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キャリアガイダンス(社会的・職業的自立に関する指導等)の法令上の明確化について

1.中教審大学分科会の審議

 大学分科会では,大学教育の在り方について審議を行う中で,職業との関わりについても審議を行い,これまでに各種の提言を行ってきた。

 昨年9月の諮問「中長期的な大学教育の在り方について」を受けて,本年6月の「第一次報告」では,学生の履修指導や就職支援を検討課題(例)として掲げ,さらに,8月の「第二次報告」では,大学教育の質保証と学生支援の充実の観点から,キャリアガイダンスを法令上に明確化することを提言した。

【大学分科会「第一次報告」(平成21年6月)】

学生支援・学習環境整備に関する検討課題(例)

ア 質保証において,学生支援に係る事項の重視。

イ 学生生活の場として大学に求められる機能。

ウ 多様なニーズに対応する大学教育を実現するための,学生の履修指導や就職支援,経済的支援等の総合的な学生支援・学習環境整備の在り方。

 【大学分科会「第二次報告」(平成21年8月)】

○ ……平成20年12月の「学士課程教育の構築に向けて(答申)」で提言したように,学生が入学時から自らの職業観,勤労観を培い,社会人として必要な資質能力を形成していくことができるよう,教育課程内外にわたり,授業科目の選択等の履修指導,相談,その他助言,情報提供等を段階に応じて行い,これにより,学生が自ら向上することを大学の教育活動全体を通じて支援する「職業指導(キャリアガイダンス)」を適切に大学の教育活動に位置づけることが必要である。

○ 例えば,入学時のガイダンス等の導入プログラムから,学生の適性,興味・関心などを踏まえ,履修指導等において,きめ細かい指導・助言が行われるよう職業指導(キャリアガイダンス)の充実に努めることが必要である。

 このため,法令上も,職業指導(キャリアガイダンス)の実施を明確にすることにより,大学において組織的かつ計画的な取組を推進することが重要である。

○ また,教育活動全体を通じて職業指導(キャリアガイダンス)を充実することにより,学生が安心して学び,自己の適性や生き方を考え,主体的に職業を選択し,円滑な職業生活に移行できると期待される。

(法令上の明確化に当たっての留意事項)

・ 就職ガイダンスや職業意識の形成に関する授業科目を開設している大学等が約7割に達しており,また,その状況が各大学の特色に応じて多様である実態を踏まえつつ,一般教育と専門教育とのバランスに留意した制度設計とすること。

・ 現行の大学設置基準では,教育課程及びそれを構成する授業等に関する規定は,大学の自主性・自律性を尊重する観点から,必要最小限に抑制されていることを踏まえ,それとの均衡を失しないこと

【参考】中教審・キャリア教育・職業教育特別部会「審議経過報告」(平成21年7月)

 若者を,社会的・職業的自立に導くことを教育の重要な目的として再認識し,勤労観・職業観をはじめ,社会的・職業的自立に必要な能力等を,義務教育から高等教育に至るまで体系的に見つけさせていくことが求められているのではないか。

2.キャリアガイダンス(社会的・職業的自立に関する指導等)に関する大学の取組の現状

(1) 教育課程内での取組について

 教育課程内で行われるものは,各大学が自主的に定める学位授与や教育課程編成の方針に基づいて定められており,大まかに3つの形態が見られる。

1.専門教育や一般教育におけるキャリア形成支援

 多くの大学では,専門教育や一般教育において,教育課程の全体を工夫し,学生の視点に立ってキャリア形成を進める取組が見られる。

例1:教育課程の全体を通じて,キャリア志向の取組を進める。

○A大学(文科系の私立大学):キャリア形成に必要な能力(コミュニケーション能力,プレゼンテーション能力,異文化理解能力,IT能力,クリティカル思考等)を「卒業成長値を高める『10の底力』」と位置づけ,全授業が,どの能力を伸ばすかシラバスで明確にして実施。セメスター終了時に,学生は自己評価を行い,自らに必要な基礎力を伸ばす。

○B大学(社会学系の国立大学):大学院を,学生の「キャリアデザインの場」と位置づけ,教員の研究や教員の補完ではない,自立的研究者となる資質能力を育成する観点から,教育内容の充実,就職・進学支援を体系的に実施。例えば,博士後期課程の学生を対象とする「企画と実践」は,海外研究者を交えた研究集会の企画運営を行う経験を積む。

例2:個別の授業における教育方法の工夫改善を通じてキャリア志向の取組を行う。

○C大学(総合型の国立大学):全学生が基礎科目「情報」を履修。「情報」では,情報に関する系統的な知識と経験(情報社会人の基本的素養)を修得し,希望する学生は「情報システム利用入門」で情報システムの利用方法を履修。

