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資料  2
中央教育審議会大学分科会
留学生部会(第11回) H15.7.31

 

中央教育審議会大学分科会留学生部会中間報告案
「新たな留学生政策の基本的方向について」
−交流の拡大と質の向上を目指して−(仮)

はじめに

   昭和58年以来、我が国はいわゆる「留学生受入れ10万人計画」に基づき、留学生の受入れを拡大するために、総合的な留学生政策を実施してきた。その結果、平成14年5月現在、我が国に受け入れている留学生数は、95,550人に達し、平成15年には、10万人を超えるのは確実な状況であり、留学生の受入れの拡大については大きな成果をあげていると言える。
   一方で、近年の留学生数の急増に伴い、各大学等の留学生の受入れ体制について、留学生の増加に十分に対応できていないのではないか、という懸念が生じているとともに、留学生が真に勉学、研究を目的としているかどうか、留学生の質についての懸念が増しているのも事実である。
   こうした状況を踏まえ、本審議会は、平成14年11月28日に大学分科会の下に留学生部会を設置して、今後5年程度を見通した新たな留学生政策の在り方について調査審議を重ねてきた。その際、我が国における大学改革の進展、日本人学生、外国人留学生等に対する支援業務を統一的視点から総合的に実施する独立行政法人日本学生支援機構の設立なども視野に入れて調査審議を進めてきたところである。
   また、今後の留学生数については、様々な要因に左右されるものであり、正確な予測は困難であるが、世界のグローバル化は更に進展すると考えられること、中国を始めとするアジア諸国において一層の経済成長と大学等への進学意欲の高まりが予想されること、また、これまでの留学生数の動向等を勘案すれば、例えば留学生の受入れについては、今後5年間に少なくともさらに3万人程度の増加は見込まれるところである。本部会では、このような予測も念頭に置きつつ、調査審議を行ってきたところである。
   このたび、留学生部会における審議の概要を以下のとおり取りまとめたので、「中間報告」として公表することとした。今後、本審議会においては、この「中間報告」に対して各界各層から広く意見をいただき、それらを踏まえつつ、更に審議を深めることとしたい。


1   留学生交流の意義(理念)

(1)   諸外国との相互理解の増進と人的ネットワークの形成
   留学生の受入れ・派遣を通じた留学生交流は、グローバル化する経済・社会の中でますます重要となる我が国と諸外国との間の親密な人的ネットワークを形成するとともに、相互理解の増進や友好関係の深化を図る上で、非常に効果的である。特に、我が国から帰国した留学生は、政治・経済・学術等様々な分野で相手国と我が国の架け橋として対日理解、友好関係の促進に貢献することが期待される貴重な人材であり、こうした人的ネットワークは、我が国が安定した国際関係を築く上で基礎となるものである。

(2)   国際的な視野をもち、国際社会に貢献できる日本人学生の育成と海外における多様な教育機会の提供
   日本人の海外留学は、経済・社会のグローバル化に伴い求められる外国語能力の向上を始め、異なる文化に柔軟に対応できる能力を備えることを可能とするものである。
   さらに、世界各国から優秀な学生が集まる外国の大学等において、国際的な競争的環境の中で切磋琢磨し、学習や研究に打ち込むことこそ、真に国際的に通用するリーダーとなる日本人の育成につながり、日本はもとより国際的にも貢献できる人材を育てるものである。

(3)   我が国の大学等の国際化の推進と国際競争力の強化
   我が国の大学等に外国人留学生を受け入れることは、留学生との交流を通じて諸外国の異文化に触れる機会を得ることを可能とし、大学等における教育研究や生活環境の国際化を促すものである。また、大学等がより積極的に多くの優れた留学生を受け入れようとすることにより、大学等の教育研究の国際的な通用性・共通性の向上と国際競争力の強化に向けた取り組みが促進される。
   さらに、我が国で学んだ留学生が卒業、修了後も引き続き我が国において就職するなど、外国の優れた人材が活躍することにより、社会全体の国際化、活性化が期待されるところである。

