、正社員になろうなどという人にとっては、とてもありがたいのではないかと思います。それが少しずつ広がると乳児保育。それは先生方のこともありますので、ちょっと難しいかなと……。私は、先生でなくても、パートの方でもいいわけで、もっと欧米のようにフランクにやってくれる方がやってくださる場を提供するのが幼稚園ということでも、極論するといいのではないかと思います。
  それから、幼稚園で、最近、早朝と延長がすごく増えたんです。延長の中には幾つかあると思いますけれども、何かお教室のようなものをやってくださって、実はこれ、「ビジネスをしている」と言う人と言わない人といると思いますが、お母様方の声を聞くと大歓迎でして、「どうせうちへ帰ってきてまた連れて行くんだったら、お友達と一緒にピアノをやらせて連弾をさせたい」とか、「みんなで一緒に英語の先生と遊んだら楽しいだろうね」ということがあります。それがいいかどうかはまた皆様のほうが専門でいらっしゃるので、御検討いただきたいと思いますが、今、「リトミック」とか、「英語で遊ぼう」とか、いろんなクラスがあって、4時ぐらいまで遊んで戻ってくるという方が多いようで、これは小さいお子さんを抱えた専業主婦の方も大変喜んでいるんです。
  喜んでいることのもう一つとして、“三種の神器”として「園バス・給食・延長保育」と言われているもののトップの「園バス」ですが、この「園バス」も保育園にはないのですごくありがたくて、下のお子さんが小さい方、妊娠中の方、自分がぐあいが悪い、病弱の親を抱えているという方々には、とてもありがたがられています。これはぜひもっともっと普及していただきたいというか、助成でもしていただけるとありがたいと思います。ちなみに、うちの子どもも「園バス」でございまして、うちは核家族で4人家族で、一人で行けるわけがありませんので、近居しているというか、近居せざるを得なかった祖父母がバスまで送ってくれて、先生に連れられて園に行くというふうになっているんです。幼稚園に行くまでの過程で、お友達とバスの中で遊んだりお話ししたりして、とても楽しみにしていまして、とてもいいことだなと思っております。
  それから、今、幼稚園の先生に関して  ―保育園の先生もそうだと思いますが  ―こういう少子化になると、とても重要な方々だと思っています。幼児教育の先生方がいかに重要なポジションにあるかというのを、もっともっとみんなで認識するべきだし、特に集団教育でありながら個を見て育てていただいているというか、これから育てなければならないような状況になってくると思うので、共働き世代、核家族世代の中での幼児を扱ってくださる先生たちを、もっと高い目で見ながら、逆に人材の育成をして、社会的に非常に重要なポジションでいらっしゃるのだということを、もっともっと育成の中で強く言っていただければありがたいと思います。
  私の息子が行っている幼稚園は、園長先生の方針と、それから結局は一人一人の先生ですが、一人一人の先生の熱心さを肌で感じていまして、本当に入れてよかったと思っている幼稚園なんです。これからはたぶんそのようなサービスを期待される方も多いと思うので、ぜひそのあたりも検討いただけるとありがたいと思います。
  それから、幼稚園、小学校に関して言ってきてと言われたことが二、三ありまして、共働き家族を標準にして物を考えてくれないだろうかと。無理もあるんですけれども。でも、これからはそうなってほしいなと私も思います。例えば年間行事の在り方について、「予定を年間で出してくれれば有給休暇が取れるのに」とか、それから「日にちも1日でなくて、2日間チョイスにして」とか、「たまには土曜日に何か入れて」とか、そのような声が多いです。実はきょう2月5日ですが、うちの息子がことし小学校なんですが、きょうの2時から小学校の入学説明会なんです。当然行かれないわけです。きょうはもちろんここに来てなくても私は行かれなかったんですが、実はお母様たちに聞くと、「早くからわかっていれば有給休暇が取れたのに」とか、または「2日間、どうして選択がないの」と。御存じだと思いますが、通知葉書きには日程は1日のみしか書いてなくて、行かれなかった場合にどういうサービスが受けられるかということは何も書いていないんです。ですので、共働き世帯を基本にして、来れない場合はこうしてねということで、すべてにケアしていただけると大変ありがたいと思います。
  それから、お話ししたいことはいっぱいあるんですが、時間もあまりないので、最後に行政の部分で一、二分お時間をいただいて終わりにしたいと思います。私は行政のサポートの中で、もっともっと高齢者の雇用創出の部分で、お子様を見てくださるようなNPO活動のサポートのようなものをしていただけないかと思っています。具体的に言うと、今、リタイアされた方またはリストラされた方も含めて仕事がありません。と言いながら、お子さんを見てくれる方がいないという、そのあたりについて、私のアイデアではリタイアされた男性と子育てのプロである60代、50代のおばあちゃまになるちょっと前の方々がペアで、うまく子育て支援をしてくれないだろうか。幼稚園の前後でもいいんですがね。
  今、保育園に入れない方は、ほとんど祖父母が見ていまして、また「これから見て」と言われている祖父母は、「子育てを何十年もしてないし……」ということで心配なので、母親教室、父親教室はもちろんですが、「これからお孫さんを見るかもしれないあなたに」という感じで、できれば祖父母教室のようなものをやっていただけると、皆さん集まってくるのではないかと思います。
  それから、子育て終了後の再就職希望の主婦も多いんですが、実際、今、企業の中に入ってOAをいじるのは非常に難しいんです。何も企業だけが雇用の場ではないので、企業で雇用されている人をサポートするビジネスのような形で、サポートしていただける職をうまくつくっていただけると、幼稚園の先生だけではなく、幼稚園の場を借りたサービスが何かできるのではないかと思います。
  最後に、私たちのように子育てもしたいし、仕事もしたいという方々に対して、アドバイザーが少ないです。子育てに関してはいらっしゃるんですが、両立支援のアドバイザーとなると、いるけれども、電話をして出向かなければいない。そうではなくて、産んだとき、小学校に入るというようなときに、出向いてきてくれる、または葉書で「困っていることはありませんか」というふうに送ってきてくれる。そうすると、初めてこちらも応答できますので、そういうような形で「私たちのファミリーを見てくれているんだ」という方を、何々アドバイザーのような形で行政で持っていてくださるとありがたいと思います。たぶん今ある体制の中で少し増やせばいいかと思うんですが、今いる人ができるかどうかは別だと思います。
  私がやっている事業の中で、昨年、キャリア相談事業というのをつくりまして、ライフプランとキャリアプランの兼ね合いに関して御相談を受ける事業を始めたところ、子どもの教育の相談などというのがほとんどうちにくるようになりまして、これからのお母様たちは、子どもの教育と自分の仕事の両立で悩むのではないかと思っています。
  時間が過ぎてしまいましたので、非常に雑ぱくではありますが、このあたりにさせていただき、あとはもし御質問があれば受けさせていただきたいと思います。本当に雑ぱくで、失礼な言い回しもあったかと思いますが、どうぞお許しいただきたいと思います。

○河合座長  どうもありがとうございました。
  文部大臣が来られましたので、ここで大臣に御挨拶をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○有馬文部大臣  皆さんこんにちは。お忙しいのにありがとうございます。中央教育審議会の一つの小委員会といたしまして皆様方にお集まりいただき、「少子化と教育に関する小委員会」というのをつくっていただいたわけでありますが、本当にお忙しいところをありがとうございます。
  日本の一番大きな問題、もちろん経済問題とかいろんな問題がありますけれども、21世紀をにらんだときに私が一番心配していることの一つ、一番大きな問題だと思っていることは、まさに少子化にどう対応していくかということでございます。もちろん高齢の方たちが増える、私自身ももう高齢になりかかるわけですが、これも大問題なんですよ。だけれども、一番重要なのは、金の卵という少子化の時代の子どもたちをどう育てていくかということでありまして、この小委員会を開かせていただいたのも、そういうわけであります。
  今も私にとりましても大変参考になるようなお話を河野先生からいただきましたけれども、こういうことでヒアリングを通じたり、また皆様方御自身の御体験なども様々踏まえまして、どうぞいいアイデアをお出しいただき、できることから実行させていただきたいと思っております。
  河合座長は大変ユーモラスな方でありますので、おまとめになるときにもあまり深刻でないような答案を出してくださるとは思っていますけれども、ひとつよろしくお願いをいたします。

○河合座長  どうも先生ありがとうございました。
  それでは、続けます。今の河野さんの御発表に対しまして御質問をどうぞ御自由にお願いします。どなたかございませんか。

