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2.私立大学の役割

(1)私立大学が高等教育の基盤を担う

 世の中で現在、活躍中のシニア層が大学生の頃は、大学進学率は30%以下の時代である。したがって、現在のシニア層が育った時代と大学の状況が全く異なることは当然である。つまり、社会の10%程度のエリート層を大学が育てていた時代は、組織をマネジメントする指導者層は、行政とあまり多くはない大企業に所属し、残りは戸毎の農業や中小企業が大部分であった。やがて産業構造は変化して高等学校の進学率が上がり、平均所得が増大、ホワイト・カラーの割合が増すにしたがって、今度は大学進学率が一挙に増大した。現在、その8割を担っているのが私立大学であり、国公立大学だけではこの要求を全く満たすことができない。
 したがって、私立大学は日本社会の持つ文化、学術、地域性などの多様性に十分対応して、日本社会の将来を予測し、それに必要な人材を育てなければならない。とりわけ、少子高齢化、地域社会の再構築、グローバル化への対応は切実な課題である。問題は、急速に多くの学生を受け入れるようになった私立大学が、まだ十分にこの役割を果たせていないことである。原因は、第一に、私立大学は公的な位置づけが弱いうえに、社会的認知が高まらないために、結局、公的支援を受けられていないことがあげられる。第二は、私立大学は規模はもちろんのこと、極めて多様であるために、それぞれが個性的であることはよいとしても、全体的にレベル向上の協力がなされてこなかった。第三は、私立大学のマネジメントが、古い伝統校ではとくに著しいが、国立大学に近い教授会中心の方法から進化せず、教員の意識も依然として各自の研究を中心とする傾向が大きい。したがって、私立大学は組織的強さが不足で、各大学のガバナンスも不足で、ミッション達成や地域社会をリードする役割を発揮できていない。約220万人の学生を受容する私立大学を構成している約22.4万人の教職員は、21世紀の知識情報社会として日本社会を高度化するためのそれぞれの大学の役割を果たせるシステムを構築しなければならない。
 私立大学はこれまで、以下のような広範な分野の高等教育を担って、新時代を切り拓く原動力を果たしてきた。これらの内容は、国公立大学と重なる部分もあるが、主として私立大学が中心に担っている分野が多い。
 1.高度な知識基盤社会を支えるための多様性を持った高等教育の場
 2.自立過程にある若者に対する社会人としての素養の涵養と個人の人生の満足度を高めるための出発点
 3.グローバリゼーションに対応する国力向上のための多様で活力ある原動力の源泉
 4.地域社会に貢献する人材育成と学生を原動力とした地域社会の発展の核
 5.地域社会における生涯学習の場と知的コミュニティの創造
 6.男女共同参画社会の実現を目指す人材の育成
 7.日本の文化・芸術の発展とスポーツの振興の中核

 そうした役割を遂行し続けていくためにも、私立大学は個々の大学の教育目標を実現し、社会の負託に応えるべく、充実した教育を実践し続けていかなくてはならない。その意味では、国の政策も私立大学が競争的資金を国公立大学と同じスタートラインに立って競い合うというような方法ではなく、国公私立大学がそれぞれに機能を発揮し得る教育プログラムを構築し、実践できるようにしていくことが求められている。

(2)国の高等教育システムと国公私立大学の役割

【提言3】

 これまでの国公立大学が果たしてきたといわれている知識・技術の創造拠点、中核人材の養成拠点及び教育機会均等の保障といった三つの役割は、私立大学を中心に役割を編制し直すことによって私立大学がその大部分を担うことができる。私立大学と社会の密な連携による人材育成体制をつくり、さらに特徴のある高度な私立大学の発展を促せば、公平・公正で効果的な国費の活用を図ることができる。
  よって、国立大学は、独立行政法人通則法の趣旨に照らして、その精査と説明責任を果たすことが必要不可欠である。国立大学は、直接実施する必要のないもの、民間で実施できるもの、独占的に行う必要がないもの、学部教育並びに専門職大学院の一部については、その事業から撤退するとともに、一定の国費の投入による国立大学でなければ担うことのできない分野の大学院レベルの教育と大規模な学術研究や科学技術を中心とする基礎及び開発研究へ特化すべきである。

  国公立大学システムの検証と
  私立大学を中心とする総合的大学政策の確立

 わが国の大学は、法律に定められた法人である学校法人が設置する私立大学のほか、国が設置する国立大学、地方公共団体が設置する公立大学及び株式会社が設置する株式会社立大学が存在する。しかし、私立大学は大学数においても、学部学生数においても約8割を占めており、わが国の大学教育が私立大学をなくして成り立ち得ないことは明白である。
 これまでの国公立大学が果たしてきたとされる知識・技術の創造拠点、中核人材の養成拠点及び教育機会均等の保証といった三つの役割の多くの部分は、私立大学という「民間の力」の活用と、国私間格差を是正した公平・公正な国費負担の実現によって可能である。多額の国費が投下されている国立大学は、1.国自ら主体となって直接に実施する必要があるか、2.民間の主体に委ねた場合に必ずしも実施されないおそれがあるか、3.独占的に行うことで効率的かつ効果的に行うことができる分野か、といった独立行政法人通則法の趣旨に照らして、それを精査し、国は説明責任を果たすことが必要不可欠である。直接実施する必要のないもの、民間で十分に実施できるもの、独占的に行う必要がないもの、多くの学問分野における学部教育並びに専門職大学院の一部については、その事業から撤退して、一定の国費の投入による国立大学でなければ担うことのできない分野の大学院レベルの教育と大規模な学術研究の拠点、とりわけ科学技術研究の中核として重点化すべきである。

