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(別添   1)

「留学生一人一人を対象とした指導、支援機能の強化について」
東北大学における取組み



はじめに
   東北大学は、「杜の都」仙台市に位置し、緑濃く静粛なキャンパスは研究・勉学環境としては最適の立地にある。また、古くから国際交流に先駆的な歴史を有する「仙台」は、東北大学関係者のみならず市民一般においても国際交流に関しては高い知見と理解者が多い土地柄である。また、旧帝国大学としての歴史とともに、日本の大学における研究・教育の一翼をになう総合大学として留学生受入れ等にも大きく貢献をしてきており、今後とも留学交流の発展が期待できるところである。

1. 取組みの現状
(1) 留学生数の推移
   平成14年5月1日現在の留学生在籍数は956人であり、その数は年々増加してきており、今年度は過去最大の受入数(全国立大学中9位)となっている。
    また、学生全体における留学生在籍率は5.6%であり、その約8割は大学院生であり、留学生の大学院在籍率が高いのも東北大の特徴である。

(2) 留学情報の提供
   平成5年度の留学生課設置以来、進学説明会及び留学フェアについては予算の許す限り参加してきているが、平成14年度からはさらに積極的に全ての留学フェアに参加してきており、大学の広報等に努めることとしているところである。
    また、東北大学をより深く理解して貰うため、留学生関係資料を一新するとともに、インターネットの活用にも積極的に取組んでいるところである。

(3) 教育指導体制の整備
    文部科学省を中心として検討していた「日本留学試験」については、本学は東北地区の幹事校として積極的に実施に協力するとともに、平成14年6月の第1回実施校として試験を実施した。なお、関係データの学内利用に向けての検討も行なうとともに、今後も協力していくこととしている。
   また、本学は開発途上国等の要請に基づく特別コースの設置に積極的に取組んでいるところであり、平成14年度以降においても新規の特別コースの設置に向けての検討を開始するとともに、JICA関連事業による留学生の受入れの可能性について協議を行っているところである。

(4) 留学生活の支援
    年々増加する留学生のため、限られた人的資源を有効に活用しつつ以下の方策により支援を検討することとしている。
1 オリエンテーションの実施
    新学期の都度オリエンテーションを実施してきているところであり、また、留学生の事故・病気等に対応するため留学生に保険加入を積極的に奨励してきているところである。今後も新規入学者には、チューター及びボランティア団体等の協力により、日本での留学指導に務める予定である。

2 留学生窓口サービスの充実
    文部科学省留学生課からの特別配分経費及び本学総長裁量経費により、留学生センター内の留学生課事務室をよりO.A機器対応型に改修するとともに、業務の効率化を図ることとしている。

3 民間奨学金推薦方式の制度化
    学習奨励費及び民間奨学金等で私費外国人留学生が大学からの推薦を要する奨学金への応募希望者に対しては、従来から学内統一基準により推薦してきているが、限られた奨学金に対する審査・推薦基準をもっと明確な方策により推薦すべく、新研究科の設置と併せて検討をすることとしている。

4 留学生等後援会の設置
    外国人留学生及び日本人派遣学生が事故・災害及び病気等の事態に遭い、特別な経済的負担を負うこととなった場合には、経済的支援を行うための方策として「外国人留学生等後援会」等の設置を求める意見もあり、大学の記念行事と平行して検討することとしている

5 授業料保証人等の廃止
    留学生指導教官の心的負担の軽減及び授業料の不良債権化を防止するため「研究生規則」を一部改正し、全学学務審議会において日本人学生ともに大学入学時の保証人関係記述を撤廃することとした。
   また、留学生の民間宿舎入居に伴う連帯保証人については、機関保証等の方策による指導教官の負担軽減を図るべく併せて検討している。

2. 問題点
(1) 留学生課事務処理体制の整備(留学生業務担当職員の増:概算要求関連)
    留学生の受入数は年々増加してきているが、留学生課の事務処理体制は従前の状態のままであり、今後において受入実績を堅持しつつ留学生交流を発展・拡充させるためには、先駆的な留学生交流拠点としての事務処理体制を整備する必要がある。
    このため、近々に評議会に報告されるであろう「国際交流センター(仮称)」構想を踏まえつつ、留学生課における留学生業務担当職員の増員を図ることにより留学生受入れ環境を整備し、留学交流の拡充を図ることとしたい。

(2) 留学生宿舎の整備(留学生宿舎の増設:概算要求関連)
    留学生のための宿舎として「国際交流会館」を有しているが、留学生交流の拡充のためには留学生活の根本要素である宿舎を重点的に整備する必要がある。
    また、本学では文部科学省及び外国政府等からの要請に基づく留学生の増加が今後とも確実に予定されているところであり、留学生の宿舎が慢性的に不足している現状にあり、PFI方式等による宿舎の確保が緊急の課題となっている。
   なお、宿舎整備に当たっては、ショートスティプログラム等新規の事業に対応可能なものとするなど長期的観点での整備も必要である。

(3) 民間住居入居のための保証人
    アパートの入居等に際し、指導教官等が賃貸契約の連帯保証人を求められる。かつ、トラブル等をかかえる事例現出してきている。日本の慣習とはいえ早期に機関保障制度等を検討し、指導教官が教育に専念できるとともに、留学生も勉学に専念できる体制となるような検討が急がれる。

