資料3 我が国の高等教育における質保証を伴う学生の流動性の拡大に向けて国際的・戦略的視点に立った情報収集・発信の主体となる機能の強化について(案)

我が国の高等教育における質保証を伴う学生の流動性の拡大に向けて
国際的・戦略的視点に立った情報収集・発信の主体となる機能の強化について(案)

 

平成26年 月
中央教育審議会大学分科会
大学のグローバル化に関する
ワーキンググループ

1. 背景
(1)高等教育における学生の流動性の拡大
○ 近年,高等教育のグローバル化は急速に進展しており,特に学生の流動性については,2000年には207万人であったのが2010年には412万人になり,2025年には770万人におよぶと推定される など,世界規模で学生が移動し学ぶ傾向が高まっている。

○ 我が国の高等教育は,明治期の制度創設以降,これまで母国語による学問の発展や知の蓄積を遂げ,世界トップレベルの教育研究を実現するに至っている。一方,グローバル化の進展を背景として日本語において教育研究を完結できていることが世界的に見れば珍しく,また国際通用性を高める観点からは言語や独自に発展した制度が障壁とさえなりつつある。今後,高等教育のグローバル化や学生の流動性の拡大に対応し,アジアや世界の高等教育の拠点を形成していくためには,各国以上に戦略的な取組が必要となる。
特に,我が国においては,平成20年度に「留学生30万人計画」を掲げ,積極的な留学生獲得施策を展開しているところであり,各国が優秀な留学生の確保にしのぎを削る中にあっては,単に留学生施策を充実させるだけでなく,我が国の高等教育の質の高さや魅力についてより戦略的に発信していくことが求められている。

(2)学生の流動性の拡大に対応するために世界的に行われている取組
○ 学生が国境を越えて学ぶ際,支障なくその学びを継続するためには,過去に取得した学位等が,他国においても公平・公正に取り扱われることを各国は確保する必要がある。
こうしたことから,例えば欧州においては,「欧州地域における高等教育の資格の認定に関する条約」(通称「リスボン条約」)が1997年に採択されて1999年に発効し,1,実質的相違が認められない限り,外国学位等を自国の学位等と同様に取り扱うこととし,学生が安心して国境を越えた学修に臨めるようにするとともに,2,自国に向けては他国で取得された学位等の認定に係る情報を提供し,他国に向けては自国の学位等の高等教育の資格並びに教育制度等について正確な情報を発信するナショナル・インフォメーション・センター(NIC)の設置等を通じて,受入れ国・大学が円滑に留学生を受け入れるための体制を整備するなどしている。(アジア太平洋地域においても同様に,通称「地域条約」が改正され,「ユネスコ高等教育の資格の認定に関するアジア太平洋地域条約」(通称「東京条約」)が2011年に採択されたが,批准国数が規定数を満たしていないため,いまだ発効はしていない。)
また,欧州においては,学位取得者の学修内容を共通の様式で示す学位証書補足資料(ディプロマ・サプリメント)を導入し,学修内容の透明性・比較可能性を高めることにより,国境を越えた学修者について,学位等の高等教育の資格の認定等が円滑に行われるよう体制を整備している。

○ また,国によって異なる単位数の換算を容易にし,学生の国境を越えた移動を容易にするための取組が地域単位で推進されており,欧州においてはECTS(European Credit Transfer and Accumulation System)が,アジア地域においてはUCTS(UMAP Credit Transfer Scheme)やACTS(ASEAN Credit Transfer System)の活用が推進されている。

○ このほか,国境を越えた学修や就業の拡大に対応するため,欧州においては各国の様々な資格間の「翻訳機能」を持ち,域内の資格の比較対照を可能とする共通枠組み(EQF: European Qualifications Framework)を策定し,異なる国の異なる教育・訓練制度において取得された資格を学修者・卒業者・教育訓練機関等が比較できるように体制整備を進めている。また,ASEANにおいても同様に共通枠組み(AQRF:ASEAN Qualifications Reference Framework)の策定に向けた検討が進められており,各地域で学生等の流動性の拡大に対応する取組が進められている。

