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IV   人事制度

1. 検討の視点
  (法人化を契機に、人事制度の在り方を通じて国立大学がどのように変わるのか、どのような大学になるのか、という視点の整理)
  視点1:
教員の多彩な活動を可能とする人事システムの弾力化
    (具体的には)
       教員の採用・昇任等は、教員人事の自主性・自律性を確保しつつ、具体的なプロセスは、各大学独自の方針や工夫が活かせるよう、制度を弾力化
       教育、研究、管理運営など、職務内容の適切な分担を可能とする弾力的な人事システムの導入
       産学官連携や地域社会への貢献に資する教員の学外活動を促進するため、兼職・兼業規制を緩和
       ワークシェアリングなど、多様な勤務形態を導入するとともに、一定の要件の下での裁量労働制の導入を検討
       公務員型・非公務員型にかかわらず、教職員の多様な活動を可能とするより柔軟な人事制度を構築   など
       
  視点2:
成果・業績に対する厳正な評価システムの導入とインセンティブの付与
    (具体的には)
       教職員の成果・業績に対する厳正な評価システムを各大学に導入
       個々の教員の有する潜在的能力を発揮させるインセンティブ・システムを給与制度等に導入
       教員の選考過程の客観性・透明性を高めるため、公募制を積極的に導入するとともに選考基準を公開
       学長が不適任の場合に、学内における審査を経て主務大臣が学長を解任できる仕組みを導入
       事務局職員等の採用・昇任等は、幹部職員も含めて学長の下に一元的に管理   など
       
  視点3:
国際競争に対応し得る教員の多様性・流動性の拡大と適任者の幅広い登用
    (具体的には)
       任期制・公募制の積極的導入のための実施方法の工夫等を中期計画の中で明確化
       世界的な研究者等を短期間招聘するための年俸制の導入など、多様な給与体系へ移行
       競争的資金の間接経費を活用した任期付教職員の採用制度を導入
       国民や社会へのアカウンタビリティ等の観点から、学長選考の過程に社会(学外者)の意見を反映させる仕組みを導入   など
       
2. 制度設計の方針
  (1) 身分
       教職員の身分については、国家公務員の身分を付与する場合(公務員型)と付与しない場合(非公務員型)で、概ね次のような違いがある。
         公務員型身分保障は、法律で規定。採用については、教員を除き原則として試験採用。兼職・兼業、政治的行為の制限等の服務については、原則として国家公務員法上の制約。争議行為は禁止。外国人の管理職への登用は原則不可。(ただし、給与や勤務時間等については、非公務員型と同様に、法人が基準等を決定)
         非公務員型身分保障は、就業規則等において規定。採用は、法人の定めるルールにより採用。兼職・兼業、その他の服務に関しては、必要に応じ、就業規則等で規定。争議行為も可能。外国人の管理職への登用も可能。(ただし、収賄等の刑法の適用については、公務員と同様の扱い)
       これまでの審議においては、1法人への円滑な移行を図るとともに、教員以外の職員を含め、大学間の交流を促進するため、職員の身分は公務員型としつつ、一般公務員に比してより柔軟な人事制度の実現を図るべきという意見、2採用その他におけるさらに柔軟な人事制度を実現するために非公務員型とすべきという意見、3大学の特色等に応じて公務員型の大学と非公務員型の大学を決める仕組みの可能性を検討してはどうかとの意見、などがある。
       しかし、法人化の理念を具現化する「あるべき大学教職員の人事制度」を構築するためには、教職員の身分については、ア・プリオリに公務員型、非公務員型を選択するのではなく、個別の制度設計を積み上げた最終結果として判断することが適当である。その判断に当たっては、より柔軟な人事制度の構築との観点とともに、教育研究が中長期的視点に立って行われることにも配慮することが必要である。
       なお、現在、政府において、国家公務員制度の抜本的な改革についての検討が行われており、また、産学官の連携・交流の拡大の観点から、大学教員の兼業等についての一層の弾力化の措置が検討されているため、これらの動向も十分考慮しつつ、今後、以下に示す個別の人事制度について十分検討した上で、最終的な結論を出すべきである。
     
