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資料3

子どもの意欲・やる気等の向上・低下に係る調査研究成果・事例の収集調査
(結果の概要)

平成18年2月

1   調査実施の概要
 
1. 調査の目的
 体験活動や生活習慣等の子どもの前向きな気持ちや物事に対する積極的な態度などへの影響を考察するため、様々な機関が実施した子どもの意欲ややる気に関する調査研究の成果を整理するとともに、特に子どもの意欲・やる気等を高める効果が高い事例について、その具体的な取組内容等をまとめ、体験活動や生活習慣等が子どもの意欲・やる気等の向上とどのような関わりをもつかを明らかにすることを目的とする。

2. 調査の対象・時期等
1 調査対象
 以下の各機関が実施もしくは発表した報告書等から、子どもの意欲・やる気等の向上等に関する論文や調査研究を収集・整理した。収集する範囲としては、過去10年間の調査研究論文を対象とした。
調査対象 具体的な対象機関 調査方法
行政機関 都道府県・政令指定都市 教育委員会及び教育センター アンケート
心理・教育関連学会 日本スポーツ心理学会、日本発達心理学会、日本教育心理学会、日本こども社会学会、日本小児科学会、日本パーソナリティ心理学会(日本性格心理学会)、日本教育社会学会、日本教育情報学会、日本人間性心理学会、日本小児科学会 等 インターネット・図書館等での検索による文献調査
教育関連の研究機関 国立教育政策研究所、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター、伊藤忠記念財団、国立女性教育会館 等
その他 世論調査、アンケート調査年鑑、「児童心理」、民間企業等の研究論文

2 調査時期
平成17年6月〜平成17年9月

3 「子どもの意欲・やる気等」の定義等
 本調査において「子どもの意欲・やる気等」とは、特定の教科に対する意欲など学習面での捉え方だけではなく、より幅広く、子どもの前向きな気持ちや物事に対する積極的な態度などを意味するものとし、具体的には以下のような視点から整理を行った。
 体(運動や健康)と意欲・やる気等の向上・低下との相関関係
 生活習慣と意欲・やる気等の向上・低下との相関関係
 家庭環境や親子関係と意欲・やる気等の向上・低下との相関関係
 体験活動と意欲・やる気等の向上・低下との相関関係
 学校・学習活動と意欲・やる気等の向上・低下との相関関係
 メディアと意欲・やる気等の向上・低下との相関関係
 その他

3. 調査実施機関
  財団法人 日本システム開発研究所

2   調査結果の概要
   子どもの意欲・やる気等の向上に何が寄与しており、また今後一層子どもの意欲・やる気等の向上を図る上でどのような環境整備上の課題があるか、収集した調査研究成果や各地の取組事例から以下のとおり総括的に整理した。
 
1. 子どもの意欲・やる気等の向上や低下に寄与した活動・取組内容
 
ポイント1:子どもの「意欲・やる気等」とは、自己を認め、様々な事象に前向きに取り組める力
   調査研究の多くにおいて、子どもの意欲・やる気等を、『自己効力感(課題を達成できる可能性の認知)』や『積極性』、あるいは『自己肯定(受容)感』、『主体性』、『リーダーシップ』など、子ども自身が自己を認め、様々な事象に前向きかつ積極的に取り組む力やその行動に着目して捉えている。
 その上で、これらの子どもの『自己効力感』、『積極性』や『主体性』を向上させ、他者との連帯感を得られ、意欲的な活動傾向を増加させる活動・取組として、成功体験・達成経験を伴う野外体験活動、スポーツ活動や就労体験活動などが挙げられている。

 
ポイント2:達成感と成功体験が得られ、自信を持たせる体験活動
   野外体験活動、スポーツ活動や就労体験活動を通じて、子ども自身が判断し、仲間と共に課題を達成していく中で、積極性や主体性、あるいはリーダーシップなどが無理なく発揮できるようになり、したがって成功体験を実感でき、活動全体に対する意欲が高まるといった効果が示されている。
○野外体験活動
 例えば野外体験活動と子どもの意欲・やる気等の変化との関係についての調査研究をみると、普段生活している家を離れ、自然の中でテントを張ってキャンプをするという「非日常性」や共感しあえる仲間との出会いが、日常生活の中で自分に自信の持てない子どもの意識を変え、子ども自身が自己を受容しやすくなる環境を与えていることが指摘されている。
○スポーツ活動
 体を動かす活動の中で、子どもが自分自身で判断し、達成感や自己効力感を感じられるようなプログラムを経験させることにより、子どもの意欲・やる気等が向上することを指摘した論文が多く見られるほか、指導者の肯定的な言葉かけが子どもの意欲・やる気等を高めることを明らかにした研究も見られた。
○就労体験活動
 ボランティア体験や就労体験と子どもの意欲・やる気等の変化との関係についての調査研究をみると、職場体験学習での人との関わりをとおして、子どもに他者との関わりにおける自己効力感を実感させ、人との関わりへの意欲を高めることが指摘されている。
参考
 キャンプや野外体験活動と子どもの意欲・やる気等の向上との関係を脳生理学的な見地からみた研究もある。それによると、予測しきれない様々な環境や状況の変化を総合的に判断したり、あるいは安全なキャンプの遂行のために集団でのコミュニケーションを図ったりといった活動・体験を伴う集団でのキャンプが、意欲ややる気をつかさどるとされている前頭葉の機能強化に寄与していることが明らかになった。
 また、自然体験の中で起こる運動体験、危険回避の緊張感、爽快感などが、認知能力にかかわるドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質を調整したことが推測され、子ども達の脳、特に抑制力、注意力に影響を与えたことが示されている。

