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9  教員の地位に関する勧告(抄)

1966年9月21日〜10月5日  ユネスコ特別政府間会議採択

前  文
  教員の地位に関する特別政府間会議は、
  教育を受ける権利が基本的人権の一つであることを想起し、
  世界人権宣言の第26条、児童の権利宣言の第5原則、第7原則および第10原則および諸国民間の平和、相互の尊重と理解の精神を青少年の間に普及することに関する国連宣言を達成するうえで、すべての者に適正な教育を与えることが国家の責任であることを自覚し、
  不断の道徳的・文化的進歩および経済的社会的発展に本質的な寄与をなすものとして、役立てうるすべての能力と知性を十分に活用するために、普通教育、技術教育および職業教育をより広範に普及させる必要を認め、
  教育の進歩における教員の不可欠な役割、ならびに人間の開発および現代社会の発展への彼らの貢献の重要性を認識し、
  教員がこの役割にふさわしい地位を享受することを保障することに関心を持ち、
  異なった国々における教育のパターンおよび編成を決定する法令および慣習が非常に多岐にわたっていることを考慮し、
  かつ、それぞれの国で教育職員に適用される措置が、とくに公務に関する規制が教員にも適用されるかどうかによって非常に異なった種類のものが多く存在することを考慮に入れ、
  これらの相違にもかかわらず教員の地位に関してすべての国々で同じような問題が起こっており、かつ、これらの問題が、今回の勧告の作成の目的であるところの、一連の共通基準および措置の適用を必要としていることを確信し、
  教員に適用される現行国際諸条約、とくにILO総会で採択された結社の自由及び団結権保護条約(1948年)、団結権及び団体交渉権条約(1949年)、同一報酬条約(1951年)、差別待遇(雇用及び職業)条約(1958年)、および、ユネスコ総会で採択された教育の差別防止条約(1960年)等の基本的人権に関する諸条項に注目し、
  また、ユネスコおよび国際教育局が合同で召集した国際公教育会議で採択された初中等学校教員の養成と地位の諸側面に関する諸勧告、およびユネスコ総会で、1962年に採択された技術・職業教育に関する勧告にも注目し、
  教員にとくに関連する諸問題に関した諸規定によって現行諸基準を補足し、また、教員不足の問題を解決したいと願い、
  以下の勧告を採択した。
1  定義
1   本勧告の適用上、
(a)   「教員」(teacher)という語は、学校において生徒の教育に責任を持つすべての人々をいう。
(b)   教員に関して用いられる「地位」(status)という表現は、教員の職務の重要性およびその職務遂行能力の評価の程度によって示される社会的地位または尊敬、ならびに他の職業集団と比較して教員に与えられる労働条件、報酬その他の物質的給付等の双方を意味する。

2  範囲
2   本勧告は、公立・私立共に中等教育終了段階までの学校、すなわち、技術教育、職業教育および芸術教育を行なうものを含めて、保育園・幼稚園・初等および中間または中等学校のすべての教員に適用される。

3  指導的諸原則
3   教育は、その最初の学年から、人権および基本的自由に対する深い尊敬をうえつけることを目的とすると同時に、人間個性の全面的発達および共同社会の精神的、道徳的、社会的、文化的ならびに経済的な発展を目的とするものでなければならない。これらの諸価値の範囲の中で最も重要なものは、教育が平和の為に貢献をすること、およびすべての国民の間の、そして人種的、宗教的集団相互の間の理解と寛容と友情に対して貢献することである。
4   教育の進歩は、教育職員一般の資格と能力および個々の教員の人間的、教育学的、技術的資質に大いに依存するところが大きいことが認識されなければならない。
5   教員の地位は、教育の目的、目標に照らして評価される教育の必要性にみあったものでなければならない。教育の目的、目標を完全に実現する上で、教員の正当な地位および教育職に対する正当な社会的尊敬が、大きな重要性をもっているということが認識されなければならない。
6   教育の仕事は専門職とみなされるべきである。この職業は厳しい、継続的な研究を経て獲得され、維持される専門的知識および特別な技術を教員に要求する公共的業務の一種である。また、責任をもたされた生徒の教育および福祉に対して、個人的および共同の責任感を要求するものである。
7   教員の養成および雇用のすべての面にわたって、人種、皮膚の色、性別、宗教、政治的見解、国籍または門地もしくは経済的条件にもとづくいかなる形態の差別も行なわれてはならない。
8   教員の労働条件は、効果的な学習を最もよく促進し、教員がその職業的任務に専念することができるものでなければならない。

