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第2章 第2節 教育課程編成・実施の方針について−学生が本気で学び,社会で通用する力を身に付けるよう,きめ細かな指導と厳格な成績評価を−

 教育課程編成・実施の方針に基づき,学生を本気で学ばせるとともに,単位制度を実質化させることは,入難出易と言われてきた我が国の大学において大きな課題であった。さらに,教育課程の内容にとどまらず,学生の視点を踏まえつつ,指導方法,成績評価の改善を講じ,学生が社会で通用する力を確実に身に付けさせるようにすることが,いよいよ重要となっており,学生本位の改革を進めていくことが求められている。
 以下では,教育課程編成・実施の方針について,教育課程の体系化,単位制度の実質化,教育方法の改善,成績評価の四点に分けて述べる。

1 教育課程の体系化

(1) 現状と課題

1 教育課程の体系性

  • (ア) 教育課程編成・実施の方針については,学位授与の方針や教育研究上の目的等との整合性・一貫性を持つことが求められる。また,法制上も,教育課程が体系性を持つことが要請されている。また,各大学では,それぞれの個性と特色に基づいて,基礎教育や共通教育,専門基礎教育,専門教育などの適切な区分を設けた上で,教育課程を編成・実施することが期待されている。
     学士課程教育を通じて到達すべき学習成果は,こうした科目のみでなく,課外活動を含め,あらゆる教育活動の中で,修業年限全体を通じて培うものである。
  • (イ) かねて我が国の学士課程の教育課程については,科目内容・配列に関して個々の教員の意向が優先され,必ずしも学生の視点に立った学習の系統性や順次性などが配慮されていない,あるいは,学生の達成すべき成果として目指すものが組織として不明確である,などの課題が指摘されてきた。個々の科目についても,その目標や,内容・水準が判然としないことがあり,単位の互換性や通用性の面でも,支障が生じかねない。
     多様な科目から場当たり的な選択がなされる,あるいは中核となる科目の位置付けが曖昧(あいまい)であるならば,学生の学びは,狭く偏るか,逆に散漫になり,学生の到達すべき学習成果として想定していたものは達成されない。
     また,専門教育については,大学院の役割が大きくなっており,学士課程教育では,完成教育よりも,専門分野を学ぶための基礎教育や学問分野の別を超えた普遍的・基礎的な能力の育成が強調されている。そこで,教育課程の体系性に関しても,学問の知識の体系性だけでなく,当該大学の教育研究上の目的に即して,専攻分野の学習を通して,いかに学生が,学習成果を獲得できるかという観点に立つことが一層大切となる。
  • (ウ) 目的意識の希薄化,学習意欲の低下等,学生の多様化により,大学側の対応の困難性は増している。最終的には,課題探求能力という高等教育に相応(ふさわ)しい高次の目標の達成に努める必要があるが,一方で,基礎的な読解力や文章表現力などを修得させることも重要である。
     また,学生に目的意識を持たせ,学習意欲を喚起する観点から,地域や産業界との連携を深め,外部人材の積極的な参画を得たり,質の高い体験活動の機会を積極的に設けたりするなど,開かれた教育活動を推進することも有意義である。

