資料2

司法制度改革の趣旨に則った法科大学院教育の在り方について(報告)案−法科大学院設立の理念の再確認のために−

報告の趣旨

(検討の視点)

  •  本検討においては、法科大学院における教育が、「司法制度改革審議会意見書」(平成13年6月司法制度改革審議会)、中央教育審議会答申(「法科大学院の設置基準について」(平成14年8月))及び法令の基準(「法科大学院の教育と司法試験等の連携等に関する法律」(平成14年法律第139号)、「専門職大学院設置基準」(平成15年文部科学省令第16号))等に照らして、法科大学院としての本来あるべき教育となっているかとの観点から議論した。

第一章 基本的考え方(法科大学院における教育と司法試験の有機的連携)

第二章 教育課程

第三章 授業・教育方法等

1.論述能力を涵養する指導

  •  法科大学院においては、従来、大学教育と司法修習とで分離していた、実定法に関する理論的指導と実務における法適用の在り方に関する指導の融合とともに、法理論教育と実務教育の導入部分(要件事実や事実認定)など理論と実務の架橋を意識した教育を行うこととされている。このため、一定の事案をもとに法的に意味のある事実関係を分析し、その法的分析・検討を行い、一定の法律文書を作成する能力を育成する教育は法科大学院本来の教育であり、法曹として実務に必要な文章能力の育成は当然に求められるものである。この能力の涵養のために、一定の課題等に基づき論述の機会を与え、効果的な添削指導等を行なうことは、通常の授業の中においても十分有り得るものである。(なお、このような論述訓練のうち、過去の新司法試験問題又は同形式の作成問題を素材に、一定時間内において答案を作成させ、添削・解説等を行なう訓練・指導がいわゆる「答案練習」と呼ばれているものであるが、この中には、上記のような目的のもと法科大学院教育に相応しい内容として実施されている場合も多いが、試験対策に傾斜した指導になっていると見られる可能性がある場合等も含まれていると考えられる。)
  •  このような論述指導を行なうに際して、その課題として、各教員が独自に作成した一定の事例問題のほか、過去の新司法試験問題を取り上げる場合がある。新司法試験の出題内容自体が長文の事案を読ませ、その事実関係を分析した上で、法的な分析・検討を行なわせるものであり、またこのような出題内容が法科大学院において行なわれるべき教育との有機的連携を図るものであることから、新司法試験の問題やこれに類似する事例問題を活用することをもって、直ちに、本来の法科大学院教育とかけ離れたものということは出来ない。しかし、論述訓練による添削・指導が、司法試験にどのように対応すればよいかという、受験技術に焦点を当てたものである場合、本来あるべき教育理念から離反しているものといわざるを得ない。
  •  また、授業において行われる論述訓練が当該授業内容との連続性・体系性を欠いた指導であったり、授業そのものの時間配分が過度に論述訓練に偏し、双方向・多方向型の授業を通じて創造的に考えさせる能力を育成することをおろそかにしている場合、本来の法科大学院教育としては不適当と考えざるを得ない。
  •  なお、論述能力を涵養する指導に関して、一定の法律文書を作成する能力の前提として、一般的な文章能力の育成が必要な場合があるが、このような指導に当たって教材として過去の司法試験問題等が適当であるか、また受験技術に焦点を当てた指導とならないような指導方法の在り方等について、各法科大学院において適切に検討することが必要である。
  •  また、法曹に必要な論述指導に関して、クリニック等において行なわれる実務指導等は、法曹が行なう法文書作成に必要な論述指導という観点から積極的に位置づけられるべきである。クリニック等においては、法律相談、事件内容の予備的聴き取り、事案整理、関係法律の調査、解決案の検討等とともに、準備書面等の法律文書起案も行なわれるものであり、このプロセスは単なる論述能力の育成に留まらず、内容分析とそれに対応した実践的な文章展開能力の育成という観点からも、より積極的に評価されるべきものである。