○  ありがとうございました。今の中で幾つかお話したいことがあるんですが、昨年の12月14日に告示されました幼稚園の新しい教育要領の中に、お話しになった預かり保育といいましょうか、保育時間は基本的には4時間なんですけれども、そのようなプログラムの中で運用できるというようなことが、中央教育審議会の答申とかいろいろなことを受けてすでに入れられたということだと思います。一つはそういう形に動いているということです。
  2番目に、御指摘いただきましたけれども、私自身も幼稚園の教師の養成に携わっている者といたしまして、幼児期の子どもたちを育てる先生方の重要さということをもっともっと社会に認識していただきたいと思っております。
  3番目に、これは岡山に実際にあるんですが、子育てが終わった中年の女性のボランティアグループで「愛育委員会」というのがあるんです。子育て真っ最中のお母さん方の組織として「親子クラブ」というのがあります。例えば親子クラブの研修会では、愛育委員さんがボランティアで保育をしてくださるという形でサポートをしているのです。だから、世代間の支え合いの組織としてサポートをうまくしていく。それをうまくオルガナイズしていくのが行政であると思います。
  私は、オーストラリアのキャンベラに行きましたときに、向こうでも「プレーグループ」というものがあって、それは子育て真っ最中のお母さん方のグループです。お母さんとお母さんが支え合っていく。「私が買い物に行くときに、あなたが預かって」みたいな形で、お母さん同士で支えていく。それは大きなグループではなくて、3人でも5人でもいいのです。同じ団地の中でグループをつくってもいい。そこへ遊び方とか、遊具のこととか、グループの組織の仕方を教えるプレーリーダーというような方がバックアップにいらっしゃる。行政ができるのはそういう形です。だから、母と子で集まる場所としての幼稚園の役割としては、遊具などがありますから、母親たちが責任を持ってそれを使っていただくみたいな方向に、それをもっと充実させるように行政がバックアップすればよいのではないかと思います。

○河野意見発表者  ありがとうございました。勉強になりました。この分野は不勉強な点が多くて申しわけございません。今のことは全部よくわかったんですが、子育てが人材育成だということとか、2020年には一「個」なんです。私は「子」じゃなくて「個」を書いて「個育て」と言うんですが、私は社会人になった方の教育が自分の仕事ですが、やはり根っこの部分でここがとても大切なときに共働きをしていただくような世代に国が動いているんであるということは、幼稚園の先生たちも、保育園の先生も「好きだからやってるの」ということではなくて、きっともっともっと期待されていることも多いし、今の先生は本当に熱心なんですが、格差が大きいようですよね。本当に大切なお仕事だと思うので、それこそ待遇改善とか、教育研修も含めて、もっともっとお願いできればと思います。

○  いろいろありがとうございました。キャリアネットワークの会社のお仕事について、もう一度教えていただきたいんですけれども、このプランを受けられる方は、会社が用意して会社ぐるみで受けられるということですか。

○河野意見発表者  企業と組合が多いんですが、今、企業の人事がする研修で、そういうものはなかなか予算ございませんで、そのテーマに関しての売上の6割から7割は組合様です。あとは企業の人事部が集めて、個人が半額負担という形ですが、やはり35になってこれを受けても、「ちょっとこれからは……」ってなってしまうんですよ。いや、笑い事じゃなくて切実ですので、何かチャンスをと思っております。

○  両立をしていくライフプランについての研修というのは、私は今やるんだったら、まさに企業の管理職の方々と男性の研修が最も大事だと思うんです。さっきおっしゃったように、企業から見れば、子持ちの女性、中断をしてきたような女性というのは、効率の悪い労働力であって、どちらを選ぶかといえば若い男性というチョイスになると思うんです。
  さっきちょっとおっしゃった中で、キャリアを持って働く女性というのは、会社にとっての人材という視点でなくて、次の世代のためにというところで、経営者向けにどのようなプランニングを……。簡単で結構ですけれども、どういう角度から会社がファミリー・フレンドリーなというか、会社自体が子育てとか、家族にやさしくなるような方向に行くというのはとても大事だと思いますので、そこのところを教えてください。

○河野意見発表者  まず研修では、きょうはここだけということで削除したので、出てないんですが、管理職向けのほうが多いくらいにやらせていただいているんです。だからといって、別に育児ができるわけではないんですね。基本的には今後の人材をどうするかというリストラの方向に向かうんですが、私のポリシーとして長期ビジョンで見ていただくということで、中では入れています。
  企業を動かすには、やはり不利益を出しては動いてくれないので、これから利益を出す中で、この人材は有能だからキープしてほしいということを出さなければいけないと思うんです。今やっているのは、人事の人事政策の中でのキャリアコースの多様化をうまく使いまして、例えば育児中で時短であれば給与は半額でもいいと言うと、組合の皆様もいらっしゃるのでいろいろあるとは思うんですが、ワークとペイメントを同じにする。そのかわり私が提言しているのは、「敗者」という言葉は使っていません、「退者復活」。例えば課長職を一度退いた女性も、また機会があって能力があって認められれば、絶対に同じ土俵に戻ってこれる。そのような「退者復活」という企業風土をつくっていく。そうすると、企業は働いていない間は払わなくていい、けれども能力はキープでき、雇用としては流動していかないという仕組みができる。本来そっちのほうが仕事なものですから、そんな感じでお手伝いしています。

○森田政務次官  河野先生にちょっと御指導を賜りたいと思って質問をさせていただきますけれども、私はどちらかというとちょっと古いのかもしれませんが、例えば女性が結婚してから子どもが生まれたり、主婦業というのがございますね。それをしっかりやっていただいて、その上において、男性というのは一所懸命働けるのかなと。私は政治家になる前は俳優でございました。そのときにテレビの仕事、映画の仕事がきたときに、本当はそれをやらなきゃいけないのに、「いや、おれは家事が好きだから、おれはこの仕事をやらないよ。おれはうちで皿洗いをやるよ。掃除機かけるよ」では、どうかなと思うんです。やはり一家の柱としての私の仕事というのは、ちゃんと仕事をして給料をもらってくることではないか。私は結婚したときにうちの妻に言ったことがあるんですが、妻が「将来、私、働いてみたいわ」と言ったときに、私は「どうぞやってください」と。しかし、家庭というものに関してあなたがピチッとやって、余力があったら幾らでもやっていい。でも、家庭に関して手を抜いてやるというのはちょっとおかしいのではないかなと。要するに、私自身の考えとしては、主婦業というのはりっぱな仕事だと認識しております。私は古い考えの人間かもしれませんが、その辺をどのように考えるべきなのか十二分に御指導を賜りたいと思います。

○河野意見発表者  そういう方がとても多くて。奥様が同意されているのですか。

○森田政務次官  はい。

○河野意見発表者  合意の上であればいいのですが、企業の中でもそういう方が現にいっぱいいらっしゃるんです。例えば、週に1回ぐらい私はパートで外へ出るけれども、あとは家庭のことはやるから、あなた頑張ってきてねと言う人もいるので、きょうは時間がなくて、2日ぐらい話したい中の一部なんですが、ライフプランとキャリアプランの組み合わせというか、バランスというのは、各個人、各ファミリーで違って当然だと思うんです。わかっていただけますか。

○森田政務次官  もちろんでございます。

○河野意見発表者  例えば、全部だんな様が仕事をしてきて、家事も育児も全部私がやると言う人もまだいらっしゃいますから、それはそれで本当にいいと思うんです。ただ、中にはそうじゃない男性と、それができない男性が出てきているのと、あとこれは労働省さんに怒られちゃうかもしれないんですが、今、企業を見ていて政策を練っていると、40代後半あたりで800万までいくかなというところなんですね。そんな中で、お子さんを二人産んで、大学を出すというのは非常に厳しくて、しかも大変失礼なんですが、雇用不安というのはおわかりにならないかもしれないんですが、いつリストラされるかわからないという状況なんですよ、この二、三年は。そんな中で、自分に全部荷を課せられるよりはという方も本当に多くて、その中で、もし少しでも働いてもらえるんであればありがたいと思う人も出てきているのは事実なんで、あとはファミリーごとの価値観ではないかと思います。

○森田政務次官  最近、別に先生のことを言っているのではなくて、いろいろなマスコミを見ると、働く女性がすてきなんだと。それが非常に称賛されている感を受けるときもあるんです。ですけれども、私は改めてきょう聞きまして、男がしっかりしなきゃいけないなと、そう思いました。ありがとうございます。

