2.留学生を引き付けるような魅力ある大学づくりと受入れ体制

 留学生30万人計画を推進し、多くの留学生を受け入れつつ、優れた留学生を獲得していくためには、我が国の大学等が、留学生を引き付けるような魅力を持つことが必要である。また、留学生にとって安心して勉学に励むことができる受入れ体制の整備が必要である。これらについて、以下のような方策を行っていくことが求められる。特に大学等の魅力を向上させることは、機械的にできることではなく、大学等のみならず国をはじめ関係者とも一体となって緊急に着手する必要がある。

(1)優れた留学生獲得に向けたインセンティブの付与
   -日本の大学のグローバル化-

1.グローバル化の意義

 交通手段の発達によって国際間の移動が容易になるとともに、インターネットなどの情報通信が発達するなど、ヒトや情報などが簡単に国境を越えていく時代になっている。また、それらに伴い、世界の共通のコミュニケーション手段としての英語の重要性が高まっている。
 我が国の大学等についても、グローバル化の進展と知識基盤社会化の流れの中で、国際的な競争が激化するとともに、国際的な共同・連携が重要になっている。留学生の獲得のためには、世界に通用する魅力ある教育研究を行い、国際的な競争の中で存在感を高めると同時に、国際的な共同・連携は重要であり、大学等のグローバル化が急務となっている。世界に開かれた大学等としてグローバル化を進めるためには、それぞれの大学等が個性や特色を明確にし、戦略を持ち緩やかに機能別に分化していくことを前提にして、以下2.~6.について、大学等による将来をにらんだ抜本的な変革の取組みが必要であり、グローバル化が大学を変えていくとも言える。また、そのような大学等の取組を促進するインセンティブを国が付与することも必要である。

2.カリキュラム

 留学生が留学を志す理由として、母国の高等教育機関では得られにくいより質の高い教育を求めるということが指摘されている。このため、まずは大学等のカリキュラムが国際的な通用性を備えたものであること、さらには、その「学習成果」を証明する学位の水準について、国内外から信頼が得られていることが前提となる。また、世界各地から人材を引き付ける教育研究拠点となる大学については、その卓越性に関する評価を一層高める必要がある。そのためには、それぞれの大学等が人材養成や研究において、アピールできるような取組を進める必要がある。その際、各大学等が個性や特色に基づいた戦略を持ち、人材養成目的を明確化し、それに応じたカリキュラムを整備すること、さらに学生の「学習成果」を的確に評価することが求められる。例えば、国費外国人留学生制度の中で行われている「研究留学生の特別プログラム」は、留学生にとって魅力のある優れた取組を進める大学院のプログラムに国費留学生を優先配置するものであるが、それぞれの大学ではこうしたプログラムも参考にカリキュラムの整備を推進することが期待される。

3.英語による授業

 グローバル化が進む世界において、英語は国際共通語として扱われている。このため、米国や英国など英語を母国語とする国は多くの留学生を集めている。他方、欧州の英語を母国語としない国の中には、留学生を獲得するため、大学等の授業を英語で行うことを積極的に推進している国もある。このように、英語での授業は留学生を引き付ける意味で重要になる。しかしながら、平成17年度において、我が国の大学で英語による授業のみで卒業できる大学数(学部段階。短期大学は除く。)は5大学6学部、また、英語による授業のみで修了できる大学院研究科数は、平成18年度で57大学101研究科にとどまっている。専攻分野などにより異なる部分もあるが、基本的には英語で授業を受け、英語のみでも学位が取れるコースが大幅に増大することが必要である。特に、世界最高水準の卓越した教育研究拠点を目指す大学院においては、世界の大学と競い、優秀な留学生を獲得するためには、英語のみで学位がとれることが重要である。
 ただし、日本への留学は日本語や日本文化を学び、体験する機会でもあり、将来の就職などのキャリア形成や生活上の必要性を合わせて考えれば、英語のみで学位が取れることとしても、日本語を全く学習しなくても良いことを意味するものではないことに留意する必要がある。大学等がそれぞれの戦略や特色を明確にしていく中で、機能に応じて留学生への教育の在り方も異なってくると考えられ、どこまで英語による授業を実施するのか、各大学等が判断して取り組んでいくことが望まれる。
 一方で日本人学生の英語力向上も重要な要素の一つであり、英語教育の充実とともに、海外への留学・体験をプログラムとして整備することが重要である。また、英語で運用される留学生向けの授業に日本人学生を積極的に参加させることは、日本人学生の語学力向上のみならず、国際感覚の涵養、新たな人的ネットワークの構築など多くの利点がある。