(4)   国際社会に対する知的貢献
   外国人留学生の受入れは、諸外国の人材を我が国において育成することを通じた知的国際貢献であるとともに、各国の英知を結集し人類共有の財産を創造することによる国際社会全体に対する知的貢献である。さらに、我が国で学んだ留学生が母国や海外で指導的立場で活躍することなどにより、国際社会における我が国の知的存在感が増大するものである。


2   留学生交流の現状と課題

(世界の留学生数の動向等)
   主要50カ国における外国人留学生数(当該国に受け入れた当該国外からの留学生数)の総計は、国際的な経済・社会のグローバル化を反映し、1988年から1998年の10年間に、約94万人から約161万人へと約7割増加している。この間の留学生数を国別に見ると、米国が37万人から49万人に、英国が約7万人から約22万人に、オーストラリアが約2万人から約7万人に、フランスが約13万人から約15万人に、ドイツが約9万人から約17万人に増えており、英語圏を中心に高い増加を示している。
   これらの国々においては、近年、諸外国との相互理解の増進、大学の国際競争力の強化等の観点から、外国からの留学生の受入れに戦略的に取り組んでいる。また、アジアにおいても世界トップクラスを目指す高等教育機関が設立されるなど、留学生の受入れ促進は各国共通の課題となっている。

(留学生数の現状)
   我が国が受け入れている外国人留学生の数は、近年大きく増加しており、平成14年5月1日現在、95,550人で、過去最高となっている。出身地域別に見ると、このうちの9割以上はアジアからの留学生である。また、国・地域別では、中国が58,533人で全体の6割を占め、これに韓国、台湾を加えると全体の8割に達している。これらの留学生の多くは、学位の取得を目指している。一方、いわゆる短期留学生の数は、6,171人で、全体の6.5%となっている。
   海外に留学する日本人の数についても、年々着実に増加している。平成12年に、海外に留学した日本人は、主要32ヶ国で、76,464人となっている。そのうちの6割は北アメリカへの留学生であり、これにヨーロッパへの留学生を加えると全体の約8割に達している。
   このように、留学生数の絶対量は増加しているが、大学等の在学者数に占める留学生数の割合で見ると、受入れについては2.6%、派遣については1.5%となっている。これを国際的に比較すると、例えば、非英語圏の先進国であるフランスでは、受入れは7.6%、派遣は2.6%となっており、我が国の水準は、まだ十分とは言えない。

(受入れ中心から相互交流重視へ)
   諸外国との間の相互理解の増進、友好関係の深化を図るという意味では、本来、留学生交流は、双方向の相互交流であることが望まれる。しかし、現状は受入れはアジア中心、派遣は欧米中心であり、均衡がとれていない。また、我が国の留学生政策においても、国際貢献という観点から、特に途上国からの留学生受入れに重点が置かれてきており、日本人の海外留学についての政策的な対応は十分とられてきたとは言えない。
   今後は、日本人の海外留学の促進を始め、留学生の相互交流という観点を重視する必要がある。

(留学生の急増に伴う質への懸念)
   最近の受入れ留学生数の変化を見ると、4年前の平成10年には、51,298人であり、この4年間におよそ2倍という急激な増加が見られる。増加した留学生のほとんどは私費留学生であり、かつ約8割は中国からの留学生という状況である。
   この背景には、1中国を始めとするアジア諸国の著しい経済成長に伴う大学等への進学意欲の拡大と各国における進学機会の不足、2一方で、我が国の18歳人口の減少に伴い、我が国の大学等が留学生の受入れに積極的であること、3さらに、入国在留審査における諸手続の簡素化が進められてきたこと、などが考えられる。
   このような状況の中で、各大学等は、入学者選抜、教育研究、在籍管理などの受入れ体制を十分に整えることなく、留学生を受け入れ、結果として学習意欲等に問題のある留学生を在学させているのではないか、との懸念が増している。


