留学生30万人計画を推進し、多くの留学生を受け入れつつ、優れた留学生を獲得していくためには、我が国の大学等が、留学生を引きつけるような魅力を持つことが必要である。また、留学生にとって安心して勉学に励むことができる受入れ体制の整備が必要である。これらについて、以下のような方策を行っていくことが求められる。特に大学等の魅力を向上させることは、機械的にできることではなく、大学のみならず国をはじめ関係者とも一体となって緊急に着手する必要がある。
(1)優れた留学生獲得に向けたインセンティブの付与−日本の大学のグローバル化−
カリキュラム
これには、まずは大学等のカリキュラムが国際的な人材養成に十分なものであることが重要であり、教育研究拠点として評価を高める必要がある。そのためには、それぞれの大学等が人材養成や研究において、アピールできるような取り組みを進める必要がある。その際には各大学等が個性や特色に基づいた戦略を持ち、人材養成目的を明確化し、それに応じたカリキュラムを整備することが求められる。例えば、国費外国人留学生制度の中で行われている「研究留学生の特別プログラム」は、留学生にとって魅力のある優れた取り組みを進める大学院のプログラムに国費留学生を優先配置するものであるが、それぞれの大学ではこうしたプログラムも参考にカリキュラムの整備を推進することが期待される。
英語による授業
グローバル化が進む世界において、英語は国際共通語として扱われている。このため、米国や英国など英語を母国語とする国は多くの留学生を集めている。他方、欧州の英語を母国語としない国の中には、留学生を獲得するため、大学等の授業を英語で行うことを積極的に推進している国もある。このように、英語での授業は留学生を引きつける意味で重要になる。しかしながら、平成17年度において、我が国の大学で英語による授業のみで卒業できる大学数(学部段階。短期大学は除く。)は5大学6学部、また、英語による授業のみで修了できる大学院研究科数は、平成18年度で56大学96研究科にとどまっている。専攻分野などにより異なる部分もあるが、基本的には英語で授業を受け、英語のみでも学位が取れるコースが飛躍的に増大することが必要である。特に、世界最高水準の卓越した教育研究拠点を目指す大学院博士課程においては、世界の大学と競い、優秀な留学生を獲得するためには、英語のみで学位がとれることが重要である。
一方で日本人学生の英語力向上も重要な要素の一つであり、英語教育の充実とともに、海外への留学・体験をプログラムとして整備することが重要である。また、英語で運用される留学生向けの授業に日本人学生を積極的に参加させることは、日本人学生の語学力向上のみならず、国際感覚の涵養、新たな人的ネットワークの構築など多くの利点がある。
外国人教員
外国人教員の全大学教員に占める割合は、現在5.1パーセント(平成19年度)であるが、これについても、単に語学科目の教員だけでなく、専門科目において優秀な外国人教員を採用することにより、教育研究の水準の向上とともに、日本人教員への刺激になることや学生の英語力向上も期待できることから、各大学において教員の採用においてより一層積極的に考慮することが望まれる。その際、サバティカル休暇中の教員を活用した交流の促進や、大学において任期制やテニュア制を導入するなどの工夫も求められる。なお、採用に関する情報や書類等が日本語に限られていることが障壁となっているとの指摘があり留意が必要である。
国際的な大学間の共同・連携
近年、諸外国の大学とカリキュラムを相互に連携させて、双方の大学で一定期間の教育を行い、最終的に双方の大学が学位を授与するダブル・ディグリープログラムを導入する大学が増加しているが、ダブル・ディグリープログラムは、大学にとっては、相互の大学の優れた取り組みを融合させることでの相乗効果が期待できるほか、特定の大学と提携することによって受け入れる学生の質が保証できるなど有益である。また、学生にとっても短期間で複数の学位を取得できることで、将来のキャリア形成に大きな利点がある。
また、学位取得までには至らないものの、短期プログラムによる単位互換も共同学位プログラムと同様の効果が期待できるなど重要であり、大学等の魅力を国際的に高めるためには、このような国際的な大学間の共同・連携による留学生交流プログラムの拡大が求められる。
秋季入学
