第2編 第6節 フィンランド

1.教育基本計画の法的位置づけ、策定プロセス、計画期間

 フィンランドにおける教育制度は、義務教育である総合教育(7歳〜16歳)、普通教育と職業教育、高等教育および成人教育から成り立っている。フィンランドでは義務教育が無料であることが憲法によって定められ、政府が、職業教育、一般教育、人文科学系の高等教育、大学教育を管理することとなっている。フィンランドにおける教育政策は議会によって制定される。教育省(Ministry of Education)が教育関係の法律を整備し政府に提出するために必要な決定を行う。
 教育政策の施行に関しては、中央政府レベルでは教育省、独立した専門機関である国立教育研究所(The Finnish National Board of Education)が責任を有している。教育省は教育・研究および文化の担当機関であり、総合教育、中等後教育、職業教育、ポリテクニックおよび大学を所管する。教育・研究に関する責任は、教育省と国立教育研究所の双方が負っている。国立教育研究所は、教育省と綿密な協力を図りながら、初等中等教育および成人教育・訓練(高等教育機関以外)を担当する。一方、地方行政レベルでは、フィンランドは6つの州に分かれており、各州の行政機関下に教育文化部を持つ。
 戦後のフィンランドの教育政策の主要目標は教育水準の向上、居住地、経済力、母国語、性別にかかわらず、すべての市民に対する平等な教育機会の提供であった。この目的は、量的にはほぼ達成され、教育政策の焦点は教育の質を向上させる制度の整備に移行し、教育水準や質とともに教育の内容、教育の方法が重要になってきている。すなわち、個人の選択の機会や裁量の拡大、国際化への対応が重要視されている。
 このため、教育機関は、お互いにそして地域コミュニティと協力し合うことが求められている。現在の目標は、簡素で明確、国際的に通用する教育構造および児童生徒個人の希望や社会のニーズに対応する学習環境を作ることにある。
 1990年代後半より、政府は、5年ごとに教育と研究のガイドラインを「教育・研究振興計画(Education and Research」を策定、承認することとなった。フィンランドでは1990年代の深刻な経済不況を脱するため、科学技術の振興と競争力強化を図ってきており、同時に教育の重要性が見直され、教育・研究振興計画はその改革の一環として位置づけられる。
 同計画は、政府の戦略に示される教育・科学政策の目標に基づいて教育省が策定するもので、各領域、各教育段階における振興施策、および教育や研究政策の定義および資源の配分について述べられており、フィンランドにおける教育の基本計画とみなすことができる。
 現在は「教育・研究振興計画1999〜2004」が終了し、「教育・研究振興計画2003〜2008」が実施中で、かつ次計画の準備が進められており、2007年12月には「教育・研究振興計画2007〜2012)」が発表される予定である。
 以下、本稿においては現在進行中の「教育・研究振興計画2003〜2008」(以下「振興計画」という)を取り上げる。

(1) 法的位置づけ

 振興計画は1998年に発布された「教育及び大学研究振興令(Decree on a Development Plan for Education and University Research(987/1998))に基づき、政府が4年ごとに、制定年を含む次の5年間についての教育・研究振興に関わる計画を策定する。

(2) 策定プロセス

 同計画は、政府の戦略に示される教育・科学政策の目標に基づいて教育省が策定する。教育省が策定した計画は議会によって制定される。

(3) 計画期間

 計画期間は2003年〜2008年の5年間となっている。

2.教育基本計画の体系

(1)計画の基本原則

 フィンランドでは、移民流入による社会構造の変化、少子高齢化にともなう労働人口の変化、地域格差、グローバル化など、社会経済的環境が変化している。こうした環境変化に対応した教育制度を整備し、かつ、「国民がすべての段階の教育を安心して受けられること」を目標に本計画が策定された。
 フィンランドは、もとより、平等、寛容、国際化、男女平等および環境問題に対する責任といった価値観を有する国である。「教育の機会平等」を最も重視し、移民も含めすべての人々は自分の能力に従い生涯学習し続けるべく教育を受ける平等な権利があるとされる。本計画でもこの方針が堅持されている。

(2)計画の体系

 本計画の章立てをみると、導入部、第1章は教育環境の変化、第2章は教育・研究の発展の方向性、第3章は教育制度(教育段階別)の発展、第4章は研究制度の発展となっている。

図表2-6-1 振興計画の各章と研究分野の対応

教育分野 5ヵ年計画の該当章
就学前教育
  • 第3章 就学前教育
初等教育
  • 第3章 初等・前期中等教育
中等教育
  • 第3章 後期中等教育
高等教育
  • 第3章 高等教育
  • 第4章 研究制度の発展
生涯教育
  • 第2章 教育機会の均等
  • 第3章 成人教育
教育基盤(教育行財政・学校施設等)関連
  • 第2章 教員の養成・研修
  • 第2章 移民の教育・訓練
  • 第2章 教育・研究の運営・財政