4.外国人教員

 外国人教員の全大学教員に占める割合は、現在5.1%(平成19年度)であるが、これについても、単に語学科目の教員だけでなく、専門科目において優秀な外国人教員を採用することにより、教育研究の水準の向上や研究環境の国際化とともに、日本人教員への刺激になることや学生の語学力向上も期待できることから、各大学等において教員の採用においてより一層積極的に考慮することが望まれる。その際、サバティカル休暇中の教員を活用した交流の促進や、大学等において任期制やテニュア制を導入するなどの工夫も求められる。なお、採用に関する情報や書類等が日本語に限られていることが障壁となっているとの指摘があり留意が必要である。

5.国際的な大学等間の共同・連携

 近年、諸外国の大学とカリキュラムを相互に連携させて、双方の大学で一定期間の教育や研究指導を行い、最終的に双方の大学が学位を授与するダブルディグリープログラムを導入する大学が増加しているが、ダブルディグリープログラムは、大学にとっては、相互の大学の優れた取組を融合させることでの相乗効果が期待できるほか、特定の大学と提携することによって受け入れる学生の質が保証できるなど有益である。また、学生にとっても短期間で複数の学位を取得できることで、将来のキャリア形成に大きな利点がある。
 また、学位取得までには至らないものの、短期プログラムによる単位互換や共同研究を通じた大学院学生の研究指導もダブルディグリープログラムと同様の効果が期待できるなど重要であり、大学等の魅力を国際的に高めるためには、このような国際的な大学間の共同・連携による留学生交流プログラムの拡大が求められる。
 さらに、海外キャンパスの展開や、現在オーストラリアの大学で多く行われている、海外で本国と同様の学位取得プログラムを展開するオフショア・プログラムは、これを受け入れる国の学生にとっては、実際に留学しなくても母国に居ながら海外の大学の学位等を取得できる点で有効であるので、教育の質の維持確保に留意しつつこれに取り組むのも一つの方策である。

6.秋季入学

 我が国の大学等でもセメスターの導入が進み、また、大学等の入学時期の弾力化が図られてきたものの、秋季入学が進んでいるとまではいえない。平成17年度に4月以外の入学者の受入れを行ったのは、学部段階で322学部1,569人、大学院研究科段階で468研究科3,539人となっており、秋季入学が進んでいるとまではいえない。
 世界の大学の主流は秋季(9月)入学であり、我が国の大学等の大半が4月入学を基本としていることは我が国への留学をためらわせるものの一つになると考えられる。秋季入学は、我が国の大学等のグローバル化を進め、留学生の受入れを促進するとともに、日本人の海外留学を進めるためにも有効であり、学校教育法施行規則の改正により今年度から学年の始期を各大学が定めることとなったことを踏まえ、さらにその推進が求められる。

7.国による大学等へのインセンティブの付与

 大学等における上記の取組を促進し、各大学等のグローバル化を進めていくためにも、各大学等にインセンティブを付与することが必要である。このため、グローバル化の取組を進める大学等に対して、優先的に国費留学生の配置や私費留学生学習奨励費の配分を行ったり、財政支援について傾斜配分を行うなど支援を重点化することも検討する必要がある。加えて競争的資金やGP(グッド・プラクティス)方式により競争的に支援を行っていくことも考えられる。

(2)留学生にとって安心できる魅力ある受入れ体制等の整備

 留学生が留学する大学を選択する際の重要な決定要因として、教育研究の質に加え、大学及び学部の評判・ブランド、留学先の国の状態・事情なども重要な要素となっている。こうした点も考慮しながら、留学生にとって、日本に留学したことが誇りに思えるような受入れ体制の整備が必要である。