我が国の大学等でもセメスターの導入が進み、また、大学の入学時期の弾力化が図られてきたものの、秋季入学が進んでいるとまではいえない。平成17年度に4月以外の入学者の受入れを行ったのは、学部段階で322学部1,569人、大学院研究科段階で468研究科3,539人となっており、秋季入学が進んでいるとまではいえない。
世界の大学の主流は秋季(9月)入学であり、我が国の大学の大半が4月入学を基本としていることは我が国への留学をためらわせるものの一つになると考えられる。秋季入学は、我が国の大学のグローバル化を進め、留学生の受入れを促進するとともに、日本人の海外留学を進めるためにも有効であり、学校教育法施行規則の改正により今年度から学年の始期を各大学が定めることとなったことを踏まえ、さらにその推進が求められる。
国による大学等へのインセンティブの付与
大学等における上記の取り組みを促進し、各大学のグローバル化を進めていくためにも、各大学にインセンティブを付与することが必要である。このため、グローバル化の取り組みを進める大学等に対して、優先的に国費留学生の配置や私費留学生学習奨励費の配分を行ったり、財政支援について傾斜配分を行ったりすることも検討する必要がある。加えて競争的資金やGP(グッド・プラクティス)方式により競争的に支援を行っていくことも考えられる。
(2)留学生にとって安心できる魅力ある受入れ体制等の整備
留学生にとって、日本に留学したことが誇りに思えるような受け入れ体制の整備が必要である。
〔大学等による取組み〕
リクルーティング
優秀な留学生を確保する上で、リクルーティングは大きな役割を果たす。これまで日本の大学等ではリクルーティングを熱心に行ってきたとは言えず、この充実が不可欠である。
大学等の中には、現地での募集・入試を実施しているところもある。これは優秀な留学生を獲得する有効な手段であり、今後この実施の充実が望まれる。一方で、教職員の派遣等の負担も大きいことから、例えば、日本学生支援機構が実施する日本留学試験や国際交流基金が実施する日本語能力検定試験といった既存の試験を積極的に活用し、渡日前入学許可が進むことも求められる。同時に、留学の前提となる母国での統一試験の結果を認証する制度の整備・活用も有効である。他国の大学等では、留学フェアの場で面接等を行い、合否を決定しているものもあるが、我が国の大学等についても、こうした積極性が求められる。
また、大学等がそのウェブサイトにおいて留学希望者向けの情報を発信している例がある。しかし、出願の要件が不明確であるなど、まだ情報発信機能が十分とは言えず、受け身の姿勢が強いという指摘もある。
大学等が留学生を戦略的に獲得するためには、それぞれの教育理念、教育内容等を踏まえ、自らの個性・特色を明確化し、教育研究の展開や留学生受入れについての考え方を発信していくことが求められる。それに加え、出願要件、必要な英語や日本語到達レベル、専攻分野、連絡先、宿舎や奨学金など留学希望者にとって必要な最新情報を恒常的にウェブサイトなどで発信していくことが必要である。これと現在行っている日本留学フェアや日本留学説明会での直接相対する情報発信などの一層の充実とあわせて、各大学等の情報発信機能を強化していくことが求められる。
また、留学生を戦略的に獲得するという観点から、各大学等は海外拠点を通じて、積極的に留学生の獲得に取り組むことも重要である。現在海外拠点を設け、積極的にリクルーティングを行っている例もあるが、個々の大学等がそれぞれ海外拠点を持つことは負担が大きい。このため、独立行政法人日本学生支援機構や日本学術振興会などの海外拠点がそれぞれ連携しながら、その活用・連携を図ることも有効である。
〔大学等による取組み〕
大学等の組織的な受入れ体制の整備
大学が留学生を受け入れるに当たって、現在は、研究室の教員に留学を希望する学生がメールなどで直接コンタクトをとる方法が一般的で、受入れ後も教員個人に依存した体制となっており、教員個人の負担が大きく、また、留学生の受入れが特定の教員に集中しているとも指摘されている。