○大学(文科系の私立大学):「企業倫理」の講義を通じて,専門分野の知識を修得しつつ,ディスカッション能力,話す力,まとめる力等を養成する。

2.幅広い職業意識の形成等を目的とする授業科目の実施

 大学によっては,一般教育において,キャリアや職業を対象とする科目を設ける事例も見られる。

例3:職業意識啓発のため,大学教員がコーディネーターを務め,卒業生や外部講師による体験を伝達。

○E大学(総合型の国立大学):学部2~3年生向けの「キャリア形成論」において,産業界,法曹界等で活躍する卒業生によるシリーズ講義を実施。

○F大学(総合型の私立大学):「人材育成学」における外部講師によるキャリア形成経験を聞き,社会・企業との関わりの中で自分自身を見つめ直す。

例4:特定学部・研究科の教員が,キャリア支援センター等と連携して,キャリアや実社会の問題について専門的,集中的に講義を行う。

○G大学(総合型の国立大学):1~2年生を対象とする講義「職業社会と資格制度」「進路と職業」の講義により,経済・労働・教育訓練の具体的事例を取り上げながら,学生が自己理解・啓発を深め,将来の職業生活に向けた指針・展望を得る。

○H大学(工学系の公立大学):教養教育科目や専門教育科目と別に,各種のキャリア形成科目を開講。具体的には,働くことの意義やコミュニケーションについて,グループ講義等を通じて学ぶ「キャリア形成論」や,事例に則して技術者としてのモラルを学ぶ「技術者倫理」等を実施。

○I短期大学(文科系の私立短大):1年生は「キャリアマインド形成セミナー」でプレゼンテーション能力やコミュニケーション能力を高め,2年生は「キャリアアップセミナー」で進路について考える。

 3.授業方法の工夫改善やインターンシップの実施

 学生の課題探求や問題解決の諸能力を伸長するため,討論等の双方向型授業等の教育方法の改善工夫に多くの大学が取り組んでいる。また,一般的な職業観・勤労観の育成や,専門教育の実地学習のために,授業科目として位置づけてインターンシップを実施する大学が増加している。平成19年度には,国立大学の59.5%(213学部),公立大学の38.1%(61学部),私立大学の53.7%(785学部)がインターンシップを実施している。

 例えば,すべての学部・研究科,学年の学生がインターンシップに参加できるような体制を整備している大学や,大学コンソーシアムがインターンシップの受入可能な企業を把握し,各大学にその情報を提供している取組等,多様な事例が見られる。

(2) 教育課程外での取組について

 多くの大学で,「厚生補導」の領域の一つとして,学内に就職支援のための体制を整備し,各大学の方針・実情に基づいて,学生の入学から卒業・修了までの段階に応じて体系的に組み合わせた取組が見られる。

教育課程外での取組例:

(1) 求人情報の提供及び求職申込みの受理

(2)オリエンテーション及び履修指導

(3)適性試験に基づく相談,就職に関する個別カウンセリング及び就職相談会の実施

(4)ビジネスマナー講座,プレゼンテーション能力養成講座,種々の資格取得講座の開設

(5)ホームページ,大学独自の就職情報誌・パンフレット,メーリングシステム等を通じた学生への情報提供

3.キャリアガイダンス(社会的・職業的自立に関する指導等)を大学設置基準に位置づける背景

(1) キャリアガイダンス(社会的・職業的自立に関する指導等)は,単に卒業時点の就職を目指すものではなく,生涯を通じた持続的な就業力の育成を目指し,豊かな人間形成と人生設計に資するものである。

(2) 大学教育や学生生活の経験を通じて獲得する成果(知識・技能,態度・志向性等)には,専門分野に関する知識・技能とともに,社会的・職業的自立に必要な資質能力が本来的に内在している。各大学では,こうした資質能力の涵養のため,それぞれの個性・特色や学問分野に応じた取組を行っている。

 また,大学設置基準には「厚生補導」が規定されており,各大学では,教育課程とは別に,学生に対する各種の就職支援や職業意識の形成に資する取組を行っている。

 これらの活動を,社会人として必要な資質能力を形成していく観点から,教育課程内外にわたり,大学の教育活動に位置づけていくことが必要である。

(3) 現在の厳しい雇用情勢や,学生の資質能力に対する社会からの要請,学生の多様化に伴う就職や雇用への移行支援強化の必要性等を踏まえ,キャリアガイダンスを教育課程の内外を通じて行うものとして整理し,これを大学設置基準に位置づけることで,大学教育と社会(職業)の関わりを明確化することが求められる。

 キャリアガイダンスは,就職支援等にとどまらず,学生に対し社会的・職業的自立のために必要な資質能力の獲得を促す取組全般が含まれ得る。そのうち,大学設置基準には,大学として必要な最低限の要素について規定する。

(4) 大学の機能別分化が進む中,各大学の教育研究目的,設置する学部・研究科の種類,学生や教職員の状況は多様であり,大学設置基準に位置づけるに当たり,大学の取組を画一的なものとしないよう留意する必要がある。