(3)外国人留学生増加に伴う受入れ審査業務の増大
○ 我が国における外国人留学生の数は,2000年に約6万4,000人であったのが,2013年には約13万5,000人におよぶ など,近年急速に増加している。また,派遣国の約9割は母国語が多様なアジア地域となっている。
   このような状況の中,受入れ大学においては,留学希望者の申請資格要件に係る審査を円滑に行うために,各国の高等教育を含む教育制度全般に関する正確な情報や,他国の異なる教育・訓練制度において取得された資格の同等性や証明書の真正性を評価する審査に際してのノウハウ・経験が必要となっている。
   これは,世界的にも“Foreign Credential Evaluation(FCE)”と呼ばれ,学生の流動性拡大に伴う重要な業務として位置づけられるようになっており,大学における審査業務を支援する取組が,一部の公的機関や民間団体により提供されている。


2. 現状と課題
○ このような中世界を移動する学生を積極的に我が国に呼び込むとともに,我が国の学生の流動性を高めていくためには,我が国の高等教育に関する情報を正確かつ分かりやすい形で提供するだけでなく,戦略的に発信していくことが重要となっている。また,外国学位等を自国の学位等と同様に取り扱い,学生が安心して国境を越えた学修に臨めるようにするためには,各大学がその同等性を評価し認定する上で必要な外国の教育制度や政策動向についても正確かつ時宜を得て把握していくことが重要となる。

○ 我が国の高等教育に関する情報発信に関し,外国人留学生向けの情報については,独立行政法人日本学生支援機構による一元的な情報発信体制がある程度確立されている。一方,その他の高等教育関係者(外国の政府・各大学・質保証機関等)に対しては,これまで文部科学省の各部局や独立行政法人大学評価・学位授与機構等がそれぞれ,国内外の様々な対象者に向けてウェブサイト等を通じて英語で情報を発信しているが,一元的かつ戦略的な情報発信という面からは,十分な体制が整えられていない。特に,我が国の学位等の高等教育の資格のみならず,大学以外の高等教育機関や中等教育機関で取得された資格に関する情報が正確に伝わっていないこと等により,各国の大学において我が国の学位等を取得した学生の受入れ審査手続に時間を要している場合があるなどの指摘がある。
 政府として,2020年までに我が国の大学生等の海外留学生数を6万人から12万人に倍増させることを目標に掲げている中で,今後は,日本人学生を受け入れる立場にある外国の高等教育関係者に対し,我が国の学位等の資格並びに教育制度等に関する正確な情報を一元的にかつ時宜を得て発信できるよう機能強化することが重要である。特に,各国の大学,NIC及び質保証機関等が我が国の高等教育制度への理解を深めることは,当該国内全体における理解の深化につながることから,ウェブサイト上での情報発信だけでなく,各国のNICや高等教育関係者等に対して戦略的・積極的に情報発信を行うとともに,相互の協力体制を築いていくことが肝要である。

○ 外国学位等の認定等に係る情報収集の現状について,「『外国での学修履歴の審査』及び『海外で修得した単位の認定』に関する実態調査」(平成26年独立行政法人大学評価・学位授与機構)によれば,出願資格の確認等の業務に当たり,情報源の確保に困難又はやや困難を抱えている大学は約8割に上っており,第三者機関に期待する情報提供の内容として多く挙げられたのは,1,一般的な教育制度(学校制度系統図,教育機関種別,学位制度等),2,標準修業年限等となっている。
   また,単位認定の審査過程で利用する情報として多く挙げられたのは,1,当該大学(学部・研究科)に在籍する教員への照会,2,当該部署の担当者の経験と知識,3,各大学教員・職員の知見の蓄積,に頼っているという状況である。
第三者機関に期待する情報提供の内容としては,1,一般的な教育制度(学校制度系統図,教育機関種別,学位制度等),2,履修制度(単位制度,成績評価基準,GPA制度)等が挙げられている一方,出願者が取得している資格(学位等)の諸外国における位置づけや海外資格と日本国内の資格(高校卒業資格/学位等)との同等性を判断するための情報に対する関心は必ずしも高くない。これは,これまで我が国の大学においては渡日前入試及び入学許可等が積極的になされてこなかったこと等を背景として,諸外国においては重要な業務として認識されているFCEが,我が国の大学において十分に根付いていないことを示していると言える。
   しかしながら,全学的に国際化を推進している一部の大学においては,留学希望者の申請資格要件に係る審査を円滑に進めるため,外国学位等の我が国の学位等との同等性や証明書の真正性を評価する業務が増しており,民間団体からの支援を受ける動きも出始めている。
   今後「留学生30万人計画」の実現に向け,より多くの大学がより多様な形態で様々な国から留学生をより円滑に受け入れるためには,大学ごとの知見の蓄積に頼るだけではなく,国全体として各国の高等教育制度に関する主要な情報を蓄積し,共有していくための体制整備が不可欠である。このことは,先に制度化されたジョイント・ディグリーを可能とするための国際連携教育課程制度を我が国で普及していくに当たっても,基礎的な体制整備の一つとして求められるものである。