このような個人依存の受入れ体制から転換し、組織的な受入れ体制を構築する必要がある。そのためには、アドミッションオフィスといった留学生の受入れについての専門的な組織を整備し、国際交流に関する知識・経験を有し、英語をはじめとした外国語を使うことができる専門職員や学問・生活面でのケアを行う相談員を配置することが求められる。この組織においては、留学生受入れについての考え方、留学生対象のカリキュラム、出願要件、宿舎や奨学金などの留学生受入れに関する情報の発信を担い、また、留学希望者からのコンタクトの窓口となって、希望者に対しての照会にも積極的に対応することが求められる。このような受入れ体制のもと、留学希望者が必要とする情報の発信から入学許可、宿舎や奨学金の決定まで、希望者が母国にいながら留学のプロセスが済んでしまうような大幅な利便性の向上が求められる。
また、専門組織にとどまらず、教職員に対する外国語教育などの能力開発や学内研修などを通じた教職員の資質向上なども必要である。
〔大学等による取組み〕
生活支援
留学生にとって留学を成功させるためには、日本という異文化社会に一刻も早く適応する必要があり、そのため、生活者としての留学生の視点を重視することも必要である。
例えば、渡日直後は、母国と異なる社会制度などに戸惑うことも多く、留学生が最も支援を必要とする期間でもある。外国人登録や国民健康保険の加入、銀行口座の開設といった社会生活上の諸手続きや履修登録などの学内手続きなどで苦労が多いという指摘がある。このため、学内や地域社会における留学生に対する相談・支援の充実が望まれる。
また、慣れない異国での生活で精神面・健康面で不調を訴えたり、近年では日本人学生同様、友人関係などで不安を覚える留学生に対する学内におけるカウンセリング機能の充実も望まれる。その際、卒業後も引き続き進学・就職で日本に留まる留学生が増加していることから、国内にいる元留学生のネットワークを活用することも一つの方法と考えられる。
〔国による取組み〕
国からの奨学金
学生が留学先を決定する重要な要素の一つに奨学金がある。奨学金は優秀な留学生を増やす呼び水的効果もあり、我が国のみならず、留学生の受入れの多い先進諸国ではその制度の充実に努めている。
このため、国費外国人留学生制度は、これまでの知的国際貢献という視点に加え、優秀な留学生を獲得するという視点からその見直しを図る必要がある。例えば、奨学金単価は学部と大学院でそれぞれ一律となっているが、留学生の状況に応じて複数の種類を用意するなどの見直しを検討する必要がある。また、国費留学生は入学から学位取得までの標準修業年限の間はその身分が保証されているが、毎年学業成績などの評価を行い、それに応じた支給を行うことについても検討が必要である。一方、学業成績や在学中の顕著な実績、面接などを踏まえ、極めて優秀な学部留学生や高専、専修学校留学生を博士課程や修士課程にそれぞれ進学する際に引き続き国費留学生として採用する特別延長の制度を推進するとともに、他方、国費留学生の延長は一層厳格に取り扱うことが求められる。
また、大学推薦では、研究留学生の特別プログラムやアジア人財資金構想といった大学の優れた取り組みに対する国費留学生の配置が開始されたが、こうした大学へのインセンティブを高める取り組みを、日本語・日本文化研修留学生や教員研修留学生といった他のプログラムにも拡大していくことが求められる。他方、戦災などの復興支援といった各大学の国際貢献に対する受け入れにも引き続き配慮する必要がある。
さらに、国費留学生の配置では、(1)
でふれたように、大学のグローバル化への取組みに加え、大学の留学生に対する施設・設備の整備や組織的な取り組みの状況などを加味して、取り組みに熱心な大学に手厚く配置することも必要である。
私費外国人留学生学習奨励費給付制度では、日本留学試験の成績優秀者に対する予約採用を実施しているが、優秀な留学生獲得の観点から、これを拡充するとともに、各大学が実施する現地入試にも同様の観点からこれを適用するなど、日本留学へのインセンティブを高める工夫が求められる。また、国費留学生制度同様、大学の留学生に対する取り組み状況に応じた配分も検討することが求められる。
学校法人授業料減免補助では、私立大学等の授業料減免のインセンティブが一層効果的に働くような制度上の工夫が求められる。
さらに、教育的見地から学生の学内業務を活性化する奨学制度(ワーク・スタディ・プログラム)や緊急時のセーフティネットのための支援制度など、新たな奨学制度についても検討することが必要である。
〔国、公的機関及び大学等の取組み〕
宿舎
