はじめに
現在の学校法人制度は,我が国における私立学校の果たす役割にかんがみ,その自主性を重んじ,公共性を高めることによって,私立学校の健全な発達を図ることを目的として,昭和24年の私立学校法の制定により創設された制度である。
学校法人は私立学校の設置を目的として設立される特別の法人であり,民法に定める財団法人制度を基礎としつつ,理事の最低人数の引上げ,設置する学校の校長の理事への任命,監事や評議員の必置,学校経営に必要な資産の保有など学校の設置管理主体として必要な要件を加えた制度となっている。
私立学校の自主性を最大限尊重することを基本とする現行制度の下で,我が国の私立学校は独自の建学の精神に基づく個性豊かな教育研究活動を積極的に展開しており,例えば大学の場合,全学生数の約8割を私立大学が占めるなど,我が国の学校教育の質・量両面にわたる発展に大きな役割を果たしてきた。
現在,我が国では教育界全体が大きな変革期を迎えており,我が国の学校教育の中で重要な位置を占める私立学校が今後とも健全な発展を続け,公教育の担い手として社会の要請に十分にこたえていくためには,私立学校法の精神を維持しつつ,学校法人の公共性を一層高めるとともに,自主的・自律的に管理運営を行う機能を強化するなど,時代の変化に対応して必要な見直しを行っていくことが重要な課題となってきている。
一方,近年の少子化,産業界の変革等による社会経済情勢の変化に伴い,困難な経営状況に直面する学校法人が増加しつつあり,私立学校全体が厳しい競争環境にさらされてきている。例えば,大学及び短期大学では平成15年4月現在で15校が学生の募集を停止しており,また入学定員を満たしていない学校が15年5月の時点で大学で約3割,短期大学で約5割という状況である。このような現状に対処していくため,今後の学校法人においては,特色ある学校教育を展開し,各学校法人の個性を伸ばしていくとともに,更なる少子化の進行を見据え,社会人教育など新たなニーズを掘り起こしていくことが重要であり,様々な課題に対して戦略を持って主体的,機動的に対応していくための体制を強化していくことが必要となってきている。
さらに,事前規制から事後チェックへという社会全体の動きの中で,小・中学校設置基準の明確化と幼稚園,小学校,中学校,高等学校,専修・各種学校における自己点検・自己評価の努力義務化が行われ,また,大学の学部・学科等の設置認可の弾力化と第三者評価の義務付けなどが行われてきている。
また,情報公開に対する対応など学校教育全体に対する説明責任を求める声も高まってきており,学校法人としてもこのような社会からの要請に引き続き適切に対応し,公共性を有する法人としての責務を果たしていくことが重要な課題となっている。
さらに,近年では,NPO法人制度や中間法人制度など新たな法人類型の創設,公益法人の会計基準や企業会計制度の見直し,国立大学や公立大学の法人化,公益法人制度の根本的な見直しなど,学校法人制度にも密接に関連する諸制度の改正等が行われつつある。
このような様々な背景を踏まえ平成14年10月に大学設置・学校法人審議会の学校法人分科会の下に置かれた本小委員会において,これまで12回にわたり学校法人制度の改善方策について検討を重ねてきた。
見直しに当たっては,私立学校の特色である多様性や自主性に十分に配慮するとともに,法人の規模や設置する学校種,所轄庁の違いにかかわらずすべての学校法人が共通に備えておくべき要件は何かという観点から検討を進めたが,本報告書の提言内容の中には実際の運用に当たって,所轄庁がそれぞれの地域の実情や法人の規模,設置する学校種の違いに応じて対応していくことが求められるものもある。そのような点については,各所轄庁における適切な対応が望まれるところである。また,各学校法人の判断にゆだねることとしている事項などの中には,私学関係団体や各地域ごとに一定の指針等を定めることが公共性の一層の向上等の観点から適当である場合も考えられることから,内容に応じて自主的な取組がなされることも期待したい。
また,これらの改善方策については,専修学校又は各種学校のみを設置する私立学校法第64条第4項の法人についても基本的に共通の課題と考えられる。