○河野意見発表者  こちらこそありがとうございます。

○河合座長  それでは、どうもありがとうございました。
  続きまして山口満先生を御紹介したいと思います。山口先生は、現在、筑波大学教授でありまして、教育課程等が御専門であります。また、本審議会の「初等中等教育と高等教育との接続の改善に関する小委員会」の専門委員もお務めになっておられます。本日は、「少子化と学校教育」について、20分程度御発表をいただきまして、その後、10分程度質疑応答を行いたいと思います。
  それでは、山口先生、どうぞよろしくお願いいたします。

○山口意見発表者  御紹介を賜りました山口でございます。大切なこの小委員会の会議で私の意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして、本当にありがとうございます。20分の時間をちょうだいいたしましたので、大事なポイントをかいつまんでお話し申し上げたいと思います。
  「少子化」という言葉の厳密な定義についてはよく存じませんが、一人の女性が産む子どもの数が減ってきて、全体として子どもの数が減少している。一方では高齢化が進んで、人口全体の中における子どもの比率が非常に下がってくるというか、そういう現象をまず指すのではないかと思います。そこで言うところの「子ども」は、厳密に何歳から何歳までということがあるかと思いますが、学校教育とのかかわりから言えば、やはり小学校、中学校、高等学校、さらに大学、あるいは専門学校といいますか、18歳ぐらいまでの学校入学の年齢までのところを広く「子ども」と考えているのではないかと理解いたします。
  そういう少子化が学校教育に与える影響、インパクトは大きく二つあるというふうに私はまとめてみました。
  その一つは、お手元の資料にも書きましたように、いわゆる一人っ子が増えたり、あるいはまた保護者の過剰な期待や保護、あるいは異年齢間の交流の機会の減少など、子どもの生育環境の変化が子どもたちの社会化やパーソナリティの形成に影響を与えて、学校へ入ってくる子どもたちの意識や行動の変化が見られるということであります。
  私はたまたま日本特別活動学会という学会の会長をいたしておりまして、学級づくりなどに取り組んでいらっしゃる小学校や中学校の先生方といつも勉強しておりますが、例えば今の「学級崩壊」というようなことについても、当然、この学会で真っ正面から受けとめて取り組んでおります。それがなぜ起こるのだろうということをいろいろ話していくと、子どもたちの生育環境の変化が子どもたちの意識や行動、発達に影響を与えているのではないかと、そのようにおっしゃる先生方が多いわけであります。
  考えてみますと、少子化というのは単に子どもの数が減っているだけではなくて、一方では都市においても、農村においても、生活共同体のようなものが崩れてきて、いわゆるプライバタイゼーションといいますか、個人の生活を大事にするような意識傾向や生活形態が強まってきている。そういう中で、昔ながらの地域の人々に温かく見守られて、子どもたちが育っていくというような、そういう感じの子育てというのが日本の社会の中で非常に難しくなってきているということですね。そういうことを感じます。
  地域社会の構造的な変化の中で、子どもの発達がどうなっているのか。それが学校というものにどのようにかかわるのかということを考えてみなければならないと思います。その課題としては、やはり家庭・地域・学校を含めた子育ての全体的なシステムをどのようにつくり直していくのかというところがポイントになると思いますが、学校教育に限定して言えば、やはり先生方がおっしゃるのは、子どもたちの基礎的な体験をもっと学校で大事にしなければいけない。友達とかかわる体験、例えば学級集団とか、学級活動のようなものをもっと重視していくというふうな、学校におけるあらゆる教育活動の基盤としての学級生活、学級づくりというようなものをどのように進めていったらいいのか。
  新しい学習指導要領では、中学校からはクラブ活動が外されることになりますが、これなんかもそれにかわるものを考えて、子どもたちが人と人との中でいろんなことを学びながら、社会化され育っていくというシステムをどこかできちっとつくっていかないと、ますますこういう問題傾向というのは出てくるのではないかと思います。
  次に、学校教育の中身に関しますと、少なくとも私は三つぐらいのことを考えなくてはいけないと思います。
  その一つは、やはり学級サイズとか、学校サイズをどう見直していくのかという問題。これはだれが考えてもそういう問題が出てまいります。
  もう一つは、少子ということが引き起こす問題をカバーしながら、しかも少子というものがむしろ教育活動を良い方向に展開させていくという、ここのところに視点を当てて、いわば少子化時代の学校教育の在り方を、従来の大人数教育を前提とした教育のシステムから変えていくという視点を持つことが第2点であると思います。
  第3番目には、先生方の意識ということにあるかと思います。今言いましたように、日本の学校教育というのは明治以来の大人数の一斉教育ということが、一つの教育の理論といいますか、教育活動の枠組みをつくっていくもとになっていますから、そこのところをどのように変えていったらいいのか。2番目と関連した問題でございます。
  最後に、学校における少子の足りないところをカバーし、良いところを生かす学校の努力をどのように外から支援していくのか。
  大体こんな三つのことにまとめられるのではないかと思います。
  まず第1番目の学級サイズとか学校規模の問題ですが、いわゆる学級定員をどうやったらいいのか。あるいは、教育活動が効果を上げるうえで適正な学級サイズというのはどれだけのものかということについては、既にいろいろな研究が行われております。日本は比較的少ないところがあるんですが、特にアメリカではこの研究が早くから進んでいまして、私が知っている限りでも1970年代、80年代、90年代とずうっと系統的な研究が行われております。最初はクラスサイズと学習の成果との相関を明らかにするという研究から始まりまして、いわば何人ぐらいのところの学級が一番効果が上がってくるのか。
  そこからさらに、例えばそういう効果は教科によっても違うだろう。あるいはまた学年によっても違うだろう。「クラスター」というような言い方をしますが、学年を幾つか束ねたような仕組みですね。それによっても違ってくるだろうし、あるいは指導の仕方によっても違ってくる。やはり教育の中身とかかわって学級サイズは問題にされなければならないということも、最近では言われております。確かにそのとおりであるかと思います。
  日本でもいろいろなところに紹介されておりますが、「グラス曲線」という、G・グラスという人が研究の成果としてまとめているものがあります。例えば、加藤幸次先生が書かれた『ティーム・ティーチング入門』という国土社から出た新書判の本がありますが、その中にかなり詳しく紹介されております。それを見ますと、アメリカのクラスサイズ研究の流れが書いてございまして、一つの結論として、学習の効果とか、教師のやる気、あるいは教えやすいとか教えにくいという教え方の問題、そういうことを総合してみると、やはり30というところが一つの数の切れ目になるということを明確に書いております。いろんな要素を総合的に判断すると、いわば初等教育における学級サイズは、一応30ということが考えられるということが言われております。
  「グラス曲線」というグラスがつくった曲線というのは、今、アメリカでは全部で24州ぐらいが1学級の子どもの数の基準を決めておりますが、そういうものの一つの有力なデータとして使われるというように言われております。もっともこれもアメリカにおける教育活動の多様性ということを頭に入れていかないといけないのであって、いつも30人だけでやっているということではなくて、こういう活動についてはそういうのをやる。例えば午前中は全く個別的な基礎学習をやって、午後からは30人が一緒になってクリエーティブな表現活動をやっていくとか、集団的な活動をやることがあるということは頭に入れておかなくてはいけないと思います。決して機械的に30ということに意味があるのではなくて、そこでどういう中身の教育をするのかということと、学級サイズがかかわっているということだと思います。
  日本の例で言いますと、昭和30年代にいわゆるすし詰め学級という問題が起こってきて、50人学級を45人、さらに40人という流れがあったわけですが、そういう中で、いろんな大学でこの問題に取り組まれてまいりました。しかし、30年代の後半から後、この問題が積極的に取り上げられているというケースは知りません。例えば昭和45年に全国教育者連盟が行った調査によりますと、小学校の適正規模というのは大体26から30ぐらいだ、あるいは中学校につきましては21から25というところに、先生方の意識のピークがあると描かれております。私どもの筑波大学が1990年にやった調査では、小学校も中学校も大体30から34ぐらいのところが適正サイズではないかというように、先生方の意識の結果が得られております。
  実際には、30人学級というのは、例えば1995年のデータで見ますと、中学校の1学級の平均が33.3人、小学校が28.4人ですから、事実上30人学級が成立しているといいますか、そんなふうに見ることができます。それにしましても、制度的に1学級の定員を40に置くか、35に置くか、30に置くかということは、これは非常に重要な意味を持っておりまして、それによって学級編制が行われて、教員配置が行われてくるわけですから、日本の学校教育の根幹にかかわる大切な問題であるかと思います。
  世界的な比較から見ましても、よく言われていますように、日本の学級の40人定員というのはレアケースでありまして、大体OECD加盟の先進国では30人前後にいっているというデータははっきりございます。そういう点から見ましても、財政上の問題、いろいろなことが絡みますので、そう簡単な問題ではないのはわかりますが、やはり少子化という現象の中で、子どもが減っているという条件の中で、しかし教育効果を高めていくというプラスの方向に生かしていく一つの視点として、学級定員の見直しが行われてもいいのではないかと思います。これが第1点であります。
  第2点は、先ほど申しました少子化の問題点をカバーしながら、その良さを積極的に生かすような教育活動をどのように構築していったらいいのかということであります。