2. 子どもの意欲・やる気等を向上させる働きかけ
   多くの知見では、子どもの意欲・やる気等の変化を自己へのふりかえりに係る面とともに、仲間や他者との関わり方に係る面から捉えることの重要性が指摘されている。
 このため、子どもの意欲・やる気等を向上させる働きかけとしては、家庭での親子関係や学校での友人関係などにおいて、他者の気持ちや考えに気づいたり、他者から信頼・期待されていると感じたりすることの重要性が挙げられている。
 
ポイント1:他者から受容されることによる安心感
   家庭・家族の関係においては、親との接触の多い子どもほど、規範感覚が強く、肯定的な自己評価をしている。また、「親が気持ちをわかってくれる」と子どもが認識する場合に無気力傾向は低いなどの傾向が示されている。
 また、学校における人間関係においては、「友人から頼りにされている」と思う子どもの8割以上は「がんばりに自信がある」一方、「友人から頼りにされている」と全然思わない子どもの半数が「がんばりに自信がない」などの傾向が示されている。
 このことから、親や他者に受け入れられているという感覚こそが、子どもの自己受容を促し、肯定的・積極的な活動や前向きな考え方を発現させているといえる。

 
ポイント2:良好な家庭環境や大人の肯定的な接し方
   家庭においては、朝食の欠食やテレビの長時間視聴などが問題とされているが、その行動自体の影響のみならず、その結果、相対的に親子の直接的なコミュニケーション時間や場面が少なくなっていることなどが指摘されており、“家族と一緒に食事をする”“親にほめられる”“家事を分担する”などの家族間のコミュニケーションが重要となっている。
 また、スポーツ活動やロボコン製作など、一定のタスクを達成することを目標とする活動の中で、肯定的な言葉がけをする指導者等の大人の存在や、集団野外活動において様々な葛藤の中で悩み、考え、壁に突き当たった子どもたちをしっかりと受けとめるスタッフやリーダーの存在が、子どもの前向きで意欲的な活動の継続に重要である。
 このことから、家庭における保護者との関係や課題解決に際しての大人の働きかけ方が、子どもの意欲・やる気等に重要な影響を与えているといえる。

 
ポイント3:異年齢・他者とのコミュニケーション体験
   また、そうした体験活動の際には、異年齢・男女混合の集団であることがより効果的であるとされている。少子化や核家族化が進み、家庭や地域社会において様々な世代の子どもが交わって活動することが少なくなっている中で、キャンプ等で年齢や性別の異なる集団で活動することを通じて生まれた疑似家族・兄弟体験が、年長児童には自信を、年少児童には安心感をもたらしている。すなわち、年長児童は、年下の子どもから頼りにされる経験を通して自信を得ることができ、また年少児童の方も、日頃接することのない年長児童に甘え、任せる経験をすることができるのである。
 このことから、集団生活の中で、参加者同士が協力し行動することにより、仲間とのつながりに気づき、対人関係におけるコミュニケーション能力を身につけることができるとともに、自信や安心感を持て、積極的な行動や前向きな考え方に向かうと考えられる。

3. 子どもの意欲・やる気等を向上させた具体的事例
   特に子どもの意欲・やる気等を高める効果が高かった活動事例や、子どもの意欲・やる気等の向上・低下との相関が高いことが明らかとなった事例等を整理すると、以下のとおりである。

 
1 子どもの成長過程に配慮し、各段階で効果的な活動(働きかけ)を行っている事例
   「幼児期に豊富な自然体験活動をした児童に関する研究」(2004年、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター)では、幼児教室において植物や作物栽培、自然物を使ったクラフト活動など、年間を通じて豊富な自然体験活動をカリキュラムに取り入れたところ、その卒園児は、全国調査と比較して、1学期中の休み、夏休みともに比較的高い頻度で自然体験活動を実施しており、また望ましい生活習慣が身についている子どもであると評価する保護者が多い傾向にあることが示された。