2 大綱化以降の教育課程の変化

  • (ア) 大学設置基準の大綱化以降,科目区分,必修教科などの見直しが急速に進んだ。また,学部・学科等の組織の改組が活発に行われ,学位の専攻分野の名称と同様,多様な名称の学部・学科が登場するようになった。こうした組織改編等の中では,現代的な課題に即した学際的な取組を目指した動きが目立つようになっている。
  • (イ) 文部科学省の調査によれば,直近の過去5年間に限っても,85パーセントの大学がカリキュラム改革を実施している。また,この10年間で実施率が大きく伸びた科目・内容として,情報教育科目,文書作成の訓練,ボランティア活動,インターンシップ,大学外の教育施設等における学修の単位認定などがある。
     このように,カリキュラム改革の進展により,多様な科目が開設され,総じて学生の選択幅が広がってきたことが伺える(図表2-4)。
  • (ウ) また,様々な調査研究によれば,大綱化以降,分野による相違はあるものの,全般的に以下の傾向が見られる。
     第一に,教育課程の中で専門教育の比重が増している。具体的には,基礎教育や共通教育の履修単位の減少と専門基礎教育の組み込みが見られる。専門職業との結び付きの強い学部(例:医療,家政,芸術系)では,専門教育の早期化や高度化が生じている。なお,高学年向けの共通教育や基礎教育はあまり普及していない。
     第二に,共通教育や基礎教育において,外国語能力や情報活用能力など,スキルの訓練に関する教育の比重が大きくなっている。
     第三に,初年次教育や補習教育,資格取得支援,就職支援,インターンシップなどが様々なかたちで教育課程内外に位置付けられる例が増えつつある。
     第四に,学際的な教育活動について,関連する学問の知識体系(ディシプリン)に関する基礎教育が必ずしも十分になされていない。
     第五に,人文系,社会系などの学部は,基礎教育や自由選択の比重が高いこともあって,専門教育の学際化が進んでいる。
  • (エ) 各大学では,学生の変化や社会的ニーズに柔軟に応(こた)えようとする努力が見られる。しかし,その努力が,学士課程教育の本来の姿を実現し,教育水準の維持・向上に寄与しているとは言い切れない。
     例えば,第1節で述べたとおり,企業全般が学卒者に即戦力を求めているとの誤解により,学生の就職支援に係る教育活動が実施される場合,それが学士課程教育の一部として位置付けられるのにふさわしい内容・水準を持つのか,その実施体制は十分かなど,疑問の生ずる事例も見受けられる。
  • (オ) また,先行研究により,教育課程の改革に向けた大学の取組,学生の学習活動や意識・価値観などについて,分野別の実情が明らかにされつつある(図表2-5〜2-16)。
     学士課程の学生の約半数を占める人文・社会系の学科での教育課程の体系化・構造化に向けた取組が十分でないという指摘もある(参考資料4)。
     ただし,こうした現状分析に当たっては,大学・学部等の教育環境などによる影響も無視できない。今後の分野別の質保証の枠組みづくりに向けた審議に当たっては,我が国の大学の実態や学問の在り方,また,国際的な通用性を踏まえた十分な検討が望まれる。

(2) 改革の方向

  • (ア) 各大学では,学位授与の方針等の確立と同時に,教育課程の体系的な編成が重要である。
     開設科目の種類と内容が多様でも,それが学位授与の方針や教育課程編成・実施の方針と遊離せず,学生の体系的な履修が可能となっていることが肝要である。
  • (イ) また,多くの学生が,入学時に学科等への所属を決定しているが,これにより,共通教育や基礎教育の後退傾向や専門教育の早期化の動き,さらに第3節で触れる入学者受入れの方針も相まって,学生の学びの幅を早期から狭めてしまうことが懸念される。
     ユニバーサル段階において,自己決定力の未熟な学生も目立つ中,入学してから時間のゆとりを持って専門分野を選択できる,あるいは柔軟に変更できる仕組みづくりも検討課題とすべきである。
  • (ウ) なお,大学設置基準の大綱化以降,国立大学を中心に,基礎教育や共通教育の担い手であった教養部が改組され,その多くが廃止された。この改革は,旧教養部等の教員に限らず,多くの教員が基礎教育や共通教育に携わることを目指すものであったが,現実には,個々の教員には,研究活動や専門教育を重視する一方,基礎教育や共通教育を軽んじる傾向も否めないという課題も残っている。
     各大学において,その実情に応じて,基礎教育や共通教育の望ましい実施・責任体制について,改めて真剣に議論し,適切な対応を取っていく必要がある。

