大学院教育の実質化の検証を踏まえた更なる改善について(中間まとめ)(概要)

検討の経緯

  • 平成17年の中央教育審議会答申「新時代の大学院教育」(以下「大学院答申」という)で,大学院教育の実質化,国際的な通用性,信頼性の向上を提言。同答申に基づき,平成22年度までの5カ年の振興計画として「大学院教育振興施策要綱」を策定
  • 平成23年度以降のための新たな「施策要綱」の策定を視野に,今後の大学院教育の改善の方向性を明らかにするため,人社,理工農,医療系及び専門職学位課程のワーキング・グループを設置。学問分野別に抽出した約350修士・博士課程の専攻,法科大学院と教職大学院を除く専門職学位課程全84専攻に対する書面・ヒアリング調査を実施。さらに,修士課程及び博士課程の全専攻を対象に,修了要件,単位設定状況及び入学者選抜の状況等に関する書面調査を実施

大学院教育の実質化に関する検証結果

 全体として,大学院教育の実質化に向けた取組が着実に進展

  • 修士課程や博士課程(前期)を中心に,多くの大学院において,コースワークの充実など大学院教育の実質化に向けた取組を実施
  • 人材養成目的や修得すべき知識・能力,入学者受入れ方針が抽象的な大学院や,実際の教育がこれらの目的に沿っていない大学院など,教育の実質化の取組に相当な差
  • グローバルCOEプログラムや大学院GP等の支援を受けている研究科・専攻では,博士課程段階を含めた体系的な教育を確実に実施。特に,経済的支援の充実,国際経験を積む機会等が充実。一方,改革の取組の他大学院,他専攻への波及という面では不十分
  • ほとんどの大学院が入学段階で専攻する専門分野や研究室の所属を決定。学士課程の卒業論文・研究や大学院入学者選抜等の段階で学生の研究テーマは早い時期から特定
  • コースワーク等を経て専門分野や研究室等の変更をしようとする際のルールが定まっている大学が少なく,学生の流動や進路変更が困難との指摘
  • 博士課程については,次のような課題
    • 博士の学位が如何なる能力を保証するものであるか,共通認識が確立されていない
    • 博士課程(後期)の教育が個々の担当教員がそれぞれの研究室で行う研究活動を通じたものにとどまり,学位プログラムの整備という観点で課題がある
    • 修了者が様々な社会で活躍する多様なキャリアパスが十分開かれているとは言えない
      これらを背景に,学生が博士号取得までのプロセスや経済的負担,修了後のキャリアパスに関する十分な見通しを描くことができないことが大きな課題

大学院教育の改善の方向性

(大学院教育を取り巻く情勢)

  • 知識基盤社会が進展し,知識・情報・技術の創造と活用が社会のあらゆる領域の活動の基盤として飛躍的に重要性を増す中,様々な分野で高度で知的な素養のある人材が必要
  • 世界が優れた知恵で競い合う時代に,イノベーションを生み出し社会に新たな価値を創造し,地球規模の課題解決に国際社会でリーダーシップを発揮する高度な人材が不可欠
  • 欧米やアジア諸国等では,グローバル化や地域内経済の一体化の進展に伴い,国際競争力強化のため優れた資質能力を備えた博士人材の養成を強化
  • グローバルに活動する企業等では,国内外を問わず優れた人材の獲得競争が激化
  • 我が国では,博士号保有者が高度な専門性を有する人材として社会の様々な分野でリーダーシップを発揮して活躍できる状況に至っているとは言えず,むしろ,世界的な潮流から遅れている事態

(改善の方向性)

  • グローバル化や知識基盤社会が進展する中,質の保証された大学院の学位取得者が,社会の様々な分野で活躍していくため,「大学院答申」で掲げる大学院教育の実質化に向けた取組の強化は一刻の猶予も許されない課題。特に次の点を重視し,大学院教育の抜本的に充実することが急務
    • 大学と企業,行政等が協力し国内外の多様な社会の要請に的確に応える開かれた体系的な教育の展開
    • 社会人や外国人学生を含む多様な学生が将来の見通しをもって互いに切磋琢磨する環境の整備
  • このためには,博士課程,修士課程,専門職学位課程それぞれに,以下の点が明確な学位プログラムとしての大学院教育を確立し,学生の質を保証する体系の整備が重要
    1. 課程ごとにどのような人材を養成しようとしているのかを明示
    2. 専攻の枠を超えて,学位課程を担当する教員によって,組織的な教育・研究指導体制を構築
    3. 教員間の綿密な協議に基づき,修得すべき知識・能力の内容を具体的・体系的に明示
    4. 一貫性のある教育を通じて,その課程を選択した学生に必要な知識・能力を修得させ,その証しとして学位を授与
  • 博士課程教育については,グローバルに活躍する高度な人材を養成するため,課程を通じて一貫した学位プログラムを構築し,質の保証された博士課程教育の確立が必要。このことを通じて,優れた人材を大学院に引き付け,博士号取得者が高度な知識と高い倫理観を備えたリーダー候補として産学官で確実に採用・処遇されていく好循環を構築していくことが急務