4 教育目的と教育政策
10   それぞれの国で必要に応じて、人的その他のあらゆる資源を利用して「指導的諸原則」に合致した包括的な教育政策を作成すべく適切な措置がとられなければならない。その場合、権限ある当局は以下の諸原則および諸目的が教員に与える影響を考慮しなければならない。
(a)  子供ができるだけ最も完全な教育の機会を与えられることは、すべての子供の基本的権利である。特別な教育的取扱いを必要とする子どもについては、適正な注意が払われなければならない。
(b)  あらゆる便宜は、性、人種、皮膚の色、宗教、政治的見解、国籍又は門地もしくは経済的条件のゆえに差別されることなくすべての人々が教育を受ける権利を享受しうるように、平等に利用しうるものであるべきである。
(c)  教育は、一般公共の利益に役立つ基本的重要性をもつ業務であるから、国家の責任であることが認識されなければならない。国家は十分に学校を分布し、そこで無償の教育を行い、貧しい児童に物質的援助を与えなければならない。
  このことは父母および場合によっては法的保護者が国家によって設立される学校以外の学校をその子どものために選ぶ自由を妨げるもの、または、国家によって定められているか認められている最低教育水準をみたした教育機関を個人あるいは団体が設立し管理する自由を妨げるものという意味に解釈されてはならない。
(d)  教育は経済成長における不可欠の要因であるから、教育計画は生活条件改善のために立てられる経済的・社会的全計画の必要欠くべからざる部分とならなければならない。
(e)  教育は、継続的過程であるから、教育業務の各種部門は、すべての生徒に対する教育の質を向上させると同時に、教員の地位を高めるよう調整されなければならない。
(f)  いかなるタイプのいかなる段階の教育へも児童が進学する機会を制限するような隘路が起きないよう、適切に相互関連した柔軟性ある学校システムに自由に入れるようにしなければならない。
(g)  教育の目標として、いかなる国家も単に量でのみ満足すべきではなく、質の向上をも追求しなければならない。
(h)  教育においては、長期および短期の計画と課程編成が必要である。共同社会に今日の生徒をうまく組み入れることは、現在の要請より、むしろ将来の必要による。
(i)  すべての教育計画には、自国民の生活に精通し、母国語で教えることのできる国民である、有能で資格のある十分な数の教員の養成および現職教育の早期対策が、各段階にわたって含まれていなければならない。
(j)  教員養成および現職教育の分野における系統的継続的な研究と活動の協力が、国際的次元での協同研究および研究成果の交流を含めて、欠くことのできないものである。
(k)  教育政策とその明確な目標を決定するためには、文化団体、研究・調査機関はもちろんのこと、権限ある当局、教員、使用者、労働者および父母等の各団体ならびに文化団体、研究調査機関の間で、緊密な協力が行なわれなければならない。
(l)  教育の目的、目標の達成は、教育にあてられる財政手段に大きくかかっているのであるから、すべての国において、国家予算のなかで、国民所得のうちの十分な割合を教育の発展に配分することをとくに優先すべきである。

5 教職への準備
養成のための選抜
11   教員養成への入学に関する政策は、必要な道徳的、知的および身体的資質を備え、かつ要求される専門的知識および技能をもった十分な数の教員を社会に提供するという必要にもとづいたものでなければならない。

教員養成課程
19   教員養成課程の目的は、学生一人ひとりが、一般教育および個人的教養、他人を教える能力、国の内外を問わず良い人間関係の基礎をなす諸原則の理解、および、社会、文化、経済の進歩に、授業を通して、また自らの実践を通して貢献するという責任感を発展させるものでなければならない。
20   基本的に教員養成課程は次のものを含むべきである。
(a)  一般教養課目
(b)  教育に適用されているような哲学・心理学・社会学・教育および比較教育の理論と歴史・実験教育学・教育行政および各種教科の教授法等の諸科目の重要点に関する学習
(c)  その学生が教えようとする分野に関する諸科目
(d)  十分に資格ある教員の指導の下での授業および課外活動指導の実習
21   (1)すべての教員は、一般教養科目、専門科目、教育学諸科目によって、大学または大学と同等の教育機関で、あるいは教員養成のための特別機関で養成されなければならない。
(2)教員養成課程の内容は、障害児施設あるいは技術・職業学校等、種別を異にする学校で、教員が果たすことを求められる任務に応じて、合理的に変更することができる。後者の場合、この課程は、工業、商業または農業の現場において習得されるべき実際経験を含みうる。
22   教員養成課程は、各人の学術的または専門的教育もしくは技能開発コースと並んで、あるいはそれに引き続いて、専門コースをおくことができる。
23   教職のための教育は、通常、全日制であるべきである。ただし、年長の教職志望者や特別な部門にある者に対しては、このような課程の内容や修了の規準は、全日制課程の者と同様の水準にもとづくという条件のもとで、その課程の全部あるいは一部が定時制で行なわれるようにする特別の措置を講ずることができる。
24   初等、中等、技術、専門または職業教育のいずれの教員であるかにかかわりなく、異なった種類の教員が、有機的に関係ある、ないしは地理的に相互に近接する養成機関で教育を受けられるようにすることが望ましいことを配慮しなければならない。