〔大学等による取組〕

1.リクルーティング

 優秀な留学生を確保する上で、リクルーティングは大きな役割を果たす。これまで日本の大学等ではリクルーティングを熱心に行ってきたとは言えず、この充実が不可欠である。
 大学等の中には、現地での募集・入試を実施しているところもある。これは優秀な留学生を獲得する有効な手段であり、今後この実施の充実が望まれる。一方で、教職員の派遣等の負担も大きいことから、例えば、日本学生支援機構が実施する日本留学試験や国際交流基金が実施する日本語能力試験、TOEFLやTOEIC、IELTSといった既存の試験を積極的に活用し、渡日前入学許可が進むことも求められる。現在、日本留学試験は年2回、日本語能力試験は年1回実施されているが、留学希望者に受けやすくさせ一層の利用を促進するため、実施回数や実施国・地域を増やしてその利便性を向上させることが望まれる。他方、面接を実施する場合にはTV会議システムの導入等を通じ、入学前の来日を必要としない仕組みの構築などの工夫も望まれる。同時に、留学の前提となる母国での統一試験の結果を認証する制度の整備・活用も有効である。他国の大学等では、個々の留学生の受入れについて判断できる者により、留学フェアの場など現地で面接等を行い、合否を事実上決定しているものもあるが、我が国の大学等についても、このような海外におけるリクルーティングに対する積極性が求められる。
 また、大学等がそのウェブサイトにおいて留学希望者向けの情報を発信している例がある。しかし、出願の要件が不明確であるなど、まだ情報発信機能が十分とは言えず、受け身の姿勢が強いという指摘もある。
 大学等が留学生を戦略的に獲得するためには、それぞれの教育理念、教育内容等を踏まえ、自らの個性・特色を明確化し、教育研究の展開や留学生受入れについての考え方を発信していくことが求められる。それに加え、出願要件、必要な英語や日本語到達レベル、専攻分野、連絡先、宿舎や奨学金など留学希望者にとって必要な最新情報を恒常的にウェブサイトなどで発信していくことが必要である。これと現在行っている日本留学フェアや日本留学説明会での直接相対する情報発信などの一層の充実とあわせて、各大学等の情報発信機能を強化していくことが求められる。
 また、留学生を戦略的に獲得するという観点から、各大学等は海外拠点を通じて、積極的に留学生の獲得に取り組むことも重要である。現在海外拠点を設け、積極的にリクルーティングを行っている例もあるが、個々の大学等がそれぞれ海外拠点を持つことは負担が大きい。このため、独立行政法人日本学生支援機構や日本学術振興会などの海外拠点がそれぞれ連携しながら、その活用・連携を図ることも有効である。
 なお、留学生の受入れ及び派遣については、大学等もある程度の人的・物的な負担が必要であるため、これを外部に委託している例もみられる。外部に委託する場合は、委託先と十分に調整し、大学の戦略が適確に反映され、大学等のコントロールが一定程度担保されることや、トラブルがあったときの責任体制を明確にするなど、適切な方法で行われるよう留意することが必要である。

〔大学等による取組〕

2.大学等の組織的な受入れ体制の整備

 大学が留学生を受け入れるに当たって、現在は、研究室の教員に留学を希望する学生がeメールなどで直接コンタクトをとる方法が一般的で、受入れ後も教員個人に依存した体制となっており、教員個人の負担が大きく、また、留学生の受入れが特定の教員に集中しているとも指摘されている。
 このような個人依存の受入れ体制から転換し、組織的な受入れ体制を構築する必要がある。そのためには、アドミッションオフィスといった留学生の受入れについての専門的な組織を整備し、国際交流に関する知識・経験を有し、英語をはじめとした外国語を使うことができる専門職員や学問・生活面でのケアを行う相談員を配置することが求められる。この組織においては、留学生受入れについての考え方、留学生対象のカリキュラム、出願要件、宿舎や奨学金などの留学生受入れに関する情報の発信を担い、また、留学希望者からのコンタクトの窓口となって、希望者に対しての照会にも積極的に対応することが求められる。このような受入れ体制のもと、留学希望者が必要とする情報の発信から入学許可、宿舎や奨学金の決定まで、希望者が母国にいながら留学のプロセスが済んでしまうような大幅な利便性の向上が求められる。
 また、個人単位の留学ではなく海外の大学等との共同・連携(コンソーシアム方式を含む)により留学生交流を進める場合も、プログラムの策定・実施や留学生の受入れを円滑に行う観点から同様に組織的な取組が重要であり、これらの組織的取組が進むような適切なインセンティブが国から付与されることが望まれる。
 なお、特に途上国からの学生にとって入学試験の検定料の負担が大変なことがあり、それに対する配慮も重要である。
 専門組織にとどまらず、FD(ファカルティ・ディベロップメント)や外国語教育などの能力開発や学内研修などを通じた教職員の資質向上なども必要である。人材育成に対する学内の高い優先順位づけが大いに期待されるとともに、FDについては、大学等が組織的に教育訓練として積極的に取り組むことが重要であるほか、専門家の育成の観点から、日本学生支援機構などが実施する担当者研修等に積極的に参加することが望まれる。加えて、こうした取組により、留学生交流について専門に扱う教職員を育成し、将来のキャリア形成を可能にしていくことが期待される。

