資料1-2 三つのポリシーの策定と運用に係るガイドライン(骨子の素案)

はじめに~本ガイドラインの位置付け~

○ 本ガイドラインは,これまでの中央教育審議会答申等の提言を踏まえつつ,三つのポリシーの策定と運用において各大学に留意いただきたい事項を整理したものであり,各大学における積極的な活用を期待。

第一章 三つのポリシーの一体的な策定の意義

○ 過去の中央教育審議会答申等において,三つのポリシーの策定の重要性について提言。
○ 例えば,平成20年の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」(以下「学士課程答申」という。)では以下のように指摘。

改革の実行に当たり,もっとも重要なのは,各大学が,教学経営において,「学位授与の方針」,「教育課程編成・実施の方針」,そして「入学者受入れの方針」の三つの方針を明確にして示すことである。これらは,将来像答申で言及した「ディプロマ・ポリシー」,「カリキュラム・ポリシー」,「アドミッション・ポリシー」にそれぞれ対応する。大学の個性・特色とは,そうした方針において具体的に反映されるのである。

○ また,平成24年の中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」においては,我が国の学士課程教育をめぐる問題の背景・原因として考えられる第一の点は,学士課程答申が期待した学位を与える課程(プログラム)としての「学士課程教育」という概念が未定着であることと指摘した上で,以下のように提言。

成熟社会において学生に求められる能力をどのようなプログラムで育成するか(学位授与の方針)を明示し,その方針に従ったプログラム全体の中で個々の授業科目は能力育成のどの部分を担うかを担当教員が認識し,他の授業科目と連携し関連し合いながら組織的に教育を展開すること,その成果をプログラム共通の考え方や尺度(「アセスメント・ポリシー」)に則(のっと)って評価し,その結果をプログラムの改善・進化につなげるという改革サイクルが回る構造を定着させることが必要である。

○ 大学においてこのような改革サイクルを回す起点となるのが,「学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」「教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)」「入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)」の三つのポリシー。三つのポリシーそれぞれについての基本的な考え方は以下のとおり。

ディプロマ・
ポリシー 

各大学がその教育理念を踏まえ,どのような力を身に付ければ学位を授与するのかを定める基本的な方針であり,学生の学修成果の目標ともなるもの。

カリキュラム・
ポリシー

ディプロマ・ポリシーの達成のために,どのような教育課程を編成し,どのような教育内容・方法を実施するのかを定める基本的な方針。 

アドミッション・
ポリシー

各大学が,当該大学・学部等の教育理念,ディプロマ・ポリシー,カリキュラム・ポリシーに基づく教育内容等を踏まえ,入学者を受け入れるための基本的な方針であり,受け入れる学生に求める学習成果(学力の3要素※)を示すもの。
※(1)知識・技能,(2)思考力・判断力,表現力等の能力,(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度 

○ 三つのポリシーを一体的に策定することは,大学自身はもとより,入学希望者,学生,保護者,高等学校関係者,さらには社会にとっても大きな意義がある。

◇大学にとっての意義
・ 学士課程教育に関わる全ての教職員が,どのような教育を行い,どのような人材を輩出するのかを共通理解し,連携して取り組むことを可能とする。
・ 教育の成果を実証的に把握し,不断の改善につなげる契機となる。
・ 大学の持つ資源の重点的な配分の戦略を立てる上で活用できる。
・ 高等学校卒業生だけでなく,留学生や社会人を含め,これまで以上に多様な学生を受け入れるに当たり,大学がどのような個性・特色を持ち,どのような有為な人材を育成できるかということを対外的に示すことができる。
◇入学希望者・学生及びその保護者,高等学校関係者にとっての意義
・ 大学が入学希望者の入学に当たり,初等中等教育段階におけるどのような学習成果を求めているのか,入学希望者が入学までに何を身に付けなければならないのかが分かる。
・ 高等学校において,生徒一人一人の将来目標を実現するという観点からの進路指導が促進される。
・ 入学後の学修方法・学修過程や身に付けることができる力を入学前に把握できる。
・ 卒業までに求められる学修成果についてあらかじめ見通しを持つことができる。
◇社会にとっての意義
・ 大学がどのような教育を行っているかが可視化されることにより,社会(地域社会,国際社会,産業界等)と大学との間で育成すべき人材像の共有や相互に連携した取組が可能になり,大学と社会との接続が改善される。

○ 各大学は,それぞれの教育理念を踏まえ,三つのポリシーを一貫した理念の下に策定し,それらに基づく体系的で組織的な大学教育を,不断の改善に取り組みつつ実施することにより,学生の学修成果を向上させ,学位授与にふさわしい人材を育成し,社会へと送り出すことが必要。

第二章 三つのポリシーの策定に当たり留意すべき事項

1.三つのポリシーの策定のための組織・体制
○ 三つのポリシーの策定のためには,学長を中心に全学的なポリシーの基本方針や策定単位等について検討した上で,2.に述べる策定単位での検討を進める必要がある。インスティトゥーショナル・リサーチの充実など,そのための体制の整備も重要。

2.三つのポリシーの策定単位
○ 三つのポリシーの策定単位については,各大学で適切に判断すべきものであるが,その基本は授与される学位の専攻分野ごとの課程(学位プログラム)とすることが考えられる。

