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16  G8教育大臣会合・フォーラム  議長サマリー(仮訳)

2000年4月1・2日  主要8カ国教育大臣会合

  主要8カ国(G8)の首脳及び欧州委員会委員長は、1999年のケルンサミットにおいてすべての国、特に当該8カ国の社会経済的発展における教育の重要性を強調した。その信念は、経済的成功、市民としての責任、社会的統合を達成するために教育が果たす役割を強調した「ケルン憲章−生涯学習の目的と希望」の中に盛り込まれた。すなわち、教育と生涯学習は、伝統的な工業化社会から顕在化しつつある知識社会への変容の中での柔軟性と変化に適応するために必要な「流動性へのパスポート」を個々人に付与するものと宣言された。
  G8の教育大臣及び欧州委員会の教育担当委員は、2000年に初めて一堂に会し、「変容する社会における教育」の視点を入れて上述のビジョンをさらに詳細に取り上げた。我々は、4月1日から2日にかけて東京において、経済協力開発機構(OECD)及び国連教育科学文化機関(UNESCO)をオブザーバーとして会合を行った。以下は本会合の結論をとりまとめたものであり、2000年7月開催予定の沖縄G8サミット、自らのコミュニティ及びG8以外の国々に推奨するものである。
  知識社会は重要な機会を提供すると同時に、現実的な危機をももたらすものである。知識社会においては、これまでの学習や教授のあり方に根本的な変化が求められる。すなわち、学習機会を提供するに当たって、その内容及び形態を新たに組織し直すこと、学習者の知的・情緒的・社会的要求を把握し直すことが求められる。労働市場で求められる技能レベルは高く、すべての社会は教育レベルの向上という課題に直面している。高い技能レベルを身につけ維持できる者は社会的にも経済的にも大成功を収めることができるが、そうでない者は安定した職業及び、その職業によって得るべき社会的・文化的生活活動に必要な収入を得る見通しも立たない状態で、かつてない疎外の危険に直面している。
  このような状況にあって、生涯学習はすべてのひとにとって高い優先課題となっている。知るための学習、(何かを)するための学習、(何かに)なるための学習、共に生きるための学習という4つの柱に基づいて、生涯学習は知識社会に完全に参画するための十分な機会を与えてくれる。生涯学習は国家開発の基礎であり、経済・社会の発展の基礎を築き、個々人がその発展に貢献し、またその発展から利益を得るための能力を培う。また、一人ひとりの文化と国家の総体的な文化の両方を維持・発展させ、文化の違いを越えた相互の尊敬と理解を深める。
  教育政策にしてもその実施にしても、それだけで独立して立案・具体化できるものではない。真の生涯学習制度を実現する初等教育、中等教育及び高等教育間の一貫性と関連性がなくてはならない。また、雇用、科学、技術や情報コミュニケーションなどに関する政策との一貫性と関連性がなくてはならない。社会全体や地域コミュニティとともに実施するという約束がなされるべきである。
  新たな戦略は、国境を越えた協力により見出すのが最善である。しかも、文化、言語、各国の教育制度の多様性を十分尊重し、このような戦略の探求は、画一を求めるためのものではなく、その成果は他者の経験を理解することにより豊かになるものである。また、この探求のための協力は国際的な理解と評価を高めるものでもあるが、G8諸国の中にのみ止まってはならない。我々は、我々のビジョンを実現するため、他の国々との協力や国際機関との協働の機会を求める。開発途上国の教育システム構築への協力に特に注意が払われるべきであると我々は確信する。2000年4月26日から28日にかけてダカールで開催される世界教育フォーラムにおいて、国際コミュニティが万人のための教育に対するコミットメントを強力に再確認することは重要である。