〔大学等による取組〕

3.生活支援

 留学生にとって留学を成功させるためには、日本という異文化社会に一刻も早く適応する必要があり、そのため、生活者としての留学生の視点を重視することも必要である。
 例えば、渡日直後は、母国と異なる社会制度などに戸惑うことも多く、留学生が最も支援を必要とする期間でもある。外国人登録や国民健康保険の加入、銀行口座の開設といった社会生活上の諸手続きや履修登録などの学内手続きなどで苦労が多いという指摘がある。このため、学内や地域社会における留学生に対する相談・支援の充実が望まれる。
 また、慣れない異国での生活で精神面・健康面で不調を訴えたり、近年では日本人学生同様、友人関係などで不安を覚える留学生に対する学内におけるカウンセリング機能の充実も望まれる。その際、日本学生支援機構などが専門家を活用しながらカウンセリング等に留意した研修を大学等を対象に広く実施する方法や大学等間の連携で相談員を活用することも求められる。また、卒業後も引き続き進学・就職で日本に留まる留学生が増加していることから、国内にいる元留学生のネットワークを活用することも一つの方法と考えられる。
 留学生によっては、配偶者や子どもといった家族を伴う場合もあり、子どもが学齢期であれば学校での受入れのことが問題になる。留学生が安心して渡日し勉学に励むためにも子どもの就学支援は重要であり、大学等と教育委員会の連携が求められる。また医療や保険なども含め、生活全体への支援が大切である。

〔国による取組〕

4.国からの奨学金

 学生が留学先を決定する重要な要素の一つに奨学金がある。奨学金は優秀な留学生を増やす呼び水的効果もあり、我が国のみならず、留学生の受入れの多い先進諸国ではその制度の充実に努めている。
 このため、国費外国人留学生制度は、これまでの知的国際貢献という視点に加え、優秀な留学生を獲得するという視点から世界の留学を希望する者にとって一種のブランドとして定着させるとともに、その見直しをしつつ拡充を図る必要がある。
 見直しの例として、奨学金単価は学部と大学院でそれぞれ一律となっているが、留学生の状況に応じて複数の種類を用意するなどの見直しを検討する必要があることや、また、国費留学生は入学から学位取得までの標準修業年限の間はその身分が保証されているが、毎年学業成績などの評価を行い、それに応じた支給を行うことについても検討が必要である。一方、学業成績や在学中の顕著な実績、面接などを踏まえ、極めて優秀な学部留学生や高専、専修学校留学生を博士課程や修士課程にそれぞれ進学する際に引き続き国費留学生として採用する特別延長の制度を推進するとともに、他方、国費留学生の延長は、GPAによる評価を取り入れるなど一層厳格に取り扱うことが求められる。
 また、大学推薦では、研究留学生の特別プログラムやアジア人財資金構想といった大学の優れた取組に対する国費留学生の配置が開始されたが、こうした大学へのインセンティブを高める取組を、日本語・日本文化研修留学生や教員研修留学生といった他のプログラムにも拡大していくことが求められる。他方、戦災などの復興支援といった各大学の国際貢献に対する受入れにも引き続き配慮する必要がある。
 さらに、国費留学生の配置では、(1)7.でふれたように、大学のグローバル化への取組に加え、大学の留学生に対する施設・設備の整備や(2)2.でいう組織的な取組の状況などを加味して、そのような取組に熱心な大学に手厚く配置することも必要である。
 私費外国人留学生学習奨励費給付制度では、日本留学試験の成績優秀者に対する予約採用を実施しているが、優秀な留学生獲得の観点から、これを拡充するとともに、各大学が実施する現地入試にも同様の観点からこれを適用するなど、日本留学へのインセンティブを高める工夫が求められる。また、国費外国人留学生制度同様、大学の留学生に対する組織的取組状況に応じた配分も検討することが求められる。
 学校法人授業料減免補助では、私立大学等の授業料減免のインセンティブが一層効果的に働くような制度上の工夫が求められる。
 さらに、教育的見地から学生の学内業務を活性化する奨学制度(ワーク・スタディ・プログラム)や緊急時のセーフティネットのための支援制度など、新たな奨学制度についても検討することが必要である。