4.上記の現状と背景を踏まえた大学設置基準の改正

(1) 大学設置基準の改正の考え方

 各大学が実施するこれらの教育課程の内外の取組を,大学設置基準等の法令上に位置づける際に,次のような趣旨を大学設置基準に置くことが考えられる。

(社会的及び職業的自立に関する指導等)

○ 大学は,学生が卒業後自らの資質及び能力を発揮し,社会的及び職業的自立を図ることができるよう,その教育研究上の目的を踏まえ,教育課程及び厚生補導を通じて,必要な指導又は支援を図るものとする。

(○ 大学が上記の指導又は支援を行うに当たっては,学内の関係組織における有機的な連携を図るものとする。)

 大学設置基準には,「第6章 教育課程」(第19条から第26条まで)と「厚生補導の組織」(第42条)の規定があり,今回の規定は,厚生補導の規定の次に置くことが適当。

 なお,短期大学,大学院,高等専門学校の設置基準において,それぞれの特定を踏まえつつ同様の規定を設ける。

(2) 留意事項

○ 大学におけるキャリアガイダンス(社会的・職業的自立に関する指導等)の導入は,生涯を通じた持続的な就業力の育成の観点から,大学教育を再点検する中で検討される必要がある。

 各大学において,どのような取組を行うかは,各大学の教育研究目的,設置する学部・研究科の種類,学生や教職員の状況により多様と考えられ,特定の教育内容・方法が大学に課されるべきものではない。

○ 各大学では,教育課程の内容と実施方法に関する方針を定める中で,個別の授業科目のシラバスや,体系的な教育課程の編成を通じて,修得すべき知識・技能や職業生活との関係を明らかにし,さらに,学生への履修指導を通じて,その理解を図ることが求められる。

 大学における取組が,単に「キャリア○○」と称する授業科目を設定することや,従来の厚生補導としての職業指導をそのまま単位修得科目に置き換えることであるならば,大学教育の単位認定の質が問われることになりかねず,教育課程編成において十分留意する必要がある。

 また,大学においては,関連する領域に関する修得単位数の上限を定めるなどの工夫が考えられる。

○ 大学におけるキャリアガイダンスの企画と運営に当たって,大学では,厚生補導組織と教員組織等との積極的な連携により,教育課程の内外を通じた一体的な取組が求められる。

 大学によっては,必要に応じ,外部人材等との連携する取組も想定されるが,その際にも,大学の教育理念や,個性・特色,学生の状況等を踏まえ,大学として主体的に取り組む必要があり,そのための学内の専門性の高い人材の養成と確保が求められる。

○ 各大学の取組状況については,認証評価により,各大学の理念や教育研究目的等を踏まえつつ,適切な評価を受け,その評価結果が社会に明らかにされることが期待される(現在,各認証評価機関は,大学における職業指導の実施状況について評価項目を設けて評価を実施している)。

(3) 大学設置基準の規定の考え方の明確化

 大学設置基準の規定に関して,上記を踏まえた考え方について,後日誤解が生じないよう施行通知や解説等の文書により明確にする。

(参考)諸外国における質保証の観点からの取組

○ 諸外国の大学教育の質保証システムは,それぞれの大学制度や社会背景により多様であり,一般に,ヨーロッパでは,事前規制としての設置認可と事後評価の組合せにより,アメリカでは,事後評価としてのアクレディテーションにより,公的な質保証システムが整備されている。

○ そうした質保証システムの充実が進む中,近年,大学における職業に関連する規定等の整備が進んでいる。

○イギリス:QAA(Quality Assurance Agency)が作成し,設置認可審査を行う際にも使用される「大学行動準則」(Code of Practice)の一つとして,2001年に「キャリア教育・情報・指導」(Career Education, Information and Guidance)が設けられている。この行動準則は,基本原則として「大学は,『キャリア教育・情報・指導』に関し,明確かつ文書化され,分かりやすい方針を持たなければならない」と規定している。

○フランス:2007年施行の「大学自由責任法」により教育法典を改正し,大学の学生支援機能を充実しており,各大学への学生就職支援局の設置(第L611-5条)と,就職状況等に係る統計の公表(第L612-1条)等を規定している。

○ドイツ:連邦政府の高等教育大綱法は,「高等教育機関の使命」の一つとして「職業活動への準備」を掲げている。

 州レベルでも,例えば,ノルトライン・ヴェストファーレン州では2006年制定の「高等教育自由法」が,「一般大学(Universität)は,研究,教育,学修,若手研究者の育成,知識移転(とりわけ科学的な継続教育,技術移転)によって,科学的な認識を産出するとともに,科学を保護育成し,発展させることに資する。一般大学は,科学的な認識と方法の使用が必要となる国内外の職業活動に対して準備させる」と規定している。

○アメリカ:連邦政府教育長官が認証する6つの地区アクレディテーション協会のうち,カリフォルニア州をはじめとしたアメリカ西部地域を担うWASC(Western Association of Schools and Colleges)は,そのアクレディテーション基準に,学生支援の一環として,「キャリアカウンセリング」の実施を挙げている。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

-- 登録:平成21年以前 --