3   新たな留学生政策の基本的方向

(留学生交流の一層の推進)
   経済・社会のグローバル化が今後ますます進展することが予想される中で、我が国が諸外国との友好関係を維持するとともに、国際競争力を強化していくためには、留学生交流は今後ますます重要性を増すと考えられる。
   同様の観点から、平成12年4月に開催されたG8教育大臣会合においては、今後10年間で学生、教員等の流動性の倍増を目標とする合意がなされているところである。
   我が国の留学生交流の現状を見ると、特に受入れについては、いわゆる「留学生受入れ10万人計画」で想定されていた水準に達しつつあるが、大学等の在学者数に占める留学生数の割合は、受入れ・派遣とも欧米先進国と比較して低い水準にあることなどから、留学生交流を一層推進し、我が国の大学等の国際化を図る必要がある。

(各大学の取り組みを基本とした交流の拡大)
   これまでの留学生政策においては、国が強力な主体性をもって主導的、持続的に政策を展開することが期待されてきたが、留学生の受入れが10万人に達しようとする状況を踏まえ、今後の留学生交流の推進においては、各大学等がより主体的な役割を果たし、国は各大学等の取り組みの支援を行うという基本原則を明確にすべきである。
   特に、留学生の受入れに関しては、我が国の大学等が日本人学生にとっても留学生にとっても魅力あるものであることが不可欠の条件であり、各大学等において教育研究内容の国際的な通用性・共通性の向上と国際競争力の強化、留学生交流の実施体制の充実を図ることが必要である。

(日本人の海外留学への支援)
   これまでの留学生政策は、国際貢献という観点から受入れに重点を置いたものであったが、今後は、諸外国との間の相互理解の増進、友好関係の深化という観点から、交流という面をより重視していくべきである。その際、欧米等からの受入れやアジア等への派遣の充実など交流のバランスにも留意すべきである。
   とりわけ、現在日本人学生の海外留学に対する国の支援は、限られたものでしかないが、我が国の国際競争力の強化やグローバル化した社会で活躍できる人材を育成するという観点からは、より多くの日本人学生が短期も含め何らかの形で海外留学を経験することが望ましく、国としてもそれを推進する必要がある。
   特に、最先端の教育研究活動を行う海外の大学において、日本人学生が国際的な競争環境の中で学習や研究を行うことは極めて有意義であり、国としても支援していく必要がある。

(留学生の質の確保と受入れ体制の充実)
   近年の留学生の受入れの急激な増加に伴い、各大学等における入学者選抜、教育研究指導、学籍管理等の面において、留学生の増加に対応した体制を十分にとらず、その結果、真に勉学・研究を目的としているか否かなど、留学生の質の問題への懸念が増している。
   留学生の受入れ体制の充実については、各大学等において主体的に責任をもって取り組むべき課題であるが、国が留学生に対する各種の支援策を講ずるに当たっても、各大学の取り組みを促すよう、留学生の質の確保にも十分留意すべきである。
   その際、受け入れる留学生の最低限の質の確保だけでなく、より積極的に世界各国から優秀な留学生をいかに日本に引きつけるかという観点も重要である。

(日本学生支援機構設立等による支援体制の強化)
   特殊法人日本育英会においては、日本人学生等への奨学金の貸与等を行ってきたが、平成13年12月に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画などを踏まえ、日本育英会を独立行政法人化し、併せて国及び留学情報の収集・提供、日本留学試験、留学生宿舎の設置・運営、日本語予備教育等を実施していた財団法人日本国際教育協会、財団法人内外学生センター、財団法人国際学友会、財団法人関西国際学友会の業務を移管して、日本人学生と外国人留学生の双方に対する学生支援業務を統一的視点から総合的に実施する独立行政法人日本学生支援機構が平成16年4月に設立される予定となっている。
   留学生に対する各種の支援業務は、日本学生支援機構を中核として総合的に実施する体制が確立されることになり、留学生に対するきめ細やかで充実した支援が行われることが期待される。また、各大学等の留学生関連業務に対する支援・協力も強化されるべきである。
   文部科学省においては、日本学生支援機構との役割分担を図りつつ、留学生政策の企画調整機能の充実を図るとともに、外務省を始めとする関係省庁との一層の連携の下、政府一体となった留学生政策を展開すべきである。さらに、企業、地方自治体、各種民間団体等とも連携し、社会全体として留学生を受け入れる環境を構築すべきである。


