2 専門大学院1年制コースの制度化

 今後,社会,経済の各分野において,世界的規模での競争が激化するとともに,国際的な相互依存,国際協調により解決を図らなければならない問題が増大することが予想される中で,国際的にも社会の各分野においても指導的な役割を担う高度の専門的知識・能力を有する人材の養成,社会人の再学習に対する期待が一層高まっている。
 高度専門職業人の養成に特化した大学院修士課程(以下,「専門大学院」という。)は,このような期待に応え,大学院における高度専門職業人養成の目的に即した教育研究体制,教育内容・方法等の整備を推進し,その機能を一層強化する観点から,大学院修士課程におけるこれまでの高度専門職業人養成を更に進めて,特定の職業等に従事するのに必要な高度の専門的知識・能力の育成に特化した実践的な教育を行う大学院の設置を促進することを目的として,平成10年の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」の提言を受けて,平成11年に制度化されたものである。平成13年度現在,4大学4研究科4専攻(一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営・金融専攻,京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻,九州大学大学院医学系教育部医療経営・管理学専攻,青山学院大学大学院国際マネジメント研究科国際マネジメント専攻)が設置されている。
 一方,大学院修士課程における1年以上2年未満の修業年限でも修了することが可能なコース(以下,「1年制コース」という。)は,同答申において,社会人の大学院修士課程への積極的な受入れを推進し,大学院で高度な知識・能力を身に付け社会の各分野で指導的な役割を担う人材の養成に資することができるよう提言されたことを受けて,平成11年に制度化されたものである。平成13年度現在,8大学8研究科17専攻が設置されている。
 しかしながら,上記答申においては,「修士課程1年制コースを高度専門職業人の養成に特化した修士課程に適用することについては,高度専門職業人の養成に特化した修士課程の設置状況等に配慮しつつ検討することが必要である」としており,専門大学院については,その定着を待って1年制コースを検討することが適当と考えられたことから,現行制度上,1年制コースは認められていない(大学院設置基準第31条第4項)。
 そこで,現在設置されている専門大学院4専攻における在学者の状況をみると,約8割が社会人で占められており,職業を有する社会人が高度かつ専門的な知識・能力を一層高めるためのリカレント教育の場として,現行の専門大学院は適切な役割を果たしていると言える。また,専門大学院における教育研究活動の状況についても,昼夜開講制を取り入れるなど,社会人の学習形態に配慮しつつ,各大学院において活発な教育研究が展開されている。
 今後,社会,経済の急激な変化に迅速に対応するとともに,社会人の再学習の需要に適切に応え,国際的にも社会の各分野においても指導的な役割を担う高度の専門的な知識・能力を有する者をより一層養成していくことは,我が国にとって重要な課題であり,専門大学院の設置の促進が期待されるところである。しかしながら,社会人にとっては,職業等との兼ね合いから,2年制の課程のみでは修学上の困難が生じる場合があり,これが専門大学院の多様な展開に支障となっているとの指摘がある。
 以上のような状況に鑑みると,社会人が大学院において短期で集中して高度な専門職業教育を受ける機会を拡充する観点から,専門大学院においても通常の修士課程と同様に,1年制コースを設置することができることとする必要がある。

(1)対象者について

 従来の大学院修士課程における1年制コースは,履修形態の工夫とともに,一定の職業経験等の成果を生かした指導を行うなどカリキュラムを工夫するならば,1年制でも2年制と同等の教育水準を確保することが可能であるとの考え方により,主として実務の経験を有する者に対して教育を行うこととしている(大学院設置基準第3条第3項)。専門大学院1年制コースにおいても,このような観点から,同様に,主として実務の経験を有する者に対して教育を行うこととすることが適当である。

(2)分野等について

 専門大学院は,例えば,経営管理,ファイナンス,国際開発・協力,公共政策,公衆衛生,情報通信などの分野において設置が期待されている。専門大学院1年制コースにおいても,基本的には同様の分野において設置が考えられる。
 しかしながら,分野により,高度専門的な職業能力・知識を身に付けるために必要とされる学習内容が異なるところであり,国際的に通用する教育水準を確保することを考えると,相当程度の学習内容を確保することが求められる分野もあると考えられる。
 したがって,各大学院においては,国際的通用性にも配慮しつつ,分野毎に学生に身に付けさせるべき能力や修得させるべき教育内容を考慮し,カリキュラム,履修形態,学期や学習期間の設定の仕方を工夫することにより,1年以上2年未満の範囲内で教育を行うことが可能かどうかを十分慎重に判断し,適切と考えられる場合にのみ専門大学院に1年制コースを導入することが適当である。
 その際には,学生の負担や,2年制と同等以上の能力を身に付けられるかどうかを,十分に考慮することが必要である。