〔国、公的機関及び大学等の取組〕

5.宿舎

 留学期間の長短に関わらず、留学生には生活するための宿舎が必ず必要となる。平成19年5月現在、大学等の留学生宿舎などの公的宿舎に入居する留学生は全体の22.9%であるが、留学生が安心して勉学に励むためには低廉かつ安心できる宿舎の提供が不可欠である。最低限、渡日後1年以内の留学生や短期留学生のうち希望者は必ず入居できる宿舎を用意するといった取組が必要である。
 各大学の留学生の宿舎の整備については、各大学が施設整備の一環として積極的に行うことが期待される。国立大学法人等の宿舎の整備及び維持管理に当たっては、PFIを活用することも有効である。
 また、大学等がキメ細かな工夫によって、留学生に対し宿舎の斡旋・提供を充実することも求められる。例えば民間宿舎を借り上げて留学生に低価格で斡旋・提供したりといった工夫が重要である。また、外国人であることを理由に民間アパートの賃貸を拒否される事例が見られることから、家主の外国人留学生に対する理解を促すことに加え、大学等と連携した民間の不動産会社が家主と契約のもと管理の代行や募集業務を一括して行うことで、留学生が確実にアパートの斡旋を受けられるようにするといった方法も考えられる。留学生が民間宿舎を借りる際、大学による機関保証を推進することも有効と考えられ、家主が留学生に部屋を貸すことに対するインセンティブが働くような工夫を考慮することが望まれる。
 一方、国や日本学生支援機構等は、既設宿舎の保全・活用や留学生宿舎建設の奨励、留学生宿舎の借上げに対する支援など大学等の取組に対する支援を推進することが求められるとともに、既存の「留学生住宅総合補償事業」の活用などを通じ、留学生の民間宿舎への入居を促進することも重要である。
 さらに、今後、大学等と地方公共団体の住宅部局や都市再生機構との連携のもと、地域優良賃貸住宅制度や地域住宅交付金制度の活用、留学生入居促進制度によるUR賃貸住宅への入居、公営住宅の目的外使用による留学生向け宿舎への活用など、さまざまな支援策を推進することが期待される。
 短期留学生の場合には、宿舎に加え、ホームスティといった地域住民の協力による受入れも有効であり、この促進策についても検討する必要がある。

〔国、公的機関及び大学等の取組〕

6.卒業後のフォローアップ

 留学生が留学先を決定する上で、親族や友人からの推薦などのいわゆる口コミは重要な要因となっている。そのため、卒業した留学生に対するフォローアップは大学等のみならず我が国にとっても有益な人的ネットワークを構築することから、一層重視することが必要である。
 国費留学生に対しては、新たに卒業・修了後の住所等の情報を収集する仕組みを日本学生支援機構を通じて構築しているが、これを一層充実させ活用することが重要である。
 外務省が行う帰国留学生に対する各種支援事業の推進や在外公館の機能の活性化も、帰国した留学生がその親族や後輩などに対し日本留学を薦めたりする例が見られることや、現地の帰国留学生会が日本学生支援機構の留学フェアの実施に大いに寄与するなどその活動の重要性に鑑み、その充実が望まれる。
 大学等でも、最近、同窓会組織の構築・充実させこれを基にさらに優秀な留学生を獲得しようとする動きが見られるが、これが大学等の国際化の取組の一環として一層拡充されることが重要である。
 なお、在外公館と大学等が一体となって、現地でフォローアップの取組を推進することや、現地の学協会との連携などにも留意が必要である。

