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1.理事機能の強化について
    1 理事制度の概要等
    (理事制度の概要)
       理事は,学校法人を代表するとともに,学校法人の業務を決定する権限を有する重要な機関である。
   民法第1編第2章に定める法人では理事は1名以上とされているが,学校法人においては,学校の公共性を担保し少数の理事による専断的な学校経営を防ぐため,理事を5人以上置くこととされている。なお,上限数については法令上の規定はなく,理事の定数については,各学校法人がそれぞれ寄附行為において定めている。
   学校法人の業務は,寄附行為に別段の定めがないときは,在任理事総数の過半数をもって決することとされている。この場合の「学校法人の業務」とは,学校法人の内部事務と対外的な事務を合わせて呼ぶものと解されている。
   すべての理事は,学校法人の業務についての代表権を有しており,学校法人の外部に対する意思表示等の行為をなし,又は外部から学校法人に対してなされる意思表示等を受けることができることとされている。ただし,寄附行為の定めをもって個々の理事の代表権を制限することが可能であり,学校法人によっては,代表権者を理事長のみに限定しているところもある。
     
    (理事の選任)
       理事については,1当該学校法人の設置する私立学校の校長(学長及び園長を含む),2当該学校法人の評議員のうちから,寄附行為の定めるところにより選任された者(寄附行為において特定の評議員をもって理事に充てるという定め方をしている場合を含む),3寄附行為の定めるところにより選任された者(実際には学識経験者,学園の功労者,関連する宗教法人の役員などが多い)から選任することとされているが,その構成割合や選考・任命手続については各学校法人にゆだねられている。また,勤務形態についても法令上の定めはなく,非常勤の理事も多い。
   なお,理事については同族制限が設けられており,各役員(理事及び監事)について,その配偶者又は三親等以内の親族が一人を超えて含まれることになってはならないこととされている。また,理事と監事は兼ねることができないとされているが,理事と評議員は兼ねることが可能となっている。
     
   

(理事長)

   

   理事のうちから寄附行為の定めるところにより,理事長を一人選任することとされている。
   理事長は,1評議員会を招集すること,2評議員会に議案を提出し,意見を聴くこと,3評議員会に対し決算報告をし,意見を求めることを行うほか,学校法人内部の事務を総括することとされている。

     
   

(理事会)

       理事会に関しては,法令上の規定は設けられていないが,ほとんどの学校法人において,寄附行為の定めにより理事会が設けられ,学校法人の業務を決定することとされている。
     
  2 理事機能の強化に当たっての基本的考え方
       少子化など昨今の法人経営をめぐる厳しい社会・経済の情勢に的確に対応しつつ,安定した学校運営を行っていくためには,学校法人の管理運営機能の一層の充実を図ることが必要であり,そのためには学校法人の業務についての決定権限を有する理事の機能の強化が不可欠である。
   理事機能の強化のためには,学校法人の運営に関する権限と責任の所在を明確にし,各理事が学校法人の運営に対し積極的に参画することが必要である。
   また,学校法人としての意思決定がより機動的に行えるようにするとともに,当該意思決定が専断的にならないようにすることが必要である。
     
  3 具体的改善方策
   
   理事会については各学校法人の寄附行為の定めにより実態として置かれているものであるが,学校法人の業務に関する最終的な決定機関としての位置付けを明確化する観点から,理事会を法令上に位置付けることが適当である。
   学校法人によっては,理事長のみが代表権を有している場合や担当理事が置かれている場合など学校法人の代表権の制限が行われている場合もあることから,そのような場合にはこれを対外的に明らかにするため登記できるようにすることが求められる。
   学校法人の運営に多様な意見を採り入れる観点から,理事に外部の人材(現に当該学校法人の教職員でない者等)が適切に任用されるようにすることが重要である。
   理事会における検討の充実に資するよう,各学校法人において,非常勤の理事に対し定期的に学校法人の運営状況に関する情報を提供することや理事会における委任状等の取扱いの改善を進めることが必要である。

    (理事会の役割の明確化)
       現在,理事会については法令上の規定はなく,実態として各学校法人が定める寄附行為により設置されているが,学校法人の業務に関する決定権限の所在を明確にする観点から,理事会を学校法人の業務に関する最終的な決定機関として法令上位置付けることが適当である。
   これにより,理事会が最終的な意志決定機関であり,各理事は法人の業務の執行機関という位置付けが明確になる。なお,理事会は理事長が招集することとするのが適当である。
   一方,機動的な学校法人の運営を行うためには,速やかに意思決定が行えることが重要であり,法人の業務のすべてを理事会において決定しなければならないとすることは現実的ではない。最低限理事会として決定しなければならない事項とそれ以外の事項を整理し,明確にすることが必要である。
   具体的には,理事会は学校法人の基本的な運営方針や事業計画について決定するとともに,現在評議員会に諮問しなければならない事項とされている1予算,借入金及び重要な資産の処分,2決算,3寄附行為の変更,4合併・解散,5収益事業に関する重要事項,6その他学校法人の業務に関する重要事項で寄附行為で定めるものについては理事会において決定することとすることが必要である。6について寄附行為で何を定めるかは各学校法人の判断によるが,一般的には学則の制定,就業規則の決定,資産の運用,工事の契約,重要な設備の購入等が考えられる。ただし,あらかじめすべてのことを想定して寄附行為に定めておくことは不可能であり,そのようなことが発生した場合には理事長において理事会決定に係らしめるか否か適切な判断がなされるべきと考える。
   なお,理事会による機動的な運営を図りつつも,運営の適正性・公共性をより高めるためには,併せて監事及び評議員会によるチェック機能を高めることが重要である。
     
