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4.財務情報の公開について
1 財務情報の公開の現状等
  (公開の現状)
     学校法人は,私立学校法第47条において,毎会計年度終了後2月以内に財産目録,貸借対照表及び収支計算書を作り,常にこれを各事務所に備え置かなければならないと定められているが,公開については触れられていない。
   文部科学省は,従来より,私立大学等の事務局長等を対象とした学校法人の運営等に関する協議会や私学関係団体の各種会議を通じて機会あるごとに,財務情報の公開について積極的に対応するよう指導してきている。また,毎年,文部科学大臣が所轄庁である学校法人について財務状況の公開に関する調査を実施し,その結果を公表する際にも,財務情報の一層の公開を求めている。
   その結果,各学校法人の情報公開に対する意識が着実に高まり,平成14年度において,何らかの形で財務情報の公開を行っている学校法人は,大学法人で445法人,短期大学法人等で152法人,合わせて597法人で全法人655法人の91.1%となっている。
   財務情報の公開方法について見ると,広報誌等の刊行物に掲載することにより公開している学校法人は418法人(財務情報を公開している学校法人全体の70.0%),掲示板やホームページ等に掲示している学校法人は163法人(同27.3%),申出のあった者に対する閲覧又は写し(印刷物にしたものを含む。)の交付を行っている学校法人は343法人(同57.5%)となっている。
   公開している財務書類の種類についてみると,資金収支計算書,消費収支計算書及び貸借対照表について,3種類とも公開している学校法人は426法人であり,財務情報を公開している学校法人全体の71.4%となっている。ただ,その内容を見ると計算書類そのものを公開しているケースや大科目のみを公開しているケース等様々である。
   このように公開の方法や対象としている財務書類にはかなりのばらつきがある。

  (情報公開法による開示)
     私立大学等経常費補助金又は都道府県による私立高等学校等経常費補助金の交付を受ける学校法人は,私立学校振興助成法第14条に基づき,学校法人会計基準に従い会計処理を行い,資金収支計算書,消費収支計算書,貸借対照表,資金収支計算書に附属する資金収支内訳表及び人件費支出内訳表,消費収支計算書に附属する消費収支内訳表,貸借対照表に附属する固定資産明細表,借入金明細表及び基本金明細表を作成し,原則として,当該年度の翌年度の6月30日までに文部科学大臣又は都道府県知事に届け出なければならないとされている。
   平成13年4月から行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)が施行されたが,文部科学省においては,上記の届出のあった書類に関して開示の請求があった場合は,これらの書類のうち資金収支計算書,資金収支内訳表,消費収支計算書,消費収支内訳表の大科目に係る金額(ただし補助金収入については小科目まで。また,資金収支内訳表及び消費収支内訳表については学校部門のみ)及び貸借対照表の大科目並びに中科目に係る金額についてのみ開示の対象としている。

  (他の公共的法人等における財務書類の取扱いの現状)
     公益法人においては,公益法人の設立許可及び指導監督基準(平成8年9月20日閣議決定)により,事業報告書,収支計算書,正味財産増減計算書,貸借対照表,財産目録を主たる事務所に備えて置き,原則として一般の閲覧に供することとされている。
   社会福祉法人においては,社会福祉法(昭和26年法律第45号)により,事業報告書,財産目録,貸借対照表及び収支計算書及びこれらに関する監事の意見を記載した書面を各事務所に備えて置き,当該社会福祉法人が提供する福祉サービスの利用を希望する者等から請求があった場合には,正当な理由がある場合を除き,これを閲覧に供しなければならないとされている。
   特定非営利活動法人(NPO法人)においては,特定非営利活動促進法(平成10年法律第7号)により,事業報告書,財産目録,貸借対照表及び収支計算書を主たる事務所に備えて置き,特定非営利活動法人の社員その他の利害関係人からの請求があった場合には,正当な理由がある場合を除いて,これを閲覧させなければならないとされている。
   医療法人においては,医療法(昭和23年法律第205号)により,財産目録,貸借対照表及び損益計算書を各事務所に備えて置き,医療法人の債権者は,これらの書類の閲覧を求めることができるとされている。
   独立行政法人においては,独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)に基づき,貸借対照表,損益計算書,利益金の処分又は損失の処理に関する書類その他主務省令で定める書類及びこれらの附属明細書を官報に公告し,かつこれらの書類に事業報告書,決算報告書及び監事の意見を記載した書面を各事務所に備えて置き,主務省令で定める期間(各独立行政法人がそれぞれ定めることとなるが,通常は5年間),一般の閲覧に供しなければならないこととされている。

