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資料3−2
中央教育審議会大学分科会
制度部会(第10回)平成16年7月13日

英国高等教育制度検討委員会(「デアリング委員会」)報告について

1. 高等教育制度検討委員会
 1996年5月に英国政府の諮問機関として発足した高等教育制度検討委員会(National Committee of Inquiry into Higher Education,委員長:デアリング卿)は,爾後20年間における英国の国家的必要に見合う高等教育のあり方について,大学人に加え財界・産業界の代表などを委員として,各界の意見聴取,作業部会,日本を含む諸外国の高等教育調査などの方法による調査・審議を行い,1997年7月に,継続的な高等教育の拡充なしに英国が国際的な経済競争の時代にその繁栄と国際的な地位を確かなものにすることはできないとする報告書「学習社会における高等教育の将来」(Higher Education in the Learning Society)を提出した。

2. 報告書「学習社会における高等教育の将来」
 報告書は,全24章からなり,93の勧告を含み,豊富な調査資料と併せて全体で約1700頁にわたる浩瀚(こうかん)なものとなった。過去30年余の英国の高等教育の分析を基に,目的,規模,財政,教育・研究及び学生支援と高等教育全般にわたって検討を加え,全体として生涯学習社会における高等教育の位置づけを展望するとともに,国際競争力の向上における役割を強調している。
 報告書によれば,英国の高等教育は過去20年間に,学生数の倍増,公的補助の実質的減少,パートタイム学生や成人学生の増加などの大きな変化を経験したが,知識・情報重視型の世界経済秩序,継続的な能力開発を求める労働市場,情報技術の進展など環境の変化が激しく,高等教育においてはさらなる改革が求められるとして,高等教育の拡大,高等教育の水準・質の管理,高等教育による地域経済の振興,及び研究基盤の整備などの点について勧告している。また,勧告の対象は,政府,高等教育機関及び財政審議会,高等教育の代表団体,学生組合,雇用者団体,研究審議会など広範囲にわたり,勧告の実施については短・中・長期の期限を示しつつ数値目標を示すなど具体的な提案を行っている。

3. 報告内容の概要
(1) 勧告目的
 20年後に競争力のある経済を持続させることを目指して,過去30年の間の高等教育の分析を基として,次の20年間における新しい課題に柔軟に対処していく能力を高等教育に与えることを目的とする。
(2) 今後20年間の高等教育のビジョン
 今後20年間に英国は,生涯学習社会を創出する。その実現のために,個人も国も雇用者も教育者も積極的な取り組みがもとめられる。教育は,英国人の生活の質を向上させる上で根本になるものである。したがって,あらゆる学習レベルや異なる分野の幅広い研究が世界有数のものとなることを国の政策目標とすべきである。この目標は,高等教育機関,教職員,学生,政府,雇用者,そして社会全体を巻き込んだ新たな契約に基づいて初めて実現されるものである。この契約に関する委員会の見解は表(次頁)のようにまとめられる。新たな契約の形成にあたっては,高等教育機関,産業界及び公共部門の三つの部門がそれぞれ果たすべき義務を自覚しなければならない。
(3) 高等教育改革の方向
1  高等教育の目的
高等教育の目標を,学習社会の維持・継続に置く。この実現のために,
高等教育は,個人が知的に成長し,仕事に対する能力を十分に身につけ,社会に効果的に貢献でき,個人的な充足を達成できるように,自分の可能性を最大限に発揮するのを鼓舞し,それを可能にする。
高等教育は,個人が自分たち自身のために知識と理解を増やし,経済と社会の利益のためにそれらを応用するのを助長する。
高等教育は,地元,地域,国のレベルで,順応性のある,接続可能な,知識を基盤とした経済のニーズに応える。
高等教育は,民主的で,文明度の高い,包括的な社会の形成に主要な役割を果たす。
2  高等教育の拡大
a) フルタイム高等教育の在学率(32%)の45%以上への引き上げ
b) まず準学位(sub-degree:ディプロマ等)の授与数の拡大,その後に学士及び修士以上の学位の授与数の拡大
c) パートタイム学生への支援充実
d) 公的補助金配分における,労働者階級の子女,障害者,及びマイノリティーの出身者を積極的に受け入れる高等教育機関の重視
3  高等教育財政の改善
a) 受益者負担原則の導入。例えば,毎年1000ポンド(毎年約20万円)の授業料の導入
b) 国の高等教育費予算の削減幅の軽減
c) 政府は,長期的には公財政支出高等教育費の対GDP比を増加
4  高等教育の機能と教育内容の改善
a) 世界トップクラスの高等教育制度の確立
b) 教育面における高等教育教員の専門性向上と資格制度の導入。
c) b)を管理する高等教育改善機関(ILTHE)の設置
c) 教育内容の改善
深い専門性とともに幅広い知識・教養の習得
コミュニケーション,数的処理能力,情報技術などの基礎的技能
在学中における一年間の職業実習体験
情報技術設備の整備(2005年度までに小型パソコンを全学生が利用可能に)
5  高等教育の水準・質の向上
a) 高等教育水準評価機関(QAA)の機能強化
b) 財政機関研究評価(RAE)の改善




(表)各部門の高等教育に対する貢献と利益の対照表
  高等教育への貢献 貢献から得られる利益
社会・納税者
(政府が代表する)
高等教育への適切な公財政支出
高等教育に対する安定した資金供給
高度な技術を備えた労働力
知識集約型社会への研究成果
情報の備え,柔軟・有能な公民
学生・卒業生
授業料及び生活費に対する負担
学習の努力
より大きな制度への参加の機会の拡大
より良い情報選択とガイダンス
高度な学習経験
より高い学習成果
英国内外の厳格な評価
就職後の所得別分担
パートタイムに対する支援
高等教育就学補助基金の拡充
高等教育機関
質と水準の厳格な維持・保証
学習と教授の新しいアプローチ
高等教育のより効率的な普及
人材開発と支援
教育資金の新しい財源と学生数拡大の再開
研究に対する新たな財源措置
高等教育に対する社会的評価
財源の安定
教職員
卓越性への貢献
新しい方法の探求及び応用
研究を含む全ての職務に対する非財政面を含めた社会的認知上昇
専門性に対するより適切な認知
訓練・人材開発の機会
適切な給与
雇用者
被雇用者訓練への投資
研究の基盤整備への貢献
労働体験の学生への付与
高等教育機関の効率的運営への支援
高度な労働力が労働市場へ
高等教育が提供するものに対する明確な理解
高等教育との協力の機会の増大
中小企業の高等教育資源への接近
研究成果
家庭
教育費の貢献
子女のより良い高等教育の機会
成人学生のより良い,柔軟な高等教育の機会



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