3.教育基本計画における重点分野の有無

 本計画における重点は、「効率的な教育制度」、「子供や若者への支援・指導」、「成人の教育・訓練機会」を一層充実させることにある。具体的な目的は次のとおりである。

 なお、教育省発行の“Finnish Universities”によれば、本計画の重点分野もしくは施策は次のとおりである。

大学では、以下の事項に重点が置かれている。

4.主要施策の内容

 本計画において述べられている各教育段階や関連の施策および背景にある教育環境と教育・研究の発展の全体的な方向性は次のとおりである。

(1) 教育環境の変化

1社会・文化的変化

2人口と労働需要の変化

図表2-6-2 教育を受ける児童生徒および若者数(予測値)

3労働需要の内容の変化

4地域間の格差

5経済のグローバル化

(2) 教育・研究の発展の方向性

 フィンランドは、平等、寛容、国際化、男女平等および環境問題に対する責任といった価値観および知識や創造性を有する国である。移民も含めすべての人々は自分の能力に従い生涯学習し続けるべく教育を受ける平等な権利があるとされる。こうした価値観に基づいて教育制度も作られる。

1教育・研究は福祉の建設者

2教育の機会と平等

(3) 就学前教育

(4) 初等教育

(5) 中等教育

(6) 高等教育

1高等教育の発展

2ポリテクニック

3大学

(7) 生涯教育

(8) 教育基盤

1教員養成

2移民への対応

3運営・財政関連

(9) 研究制度の発展

5.数値目標

 本計画に掲載されている数値目標は次のとおりである。

(1) 教育段階別入学者数

 後期中等教育以上の機関への進学者数を増加させるとし、振興計画の終了時の2008年における数値目標が以下のとおり設定されている。

図表2-6-3 2008年における教育段階別入学者数の目標人数(人)

(2) 高等教育機関への分野別入学者数

 高等教育機関への分野別入学者数の2008年(目標値)は次のとおり設定されている。2005年と比較すると人文のポリテクニックを除き減少している。

図表2-6-4 分野別入学者数(2008年目標値)

(3) 資格の取得者数

図表2-6-5 資格の取得者数(2008年目標)

(原文は“Further Education”)

(4) 中等教育

(5) 高等教育

(6) 生涯教育

(7) 教員

6.教育投資

(1) 教育支出のGDP比

 中央政府の教育支出は2005年に62億ドルから年々増加傾向にあり、2007年には66億ドルとなった。最も直近のGDP比(2005年)は3.9パーセントであった。
 一方、中央政府に地方当局や学生への金融支援などを加えたフィンランド全体の教育支出は、2004年に97億ドルでありGDPに占める割合は6.5パーセントであった。
 教育省によれば、2006年、総合教育、普通後期中等教育、職業教育およびポリテクニックへの教育支出の54.7パーセントを地方当局が、45.3パーセントを連邦政府が負担した(大学教育は含まず)。

図表2-6-6 フィンランドにおける中央政府の教育支出

図表2-6-7 教育関連の公共支出(中央政府、地方当局などを含む)とGDPに占める割合

(億ユーロ)

(2) 教育省の予算の内訳

 教育省の予算は国家予算の16パーセントを占め、1999年から2003年までに130億ユーロ増加した。次表に示すとおり、予算額が最も大きいのは一般教育、次いで大学教育・研究、奨学金(学生向け支援)、職業教育と続く。2006年に前年比伸び率が11パーセントと著しく高かったのが、重点投資分野となっている職業教育である。

図表2-6-8 教育省セクターの国家予算

(百万ユーロ)

7.教育基本計画の実施体制

 中央政府が教育計画を立案し、各分野の基準にしたがって予算を配分する。各教育機関や訓練機関は施策を実施し、評価を行うこととなっている。国全体の教育の評価は教育評価審議会が行い、高等教育については、高等教育評価審議会が行う。
 また、結果が重視され、結果により調和された目標が設定される。

8.教育基本計画の評価

 本計画の評価システムは、概ね教育全般の評価システムに沿ったものとなっている。フィンランドでは、1990年代に教育における中央政府の運営の役割が軽減し、地方機関による意思決定権が拡大している。各教育機関は国が目指す目標に沿って行う活動について自分たちで自由に決めることができるようになっている。こうした進展とともに評価がより重要になってきている。
 全ての分野の教育を評価することが法によって義務付けられている。1999年1月に施行された新しい教育法では、教育機関は自らが自らの運営およびその効果を評価することになっている。国レベルの評価の一部は各教育機関の自主評価が利用される。
 教育の評価の目的は、法に規定されている目的が達成され、教育の振興を推進し、学習の機会が拡大されているかについて確認することにある。教育の提供者は自らが提供する教育とその効果を自主評価からモニターし、外部評価にも参加する。外部評価と自主評価は教育の成果、および効率性、効果、財政的アカウンタビリティを強化する。
 中央政府では、外部評価およびその改善は教育省と教育評価協議会が担当する。国立教育研究所も専門家として教育の結果およびカリキュラムの評価に参加する。なお、教育評価協議会のメンバーは4年に1回任命される。なお、本計画では、国際・国内の評価プロジェクト、地方のニーズに配慮する。
 高等教育機関の評価の責任はポリテクニックと大学にあり、評価は、高等教育機関自身と高等教育評議会が行う。なお、本計画では、大学・ポリテクニック、教育・開発・研究の3者の連携を重視して評価を行う。
 なお、2004年に教育省に行ったヒアリングによれば、大学における本計画の評価のプロセスは次のとおりであった。こうした評価はすべて公表されることとなっている

【参考文献】

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