(3) 具体的な改善方策

【大学に期待される取組】

  • ◆ 学習成果や教育研究上の目的を明確化した上で,その達成に向け,順次性のある体系的な教育課程を編成する(教育課程の体系化・構造化)。
    • 教養教育や専門教育などの科目区分にこだわるのでなく,一貫した学士課程教育として組織的に取り組む。専攻分野の学習を通して,学生が学習成果を獲得できるかという観点に立って,教育課程の体系化を図る。その際,例えば,科目コード(履修年次等に応じて付記)による履修要件の設定や科目選択の幅の制限等も検討する。
  • ◆ 幅広い学修を保証するための,意図的・組織的な取組を行う。
    • 例えば,多様な学問分野の俯瞰(ふかん)を可能とする教育課程の工夫や,主専攻・副専攻制の導入等を積極的に推進する。また,入学時から学生が学科に配置され,専ら細分化された専門教育を受ける仕組みについては,当該大学の実情に応じて見直しを検討する(例えば,学部・学科間の移動の弾力化,学部・学科の在り方の見直しなど)。
  • ◆ 英語等の外国語教育において,バランスのとれたコミュニケーション能力の育成を重視するとともに,専門教育との関連付けに留意する。
    • 「読む・書く・聞く・話す」の4技能のバランスに留意し,例えば,学内のライティングセンターなどにより,学習支援を行う。専門分野を学ぶために必要な語学力の修得を目指した教育活動を展開する。TOEFL(トーフル)やTOEIC(トーイック)などの結果に基づいて単位認定を行う場合,大学教育にふさわしい水準か,また,単位数が適当か等について吟味する。
  • ◆ キャリア教育を,生涯を通じた持続的な就業力の育成を目指すものとして,教育課程の中に適切に位置付ける。
    • 豊かな人間形成と人生設計に資するものであり,単に卒業時点の就職を目指すものではないことに留意する。アウトソーシングに偏ることなく,教員が参画して学生のキャリア形成支援に当たる。大学が責任を持って関与するインターンシップと,単なるアルバイトを区別する(後者は単位認定の対象にならない)。
  • ◆ 一方的に知識・技能を教え込むのではなく,豊かな人間性や課題探求能力等の育成に配慮した教育課程を編成・実施する。
    • 例えば,資格取得に係る教育を行う場合であっても,バランスの取れた教育活動を行う。教育課程内の活動とあわせて,学生の自主的な活動等の充実に向けた支援に努める。
  • ◆ 共通教育や基礎教育の重要性について教員間の共通理解を確立し,教育活動への積極的な参画を促す。また,これらの教育における努力や業績を適切に評価する。
    • 共通教育や基礎教育の目的達成を,特定の科目に任せない(例えば,アカデミック・ライティングについては,基礎教育科目だけでなく,専門科目の学習を通じた実践的な訓練も行うことが望ましい)。
  • ◆ 個別大学の枠を超えて,地域の実情に応じて,大学間や地域の諸団体との連携・協同を強化し,学生に対する教育内容を豊富化する。
    • 地方公共団体をはじめとする地域の諸団体との連携・協力を推進し,地域の教育資源や教育力を活用する。また,大学間連携においては,共同プログラムの開発,単位互換などを進める。その際,基礎教育や共通教育の充実の観点から,放送大学との単位互換も検討する。さらに,大学の個性・特色に応じて,地域社会に貢献する人材の育成に取り組む。

【国によって行われるべき支援・取組】

  • ◆ 個性や特色のある教育課程に関する優れた実践に対し,積極的に支援するとともに,そのための体制を整備する。
    • 例えば,学習成果に関する考え方を明確化し,順次性のある体系的な教育課程を実施する取組や,幅広い学修を保証するための意図的・組織的な取組などを支援する。
  • ◆ 大学間の連携,学協会を含む大学団体等を支援し,国際的な通用性に留意しつつ,分野別のコア・カリキュラムを作成する等の取組を促進する。
  • ◆ 大学間の連携強化に向けた取組を支援し,共同プログラムの開発,単位互換等を促進する。
  • ◆ 国公私の設置形態の枠組みを超えて,複数の大学が,共同で教育課程を編成・実施し,修了者に対して連名で学位授与を行うことができる教育課程の共同実施制度を創設し,その普及を図る。
  • ◆ 産学間の対話の機会を設け,インターンシップの推進に向けた理解の増進などの環境整備を進める。