(4) 日本人学生の海外留学奨励
    短期留学国際プログラムは、35か国177校の交流協定校と約300人の授業料相互免除により実施しているところであるが、交流協定を順守したいとする相手校から同数の日本人学生の派遣を求められているところである。
    また、今後とも積極的に単位認定促進を図るため、関係委員会にUMAPの検討W・Gを設置し審議することとしている。
    なお、今後は学内資金等の活用による日本人学生の派遣増についても施策を検討し、世界との留学交流が活発な大学であるとの趣意を加味することによる魅力ある大学創りの一助としたい。

(5) 留学目的の多様化への対応
    留学生数の増加とともに、様々な留学目的を持って入国する者も入学してきており、この中には、残念ながら勉学を通じての留学とは目的が異なると思われる者も在籍しているケースが散見されている。
    今後においてもカウンセリング等を通じ木目細かく適切な生活・進路指導の充実を図ることが必要となってきている。

3. 今後の課題
(1) 留学生交流の拡大(欧米からの留学生受入増の検討)
    本学に在籍する留学生の国別内訳は、多い順に中国、韓国、インドネシアそして台湾であり、全国とほぼ同様の状況となっている。
   今後とも本学が留学生の受入を促進していくためには、米国、豪州及び欧州の留学希望者にとって魅力ある大学に変化していく必要がある。
    また、社会人学生の増と同様に恒常的に留学生の在籍比率が高い大学として、魅力ある大学創りに着手すべきところと考える。
    在のところ、本学には留学生受入の相対的数値目標は存在しないが、先取的な取組みを行なうことにより、今後における着実な増加が望めるものと思慮するところである。

(2) 留学制度の世界標準化への早期対応
    全国の大学においてもグローバル化が進み、大学での留学生受入が一般的となりつつある状況にあっては、留学生交流制度においても「世界標準化」の検討を行う時期に来ているものと思慮する。
    国策として留学生を受入れている現在、世界最高額の国費奨学金及びアルバイトの原則自由化など世界より優れたシステムは存続させつつ、「単位互換の促進」「学位取得の効率化」及び「留学生保険加入の義務化」等学内制度の改善を図ることにより日本人が欧米に留学すると同様な制度を早期に確立する必要がある。これによる真の競争社会をもって国際標準的留学生の受入施策の検討をすべきときである。

(3) 留学生センター機能の活性化
    留学生センターにおいても学部の教授会に相当する「留学生センター運営委員会」が設置されているところである。
    また、本学は、それぞれの部局での博士の学位取得が可能であり、比較的スムーズに学位授与が図られているところでもある。
    現在,「国際交流センター(仮称)」の構想もあるが、将来的には留学生センターが学位等の取得を含む留学全般に係る事項の総合窓口として、組織的に積極的な関与ができるような方向付けの検討を必要とする時期に来ている。
    なお、インターナショナルスチューデントセンター的留学生センターにおいては、教官及び事務官であっても高い資質が求められるものであり、英語能力は当然のこととして、修士レベル相当以上の素養のある者がこれに当るべきである。

(4) 地域特性の確立と高品位化の促進
    留学生数の増加とともに留学交流が日常化しつつある状況にあっても、留学志向はいずれの時代にも魅力的な部分のある方向に流されるのが現実である。
    日本へ留学生を希望する者にとって、魅力のあるものは「奨学金」「宿舎」及び「学位」であり、この留学三種神器は本学においても重点的に整備が必要である。
    今後において留学生関係業務への努力で地域特性の確立を図り、「東北大学の留学生」と称する者が特出したネーム・バリュウを生じうるような成果に結実すべく、高品位人材の育成方策を確立する必要があるものと思慮する。
    また、将来的には日本社会にとって有用な分野への進路・就職指導等に対しても支援を行うなど、高品位人材の育成に限らず留学生教育事業の成果を日本社会に還元する方策についても検討すべき時期に来ているものと考える。
    東北の枢要に位置する本学が、積極的に留学交流を推進することにより「世界水準の教育・研究」及び「社会への門戸開放」を実践する魅力ある大学としの地歩を確実なものとしたい。

(5) 留学生施策の制定
    一般的に留学生受入れに係るコストは、概して労多くして当然のことながら、コスト的には大学にとって収益性を望めるものではない。今後において、経営上の観点からのみ考えた場合は、その将来は決して明るいものではない。しかし、東北大学の元留学生には、魯迅、蘇歩膏始め約4千人の帰国留学生がそれぞれの国において活躍しているところである。百年近くかかってようやく成し得た先人留学生達が築き上げた多大な業績は本学のみならず今後の日本に還元されてきており、大きな成果と考える。
    現在本学では、これら帰国留学生の名簿を作成するとともに、留学フェア等の機会をとらえ、帰国同窓会の設立を呼びかけているところである。日本のノーベル賞受賞者にあっては海外で研究等を行った経験を有する方が多いが、留学生10万人計画を策定してから今日で20年が経過しようとする現在、日本留学経験からもノーベル賞的受賞者が続出する日が、一日も早く来ることを期待したい。


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