  (各種提言)
     「規制改革の推進に関する第2次答申」(平成14年12月12日総合規制改革会議)において,次のようなことが指摘されている。
 
   少子化等により,大学を取り巻く経営環境が厳しくなることが予想される中で,学生や保護者,企業関係者等の判断に資するよう,一層の情報開示を進めることが必要である。
   私立大学について,財務状況の公開に関する具体的な内容や方法等について早期に結論を得て,公開を促進すべきである。その際,学生等に分かりやすい方法や内容について検討すべきである。
   大学は,財務状況に限らず,教育環境(教育方針,教育内容,1教員当たりの学生数等),研究活動,卒業生の進路状況(就職先や就職率等)など当該大学に関する情報全般を,インターネット上のホームページなどによって積極的に提供すべきである。
   また,「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」(平成14年8月5日中央教育審議会答申)において,「大学は公共的な機関であることから,社会的責務として大学情報を可能な限り社会に提供していくことが必要であり,情報を社会に提供することによって大学が社会から評価を受け,必要な改善を図ることにより大学の質の向上に資することとなり,財務関係の状況など大学の情報を積極的に提供することについては,大学が社会の信頼・支持を得るために不可欠なものとして,これに取り組んでいくことが期待される」と提言されている。

2 財務情報の公開に当たっての基本的考え方
     学校法人に対してはその公共的性格から,公的助成や税制上の優遇措置等が採られており,さらに収入の大部分が授業料,入学金等の学生生徒等納付金であることにかんがみ,広く一般の人や保護者等関係者の理解と支持を得るためにも,財務情報の公開は極めて重要である。情報公開は社会全体の流れであり,学校法人がアカウンタビリティ(説明責任)を果たすという観点からも,財務情報を公開することが求められる。
   財務情報を公開することにより,社会から評価を受け,自主的・自律的な取組によってますます質の向上が図られていくものと考えられる。

3 具体的改善方策
a) 義務付けの対象となる学校法人
   財務書類の公開を法的に義務付けることが必要である。
   補助金の交付の有無にかかわらず,全学校法人を公開の対象とすることが適当である。
   幼稚園法人等小規模法人についても,他の公共性の高い法人でも規模で差を付けていないことにかんがみ,公開の対象とすることが適当である。

(公開の義務付け)
   学校法人については,今まで「私学の自主性」という観点から,財務情報の公開については,文部科学省は「指導」の範囲にとどめ,公開するかしないか,あるいは何を公開するかなどの判断は各学校法人にゆだねられてきた。
   しかし,前述のとおり,学校法人と同様に公益性を有する公共的法人においては,財務情報の公開について法的に義務付けられるなど積極的な取組がなされている。また,政府の関係審議会等においても公開の推進の必要性が指摘されている。
   入学志願者や保護者は,学校の様々な情報を見て進学先を決めるわけであるが,その際各学校法人の財務の状況は重要な情報である。今後,学校も競争原理,市場原理にゆだねられていくことが社会の流れであるが,財務情報の公開がされなければ,入学志願者の側は,必要な情報を得られないまま学校選択をせざるを得なくなる。今後,我が国の社会全体の情報公開が進められていく中で,公共性の極めて高い学校法人が,国民に対してアカウンタビリティを果たすという観点からも,財務情報の公開は避けては通れない課題である。
   このような状況から,学校法人に対し指導の形態から一歩進め,財務書類の公開を法的に義務付けることが適当である。

(全学校法人を対象とする理由)
   学校法人の公共性・公益性を考慮して,補助金の交付や税制上の優遇措置等が採られている。この公共性・公益性は,例えば,現実に補助金を受けているか否かによって変わるわけではない。
   また,私立学校法では補助金交付の有無や規模の大小にかかわらず財産目録,貸借対照表,収支計算書を備えて置くことが義務付けられている。公開の義務化は,それらの公開を求めるものであり,新たな財務書類の作成を義務付けるような,重い負担を課すものではない。
   他の公益法人や社会福祉法人など公共性の高い法人でも,補助金交付の有無や規模の大小にかかわらず,財務に関する書類について閲覧に供するなど,公開が義務付けられている。例えば,社会福祉法人が保育所を設置している場合にはその保育所の分も含めて閲覧に供することとなっている。
   以上のことから学校法人は補助金交付の有無や規模の大小にかかわらず,広く一般の人,在学生,入学志願者,学費負担者等に対し,その理解を得られるよう自ら財務書類を公開することが求められている。

b) 公開を義務付ける財務書類
   公開する財務書類は,1財産目録,貸借対照表及び収支計算書(資金収支計算書及び消費収支計算書),2資金収支内訳表及び消費収支内訳表とすることが適当である。ただし,プライバシー保護の観点等から,一般に公開することが適当でないと認められる情報については,公開しないこととできる仕組みを検討すべきである。
   公開する財務諸表の様式は,学校法人会計基準によって作成が義務付けられているものはそれによることとする。また,財産目録についてはある程度の統一性を図るため作成例を示すことが適当である。なお,補助金を交付されていない学校法人については,学校法人会計基準に準じて作成することが適当である。
   財務書類を正しく理解できるよう,財務書類の背景となる事業の概要等を説明することを目的とする事業報告書の作成及び公開を義務付けることが適当である。