教員養成機関
25   教員養成機関の教員は、高等教育と同等のレベルで、その専門について教えうる資格をもたなければならない。教育学諸教科の担当教員は、学校での授業経験をもたなければならない。そして可能なところでは学校での授業義務を補うことによって定期的にこの経験が再強化されなければならない。
26   教育および個々の教科の教授法の研究および実験的試みは、教員養成機関に研究施設を設けること、およびその教員と学生による研究活動等を通じて促進されなければならない。教員養成にたずさわる全教員は、関係分野における研究成果を熟知し、その成果を学生に伝達するよう努力しなければならない。
27   教員養成機関における生活、活動、規律を定める措置について、教員と同様に、学生もその意見を表明する機会をもたなければならない。
28   教員養成機関は、学校が研究の成果や方法論上の進歩に歩調を合わせて進めるようにし、また、学校と教員の経験を教員養成機関の独自活動のなかに反映しながら、教育事業における発展の中心をなすものでなければならない。
29   教員養成機関は、個別にまたは合同し、他の高等教育機関または教育当局と提携して、または単独で、教員養成課程を満足に終了した学生には資格証明を与える責任をもたなければならない。
30   学校当局は、教員養成機関と協力して、新卒教員が、習得した内容、個人の希望、環境に応じて就職できるよう、適切な措置を講じなければならない。

6 教員の継続教育
31   当局と教員は、教育の質と内容および教授技術を系統的に向上させていくことを企図する現職教育の重要性を認識しなければならない。
32   当局は、教員団体と協議して、すべての教員が無料で利用できる広範な現職教育の制度の樹立を促進しなければならない。この種の制度は、多岐にわたる手段を準備し、かつ、教員養成機関、科学・文化機関および教員団体がそれぞれ参加するものでなければならない。一時教職から離れて再び教職に戻る教員のためとくに再訓練課程を設けなければならない。
33   (1)教員がその資格を向上させ職務の範囲を変更もしくは拡大し、または、昇進を希望し、かつ、担当教科や教育分野の内容および方法について最も新しいものを常に身につけるために、講習または他の適当な便宜が考慮されるべきである。
(2)教員が、その一般教育や職業資格を向上するための書物、その他の資料を利用できるようにする諸手段が講じられなければならない。
34   教員には継続教育の課程や便宜に参加するための機会および刺激が与えられ、また教員はこれらを十分に活用すべきである。
35   学校当局は、学校が教科および教授法に関する研究成果をとり入れられるようにするため、あらゆる努力を払わなければならない。
36   当局は、教員が、継続教育を目的として、集団であれ、個人であれ、自国内および国外を旅行するのを奨励すべきであり、できるかぎり、援助を与えなければならない。
37   国際的または地域的な規模での財政的技術的協力によって、教員の養成および継続教育のためにとられる措置が発展され補足されることが望ましい。

7  雇用とキャリア
教職への参加
38   教員団体との協力により、採用に関する政策を適切な次元で明確に定め、かつ教員の義務と権利を定める規則を制定しなければならない。
39   教職への就職に関する試用期間は、新しい教職参加者への励ましとたよりになる手ほどきのための、そして教員自身の実際の教授能力を向上させることとならんで適切な専門的水準を確立し、保持するための機会として教員およびその使用者の両者によって認識されなければならない。通常の試用期間は、あらかじめ知らされるべきであり、それを満足に修了するための条件は、厳密に職業的能力に関連づけられなければならない。もしその教員が試用期間を満足に修了しえなかったときは、教員はその理由を知らされなければならず、かつこれに対して意見を述べる権利をもたなければならない。