  変容する社会における教育面での挑戦
  教育の民主化とそれに伴う若者の進学率の上昇を受けて、この変化しつつある社会のより挑戦的な要求に応えるためには、教育のレベル・種類の多様化が必須である。
  教育は、若者が新たな世紀の複雑で情報豊かな社会経済に参加するための、より多くの機会をつくり出してきた。しかしながら、これらの機会は、社会のすべての人々に平等に共有されている訳ではない。家庭の事情により不利益を受けている者もいるし、限られた教育機会や意欲不足により不利益を受けている者もいる。各国がより多くの若者により高いレベルの教育を受けさせることに成功するに従い、早い段階で脱落する者はより遅れをとることとなる。
  同時に、社会の変化は新たな困難を生み出している。豊かさのただ中にあって、成功する能力をもつ者が、自分の達成すべき目的意識を見失うという危険が生じている。コミュニティや家族の絆が弱まっている。生まれ育った環境に関わりなく、若者にかかる社会的・文化的重圧は大きくなっている。学校は、学習の遅れ、欠席、退学、非行などの問題に取り組まなければならない。
  これらの課題に対処するため、G8各国は引き続き多様な目標を目指している。特に;
社会人としての生活に必要な知識や技術と同様に、倫理的態度や良き市民であることの価値を身につけさせること
学生の学力を向上させること
成績や学力をモニターし比較するための指標を開発すること、
貧困及び社会的放置による不利に立ち向かうこと、及び社会の底辺に追いやられる危機に瀕している人々のための強力な救済策を講じること
学習意欲が欠如している者を引きつける新たな方法を、より個別的な支援や職場とのより良い連携も含めて探ること
特に職業上の能力を向上させることにより、教員の資質向上を図ること
伝統的に生涯学習を享受してこなかった人々に対して、生涯学習へのアクセスを広げること
学校活動への保護者や地域コミュニティの関わりを奨励すること
  G8各国は、若者がより明るい未来を迎えるために、それぞれの方法で、これらの問題への対処に取り組んでいく。我々は、これらの問題は教育政策のみで対処できるものではなく、社会・経済分野の諸政策との組み合わせが必要であると考えている。
  我々は、教育上の不利益に関する問題への効果的な取り組み方法、学生に寛容性と共同体精神を培うためのよりよい学習環境と戦略を築く方法に関して、研究が行われ、政策決定者、教育関係者及び研究者との間で対話が図られ、また国際的な協力関係が確立されることを奨励することに同意した。
   
  生涯学習と遠隔教育
  生涯学習に関するケルン憲章は、各国が学習社会へ移行するとともに、すべての市民が新たな世紀において必要とすることになるであろう知識、技能、資格を備えるようにするという課題に各国が現在直面していることを認識した。近年における衛星通信、大容量光ファイバー、インターネットなど情報通信技術の飛躍的発展は、生涯学習及び国際理解の手段としての遠隔教育の力を大いに拡大した。学習と仕事の両立は、遠隔教育によってはるかに容易になるであろう。ICTは、適切に応用されれば、開発途上国の学習機会の拡大にとって強力な手段となり得る。
  我々は次のことに合意した。  
  1) 幼児から高齢者まですべての人々が生涯を通じていつでもどこにいても教育にアクセスできるようにするため、生涯学習機会の拡充に努めること
  2) 公的・私的部門による遠隔教育に関する国際協力を奨励すること
  3) ボーダレス化が進む教育活動の(各国の)教育システムにとっての意味合いについて、第一に専門家の会合で検討すること
  4) 遠隔教育に関し関係機関と専門家が経験を共有するよう奨励すること
   