    (理事の権限の明確化)
       現在の私立学校法においては,すべての理事が学校法人の業務のすべてについての代表権を有するのが原則となっている。しかしながら,すべての理事がそれぞれ学校法人の業務のすべてを担当し対外的な行為を行うことは,対外的に混乱を招く可能性がある。また,業務ごとに担当の理事を定めて対外的な業務を行った方が効率的な運営が可能となる場合も考えられる。
   このため,各学校法人においては必要に応じ,特定の業務について担当の理事を定めたり理事長に権限を一元化することにより,各理事が有している権限を明確化することが適当である。担当理事の導入については,各理事の役員としての意識の向上を図り,学校法人の運営に対し責任をもって積極的に参画することを推進する効果も期待できる。
   また,特定の業務について担当の理事を定めて対外的な行為を担わせる場合には,併せて寄附行為の定めにより代表権の制限を行い,それぞれの業務について対外的な行為を行える者を明確にしておくことが望ましい。
   さらに,このような代表権の制限を行った場合,現在はあくまで学校法人内部の関係にすぎず,善意の第三者には対抗できないこととされているが,権限の明確化を図り,外部との関係における混乱を未然に防ぐ観点から,代表権の制限の内容について登記できるようにすることが求められる。
   なお,担当理事の導入や代表権の制限を行った場合であっても,理事が自分の担当以外の業務について全く無関心でよいということではなく,すべての理事が学校法人の運営全体に目を配り,理事会における意思決定に積極的に参画していくことが必要である。
   また,学校法人によっては小規模である等の理由で一律に担当理事を導入することが困難な場合もあり得ることから,導入については各学校法人の判断で対応することが適当である。
   さらに,私立学校法において「学校法人の内部の事務を総括する」とされている理事長の権限に関する規定について,表現を改める必要性について検討することが適当である。
     
    (理事構成の多様化等)
       現在,大学法人においては約4分の1の学校法人で,財務や経営等の専門的な実務経験を有する人を学外から常勤の理事に任用している。また,学校法人の教職員以外の者を理事(非常勤理事を含む。)に任用している学校法人は,大学法人,高等学校以下を設置する学校法人のいずれも99%を超えているという状況である。このような取組は,今後の厳しい経営環境が予想される中で,学校法人の運営に多様な意見を採り入れ,経営機能を強化する観点から有効と考えられる。
   このため,学校法人の理事として,当該学校法人において現に教職員である者や,就任以前に常勤の教職員であった者以外の理事(外部理事)が法人の規模等に応じて適切に任用されるようにすることが必要であるが,最低でも1名は就任の際現に当該学校法人の教職員でない者が任用されるように措置することが求められる。
     
    (任免手続,任期)
           現在は,理事の任免に関する手続等について法令上の定めはなく,各学校法人の判断にゆだねられているが,各学校法人において理事の任免の手続や要件に関する規定が整備されていない場合,例えば理事の解任に当たり,手続上の瑕疵(かし)や不当な解任理由を問題とする訴訟等が生じる可能性が懸念される。
   このため,各学校法人において,理事の選任,解任,辞任に関する手続や要件について,寄附行為又は寄附行為の委任を受けた細則等において明確に規定するように措置することが適当である。ただし,具体的手続きや要件については,各学校法人それぞれの有する事情や法人の規模により様々な在り方が考えられることから,各学校法人にゆだねることが望ましい。
   また,理事の任期についても法令上の定めは設けられていないが,理事としての適格性について検討する機会を設ける観点から,寄附行為等において任期の定めを設けるように措置することが適当である。 なお,具体的な期間については各学校法人において適切に判断することが必要である。
     
    (理事会の一層の活性化)
       学校法人の理事は,全員が積極的に学校経営に参画することが必要であり,ほとんどの理事は責任感を持って参画していると考えられる。一方,実態としては非常勤の理事長や理事も少なくなく,そのような場合には学校法人の運営の実態について十分に把握することが困難な場合も想定される。また,例外的ではあろうが,ほとんど理事会に出席しない理事も見られるところである。
   今後は,少なくとも理事長については,責任に見合った勤務形態を取り対内的にも対外的にも責任を果たしていくことが重要と考える。このため理事長については原則常勤とするとともに,その職務に専念するためほかの学校法人の理事長等との兼職は避けることとすることが望ましいと考える。しかしながら,様々な事情により,理事長の常勤化,専任化が困難な場合も考えられることから,そのような場合には,各学校法人において,常務理事等理事長に代わって常時法人の業務を担当する者を置くようにすることが必要である。
   また,非常勤理事については,理事会における議論に,学校法人の現状を十分に把握した上で参画し適切な意見を述べることができるよう,各学校法人において学校法人の運営状況に関する情報について,法人の規模や特色等に応じてそれぞれに工夫しつつ定期的に非常勤理事に伝えるようにすることが必要である。特に,理事会の開催前には,各理事に対し議案に関する十分な説明資料を事前に送付することが求められる。
   さらに,各理事が学校法人の運営に積極的に参画する観点から,理事会においては,議題のいかんを問わずあるいは実際の内容が分からないまま判断をすべて他の理事に一任するいわゆる白紙委任は禁止することが必要である。また,委任状もできる限り避けるべきであり,可能な限り書面により議案に対する賛否を表明する方式を採ることが望ましい。前述の理事会開催前の資料の送付はこのような観点からも必要である。


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