大学キャンパスに求められる機能・役割について(検討用資料)

1.前回(7月5日)の大学教育部会における議論について

  • 運動場や空地のような学習環境や条件整備の在り方については丁寧な議論が必要。
  • 運動場や空地について代替措置を取った場合には,必要な情報を公開すべき。
  • 少なくとも学士課程段階は,成長過程にある学生を対象にしており,心身ともに健全な人材を送り出す入り口として,学習環境を確実に担保すべき。
  • 学外との交流を図る前の段階として,まずは学生同士が学内において顔を合わせて議論することを通じて,コミュニケーション能力を高めていくことが重要。
  • 大学にとって「空地」が存在しないというのは,教室・廊下・事務室などしかないことになる。キャンパスにおいて,学生による議論の場が確保されることが教育上重要。
  • たびたび設置基準の緩和を行ってきたが,グローバル化が進む中,国際的な大学間競争の観点から,我が国の大学の学習環境の在り方を考えることが必要ではないか。
  • 大学を経営体として見た場合,教育空間を土地の価値に読み替える動きが出ないか懸念される。

2.大学のキャンパスに想定されている機能について

(1)教育課程の質の保証,学修成果の効果的な定着

  • 教育内容・方法に応じ,効果的な授業の実施に必要な教室・演習室・実験室のほか,視聴覚教室・ICT教材等の必要な施設設備が整えられ,高い教育効果の実現に寄与するものであること。
  • 自習室や図書館などの施設が充実していて,自主的・自発的な学習活動が可能であること。
  • 空地や余裕あるキャンパスを活かし,学習時間の合間の休息等が十分にとれること。

(2)様々な活動の機会の保障

  • 正課外の教育活動や様々な学生の活動が展開されるよう,自由な運動・活動空間ができるだけ保障されていること。
  • 大学外の関係者を含め幅広い者が利用することが可能であって,闊達なコミュニケーションが許される空間ができるだけ保障されていること。

(3)公共機関としての大学

  • 大学の周辺環境との調和が図られ,かつ,余裕をもった設計となっていることで,都市計画とも整合し,全体として十分な公共空間を形成していること。
  • 大学内外の様々な関係者による社会的・文化的相互交流を促すための(屋外)空間が存在し,開かれた大学となっていること。

※ 上記のキャンパスの議論は,通学制の大学教育に関するものであり,それとは別に大学通信教育設置基準に基づいて行われる通信制教育が存在する。

3.大学キャンパスに求められる機能・役割について

    • 大学は,学術の中心として行う教育研究活動を通じ,「知的,道徳的及び応用的能力を展開させ」(学校教育法第83条),「豊かな人間性を涵養する」(大学設置基準第19条)教育機関である。
    • キャンパスは,質の高い教育活動や学生支援,学生の発意に基づく様々な活動のために必要な空間を保障するものであり,「豊かな人間性の涵養」に向けて必要な大学の構成要素である。
    • 具体的には,

      • 質の高い授業を通じた教養と高い専門性を育む教育活動を支え,学修の定着を図る「場」として,
      • 多様な資質能力と興味関心,背景を有する学生と教職員が,一体となって,正課内外における多様な活動や交流を行い,学生の幅広い知的欲求を満たす「場」として,
      • 開かれた大学として,公共空間を形成する「場」として,

      の役割及び機能がある。

    • 加えて,学部段階の教育においては,学生の人格形成機能や生涯にわたる学習の基礎を培う観点から,学修の定着や多様な活動を可能とする空間を保持するという観点が一層求められる。

 

代替措置のイメージ(案)(空地)

条件1:空地が有する教育的意義と同等のものが期待できる措置

1.空地の意義

  • 学修成果の効果的な定着を図るとともに,学習時間の合間の休息のための空間が重要。
  • 正課外の教育活動や様々な学生の活動が展開されるとともに,闊達なコミュニケーションが許される,自由かつ余裕ある活動空間を保障することが重要。

→ 空地は,人格の陶冶を図る大学に相応しい学習環境として,心身の健やかな発達を促しつつ,学生の望ましい人格形成を図るためのもの。

2.上記意義と同等のものが期待できる措置

 空地に代わる屋内における措置としては,ラウンジや喫茶室,学生ロビーなど,学生が休息を図ったり,思索に耽り,自由に集まり,正課内外の活動を営むこと等ができる環境が想定。