2 単位制度の実質化

(1) 現状と課題

  • (ア) アメリカなどの諸外国と同様,我が国の大学教育のシステムは,単位制度を採用しており,この的確な運用は,教育の質の維持,国際的な通用性の確保の観点から不可欠である。従来単位制度を取っていなかった欧州においても,欧州高等教育圏の実現を目指す一環として,その導入に踏み切っており,単位制度の考え方は一種の国際標準となってきている。
  • (イ) 我が国の単位制度は,授業時間外に必要な学修等を考慮して,45時間相当の学修量をもって1単位と定めており,制度上要請される学習時間としては,諸外国と比較して低いわけではない。
     しかしながら,内閣府の調査(平成12年度)では,学外の勉強を「ほとんどしていない」者が約半数に達しており,最近の研究者の調査でも,学習時間の少ない学生が相当の割合に上ることが確認されている。総務省の調査(平成18年度)では,学内外を通じた学習時間(土日を含む一日平均)は,3時間30分である。国際的な比較からも,我が国の大学生の学習時間は短い。
     こうした実態は,単位制度の趣旨を踏まえて運用されているとは言い難い(図表2-8〜2-13)。
  • (ウ) 学生の学習時間は,学習成果の達成にも密接に関連すると思われる。
     単位制度の実質化の必要性は,これまでも指摘され,改善策が提言されてきており,シラバス,セメスター制,キャップ制,GPA(Grade Point Average)などの諸手法が導入されてきた。文部科学省の調査(平成18年度)では,各大学では,これらの取組は相当に普及しており,例えば,9割以上の大学がすべての授業科目のシラバスを作成している(図表2-17,2-18)。
     しかし,学習時間の実態を鑑みると,これらの取組が十分に機能しているとは言えない。その原因の一つとして,諸手法の導入に当たって,単位制度の実質化とのかかわりが十分に理解されていない,あるいは相互連携の必要性が認識されていない可能性が考えられる。
     例えば,シラバスにおいて「準備学習等についての具体的な指示」を盛り込んでいる大学は約半数にとどまっており,学生が必要な準備学習等を行ったり,教員がこれを前提とした授業を実施する環境にないことが懸念される。また,キャップ制については,一年間の上限単位数が多過ぎて,各年次にわたって適切に授業科目を履修するという趣旨に必ずしも沿っていない事例も見られる。

(2) 改革の方向

  • (ア) このような状況を踏まえ,単位制度の国際的な通用性の観点から,学習時間の実態を国際的に遜色(そんしよく)ない水準にすることを目指して,総合的な取組を進める必要がある。
     その前提として,1単位当たりの授業時間数が,大学設置基準の規定に沿っている必要がある。具体的には,講義や実習等の授業の方法に応じて15〜45時間とされており,講義であれば1単位当たり最低でも15時間の確保が必要とされる。これには定期試験の期間を含めてはならない。
     各大学では,学習時間などの実態を把握した上で,その結果を教育内容・方法の改善に生かすことが必要である。また,教育課程の体系化を進めた上で,きめ細かな履修指導と学習支援の実施も求められる。
  • (イ) なお,学習時間の在り方を論じるに当たっては,学生の学習意欲等の問題のみに原因を求めることは適当ではない。学生生活において,アルバイトが相当の比重を占めるという実態があるが,経済的な困難を抱える学生が増大し,学習に専念できない状況が広がりつつある可能性を十分に認識しておく必要がある(図表2-12)。

(3) 具体的な改善方策

【大学に期待される取組】

  • ◆ 自己点検・評価活動の一環として学習時間等の実態を把握し,単位制度の実質化の観点から,教育方法の点検・見直しを行い,質の向上を図る。
    • 卒業要件単位数,各科目の単位数配当,履修指導と学習支援の在り方などの点検・見直しを行諸手法(シラバス,セメスター制,キャップ制,GPAなど)を相互に連携させて運用する。点検・評価のための目安として,具体的な学習時間を設定することも検討する。
  • ◆ 学部・学科等の目指す学習成果を踏まえて,各科目の授業計画を適切に定め,学生等に対して明確に示すとともに,必要な授業時間を確保する。
    • シラバスに関しては,国際的に通用するものとなるよう,以下の点に留意する。
      •  各科目の到達目標や学生の学修内容を明確に記述すること
      •  準備学習の内容を具体的に指示すること
      •  成績評価の方法・基準を明示すること
      •  シラバスの実態が,授業内容の概要を総覧する資料(コース・カタログ)と同等のものにとどまらないようにすること
  • ◆ 各科目の授業時間内及び事前・事後の充実の観点から,各セメスターで履修する科目の数・種類が過多とならないようにする。
    • 例えば,細分化された2単位科目(週1回開講)を多数履修する在り方を見直し,3単位又は4単位科目(間に休憩を入れた2コマ続きの授業又は週複数回開講する授業)を標準形態とする。科目登録等に際し,各学生の実情に応じて登録の適否等に関する履修指導を積極的に行う。それらの種々の取組と併せて,キャップ制の導入や受講科目数に対応した柔軟な授業料システムについて検討する。