  お手元の資料の1枚目の「2.少子を生かすための視点と方法」というところで、これは総務庁が行いました調査結果の報告から出てきているデータですが、「小規模な学校の教育上及び学校運営上のメリット、デメリットの比較」というのを活用させていただきました。同種の調査研究は幾つかございます。国立教育研究所でありますとか、あるいはいろんな大学でこれが行われておりまして、大体同じような傾向のものが出ています。これは私たちの経験的なことから見てもよくわかることで、いわばメリットとして、先生方が子ども一人一人の特性を把握して、個別的な指導ができるとか、あるいは心の通う人間関係をつくっていけるとか、あるいは子どもの数に比べて施設・設備が恵まれているとか、そういうことであります。
  問題点といたしまして、切磋琢磨がなく刺激が少ないとか、どうも人間関係や評価が固定化してしまうとか、あるいはあまり子どもの数が減ってまいりますと、1学年の球技の試合が成り立たないとか、運動会などの学校行事で集団演技ができないとか、中学校では全教科の教員が得られないとか、これから行われる「総合的な学習の時間」とか、あるいは中学校における選択教科の運営が、教員数が足りないということのために非常に難しい問題があるということは、当然、我々も経験的に見ても考えられるところであります。
  端的に出ておりますのは、いろいろな話を聞き、あるいはいろいろなレポート類を読んでおりまして、学校の先生方への少子化の影響は非常に大きいものがある。先生方の校務分掌が増えるとか、あるいは学校行事について一人の先生が何役もやらなくてはいけないとか、あるいは当然このような問題をカバーするためには、地域社会の人たちのサポートでありますとか、あるいはまた学校が相互に協力し合っていく。例えば、連合運動会なども考えていくとか、そういうことを考えていかなければいけません。自分のところの学校だけでやっていけばよいのではなくて、地域の人々との協力体制あるいは学校の外側との協力体制があって、小規模学校での先生方の仕事の負担が非常に増えてきたということも、深刻な問題ではないかと思います。
  このような問題というのは、アバウトな言い方で終わってはならないのであって、本当は一つ一つのことについて、こういうことに対してどのような手だてを打つことができるのかということを考えていかなければならないと思います。今申しましたような地域社会の人々との協力のもとでいろんな活動を進めていくこととか、あるいは学校群といいますか、幾つかの学校で一つの群をつくって、群単位で教育活動の在り方を考えてみる。例えば学校行事なんかはそうだと思います。あるいはクラブや部活動もそういうものだと思います。既にこういうことはやられているわけですが、やはりそのような解決策を考えてみなければいけないのではないかと思います。
  私はその中で、特に少人数・小規模を補い、生かすための方法上の工夫改善の例としまして、やはりこれからの学校教育の中で大事な体験活動を効果的に組織したり展開していく上で、少人数というのは非常にうまくそれが生かせるのではないかと考えております。大人数の指導の中では、なかなかこの体験活動は形だけやっていても、中身が伴わないということが多いわけです。体験というのは、子ども一人一人の個人的で主観的な意識であり、感情ですから、一人一人の子どもの微妙な心の動きを教師が鋭くとらえられる感性を持っていなければいけない。一人一人の子どもは同じ体験をしていても、そこからつかんでいることは一人一人違うわけですから、そういう意味でも一人一人の子どもをよく知っている先生、また一人一人の子どもに目が行き届くような指導体制をつくっていく。そういう意味で、これからの学校教育の中で強く求められていくような体験活動にうまく少子というものを生かすことができるのではないかと考えております。
  また、資料の2枚目の「6  余裕教室を利用して、多様な学習や活動を展開する。」と書きましたように、今では小・中学校の大体4分の1近い24%という数が出ておりますが、教室が空き教室になっているというデータが、先ほど紹介した総務庁の調査の中に出ております。四つに一つの教室が空いているわけです。この空き教室、余裕教室を、豊かな教育活動を展開させるために積極的に活用することができないだろうか。空いているからしょうがないから物入れにしておくとか、学校開放で近所の人々に貸すということだけを考えるのではなくて、例えば一つの学級が二つの教室を持てるということは、それだけ多様な活動を展開することができる物的条件がそろってくる中で、日本の学校教育の歴史においても、例えば私が勉強しております戦後の新教育運動なんかではそういう教育が盛んにやられております。要するに、学校の施設や設備をつくりかえていくことが、子どもの教育活動の中身をつくり変えていくことだという考え方があって、そういうことができるチャンスを持っているわけです。
  例えば、空いた教室を使って、子どもたちがいろいろ物をつくる活動をする。あるいは、もっといろんなことを話し合っていくような活動をする。いろいろ調べてきた結果を、例えばパソコンを使ってデータ処理をしていくとか、場合によってはインターネットを使った情報のやりとりをしていくとか、多様な使用ができると思います。そういう余裕教室を利用して多様な学習や活動を展開するという積極的な面について、どうやっていくのかということが大事だと思います。
  日本の学校教育は、学級集団と学習集団とが特に小学校レベルでは一体になっているという考え方が強いんです。まずいい学級をつくって、そこで学級生活をちゃんとさせて、その学級生活の上に、例えば教科の学習の集団がある。ところが、現在のように一人一人の子どもの個性に合った教育、一人一人の適性に合った教育を進めなければならないときになりますと、むしろそこのところは考え方を切り離してみて、学級集団は学級集団として、子どもたちがそこでいろんな人間関係を育てながら、社会性を育てていく、あるいは自己発見をしていく場であります。
  ところが、学習集団というのは、例えば体育の授業では30人の子どもが一遍にやっても、国語の授業というのはもっと小グループでやってもいいと思うんです。ほかの授業になると一人一人でもやっていいということがあるわけです。ですから、必ずしもいつも学級集団を単位にして学習集団をつくっていかなければならないということではないと思うんですが、なかなかそこのところは先生方の意識が変わらない。いつも学級というものを単位にして一まとめにしながらやっていかれるという、そこら辺がこれから変えていかなければならない点ではないか。いわば画一的な学習集団を考えるのではなくて、柔軟で機能的な学習集団をつくりながらやっていく。そういうことによって、今のような少子化、子どもが減ってきているという状況の中で、もうちょっと違った観点からそれを生かした教育ができてくるのではないかと思います。
  先ほど申しましたように、日本の教育を組み立てていく考え方というのは、明治以後のいわば多いときは60人を超えるような学級が小学校でもあったわけですから、大人数で画一的に非常に効率的にやっていくというその原理で先生方が慣れてしまっているものですから、なかなかそこのところを変えるのが難しいというところがあるわけです。その辺の一つの転換ですね。いわば学校教育の中身を量から質へと変えていくということはよく言われることかもしれませんが、少子化というのはそういう転換を促す一つのファクターになっていくのではないかと私は思っております。
  新学習指導要領が既に小学校、中学校は告示されまして、平成14年から完全に実施されていくということになります。高等学校はそれから1年後になりましょうか。そこでは、例えば小学校・中学校・高等学校で「総合的な学習の時間」が設けられますが、小規模化した学校の中ではこの経営が非常に難しくなってくることは当然予想されます。「総合的な学習」には、文字どおり環境問題でございますとか、福祉問題でありますとか、教科の枠を越えた学習テーマで行われるわけですから、いろんな先生方がチームを組んで、ティーム・ティーチングという形で、例えば環境汚染の問題に理科からも入っていくとか、あるいは家庭科の先生もそこに入ってくる、社会科も入ってくるという協力体制が必要ですが、小規模学校の少人数の先生の学校では、「総合的な学習」を組み立てて指導していくことが難しくなってきています。そういうところは、教育委員会のほうでも配慮していただくような仕組みを考えていかなければいけないと思います。
  御存じのように、小学校から「総合学習」の中で、外国文化に対する体験的な学習が入ってくる。これはもちろん英語の学習ではありませんけれども、外国文化に触れるような体験的な学習をうまく指導しようと思うと、そこに指導する方が必要になります。ところが、例えば地方のといいますか、小規模化された小さな学校では人材を得ることが難しい。そうすると、それに対してどういう応援をしていくのか。インターネットを使うとか、あるいはいろんなテレビ放送を活用していくということも必要かと思います。
  同じことが中学校における選択教科についても言えるのではないかと思います。選択教科が非常に拡大されて、全教科が選べるように中学校でなりました。その場合に、先生がいなかったら選択教科の運営のしようがないわけであって、基本的に生徒選択ですから、子どもたちが自分たちの興味・関心においていろんな学習をやっていこうというわけですから、やろうと思っても指導してくれる先生がいなければ困るわけです。そういうところを、子どもの数が減ってきて小規模化されて、先生が減っていくという状況の中でどうしたらいいのか。これは何か工夫すれば方法があり得ると思います。そんなことも大事だと思います。
  先ほど申しましたように、少子化で目に見えてやりにくいのは学校行事の部分であります。これは集団活動を基本にしておりますから、そこのところをどのようにしたらいいのかということです。先ほど申しましたような連合文化祭をやってみるとか、連合運動会をやってみるとか、修学旅行は幾つかの学校がまとまって行くとか、個別的な学校の枠を越えた教育活動を組み立てていくようなことを考えていかなければいけないのではないかと思います。
  結論的に申しまして、今申し上げましたような問題は結局のところ、学校教育の中身をどうつくっていくのかという、教育活動の質的な在り方から学級や学校規模の在り方を考えていかなければいけないと考えております。