 

条件2:特区指定地域での弊害を防止する措置                        

1.確認された主な弊害

  • 「休息するスペースが少なく息苦しい」「狭い」「空地の代わりに空き教室というのは釣り合いがとれない」・・・【A.休息のための場所の確保が不十分】
  • 「大学生活を送っているというより専門学校に通っているような気がして,あまり良い印象が持てなかった」・・・【B.閉鎖性,抱いていた大学生活のイメージとの相違】
  • サークル活動等を行う希望があるにもかかわらず,それが難しい環境であることへの不満・・・【C.行うことができる課外活動に制約があること】

2.弊害を防止するための措置

【A.休息のための場所の確保が不十分】    

  • 空地同様,休息その他に利用することができるようにするために講じられるものであることを明確化
  • 施設(ラウンジ等)を校舎内に整備することが原則(空き教室の転用ではなく専用の施設を備えること)

【A.休息のための場所の確保が不十分】+【B.閉鎖性,抱いていた大学生活のイメージとの相違】

  • 昼休みなど特定の時間に人が集中することを避け,できるだけ多くの学生がゆったりと利用できること

【B.閉鎖性,抱いていた大学生活のイメージとの相違】

  • できる限り開放的であること(例:入退室が自由であること,利用者・利用時間帯が制限されないこと,採光が十分であること等)

【C.行うことができる課外活動に制約があること】  

  • 机や椅子,自動販売機,ゴミ箱,掲示板等のほか,学生の様々な活動に有用な施設設備(物置等のスペース,部室など)を備えること

 

条件3:代替措置を利用している大学であることについて,情報の公表を徹底 

 

代替措置のイメージ(案)(運動場)

条件1:運動場が有する教育的意義と同等のものが期待できる措置

1.運動場の意義

 趣味や興味関心の範囲が広がり,行動の幅も広がることで,多様な活動が展開される高等教育段階の課外活動等の役割を重視し,部活動やサークル活動など学生の様々な活動のための自由な活動空間を保障するため,屋内施設を含めできるだけ充実した体育施設を用意することが,体育の授業科目が開設されなくとも必要というスタンスに,設置基準は立っている。
→ 運動場は,人格の陶冶を図る大学に相応しい学習環境として,心身の健やかな発達を促しつつ,学生の望ましい人格形成を図るため必要なもの(また,空地と同様の効用も併せて有している)

2.上記意義と同等のものが期待できる措置

 運動場の代替措置としては,設置基準で原則設置としている体育館の設置を一義的には求める。できる限り設置を求めているスポーツ施設が代替措置を果たすことも考えられる。また,例えば公共スポーツ施設や民間のフィットネスクラブ等を学生に利用させることも考えられる。

 

条件2:特区指定地域での弊害を防止する措置                        

1.確認された主な弊害

  • 運動場がなく,フィットネス施設等では気軽に運動ができないという不満・・・【A.気軽な運動ができない】
  • 代替措置としての施設が遠方にあるなどアクセスが悪く,利用料負担がある場合は進んで利用しようとする気にならない・・・【B.使い勝手が悪く,利用しづらい】
  • 部活動やサークル活動等の課外活動が阻害されるといった意見が目立ち,ある大学では運動系の部活動もサークルも存在しなかったほか,代替措置としてフィットネス施設しかない場合,球技や陸上競技等ができる環境にない・・・【C.行うことができる課外活動に制約があること】

2.弊害を防止するための措置

【A,B,Cを踏まえて】    

  • 自己所有の体育館またはスポーツ施設を校舎等敷地又はその隣接地において設けることで代替措置を講じることを原則とする
  • 上記が困難である場合,校舎等敷地から出来るだけ近い位置に設置することを求めることが重要
  • 自己所有施設の整備が困難である場合,公共または民間のスポーツ施設を学生の利用に供することで対応することを許容するが,当該スポーツ施設の利便性や活動可能な内容,経済的負担の軽減(原則として無料であること)等に留意

 

条件3:代替措置を利用している大学であることについて,情報の公表を徹底                  

 


(参考1)

