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2.監事機能の強化について
    1 監事制度の概要等
    (監事制度の概要)
       監事は理事の業務執行を監査する機関であり,学校法人の管理運営を適正に行うために極めて重要な役割を果たすものである。
   民法第1編第2章に定める法人においては,監事の設置は任意事項とされているが,学校法人については,学校法人がその公共性を担保し,学校経営主体としてふさわしい法人となるよう監事を必ず2人以上置かなければならないとしている。
   また,監査機関としての性質上,監事は各自単独でその職務を行うことができるものであるが,共同して職務を行うことも可能である。
     
    (監事の職務)
       監事の職務としては,1学校法人の財産の状況を監査すること,2理事(理事長を含む)の業務執行の状況を監査すること,3学校法人の財産の状況又は理事の業務執行の状況について監査した結果不整の点のあることを発見したとき,これを所轄庁又は評議員会に報告すること,4報告をするために必要があるとき,理事長に対して評議員会の招集を請求すること,5学校法人の財産の状況又は理事の業務執行の状況について,理事に意見を述べることが私立学校法に掲げられている。
   「財産の状況の監査」とは,法人の帳簿,書類を閲覧・調査し,現金,有価証券,債権,不動産等の資産や負債についてその状況を調査することを指し,理事等に対し財産の状況について報告を求めることも可能とされている。
   また,「理事の業務執行の監査」は,理事の内部的事務執行,対外的事務執行のすべてに及ぶものであり,定期的監査のほか,臨時的に行う監査も可能とされている。
   「不整の点」とは,理事の職権濫用行為,法令の規定違反等の不正行為が含まれるが,「不正」より広義と解されており,実質的に見て法人の公益目的に反するような行為も含まれるとされている。
   なお,監事の職務については,例示規定であり,上記の内容に限定されるものではないとされている。
     
    (監事の選任等)
       監事については,1理事又は学校法人の職員(当該学校法人の設置する私立学校の校長,教員その他の職員を含む)と兼ねてはならないこと,2各役員(監事及び理事)の配偶者又は三親等以内の親族が一人を超えて含まれることになってはならないことが定められている以外には,特段法令上の規定は設けられておらず,その選任,解任,辞任の手続や任命権者については各学校法人の判断にゆだねられている。また,監事と評議員との兼職は禁じられていない。
   実態としては,最低数の2名となっている法人が多く,大学法人では約8割に上っている。また,勤務形態としては,非常勤がほとんどであり,監事全員が非常勤である割合は,大学法人で9割を超えている。
     
  2 監事機能の強化に当たっての基本的考え方
       学校法人が,様々な課題に適切に対処しつつ,安定した学校運営を行っていくためには,理事機能の強化と併せて,学校法人の公共性及び運営の適正性を確保するための機関である監事機能の強化を図ることが必要である。
   監事機能の充実のためには,監査すべき内容の明確化や監査を支援する仕組みの構築等により,実効ある監査が行われるようにすることが必要である。また,監査の実効性や客観性を高める観点から外部性の強化を図ることが必要である。
     
  3 具体的改善方策
   
   監事の監査の範囲及び内容が必ずしも明確でないため,一定の指針等を示すことにより明確化することが必要である。また,監査報告書の作成,評議員会への報告,外部への閲覧を行うこととするとともに,監事が理事会・評議員会へ出席するようにすることが適当である。
   監事の監査を支援する観点から,各学校法人において,理事長等から監事に対して定期的に学校法人の運営状況に関する情報を提供したり,必要に応じて支援のための事務体制を整備したりすることが必要である。
   監事の理事会・評議員会からの独立性を高めるとともに専門性を高める観点から,監事の選任要件における外部性の強化及び評議員との兼職制限が必要である。また,監事の選任は監査される側である理事会のみで選任するのではなく,例えば理事会が推薦し,評議員会の承認を得た者を任命する等の手続とすることが適当である。
     