○河合座長  どうもありがとうございました。
  では、御質問ありませんでしょうか。

○  現場がイメージできるようなお話をありがとうございました。一つお伺いしたいんですが、先生がおっしゃっていた大人数を教えるシステムから少人数へ移すということとともに、先生が減らなければならないということを前提にしてお話しになっていらっしゃったのではないかと思います。私は先生の張りつけの具体的な方法を存じ上げないんですが、実際に多様な教育形態で行いたい、ティーム・ティーチングを行いたいとなると、一学級に一人の先生という形式では限界があるのではないかということも考えられるんです。その辺、インターネットで補うというお話もありましたが、子どもが少なくなって、そのまま先生が少なくなっていくという前提の上で話をしなければいけないのか、その辺のことを教えていただけますでしょうか。

○山口意見発表者  難しい問題ですね。これはむしろ行政の関係の方にお答えいただいたほうがわかりやすいのかもしれませんが、私もその辺がどうなっているのかわかりません。ただ、少なくとも子どものために何が必要かということを考えていくと、子どもの数が減ったから、機械的に先生も減らしていくという論理ではいかないだろう。当然、行政もそのようには考えていらっしゃらないだろうと思います。そこで、子どもが少ない、小さな学校でどうやってより豊かな、あるいは先生方がやろうと思っているような教育をできるのか。そのためには、先生方というのは何人ぐらいいなければいけないのか、どういうふうにしていかなければいけないのかということが、これからむしろこの少子化とかかわって議論されなければならない問題であるかと思います。

○  子どもの数が減ればということで、資料の2枚目のところに「一人一人の特性を把握し個性化、個別化をはかる」とか、「一人一人の発言や表現を大切にする」というお話ですが、これは私がそう言うのではなくて、ある著名な、最近売り出しの学者の方がそう言っているんですが、今、子どもたちは学校あるいは教室というものに非常に嫌悪感を持っている。なおかつ、それの延長線であろうと見られる地域とか、社会とか、そういうところからも逃げ出したがっている。その方によれば、だから第4の世界へ子どもたちが行くんだという話があるわけです。
  子どもの数が少なくなって、ここに書いておられるように一人一人の個性なり特性なりに着目するようになると、そういう子どもたちはますます居心地が悪くなるのではないかというような気もするんですが、その辺はどんなふうに先生は考えていらっしゃるんでしょうか。

○山口意見発表者  今の学級づくりの考え方の中で、とにかく今までの考え方を相当変えなければいけないだろうということは、先生方も気づいて、私どもも考えております。ただ、それがどういうものであるのかということはなかなか難しい。日本の共同体というものがある意味では崩れ去っていってといいますか、変質していって、その次に新しくできてくる日本の社会、人と人をつなぐ原理というのは一体何だろうというのと同じような問題が、学校の中で、子どもであるだけに鋭い形で問われているということが正直なところでございます。
  でも、やはり個人個人は一人の主体ですし、そして周りの人たちもそれぞれが主体で、主体と主体とが全く平等の立場でかかわりを持ちながら、しかも私とあなたのもっと後ろ側にある社会の全般的なものをそこで学んでいくような仕組みがあるだろう。つまり、それは結局、人間は人との間でしか育たないのであって、そういう仕組みを子どもたちの中につくってやるということを考えなくちゃいけないだろうし、またそれはできるはずだということを、今、先生方も考えているし、我々も考えています。
  確かに、今起こっているある傾向、例えば私はプライバタイゼーションと言いました。これはポジティブなことで使われることが多いんですが、確かにマイナスの面があるわけです。その面だけを大きく膨れ上がらせて、だから今の子どもはというふうに持っていくと、そこからは出てこないと思うんです。いつも我々は子どもというものをトータルとして見ていく面もあるけれども、やはり友達と仲良くしながら一所懸命何かをしていく、そのことを子どもたちは本当に心から喜んでいるんだという、それをつかんでいるのは先生方ですからね。その先生方の実感を大事にできるような仕組みをどのようにしていったらいいのかと、そんなふうに思ったりします。
  ちょっと抽象的なことで、お答えにならないかもしれませんが、そういうところで、先生がお尋ねのようなことで、現場の先生方が今非常に悩んでいるといいますか、どうしたらいいんだろうと。子どもがわからなくなってきている。子どもにどうつき合えばいいかわからなくなってくる。その後ろ側にいる親も非常に怖い存在になってきて、アカウンタビリティーのこともちゃんとやらなくてはいかんということもいろいろありましてね。そういうところで、今言ったような側面をどうしたらいいのか。例えば、学級づくりをどうしたらいいのか、人と人とのかかわりの中で子どもを育てるという論理をどう組み立てたらいいのかというところが非常に揺れているという感じを私は受けております。

○  大変役に立つお話をしていただきましてありがとうございました。一つだけ言葉なんですが、資料の2枚目の「4  バズ学習やブレーン・ストーミングなどを取り入れて、集団行動を重視する」の「バズ学習」というのは何でございましょうか。

○山口意見発表者  「バズ」というのは、英語の字引を引いていただきますと、何かミツバチがブンブン飛ぶという意味でございます。5人か6人ぐらいのグループをつくって、子どもたちがいろいろ話し合うんです。これは一斉的な学習の中で、いろいろ難しい問題が出てきますと、そこで子どもたちを6人ぐらいの小グループに分けて討議をさせて、その結果をまた報告させて、そして授業を進めていくというものでございます。

○河合座長  ありがとうございました。
  それでは、よろしゅうございますか。我々の小委員会もバズ学習をやってもいいかもしれませんですが、この辺でどうもありがとうございました。