  (2) 選考・任免等
    (大学における人事の自主性・自律性)
       憲法上保障されている学問の自由に由来する「大学の自治」の基本は、学長、役員、部局長、教員(以下「教員等」という。)の人事を大学自身が自主的・自律的に行うことである。教員等の任免、分限、服務等に関しては、このような考え方を新しい大学の運営体制の下でも適切に取り入れた基準、手続により行う。
       人事の自主性・自律性の考え方は、具体的には各大学における教員等の人事において反映されるものであるが、法人化後は、教員等の人事に関する基準・手続きは、法律で規定される事項を除き、大学内部の規則として定められることになる。
   このため、法人化後の教員等の任免等の人事制度については、どこまでを法律に規定し、どこまでを大学の自主的な決定=内部規則に委ねるべきか検討が必要である。
   この場合、法人化を契機に、各国立大学の特色や個性を一層伸ばすために、人事面においても各大学独自の工夫や方針を活かした柔軟な制度設計ができるだけ可能となるよう留意すべきである。
       個々の教員の有する潜在的な能力を発揮させるインセンティブ・システムを各大学において設けることが可能となるよう、所要の制度上の工夫を行う。
    (学長の選考方法等)
       法人化後の国立大学の学長は、教育研究の拠点たる大学の代表者であるとともに、優れた経営者でなければならず、経営・教学双方の最終責任者として、学内コンセンサスに留意しつつ、強いリーダーシップと経営手腕を発揮することが強く求められる。
   つまり、法人化後は、学長の見識・能力如何が大学の命運を大きく左右することにもなるわけであり、学長には、教育研究に高い識見を有すると同時に、法人運営の責任者としての優れた経営能力を有している者が選任される必要がある。
       学長は、学内の選考機関における選考を経た後に、文部科学大臣が任命する手続とすべきである。選考は、新しい運営体制の下で、上記の観点に立った選考を行うのに最も適当な機関が行う。
       学長の選考に関する基準、手続は、人事の自主性・自律性の考え方を踏まえつつ、法人の適切な管理運営に責任を持つ法人の長として必要な要件をも加味したものとすることが適当である。
       これからの国立大学が、国民や社会に対するアカウンタビリティを重視した、社会に開かれた大学を一層目指すこと、さらに、法人化に伴い、学長に大学の経営面での責任が加わるなど、その社会的責務が増大すること等に鑑み、各大学における学長の選考基準、選考手続の策定に際して、学内及び社会(学外)の意見を反映させる仕組みとすべきである。また、同様の観点から、各大学における学長の具体の選考過程においても、学内及び社会(学外)の意見を反映させる仕組みとすべきである。
       学長の選考基準、手続きの策定や具体の選考過程において、学外の意見を反映させる方法としては、新しい運営体制の下で設置される外部の有識者が参画した学内の審議機関等の意見を積極的に活用することが考えられる。
       また、具体の選考過程において投票を行う場合であっても、例えば、選考機関の下に学外の有識者を含む推薦委員会を設置し、広く学内外から候補者を調査し、候補者を絞った上で投票を行う等の方式を導入することや、投票参加者の範囲も大学・法人運営の最高責任者を選ぶ上で適切なものとすることが必要である。
       現行制度上、学長の任期は、再任の可否、再任を認める場合の任期を含め、教育公務員特例法により各大学が個別に定めている。法人化後の学長の任期については、各大学において定める方法、法律において定める方法、法律で定める期間の範囲内(○年から×年まで)において各大学が定める方法等が考えられるが、大きな裁量を与えられて大学運営を委ねられる法人の長としての役割を兼ねることを考慮し、また、中期計画の期間が原則として6年の期間で一律に設定されることとの関連にも留意すべきである。
       法人の長としての学長が不適任とされる場合には、一定の要件の下で文部科学大臣が、学長の選考を行った機関の審査等の手続を経て解任できることとすることが必要である。
    (他の役員、部局長の選考方法等)
       大学の運営を適切に行うために、学長を助け、大学運営に責務を負う副学長をはじめとする執行体制を整備することが必要である。また、役員とともに大学運営に責任を負う学部長等の権限と役割を明確化すべきである。