【国によって行われるべき支援・取組】

  • ◆ 各大学の自己点検・評価の一環として,学習時間の現状把握を行い,教育改善に活かすように促す。
  • ◆ 適切な上限単位数を設定するなど単位制の実質化の趣旨に沿ったキャップ制の導入を促進する。
  • ◆ シラバスの内容(準備学習の内容や目安となる学習時間等についての具体的な指示を含む)を調査し,各大学における単位制の実質化に向けた取組を把握する。
  • ◆ 各種の財政支援に当たって,単位制度の実質化に向けた取組など,質保証の在り方を勘案する。

3 教育方法の改善

(1) 現状と課題

  • (ア) 第1節では,大学教育の改革については,「何を教えるか」よりも「何ができるようになるか」に力点が置かれることを述べたが,このことは,教育内容以上に,教育方法の改善の重要性を意味する。
     学習意欲や目的意識の希薄な学生に対し,どのような刺激を与え,主体的に学ぼうとする姿勢や態度を持たせるかは,極めて重要な課題である。
  • (イ) 第1節に掲げた学士力は,課題探求や問題解決等の諸能力を中核としている。学生にそれを達成させるようにするには,既存の知識の一方向的な伝達だけでなく,討論を含む双方向型の授業を行うことや,学生が自ら研究に準ずる能動的な活動に参加する機会を設けることが不可欠である。研究という営みを理解し,実践する教員が,学生の実情を踏まえつつ,研究の成果に基づき,自らの知識を統合して教育に当たるということが改めて大切な意義を有する。すなわち,教育と研究との相乗効果が発揮される教育内容・方法を追求することが,ユニバーサル段階の大学にとって一層重要である。
     その意味で,大衆化した大学における学士課程教育の充実と,教育と研究を活動の両輪とする大学制度は矛盾するものではない。

(2) 改革の方向

  • (ア) 各大学においては,教育方法に着目したときに,学生の主体的な参画を促す授業となっているか,授業以外の様々な学習支援体制が整備されているか,学内にとどまらず,積極的に体験活動を取り入れているかなどについて,改めて点検・見直しが必要である。
  • (イ) 教育環境の面では,少人数指導の推進(教員一人当たり学生数の比率の維持向上等),支援スタッフや情報通信技術等の活用,豊かな課外活動や自習をも可能とする施設・設備の整備など,双方向性を確保した教育システムが欠かせない。
     この点で,国際競争力を有するアメリカの大学との懸隔は大きく,教育投資の大幅な拡大が望まれる(参考資料5,10参照)。
  • (ウ) なお,情報通信技術の活用は,教育の双方向化・システム化を飛躍的に推進する可能性を秘めており,その普及が望まれるが,それ自体はあくまで教育の手段であって,目的ではない。各大学にとって,それぞれが目指している学習成果や,教育研究上の目的の達成にとって有効か,対面授業に準ずる教育効果が確保されるのか,などの適切な判断が求められる。