○山口意見発表者  どうもありがとうございました。

○河合座長  それでは、ただいまのお二人の御発表を踏まえまして、また御自由でよろしいですから、討議をしたいと思います。

○  少子化というのは、この間から論議されていますように、子どもを産まなくなった女性が増えてきたということで、問題が起きているわけです。そうなりますと、女性が子どもを産むために家庭に入ればよいではないかという議論が一番短絡的で、一番簡単なのですが、それを一番恐れているものであります。
  基本的には、さっき河野さんがおっしゃったように、どんな形の家庭があってもいいわけですし、女性が働く、男性が働くということでも、どういう考え方を持つ家庭があってもいいわけですが、世の中ここまできますと、人間働くのが当たり前だということをまず基本に据えて議論しないと物は進んでいかないわけです。ですから、女も働くのが当たり前だというところを基本にして、議論をスタートしていただきたいと思っています。
  先ほど他の委員の方からありましたように、私も子どもを持って働いている人間ですが、働きながら子どもを持つというのは非常に大変なことで、環境整備ができていないということと、それから世の中の意識改革がされていないということがその主な原因だと思います。世の中の意識改革というのは、端的に言えば男性の意識改革であると思っています。何だかんだと言っても、今は男性の社会であることは間違いなく、特に行政もそうですし、企業社会も男性の社会でありますし、それから個人的なことを言えば、夫というのも男性なわけでありますから、男性の意識を根本的に変えないと子どもは増えないと思っています。
  この間、他の委員の方もおっしゃっていましたが、まず育児は男女両方がやるということが基本であるという、つまり母親だけがやればいいという一般的な意識も改革し、子どもは国のものであるという意識改革もしないといけないと思っています。戦時中の「生めよ殖やせよ」ではありません。しかし、子どもは国の大切な宝だということが基本的にないと、企業のトップもリストラの筆頭に子どもを持つ女性を挙げるということになるわけです。
  ですから、ぜひ河野さんなどにも、その意識改革をしていただきたいと思うと同時に、文部省も小学校あたりから、家庭教育でももちろんですが、男の子の意識改革を進めていくことがぜひ必要なのではないかと思っております。

○  最近、何度か保育園の保母さんとかそういう方たちと話す機会がありまして、保母さんの中でお母さんたちに結構きついことをおっしゃる方がいらっしゃいます。例えば、「子どもが高い熱を出しているのに、朝、ポッと子どもを預けて、それっきり仕事に行ってしまう」とか、そういうたぐいの話なんです。逆に私は割と子育て中のお母さんとのつき合いが昔から多かったんですが、子育て中のお母さんは、公民館にしましても、自治体の窓口になるようなところが、「子育て中の女性に対して冷たい」ということをよくおっしゃるんです。どうも子育てに関する社会的なルールといいますか、あるいは哲学といいますか、そういうものが壊れてしまっているなという感じを強く受けます。
  働く女性たちの中では、やはり仕事を重視していれば、延長保育をしてほしいとか、病後児保育あるいは病児保育をしてほしいという言葉が出てくるのは、ある意味では理解できないではないんですけれども、これまたあまり極端になってしまうと、一体、子どもを育てるというのはどういうことなのかということになります。だけど、その裏にあるのはまた同時に、お父さんたちは従来どおり、家庭はお母さんがいて、子育てと家事をちゃんとやってくれているんだから、心置きなく会社で働きなさいという仕組みが続いていますから、それもまた変わっていかなければいけない。
  社会的に保母さんとか親との間の子育てに関する一種のルールなり哲学、もう一つ家庭の中でお父さんとお母さんの子育てに関する哲学が、どうもあまりうまくいってないんだなという印象が大変強いわけであります。
  先ほど、委員の方のおっしゃったことに私は全く同感でありまして、とりわけ小学校、中学校なんかで男の子の人生に関する、あるいは家庭の中での男性の役割に対する教育にもっと力を入れてやっていかなければいけないのではないかと思うのと同時に、もう一つ、仕事に対する考え方です。
  もう10数年前になりますが、世界の数ヵ国で働くことの意味に関する調査が、日本では三隅二不二先生が中心なられまして行われたことがあります。それを見ていて大変印象的だったんですが、仕事、家庭、地域、宗教、余暇等々の中で、「何に一番重きを置くか」という質問に対して、どの国でも男性のほうが女性よりも仕事志向が強いわけです。ところが、日本人の女性は、あのときは西ドイツの男性と同じくらい仕事志向が強いんです。日本の女性は、今、河野さんのお話を伺っていてもそうでしたが、極めて仕事志向の強い方が増えていらっしゃる。これはある意味では、男性が大幅に仕事志向を緩めていくと同時に、何か基本になるようなスタンダードがきっと社会の中であると思うんですけれども、これがまた見えなくなっているのではないかという気が多少するわけであります。
  女性と男性とが自由に自分の流儀で生きていく、いわば自己決定によって生きていくということについては社会的な合意ができているかと思うんですけれども、相変わらず長い職場の労働時間をとにもかくにも短くしていかなければ、少子化の問題は恐らく根本的には解決しないのではないかと思います。

○  先ほど他の委員の方がおっしゃったことにつけ足すことになります。河野さんが意見発表のときに意識改革が一番大切だとおっしゃったのですが、私もまさにそうだと思います。
  去年の秋、男女共同参画社会の視察で北欧諸国を回ってきたときにも感じたことですけれども、あれだけ男女平等が進んでいると思われているノルウェーやデンマークなどでも、やはり男女の意識差が強い。それから、女性がまだ男女の役割分担にこだわっているから、これは教育で変えていかなければならないということをおっしゃっていました。男女の役割分担に対して、「男は仕事、女は家庭」ということは日本でも建前上少なくなってはいるんですけれども、それでも「男も女も役割を自由に決めるか」という選択肢になると、非常に少ないんです。例えばヨーロッパやアメリカだと90%の人がそう答えているのに、日本は40%前後です。その割合はアジアの6ヵ国と比べてみても日本人が一番少なく、役割分担に対するこだわりが強いと思うんです。
  先ほど政務次官が、もっと男はしっかりしなければならないとおっしゃいました。男の子が生まれたときに、「この子は将来、結婚して妻子を養うんだな」と周囲の人は思います。それを男の人が一生背負っていかなければならないのはとてもつらいと思うんです。男女共同参画審議会でも言われていますが、これからは稼ぎ手が二人いなければならない。そうすれば、どちらか一人、男性であっても女性であっても何かあったときにやめて、ちょっと別のやりたいことをやって、その間、もう一方が稼いでくれるということができます。多様なライフスタイル、好きな選択ができる社会になります。他の委員の方がおっしゃったように、男も女も働くことを前提にして、社会を変えていくようにしなければいけないと思っております。
  政府が出されているレポートを読みますと、今、社会に求められている基本的なことをよく御存じだと思って感心しているんですけれども、残念ながら一般の男性、一般の人たちには、それが浸透していないんです。お役所の方は、「私たちはレポートでも、『白書』でもこう書いているじゃないか」とおっしゃいます。私が最近話したある有名な方は、「政府は女の機嫌取りばかりしてる」とおっしゃるんです。オピニオンリーダーと言われる方もこうですから、一般人の意識改革は難しい。
  政府のなさっている今の方向というのは私も大賛成でよかったと思っているんですが、一般の人の意識の間に乖離があり過ぎる。ただレポートを出せばいいとか、政策提言を出せばいいということではなくて、真剣に教育という面から、とりわけ企業の男性への教育、幼いころからの平等教育を考えていかなければならないと思います。

○  先ほど河野さんが御報告になりましたときに、冒頭の御発言で、15年前は上役との感情的もつれ、10年前は自分への評価の低さ、ところが7年前は結局自分との戦いでやめざるを得ないというように、やめる原因がそのように変わってきているとおっしゃいましたが、7年前の自分との戦いの理由が、私の聞き間違いでなければ、夫の転勤、自分の転勤、出産ということだとおっしゃったと思うんです。
  で、ショックだと言いますのは、もしそうだとすれば、つまり1992年が7年前としますと、私どもが結婚して子育てに入った1960年代の前半とあまり事情は変わっていないということになるのではないか。つまり、どこの職場、どこの地域に行っても、安心して子どもを育てられる条件がないということから、こうした悩みが生じるのではないかと私は伺ったわけです。もちろん1960年代と90年代はあらゆる面で、日本の経済構造や男女の労働力の職場における比重等が変わっていますから、単純には言えないけれども、安心して共働きで子どもを育てて働いていけるインフラストラクチャーがまだ十分に整っているとは言えない面があるということを、私はお話から受け取ったわけです。
  そのように考えましたときに、産んだ直後から子どもの生活と教育を母親に代わって一定時間担当する保育所、保育園というものは非常に重要な位置を持っているだろうと思います。実はきょう河野さんから、働く母親にとっては保育園だけではなくて、園バスをはじめとした幼稚園というのが非常に大きな意義を持っているという啓発的なお話を伺いまして、そういう意味で、私、幼稚園の重要性を改めて認識したんです。一方で、保育所、保育園の問題というのはかなり大切だろうと思います。
  文部省の学校基本調査によりますと、1997年の全国の幼稚園の在園児数は178万9,523人、一方、1997年の厚生省の社会福祉行政業務報告では、保育園に在籍している子どもの総数は172万6,223人で、両方とも大体170万人台であります。もう少し年齢別に絞って5歳児ということになりますと、幼稚園に在園している5歳児は75万7,007人、一方保育園のほうは、厚生省の統計によると4歳児以上の入所児童数は78万5,922人でありまして、大体拮抗している。そうなりますと、幼稚園の問題も乳幼児教育を考えると非常に重要ですが、先ほど言いましたように、ゼロ歳の待ったなしから生活と教育をあずからなければならない保育園の重要性はますます否定できないのではないか。
  となりますと、私が言いたいことは、本小委員会でのきょうを含めて3回の御発言でも、文部省の所管ではありませんが、少子化と教育ということに関連して、保育園や保育という角度からの御発言がかなりございますので、これから討論を整理し、あるいは問題を絞っていきますときに、保育園や保育についても教育の立場から、文部省、厚生省の枠を越えて指摘すべき点は指摘する、要求すべき点は要求するというスタンスをとることが必要ではないかと思うわけであります。
  実は私、さっき河野先生のお話を聞いて、まだこういうふうかとなぜ思ったかといいますと、60年代に子どもを産み、妻と一緒にずっと育ててまいりましたが、私の場合にはたまたま結婚式の誓いの言葉で、「共に働くことを誓います」と言いましたので、それに背いてはいけないと思いまして、私は全部で3回職場を変えましたが、妻には無理を言い、若干協力もしまして、妻は職種を2回変え、4回職場を変えました。そういう中で、保育園とか、保育について、自分自身、教育上非常に重要なものであるということを考えたからであります。最後のは全く蛇足であります。

