資料6-1 司法試験出題内容漏えい事案を踏まえた再発防止策及び平成29年以降の司法試験考査委員体制に関する提言(要旨)

第1 はじめに-検討に際しての基本的な視点-
○ ワーキングチームは, 昨年10月, 平成28年司法試験に関する暫定的措置として, 法科大学院において現に指導している者は問題作成に従事しないとの方針を提言した。これは, 司法試験の公正性・公平性に対する信頼を確保することが何よりも必要であるとの認識によるもので,現時点においてもこの認識に何ら変わるところはない。
○ それと同時に, 法科大学院教育との有機的連携の下, 法曹となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を判定するという司法試験の目的に鑑み, その判定に適切な問題を安定的かつ継続的に提供し得る体制を構築するという視点も同様に重視する必要がある。


第2 考査委員体制についての検討
1 司法試験の性質及び近時の問題作成の体制
○ 平成18年から始まった新たな司法試験は, 法学教育, 司法試験, 司法修習を有機的に連携させたプロセスとしての法曹養成制度の一部と位置付けられ, 法科大学院課程における教育との有機的連携の下に行うこととされている。
○ このような司法試験の性質を踏まえ, 平成2 7 年に至るまで, 法科大学院教員を中心とした研究者と実務家とが協力して問題を作成するという体制が採られてきた。
2 平成28年試験の考査委員体制に関する提言
○ 他方, 本件漏えい事案は, 司法試験の公正性・公平性に対する信頼を根底から損なうものであり,昨年1 0 月の時点で採り得る再発防止策は,法科大学院教員が問題作成に従事しないこととするほかないとの結論に至り, その旨提言した。
3 これまでに実施したヒアリングにおける指摘
○ 考査委員経験者のヒアリングにおいて, 多くの考査委員経験者は, 実際に問題を作成した経験を踏まえつつ, 適切な問題を作成するためには法科大学院教員の関与が必要であり, 十分な再発防止策を講じた上で法科大学院教員が問題作成に関与する状況が望ましいとの意見を示した。
4 平成28年試験における研究者の選任状況及び将来における研究者の選任に関する見通し
○ 平成28年試験では, 研究者委員の任命の時期が大幅に遅れた科目や前年までの研究者委員の数を確保できなかった科目も見られた。
○ 法科大学院が法曹養成制度の中核と位置付けられ, 司法試験科目の研究者の多くが法科大学院での指導に関わっている現状において, かつて法科大学院における指導に関わっていたものの現在は指導を離れている研究者や学部のみの指導に関わっている研究者に限って考査委員の人選を行った場合, 給源が限定されることに伴い, 将来的に人選に一定の困難を生じることが予測された。
○ 司法試験の目的に沿う適切な問題を作成するためには, 各科目についての知識や研究・教育経験に富んだ高い資質を有する研究者が問題作成に関与することが必要であり, そのためには, 本来, 広い給源の中から研究者委員を選任し得る体制であることが望ましいものと考えた。
5 平成29年以降の考査委員体制に関する検討の方向性
○ 司法試験の目的に沿う適切な問題を安定的かつ継続的に提供し得る体制を構築することも非常に重要な観点であり, 問題作成を担当する考査委員に法科大学院教員を選任することの当否について, 司法試験の公正性・公平性に対する信頼を確保することができるかという観点をも踏まえて真摯に検討する必要があるものと考えた。
○ この検討に当たっては, 仮に法科大学院教員が問題作成に関与した場合であっても同種事案を未然に防止するための再発防止策を講じることができるかが極めて重要となることから, 以下のとおり, 具体的な再発防止策の内容及び実効性を検討し, その結果を踏まえ, 法科大学院教員について問題作成を担当する考査委員に選任することの当否を検討することとした。