       役員は、学長を補佐し、その業務の一部を分担するものであることから、学長が自らの責任において任命する。
   任命に当たっては、役員の職務の性質等を踏まえた基準及び手続により行われるべきである。
   また、役員の任命基準、手続について、教員から任命される役員と、それ以外の役員を区別すべきか否かについて検討が必要である。
       役員の任期の定め方については、学長の場合と同様の方法で行う。なお、役員の任期については、学長に任命されて、学長を補佐し、業務の一部を分担するという職務の性格上、学長の任期の範囲内とすべきである。
   役員の解任については、任命権者である学長が行うこととする。その場合の手続については、役員の任命の場合と同様の観点から検討すべきである。
       監事は、大学の業務の適切な執行を担保するという職務の性質上、文部科学大臣が任命、解任する。
監事の任命にあたっては、大学における教育研究及び大学の運営に関し識見を有する者が選任されることとする。
       学部長等の部局長は、学長が任免することとする。任免に当たっては、大学全体の運営方針を踏まえつつ、ダイナミックで機動的な学部運営が問われる法人化後の部局長の職務の性質等を踏まえた基準及び手続により行われるべきである。また、部局長の任期については、各大学において定めるものとする。
    (教員の任免等)
       具体の教員選考に際しては、専門性を有する学部等の考えが尊重されるとともに、大学全体の人事方針が適切に反映されることが重要であり、新しい大学の運営体制の下で、大学・学部等の運営の責任者たる学長及び部局長がより大きな役割を果たすべきである。
       教員の選考過程の客観性・透明性を高めるために、公募制の積極的な導入や選考基準・結果の公開等を進める。
   さらに、選考委員会に学内外の関連分野の教員の参加を求めたり、学外の専門家による評価・推薦を求め参考にするなどの方法により、外部の意見を聴取し、より総合的な判断を可能とする仕組みを設けることが必要である。
       優秀な内外の研究者の積極的な採用が可能になるよう、教員の職務内容(教育、研究、大学の管理運営等)に適切に対応できる弾力的な人事システムとすべきである。
   また、教員人事の流動性を高めるために、任期制及び公募制の積極的導入のための実施方法の工夫等を中期計画の中で明確化するなどの措置が必要である。さらに、他大学出身者、外国人、女性、障害者の教員への採用を促進するための人事運営上の配慮や条件整備が必要である。
   また、国際感覚に富んだ優秀な若手教員を育成する観点からは、若手教員が積極的に海外の大学等において研究の機会を得ることができるよう、人事運営上の配慮や条件整備が必要である。
    (教員以外の職員人事の在り方)
       大学の運営の自主性・自律性を高める観点から、教員以外の職員の人事システムについても、教員の場合と同様、各大学が決定し、任命権は、各大学に属することとする。
       教職員の構成は、教員、事務職員、技術職員等の既存の職種の画一的な区分を超えて、専門性の高い職種に従事する職員が高いモラールを維持できるように、各大学の実状に即した多様な職種を自由に設定できることとする。
   その際、教員が他の職員との連携の下で教育研究に専念できる環境を整備する観点から、必要に応じて、教員の秘書(アシスタント)業務を担当する職員等の役割についても配慮が必要である。
       事務職員、技術職員等においても、高度の専門性を必要とされる職域が広がっていることに鑑み、専門性に基づく処遇を可能とするような人事制度を、各大学で設けることとする。
   さらに、事務職員等については、事務組織の機能の見直しに関連して、大学運営の専門職能集団としての機能が発揮できるよう、採用、養成方法を検討する。
       現在、文部科学大臣の任命権の下に国立大学間等を異動している事務職員が、法人化後により配置を固定されたときの処遇の問題や、法人化後の事務職員の能力の向上や組織の活性化等を考慮し、法人化後も事務職員の適切な人事交流を促進するための工夫が必要である。
   その場合、各大学が任命権を有することを前提に、職員人事に関する各大学の自律性を損なうことのないよう留意すべきである。
       教育研究活動の支援業務に従事する職員(例えば技術職員等)に求められる専門性に鑑み、公務員型を採用した場合でも、選考採用が認められる範囲を拡大することが適切である。
     