○ このほか,外国学位等の認定に当たって有益な情報収集については,先述のとおりNICの設立や単位換算スキーム,域内共通資格枠組みの策定等,世界の国・地域で様々な取組が進められているところであり,我が国がそのようなルール作りの段階から戦略的に関与していくためには,各国・地域の政策動向に関する情報収集機能を強化するとともに,各国のNICと信頼関係及び協力体制を築くことが必要である。


3. 今後取るべき方策
○ 世界的潮流に合わせ,我が国の大学における学生の流動性を今後一層向上させるためには,国,大学,民間団体等が適切な役割分担の下連携し,我が国の高等教育に関する情報について戦略的に発信していくとともに,外国の高等教育に関する情報について正確かつ時宜を得て収集していくことが必要である。

○ 我が国の高等教育に関する情報発信について,今後国は,各国の大学やNIC,質保証機関をはじめとした高等教育関係者に対し,一元的・戦略的な情報発信ができるよう,適切な体制を整備することが求められる。特に,東京条約の批准に当たっては我が国もNICを設置することが必須となることから,各地域条約に基づく各国の既設NICを参考に,国を代表して情報を発信する主体を,独立行政法人等の公的機関が担うことをはじめとして早急に整える必要がある。同時に国は,東京条約について,早急に批准を実現し,率先してアジア太平洋地域の学生の流動性の拡大に伴う高等教育の質保証に寄与すべきである。また,我が国への留学希望者向けの情報発信については,我が国の大学における外国語によって学位が取得可能な課程等に関する情報等の発信が大学や民間の努力において既に進められてきていることから,国はこれらとの適切な連携を図ることも有効である。
なお,各大学においては,教育研究の連携先・留学先として魅力ある機関であることを,質保証に関する取組実績等も含めて主体的に情報発信していくことが期待される。また,自大学の修了者等が安心して国境を越えた学修等に臨めるよう,学生が取得した学位等の資格や学修内容等について国際的な透明性・比較可能性を高めるための取組を行っていくことが期待される。

○ 外国の高等教育に関する情報収集については,我が国の高等教育における学生の流動性の一層の拡大に向けて,国全体として各国の学位等の高等教育の資格並びに教育制度に関する主要な情報を蓄積し,共有していくための体制整備が必要である。具体的には,既存の各機関等の果たしている役割を踏まえ,人的リソースの充実やネットワーク化なども視野に入れて,情報収集業務の主体となる機関について,具体的検討を進める必要がある。
  また,外国学位等と我が国の学位等との同等性の評価及び認定に係る各大学における審査業務を支援する体制については,中核的なデータベースの整備については国による支援を行いながら,スーパーグローバル大学創成支援事業採択校等,我が国の留学生受入れにおいて中心的な役割を果たしている大学・関係機関が協力してコンソーシアムを形成して対応をしていくことが考えられる。ここでは例えば,外国学位等の同等性の評価に関する各大学の既存データや蓄積されたノウハウの共有,データベース化による活用,外国学位等の評価業務に関する研修,大学間での情報交換や合同研修等を行うことが考えられる。これにより,各大学において外国学位等の評価業務をより円滑に遂行するための能力が向上していくことが期待される。

○ 改めて,世界においてはNICの設立や単位換算スキーム,域内共通資格枠組みの策定等,国・地域単位で様々な取組が進められているところであり,我が国として,各国・地域の高等教育政策動向を適時・適切に把握しそのようなルール作りの段階から戦略的に関与すると同時に,責任ある体制の下で適切な情報の発信を行うことにより,積極的に学生の流動性の拡大に伴う世界の高等教育の質保証に貢献していくべきである。

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