○  今のお話のことは当然のことだと思うんです。そういう意味では、今、どんどん中央のほうも、厚生省でとか、文部省でということではなくて、ここの中央教育審議会でもそうだと思うんですけれども、少子化に対して教育といいますか、国としてどうするかということの中で、例えば文部省と厚生省が話し合われて、例えば施設を共有化するということも実際に行われてきていますし、今、幼稚園の新しい教育要領の説明会がなされていまして、私もかかわらしていただいたんですが、これは幼稚園の先生方だけではなくて、保育所の先生方もそれに加わっていただくという形にどんどん進んできていると思うんです。そういう意味では、いずれは子どもということを中心に考えて、やはり統合化の方向に進まざるを得ないし、そうあるべきだと考えていますし、すべてそういう方向に進んでいると私は思います。これが1点です。
  もう1点は、河野さんの説明の中で私が非常に同感をしたのは、企業のトップの方たちに対して理解を得られるところの中で、ワークとペイメントの話がありました。これは非常に大切な視点だと思ったのは、キャリアというものがありますね。今、一旦退職しちゃうと、復職は非常に難しい。でも、企業のほうとしてもキャリアを非常に高く評価する中で、ワークとペイメントを連動させながら、それをつないでいくことが必要だと思います。
  「退者復活」というお言葉がありましたけれども、私は「育児バイパスのシステム」と考えているんです。育児というものが、今、どうもマイナスのイメージでとらえられているけれども、育児ということが逆にその職場をもっと豊かにするキャリアになるのではないかということです。例えば、人に対する思いやりであったり、人間としての膨らみであったりというものを、育児にかかわる中で身につけた女性が、もう一度職場に帰っていくことの中で、職場そのものがもっと豊かになれるという視点で考えていく必要があるのではないかと考えています。

○  私も他の委員の方のお話に非常に共感しておりますが、今、幼稚園実習で実習園先を回って歩いておりますと、私立の幼稚園などでは、「最近、先生がやめられなくて困る」というようなお話を伺ったりします。「以前は寿(ことぶき)退園が多かったのだが、今はこの御時世なのでやめられる方が少なくて、先生方の平均年齢がだんだん上がっていってしまって、新しい方を入れられない」というお話を伺ったりもするんですが、実際、生涯賃金を考えての雇用をあまり私立の幼稚園ではなさっていないようで、若い卒業したての方をたくさん入れたいという園の方針と、今の子どもに対する教育者を育てたいという意識にはちょっとギャップがあると思っています。ですから、幼稚園の先生をなさっている方は、子どもが好きで幼稚園の先生になったという方が多いので、子どもを産むと、自分からやめたいという方も多いようですが、そういう方がもう一度幼稚園の先生に戻ってこられるような何か制度的な支援ができるといいのではないかと思います。
  それから、今、私も育児休暇を終えたばかりで、1月から仕事に戻ったところですが、たちまち二人の子どもが入院をしまして、やっとおととい最後の一人が出てきたところですが、小さい子どもを集団保育の中に入れるということは、良いところもあるんですけれども、体に負担をかけるところも非常に多いです。ですから、私の仕事柄、時間を自分であれこれやりくりすることができて、たぶん9時―5時以上で働いている企業の方と比べると、随分やりくりして子どもと一緒にいる時間がとれていると思います。企業でキャリアを追求して仕事をなさっている方が、保育所だけでは足りなくて二重保育をしたりとか、病児保育も預けたいということになると、子どもが母親と接したり、もう少しゆっくり家にいたいという欲求が出てきたときに、それにこたえるのとはまた逆の方向に行ってしまうという気がしています。
  ですから、先ほどお話があったように、子どもを産んで何年間かは、これは何かで見たんですが、スウェーデンでは子どもを産んでから、親保険というのがあって、何年間かについては自分の持っている休みの時間を  ―使い方は自由なんですが  ―使うことができるというシステムがあるというのを読んだことがあります。実際に子どもを預ける場所を保障することも大事ですが、子どもを産んで何年間かの間休むことを保障する制度をつくることも、子どもにも、親にも重要なことではないかと考えています。

○  先ほど来のお話にどれも共鳴しているところですけれども、企業の管理職に対して育児にかかわることがキャリアの上でもプラスになるということをもう少し出していかなければという他の委員の方からのお話がありましたので、ぜひつけ加えたいんですけれども、これは女性だけではなくて、男性にとってもとても大事なことであると思うんです。人間働くのが当たり前という大前提で、女性も働くのが当たり前というのと同じように、男性も子どもを育てるという仕事にかかわるのが当たり前というこの大前提がないと、少子化の問題も解決していかないし、それから働きやすい環境というのも難しいと思うんです。
  また政務次官の御質問に戻るんですけれども、河野さんはいろんなチョイスがあっていいんですよとおっしゃられたけれども、そのチョイスは今のところ女性だけに限られているんですね。男は「働き続ける」が前提で、「どうぞお選びください」と言われても、それはとても選びにくいし、非常な困難が伴ってくるという前提があるんです。ですから、男ももっと子どもにかかわるという時間を保障されるべきだと思うんです。
  ですから、仕事中心の意識をずうっとつくらされてきているわけですけれども、その辺をもう少し柔軟に考えていく。子どもというマニュアルどおりにはいかないものを相手にしていくということで、私どもは思いやりとか、柔軟性とか、フレキシビリティーが養われると思うんですが、それが社会づくりに必要ではないか。
  きょうは、大人のためのキャリアプランのお話がありましたけれども、文部省では1994年から家庭科の男女共学必修ということを決めていただきまして、共学も順調にスタートしていて、今や男の子も当たり前に家庭科を学び、保育のこと、子どものことを学んでいて、大変喜んで学習してきているわけです。家庭の中だけに閉じこもるのではなく、男も女も仕事と家庭という両面を学習していくことが、もっと学校教育の中で強められていけばいいのではないかと思っておりますので、若い世代が社会に出ていくころには少しずつ世の中が変わっていくのではないか。学校教育の中で、キャリアプランニングと自分の人生設計を男も女も考えていけるようにということを希望しています。