昇進と昇格
40   教員は、必要な資格を有することを条件として、教育の仕事の範囲内で、ある種の学校または、ある段階の学校から、他の種の学校または他の段階の学校に異動できなければならない。
41   教育事業の組織と構造は、個々の学校のそれをも含めて、個々の教員が付加的な責任を果たすことの自覚、および果たすための十分な機会を、これらの責任が教員の教授活動の質または規則性に不利にならないという条件のもとに、与えなければならない。
42   学校が十分に大きければ、さまざまの教員が各種の責任を果たすことから、生徒も利益を得、教員も機会を与えられるという利点に考慮が払われなければならない。
43   督学官および教育行政官、教育管理者あるいはその他、特別責任を持つ職など教育に責任をもつ職はできる限り広く経験豊かな教員に与えられなければならない。
44   昇格は、教員団体との協議により定められた、厳密に専門職上の基準に照らし、新しいポストに対する教員の資格の客観的な評価にもとづいて行なわなければならない。

身分保障
45   教職における雇用の安定と身分保障は、教員の利益にとって不可欠であることはいうまでもなく、教育の利益のためにも不可欠なものであり、たとえ学校制度、または、学校内の組織に変更がある場合でも、あくまでも保護されるべきである。
46   教員は、その専門職としての身分またはキャリアに影響する専断的行為から十分に保護されなければならない。

専門職としての行為の違反に関する懲戒処分
47   専門職としての行為違反の責を負うべき教員に適用される懲戒措置は明確に規定されなければならない。懲戒手続、およびすべての決定された措置は、授業活動の禁止が含まれているか、あるいは生徒の保護又は福祉がそれを必要とする場合を除いて、その教員がそれを要求するときにのみ公表されなければならない。
48   懲戒を提案し、ないしは適用する資格を有する当局ないし機関は、明確に指定されなければならない。
49   教員団体は、懲戒問題を扱う機関の設置にあたって、協議にあずからなければならない。
50   すべての教員は、一切の懲戒手続の各段階で公平な保護を受けなければならない。とくに、
(a)  懲戒の提起およびその理由を文書により通知される権利
(b)  事案の根拠を十分に入手する権利
(c)  教員が弁護準備に十分な時間を与えられ、自らを弁護し、または自己の選択する代理人によって弁護を受ける権利
(d)  決定およびその理由を書面により通知される権利
(e)  明確に指定された権限ある当局または機関に不服を申し立てる権利
51   懲戒からの保護、ならびに懲戒それ自体の効果は、その教員が、同僚の参加のもとで判定を受ける場合、非常に高まる、ということを当局は認識しなければならない。

8  教員の権利と責任
職業上の自由
61  教育職は専門職としての職務の遂行にあたって学問上の自由を享受すべきである。教員は生徒に最も適した教材および方法を判断するための格別の資格を認められたものであるから、承認された計画の枠内で、教育当局の援助を受けて教材の選択と採用、教科書の選択、教育方法の採用などについて不可欠な役割を与えられるべきである。
62  教員と教員団体は、新しい課程、新しい教科書、新しい教具の開発に参加しなければならない。
63  一切の視学、あるいは監督制度は、教員がその専門職としての任務を果たすのを励まし、援助するように計画されるものでなければならず、教員の自由、創造性、責任感をそこなうようなものであってはならない。
64  (1)教員の仕事を直接評価することが必要な場合には、その評価は客観的でなければならず、また、その評価は当該教員に知らされなければならない。
(2)教員は、不当と思われる評価がなされた場合に、それに対して不服を申し立てる権利をもたなければならない。
65  教員は、生徒の進歩を評価するのに役立つと思われる評価技術を自由に利用できなければならない。しかし、その場合、個々の生徒に対していかなる不公平も起こらないことが確保されなければならない。
66  当局は、各種の課程および多様な継続教育への個々の生徒の適合性に関する教員の勧告を、正当に重視しなければならない。
67  生徒の利益となるような、教員と父母の密接な協力を促進するために、あらゆる可能な努力が払われなければならないが、しかし、教員は、本来教員の専門職上の責任である問題について、父母による不公正または不当な干渉から保護されなければならない。
68  (1)学校または教員に対して苦情のある父母は、まず第一に学校長および関係教員と話し合う機会が与えられなければならない。さらに苦情を上級機関に訴える場合はすべて文書で行なわれるべきであり、その文書の写しは当該教員に与えられなければならない。
(2)苦情調査は、教員が自らを弁護する公正な機会が与えられ、かつ、調査過程は公開されてはならない。
69  教員は、生徒を事故から守るため最大の注意を払わねばならないが、教員の使用者は、校内ないし校外における学校活動の中で生じた生徒の傷害のさいに教員に損害賠償が課せられる危険から教員を守らねばならない。