2 単発の取組ではなく、継続的・長期的に実施されている事例・追跡調査を行っている事例
   独立行政法人国立少年自然の家 国立妙高少年自然の家では、非行・不登校等の問題を抱える子どもを対象とした夏期休業中の長期キャンプを行っているが、本キャンプでのカウンセリングの充実のほか、キャンプの後、秋・冬2回にわたり事業効果の定着を図るポストキャンプを実施した結果、子どもの自信と自己受容の向上に効果があったことが示されている(「『オープン・ザ・ドア』太平洋から日本海へ 事業報告書」2003年、独立行政法人国立少年自然の家 国立妙高少年自然の家)。
 また、「朝日岳・飛鳥チャレンジキャンプ」に参加した子どもでは、キャンプでの遂行体験、自然体験、参加者同士の協力が子どもの自己成長感、自然認識や他者と交わる能力の発達に寄与しており、キャンプ終了後の追跡調査でも、家庭学校生活などにおいて、「積極性」「現実肯定」「視野判断」「適応行動」の発揮が見られるなどの効果が得られている(「平成16年度 山形っ子長期アドベンチャーキャンプ推進事業 君は冒険の夏と出会う!朝日岳・飛鳥チャレンジキャンプ 実施報告書」2004年、山形県教育委員会)。

3 子どものやる気に及ぼす要因について科学的に分析した事例
   長期キャンプ体験が子どもの大脳活動に及ぼす影響を調べた研究によると、キャンプ活動での他者との長時間の相互コミュニケーションや、克服的で冒険的な活動が、脳機能、特にやる気や意欲をつかさどるとされている前頭連合野の抑制機能の発達に寄与し、さらに前頭連合野に何らかの構造的な望ましい変化を生み出す可能性が示唆されている(「長期キャンプ体験が子どもの大脳活動に与える影響」2000年、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター;「キャンプが子どもの大脳活動と「生きる力」に及ぼす影響」2004年、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター)。
 また、自然体験の中で起こる運動体験、危険回避の緊張感、爽快感などが、認知能力にかかわるドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質を調整したとする研究もみられた(「集団宿泊や集団活動・野外活動がADHD(注意欠損多動性障害)、AS(アスペルガー症候群)、LD(学習障害)の子どもたちに与える影響」2004年、独立行政法人国立少年自然の家 国立吉備少年自然の家)。

4 不登校傾向の改善など、子どもの意欲等に係る具体的な問題の解決を目指した事例
   不登校児や心身症・神経症などの問題を抱える子どもを対象として具体的な問題解決を目指した研究(「心のふれあい推進事業「北のフロンティアキャンプ」事業報告書」2004年、北海道教育委員会)では、キャンプなどの野外教育プログラムが子どもの自己概念に肯定的な変化を生じさせたことが示されている。
 また、不登校児を対象としたキャンプの影響を調査した研究では、キャンプでの受容的環境、非日常性、個人やグループでの課題への取組努力とその努力が報われるという遂行体験が、子どもの自己効力感の向上や自己概念に肯定的な変化を生じさせるとしている(「不登校児のためのキャンプが参加親子の自己受容に及ぼす効果」2000年、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター;「不登校児童生徒の心理的・行動的変容に寄与した冒険キャンプのとりくみ」2002年、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター;「長期キャンプ体験における自己成長性・自己効力感の変容と感情に関する一考察」2004年、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター;「組織キャンプ体験が児童のメンタルヘルスに及ぼす影響−とくに自己決定感を中心として−」2003年、日本スポーツ心理学会など)。

5 取組により意欲・やる気等が向上した子どもたちの発展的な活動が展開されている事例
   「中学生対象のボランティア学習プログラムに関する実践的研究」(2002年、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター)によると、博物館等でのボランティア活動とともに、体験したことを話し合ったり、発表したり、考える過程を重視した結果、「自分自身に対する理解を深め、自己の成長を促す」、「社会に目を向け、社会的な問題についての関心を高める」などの点で大きな向上が見られた。活動後には、学校の弁論大会で体験内容を発表したり、論文を応募し地球環境国際会議に出席するなど、体験を活かして活躍している様子がうかがえ、体験活動と振り返りの組み合わせが有効であることが示されている。

6 学校と地域、家庭とが一体となって取り組んでいる事例
   「人との関わりへの意欲を高めるピア・サポート活動の研究」(2002年、滋賀県総合教育センター)では、ピア・サポート活動〔子ども同士が支え合う人間関係をつくる力を育成するための活動〕の考え方を取り入れた職場体験学習により、生徒に他者との関わりにおける自己効力感を実感させ、他者と関わる意欲を高めたことが示されている。また、普段の人間関係に影響されない環境で体験活動を行うことにより、学校では自分から友達と関わるのが苦手な生徒にも自己効力感を感じさせることができたことが示されている。
 また、「児童生徒の自己肯定感を高める保護者との連携の在り方に関する研究」(2002年、山口県教育研修所)では、子どもの自己肯定感を高めるための働きかけを各発達段階ごとに整理している。すなわち、小学生については、保護者が学校という場に参加することが自己肯定感の向上に寄与しており、中学生では、主体性を大切にした授業を組む中で自己肯定感を育んでいくことが必要であるとしている。また高校生では、構成的グループ・エンカウンターの実施、講演会の実施等、積極的な取組が自己肯定感の向上に寄与するとしている。


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