大学院教育の改善方策

課程制大学院制度の趣旨に沿った体系的なカリキュラムの確立

    博士課程,修士課程,専門職学位課程を編成する専攻単位で,人材養成の目的や学位の授与要件,修得すべき知識・能力の内容を具体的・体系的に示す。その上で,コースワークから研究指導へ有機的に繋がりをもった体系的な大学院教育を確立

  • 高度専門知識,幅広い視野,専門応用能力,コミュニケーション能力,国際性等を体系的に修得させるなど大学院教育全体の質の向上に繋がる優れた取組を支援

学生の質を保証する組織的な教育・研究指導体制の確立

    各教員の役割分担と連携体制を明確にし教員間の綿密な協議に基づいて体系的な大学院教育を提供し,学生の質を保証する組織的な教育・研究指導体制を確立

  • 異なる専門分野の複数の教員が研究指導を行う体制を確保
  • FDの充実,ピアレビューの実施による教員の教育・研究指導能力の向上。これらと有機的に連携した教員の教育業績や教育能力の評価の充実,人事や処遇への反映等を推進
  • 学んだ知識の定着とともに大学教員の養成に効果の高いTAを教育活動に積極的に実施。大学教員の教育力の向上のため国として共同利用拠点の形成やプレFDを促進
  • 専攻間や大学間の連携・協力等による,小規模専攻の組織的な教育を充実定員の充足状況や社会的需要等を総合的に勘案し,大学自ら入学定員を見直し

学位プログラムとして一貫した博士課程教育の確立

    課程を通じ一貫した学位プログラムを構築し,産学官の中核的人材としてグローバルに活躍できる質の保証された高度な人材を養成する博士課程教育を確立

  • Qualifying Exam(体系的なコースワーク等を通じて修得される博士論文作成に必要な基礎的能力の審査)を,修士論文の作成に代えて博士課程(前期)修了時に行う場合の制度的取扱いや博士課程(後期)への受入要件を明確化
  • 一貫制,区分制博士課程の趣旨がより明確になるよう標準修業年限や修得単位数の在り方を検討するなど,一貫した博士課程教育の確立に必要な制度的検討
  • 各大学と産業界等が積極的に連携し社会人にとて魅力的な博士課程教育の構築と入学後の補完的な教育を充実

教育情報の公表の推進

    産業界や地域社会等が大学院教育に対する認識を深め,学生が将来のキャリアパスを描くことができるよう,大学院教育の「可視化」を推進

  • 人材養成目的,修得すべき知識・能力の体系,入学者受入れ方針を整合的に規定
    カリキュラム,成績評価,教育研究組織,学生支援,修了後の進路等の情報を,学生や社会に広く公開
  • 博士課程重点の大学等は,語学力を含む修得能力目標や学生支援等の情報を公表
  • 人材養成目的,カリキュラム,入学者の受入れ方針等の大学院教育に関する情報を集約し,一覧できる仕組みを整備

産業界等との連携の強化と多様なキャリアパスの確立

    社会の様々な分野で活躍できる高度な人材を養成するため,産業界や地域社会など多様な機関と連携し,これらの資源も活用しながら多様なキャリアパスに対応した教育を展開するとともに,キャリアパスの確立に向けた取組を促進

  • 他大学や研究機関企業等との連携により多様な学修研究機会に接する教育を充実
  • 大学と産業界等が,大学院教育の認識を共有し,キャリアパスの確立につなげるため,国レベル,大学レベルそれぞれに専攻分野や業種に応じた対話の場を設置
  • 学生の進路状況の適切な把握と,きめ細やかな履修指導や就職支援等のキャリア支援
  • 産業界,国,地方公共団体等の大学院修了者等の採用の拡大等を期待

優れた学生が見通しをもって大学院で学ぶ環境の整備

    意欲と能力ある学生が,将来の見通しをもって,経済的な不安を抱えることなく大学院を選び,国内外に開かれた公正な入学者選抜を経て,充実した大学院教育が受けられるよう支援