8  教員の権利と責任
委員の責任
70  すべての教員は、専門職としての地位が教員自身に大きくかかっていることを認識し、そのすべての専門職活動の中で最高の水準を達成するよう努力しなければならない。
71  教員の職務遂行に関する専門職の基準は、教員団体の参加のもとで定められ維持されなければならない。
72  教員と教員団体は、生徒、教育事業および社会全般の利益のために当局と十分協力するよう努力しなければならない。
73  倫理綱領または行動綱領は教員団体によって確立されなければならない。なぜなら、この種の綱領はこの専門職の威信を確保し、また合意された原則に従った職責の遂行を確保するうえで大きく貢献するからである。
74  教員は、生徒および成人の利益のために課外活動に参加する用意がなければならない。

教員と教育事業全体との関係
75  教員がその責任を果たすことができるようにするため、当局は教育政策、学校機構、および教育活動の新しい発展等の問題について教員団体と協議するための承認され手段を確立し、かつ、定期的にこれを運用しなければならない。
76  当局と教員は、教育事業の質の向上のために設けられた措置、教育研究、新しく改善された教育方法の発展と普及に教員がその団体を通じ、またその他の方法によって、参加することの重要性を認識しなければならない。
77  当局は、一つの学校またはより広い範囲にわたり、同一教科担任教員の協力を促進することを企図する研究会の設立とその活動を容易にすべきであり、この種の研究会の意見や提案に正当な考慮を払わなければならない。
78  教育事業の各方面に責任をもつ行政職員およびその他の職員は、教員と健全な関係を保つよう努力すべきであり、また、教員の側もこれら職員に対して同様でなければならない。

教員の権利
79  教員の社会的および公的生活への参加は、教員の個人的発達、教育事業および社会全体の利益のために奨励されなければならない。
80  教員は市民が一般に享受する一切の市民的権利を行使する自由をもち、かつ、公職につく権利をもたなければならない。
81  公職につく要件として、教員が教育の職務をやめなければならないことになっている場合、教員は、先任権、年金のために教職にその籍を保持し、公職の任期終了後には、前職ないしは、これと同等の職に復帰することが可能でなければならない。
82  教員の給与と労働条件は、教員団体と教員の使用者の間の交渉過程を通じて決定されなければならない。
83  法定の、または任意の交渉機構を設置し、これにより教員が教員団体を通じてその公的または私的使用者と交渉を行なう権利が保障されなければならない。
84  雇用条件等から生じる教員と使用者の間の争議の解決にあたるため、適切な合同の機構が設置されなければならない。もしこの目的のために設けられた手段と手続が使い尽くされ、あるいは当事者間の交渉が行きづまった場合、教員団体は、他の団体がその正当な利益を保護するため普通もっているような他の手段をとる権利をもたなければならない。

9  効果的な授業と学習のための条件
85  教員は価値のある専門家であるから、教員の仕事は、教員の時間と労力が浪費されないように組織され援助されなければならない。

労働時間
89  教員が一日あたり、および一週あたり労働することを要求される時間は、教員団体と協議して定められなければならない。
90  授業時間を決定するにあたっては、教員の労働負担に関係するつぎのようなすべての要因を考慮に入れなければならない。
(a)  教員が一日あたり、一週あたりに教えることを要求される生徒数
(b)  授業の十分な立案と準備ならびに評価のために要する時間
(c)   各日に教えるようにわりあてられる異なる科目の数
(d)  研究、正課活動、課外活動、監督任務および生徒のカウンセリングなどへ参加するために要する時間
(e)  教員が生徒の進歩について父母に報告し、相談することのできる時間をとることが望ましいということ
91  教員は現職教育の課程に参加するために必要な時間を与えられなければならない。
92  課外活動への参加が教員の過重負担となってはならず、また教員の本務の達成を妨げるものであってはならない。
93  学級での授業に追加される特別な教育的責任を課せられる教員は、それに応じて通常の授業時間を短縮されなければならない。

研修休暇
95  (1)  教員は給与全額または一部支給の研修休暇をときどき与えられなければならない。
(2)研修休暇の期間は、先任権および年金のための在職期間に通算されなければならない。

特別休暇
99  (1)教員は、教員団体の活動に参加できるように給与全額支給の休暇を随時与えられなければならない。
(2)教員は、教員団体の役職につく権利を有するべきであり、この場合、公職につく教員と同等の諸権利をもたなければならない。
100   教員は、雇用に先立って行なわれた取り決めにしたがって、正当な個人的理由による給与全額支給の休暇を与えられなければならない。

