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資料3−3
中央教育審議会大学分科会
制度部会(第10回)平成16年7月13日

英国高等教育白書「高等教育の将来」(2003年)について

1. 高等教育白書の公表
 英国の2003年版高等教育白書は、今後数年間の政府の主な政策とその財政措置を明らかにする「政府支出見通し」(Spending Review)の公表(2002年7月)を受け,ブレア政権2期目の高等教育政策を示すものとして検討され,2003年1月22日に発表された。
 今回の白書については,研究環境の整備と関連して,研究資金の集中が話題となった。これは,研究型と非研究型高等教育機関の区別の一層の明確化であり,大学間における使命の相違を明確にし,それに即した補助金配分を行おうとするものである。こうした方向性に対しては,かつての大学とポリテクニクのような高等教育の二元化の復活につながるのではないかといった危惧の声が,特に新大学(旧ポリテクニク)から聞かれている。
 また,授業料額設定の大学裁量について,全国学生組合は、授業料の事前納入制の撤廃は歓迎するものの,最高3,000ポンドまでの専攻分野別授業料の導入は学生の進路選択を阻みかねないとしている。この点「デアリング報告」も,授業料導入は是としながら,専攻分野別授業料設定は,専攻の決定が,学問的能力ではなく支払い能力に依存する危険があるとして認めなかった。
 英国政府は,白書について2003年4月まで国民各層の意見を聴き,同年秋以降必要な法整備を行いつつ実施して行く方針である。

2. 高等教育白書「高等教育の将来」
 高等教育白書「高等教育の将来」(The future of higher education)は,知識主導型経済における国民全体の教育・訓練水準の向上や大学の教育力向上の必要性を説くとともに,国際的に見た英国の研究力の相対的な地位低下に対する危機感を表明し,研究環境の重点的整備の必要性を強調している。この考え方に立って,白書は高等教育の拡大や財政改善,研究費の増加,産学連携などの施策を打ち出した。主な内容や施策の方向性は,1997年に公表され,今後20年間のイギリスの高等教育のあるべき姿を示した政府諮問委員会報告書(いわゆる「デアリング報告」)に示された枠組みを踏襲し,これを更に推進する方向を示している。
 白書に示された施策は,すでに政府が取組を開始している施策を含んでいるが,デアリング報告(1997年)に基づいた高等教育改革の枠組みを踏襲しつつ,概ね2010年前後の完成を射程に入れ,段階的に実施されるものとしている。

3. 施策の概要
(1) 高等教育の拡大と進学機会の充実
  青年層の5割に高等教育の機会を保障
 2010年までに青年層(18〜30歳)の50%に高等教育を保障するとした政府の2001年総選挙公約は実現可能である(現在は43%)。特に2年程度の準学位レベルの需要が高まり,このため職業志向の応用準学位(foundation degree)の普及を図る。また,低進学地域の生徒や非伝統的学生(成人学生)の進学を促進する。
  授業料後払い制の導入
 2006年から授業料を最高3,000ポンド(現行の3倍,約60万円)まで認めることと並行して,現在の授業料事前納入制を止め,卒業後払いとする。支払いは学生ローンの返還方法に従う。また,授業料免除制度を継続する(現在約4割の学生が免除)。
  修学困難学生奨学金(Higher Education Grant)の導入
 2004年から,年収1万ポンド(約200万円)以下の低所得家庭の修学困難学生を対象に年額1,000ポンド(約20万円)の奨学金(給与)を導入する。
  学生ローン(貸与奨学金)の返済
 学生ローンの返済は,現在では卒業後年収1万ポンド(約200万円)を超えた時点から開始されるが,2005年4月からは年収1万5千ポンド(約300万円)超とする。

(2) 高等教育財政の改善
  公的補助金の増額
 科学技術研究費を含む高等教育支出を2005年度に約100億ポンド(約2兆円)まで増額し,2002年度比で3割増とする。
  授業料額の大学裁量拡大
 2006年度から,大学は専攻分野により最高3,000ポンド(約60万円)まで授業料を課すことができる。ただし,標準授業料(2002年は1,100ポンド,約22万円)以上を徴収する場合は定数や奨学制度などについて政府と合意を結ぶこととする(現在は,この標準授業料を機関や課程にかかわらず一律の授業料として政府が定めている)。
  寄付金(endowment)など自己財源の強化
 個人や企業・団体の寄付の拡大など大学財政の基盤の充実を図る。このため,寄付に対する税制上の優遇措置などについて検討委員会を設ける。

(3) 教授・学習活動の質的向上
  卓越した教育拠点の指定
 大学における教育を重視し,優れた教授活動を行う機関(学科レベル)で「卓越した教育拠点(Centres of Excellence in teaching)」として年額50万ポンド(約1億円)を5年間与える。2006年までに70の拠点を指定する。
  高等教育教授適格基準の設定。
 高等教育教員に求められる専門的教授能力を示す高等教育教授適格基準(professional standards for teachers in higher education)を2004年に設け,2006年以降の新教員はその基準に沿った能力証明を得るものとする。

(4) 研究環境の整備
  科学研究費の増額
 科学研究費(科学技術庁+教育技能省)を2005年度に26億3,300万ポンド(約5,266億円)とし,2002年度比で4割増とする。
  研究資金の集中と研究協力の推進
 研究資金を研究型大学に集中させ効果的な運用を図る。同時に機関間や分野間の研究協力を促進する。
 このため,2001年研究評価で最高評価(5*)を受けた学科・専攻の中から,さらに最優秀(6*)を選び,今後3年間追加補助金を与える。
 2001年の研究評価で最高レベルの評価(5及び5*)を受けた学科・専攻に所属する教員は全体の約5割。次回の研究評価は2008年以降。

(5) 産学連携の強化
  高等教育革新基金(HEIF)の拡充
 高等教育機関と産業の連携を促進・強化する観点から,高等教育革新基金(Higher Education Innovation Fund)の拡充を図る。HEIFは,大学発企業(incubator)の設立,地方企業による大学の資源活用を促す補助金で,政府はこれを,教育及び研究補助金に次ぐ第3の補助金とする方向を示している。特に非研究型機関を対象としている。


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