    (監事の職務の明確化等)
       現在,監事については「学校法人の財務の状況」及び「理事の業務執行の状況」について監査することとされているが,これらの範囲及び内容が必ずしも明確でないため,必要な監査が十分に行われていなかった場合もあると考えられる。このため,監査すべき範囲及び内容について指針を示すこと等により明確化することが必要である。なお,指針等の策定に当たっては,設置する学校の種類や法人の規模等による違いにも配慮することが求められる。
   「学校法人の財務の状況」及び「理事の業務執行の状況」を監査するということは,学校法人の運営全体が対象となるということである。したがって,監査の範囲は財務にかかわる部分に限られるものではなく,学校法人の業務の中心である学校の運営に関しても対象に含まれることとなる。個々の教育研究内容に立ち入ることは適当ではないが,学部・学科の新増設や教育・研究における重点分野の決定,学生・生徒の募集計画等の教学的な面についても対象とすることが求められる。
   監査の内容としては,予算決定や中長期計画の策定(学部等の設置,学内事務体制の見直し,施設設備の整備等)に対する意見陳述,外部監査において指摘された事項の改善状況や事業計画の達成度の確認などが考えられる。また,適法性の観点だけにとどまらず,法人の運営上明らかに妥当ではないと判断される場合には指摘をすることも必要である。なお,監事は理事会の決定自体に参画するものではないことについて留意が必要である
   監事による監査をより実効あるものとする観点から,評議員会が監事の監査状況について確認できるようにするため,監事の職務に監査報告書を作成すること及び監査報告書を理事会・評議員会へ提出することを加えることが適当である。また,当該監査報告書については,理事長において財務諸表とともに所轄庁へ提出するようにするとともに,財務諸表とともに閲覧に供するように措置することが適当である。
   さらに,監事が学校法人の運営状況について十分に把握し監査の実効性をより高めるとともに,役員として学校法人の運営に参画する観点から,監事が学校法人の運営に関する意思決定等が行われる場である理事会及び評議員会へ出席するようにすることが必要である。ただし,様々な事情等により全ての理事会及び評議員会に出席することが困難な場合も考えられることから,少なくとも理事会については必ず出席することとなるよう措置することが適当である。なお,理事会,評議員会いずれにおいても,監事の議決権はないものとすることが適当である。
   また,監事が行う財務の状況に関する監査をより充実させる観点から,私立学校振興助成法に基づき公認会計士が行う会計監査との連携を図ることが重要である。例えば,監事は必要に応じ公認会計士が行う会計監査に立ち会うようにする等の取組を各学校法人において推進することが求められる。
   なお,私立学校法における「理事の業務執行の状況」との用語については,監査対象が限定される印象があることから,表現を変更することについて法制的に検討することが適当である。
     
    (監事の職務執行の支援)
       実効ある監査を行うためには監事が常勤であることが望ましいが,非常勤の監事であっても十分な監査ができるよう,各学校法人において監事の監査を支援するための様々な態勢を整備することが求められる。
   具体的には,非常勤の監事や外部から登用された監事が学校法人の運営状況について十分に把握できるようにする観点から,理事長等から監事に対して定期的に業務執行状況を報告するようにすることが適当である。
   また,規模の大きい法人などにおいては,監事のみの対応では十分な監査が難しいと考えられることから,規模等に応じ監事の下部機関として特別の事務組織を整備することや監事の職務を支援するための職員を配置する等の支援態勢を整備することが望ましい。
   さらに,監事の役割について十分に理解してもらうため,私学関係団体等において監事に対する研修会を開催するなどの取組を支援することも必要である。
     
    (監事の選任基準等)
        監査についての専門性を高めるとともに,監事が遠慮することなく意見を言えるようにする観点から,外部性を高めることが重要である。このため現行の「法人の理事,職員との兼職禁止」という要件に加えて,例えば,監事のうち少なくとも1名は就任時又は過去数年間において当該法人の理事又は教職員でなかったものを選任するようにすることや,財務管理,事業の経営管理その他法人の行う業務の運営に優れた識見を有する者を選任するようにすることなどが考えられる。
   また,評議員会からの独立性を確保する観点から,評議員と監事の兼職を禁止するよう措置することが適当である。
     
    (任免手続,任期)
       現在は,監事の任免に関する手続や任期等について法令上の定めはなく,各学校法人の判断にゆだねられているが,各学校法人において監事の任免の手続や要件に関する規定が整備されていない場合,例えば監事の解任に当たり手続上の瑕疵(かし)や不当な解任理由を問題とする訴訟等が生じる可能性が懸念される。
   また,理事の業務を監査する監事を理事会や理事長のみにより選任することは監査を受ける者が監査する者を選ぶという点で疑問が残る。
   このため監事については,例えば理事会が推薦し,評議員会の承認を得た者を理事長が任命することとするなど,監事の選任手続について評議員会が一定の関与をすることとすることが適当である。
   また,監事の解任,辞任に関する手続及び任期に関する規定についても,各学校法人において寄附行為等により定めを設けるよう措置することが適当である。ただし,具体的手続や要件,任期については,各学校法人それぞれの有する事情や法人の規模により様々な在り方が考えられることから,各学校法人にゆだねることが望ましい。


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