教員の交流
104  当局は教育活動にとっても、教員自身にとっても、外国との専門的、文化的交流および教員の外国旅行が大きな価値をもっていることを認識しなければならない。また当局は、このような機会を拡げるよう努力し、かつ、個々の教員が外国で得た経験を考慮しなければならない。
105  このような交流の希望者の募集は、いかなる差別もなしに行なわれなければならず、また、関係者はいずれか特定の政治的見解を代表するものとみなされるべきではない。
106  外国で研究し、教えるために旅行する教員は、そうするための十分な便宜と、その職と地位に対する適切な保障を与えられなければならない。
107  教員は、外国で得た教育上の経験を、教員の同僚とわかち合うことを奨励されなければならない。

10  教員の給与
114  教員の地位に影響する様々な要因のなかでも、給与はとくに重要視しなければならない。なぜならば、今日の世界的状況の中では教員に与えられる信望または尊敬、彼らの機能の重要性についての評価の程度等の諸要因は、他の対応する専門職の場合と同様、主として教員のおかれている経済的状態にかかっているからである。
115  教員の給与は
(a)  教員が教職についたときから彼らに課されるあらゆる種類の責任を反映しなければならないと同時に、教育機能の社会に対する重要性、したがって教員の重要性を反映しなければならない。
(b)  類似のあるいは同等の資格を要求される他の職業に支払われる給与とくらべて有利なものでなければならない。
(c)  彼ら自身と家族のために適正な生活水準を確保するとともに、研修の積み重ねまたは文化活動を続け、もって専門職としての資質を向上するに足るものでなければならない。
(d)  ある種のポストは、より高い資質と経験を必要とし、より大きな責任をともなうという事実を考慮しなければならない。
116  教員は、教員団体との合意によって定められた給与表にもとづいて給与を支払われなければならない。いかなる場合にも、有資格の教員には、その試用期間中あるいは臨時採用中に、正式に雇用された教員を対象として規定されたものより低い給与表によって給与を支払ってはならない。
117  給与構造は、異なる教員集団の間のまさつを起す原因となる不公平や変則性を生じないように計画されねばならない。
118  最高授業時数が定められているばあい、正規の時間数が通常の最高限度を超える教員は、承認された給与表にもとづいて追加の報酬を受けなければならない。
119  給与差は、資格水準、経験年数、責任などの客観的な基準にもとづいたものであり、最低給と最高給の関係は、合理的なものでなければならない。
120  いかなる学位ももたない職業科あるいは技術科の教員を基本給与表に格付けする場合には、その実際的訓練と経験の価値が考慮されなければならない。
123  (1)教員の給与表は、生活費の値上り、国内における生活水準の向上をみちびく生産性の増加、賃金または給与水準の全般的上昇動向などの要因を考慮に入れて定期的に再検討されなければならない。
124  給与決定を目的としたいかなる勤務評定制度も、関係教員団体との事前協議およびその承認なしに採用し、あるいは適用されてはならない。

12  教員の不足
141  (1)  すべての教員の緊急補充問題は、あくまで臨時の措置としてのみ考えられなければならず、すでに確立した、あるいは確立されるべき専門職としての基準をいかなる形にせよ引き下げ、または危くすることがなく、生徒に対する教育上の損失を最少限にとどめる方策によって処理することを指導原則としなければならない。
(2)過大学級、教員の授業担当時間の不当な延長など、教員の不足に対処することを目的とした臨機の処置は、教育の目的目標と両立しがたいものであり、生徒たちにとっても有害であることを認識して、権限ある当局は、緊急にこれらの便宜的処置を不必要とし、廃止するための手段を講じなければならない。
144  (1)できるかぎり、無資格者は、専門職としての資格をもつ教員の綿密な監督と指導のもとに勤務させなければならない。
(2)継続雇用の一条件として、これらの者には、その資格を得ること、あるいは十分なものにすることが要求されなければならない。
145  教員の社会的・経済的地位、生活条件および労働条件、雇用条件ならびにキャリアの見通しを改善することが、有能かつ経験をつんだ教員が不足しているという事態を克服することであり、また、完全な資格をもつ人々を十分な数だけ教職にひきつけ、ひきとめる最良の手段であることを当局は、認識しなければならない。

出典:「教育条約集」(永井憲一監修・国際教育法研究会編)三省堂

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