(3) 具体的な改善方策

【大学に期待される取組】

  • ◆ 学習の動機付けを図りつつ,双方向型の学習を展開するため,講義そのものを魅力あるものにするとともに,体験活動を含む多様な教育方法を積極的に取り入れる。
    • 学生の主体的・能動的な学びを引き出す教授法を重視し,例えば,学生参加型授業,協調・協同学習,課題解決・探求学などを取り入れる。大学の実情に応じ,社会奉仕体験活動,フィールドワーク,インターンシップ,海外体験学習や短期留学等の体験活動を効果的に実施する。学外の体験活動についても,教育の質を確保するよう,大学の責任の下で実施する。
  • ◆ TA(ティーチング・アシスタント)等を積極的に活用して,双方向型の学習や少人数指導を推進する。
    • 授業における指導(例えば,ディスカッション,討論など)への参画,授業外の学習支援など,TAの役割を一層拡大する。優秀な学部学生をSA(スチューデント・アシスタント)として活用することも検討する。
  • ◆ 教育研究上の目的等に即して情報通信技術を積極的に取り入れ,教育方法の改善を図る。
    • 的確な授業設計を行った上で,例えば,以下のような取組について検討する。
      •  ビデオ・オン・デマンド・システム等,eラーニングの活用による遠隔教育
      •  学習管理システム(LMS:Learning Management System)を利用した事前・事後学習の推進
      •  教室の講義とeラーニングによる自習の組み合わせ,講義とインターネット上でのグループワークの組合せ(いわゆるブレンディッド型学習)の導入
      •  携帯端末を活用した学生応答・理解度把握システム(いわゆるクリッカー技術)による双方向型授業の展開

【国によって行われるべき支援・取組】

  • ◆ 少人数指導の推進や情報通信技術の活用などに必要な施設・設備の整備を含め,教育方法の改善に向けた優れた実践を支援する。
  • ◆ 学生に対して特に刺激を与える体験活動として,諸外国の大学との間の短期留学の派遣・受入れを積極的に推進する。
    • これらを促すため短期留学生向けも含めた宿舎等の住環境・生活環境の整備を支援する。
  • ◆ TA等の教育支援人材の大幅な増加に向けて支援を行う。
    • 例えば,学部学生を含めてTA等の活用に対する支援を充実させる。
  • ◆ TA等の訓練等の取組を支援するとともに,各分野でのTA等のより積極的な活用に向け,各大学に対して環境整備を促す。
    • 例えば,業務内容及び教員との役割・責任分担の明確化,待遇の適正化,学内でのTAやSAの評価・統括システムの整備を促す。
  • ◆ 大学間の連携,学協会を含む大学団体等を支援し,国際的通用性に留意しつつ分野別のモデル教材を作成する等の取組を促進する。
  • ◆ 教育方法の革新に向け,基礎的な調査研究や実践事例の情報収集・提供,学協会を含む大学団体等の取組の連絡調整等を行う拠点を創設する可能性を検討する。

4 成績評価

(1) 現状と課題

  • (ア) 我が国の学士課程教育をめぐっては,卒業認定における評価の厳格化も大きな課題となっている。
     評価の厳格化は,卒業時だけの問題ではなく,入学してからの教育指導の過程における成績評価についても,学生の成長という観点から考えなければならない。
  • (イ) これまで,文部科学省は,成績評価基準の明示,アメリカで一般的に普及しているGPA(Grade Point Average)等の客観的な仕組みの導入を各大学に促してきた(注1)。
     しかし,修業年限での卒業率や中退率などの指標で見る限り,我が国の大学の成績評価が厳格化してきているとは言えない。中退者の少なさは国際比較でも顕著であり,そのこと自体は,否定すべきではないが,適正な評価が行われていない可能性も示唆される。
  • (ウ) 我が国の大学は,成績評価について,個々の教員の裁量に依存しており,組織的な取組が弱いと指摘されてきた。従来のままでは,大学全入時代の学生の変容に際し,学生確保という経営上の要請も相まって,なし崩し的に安易な成績評価が広がるおそれがある。
  • (注1) GPAは,我が国の全国の大学のうち40パーセントで導入されている。その内訳を見ると,奨学金や授業料免除対象者の選定や個別の学習指導に活用される場合が多い一方で,「進級や卒業判定の基準」(30パーセント),「退学勧告の基準」(19パーセント)といった踏み込んだ活用は少数にとどまっている(平成18年度)(図表2-19)。