(3)社会的視点

(a)日本社会の知的基盤を高める

 現代社会は、あらゆる意味で根本から変化が起こりつつある。そしてそれぞれの国も地域も人々も対応を迫られているという自覚を持ちながら、それをなんとか過去との連続性を保ち、既得権を守りつつ移行しようとする必死の努力を続けている。しかし、今は新しい改革が不可欠なときである。そこには、創造という魅力的な挑戦とともに、少なからぬ破壊や矛盾が生ずるのかもしれない。それを推進できるのはやはり若い世代であり、異文化を持つ人材である。大学はそれらをリードし、意欲的な若者がグローバルな環境で育つことで、初めて真のイノベーションは起こる。
 日本は、これまでその知的基盤に影響を与えるほど海外から大量の知的労働力を迎えてきていない。大学においても、留学生の数も、海外の大学と学生の交流も期待するほどには増加していない。したがって日本の大学の課題は、自力でグローバルなレベルでも地域レベルでもイノベーションを生む母体として、先頭に立って機能しなければならないことである。まずは、国際化を進められる大学は、海外大学との連携と留学生の受入などを一層活発化する。また、国内では、大学自体が国や地域社会、そして産業と一体となって教育研究活動を行うことが重要である。そして、学生たちの訓練も幅広い職業教育を含めて行われる必要がある。現在のように18歳で入学して22歳で卒業して初めて社会に出るという大学と職業を全く分断するのではなく、パートタイム、休学、留学を含めて社会的訓練と従来からの大学における教育を同時に組み合わせて、あるいは時間的に交代して織り重ねて「重層的」に行うことが大衆化した高等教育の方法として極めて重要である。
 全国民がそれぞれの意欲と必要性に応じて、適切な教育や訓練を受けることを可能にすることで、日本の知的基盤を基本から高めることができる。

(b)高齢化社会への対応と大震災に対する復興

 わが国の高齢化の進展は、極めて深刻、かつ、できるだけ早急な対応が迫られている課題である。高齢化への対応は、単純な原理によって最適な解を導けるようなものでなく、多様な視点に基づいた対応が求められる。
 国全体の統一的社会政策だけでなく、各地域毎にその状況に応じた取り組みが必要であるが、各地の大学の連合組織と行政の協力は重要である。大学のコンソーシアムは教育面の協力だけでなく、地域社会の問題解決のリーダーとして役割を果たさなければならない。
 今、差し迫っている東日本大震災に対する復興事業は、日本社会の再構築のまたとない重要な機会であって、私立大学も総力をあげて参加すべき事業である。
 私立大学は教職員、学生や卒業生をはじめとする校友といった大規模な人的ネットワークが構築され、人的ネットワークに基づいた多様な知的資産を有している。高齢化したわが国社会の持続可能性を追求するには、生命医学・健康医療・社会福祉といった分野をはじめ、私立大学の大規模な人的ネットワークと多様な知的資産の活用が不可欠である。

(c)グローバル化への対応を可能にする

【提言4】

アジア各国の大学で短期に学び合う仕組み(アジア版エラスムス計画)の構築が喫緊の課題である。
⇒ 大学の国際化、とくにアジア・環太平洋諸国との交流の推進

 アジア地域は急速な近代化と18歳人口急増のなかで高等教育ニーズが急拡大している。また、アジア太平洋地域の経済を中心とする密な連携関係が進行するなかで、アジア太平洋地域の高等教育については、これまでの大学間交流などの枠組みを超えて、地域協力及び統合の基礎となる教育研究体制、人材育成システムの確立を目指す必要がある。日本がアジア地域で最も早く近代化した国として、アジア地域全体の高等教育の発展に中心的役割を果たしていくことは、わが国の国のあり方として重要という国民的合意が必要である。そのうえで、どの大学も普通に留学生の友人がいる状態をつくり出し、わが国の人材養成の視点のみならず、アジア太平洋地域や世界の人材養成を担うとの志をもって、学位取得型や交換留学だけでなく、アジア太平洋地域各国の大学で短期に学び合う仕組み(アジア版エラスムス計画)の構築が喫緊の課題である。
 また、留学生への教育や日本人学生の国際化教育については、動機づけや交流プログラムのレベルではなく、カリキュラムの一部として組み込まれるべきであり、そのカリキュラムのグローバル化は不可欠である。