第3 再発防止策に関する検討
1 法科大学院関係者による再発防止策について
○ 漏えい事案の発生後, 法科大学院関係者において, 漏えい等を防止するための再発防止策に関する検討が進められ, 本年6月, 法科大学院協会において一定のガイドラインを示すとともに, 各法科大学院において
は, それを踏まえた再発防止策の検討を行っている。
○ 法科大学院協会のガイドラインには
(1)考査委員である法科大学院教員は, 個別指導を閉鎖的スペースで行わず, オープンスペースでのみで行うこととし, 各法科大学院において, そのような場所を確保すること
(2)考査委員である法科大学院教員は授業内容を録音等し, 各法科大学院がその記録媒体等を管理すること
(3)各法科大学院は, 漏えい等に係る苦情通報窓口を設けるとともに,考査委員である教員の授業アンケートをチェックする体制を構築すること
(4)考査委員である法科大学院教員は, 自らが考査委員であるという理由で授業の有用性が大きいかのような自己宣伝をしないこと
(5)各法科大学院は, 司法試験の問題作成に関与した教員がいることを自校の宣伝材料にしないこと
(6)各法科大学院において, 考査委員の氏名や考査委員として遵守すべき事項を自校教員や学生に周知すること
(7)苦情通報等により各法科大学院において調査すべき事実を認めた場合には聴取等の所要の対応を行い, その結果, 考査委員たるにふさわしくない行為が認められるときは司法試験委員会に通知すること
(8)再発防止に向けて各法科大学院のみならず, 法科大学院協会も独自の苦情通報窓口を設置するなど一定の役割を果たすことなどが掲げられている。
2 司法試験委員会による再発防止策について
○ 司法試験委員会において講ずべき新たな対策としては
(1)考査委員の推薦体制の整備
司法試験委員会の下に法曹三者や法科大学院関係者により構成される新組織を設け,この新組織が関係機関等から情報を収集するとともに客観的かつ中立的な観点から適切な考査委員候補者をリストアップする役割を担うことにより,司法試験委員会による考査委員の推薦を補佐していくこと
(2)再任回数の制限
出題の安定性について十分な配慮をしたとしても,再任回数は2回程度とし,連続3年程度の考査委員就任にとどめること
(3)司法試験委員会への苦情通報窓口の設置
司法試験委員会にも苦情通報窓口を設定し,法科大学院に設けられる予定の窓口とあいまって相互に実効性を高めていくこと
(4)遵守事項の拡充と周知の徹底
司法試験委員会が設ける考査委員としての遵守事項にも,法科大学院協会の上記ガイドラインにある1(1),(2)などの取組の内容を盛り込み,それが法科大学院を通じて教員や学生にも周知されることにより,遵守事項の実効性が高められる状況としておくこと
(5)情報管理の徹底
(6)漏えい防止のためのその他の方策
などがあるものと考える。
3 再発防止策に関する総合的評価
○ 以上の再発防止策の全てが構築され, 相互に補強し合い, 多層的な対策として運用されるならば, 漏えい等の危険を最小化することができるものと考える。


第4 平成29年以降の考査委員の体制に関する考え方
○ 司法試験の目的に沿う適切な問題を安定的・継続的に作成することができる体制を構築するためには, 平成29年以降の司法試験において,法科大学院教員も問題作成を担当する考査委員の選任候補に含めることが望ましく, 司法試験の公正性・公平性に対する信頼を確保するために
は, 十分な再発防止策の構築が必要不可欠である。
○ 直近の平成29年試験に関しては, 司法試験委員会において迅速に再発防止策を実行するとともに, 各法科大学院においても適切な再発防止策を構築し, それを司法試験委員会として確認することができた場合,そのような再発防止策が講じられている法科大学院の教員に限り, 平成29年試験の問題作成を担当する考査委員として選任の対象とすること を検討することが相当である。
○ もっとも, その判断は慎重に行うべきであり, また, 新たに講じられる再発防止策の実効性等につき実際の運用を踏まえた継続的検証を行っ
ていくためにも, 平成29年試験において法科大学院教員について問題作成を担当する考査委員として選任する場合には, その人数は限定的で
あるべきである。


第5 おわりに
○ 司法試験委員会は, 関係機関と情報交換を行いつつ, 再発防止策の運用状況を踏まえ, その実効性について不断の検証を続けていくべきである。
○ 司法試験委員会において, 考査委員推薦のための新組織や出題の検証担当考査委員から検討状況について十分な報告を受けて, 司法試験の実施運営上の問題を早期に把握するよう努め, その原因や対策に関する検討を迅速に行うことができるようにするための方策を講ずべきである。

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