留学期間の長短に関わらず、留学生には生活するための宿舎が必ず必要となる。平成19年5月現在、大学等の留学生宿舎などの公的宿舎に入居する留学生は全体の22.9パーセントであるが、留学生が安心して勉学に励むためには低廉かつ安心できる宿舎の提供が不可欠である。
各大学の留学生の宿舎の整備については、各大学が施設整備の一環として積極的に行うことが期待される。国立大学法人等の宿舎の整備及び維持管理に当たっては、PFIを活用することも有効である。
また、大学等がキメ細かな工夫によって、留学生に対し宿舎の斡旋・提供を充実することも求められる。例えば民間宿舎を借り上げて留学生に低価格で斡旋・提供したりといった工夫が重要である。また、外国人であることを理由に民間アパートの賃貸を拒否される事例が見られることから、大学と連携した民間の不動産会社が家主と契約のもと管理の代行や募集業務を一括して行うことで、留学生が確実にアパートの斡旋を受けられるようにするといった方法も考えられる。留学生が民間宿舎を借りる際、大学による機関保証を推進することも有効と考えられる。
一方、国や日本学生支援機構等は、既設宿舎の保全・活用や留学生宿舎建設の奨励、留学生宿舎の借り上げに対する支援など大学の取り組みに対する支援を推進することが求められるとともに、既存の「留学生住宅総合補償事業」などの活用などを通じ、留学生の民間宿舎への入居を促進することも重要である。
さらに、国土交通省が実施する、賃貸住宅の整備等に要する費用や家賃の減額に対する助成を行う制度や、都市再生機構が実施する留学生入居の促進制度、地方公共団体、支援団体、仲介業者等と連携し、情報ネットワークの構築を通じた民間賃貸住宅等に係る情報提供や各種サポートを行う制度、民間の不動産会社の協会の情報提供システムの活用など、留学生等に対する様々な支援策の推進も期待される。
短期留学生の場合には、宿舎に加え、ホームスティといった地域住民の協力による受け入れも有効であり、この促進策についても検討する必要がある。
〔国、公的機関及び大学等の取組み〕
卒業後のフォローアップ
留学生が留学先を決定する上で、親族や友人からの推薦などのいわゆる口コミは重要な要因となっている。そのため、卒業した留学生に対するフォローアップは大学等のみならず我が国にとっても有益な人的ネットワークを構築することから、一層重視することが必要である。
国費留学生に対しては、新たに卒業・修了後の住所等の情報を収集する仕組みを日本学生支援機構を通じて構築しているが、これを一層充実させ活用することが重要である。
外務省が行う帰国留学生に対する各種支援事業の推進や在外公館の機能の活性化も、帰国した留学生がその親族や後輩などに対し日本留学を薦めたりする例が見られることや、現地の帰国留学生会が日本学生支援機構の留学フェアの実施に大いに寄与するなどその活動の重要性に鑑み、その充実が望まれる。
大学等でも、最近、同窓会組織の構築・充実させこれを基にさらに優秀な留学生を獲得しようとする動きが見られるが、こうした取り組みが大学の国際化の取り組みの一環として一層拡充されることが重要である。
(3)日本語教育の充実
留学生が留学後言葉の面で困らないよう、日本語教育の普及・充実を図っていくことが必要である。
我が国の留学生の3割以上が、国内の日本語教育機関から進学していることに着目し、留学生と同様に就学生への配慮は重要である。国は、特に入国時や在学中の取り扱いを留学生と同等のものに近づけて、大学等への進学を確実にしていくことについても考慮が必要である。
大学の留学生別科や留学生センター等における日本語教育においても同様に充実が求められる。特に、東京外国語大学や大阪大学、日本学生支援機構の日本語教育センターなど学部レベルの国費留学生の予備教育を実施している機関では、留学生に対する日本語予備教育のモデルとなる教育の実践の視点が必要である。
(4)高校生留学
高校生留学は、異文化理解や友好親善を促進するとともに、将来の我が国の高等教育機関への留学予備軍として、その体験を踏まえ、引き続き我が国の大学等に進学する可能性が大きいことから、同様に配慮が必要である。
現在、姉妹校交流などを通じ海外の高校生が日本の高校に留学しているが、こうした取り組みを一層推進するとともに、短期間体験学習的に来日する高校生交流についても促進することが必要である。
なお、その際、大学等と連携して観光地のみならず大学等を訪問したりして、我が国の大学等の魅力を売り込む努力も有効である。