4   具体的な施策の方向

(1)   大学等における教育研究の高度化と国際競争力の強化
(留学生交流の実施体制の確立)
   留学生交流は、大学の国際化、国際競争力の強化にかかわる重要な戦略としてとらえるべきものであり、各大学等においては、留学生交流に組織的に対応するため、学長のリーダーシップの下に、大学としての明確な留学生受入れ・派遣に関する方針を定めるべきである。その上で、留学生センター等を中心として学内の関係部局が一致協力し、留学生交流を着実に実施できる体制を確立すべきである。

(特色のある教育カリキュラムの一層の充実)
   多くの優れた留学生を日本にひきつけるためには、まず何よりも大学等の教育研究内容が質の高い充実したものにならなければならない。平成3年の大学設置基準の大綱化以来、各大学において積極的に大学改革に取り組んでいるが、さらに国際的な通用性・共通性のある、日本人学生にとっても外国人留学生にとっても魅力のある教育研究が行われることが必要である。
   その上で、外国語による授業や試験の実施、秋季入学の導入など、留学生に配慮した教育プログラムの実施を拡大するとともに、インターネット等を活用した遠隔地での教育研究指導の実施についても検討すべきである。また、学位授与の改善を引き続き進めるとともに、我が国の大学と外国の大学の双方で学位を得られるようなプログラムの開発についても期待される。
   さらに、外国人留学生にもインターンシップの機会を提供することなどにより、教育効果をより高めるとともに、日本の経済、社会、文化に対する理解を深めることも重要である。

(国際化に対応した教官、職員の採用と外国語能力の向上)
   大学の国際化を進めるためには、教員の公募の対象を海外に拡大すること、我が国で学位を取得した留学生に十分な機会を与えることなどにより、優秀な外国人教員の積極的な採用を進め、教員構成の国際化を推進することが必要である。また、日本人教員の採用の際にも、豊富な留学経験や海外での活躍の実績を加味することが必要である。このような多様な教員の参画によって、留学生に対する教育研究、生活面での指導が、より留学生のニーズに合った充実したものになると考えられる。
   また、留学に関する業務を担当する事務職員についても、外国語の能力や国際経験のある職員を採用したり、留学業務に関する研修の充実に努め、各大学における受入れ体制の質を高めることが必要である。

(大学における情報発信機能と情報収集の強化)
   より多くの優れた留学生を受け入れるためには、各大学ごとに特色ある教育カリキュラム、指導教官等の教育研究の内容について、インターネットのホームページ等を通じた情報発信を一層充実することが重要である。
   また、各大学等は留学生に関する入学者選抜をより的確に行うために、留学生を募集する現地の教育機関、留学あっせん機関等の状況について、在外公館を含む関係機関と連携し、積極的に関係情報の収集に努めるとともに、各大学等の間においても関係情報の共有化を図ることが重要である。

(留学生の学籍管理の徹底)
   留学生の中には、一部ではあるが、実際には大学等に通学せず、不法に就労する者がいるとの指摘がある。大学等においては、入学者選抜の際に、真に留学を目的とする者を入学させるよう努めるとともに、自ら入学許可した留学生については、責任をもって学籍管理の徹底等に努めるべきである。また、その際には地方の入国管理官署との連携が必要である。

(自己点検・評価、第三者評価の実施)
   大学は、その教育研究水準の向上に資するため、自己点検・評価を行うことに加え、平成16年度からは、文部科学大臣の認証を受けた評価機関による第三者評価を受けることが義務づけられている。
   第三者評価の評価項目の詳細は、各評価機関が定めるものであるが、留学生受入れの質の確保の観点から、例えば留学生に対する教育プログラムの在り方や大学における留学生の受入れ体制等について、充実した評価が行われることが強く期待される。

(2)   多様な教育、研究に対するニーズに応じた海外留学の支援
(海外留学に関する情報提供の充実)
   我が国の国際競争力の強化やグローバル化した社会で活躍できる人材を育成するという観点から、日本人の海外留学を推進する必要がある。そのため、日本人学生が留学目的にあった留学が行えるよう、日本学生支援機構を中心として、海外大学等の留学事情情報の収集、提供機能を強化するとともに、留学相談の充実を図ることが必要である。