(3)日本語教育の充実

 留学生が留学後言葉の面で困らないよう、日本語教育の普及・充実を図っていくことが必要である。
 我が国の留学生の3割以上は、国内の日本語教育機関から直接進学しているが、それらの進学先からさらに別の学種に進学することもあることから、このような留学生も含めると、全留学生のうち国内の日本語教育機関に在籍経験のある者の割合はさらに高まる。また、日本語教育機関修了者の7割が我が国の大学等に進学している。このように、多くの留学生にとって日本での生活は日本語教育機関から始まることから、日本語教育機関が日本語教育のみならず、日本での生活の仕方の指導なども行っている。このことに着目し、留学生政策の一環として日本語教育機関の質の向上や学生に対する支援を行っていくことが重要である。日本語教育機関では渡日直後の学生に対する生活支援に関するノウハウを多く有しており、そのようなノウハウを大学等にも取り入れていくことも考慮すべきである。国は、特に入国時や在学中の取り扱いを留学生と同等のものに近づけて、大学等への進学を確実にしていくことについても考慮が必要である。一方、日本語教育機関も教育指導を充実したり、学生の学籍管理を徹底することなどが必要である。なお、都道府県の事務であるが、日本語教育機関が各都道府県から各種学校として認可を受けることとなれば、各種学校としての指導監督が及ぶことになり、その点で日本語教育機関の質の確保の観点からも意義があるのではないかという指摘にも留意する必要がある。
 大学の留学生別科や留学生センター等における日本語教育においても同様に充実が求められる。特に、東京外国語大学や大阪大学、日本学生支援機構の日本語教育センターなど学部レベルの国費留学生の予備教育を実施している機関では、留学生に対する日本語予備教育のモデルとなる教育の実践の視点が必要である。同時に、効果的に日本語教育を推進する意味から、大学等と日本語教育機関の連携も重要である。
 また、日本で就職を希望する留学生にとって日本語は必須であり、そのことを見据えた日本語教育の推進も必要である。
 さらに、大学院の研究生に対する日本語教育については、留学生の日本語の習得状況やニーズに応じて、きめ細かく実施されることが望まれる。

(4)高校生留学

 高校生留学は、異文化理解や友好親善を促進するとともに、将来の我が国の高等教育機関への留学予備軍として、その体験を踏まえ、引き続き我が国の大学等に進学する可能性が大きいことから、同様に配慮が必要である。また、日本の高校生の海外への留学も、国際性を身に付けたり、短期であってもその経験により人間的に成長したり、将来の長期留学に結び付くことも期待でき、その促進が求められる。
 現在、非営利団体等が実施するプログラムや姉妹校交流などを通じ海外の高校生が日本の高校に留学しているが、こうした取組を一層推進するとともに、短期間体験学習的に来日する高校生交流についても促進することが必要である。
 なお、その際、大学等と連携して観光地のみならず大学等を訪問したりして、我が国の大学等の魅力を売り込む努力も有効である。
 高校生の留学生受入れについては、日本の高校への留学希望者は増加傾向にあり、教育現場でも積極的に対応しようという姿勢が見受けられる。今後、留学生の受入れを一層促進するには、留学生を担当する教員に過度の負担がかかることのないよう、高等学校においては、校長のリーダーシップの下に、学校全体で受け入れる体制を整備するなどの取組が必要である。また、高校生を受け入れるホストファミリーの確保等の問題から外国からの留学希望に十分に応えられない現状もあり、ホストファミリーの負担を軽減する方策についても配慮が必要である。
 一方、日本人の生徒の海外への留学に関しては、我が国と異なる環境での適応力の不足などの理由から、留学しても途中で帰国する生徒が増加していることが指摘されている。こうした状況を踏まえ、留学を希望する生徒やその保護者は、事前に海外留学に関する情報を十分に収集し、それぞれの生徒の目的にあったプログラムを選択すること、また、プログラムを実施する非営利団体等は、生徒の変化を踏まえて、海外における学習や生活に円滑に適応できるようプログラムの改善に取り組むことが重要である。さらに、学校の対応としては、国際理解教育の一環としての留学の意義を十分に認識し、生徒に対して適切に留学指導することが非常に重要である。
 また、日本人の生徒の留学先は依然としてアメリカをはじめとする英語圏が主流を占めているが、今日、様々な面でアジア諸国との交流が深まっており、特に短期の派遣・受入れによる交流はますます活発となってきている。高校生の段階においては、海外での多様な体験を通して異文化への理解等を深めるためにも、英語圏諸国だけでなく、アジアや欧州等の多様な国や地域への留学を促進する方策を検討する必要がある。

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