  教育革新と情報通信技術(ICT)
  様々な人々や考え方が相互に作用し合うことは、教育というものの本質的な部分である。情報・コミュニケーション技術(ICT)は、社会全体に対して、学習機会へのアクセスを拡大することや、児童生徒の理解力・創造力を深めることを可能にする潜在力を持つものであり、教育の内容を豊かにし教育機会提供の方法を変える展望を与えるものである。また、情報・コミュニケーション技術は、学校、職場、さらには生涯の全般にわたり、個々人が情報を入手し問題を解決する能力を高めるための道具ともなる。しかし同時に、ICTの光の部分だけではなく影の部分にも注目する必要がある。特に、社会の中で恵まれた者とそうでない者の間の、いわゆる「デジタル・デバイド」を減少させるような施策を実施することについても、配慮がなされなければならない。
  我々は次のことに合意した。
  1) 「テクノロジカル・リテラシー」の具体的な内容、そのようなリテラシーを持つために必要な技能を教授・評価するための効果的な実践事例、また、将来において学校やその他の場で行われる学習を支援するためにテクノロジーを効果的に活用する方法について、関係する研究活動を支援するとともに情報の共有を行うこと
  2) 情報・コミュニケーション技術を職業教育訓練や職場での学習を含む学習の分野に活用することを奨励すること
  3) 教育に用いられるテクノロジーへのアクセスに係る障害を軽減させるための効果的な実践事例を共有し、これによって国内的・国際的な「デジタル・デバイド」を減少させること
  4) 教育に利用可能な質の高いコンテンツ・ソフトウエアにアクセスするためのクリアリングハウスやポータルサイトの開発を目指すプロジェクトの価値を認識し、これらに対する物的・知的支援を強化すること
  5) 教員がテクノロジーを教育に効果的に活用できるような方法や、児童生徒が正確で適切な情報を選んで利用したり、発見や学習や教育上の達成のための適切な道具として技術を利用できるようにするための方法について、情報を共有すること
  6) 教員、研究者、技術者、行政関係者などの専門家が、今後新しく開発されるテクノロジーを実際に教育の課題に活用していくことについて協力できるよう、国際的なネットワークの構築を奨励すること
   
  学生、教員、研究者、行政官の国際交流の促進
  以前にも増して、国際的経験は、あらゆるレベルの学生、教員、研究者、行政官にとって高い価値を持っている。世界経済の相互依存の高まりにより、様々な分野における国際協力・交流を通じた相互理解や各国間の相互信頼に基づく友好関係の必要性が増大してきている。知識と技能はますます国際的に移転されやすくなっている。
  ケルンサミットは、学生、教員、行政官の交流を促進することが重要であることを確認し、教育大臣に対し、主要な障害を明らかにした上で、これらの解決策を提案することを要請した。
  我々は、あらゆるレベルの教育・訓練分野におけるさらなる国際交流を奨励するものであるが、それは公的な交流プログラムによるものだけではなく、機関間の協力的な取組や個々の学生・教職員による自発的交流をも含むものである。我々は、国際経験を通じた能力向上の機会を教員に与えることに特別の優先順位を置く。
  交流を今後推進するにあたっては、
  − 海外での学習成果に対する評価、カリキュラムや単位−資格の認定の問題
  − 交流先に関する情報の不足
  − 経済的支援の水準と運用
  − 言語−異文化理解の問題
  − 規則上の障壁(入国に伴う諸手続、関税、社会保障、医療費、労働制限)
  − 教員の帰国後の処遇と派遣時の代理の確保
  − 宿舎の不足

  への取組が必要であり、教員、行政官の交流については、国際交流の意義、目的に対する政策決定者の理解不足という更なる障害がある。

  我々は、学生、教員、研究者、行政官の国際交流の一層の促進に向けて、互いに協力しつつ最大限努力することとし、次のことに合意した。
  1) G8各国間及びその他の国々との間の交流規模を大幅に拡大する方途を探ること(今後10年間での流動性の倍増を目標)
  2) 海外留学者の資格−単位の相互認定を促進すべく適切な組織や教育機関を奨励すること
  3) ヨーロッパにおけるエラスムス計画やアジア太平洋地域におけるUMAPなどの国際交流推進ネットワークの経験を共有し、教育交流ネットワークのさらなる発展を奨励すること
  4) あらゆるレベルの外国語学習、地域研究、異文化理解に関する教育の充実を一層図ることと、特に大学における外国語による教育プログラム実施を奨励または支援すること
  5) 途上国援助政策にあたって人材養成、人的交流関係事業の一層の強化を図ること。普遍的性格を具備しているユネスコは、この点に関して有益な役割を果たせるだろう。


  終わりに、諸大臣は、OECD等の既存の国際的フォーラムを活用することにより、上に述べられた合意事項の進捗状況についてレビューし、首脳に報告することに合意した。さらに、G8の教育大臣による会合を、必要に応じて今後とも開催することが示唆された。


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