(短期留学の推進)
   短期留学は、より容易に、諸外国との間の相互交流や国際理解、国際協調を促進することが可能であることから、今後一層推進していくことが必要である。
   大学等において短期留学生受入れのための日本語能力を要しない教育プログラムの充実や交換留学生のための単位の相互認定、授業料の相互免除等を基本とした大学間や複数大学の連合体(コンソーシアム)間の交流協定の締結とその積極的運用などを図ることが必要である。その際、アジア太平洋大学交流機構(UMAP)等が開発したUMAP単位互換方式(UCTS)の活用が有効であり、UMAPの活動、UCTSに対する大学等の理解増進、普及を図ることが必要である。
   短期留学の推進に当たっては、アジアへの派遣、欧米からの受入れを充実するなど、交流の地域バランスに留意することが必要である。

(海外留学の支援)
   社会のグローバル化に対応するためには、より多くの日本人が特別のこととしてではなく、短期留学も含め海外留学の機会を持つことが必要である。その際、貸与制の奨学金の活用も重要である。
   また、国際的にも指導的立場で活躍できる日本人を育成することも課題であり、世界の最先端の教育研究活動を行っている海外の大学等への留学を推進する必要がある。現在、国の支援の対象としては、アジア諸国等への派遣及び短期の相互交流を前提とした派遣に限られているが、今後、海外の大学等において博士等の学位を取得することもできるような形での支援を検討する必要がある。

(外国政府との協力体制の強化)
   我が国では、これまで世界50カ国との間で38の文化協定や経済連携協定等を締結しているが、これらの協定では、学生交流の奨励に関する規定が盛り込まれるとともに、相手国政府との間で合同委員会が設けられている場合がある。このような政府間協議等の機会をとらえ、我が国の留学施策の情報を積極的に発信しつつ、相手国政府との留学生交流に関わる協力体制の強化に努める必要がある。

(3)   渡日前から帰国後に至る体系的な留学生受け入れ支援体制の充実
(独立行政法人日本学生支援機構の設立)
   平成16年4月に設立される予定の独立行政法人日本学生支援機構においては、留学生に対する奨学金の支給、国費留学生に対する日本語予備教育、留学生宿舎に関する業務等が実施される予定となっている。これまでこれらの業務は、国や関係する4つの公益法人において、個々に実施され、ともすると留学生にとってわかりづらい体制となっていたが、日本学生支援機構の設立によって、統一的で、よりきめ細やかな支援を行われることが期待される。
   さらに、海外に向けた情報提供の充実や留学生関連業務に関する研修の実施など各大学における留学生受入れの体制を充実させるための協力・支援を行い、質の高い留学生受入れのための取り組みを強化することが期待される。
   日本学生支援機構が、我が国の留学生支援の中核的な機関として、渡日前から帰国後までの留学生支援施策が体系的で、一貫したものとなるよう、制度設計がなされる必要がある。

(海外での情報提供の充実)
   多くの優れた留学生を日本にひきつけるためには、日本留学に関する情報提供機能の強化が必要である。
   日本学生支援機構においては、インターネットのホームページにおいて、奨学金や各大学等の教育研究内容の紹介など日本留学に関する情報の内容の充実を図ることが必要である。その際、帰国留学生に関する情報が充実している外務省のホームページや関係機関のホームページとリンクするなどして、留学に関する総合的な情報窓口の機能を果たせるようにするべきである。
   また、外務省、在外日本公館や日本学術振興会、JICA等の海外事務所等とも連携しながら、日本学生支援機構の海外における情報提供や相談機能の強化を図るべきである。
   さらに、留学生受入れの地域バランスを考慮し、日本への留学生の少ない地域の中から、戦略的に対象地域を選び出し、留学情報の提供を重点的に行うことも考えられる。