  (3) 給与
       各大学が定める給与基準においては、教職員の潜在的な能力が発揮されるように、教職員の成果・業績を反映したインセンティブを付与する給与の部分が適切に織り込まれたものとすることが必要である。
   このため、各大学において、職務の性質及び個人の成果・業績を評価するための制度を設けることとする。この場合、大学における教育研究が中長期的視点に立って行われることを踏まえ、適切な評価が行われるように配慮すべきである。
   また、国際的に競争力のある多様な教員構成を実現するために、年俸制の導入など、多様な給与体系を可能とすべきである。
       法人化の趣旨を踏まえ、上記の給与システムを実現するため、具体的な給与基準は各大学において決定するが、各大学における適切な給与決定の参考とすることができるような給与モデルを作成することの必要性も考慮する。
       教員の流動性を高めるため、任期付教員の給与を優遇する等、任期制ポストへの異動を促進するような給与体系を設ける。
   また、外部資金を活用した大規模な研究プロジェクトを推進するため、競争的研究費を、当該プロジェクトを担当する任期付教職員の人件費等に充当できることとする。
     
  (4) 服務・勤務時間
    (服務等の考え方)
       教育及び研究に従事するとともに、大学の運営を担っている教員の職務の特殊性に鑑み、各大学において多様な勤務形態を認めることが可能となるようにする。
       法人化の趣旨を踏まえ、教職員の服務、勤務時間等は各大学において決定する。
   この場合、国立大学が公的な財政支出に支えられることに鑑み、自己規律と国民に対するアカウンタビリティを有するものであることは当然である。
   さらに、服務等に関する基本的な考え方が大学間で大きく異なることがないように、共通の指針を設けることの必要性も考慮する。
    (兼職・兼業)
       大学教員の有する優れた知識、経験を社会に還元し、産学官連携の推進や地域社会への貢献等に資する観点から、教員の社会的貢献のための学外活動を広く認めることとし、兼職・兼業に関する規制を緩和すべきである。
       この場合、兼職・兼業が教員の本務、特に学生に対する教育の面で支障を生じたり、大学と教員個人との利益相反が生じることがないよう、各大学においても、ガイドライン等を設けるなど、適切な配慮を行うことが必要である。ガイドライン等は、教員にとって明確な基準であると同時に、国民に対する適切な情報開示が行われるものとする。
       また、国立大学法人(仮称)の業務や組織の一部を、より柔軟な事業展開を可能とする観点から、別法人にアウトソーシングする場合、各大学の教職員がその身分を保有しつつ、これらの関連法人の業務を兼ねることも予想されることから、この場合の兼業等への対応も可能とする取り扱いが求められる。
    (勤務時間管理)
       教育研究に従事する教員の特殊性に鑑み、各大学において多様な勤務形態(例えば週3日勤務制などのワークシェアリング)を認めることが可能となるようにすべきである。
       教員に関しては、その職務の多様性に鑑み、潜在的な能力を発揮しやすいように、勤務時間管理の在り方を弾力的なものとし、例えば、一定の要件の下での裁量労働制の導入も可能にできるようにすべきである。
     
  (5) 人員管理
    (中長期的な計画に基づく人員管理)
       法人化により教職員の定員は、従来の手法による定員管理の対象外となるが、国立大学が教育研究を担う特殊性を有する組織であることを踏まえ、人員(人件費)の管理に関しては、短期的な視点でなく、各大学が策定する中長期的計画に沿って行うことが必要である。
       このため、学内において、中長期的な人事計画の策定と組織別の教員及び職員の配置等(人件費管理を含む)についての調整を行うための仕組みを設けることが必要である。この場合、新しい運営組織の下で、経営面からも十分な検討が行われ調整が図られる必要がある。
    (外部資金を活用した教職員の任用)
       外部資金の獲得に対する各大学の積極的な努力を促す観点から、外部資金(競争的研究費等)による教職員の新たな任用は、運営費交付金により人件費が措置される他の教職員の増員とは区別して考えるべきである。また、外部資金を活用した研究プロジェクトを推進するため、競争的研究費を、当該プロジェクトを担当する任期付教職員の人件費に充当できることとする。

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