2.短答式問題の活用

  •  法科大学院教育においては、法曹に必要な基礎的知識の確実な定着が前提とされることは当然であり、そのような基本的な知識なしに批判的・創造的な法的能力を養成することは不可能である。この基礎的知識の定着を促し、また確認する上で、過去の新司法試験における短答式問題等が利用される場合があるが、その利用が法科大学院教育に必要な知識の定着確認等を目的とするかぎり、そのことをもって直ちに試験対策に偏った指導とは言えない面もある。しかし、それが授業の中で日常的に過度に行なわれ、当該授業内容との連続性・関係性を欠いたものとなることや、知識の暗記型教育に偏することとなれば、知識偏重型の学習態度を助長し、法科大学院において実施されるべき教育が、そうした基本的知識を前提とした批判的・創造的能力の育成の涵養にあることを等閑視させるものといえる。
  •  このような観点から、どのような方法を用いてどのような形で、基礎的な知識の定着とその有機的・体系的な結合を前提とした高度の法的思考能力の育成を図っていくか、各法科大学院において十分に検討することが望まれる。

3.補習指導等

  •  司法試験において問われる知識・技能の総体に比して、法科大学院における授業単位・時間が限られていることから、補習や特別講義等において指導が必要であるとの意見も聞かれる。確かに法曹に必要な基礎的知識に限って見てもその量が多いため、特に知識の定着等が不十分な学生や初学者に対する指導を中心に、一定の補習指導が必要な場合があり、そのことは法科大学院教育として適切に行なわれている以上、否定的に評価されるものではない。
  •  しかしながら、その場合においても、法科大学院における教育は、教員が授業の中で行なう指導と、学生が事前・事後に教室外で行なう自学・自習との適切な配分によって展開されるべきものであるという視点が看過されるべきではない。補習指導等は授業における指導の延長として観念され、その内容を補完するものであるべきことは当然であり、授業外の指導であるとの理由で、本来あるべき授業の内容と離れた受験指導は適切ではない。
  •  また、過度の補習指導等は、自学・自習の態度を阻み、またそれに必要な時間を奪うことにもなりかねない。この意味で、授業以外に組まれるような補習指導等は、受動的な学習態度を排して創造的・批判的能力の涵養を目指す双方向型・多方向型の授業と、学生による自学・自習との適度な配分を損なうものであってはならない。したがって、法科大学院の授業科目に割り当てられる単位数に比してバランスを失するような補習指導が行なわれることのないよう、十分留意する必要がある。

4.学生主催の学習活動等について

  •  学生が自らの活動として、自主的な勉強会や演習ゼミ等を行なうことは大学院教育として望ましく、それが授業において修得された内容を自ら創造的に発展・展開されるものとなることが積極的に期待される。そのような学習活動等において、法科大学院の教員が学生の希望に応じて一定の学習支援・指導を行なうことは、それが授業における指導を補完・発展させるものである限り否定されるべきでなく、また積極的意義も認められる。
  •  しかしながら、学生主催の学習活動等であっても、教員が関与する以上、当該指導は広義の法科大学院教育の一環として観念されるべきものであり、その指導が受験技術に焦点を当てたものである場合には、正課外の学習支援・指導の在り方として適当なものとはいえない。その指導は、あくまで法科大学院教育が目指すべき能力の育成に向けられたものであることが必要である。
  •  また、学生が自らの活動として行なう自主的な学習活動等について、法曹関係者等が指導者として関与し学習指導が行われる場合であっても同様の配慮が求められる。

5.いわゆる「法職課程」等について

  •  従来、旧司法試験に対応した教育を目的に法学部に設置されてきた、いわゆる「法職課程」等の組織は、法科大学院を法曹養成の中核的機関としたプロセスとしての法曹養成への転換とともに、各大学においてその設置目的や機能の見直し等が図られつつある。
  •  しかし、仮に当該組織が法学部等法科大学院以外の組織として設置される場合であっても、教員が関与する以上は、そこにおける教育指導等が直接的に新司法試験の受験指導を目的とするものとして受験指導に偏ったものであるとすれば、上記と同様に、正課外の学習指導の在り方として適当ではない。
     また当該法科大学院の教員が関するか否かにかかわらず、法科大学院の学生がそのような組織における受験指導を利用することにより、法科大学院教育において本来行われるべき教育・学習活動を阻害する場合には適切ではないと考えられる。
  •  法科大学院において教員等が当該法科大学院の修了生に対して教育指導等を行う場合であっても、その教育指導等が受験指導に偏ったものにならないようにするなど、法科大学院の教育理念に抵触することがないよう適切な配慮が求められることは上記と同様である。

おわりに