○  少子化に対応した教育関連施策という観点から、学校と地域と家庭の三つに分けて体験と農村地帯の小学校の様子をお話ししたいと思います。
  最初に家庭を取り上げます。私は3人の子どもを産み育て、仕事をしていました。先ほど来男性の自立が少ないという意見が出ましたが、体験からも実感します。私の場合、当時1,000〜1,500頭ほどの豚と3人の子どもと3夫婦で4世代の家族がおりましたが、夫は地域の消防団や仕事関係等様々な会議や研修会のため海外を含めて外出が多かったのです。ボランティアの農業研修生のための世界的な組織の日本の代表をしていましたから、会議が多かったのは事実でしょうが,結局残された私が農作業をせざるを得なかったのです。その当時の正直な気持ちは、もっと家族や家庭のことをしっかり考えてほしいと思っていました。家庭的でなかったのか、私に安心して任せたのかわかりませんが、現実の結果としてずっとそういう生活を続けてきたわけです。ある時点で、私が、やはり愛情と責任でしっかり育てなければと痛感しました。子どもたちの親は私だ、と思いました。
  農業の場合、小さいながらも経営者、事業主です。時間的な制約がないのです。子育ても農作業も趣味も自分で創意工夫が可能です。自分の判断で真夜中に仕事をしたこともあります。したいことをするためにしなければならないことをすると考えていました。
  養豚経営にあたっては年間通じて作業は平均していますが、路地野菜、季節型農業の農繁期は母親は特別忙しい思いをしているのは事実です。農繁期の一時預かりの保育所が望まれています。地域の公民館や児童館または学校の空き教室等を利用して農家女性の支援策がとれればよいと思います。規制緩和にも関連してくると思いますが、地域の独自性、必要性に応じて柔軟な対応が最も好ましいと思います。
  最近は農村地域においても2世帯住宅が増加していますが、大家族の中では母子関係が希薄になる場面が非常に多いのです。子育てをしながら親としての責任や愛情が育まれると思います。これらに配慮した施策や父親の自覚や子どもへの接し方等、具体的方法が必要かと思います。
  次に、地域についてですが、私の地域には15年ほど前から上州名物の八木節の子どもたちのグループがあります。これは笛やカネの囃と音頭取りもすべて子どもがやります。異年齢集団の子どもたちを近隣の大人たちが世話をし、踊りを教えるのはやはり地域の高齢者です。親でもない学校の先生でもない地域のおじさん、おばさんが集団の中で知らず知らずの間に体験を通じて子どもたちにいろいろな事を学ばせます。これは子どもと大人の間にある程度の距離が置けるのです。母子関係等家族関係の弊害の過保護や過干渉のない有効な集団教育の一つであると思います。3年ほど前に手作りの国際交流として、インドネシア公演をしました。建国50周年の記念行事に招かれて、スハルト前大統領の前で八木節を踊ったのです。県教育委員会にこの報告書を差し上げました。郷土芸能の保存と地域の活性化、地域の教育力の向上に役立っていると思います。
  3番目として、地元の小学校を紹介します。毎月1回発行している「学校だより」は地域全域に配付されます。最近のものでは中教審の答申が分かりやすく載っていました。地域内の高齢者と子どもたちとの交流や、子どもの作文等の身近な話題からは、学校が地域に密着していることが伺えます。また、集団登校は交通事情を配慮して行っていますが、近所の上級生を見習ったり、大きい子が小さい子の世話をする機会となり、好ましいことと思います。
  学校の近くの遊休農地を利用して、児童が野菜栽培もしています。何度か我が農場のリサイクル堆肥も提供しています。
  運動会には地域の高齢者を招き、昼食時に敬老式を行っています。祖父母参観日には昔の遊びを皆で楽しみます。昨年の参観日には郷土芸能を学び楽しむ会が催され、子どもたちの八木節と上州赤城太鼓愛好会の太鼓の音が、体育館に響き渡りました。
  環境問題を学校で教えるための講師等の確保については、環境に特別な興味・関心のある専門家に近い方を採用することによって、経費削減にもつながると思います。現在県内には環境アドバイザーが約300人おります。また、知事の認定証をもった地域青少年育成アドバイザーが100人ほどおります。どちらもボランティアですが、これらのメンバーが小学校で子どもたちに分かりやすく話をする場合、親しく接することのできる地域の大人であるため、自然に学ぶものも多いかと思います。補足になりますが、環境アドバイザーは任意の登録制で、この分野に特別な関心の高い人達で研修や視察に加えて日常的に実践をしています。育成アドバイザーは、長期にわたる学校教育や社会教育の経験者が、専門家の30時間の講義を受け、ロールプレイを重ね認定されています。
  また、県内の公立の高等学校の工業科に社会人講師制度を導入し、効果を上げている例もあります。農業や商業についても同様な方法が可能ではないかと思います。

○  少子化の問題について考えますときに、一つは社会構造の大きな変革を引き起こしてくる少子化という問題の中で、何とか少子化を食いとめたいということが一つあるかと思います。これは働き手がなくなるとか、大きく社会が変わっていくようなことに対して、安定した社会を求めるという中では、気持ちとして何か食いとめたい。そういう部分としては、産みたい人が産めるようなことをもう少しやっていけば、少子化というのが食いとめられるのではないかという若干の希望を持って、そういう部分の議論が一つあるだろうと思います。
  ただ、冷静に見ていくと、豊かな社会でそれぞれが自己実現をしたいということが明確になっていく社会の中で、少子化というのは食いとめきれないのではないか。むしろそれは現実の問題としては続いていってしまうのであろう。じゃ少子化ということをある程度前提として考えたときには、社会構造、働く構造を変えたくないということではなくて、社会構造、働く構造は変わっていくんだということを前提としながら考えていかなければならないのではないかと思っております。
  そのときのポイントというのは、何人かの委員の方からも御意見が出たんですけれども、やはり共働きが標準になる家庭、あるいは男女共同参画という社会を前提とした社会に変わらざるを得ないんだということが議論の前提になって、この議論が進んでいくのかなと考えております。共働きを標準とした社会、男女共同参画を前提とした社会といった中で、子育てのシステムをいかに変えていったらいいのか。それは少子化というような問題の中で引き起こされる、先ほどお話がありましたような様々な問題をしっかりと認識した上で、どういったシステムをつくって子どもを育てていったらいいのかということを考えていかなければならないのではないかと思います。
  そのときに、ビジネス・プロセス・リエンジニアリングではないんですけれども、従来の縦型の中で何とかしようということではなくて、もう1回子どもを育てるシステムを広く洗い直してみて、そのシステムをどのように再構築していくのかという部分で、先ほど出てまいりましたような行政の違いがありますけれども、例えば幼稚園と保育所の問題、あるいは幼稚園、保育所、保育ママ、ボランティア、あるいは民間のそういった子育ての仕組み、今持っている資源をもう一度整理してみながら、このシステムを有機的に、そして今、行政改革の中で言われているように、より少ないコストでどのようにつくり上げていくのかということが求められているのではないかと考えております。
  「意識改革」という言葉が多く出たんですけれども、私も企業の人事をやっておりまして非常に感じることは、「意識改革」というのは言葉で言うのは簡単ですけれども、当然、書いたもので意識が変わるわけでもなく、さらに頭でわかっても行動が変わるまでにはかなりのステップを必要とするわけです。むしろ行動の仕方を変えていくような仕掛けを持っていかない限り、「意識改革しましょう」なんていう言葉で意識が変わるわけもなく、システムとか、仕方、教育でいえば子育てのシステムを大きく変えていくということがない限り、「意識改革」はできないのではないかと思っております。
  むしろ、先ほど申しましたような社会構造の変化は、少子化だけから起こっていることではないですし、家族の問題、高齢化の問題、あるいは地域社会の崩壊の問題、あるいは都市化の問題、いろんな社会環境の変化がすべて子どもの育ち方の問題に広くかかわっているかと思いますので、そういう中から少子化という切り口の中で何を考えていかなければいけないのかという部分に焦点を絞りながら検討していかれればいいのかなと考えております。

○河合座長  ありがとうございました。
  まだあると思いますが、残念ながら時間がきましたので、きょうの審議はこれで終わらせていただきます。
  第4回小委員会につきましては、引き続きまして「少子化に対応した教育関連施策について」御審議いただくこととして、家庭、地域社会、幼稚園などにおける子育て支援について、子育てに伴う教育費負担などについて、ヒアリングなどを行いたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
  少子化の問題は非常に根本的な問題につながりますので、議論もそうなっていくんですが、我々としてはできる限り教育関連施策ということで考えていきたいと思っています。
  皆さん方には、これまで同様、プレゼンテーションをお願いすることがありますので、よろしくお願いします。
  それでは、これできょうの審議は終わりたいと思います。
  次回は、3月1日、月曜日、13時から、霞が関東京會舘・ゴールドスタールーム、35階で、「少子化に対応した教育関連施策について」、ヒアリングなどを踏まえ討議を行う予定としておりますので、よろしくお願いいたします。
  どうもありがとうございました。


※1  この資料については、文部省大臣官房総務課広報室にて閲覧できます。
  
(大臣官房政策課)

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