(3)教育方法,修了要件について

 専門大学院においては,修了要件の一つとして,修士論文の代わりに,「特定の課題についての研究の成果の審査」に合格することが原則として求められている(大学院設置基準第35条)。「特定の課題についての研究の成果」は,具体的には,例えば,1.成果物の制作,2.プロジェクトの遂行,及び3.授業で課したレポートの累積などが対象となると考えられる。しかしながら,現状では,「特定の課題についての研究の成果」について,修士論文に近い形態のものが求められている傾向が見受けられる。
 また,大学院の教育は,「授業科目の授業及び学位論文の作成等に対する指導(研究指導)」によって行うものとされている(大学院設置基準第11条)。専門大学院における研究指導は,「特定の課題についての研究の成果」の作成・実行の各過程で,教員が適切な指導・助言を行っていくことであると考えられ,ケーススタディ,フィールドワークなどを取り入れた実践的な指導の充実に努めることが求められる。しかしながら,上記の修了要件についての状況に関連して,専門大学院における研究指導が従来の大学院で行われている論文作成指導と同じような形態で行われているのではないかとの指摘もある。
 どのような方針で教育を行うかは,各大学院の主体的な判断に委ねられるべきであるが,今後,専門大学院1年制コースを導入するに当たっては,特に学習が短期間に集中して行われることに鑑み,教育方法や修了要件が適切なものとなるよう,各大学院においてその在り方を工夫することが必要である。
 さらに,専門大学院においては,高度の専門性を要する職業等に求められる知識や能力を専ら養うことを目的とし,研究者として必要な能力を養うことを目的としていないことを踏まえると,修了要件として「特定の課題についての研究の成果」を課すことや,これについて「研究指導」を行うこと,さらには,このために必要な教員組織を編制することを求めることは,必要ないのではないかとの指摘もある。
 したがって,各専門大学院における取組状況を踏まえつつ,現在別途検討されている法科大学院の在り方も視野に入れた上で,職業人養成を目的とする大学院の在り方について,今後,修了要件,研究指導,教員組織及び学位の在り方等の検討を行っていくことが必要である。

(4)教育研究水準の確保,評価制度について

 従来の大学院修士課程における1年制コースは,主として実務の経験のある者に対し,履修形態の工夫や,一定の職業経験等の成果を生かした指導などカリキュラムの工夫を行うことにより,実質的に2年制と同等の教育研究を行い,修士の学位を授与するにふさわしい水準を確保している。
 専門大学院における1年制コースについても,同様に,主として実務の経験のある者に対し,分野によって必要な学習内容を考慮した上で,通常の教育方法に加えて,夜間,週末や夏休み期間中に集中的に授業や研究指導を行うなどの履修形態の工夫や,学期や学習期間の設定の仕方の工夫,一定の職業経験等の成果を生かした特定課題についての研究成果の作成を指導するなどのカリキュラム上の工夫を行うことにより,実質的に2年制と同等の教育研究を行えるものとして,修士の学位を授与するにふさわしい水準を確保することができると考えられる。
 しかしながら,実質的に高度専門職業人の養成にふさわしい教育研究水準を確保し,国際的通用性に配慮しながら教育研究の質の向上を図っていくためには,各大学院が不断の自己点検・評価に努めるとともに,適切な第三者による客観的な評価を行うことが重要であると考えられる。専門大学院については,大学外の第三者による評価が義務付けられている(大学院設置基準第36条第1項)が,今後更に,各分野ごとにアクレディテーション(適格認定)・システムを導入することが必要と考えられ,その在り方について,今後検討する必要がある。

(5)教育研究環境等の整備について

 専門大学院に1年制コースを導入する場合においては,社会人学生が多いことに配慮した教育研究環境や事務体制を積極的に整備していくことが必要である。具体的には,1.インターネット等の情報通信技術を活用して,授業や学生同士の討論・意見交換を行えるようにすること,2.学生が教員から指導を受けたり,様々な書類を事務局に提出したりする際に,電子メールを利用できるようにすることなどが考えられる。また,3.図書館を夜間・休日に開館したり,4.学生が指導を受けやすい時間帯にオフィス・アワーを設けたりすることなども考えられる。
 また,大学における学事暦の在り方などについては,昼間の学部の運営を基本に設定されている傾向にあるが,今後,大学院における1年制コースの導入を進めていく際には,夜間,週末や夏休み期間等にも集中的に授業を行うこれらのコースの運営の在り方にも配慮して,教員組織,教育研究指導体制等についての大学全体の運営の在り方を工夫していくことも必要になると考えられる。
 さらに,専門大学院においては,今後,我が国において高度専門職業人にふさわしい知識や能力の修得を望む外国人学生が増えていくと考えられるが,特に1年制コースについては,短期間で集中的に学習できることから,外国人学生が積極的に入学を希望することが予想される。したがって,これらの外国人学生の履修に配慮したカリキュラムや事務体制の整備を図ることも必要である。

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