(公開内容)
   私立学校法第47条において,学校法人は財産目録,貸借対照表及び収支計算書を作成し,常にこれを各事務所に備えて置かなければならないとされているが,具体的には次の書類の公開を義務付けることが適当である。
   ・ 財産目録,貸借対照表及び収支計算書(資金収支計算書及び消費収支計算書)
資金収支内訳表及び消費収支内訳表
   ただし,例えば,そのまま公開すると個人の給与や退職金等が特定されてしまう場合,係争中の訴訟事件で個人名が分かってしまう場合等,プライバシー保護の観点等から,一般に公開することが適当でないと認められる情報については,公開しないこととできる仕組みを検討すべきである。なお,公開することが適当でない情報については,一定の指針等を示すことも考えられる。
   また,学校法人が収益を目的とする事業を行っている場合は,その計算書類についても備置き,閲覧の対象になることに留意することが必要である。
   なお,公開の対象とする財務書類については,既に情報公開法に基づき開示の対象となっているものを参考にしつつ検討したものである。
   私立学校法では,上記財務書類の様式は定められていない。一方,私立大学等経常費補助金又は都道府県による私立高等学校等経常費補助金の交付を受ける学校法人は学校法人会計基準にのっとって財務書類を作成することが義務付けられている。したがって,同補助金の交付を受ける学校法人にあっては,同会計基準にのっとって作成した財務書類の公開を義務付けることが適当である。
   財産目録は,現在,「作成」と「備置き」の規定はあるが,その様式については法令上の定めがない。今回の財務書類の公開に併せ,様式はある程度の統一を図るために作成例を示すことが適当である。その際,貸借対照表に記載された各科目について,その内容の概要が分かるような作成例とし,実際の作成に当たっては,各学校法人の規模等に応じて学校法人が判断することが適当である。

   私立大学等経常費補助金又は都道府県による私立高等学校等経常費補助金が交付されていない学校法人については,様式についての法令上の定めがないが,学校法人会計基準に準じて作成することが適当である。
   財務書類は,結果としての数字の羅列が主であり,専門家ではない一般の人にとっては容易に理解できない場合が少なくなく,場合によっては,誤解されたりする可能性もある。このため,財務書類の背景となる学校法人の事業方針やその結果を分かりやすく説明し,正しく理解してもらえるような方策を採る必要がある。このため,事業報告書の作成を義務付け,その備置きと公開を義務付けることが適当である。
   事業報告書については,法人の概要,事業の概要及び財務の概要に区分して作成することが適当であり,そのために作成例を示すことが適当である。その際,その具体的内容については,各学校法人の規模等に応じて学校法人が判断することが適当であるが,例えば, 次のような事項を盛り込むことが考えられる。
(例示)
   ・ 設置する学校・学部・学科等
当該学校・学部・学科等の入学定員,学生数の状況
   ・ 役員・教職員の概要
当該年度の事業の概要
   ・ 当該年度の主な事業の目的・計画
   ・ 当該計画の進捗(しんちょく)状況
財務状況の経年比較
   なお,資金収支計算書の人件費内訳表,貸借対照表の附属明細表(固定資産,借入金,基本金)及び収支予算書は公開の義務付けの対象とはしないが,学校法人の判断によって公開することは十分考えられることである。

c) 公開の方法
   公開の方法としては,財務書類と事業報告書を閲覧に供することを義務付けることが適当である。
   上記書類の閲覧に加え,各学校法人において一般の人にも分かりやすい公開内容や方法を工夫し,学報,広報誌等の刊行物への掲載やインターネットの活用等により財務情報を積極的に提供していくことが望まれる。なお,その場合,提供する内容を概要とするなど,どのようなものとするかは各学校法人の判断によることが適当である。

(公開の方法)
   前述したように,現在,文部科学大臣所轄学校法人のうち91.1%の学校法人が何らかの形で財務情報を公開しているが,その方法も様々である。公開の方法としては,財務書類と事業報告書について来訪した者が閲覧できるようにする,刊行物に掲載する,インターネットに載せるなど様々なことが考えられるが,すべての学校法人に最低限共通に義務付ける方法としては「閲覧に供する」こととすることが適当である。
   現在財務情報を公開している学校法人の中には,来訪した者に閲覧させる方法よりはるかに進んだ方法で公開している学校法人が数多くある。
   閲覧は各学校法人に共通に義務付ける最低限のことであり,それさえすれば後は何もしなくてもよいというものではない。閲覧に供するという最低限必要な措置を採ったうえで,各学校法人は自主的に一般の人にも分かりやすい公開内容や方法を工夫し,学報や広報誌等の刊行物に掲載したり,インターネット等の電子媒体の活用を図るなどして財務情報をより積極的に提供し,透明性を高めていくことが望まれる。なお,その場合,提供する内容については,例えば財務書類の概要とするなど,どのようなものとするかは各学校法人の判断によることが適当である。

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