(2) 改革の方向

  • (ア) このため,教員間の共通理解の下,各授業科目の到達目標や成績評価基準を明確化するとともに,GPAをはじめとする客観的な評価システムを導入し,組織的に学修の評価に当たっていくことが強く求められる。
  • (イ) 評価に当たっては,多様な活動の成果を評価する観点から,学生の学修履歴等の記録と自己管理のためのシステムを開発することは,学習成果を重視した評価の条件整備として重要である。
  • (ウ) なお,GPAの導入と運用に当たっては,国際的に認知されているGPAの一般的な在り方に十分留意すべきである。
     また,成績評価の結果については,基準に準拠した適正な評価がなされているかなどについて,組織的なチェックが働くような仕組みが必要となる。
  • (エ) 客観的な評価の推進には,資格や検定といった外部試験などの活用も考えられる。その際は,大学自身の学位授与や教育課程編成・実施の方針との整合性の考慮が求められる。
     なお,客観的な評価という場合,特定の時点で実施するペーパーテストによる方法のみを想起するとすれば,必ずしも当を得たものではない。他の先進諸国でも,標準的なテストによって大学生の学習成果を測定することの可否,妥当性に関しては結論を見ておらず,十分な研究を要する課題となっている。
     第1節で示した学士力の学習成果の達成度を評価しようとするならば,多面的できめ細かな評価方法を取り入れることが望まれる。
  • (オ) 成績評価の厳格化や,卒業時の出口管理の強化は,単に学生を振るい落とすことが目的ではなく,学生の利益を増進する配慮も忘れてはならない。GPAも,学生へのきめ細かな履修指導や学習支援の実施,評価機会の複数化と一体的に運用し,学習成果の効果的な達成を促すことに意義がある。
     また,教育システムの在り方として,必要な時に再挑戦ができる柔軟な仕組みづくりが望まれる。

(3) 具体的な改善方策

【大学に期待される取組】

  • ◆ 教員間の共通理解の下,成績評価基準を策定し,その明示について徹底する。
    • 成績評価の結果については,基準に準拠した適正な評価がなされているか等について,組織的な事後チェックを行う。また,成績評価の通用性を高める方策として,当該教員以外の第三者の参画を求める仕組みを検討する。
  • ◆ GPA等の客観的な基準を学内で共有し,教育の質保証に向けて厳格に適用する。
    • GPAを導入・実施する場合は,以下の点に留意する。
      •  国際的にGPAとして通用する仕組みとする(例えば,評価の設定を標準的な在り方に揃える,不可となった科目も平均点に算入する,留年や退学の勧告等の基準とするなど)
      •  アドバイザー制を導入するなど,きめ細かな履修指導や学習支援を併せて行う。
      •  教員間で,成績評価結果の分布などに関する情報を共有し,これに基づくFDを実施し,その後の改善に生かす。
      •  その他単位制度の実質化に向けた諸方策を総合的に講じる。
  • ◆ 学生が,自らの学習成果の達成状況について整理・点検するとともに,これを大学が活用し,多面的に評価する仕組み(いわゆる学習ポートフォリオ)の導入と活用を検討する。
  • ◆ 各大学の実情に応じ,在学中の学習成果を証明する機会を設け,その集大成を評価する取組を進める。
    • 例えば,卒業論文やゼミ論文などの工夫改善や新規導入を実施したり,学部・学科別の,あるいは全学的な卒業認定試験を実施したりすることを検討,研究する。
  • ◆ 国際性を特色とする大学においては,外国語コミュニケーション能力の評価を厳格に行う。
    • 例えば,卒業や進級の要件として,客観的な到達目標を独自に設定する(専門分野を学ぶために必要な語学力の修得等)。TOEFL(トーフル)やTOEIC(トーイック)などの検定の結果を活用する。

【国によって行われるべき支援・取組】

  • ◆ 徹底した出口管理,成績評価の厳格化について先導的に取り組んでいる大学に対して支援を行う。
    • そうした支援を通じ,例えば,当該大学において,成績優秀な学生に対する経済的支援(授業料減免や奨学金の返還免除など)を行うことや,学生が自らの学習成果の達成状況について整理・点検するための仕組みづくりなどを促進する。
  • ◆ 成績評価の在り方に関して,対外的な信頼を確保する上で,最低限共通化すべき事柄は何かを検討し,適切な対応を取る。
    • 例えば,GPAの標準的な在り方,成績証明書の基本的要件などについて検討する。
  • ◆ 大学間の連携,学協会を含む大学団体等を支援し,国際的な通用性に留意しつつ分野別の学習成果や到達目標の設定などの取組を促進する。
  • ◆ 大学間の連携強化に向けた取組の支援を通じ,成績評価等の在り方について,外部評価や相互評価の取組を促進する。