3.三つのポリシーの策定に当たっての留意事項
○ 三つのポリシーの策定に当たっては,例えば以下のような点に留意すべき。
(総論)
・ ディプロマ・ポリシー,カリキュラム・ポリシー及びアドミッション・ポリシーを一体的で整合性あるものとして策定するとともに,三者の関係をわかりやすく示すこと。
・ 当該大学に関心を持つ多様な者(入学希望者,社会人,外国人等)が十分理解できるような内容と表現とすること。
(ディプロマ・ポリシー)
・ 各大学の教育に関する内部質保証のためのPDCAサイクルの起点として機能するよう,どのような学修成果をあげれば学位を授与するのかという方針をできる限り具体的に示すこと。
・ 「何ができるようになるか」に力点を置き,学生が身に付けるべき資質・能力を明確化すること。
・ 学生の進路先等社会における顕在・潜在ニーズも十分に踏まえた上で策定すること。
(カリキュラム・ポリシー)
・ ディプロマ・ポリシーを踏まえた教育課程編成,当該教育課程における学生の学修方法・学修過程の在り方等を具体的に示すこと。その際,アクティブ・ラーニングの充実等,大学教育の質的転換に向けた取組の充実を重視すること。
・ 学位授与に求められる体系的な教育課程の構築に向けて,初年次教育,教養教育,専門教育,キャリア教育等の様々な観点から検討を行うこと。特に,初年次教育については,多様な入学者が自ら学修計画を立て,主体的な学びを実践できるようにする観点から充実を図ること。
(アドミッション・ポリシー)
・ ディプロマ・ポリシー及びカリキュラム・ポリシーを踏まえるとともに,「学力の3要素」を念頭に置き,入学前にどのような多様な能力をどのようにして身に付けてきた学生を求めているか,入学後にどのような能力をどのようにして身に付けられる学生を求めているか等を,できる限り具体的に示すこと。
・ 入学者選抜において,アドミッション・ポリシーを具現化するためにどのような評価方法を多角的に活用するのか,それぞれの評価方法をどの程度の比重で扱うのか等を具体的に示すこと。

第三章 三つのポリシーの運用に当たり留意すべき事項

1.三つのポリシーに基づく全学的な教学マネジメントの確立
○ 学士課程教育を充実させるためには,三つのポリシーを起点とするPDCAサイクルをポリシーの策定単位ごとに確立するとともに,併せて全学的な規模での教学マネジメントを確立することが必要。

2.組織的で体系的な教育の展開と学生の学修成果の評価
○ 三つのポリシーに基づき,組織的で体系的な教育を展開し,学生の能動的な学修の充実を図ることが必要。そのため,例えば以下のような点に留意することが考えられる。

・ 地域社会,国際社会,産業界等の社会との接続,大学院教育との接続等を見通したカリキュラム編成
・ カリキュラムを構成する科目の目標,内容,評価方法等を記載したシラバスの作成と組織的なチェックによる,各科目間の関係や内容の整合性,評価基準や評価方法等の確認,及び教員間や教員と学生間での共有化
・ カリキュラム・ポリシーを具体化し,可視化して共有するためのカリキュラム・マップや履修系統図の活用
・ ナンバリングの活用等によるカリキュラムの体系性や国際通用性の担保
・ 開設授業科目数の精選,履修科目の登録上限の設定など,教員の授業内容の充実や学生の学修時間の増加による単位制度の実質化のための取組の充実
・ GPAの進級判定・卒業認定及び学修支援への活用
・ 少人数のチームワーク,集団討論,反転授業等の学修方法の充実,事前事後の学修課題の充実
・ 学生の主体的な学修を促すための教材の開発,学修支援の充実
・ ラーニング・コモンズや図書館等,学生の能動的学修を可能とする環境の整備
・ 留学,インターンシップ,フィールドワーク等のプログラムの充実

○ 大学教育を通じて「学生が何を身に付けたか」という観点を重視して学生の学修成果の把握・評価を行い,どのような評価に基づき大学として学位を授与したかについての説明責任を果たせるようにすることが重要。そのため,例えば以下のような点に留意することが考えられる。

・ 学修成果の具体的な把握・評価方法(アセスメント・テスト,学修行動調査等),より効果的な公示方法等の開発・実践
・ 個々の学生による学修履歴の記録,振り返り,学修デザインの支援

○  学生の教育に関わる全ての教職員が三つのポリシーを共通理解し,連携して質の高い教育に取り組むことができるようにすることが重要。そのため,例えば以下のような点に留意することが考えられる。

・ FD,SDの充実
・ 教員の教育活動に関する評価の充実とその結果の処遇等への反映
・ 教学マネジメントに関わる専門的職員の職務の確立・育成・配置
・ ティーチング・アシスタント(TA)等の教育支援スタッフの充実

3.三つのポリシーに基づく大学の取組の自己点検・評価と改善,情報の積極的な発信
○  各大学において,三つのポリシーを踏まえた取組の自己点検・評価を行うとともに,その結果や,定期的な第三者評価(認証評価等)での指摘を踏まえ改善に取り組むことが必要。必要があれば三つのポリシー自体も含めた見直しを行い,PDCAサイクルを不断に回すことが重要。
○ 自己点検・評価については,まず,三つのポリシーの策定単位ごとに,大学入学者選抜,カリキュラムの内容・学修方法・学修支援,学修成果,教員組織,施設・設備等,社会との接続などに関して,ポリシーに照らした取組の適切性について行うことが考えられる。その際,例えば,地域社会や産業界など学外の参画を得ることなどにより客観的な視点を取り入れるなどの工夫を講じることも考えられる。
また,全学的な方針や複数の学位プログラムを横断するような事項がある場合は,それらの取組の把握や大学レベルでの点検・評価にも取り組むことが考えられる。その際,学生の卒業後の追跡調査等を行い,その結果を取組にフィードバックすることも重要。
さらに,教育においては定量的な評価と定性的な評価の双方が重要であることに留意しつつ,可能なものについては数量的な指標も適切に用いるよう留意すべき。
○  各大学においては,関係者の理解を得るとともに,社会との協働を一層推進する観点から,三つのポリシーに基づく教育の状況に関しての積極的な情報の公開と発信に努めるべき。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)