「空地・運動場」に係る特区制度化の経緯

○ 規制改革・民間開放推進3か年計画(平成14年3月29日閣議決定)で,以下のような指摘。

    「…それぞれの基準の必要性等を十分に吟味し,例えば,施設設備や教員組織の基準において不必要なものは廃止するなど,全体として最低限必要な基準となるよう厳選する」

○ 構造改革特区提案主体から,株式会社立大学を認めるとともに,中心市街地や駅前など,用地の確保が難しい場所にも大学を設置するため,空地・運動場要件を撤廃してほしいという特区要望を受け,特区を制度化(平成16年4月1日施行。短大についても制度化)。

○ 平成22年3月25日の構造改革特区推進本部決定(「構造改革特別区域において講じられた規制の特例措置の評価に係る評価・調査委員会の意見に関する今後の政府の対応方針」)において,平成23年度中を目処に,できるだけ速やかに,全国化(特区措置の内容を,特区指定地域に限らず全国で利用可能とすること)を行うことが決定。

    ・・・特区における規制の特例措置の内容のとおり,全国展開を行うこと。その際,学生の教育環境等に適切に配慮できるよう,特区の活用事例における状況を踏まえ,弊害の予防措置については,その要件を一層明確化し,必要最小限のものとすること。なお,全国展開の具体的内容については,あらかじめ評価委員会に報告すること。

○ 具体的な予防措置の内容については,文部科学省及び中央教育審議会において検討して策定し,特区評価委員会に報告することとなっている。 

 


(参考2)

○ 大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)(抄)

 (校地)
第34条 校地は、教育にふさわしい環境をもち、校舎の敷地には、学生が休息その他に利用するのに適当な空地を有するものとする。  

 (運動場)
第35条 運動場は、教育に支障のないよう、原則として校舎と同一の敷地内又はその隣接地に設けるものとし、やむを得ない場合には適当な位置にこれを設けるものとする。

 (校舎等施設)
第36条 大学は、その組織及び規模に応じ、少なくとも次に掲げる専用の施設を備えた校舎を有するものとする。ただし、特別の事情があり、かつ、教育研究に支障がないと認められるときは、この限りでない。
 一 学長室、会議室、事務室
 二 研究室、教室(講義室、演習室、実験・実習室等とする。)
 三 図書館、医務室、学生自習室、学生控室
2 研究室は、専任の教員に対しては必ず備えるものとする。
3 教室は、学科又は課程に応じ、必要な種類と数を備えるものとする。
4 校舎には、第一項に掲げる施設のほか、なるべく情報処理及び語学の学習のための施設を備えるものとする。
5 大学は、校舎のほか、原則として体育館を備えるとともに、なるべく体育館以外のスポーツ施設及び講堂並びに寄宿舎、課外活動施設その他の厚生補導に関する施設を備えるものとする。
6 夜間において授業を行う学部(以下「夜間学部」という。)を置く大学又は昼夜開講制を実施する大学にあつては、研究室、教室、図書館その他の施設の利用について、教育研究に支障のないようにするものとする。

 


(参考3)

○ 文部科学省関係構造改革特別区域法第2条第3項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令(平成15年文部科学省令第18号)(抄)

第6条 地方公共団体が、その設定する構造改革特別区域内の大学において、法令の規定による制限その他のやむを得ない事由により所要の土地の取得を行うことが困難であるため大学設置基準第34条又は短期大学設置基準第27条第1項に規定する空地を校舎の敷地に有することができないと認められる場合において、(中略)学生が休息その他に利用するため、適当な空地を有することにより得られる効用と同等以上の効用が得られる措置を当該大学が講じている場合に限り、大学設置基準第34条又は短期大学設置基準第27条第1項に規定する空地を校舎の敷地に有することなく、大学の設置等を行うことができるものとする。

第7条 地方公共団体が、その設定する構造改革特別区域内の大学において、法令の規定による制限その他のやむを得ない事由により所要の土地の取得を行うことが困難であるため大学設置基準第35条又は短期大学設置基準第27条第2項に規定する運動場を設けることができないと認められる場合において、(中略)運動場を設けることにより得られる効用と同等以上の効用が得られる措置を当該大学が講じており、かつ、教育に支障がないと認められる場合に限り、大学設置基準第35条又は短期大学設置基準第27条の規定にかかわらず、大学の設置等を行うことができるものとする。

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