(日本語教育機関等に対する支援)
   日本語教育機関で学ぶ者の約7割が、我が国の高等教育機関へ進学しているなど、多くの留学生にとって日本での留学生活の第一段階は日本語教育機関における学習である。したがって、日本語教育機関の質的向上や在籍者への支援は、留学生政策の一環として着実に充実を図るべきである。
   日本語教育機関の学生については、現在、専修学校専門課程等を除き、在留資格は「就学」とされているが、その取り扱いについて検討を行うべきである。また、教育施策上は留学生として扱うことを検討すべきである。併せて、交通機関における学生割引の適用や学習奨励費の給付の充実、医療に関する支援など、就学生に対する施策が一層拡充されるよう、関係機関への働きかけや検討を行うべきである。

(渡日前入学許可の推進など入学者選抜の改善)
   質の高い留学生を受け入れるためには、入学者選抜の在り方が重要である。日本留学試験については、海外における試験の実施と普及に更に努めるべきである。また、日本の大学教育における英語の重要性に鑑み、英語を試験科目とすることなど、試験の内容について検討すべきである。さらに、各大学が日本留学試験を活用して渡日前入学許可を積極的に実施するよう働きかけることが必要である。併せて、各大学においては、海外面接の拡充やインターネット等の情報通信技術を用いたインタビューの実施について検討すべきである。
   日本の大学等に入学する留学生の多くは、日本の日本語教育機関の修了者である。各大学等にとって、入学者選抜の際に、日本語教育機関と連携し、日本語教育機関における成績や出欠状況などを選考の資料とすることは、入学者の質を確保する上で有効である。

(国費外国人留学生制度の在り方と今後の方向)
   国費外国人留学生制度については、制度の根幹は維持しつつ、留学生の質の確保等の観点から、必要な見直しを行うべきである。
   国費留学生の採用方法は、大使館推薦、大学推薦、国内採用の3種類があり、研究留学生については、その採用人数比は、5:4:1となっている。大使館推薦については、外交政策上の配慮や発展途上国における人材育成の観点等も勘案しつつ、国別のバランスに配慮した受入れが可能である一方、大学推薦については、各大学の大学等間交流協定に基づくものであり、各大学の主体的な留学生交流を促進することが可能である。また、国内採用については、特に優秀な私費留学生を支援する機能を果たしている。これら3種類の採用方法については、それぞれの特徴を持ち、役割を果たしてきたところであるが、今後は留学生の質の確保という観点を踏まえつつ、適切な割合について検討すべきである。その際には、国費留学生制度の種類に適した採用方法についても考慮すべきである。
   また、国費留学生への応募は誰にでも開かれた平等なものであるべきであり、募集・選考の過程の透明化を一層図るべきである。さらに、各学年末などに留学生の成績の評価を行い、成績不良等の場合には、以後の奨学金の給付を打ち切るなど、成績管理を適切に行うべきである。
   国費外国人留学生制度の一つであるヤング・リーダーズ・プログラム(YLP)については、プログラムの実施大学の拡大の在り方、学生選考方法への公募方式の追加等について検討を行った上で、着実に推進すべきである。併せて、将来のナショナル・リーダーたるYLP留学生の間に人的ネットワークを確実に構築するため、留学後のフォローアップの充実を図ることが重要である。

(私費留学生支援制度の在り方と今後の方向)
   我が国の留学生のうち、およそ9割は私費留学生が占めており、私費留学生に対する支援は重要である。その際、私費留学生の質の確保にも留意することが必要である。
   私費外国人留学生学習奨励費については、引き続きその充実を図るとともに、受給者の決定に当たって、日本留学試験を一層活用するなど、留学生の質の確保にも留意した制度の改善を図るべきである。
   授業料減免学校法人援助については、私費外国人留学生の授業料負担の軽減を図るものとして重要な役割を果たしているが、1現在の制度では安易な留学生の受入れにつながるおそれがあるのではないか、2経済的に困難な留学生に対する支援として十分なものになっていないのではないか、などの指摘がある。
   真に援助が必要な留学生が適正に授業料の減免を受けることができるよう、制度の在り方を検討することが必要である。