(d)地域社会と中小企業を支える人材を供給する

 大都市に基盤を置く大学は、大企業と同様に競争原理、市場原理によって、全体が進んでいく可能性を持つが、小さな地域では社会との連携、協力なしに機能できない。
 私立大学はこれまでに培ってきた人的ネットワークと知的資産に代表される多様で重層的な「民の知恵」を蓄積しており、わが国全体の国力の向上とともに、疲弊が進んでいる地域社会においても、国公立大学及び行政、企業と共同して地域社会の活性化と中小企業を支えるのに基盤となる人材を供給する。

(e)日本文化を発展させる母体となる

 私立大学が構築してきた多様で重層的な知的資産は、わが国の歴史や伝統に基づいた文化の継承、さらには“クール・ジャパン”と呼ばれる現代の社会情勢を反映したサブ・カルチャーの発信源として不可欠であり、私立大学は今後も日本文化発展に寄与することができるであろう。

(f)スポーツの振興の中核となる

 わが国の私立大学における運動部等による学生スポーツが、純然たる大学教育の一環としてなされていることは、諸外国に比して大きな特色といえよう。大学教育の一環として培われてきた人的・物的資産は、わが国のスポーツ振興を支える社会的資産であり、今後のより一層の発展によって、わが国のスポーツの中核拠点となってその振興に貢献していくことが期待される。

(4)私立大学における学術研究の特徴

 少子高齢化が加速的に進展するなかで、わが国が今後においても国力の維持・発展を遂げていくためには、活力に溢れた新しい多様な価値を創造できる「自立した人材」が多く必要である。「人材」の育成には、社会基盤全体のレベルアップを図る人材育成とともに、わが国の産業競争力を増すために科学技術の研究開発を進める研究人材の育成が必要である。
 私立大学においても、有力な理工系を持つ総合大学及び単科大学が存在するが、国立大学と私立大学の研究環境には大きな格差がある。この差は、一つは研究者とそれを支援する支援者の人員の大きな差であり、もう一つは研究施設の差である。この格差は結果として、競争的資金の獲得実績に直接的な影響をもたらしている。このことは、有力な国立総合大学は、理工、医学系が大きい部分を占めているという事情によるところが多い。私立大学では、理工系の教育研究よりは、社会科学・人文科学の比重が高い。しかも、従来の私立大学等に対する教育研究装置・施設整備費補助事業は、2分の1あるいは3分の2補助であるうえに、その内容が極めて不十分である。このことが、理工系に限らず私立大学における研究環境改善を立ち遅らせる要因の一つとなっている。
 わが国の研究者の多くは私立大学に所属しており、高い研究実績を持つ者も多いが、そのポテンシャルが十分に活用されていないのは、国家的損失と言えよう。しかし現実は、それぞれの私立大学では、各分野の研究者の数は小さいので、研究拠点を形成することは一般には難しい。私立大学には国立大学に比べて圧倒的に人文・社会科学分野の研究者が多いから、その研究コミュニティの力を大いに利用すべきである。国の設定する研究拠点とネットワークを形成して、オールジャパン体制を確立することによって、わが国の学術研究の国際的なプレゼンスの向上が期待できる。私立大学と国立大学法人等との間で研究者を派遣、交換する場合の処遇等のシステムを確立すべきである。
 また、基礎研究の新たな発展には一つの学術分野にとどまることなく複数の学術分野に立脚した新たな学術分野や融合分野の開拓が必須である。今後の人類的な課題解決に資する基礎研究には、人文・社会科学的課題との連携を行うことが大切である。例えば、経済と環境の両立、自然共生・循環型社会の実現、脳科学と人文科学の連携等が考えられ、複数の研究コミュニティ間の議論を積み重ねることが必要である。このような新しい研究分野について、国立大学に限らず私立大学に共同利用中核研究拠点を設置することができる。
 理工系人材育成の重要な供給源である大学院の一層の充実のためには、学部段階、とくに初年次・低学年次における教育の充実が欠かせない。とくに、学生の理工系離れが依然として危惧されるなか、理工系学部への進学希望者を将来にわたって、維持・拡充させていくためには、私立大学の理工系学部の強化が不可欠である。今回の福島原子力発電所の事故の根本原因の一つは、日本の技術者のレベルと層の弱体化であり、リスク・マネジメントなどの組織運営における技術者の責任と役割の低下による。人社系に比べて理工・医学系等の人材育成には費用を要するが、私立大学の理工系教育を充実することが効果的である。国立大学や国の機関で行われる大規模な科学技術研究については、私立大学の大学院は共同体制を組んで人材育成を行うべきである。
 また、日進月歩で高度化・専門化・複雑化・学際化する科学技術と、国民の科学技術に対する理解との間に乖離が見られることから、18歳人口の過半が進学する大学・短大、とりわけ私立大学では、科学リテラシー教育や倫理、さらにはレギュラトリーサイエンスなどの教育の促進が図られるべきである。

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生涯学習政策局政策課教育改革推進室

(生涯学習政策局政策課教育改革推進室)

-- 登録:平成24年05月 --