  • 日本学術振興会の特別研究員事業及びTA・RA等としても活用できる競争的研究資金の拡充。授業料減免枠の拡大,日本学生支援機構の業績優秀者奨学金免除制度の拡大
  • 奨学金予約採用実施方法を見直し
  • 大学院在学を通じて必要な学生納付金等や経済的支援等に関する見通し(ファイナンシャル・プラン)や経済的支援等の実績などを明示
  • 国内外から優れた学生を獲得するため,入学者受入方針を明示するとともに,多様な能力や意欲,将来性を見極める公正な入学者選抜を実施。大学院設置基準上の規定を整備
  • 専門分野を超えた共通的な内容を組み込むなど教育面の工夫,入学後に研究室の変更をしようとする際の期限等のルールの整備など柔軟に進路変更ができる仕組みの整備

外国人学生・日本人学生の垣根を越えた協働教育の推進

    欧米のみならずアジアを含む大学と連携し,日本人・外国人学生の垣根を越えた交流を通じた協働教育等により,語学力を含むコミュニケーション能力や,異文化を理解し多文化環境下で新しい価値を生み出す能力を備えたグローバル人材を養成

  • 海外の大学,研究機関等と国際的なネットワークを構築し,外国人教員の積極的な採用,外国人学生の体系的な受入れを充実するとともに,日本人学生の海外派遣を推進
  • 学生の受入れ・派遣双方向での交流プログラムより,日本人・外国人学生の垣根を越えた交流を通じた協働教育等を進める大学を支援

成長を牽引する世界的な大学院教育拠点の形成

    21世紀COEプログラムやグローバルCOEプログラムの実績を土台としつつ,産業界等との連携を強化し,学位プログラムとして一貫した国際標準の博士課程教育を行い,国際社会で活躍し世界を牽引するリーダーを養成する世界的な大学院教育拠点の形成を推進

  • 国内外の優秀な教員と学生を結集し,博士課程(前期)段階からの経済的支援を充実し,産業界等と連携しながら,学位プログラムとして一貫した国際標準の博士課程教育を行い,世界を牽引するリーダーを養成するリーディング大学院の形成を支援

専門職大学院の質の向上

    社会経済の各分野で指導的役割を果たすとともに,国際的にも活躍できるような高度専門職業人材を養成する制度創設の理念に立ち返り,教育内容の充実と質を向上

  • 博士課程(後期)との接続を図る観点から,専任教員のダブルカウントの特例措置が終了する平成26年度以降も引き続き,専門職大学院の教員が同時に博士課程(後期)において研究指導を行える環境を維持できるよう,制度的対応を検討
  • 認証評価機関が存在しない場合に認められている自己点検評価の外部検証による代替の特例措置(免除規定)を廃止
  • 実務家教員の定義や基準等について,専門職大学院設置基準上明確化することを検討
  • 産業界や職能団体等との連携協力による,基礎的な能力・知識に関する共通的な到達目標の設定や教材開発等の取組及び特色ある教育拠点の形成を促進 

学問分野の特性に応じた改善方策

人文・社会科学系大学院の改善

  • 人文・社会科学系大学院の博士課程修了者が大学教員以外の社会の様々な場で活躍する多様なキャリアパスが確立されているとはいえず,円滑に学位授与へ導くプロセスや将来のキャリアパスの見通しを明らかにすることが重要な課題
  • 教育機関,産業界,行政機関等と連携し多様なキャリアパスを意識した教育を推進
  • 大学院が養成しようとする人材像に対する社会の理解を深め,学生が将来の見通しを描けるよう,基本的な教育情報を公表
  • 研究テーマや研究方法,詳細な工程等を記載した研究計画の作成や研究進捗状況の中間発表等を通じ,学生と教員との間で学位授与に必要なプロセスを確認・共有

理工農系大学院の改善

  • 博士課程の専門分化した教育内容やキャリア支援体制が多様なキャリアパスに十分に対応しているとはいえず,社会人など多様な年齢層の学生が少なく,大学院教育の方向性と産業界等の期待とのミスマッチが課題
  • 博士号取得者が国内外の社会の多様な場で中核的人材として活躍していくため,産業界等と一層緊密に連携するとともに,社会人の学修需要の高まりに応える質の高い博士課程教育を提供
  • 産業界等が求める実社会とつながりをもった教育の充実や学生の社会性の涵養などの観点から,インターンシップやPBLなどの取組を充実

医療系大学院の改善

  • 学生の専門資格志向,医師・歯科医師臨床研修制度の導入など医療系大学院を取り巻く近年の変化が,研究者を志す学生の減少など,各分野の大学院生のキャリア形成に大きく影響
  • 高度化・多様化する医療の動向等を見据えた体系的かつ実践的な教育を展開するため,他の医療機関や研究機関,他専攻等と有機的に連携し,面的に拡がりをもって,ライフイノベーションを担う能力を持つ医療系人材を養成

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

-- 登録:平成22年11月 --