(留学生宿舎の整備の在り方と今後の方向)
   留学生にとって、低廉で良質な宿舎の確保は重要である。近年の留学生数の大幅な増加を踏まえ、引き続き、大学や公益法人等が設置する公的な留学生宿舎の着実な整備と適切な維持管理が必要である。その際、留学生のみを入居させるより、留学生と日本人学生が混住し、交流の推進が容易な形態となるよう配慮すべきである。
   なお、国立大学法人等の宿舎の整備及び維持管理に当たっては、PFIを活用することも可能である。
   民間宿舎の入居についても、それを容易にするため、「指定宿舎確保事業」や「留学生住宅総合補償事業」、財団法人留学生支援企業協力推進協会を中心とした社員寮の活用を着実に実施することが必要である。

(留学生と地域等との交流)
   留学生の日本の社会や文化に対する理解を深めるためには、日本人学生や地域との交流が重要である。全国各都道府県に設置している「留学生交流推進会議」を通じて、地域との交流の促進を図るとともに、日本学生支援機構の留学生宿舎に国際学生交流拠点機能を持たせ、留学生と日本人学生の交流をはじめ、多彩な交流事業を体系的、継続的に実施することが望まれる。

(セイフティー・ネットの充実)
   留学生が我が国での留学生活を送る上で、様々な不測の事態に直面しても、安心して留学生生活を送ることができるよう、医療費補助制度など支援の充実を図ることが必要である。

(留学生に対する帰国後の支援の充実)
   留学生交流の意義を高めるためには、留学生の帰国後の適切なフォローアップが必要である。そのため、元留学生による同窓会の結成とその活動の活性化を図るため、大学等によるインターネットのホームページ等の活用による支援や、元留学生の再来日や指導教員の派遣、元留学生のデータベース化などを進めていくことが必要である。その際、外務省などの関係機関とよく連携することが重要である。

(留学生の卒業、修了後の就労)
   大学等で学んだ知識、技術を生かして日本で就職することを希望する留学生が、近年増加してきており、企業の側でも、経営の国際的展開等に対応するため、留学生の採用数を増やしている状況にある。就職を希望する留学生を支援し、円滑な就職機会の確保を図るためにも、大学等における指導の充実、就職に関する適切な情報の提供、大学等と企業との間の連携の強化が望まれる。
   また、研究人材の多様性を向上させる等の観点から、卒業、修了する留学生が引き続き日本で研究者として研究に従事できるような環境を整備することが必要である。このため、ポストドクター制度による支援や競争的研究資金による雇用の充実など研究を継続できる経済的支援の充実を図ることが重要である。

(4)   高校生留学の受入派遣の推進
(高校生留学の意義)
   高校生留学は、異文化理解や諸外国との友好親善の増進に寄与するものである。また、高校生の年代での留学体験は、大学生レベルでの留学やその後の国際交流活動の拡大につながるものである。例えば、JETプログラムの参加者の中には、高校生のときに日本留学がそのきっかけとなった者もいる。

(高校生留学の推進の方向性)
   高校生留学の現状を見ると、大学生レベルに比べ、受入れ・派遣ともにその規模は圧倒的に小さく、受入れと派遣のバランス、受入れ・派遣国の多様化を考慮しつつ、交流の人数の拡充を図る必要がある。

(高校生留学の促進のための支援体制の整備)
   派遣に関しては、英語圏の国だけでなく、アジアを含めた多様な国への留学を促進することが必要である。その際には、より短期間の留学も推進するべきである。併せて、留学の意義の周知を含めた留学情報の提供などにより教員や保護者の高校生留学への理解を促進するとともに、国際理解教育や外国語教育の推進、派遣前オリエンテーションの充実等により生徒の留学に関する資質・理解の向上を図ることが必要である。また、安全確保に配慮した適切なホームステイ先の確保も重要である。
   受入れに関しては、受け入れる学校やホームステイ先の拡充を図るとともに、各学校、教育委員会、ホストファミリー及び民間の留学交流団体の連携・協力が必要である。また、留学生の受入れに関する情報提供の充実や理解の増進を図ることが必要である。

(優れた外国語教員への海外研修の充実)
   高校生留学の重要性に対する教員の理解の増進や、英語を始めとする外国語能力、教授力とも優れた教員を育成し、指導力の向上等を図るために、中・高等学校の外国語教員に対して、それぞれの必要性に応じた海外研修の機会を提供することが必要である。


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